説明

体液漏出防止方法

【課題】体液の多少に関係なく長期間ゲル状態を維持でき、アルカリ性や酸性の体液等が含まれていてもゲル状態を維持でき、体腔を封止できる樹脂製ゲルを使用して、体腔を封止することを目的とする。
【解決手段】体液漏出封止剤として、両親媒性ゲルを使用すること、及び両親媒性ゲルを内臓する注入器を使用することや蓄圧体の圧縮ガスで容器内の両親媒性ゲルを体腔に装填する体液漏出防止方法を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺体からの体液漏出を防止するために、遺体の体腔に装填される体液漏出防止用ゲル及びそのゲルを使用した体液漏出防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人体は、死亡後に胃液、肺液、腹水、排泄物などの体液を漏出させることがある。このため、例えば病院では、死亡確認後、遺体の口、鼻、耳、肛門、女性の膣等の体腔にガーゼ、脱脂綿等を装填し、体液の漏出を防ぐことが行なわれている。また、事故や手術後の遺体の開口部にも同様な処置がとられている。
【0003】
ガーゼ、脱脂綿等に代えて高吸水性の樹脂粉末を口、鼻、耳、咽喉などに装填することが知られている。例えば、特許文献1には、安定化二酸化塩素を含む吸水性樹脂粉末を咽喉には粉末のまま、耳孔、鼻孔には水溶性シートに包んで使用することが開示されている。また、特許文献2には、注射器を使って口、鼻、耳に高吸水性樹脂粉末を装填することが開示されている。
【特許文献1】特開平7−265367号公報
【特許文献2】特開平10−298001号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に行なわれている遺体の口、鼻、耳等の体腔にガーゼ、脱脂綿等を装填する方法では、漏出体液が多い場合には、ガーゼ、脱脂綿等では不十分であって、体外に漏れ出たりしている。漏出した体液の処理時に病原菌に感染する恐れがあり、作業者からは嫌われている。また新しいガーゼ、脱脂綿等と交換する必要があり、煩わしいだけでなく、遺体体液を介して病原菌が感染する危険性があり、交換時にはその周辺に漏出体液の悪臭が残るなどの問題がある。
【0005】
特開平7−265367号公報のように咽喉部に高吸水性樹脂粉末を装填しようとしても、装填するための手段がなくては、狭い間隔の体腔例えば咽喉部、肛門等では装填することが困難である。
【0006】
特開平10−298001号公報では、出来るだけ流動性を確保するために、高吸収ポリマの微粉末を使用することを述べている。しかし、鼻孔や耳孔の入口部分に入れるのであれば、この公報のように微粉末を注射器のようなシリンダで投入しても充填できるが、奥までは充填できない。特に、奥まで充填するために、急速にシリンダを動かすと、先端から出る微粉末が飛び散るだけで、かえって遺体周辺を汚すだけである。
【0007】
即ち、特開平7−265367号公報や特開平10−298001号公報のように粉末をそのまま遺体に充填する方法では、粉末を押圧しても粉末自体の密度が上がるだけで、充填器内をスムーズに流れないので、シリンダを使用しても充填することが困難である。また、飛び出る粉末が拡散するので、粉末を固めて栓をしたい所に粉末を留めることが困難であり、場合によっては、遺体外に出て遺体周辺を汚す恐れがある。さらに、粉末をそのまま遺体に装填する場合には、体液の少ない遺体に対しては微粉末がこぼれ出る又はゲルが溶けて漏れ出る可能性がある。
【0008】
特に、粉末としては、体液を吸収して膨潤することに主眼が置かれ、各種の樹脂粉末の開発が行なわれている。いずれも親水性樹脂粉末であり、この種の樹脂粉末は体液を吸収して膨潤してゲル化する機能は優れている。しかし、この種の樹脂粉末は吸収量が多いとゾル状になり、更に進むと溶けるものが多い。また、体液が、胃酸などの強酸性体液や胆汁などのアルカリ性体液を含んでいると、ゲル状態を維持できないものが多い。
【0009】
樹脂粉末をそのまま遺体に装填するだけではうまくいかないので、実際の現場では、相変わらずガーゼや脱脂綿で応急処置しているだけであり、ガーゼや脱脂綿に代わる体液漏出防止技術の実現が強く望まれている。
【0010】
本発明の第1の目的は、今までの樹脂粉末では遺体の体液漏出を防止できないので、新規な体液漏出防止剤を開発したことを特徴とする。
特に、体液の多少に関係なく長期間ゲル状態を維持でき、体腔を封止できる樹脂を開発したことを特徴とする。
【0011】
本発明の第2の目的は、アルカリ性や酸性の体液等が含まれていてもゲル状態を維持でき、体腔を封止できる樹脂製ゲルを使用して、体腔を封止することを特徴とする。
特に、本発明の特徴は、親水性と疎水性(あるいは親油性)を兼ね備える樹脂、即ち両親媒性ゲルを体液封止剤として体腔に装填し、体腔を封止する方法を特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、体液漏出防止方法において、体液漏出防止剤が入れられた注入シリンダと、該注入シリンダ内を摺動するピストンと、該注入シリンダの先端に接続可能な挿入管とを用意し、該注入シリンダと該挿入管とを接続し、挿入管を遺体の鼻孔から咽喉部に挿入し、その後該ピストンを押圧して該注入シリンダ内の体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする。
【0013】
請求項2の発明は、体液漏出防止方法において、体液漏出防止剤が入れられた注入シリンダと、該注入シリンダ内を摺動するピストンと、該注入シリンダの先端に接続可能な挿入管とを用意し、挿入管を遺体の鼻孔から咽喉部に挿入し、該注入シリンダと該挿入管とを接続し、その後該ピストンを押圧して該注入シリンダ内の体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の体液漏出防止方法において、該挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にマークが設けられた該挿入管を用意し、該マークが鼻先に達するまで該挿入管を鼻孔に挿入し、その後該注入シリンダ内の該体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする。
【0015】
請求項4の発明は、請求項1又は2記載の体液漏出防止方法において、該挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にストッパが設けられた該挿入管を用意し、該ストッパが鼻先に当たるまで該挿入管を鼻孔に挿入し、その後該注入シリンダ内の該体液漏出防止剤を該挿入管を通して咽喉部に導入することを特徴とする。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法において、内部の体液漏出防止剤を出する注入口に保護キャップが被された該注入シリンダを用意し、該注入シリンダの該保護キャップを取り外して、該注入口に該挿入管の接続部を接続して、挿入管を遺体の鼻孔から咽喉部に挿入し、その後該ピストンを押圧して該注入シリンダ内の体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする。
【0017】
請求項6の発明は、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法において、先端部に複数の導入開口部が形成された該挿入管を用意し、該挿入管を鼻孔から咽喉部に挿入し、該注入シリンダから該挿入管内に該体液漏出防止剤を導入し、該体液漏出防止剤を該複数の導入開口部から咽喉部に装填することを特徴とする。
【0018】
請求項7の発明は、請求項6記載の体液漏出防止方法において、該挿入管の複数の導入開口部が異なる方向に形成されていることを特徴とする。
【0019】
請求項8の発明は、請求項7記載の体液漏出防止方法において、該挿入管の複数の導入開口部が該先端部側面に形成されていることを特徴とする。
【0020】
請求項9の発明は、請求項1ないし8のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法において、鼻孔に挿入する該挿入管の先端が先細に形成された該挿入管を使用することを特徴とする。
【0021】
請求項10の発明は、請求項1ないし9のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法において、体液漏出防止剤がゲル状態で該シリンダに入れられており、体液漏出防止剤を該ゲル状態のままで挿入管を通して咽喉部に導入されることを特徴とする。
【0022】
請求項11の発明は、請求項10記載の体液漏出防止方法において、上記ゲルには薬液が混入されていることを特徴とする。
【0023】
請求項12の発明は、請求1ないし11のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法において、該挿入管には、鼻孔に挿入する前には、潤滑剤が塗布されていることを特徴とする。
【0024】
本発明では、両親媒性ゲル、特にジメチルアクリルアミドを主成分とする該両親媒性ゲルからなる体液漏出防止剤であるので、両親媒性ゲルは非イオン性であり、高吸収性ゲルに比較してPHに対して安定しており、体液中に胃酸や胆汁などの酸性やアルカリ性の液体が含まれていても、溶け出すことなくゲル状態を維持できる。また、両親媒性ゲルは、一定のところまで吸液をして膨潤すると、それ以上は吸液しにくくなり、ゲル強度が強いために封止栓の役割を十分にこなす。
【0025】
注入器や蓄圧体を使う体液漏出防止方法は、両親媒性ゲルを飛散することなく、体腔の所定位置に導入しかつ留めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ジメチルアクリルアミドを主モノマー、メチレンビスアクリルアミドを架橋剤に用いて、恒温容器に入れて所定時間保持し、ジメチルアクリルアミド系ゲルを作成した。このゲルを注入器(1)に入れた。注入器(1)は、その先端に保護キャップ(3)を被せた注入口(2)を備え、フイルムパック(図示せず)で包んでシールした状態にしておく。それと、咽喉部(B)等の体腔に挿入される挿入管(4)を用意しておく。挿入管(4)は、一端に注入器(1)の注入口(2)に接続される接続部(5)を有し、他端に鼻孔(A)に挿入される開口部(6)を有する。挿入管(4)は挿入しやすいように先端が先細に形成され、開口部(6)を挿入方向及び側方に開口している。
【0027】
図1は、このようにして用意された体液漏出防止装置を遺体に使用する状態を示す。
【0028】
(A)は鼻孔、(B)は咽喉部、(C)は舌、(D)は気管、(E)は食道、(F)は頚椎である。
【0029】
使用時には、フイルムパックから注入器(1)を取り出し、注入器(1)の注入口(2)の保護キャップ(3)を取り外し、代わりに挿入管(1)の接続部(5)を被せて接続する。挿入管(1)の開口部(6)を鼻孔(A)から咽喉部(B)に向けて挿入し、挿入管(1)のストッパ部(7)が鼻先に当たった時点で挿入を中止する。そして、注入器(1)のピストン(1a)を押圧し、注入器(1)内の両親媒性ゲル(8)を挿入管(4)を経由して咽喉部(B)に導入する。挿入管(1)の開口部(6)は挿入方向先端だけでなく、側面にも開口しているので、一部開口部が詰まっても咽喉部(B)に導入される。注入器(1)内の両親媒性ゲル(8)を押出した後は、注入器(1)と挿入管(4)を鼻孔(A)から取り除く。
【0030】
この実施例では、複数の開口部から咽喉部(B)に集中的に両親媒性ゲル(8)が流し込まれる。特に、ゲルの状態で流し込まれるので、粉末のように拡散して鼻孔(A)から飛び出たりすることがなく、このゲル(8)が咽喉部(B)に留まり、咽喉部(B)が封止される。また、導入時の音が比較的静かであり、作業者は周囲の人たちを気にせずに作業できる。さらに、体内から流れてくる体液を吸収することにより膨潤して、咽喉部(B)の封止が強化されるので、体液が人体の外部に漏れ出ることが防止できる。
【0031】
特に、両親媒性ゲルは非イオン性であり、高吸収性ゲルに比較してPHに対して安定しており、体液中に胃酸や胆汁などの酸性やアルカリ性の液体が含まれていても、溶け出すことなくゲル状態を維持できる。また、両親媒性ゲルは、一定のところまで吸液をして膨潤すると、それ以上は吸液しにくくなり、ゲル強度が強いために封止栓の役割を十分にこなす。
【0032】
挿入抵抗を軽減するために、挿入管に潤滑剤を塗布しても良い。挿入管(4)と注入器(1)とを接続して鼻孔(A)に挿入したが、挿入管(4)を先に鼻孔(A)に挿入し、それから挿入管(4)に注入器(1)を接続しても良い。注入器と挿入管とをいっしょにフイルムパックで包んでも良い。注入器と挿入管は初めから接続されたものでも、または一体に作られたものでも良い。ストッパの代わりにマークを付与したものでも、挿入位置のばらつきを防止できる。両親媒性ゲルに、消毒剤、防腐剤等の薬液を混入して使用しても良い。
【0033】
図2は第2実施例を示す。第一実施例と同様な両親媒性ゲルが充填された注入器を肛門に挿入される肛門封止部材(10)に使用する実施例である。
【0034】
肛門封止部材(10)は、射出成形樹脂材からなり、芯部材(11)、案内部材(13)及びストッパ部材(16)を備えている。芯部材(11)が中空の円筒形状であって、内部に前後方向に貫通する中空部(12)が形成されている。案内部材(13)は内部に中空部が形成され、この中空部を囲む筒部(14)が長手方向後方に延びて設けられている。筒部(14)の前方は挿入時の案内部(15)として曲線状に先細に形成されており、筒部(14)の外周に間隙(17)を開けて延長部(18)が前方から長手方向後方かつ外方に延びるように設けられている。芯部材(11)の前部が間隙(17)に挿入されるように、芯部材(11)の中空部(12)に案内部材(13)の筒部(14)が挿入嵌合される。ストッパ部材(16)の前部には、芯部材(11)の中空部(12)に嵌合される筒部(19)が設けられ、ストッパ部材(16)の後部には、幅広のフランジ形状の当て部材(20)が一体に形成されている。芯部材(11)の中空部(12)と案内部材(13)の筒部(14)、芯部材(11)の中空部(12)とストッパ部材(16)の筒部(19)との間には、互いに嵌り合う凸部(21)と凹部(22)が形成されている。
【0035】
芯部材(11)を包むように巻かれるゴム部材(23)が上記凸部(21)と上記凹部(22)で挟持されるようになっている。筒部(14)の外径が先端方向に向けて幅広になるようにテーパーになっており、芯部材(11)の前部の内径も同様にテーパ−になっている。また、筒部(19)の外径は当て部材(20)方向に向けて幅広になるようにテーパーになっており、芯部材(11)の後部の内径も同様にテーパ−になっている。このテーパーによりゴム部材(23)が巻き込まれた時にゴム部材(23)のたるみが少なくなるようになっている。
【0036】
芯部材(11)の外周に、4つのスリット孔(25)が形成されている。
【0037】
ストッパ部材(16)の筒部(19)の内部には導入通路(27)が貫通して形成されている。
【0038】
導入通路(27)の段部に逆流阻止部材(26)が取付けられている。逆流阻止部材(26)は知られたものであって、中空のパイプ部材(32)に薄いポリマーフィルム管(33)が接着されたものである。ポリマーフィルム管(33)は細長い管形状であって、ポリマーフィルム管(33)の内部にグリース等が入れられて、その両端面同士が融着、圧着等により仮接合されたものである。
【0039】
注入器(図示せず)が筒部(19)にセットされて、注入器内の両親媒性ゲルが流導入通路(27)に押し込まれると、その力でポリマーフィルム管(33)の間隔が開き、ゲルが芯部材(11)の中空部(12)に導入される。ゲルはスリット孔(25)を通って、調整室(31)に導入される。それによって、ゴム部材(23)が膨張し、肛門内壁に密着するようになる。
【0040】
当て部材(20)は筒部(19)の途中から略直行する方向に滑らかな曲線で延びて、先端が楕円形状になるように設けられている。当て部材(20)の外周、即ち肛門周辺の皮膚と接触する面に接触面材(28)が貼り付けてある。接触面材(28)としては、スポンジ、フェルト、吸収剤層、ゲル剤層、接着剤層、接着テープ等が用いられる。当て部材(20)の内周には、筒部(19)の先端を覆うようにカバー部材(29)が貼り付けられている。このカバー部材(29)の中央部、即ちストッパ部材(16)の筒部(19)の先端に対面する部分には、十字形状の切込み(30)またはスリットが開けられており、注入器(図示せず)を筒部(19)の先端にセットする時には、妨げにならず、通常は筒部(19)の先端を隠すようになっており、見栄えを良くしている。
【0041】
可撓性部材として膨張するゴム部材(23)が、芯部材(11)の外周に調整室(31)を設けて芯部材(11)に被せられている。ゴム部材(23)は両方が開口した筒状部材であって、一方の開口部分が芯部材(11)の中空部(12)とストッパ部材(16)の筒部(19)との間で挟持され、他方の開口部分が芯部材(11)の中空部(12)と案内部材(13)の筒部(14)との間で挟持される。
【0042】
したがって、芯部材(11)の中空部(12)とストッパ部材(16)の導入通路(27)との連通がゴム部材(23)で塞がれることが無い。なお、この実施例では、筒状のゴム部材で説明したが、袋状のゴム部材いわゆるゴム風船であってもよい。
【0043】
この実施例では、互いに嵌り合う凸部(21)と凹部(22)は周方向には数個設けられているが、適当な数設ければよいものである。凸部(21)と凹部(22)は1列であるが、複数列にしても良く、凸部と凹部は反対に設けても良い。
【0044】
この実施例では4箇所にスリット孔(25)を設けているが、これに限られるものではなく、1個でもよく、又5個以上でも良い。また、スリット孔に限らず、機能を満足する連通孔であれば他の形状でも良い。
【0045】
導入通路(27)の段部に逆流阻止部材(26)が取付けられているが、逆流阻止部材(26)に代えて、ワンウェイ弁、チェック弁を設けても良い。或いは、少し手間になるが、筒部(19)を後からシールすることでも良い。要するに筒部(19)から両親媒性ゲルが流出しないようにするものであれば良い。
【0046】
これらの芯部材(11)、案内部材(13)及びストッパ部材(16)は射出成形樹脂材からなるので、安定した形状を量産でき、さらに、遺体といっしょに焼却する時でも有害成分の発生問題はない。
【0047】
作業時は、肛門封止部材(10)を肛門に押し込み、当て部材(20)の接触面材(28)が肛門周辺皮膚に当たるまで挿入する。その後、切込み(30)から注入器(図示せず)を筒部(19)の先端にセットし、注入器のピストンを押し込む。これにより、逆流阻止部材(26)が開いて、注入器内部の両親媒性ゲルが導入通路(27)、芯部材(11)の中空部(12)、スリット孔(25)を通って、調整室(31)に導入される。それによって、ゴム部材(23)が膨張し、体腔内壁に密着するようになる。
【0048】
この実施例では両親媒性ゲルを使用するので、導入時の音が比較的静かであり、作業者は周囲の人たちを気にせずに作業できる。ある程度時間が経過すると固化するので、ゴム部材(23)の膨張状態が安定して得られ、体腔封止機能に優れている。また、もしもゴム部材(23)が何らかの理由で破損した場合でも、両親媒性ゲルが体液を吸収して膨潤し、次第に固化するので体液が漏出する恐れがない。
【0049】
図3は、第3実施例を示す。両親媒性ゲルが鼻孔から咽喉部に導入される実施例である。
【0050】
乾燥・粉砕して粉末状にされた両親媒性ゲル(48)が容器(40)に内蔵されている。
【0051】
蓄圧体(41)は、内部に噴出ガスと液体とを含有し、上部に噴出口(42)を備えている。押圧部材(43)は、噴出口(42)を押圧する押圧部(44)、一端が噴出口(42)に接続され、他端が外部に接続される連通ダクト(45)及び蓄圧体(41)上部に嵌合する嵌合部(46)を有する。押圧部材(43)には、不用意に押圧部(44)が押圧されるのを防止するために、蓋部材(47)が被されている。
【0052】
容器(40)は、両親媒性ゲル粉末(48)を内蔵した本体(50)とこの本体(50)の両端に入口部(51)と出口部(52)を備えた細長いカプセル形状からなっている。容器(40)の入口部(51)には、第1仮封止機構としてのスポンジ状の栓(53)が配置されており、連通ダクト(45)の他端に接続されている。スポンジ状の栓(53)は、容器(40)の入口部(51)を下に向けた時に、両親媒性ゲル粉末(48)が連通ダクト(45)、噴出口(42)に流れ出るのを防止し、かつ蓄圧体(51)のガスが通過できる多孔体となっている。この栓(53)は蓄圧体(51)のガスが通過する時には、外れて容器本体(50)内に持ち込まれるようになっていても良い。この実施例では、扱いやすいのでスポンジ状の栓としたが、スポンジの栓に限らず、上記機能を果たせば良いものである。例えば、薄膜、ワンウエイ弁でも良い。
【0053】
容器(40)の入口部(51)と連通ダクト(45)との間には、蓄圧体(41)に対して容器(40)の向きの自由度を確保するために、蛇腹管(54)が設けられている。
【0054】
容器(40)の出口部(52)は先細に形成され、その先細部には、容器(40)の出口部(52)を下に向けた時に、体液漏出防止粉末(48)が流れ出るのを防ぐために、ゴム製の保護キャップ(55)が被せられている。
【0055】
供給管は鼻に挿入される細長いパイプ状の挿入管(56)からなり、中間部分(56a)が1回転している。その一端には容器の出口部(52)との接続部(57)が形成され、他端には注入孔(58)が形成されている。接続部(57)には、容器(40)の出口部(52)に外挿される外挿管部(59)が形成され、外挿管部(59)の段部にパッキン(60)が配置され、外挿管部(59)の先端には接続時の嵌合をしやすくするために溝(61)が設けられている。この溝(61)は、容器(40)の出口部(52)に設けても良い。
【0056】
使用時には、容器(40)の出口部(52)の保護キャップ(55)を外し、挿入管(56)の外挿管部(59)に出口部(52)をその先端がパッキン(60)に当たるまで差し込む。これにより、容器(40)と挿入管(56)が接続される。保護キャップ(55)が外されるので、容器(40)の出口部(52)を下に向けた時に、容器(40)内の体液漏出防止粉末(48)が挿入管(56)内に流れ込むが、中間部分(56a)が1回転しているので、挿入管(56)から外部に流れ出ることはない。
【0057】
この実施例では、容器(40)と挿入管(56)とを接続してない時は保護キャップ(55)により、接続した時は挿入管(56)の1回転した部分(56a)により第2仮封止機構を構成している。第2仮封止機構の構成は、この実施例に限られるものではなく、例えば、入口部(51)と同様にスポンジ状の栓(53)を設けたり、薄膜、ワンウエイ弁を設けても良い。このような栓を設けた場合には、不用意に体液漏出防止粉末(48)が流れ出ることはないので、敢えて挿入管(56)の中間部に1回転した部分(56a)を設けなくても良い。また、この実施例のように容器(40)と挿入管(56)を、使用時に接続するのではなく、容器(40)と挿入管(56)を一体的に構成したものを用意してあっても良い。
【0058】
挿入管(56)の先端に形成された注入孔(58)は、鼻孔の内壁を傷つけないように先細に形成されている。この注入孔(58)は、先端に形成した第1注入孔(58a)と側部に形成した4つの第2注入孔(58b)からなる。第2注入孔(58b)は向き合った2つの孔を90°ずつ位相をずらして設けた円形の孔である。第1注入孔(58a)と第2注入孔(58b)は、どれかの注入孔が塞がれても、他の注入孔から体液漏出防止粉末(48)が咽喉部に導入されるように設けられている。
【0059】
したがって、この目的を外れないかぎり、第2注入孔(58b)は4つに限られるものではなく、また位置や形状も上記実施例に限られるものではない。
【0060】
挿入管(56)の途中に、ストッパー(62)が設けられている。ストッパー(62)により、挿入位置のバラツキを防止できるとともに挿入管(56)が鼻で支えられ、挿入管(56)の位置が安定するので、体液漏出防止粉末(48)を注入する場合に作業が楽であり、誰でも同じように扱える。
【0061】
この実施例の操作を説明する。
【0062】
蓄圧体(41)が一体になった容器(40)の出口部(52)を上に向けて、容器(40)内の体液漏出防止剤(48)が漏れ出ないように維持して、保護キャップ(55)を取り外す。そして、この出口部(52)に挿入管(56)の外挿管部(59)を接続する。
その後、挿入管(56)を遺体の鼻孔から挿入する。場合によっては、挿入管(56)に油脂、ゼリー、グリセリン等の潤滑剤を塗り、挿入し易くしても良い。
【0063】
挿入管(56)のストッパ(62)が鼻先になったら挿入を止める。そして、蓄圧体(41)の蓋部材(47)を取り外し、押圧部(44)を押すと、蓄圧体(41)のガスと液体が体液漏出防止剤(48)を内蔵する容器(40)に送られるとともに、これらの混在物が挿入管(56)を通って先端の注入孔(58)から咽喉部に注入される。先端の第1注入孔(58a)と側部の第2注入孔(58b)から注入されるので、どれかの注入孔が詰まっているか若しくは出にくい場合でも咽喉部に速やかにかつ撒き散らすことなく、集中的に導入される。
【0064】
蓄圧器(41)に入れる圧縮ガスはジメチルエーテル、ブタン、プロパン、窒素、二酸化炭素等が使われる。
【0065】
この実施例では、両親媒性ゲルの粉末を用意して使用するが、鼻孔から咽喉部に導入する場合には、一部液体を含んで導入されるので、飛散することなく、且つスムーズに導入される。液体には、水を使用し、必要であれば、消毒液、防腐剤などの薬液を含ませても良い。
【0066】
特に、両親媒性ゲルは非イオン性であり、高吸収性ゲルに比較してPHに対して安定しており、体液中に胃酸や胆汁などの酸性やアルカリ性の液体が含まれていても、溶け出すことなくゲル状態を維持できる。また、両親媒性ゲルは、一定のところまで吸液をして膨潤すると、それ以上は吸液しにくくなり、ゲル強度が強いために封止栓の役割を十分にこなす。
【0067】
鼻孔から導入し、咽喉部を封止する実施例で本発明を説明したが、遺体の口腔、鼻孔そのもの、耳孔、尿道、肛門、女性の膣に適用しても良い。また、事故や手術後の遺体の傷口や開口部分にも適用しても良い。
【0068】
図示しないが、両親媒性ゲルからなる体液漏出防止剤が水溶性フイルムに包まれて用意されているか、あるいは両親媒性ゲルからなる体液漏出防止剤が先端から滑らかな形状で膨らんで、その後後方に向けて滑らかに小径になったカプセル形状に形成され、その表面に潤滑剤が塗布されて用意されていることも可能である。形状の保持機能を強化する場合には、伸縮性ネットを被せ、その上に潤滑剤を塗布するか、或いは潤滑剤を含有する伸縮性ネットを被せたものでもよい。特に肛門、女性の膣・尿道に対しては、座薬を挿入する感覚で装填でき、作業も比較的楽である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明にかかわる体液漏出防止装置の使用状態を示す図である。
【図2】本発明の別の実施例を示す。
【図3】本発明の更に別の実施例を示す。
【符号の説明】
【0070】
1 注入器
2 注入口
3 保護キャップ
4 挿入管
5 接続部
6 開口部
7 ストッパ部
8 両親媒性ゲル
A 鼻孔
B 咽喉部
C 舌
D 気管
E 食道
F 頚椎
10 肛門封止部材
11 芯部材
12 中空部
13 案内部材
14 筒部
15 案内部
16 ストッパ部材
17 間隙
18 延長部
19 筒部
20 当て部材
21 凸部
22 凹部
23 ゴム部材
24 段部
25 スリット孔
26 バンド
27 導入通路
28 接触面材
29 カバー部材
30 切込み
31 調整室
40 容器
41 蓄圧体
42 噴出口
43 押圧部材
44 押圧部
45 連通ダクト
46 嵌合部
47 蓋部材
48 両親媒性ゲル
50 本体
51 入口部
52 出口部
53 栓
54 蛇腹管
55 保護キャップ
56 挿入管
56a 中間部分
57 接続部
58 注入孔
58a 第1注入孔
58b 第2注入孔
59 外挿管部
60 パッキン
61 溝
62 ストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体液漏出防止剤が入れられた注入シリンダと、該注入シリンダ内を摺動するピストンと、該注入シリンダの先端に接続可能な挿入管とを用意し、該注入シリンダと該挿入管とを接続し、挿入管を遺体の鼻孔から咽喉部に挿入し、その後該ピストンを押圧して該注入シリンダ内の体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする体液漏出防止方法。
【請求項2】
体液漏出防止剤が入れられた注入シリンダと、該注入シリンダ内を摺動するピストンと、該注入シリンダの先端に接続可能な挿入管とを用意し、挿入管を遺体の鼻孔から咽喉部に挿入し、該注入シリンダと該挿入管とを接続し、その後該ピストンを押圧して該注入シリンダ内の体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする体液漏出防止方法。
【請求項3】
該挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にマークが設けられた該挿入管を用意し、該マークが鼻先に達するまで該挿入管を鼻孔に挿入し、その後該注入シリンダ内の該体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする請求項1又は2記載の体液漏出防止方法。
【請求項4】
該挿入管の先端部が咽喉部に達する長さに対応する部分にストッパが設けられた該挿入管を用意し、該ストッパが鼻先に当たるまで該挿入管を鼻孔に挿入し、その後該注入シリンダ内の該体液漏出防止剤を該挿入管を通して咽喉部に導入することを特徴とする請求項1又は2記載の体液漏出防止方法。
【請求項5】
内部の体液漏出防止剤を出する注入口に保護キャップが被された該注入シリンダを用意し、該注入シリンダの該保護キャップを取り外して、該注入口に該挿入管の接続部を接続して、挿入管を遺体の鼻孔から咽喉部に挿入し、その後該ピストンを押圧して該注入シリンダ内の体液漏出防止剤を該挿入管内を通して咽喉部に導入することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法。
【請求項6】
先端部に複数の導入開口部が形成された該挿入管を用意し、該挿入管を鼻孔から咽喉部に挿入し、該注入シリンダから該挿入管内に該体液漏出防止剤を導入し、該体液漏出防止剤を該複数の導入開口部から咽喉部に装填することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法。
【請求項7】
該挿入管の複数の導入開口部が異なる方向に形成されていることを特徴とする請求項6記載の体液漏出防止方法。
【請求項8】
該挿入管の複数の導入開口部が該先端部側面に形成されていることを特徴とする請求項7記載の体液漏出防止方法。
【請求項9】
鼻孔に挿入する該挿入管の先端が先細に形成された該挿入管を使用することを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法。
【請求項10】
体液漏出防止剤がゲル状態で該シリンダに入れられており、体液漏出防止剤を該ゲル状態のままで挿入管を通して咽喉部に導入されることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法。
【請求項11】
上記ゲルには薬液が混入されていることを特徴とする請求項10記載の体液漏出防止方法。
【請求項12】
該挿入管には、鼻孔に挿入する前には、潤滑剤が塗布されていることを特徴とする請求1ないし11のいずれか1つに記載の体液漏出防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−199709(P2006−199709A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109762(P2006−109762)
【出願日】平成18年4月12日(2006.4.12)
【分割の表示】特願2000−100967(P2000−100967)の分割
【原出願日】平成12年4月3日(2000.4.3)
【出願人】(500329906)
【Fターム(参考)】