説明

余剰霧化塗料捕集システム

【課題】水などの液体を用いることなく、排気体に含まれる余剰霧化塗料を効率よく捕集することができる余剰霧化塗料捕集システムを提供すること。
【解決手段】塗装室4の塗装空間3に自動車部品2が収納され、塗装機13から塗料ミストP1を噴射することにより自動車部品2の塗装が行われる。塗装空間3において自動車部品2に付着しなかった塗料ミストP1を含む汚染空気は、空気集合部材21により集合されて増速された後、排気用配管22から塗料捕集器23に向けて排出される。塗料捕集器23は、汚染空気を受け止める容器24と、その容器24の内部にて移動可能な状態で収容され、塗料ミストP1を凝集させた液体状の塗料がその表面に付着可能な複数のボール25とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物に塗料を噴霧して塗装を行う塗装ブースに適用され、被塗物に付着しなかった余剰霧化塗料を捕集するための余剰霧化塗料捕集システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塗装ブースの塗装室内にて被塗物に対する霧化塗装を行うと、オーバースプレーにより、塗料ミストや揮発性有機溶剤などを含んだ汚染空気(排気体)が塗装室内に充満してしまう。その結果、塗料ミストのカブリによって被塗物の品質が損なわれたり、揮発性有機溶剤によって作業者の健康が害されたりする可能性がある。これらの問題を解決するために、汚染空気を吸引して塗装室外に排出する構造を備えた塗装ブースが従来提案されている。
【0003】
ところが、公害防止の観点から、塗装室の汚染空気をそのまま大気中に放出することはできない。そのため、従来の塗装ブースでは、塗装室の下部に排気室を設置し、塗装室から吸引した汚染空気を排気室にて浄化処理するように構成している。
【0004】
具体的には、自動車ボディや自動車部品の塗装を行う塗装ブースでは、排気室において、汚染空気を水などの液体に接触させて混合し、その汚染空気に含まれる塗料ミストを液体に捕捉させることで、汚染空気から塗料ミストを分離除去している(例えば、特許文献1,2参照)。
【0005】
自動車ボディや自動車部品の塗装は、一般に耐水性、耐薬品性、耐候性、耐久性、および高級感を確保する必要があり、従来は、有機溶剤を含む溶剤型塗料を用いて塗装が行われてきた。しかし、近年では、塗装工程での排出有機溶剤規制や塗料のVOC規制が高まってきているため、有機溶剤を使用しない水性塗料が開発され、自動車ボディや自動車部品の塗装に用いられるようになってきている。
【特許文献1】特開2006−142208号公報
【特許文献2】特許第3656229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水性塗料を噴霧して塗装を行う塗装ブースにおいて、従来のように水を使用して汚染空気の塗料ミストを捕捉する場合、捕捉した塗料が水に溶け込んでしまうため、その排水の浄化処理(具体的には、水と塗料とを分離するための固液分離処理)が困難となる。また、塗料が腐敗して異臭を発するなどの問題が生じる。そのため、水を用いた湿式法ではなく、乾式法によって塗料ミストを効率よく捕集する捕集システムが検討されている。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、水などの液体を用いることなく、排気体に含まれる余剰霧化塗料を効率よく捕集することができる余剰霧化塗料捕集システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、外部から取り入れた空気が流通されるとともに被塗物が収容される塗装空間を有する塗装室と、空気と微粒化塗料とを混合した霧化塗料を前記被塗物に噴射する塗料霧化手段と、前記塗料霧化手段の下流側に設置され、取り入れた空気と前記被塗物に付着しなかった余剰霧化塗料との混合気体である排気体を、徐々に小断面積となる経路に集合させつつ増速させる集合手段と、前記集合手段で増速させた排気体を所定方向へ排出する排気経路と、前記排出経路の直下流側に設置され、増速させた排気体に含まれる前記余剰霧化塗料を付着させて分離する余剰霧化塗料捕集手段とを備える余剰霧化塗料捕集システムにおいて、前記余剰霧化塗料捕集手段は、増速させた排気体を受け止める容器と、その容器の内部にて移動可能な状態で収容され、前記余剰霧化塗料に由来する液体状の塗料がその表面に付着可能な非固定捕集固体とを含んで構成されていることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システムをその要旨とする。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、外部から塗装室の塗装空間に空気が取り入れられ流通される。その塗装空間において、塗料霧化手段により、空気と微粒化塗料とを混合した霧化塗料が噴射されて被塗物の塗装が行われる。また、塗料霧化手段の下流側に集合手段が設置されており、外部から取り入れられた空気と被塗物に付着しなかった余剰霧化塗料との混合気体である排気体は、その集合手段によって徐々に小断面積となる経路に集合されて増速される。そして、集合手段よって増速された排気体は、排気経路により所定方向に排出される。また、その排気経路の直下流側には、余剰霧化塗料捕集手段が設置されており、排気経路から排出された排気体が余剰霧化塗料捕集手段に吹き付けられる。この余剰霧化塗料捕集手段は、容器と、その容器の内部に移動可能な状態で収納される非固定捕集固体とで構成されており、増速された排気体が容器によって受け止められる。その際、排気体の余剰霧化塗料は、容器の表面や非固定捕集固体の表面に衝突する。これにより、容器の表面や固定捕集固体の表面に液体状の塗料が付着して空気から分離される。このように、容器内において非固定捕集固体を設けることによって塗料を付着させることが可能な表面積が増し、さらに、非固定捕集固体が容器内を移動することにより、その表面に塗料を均一に付着させることができる。従って、本発明の余剰霧化塗料捕集システムによれば、従来技術のように水などの液体を用いることなく、排気体に含まれる余剰霧化塗料を効率よく捕集することができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記余剰霧化塗料捕集手段は、前記容器の内部にて個々に独立して移動可能かつ前記容器の内部表面に当接可能な状態で収容された前記非固定捕集固体を複数備え、隣接する非固定捕集固体の間には、前記余剰霧化塗料を含む排気体が通過可能な空隙が確保されていることをその要旨とする。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、余剰霧化塗料捕集手段の容器には、その内部表面に当接した状態で複数の非固定捕集固体が収納され、その容器の内部において、各非固定捕集固体が個々に独立して移動される。これら非固定捕集固体の間には空隙が確保され、その空隙に余剰霧化塗料を含む排気体が通過される。このように構成すれば、各非固定捕集固体の表面に塗料を確実に付着させることができるので、塗料の捕集効率を高めることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2において、前記容器の内部に収容された前記非固定捕集固体を移動させる非固定捕集固体移動手段を備えたことをその要旨とする。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、非固定捕集固体移動手段によって、容器の内部において非固定捕集固体が移動されるので、非固定捕集固体の表面全体に塗料を均一に付着させることができ、塗料の捕集効率を高めることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項2項において、前記複数の非固定捕集固体は、前記容器の内部表面上を個々に独立して転動可能な形状を有することをその要旨とする。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、複数の非固定捕集固体が個々に独立して転動することにより、各非固定捕集固体の相対位置が変更される。これにより、各非固定捕集固体の表面全体に塗料を均一に付着させることができ、塗料の捕集効率を高めることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4のいずれか1項において、前記非固定捕集固体の少なくとも表面は、前記塗料の付着性が前記容器よりも高い材料で形成されていることをその要旨とする。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、非固定捕集固体の少なくとも表面は塗料の付着性が前記容器よりも高いので、液体状の塗料を非固定捕集固体の表面に確実に付着させることができる。この場合、非固定捕集固体に付着した塗料を定期的に回収することにより、容器の洗浄処理が不要となるため、メンテナンス性を高めることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5のいずれか1項において、前記容器の底面は傾斜を有し、その底面の最下端部となる位置に、塗料溜まりまたは塗料排出手段を設けたことをその要旨とする。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、容器や非固定捕集固体の表面に付着した液体状の塗料は、容器の底面の傾斜に沿って流れ、その底面の最下端部となる位置に設けた塗料溜まりまたは塗料排出手段を介して確実に回収される。
【発明の効果】
【0020】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によると、水などの液体を用いることなく、排気体に含まれる余剰霧化塗料を効率よく捕集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
【0022】
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は本実施の形態における余剰霧化塗料捕集システムを構成する塗装ブースの概略構成を示す斜視図である。
【0023】
図1に示されるように、塗装ブース1は、自動車部品2(被塗物)に水性塗料を吹き付けることにより、その自動車部品2の表面に塗膜を形成させるためのものである。この塗装ブース1には、ダウンフロー(上方から下方に向かう一定方向)の空気が流通されるとともに、自動車部品2が収納される塗装空間3を有する塗装室4と、塗装室4の上側に設けられ塗装室4にダウンフローの空気を供給するための給気室5と、塗装室4の下側に設けられその塗装室4内の空気を排気するための排気室6とが設けられている。なお、図1の塗装ブース1においては、塗装室4及び排気室6における前面側の壁を省略して示している。
【0024】
塗装室4の床部7は簀子状の部材(グレーチング)で形成され、その床部7の略中央部には、自動車部品2が載せられた塗装用テーブル8が設けられている。また、塗装室4において、塗装用テーブル8の近傍には塗装ロボット11が設けられ、該塗装ロボット11のアーム12に取り付けられた塗装機13(塗料霧化手段)で自動車部品2が塗装される。本実施の形態で用いられる塗装機13は、回転霧化式の塗装機であり、空気と微粒化塗料とを混合した塗料ミストP1(霧化塗料)を噴射することで自動車部品2の塗装を行う。
【0025】
給気室5には、フィルタ等を含んで構成された空調ユニット15が設けられている。そして、給気ダクト16を通じて給気室5に圧送された空気が空調ユニット15により整流された後、空調空気として塗装室4に流下させられる。本実施の形態では、給気ダクト16や空調ユニット15によって吸気経路が構成され、この吸気経路を通じて風量、湿度、温度などが一定条件に調整された空調空気が塗装室4に供給されるようになっている。
【0026】
排気室6は、塗装室4内の汚染空気(排気体)を排気ファン(図示略)の吸引力によって吸引し、吸引した汚染空気の処理を行うようになっている。汚染空気には、塗装室4内の塗装機13からオーバースプレーされ、自動車部品2に付着しなかった塗料ミストP1(余剰霧化塗料)が含まれている。また、排気室6の一方の側壁には、排気室6内にて浄化された空気を外部に排出する排気ダクト18が設けられている。そして、排気ダクト18から排出された空気は、図示しないファンによって圧送され、排気される。なお、排気ダクト18から排出された空気の一部が再び給気室5に導かれるようになっていてもよい。
【0027】
また、塗装機13の下流側であって排気室6の上部となる位置には、汚染空気を集めるために角錐状に形成された空気集合部材21(集合手段)が設けられている。この空気集合部材21は、下側に行くほど徐々に小断面積となる経路が形成されており、塗装室4の汚染空気をその経路に集合させつつ増速させる。また、空気集合部材21の下端部には、排気用配管22(排気経路)が接続されており、その排気用配管22により、空気集合部材21で増速させた汚染空気を下側(吸入経路とは反対側となる方向)の排気室6へ排出する。
【0028】
排気室6において、排気用配管22の直下流側には、汚染空気に含まれる塗料ミストP1を付着させて分離する塗料捕集器23(余剰霧化塗料捕集手段)が配置されている。図2に示されるように、本実施の形態の塗料捕集器23は、汚染空気A1を受け止める容器24と、その容器24の内部にて収納され、塗料ミストP1に由来する液体状の塗料が付着可能な複数のボール25(非固定捕集固体)とを備える。容器24は、底部26及び側壁27と有し上端に開口部28を有する釜状の容器であり、塗料の付着性が低い材料(例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの樹脂材料)を用いて形成されている。この容器24において、底部26には排気用配管22から排出された汚染空気A1が略直角に衝突する。側壁27は、その底部26によって偏向された汚染空気A1の気流に対し略直角となるよう折り返されている。また、容器24において、側壁27の内側折り返し部29は、なだらかな曲面状に形成されている。
【0029】
ボール25は、直径が20mm程度の球体であって、塗料の付着性が高い材料(例えば、鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属材料やセラミック材料)を用いて形成されている。各ボール25は、容器24の内部にて個々に独立して移動可能かつ容器24の内部表面に接触可能な状態で収納されている。
【0030】
次に、本実施の形態の塗装ブース1の作用について説明する。
【0031】
まず、塗装機13から水性塗料を噴霧して自動車部品2の塗装を行うと、オーバースプレーされた塗料ミストP1を含む汚染空気A1が空気集合部材21で増速され、排気用配管22を通して排気室6に排出される。ここで、汚染空気A1は、例えば、5m/秒〜50m/秒の流速に増速され、その汚染空気A1が容器24の底部26に略直角に吹き付けられる。さらに、その底部26で偏向された汚染空気はA1、底部26に沿って流れて側壁27に吹き付けられる。このとき、空気は底部26や側壁27の表面に沿って流れるが、汚染空気に含まれる塗料ミストP1は空気よりも重いためその慣性力により底部26や側壁27に衝突する。これにより、塗料ミストP1は、液化した塗料として底部26や側壁27の表面に付着する。
【0032】
また、各ボール25の表面にも汚染空気A1が吹き付けられ、その空気に含まれる塗料ミストP1がボール25の表面に衝突し、液状化した塗料が付着する。さらに、容器24の内部において、5m/秒〜50m/秒に増速された汚染空気A1の気流が各ボール25に作用しその空気抵抗によって各ボール25が転動する(図3(a)参照)。本実施の形態では、容器24よりもボール25の方が塗料の付着性が高いため、ボール25が転動することにより、容器24の底部26や側壁27に付着していた塗料が擦り取られてボール表面に満遍なく付着する。この結果、図3(a)〜(e)に示されるように、ボール25を核としてその表面に塗料P2が付着していく。そして、図3(e)のように、ボール表面に塗料P2が十分に付着し、ボール同士がくっついて移動が困難な状態になったタイミングで、塗装ブース1の塗装処理を停止して塗料捕集器23のメンテナンスを行う。このメンテナンスでは、塗料P2が付着したボール25を容器24から取り出し、塗料P2を除去したボール25または塗料P2が付着していない新品のボール25を容器24内に収納する。そして、このメンテナンス後に、塗装ブース1を再度稼動させることにより、塗料捕集器23にて塗料P2が効率よく捕集される。
【0033】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0034】
(1)本実施の形態の塗装ブース1において、塗装機13の下流側に空気集合部材21が設置されており、給気室5から取り入れられた空気と自動車部品2に付着しなかった塗料ミストP1との混合気体である汚染空気A1は、その空気集合部材21によって徐々に小断面積となる経路に集合されて増速される。そして、その増速された汚染空気A1は、排気用配管22を介して排気室6の塗料捕集器23に向けて吹き付けられる。この塗料捕集器23は、容器24と、その容器24の内部に移動可能な状態で収納される複数のボール25とで構成されており、増速された汚染空気A1が容器24によって受け止められる。その際、汚染空気A1に含まれる塗料ミストP1は、容器24の表面や各ボール25の表面に衝突する。これにより、容器24の表面や各ボール25の表面に液体状の塗料P2が付着して空気から分離される。また、容器24内において、その内部表面に当接した状態で複数のボール25が収納されており、各ボール25が個々に独立して移動される。この場合、各ボール25の間には空隙が確保され、その空隙に塗料ミストP1を含む汚染空気A1が確実に通過される。このように、容器24内に各ボール25を設けることにより、塗料P2を付着させることが可能な表面積が増し、さらに、各ボール25が容器22内を移動することにより、その表面に塗料P2を均一に付着させることができる。従って、本実施の形態によれば、従来技術のように水などの液体を用いることなく、汚染空気A1に含まれる塗料ミストP1を効率よく捕集することができる。
【0035】
(2)本実施の形態では、空気集合部材21で増速された汚染空気A1が容器24内の各ボール25に吹き付けられ、その汚染空気A1の気流の空気抵抗により各ボール25が移動される。特に、各ボール25は転動するのに最も適した形状であり、汚染空気A1の風圧によって各ボール25を容易に移動させることができる。このように各ボール25を移動させることで、その表面全体に塗料P2を均一に付着させることができるため、塗料ミストP1の捕集効率を高めることができる。
【0036】
(3)本実施の形態では、ボール25は容器24よりも塗料P2の付着性が高い材料を用いて形成されているので、容器24表面の塗料P2をボール25の表面に確実に付着させることができる。この場合、各ボール25に付着した塗料P2を定期的に回収することにより、容器24の洗浄処理が不要となるため、メンテナンス性を高めることができる。
[第2の実施の形態]
【0037】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を図4に基づき説明する。
【0038】
本実施の形態の余剰霧化塗料捕集システムでは、塗料捕集器23に非固定捕集固体移動手段を設けた点が第1の実施の形態と異なり、他の構成は第1の実施の形態と同じである。
【0039】
図4に示されるように、本実施の形態の非固定捕集固体移動手段は、塗料捕集器23における容器24の外部に設けられ、容器24の側壁27に連接する加振装置31と、容器24の下部を支える支持バネ32とを備えている。そして、加振装置31が駆動されて容器24が左右に振動されることにより、容器24の内部において各ボール25を自由に移動させることができる。このように構成すれば、ボール25の表面全体に塗料P2を均一に付着させることができるため、塗料P2の捕集効率を高めることができる。
[第3の実施の形態]
【0040】
次に、本発明を具体化した第3の実施の形態を図5に基づき説明する。
【0041】
本実施の形態の余剰霧化塗料捕集システムでは、塗料捕集器41の構成が上記第1の実施の形態と異なり、他の構成は上記第1の形態と同じである。
【0042】
図5に示されるように、本実施の形態の塗料捕集器41は、底部42及び側壁43と有する釜状の容器44と、容器44の内部に移動可能な状態で収納される複数のボール25とを備える。この容器44の底部42には、傾斜した底面45を有する塗料回収溝46が形成されている。この塗料回収溝46は、その幅がボール25の直径よりも小さく、容器44の底部42において等間隔に複数形成されている。そして、各塗料回収溝46における底面45の最下端部となる位置に塗料排出手段としてのドレイン47が接続されている。本実施の形態の塗料捕集器41は、汚染空気A1に塗料ミストP1が比較的多く含まれる場合に用いられる。この場合、汚染空気A1に含まれる塗料ミストP1は、容器44の表面(底部42及び側壁43の表面)やボール25の表面に衝突することで液化する。そして、液体状の塗料P2は、容器44の表面やボール25の表面から流れ落ち、さらに、容器44の底部42において、塗料回収溝46の傾斜した底面45に沿って流れ、塗料排出用のドレイン47を介して回収される。このように、塗料捕集器41を構成することにより、塗料P2の捕集効率を高めることができる。
【0043】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0044】
・上記第1の実施の形態では、塗料捕集器23の容器24内において、収納するボール25の数を比較的に少なくして各ボール25が自由に移動できるようにしていたが、図6に示されるように、より多くのボール25(非固定捕集固体)を収納してもよい。図6の塗料捕集器23のように、容器24の内部に複数のボール25を充填した場合、複数のボール25により捕集固体層250が構成され、その表層側における略中央部から汚染空気A1が進入される。そして、その捕集固体層250の内部を通過した汚染空気A1は、その下層及び容器底面で偏向された後、表層側における周辺部から脱出される。このようにすれば、汚染空気A1の気流が捕集固体層250内を自然に流れることで、各ボール25の表面に均一に衝突するため、塗料ミストP1の捕集効率を高めることができる。なお、図6の塗料捕集器23において、容器24の上部を覆う蓋部材(図示略)を設けるとともに、容器24の側壁27に排出口(図示略)を設け、捕集固体層250を通過させて浄化された空気A2を容器24の側壁27から脱出させるよう構成してもよい。
【0045】
・上記第2の実施の形態では、加振装置31と支持バネ32とを備えた非固定捕集固体移動手段を設けるものであったが、これに限定されるものではない。非固定捕集固体移動手段としては、例えば、図7に示されるように、容器24の内部に配置され各ボール25をかき混ぜるための羽根部材(攪拌手段)51と、容器24の外部に配置されその羽根部材51を回転駆動するためのモータ52とを備えるものでもよい。この場合でも、容器24の内部において各ボール25が確実に移動されるので、各ボール25の表面全体に塗料P2を均一に付着させることができ、塗料P2の捕集効率を高めることができる。また、図8に示されるように、非固定捕集固体としてのボール25を鉄などの磁性体で形成し、容器24の外部において、そのボール25に磁力を作用させる磁石54(磁力発生手段)とその磁石54を回転させるモータ55とによって非固定捕集固体移動手段を構成してもよい。この場合でも、容器24の内部において各ボール25が確実に移動されるので、各ボール25の表面全体に塗料P2を均一に付着させることができ、塗料P2の捕集効率を高めることができる。さらに、非固定捕集固体移動手段としては、容器24自体を移動(例えば、一方向への回転移動、往復回転移動、直線往復移動、傾斜往復移動)させる駆動装置(図示略)を設けてもよく、その駆動装置を用いて容器24の外部に一旦移動した各ボール25を容器24の内部に戻すように構成してもよい。このようにしても、容器24の内部において各ボール25が確実に移動されるため、各ボール25の表面全体に塗料P2を均一に付着させることができ、塗料P2の捕集効率を高めることができる。
【0046】
・上記第3の実施の形態では、塗料捕集器41の傾斜した底面45に塗料排出用のドレイン47を設けたが、このドレイン47に代えて塗料たまりを設け、塗料たまりに溜まった塗料P2を定期的に回収するよう構成してもよい。あるいは、塗料排出用のドレイン36に代わる塗料排出手段として、例えばポンプを設け、このポンプを用いて、溜まった塗料P2を常時または定期的に排出するようにしてもよい。
【0047】
・上記各実施の形態の塗料捕集器23,41では、容器24,44の上端の開口部から浄化された空気A2を脱出させるよう構成していたがこれに限定されるものではない。例えば、図9の塗料捕集器57のように容器24における底部26から浄化された空気A2を脱出させるように構成してもよい。具体的には、図9の塗料捕集器57では、容器24における上端の開口部28が蓋部材58により密閉されている。容器24の底部26に排気口59が設けられ、その排気口59に金属フィルタ60が装着されている。また、この塗料捕集器57には、図7の塗料捕集器23と同様に、羽根部材51とモータ52とからなる非固定捕集固体移動手段が設けられている。このように塗料捕集器57を構成した場合、汚染空気A1に含まれる塗料ミストP1は、容器24の表面やボール25の表面に衝突して付着することで空気と分離される。そして、その空気は、底部26の排気口59の金属フィルタ60を通過することで、さらに浄化された後に排気される。このように塗料捕集器57を構成しても、塗料P2の捕集効率を高めることができる。
【0048】
・上記各実施の形態では、非固定捕集固体としてボール25を用いたが、個々に独立して転動可能な形状であればよく、例えば、球体以外に多角体、柱状体、錯体、棒状体を用いてもよい。このようにすれば、各非固定捕集固体が個々に独立して転動することにより、各非固定捕集固体の相対位置を変更させることができる。これにより、各非固定捕集固体の表面に塗料を確実に付着させることができるため、塗料P2の捕集効率を高めることができる。
【0049】
・上記各実施の形態では、容器24よりも塗料P2の付着性が高い材料を用いてボール25を形成していたが、ボール25全体を同一材料で形成する必要はなく、その表面のみを付着性の高い材料を用いて形成してもよい。具体的には、例えば、ボール25の表面を粘着剤のコート膜(フィルムコートなど)で覆うようにしてもよい。また、容器24表面を低摩擦材のコート膜(フッ素コート)で覆うようにして、容器24側の塗料P2の付着性を低くしてもよい。
【0050】
・上記各実施の形態において、水性塗料を用いて自動車部品2の塗装を行うものであったが、溶剤型塗料を用いて自動車部品2の塗装を行うように構成してもよい。また、被塗物として自動車部品2以外に家電製品などの部品を塗装するものであってもよい。
【0051】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した各実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0052】
(1)請求項3において、前記非固定捕集固体移動手段は、前記容器外部に一旦移動された前記非固定捕集固体を前記容器内部に戻すよう移動させることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【0053】
(2)請求項3において、前記非固定捕集固体移動手段は、増速させた排気体の気流の流体抵抗により前記非固定捕集固体を移動させることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【0054】
(3)請求項3において、前記非固定捕集固体移動手段は、前記容器に連接する加振手段を備え、その加振手段による振動で前記非固定捕集固体を移動させることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【0055】
(4)請求項3において、前記非固定捕集固体移動手段は、前記容器内に配置された攪拌手段を備え、その攪拌手段の駆動により前記非固定捕集固体を移動させることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【0056】
(5)請求項3において、前記非固定捕集固体移動手段は、前記容器自体を移動させる駆動手段を備え、その駆動手段による容器の移動に伴い前記非固定捕集固体を移動させることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【0057】
(6)請求項3において、前記非固定捕集固体は磁性体からなり、前記非固定捕集固体移動手段は、前記容器外部から磁力を作用させる磁力発生手段を備え、その磁力発生手段の磁力によって前記非固定捕集固体を移動させることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【0058】
(7)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記余剰霧化塗料捕集手段において、前記容器内部に複数の非固定捕集固体が充填され、前記複数の非固定捕集固体からなる捕集固体層の表層側における略中央部から前記排気体を進入させて前記捕集固体層の内部を通過させた後、前記捕集固体層の下層側及び容器底面で偏向させた前記排気体を前記捕集固体層の表層側における周辺部から脱出させるようにしたことを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【0059】
(8)請求項1乃至6のいずれか1項において、前記余剰霧化塗料捕集手段において、前記容器内部に複数の非固定捕集固体が充填され、前記複数の非固定捕集固体からなる捕集固体層の表層側から前記排気体を進入させて前記捕集固体層の内部を通過させた後、その排気体を前記容器の側壁から外部に脱出させるようにしたことを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明を具体化した第1の実施の形態の塗装ブースを示す断面図。
【図2】第1の実施の形態における塗料捕集器を示す断面図。
【図3】(a)〜(e)は各ボールにおける塗料の付着状態を示す説明図。
【図4】第2の実施の形態における塗料捕集器を示す断面図。
【図5】第3の実施の形態における塗料捕集器を示す断面図。
【図6】別の実施の形態における塗料捕集器を示す説明図。
【図7】別の実施の形態における塗料捕集器を示す説明図。
【図8】別の実施の形態における塗料捕集器を示す説明図。
【図9】別の実施の形態における塗料捕集器を示す説明図。
【符号の説明】
【0061】
1…余剰霧化塗料捕集システムを構成する塗装ブース
2…被塗物としての自動車部品
3…塗装空間
4…塗装室
13…塗料霧化手段としての塗装機
21…集合手段としての空気集合部材
22…排気経路としての排気用配管
23,41,57…余剰霧化塗料捕集手段としての塗料捕集器
24,44…容器
25…非固定捕集固体としてのボール
31…非固定捕集固体移動手段を構成する加振装置
32…非固定捕集固体移動手段を構成する支持バネ
45…底面
47…塗料排出手段としてのドレイン
51…非固定捕集固体移動手段を構成する羽部材
52,55…非固定捕集固体移動手段を構成するモータ
54…非固定捕集固体移動手段を構成する磁石
A1…排気体としての汚染空気
P1…霧化塗料としての塗料ミスト
P2…液体状の塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から取り入れた空気が流通されるとともに被塗物が収容される塗装空間を有する塗装室と、
空気と微粒化塗料とを混合した霧化塗料を前記被塗物に噴射する塗料霧化手段と、
前記塗料霧化手段の下流側に設置され、取り入れた空気と前記被塗物に付着しなかった余剰霧化塗料との混合気体である排気体を、徐々に小断面積となる経路に集合させつつ増速させる集合手段と、
前記集合手段で増速させた排気体を所定方向へ排出する排気経路と、
前記排出経路の直下流側に設置され、増速させた排気体に含まれる前記余剰霧化塗料を付着させて分離する余剰霧化塗料捕集手段と
を備える余剰霧化塗料捕集システムにおいて、
前記余剰霧化塗料捕集手段は、増速させた排気体を受け止める容器と、その容器の内部にて移動可能な状態で収容され、前記余剰霧化塗料に由来する液体状の塗料がその表面に付着可能な非固定捕集固体とを含んで構成されていることを特徴とする余剰霧化塗料捕集システム。
【請求項2】
前記余剰霧化塗料捕集手段は、前記容器の内部にて個々に独立して移動可能かつ前記容器の内部表面に当接可能な状態で収容された前記非固定捕集固体を複数備え、隣接する非固定捕集固体の間には、前記余剰霧化塗料を含む排気体が通過可能な空隙が確保されていることを特徴とする請求項1に記載の余剰霧化塗料捕集システム。
【請求項3】
前記容器の内部に収容された前記非固定捕集固体を移動させる非固定捕集固体移動手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の余剰霧化塗料捕集システム。
【請求項4】
前記複数の非固定捕集固体は、前記容器の内部表面上を個々に独立して転動可能な形状を有することを特徴とする請求項2に記載の余剰霧化塗料捕集システム。
【請求項5】
前記非固定捕集固体の少なくとも表面は、前記塗料の付着性が前記容器よりも高い材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の余剰霧化塗料捕集システム。
【請求項6】
前記容器の底面は傾斜を有し、その底面の最下端部となる位置に、塗料溜まりまたは塗料排出手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の余剰霧化塗料捕集システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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