説明

作業機の油圧ホースの拘束構造

【課題】作業機において、比較的狭隘なスペースに油圧ホースを配置、拘束することが可能であり、また、油圧ホースの揺動によって追加クランプ取付け用ボルトへの過大な力の作用が回避され、もって長期にわたり追加クランプの取付け部の破損が回避できる油圧ホース拘束構造を提供する。
【解決手段】既存の油圧ホースを拘束する複数の既存クランプ10,11に、板状のブラケット46を、既存クランプ10,11と共に作業機の旋回フレームの縦板2等に締結するボルト48,49によって共締めして橋渡し状に取付ける。追加の油圧ホースを拘束する追加クランプ40,41を、ブラケット46に、既存クランプ10,11と異なる位置に取付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベル等の作業機における油圧ホースの拘束構造に係り、より詳しくは、油圧ホースの設置空間が狭隘である等の理由により、油圧ホースの拘束部品の設置が困難な場合であっても、油圧ホースを拘束するクランプを用いて油圧ホース同士や油圧ホースと近接部品とが干渉しないように拘束することが可能となる油圧ホースの拘束構造に係り、特にオプション機器の採用等の理由により、既存の油圧ホースに追加油圧ホースを新たに追加する場合に好適な構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルは、上部旋回体上に搭載されたエンジン等の原動機により油圧ポンプを駆動し、油圧ポンプから吐出される圧油を、上部旋回体上のコントロール弁を介して走行モータ、旋回モータおよび作業用フロントの関節部に設ける油圧シリンダ等の各種油圧式アクチュエータに供給する。また、コントロール弁を制御するため、パイロット弁が運転室の下部等に設ける。そして油圧ポンプと、コントロール弁やそのパイロット弁との間、およびコントロール弁と油圧式アクチュエータとの間を接続するため、上部旋回体の旋回フレームの上等の狭いスペースに油圧ホースを配置する。
【0003】
旋回フレーム上に配置される油圧ホースの作業機作動中における動きを防止するため、一般的には旋回フレーム上に取付け座を設け、この取付け座に取付けるクランプによって油圧ホースを固定している。このような油圧ホースを備えた作業機において、オプション機器を配置する場合、油圧ホースを追加する必要が生じる。
【0004】
このように油圧ホースを追加する場合、追加する油圧ホースを配置するスペースが狭いか、または周囲に油圧ホースや電気ハーネス等、引火性が高い物があるため、ねじ座を溶接によって追加することが困難である場合、従来はクランプを用いた油圧ホースの拘束を行なわず、油圧ホースの表面を金属製のプロテクタで保護して配管する場合があった。
【0005】
また、油圧ホースを追加する場合の他の従来技術として、特許文献1に記載のように、既存の油圧ホースのクランプのねじ座に対して新たにねじ座を追加することなく、追加クランプを、既存クランプに共通の取付けボルトによって共締めにより横並びに取付けたものがある。
【0006】
図10はこの特許文献1に記載の追加クランプの取付け構造の一種である構造を示す平面図、図11は図10のI矢視図である。また、図12はこの追加クランプの取付け構造を示す平面図である。図10、図11において、1は油圧ショベルの旋回フレーム、1aはその補強板、2はこの旋回フレーム1に上方に突出して設けた左右の縦板のうちの一方の縦板であり、この縦板2は旋回フレーム1の補強の役目を果たすと共に、不図示のブームやブームシリンダを取付けるものである。3は左右の縦板2の間に設けた旋回装置、3aはその旋回モータである。4は各種油圧アクチュエータへの不図示の油圧ポンプからの作動油の供給を切換え制御するコントロール弁の組合せ体である。
【0007】
6はブームシリンダの片側(ボトム室側またはロッド室)に油圧ポンプ(図示せず)からの作動油を供給する油圧ホース、7,8は下部走行体(図示せず)の片側(左側または右側)の走行モータに作動油を供給するための油圧ホースであり、これらは縦板2の内壁と旋回モータ3aの壁面との間のスペースにこれらの油圧ホース7,8が配置される。10,11はブームシリンダ用の2本の油圧ホースの一本の油圧ホース6をそれぞれ縦板2に固定するために設けた既存クランプ、12は油圧ホース7,8を縦板2に固定するために設けた既存クランプである。
【0008】
14はオプションとして追加する例えばブレーカや破砕機等の機器に作動油を供給するための油圧ホースであり、この油圧ホース14は、ブレーカの場合には圧油を供給する圧力室に接続され、鋏状の破砕機の場合にはこの油圧ホース14は破砕機を閉じる場合に作動油を供給する圧力室に接続される。なお、オプションとして追加される油圧ホースとして、ブレーカの場合には油圧ホース14以外に、戻り回路と使用され、破砕機の場合には破砕機を開く場合に作動油を供給する油圧ホースがあるが、その油圧ホースは旋回フレーム1上の他の部分に配置されるため、図示されない。
【0009】
15,16は追加油圧ホース14を固定するためにそれぞれ既存クランプ10,11に固定して取付けた追加クランプである。図12に示すように、これらの追加クランプ15,16は、それぞれ既存クランプ10,11に重ねる。そしてこれらの既存クランプ10,11と、追加クランプ15,16および縦板2に設けたボルト挿通孔に挿通させる共締め用ボルト18,18を、縦板3の裏面に溶接したナット19,19に螺合し締結することにより、追加クランプ15,16が取付けられる。
【0010】
図13は追加クランプの取付け構造の他の従来例を示す平面図、図14はそのJ矢視図、図15はその追加クランプの取付け構造を示す平面図である。この図の従来例は、既存クランプ10,11の縦板2への共締め用ボルト18を利用して共締めにより板状のブラケット22を取付け、各ブラケット22にそれぞれ追加油圧ホース14を拘束するための追加クランプ24,25を取付けたものである。26はこれらの追加クランプ24,25の締結用ボルト、27はこれらのボルト26を螺合するナットである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−73393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、追加する油圧ホースをクランプで拘束せず、金属製のプロテクタで油圧ホースを覆って保護する従来例の場合には、金属製プロテクタでのみ保護された油圧ホースは、機体の振動あるいは油圧脈動による油圧ホースの揺動により、プロテクタが損傷したり、プロテクタが周囲の部品を損傷させたり、保護すべき油圧ホース自体も損傷させるおそれがあるという不具合があった。
【0013】
また、図10〜図12に示す追加クランプ15,16の取付け構造を採用しようとしても、旋回モータ3aと縦板2との間の狭いスペースに既存クランプ15,16に重ねて取付けなければならず、狭いスペースでは採用が困難となる。
【0014】
また、図13〜図15に示す追加クランプ24,25をブラケット22を介して既存クランプ10,11に片持ち式で取付ける構造においては、機体の振動あるいは油圧脈動に伴う油圧ホースの揺動により、ブラケット22を既存クランプ10,11に共締めしている共締め用ボルト18に過大な力が作用してこのボルト18が破損しやすいという問題点があった。
【0015】
本発明は、上記問題点に鑑み、作業機において、比較的狭隘なスペースに油圧ホースを配置、拘束することが可能であり、また、油圧ホースの揺動によって追加クランプ取付け用ボルトへの過大な力の作用が回避され、もって長期にわたり追加クランプの取付け部の破損が回避できる油圧ホース拘束構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1の作業機の油圧ホース拘束構造は、
既存の油圧ホースを拘束する複数の既存クランプに、板状のブラケットを、前記既存クランプと共に作業機のクランプ取付け部に締結するボルトによって共締めして橋渡し状に取付け、
追加の油圧ホースを拘束する追加クランプを、前記ブラケットに、前記既存クランプと異なる位置に取付けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、追加クランプを取付けるブラケットが、複数の既存クランプにボルトの共締めにより橋渡し状に取付けられるため、従来のようにブラケットを片持ち式に既存クランプに取付ける場合に比較し、機体の振動あるいは油圧脈動に伴う油圧ホースの揺動により生じる共締め用ボルトへの応力が複数の既存クランプを取付ける共締め用ボルトに分散するため、共締め用ボルトの負担が軽減され、共締め用ボルトの破損が防止される。
【0018】
また、複数の既存クランプに共締め用ボルトによりブラケットを取付け、このブラケットに追加クランプを取付けた構造であり、共締め用ボルトへの負担が小さくなるため、追加クランプを既存クランプの位置から離す距離を大きくすることが可能となり、取付け構造のバリエーションが拡大でき、複雑なスペースに適合したブラケットの構造を実現したり、ブラケットに対する追加クランプの取付け位置を設定することができ、実状に適した油圧ホースの拘束構造が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の油圧ホースの拘束構造を適用する作業機の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の油圧ホースの拘束構造を適用する部位の一例を示す平面図である。
【図3】図2のE矢視図である。
【図4】本発明の油圧ホースの拘束構造の一実施の形態を示す平面図である。
【図5】図4のF矢視図である。
【図6】図5のG−G断面図である。
【図7】本実施の形態の追加クランプの取付け構造を示す図5のH矢視図である。
【図8】本実施の形態の追加クランプの取付け構造を示す平面図である。
【図9】(A)は本実施の形態の追加クランプを示す正面図、(B)はその側面図、(C)はその平面図、(D),(E)はこの追加クランプをそれぞれ裏面側、表面側より見た斜視図である。
【図10】油圧ホースの追加クランプによる拘束構造の従来例を示す平面図である。
【図11】図10のI矢視図である。
【図12】図10、図11に示した従来の追加クランプの取付け構造を示す平面図である。
【図13】油圧ホースの追加クランプによる拘束構造の他の従来例を示す平面図である。
【図14】図12のJ矢視図である。
【図15】図13、図14に示した従来の追加クランプの取付け構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は本発明の油圧ホースの拘束構造を適用する作業機の一例である油圧ショベルを示す斜視図である。図1において、30は下部走行体であり、この下部走行体30上に旋回装置3を介して旋回フレーム1が設置される。旋回フレーム1には原動機とその原動機により駆動される油圧ポンプを含むパワーユニット31や前記コントロール弁組合せ体4(図2参照)や運転室32等が搭載される。
【0021】
また、旋回フレーム1には前記左右の縦板2(図2に一方の縦板2のみを示す。)間にブームフートを位置させてブームシリンダ33により俯仰可能にブーム34が取付けられ、ブーム34の先端にアームシリンダ35により回動可能にアーム36が取付けられ、アーム36の先端にバケットシリンダ37により回動可能にバケット38が取付けられる。この油圧ショベルは、バケット38の代わりに油圧ポンプからの圧油によりチゼルを振動させるブレーカや、鋏状の破砕機等の他の作業具を取付けて解体や破砕作業その他作業具の機能に応じた作業に用いることができ、その場合に、オプションとして前記油圧ホース14を追加して使用する。
【0022】
図2はこの油圧ショベルにおいて、油圧ホース14を設ける前の状態を示す平面図、図3はそのE矢視図である。図2、図3において、図10ないし図15と同じ符号は同じ部品、部分を示すため、重複する説明を省略する。
【0023】
図4はオプション機器に作動油を供給する油圧ホース14を設けた状態を示す平面図、図5は図4のF矢視図、図6は油圧ホース14を取付けるためのクランプの取付け構造を示す図5のG−G断面図である。図2、図4、図6に示すように旋回フレーム1上に設けた縦板2と旋回モータ3aとの間のスペースは狭く、このスペースに、追加クランプ40,41を使用して油圧ホース14を配置、拘束する。図5において、42はオプションとして追加されるアクチュエータ(図示せず)に接続される油圧配管であり、この油圧配管42は前記縦板2にクランプ43により拘束され、油圧ホース14と油圧配管41とは継手44により接続される。
【0024】
図7は図6における追加クランプ40,41の取付け構造を示す図5のH矢視図、図8はクランプの取付け構造を示す平面図である。図7、図8に示すように、追加クランプ40,41は、複数の既存クランプ10,11に橋渡し状に取付ける板状のブラケット46を介して既存クランプ10,11に取付ける。
【0025】
図9はこのクランプの取付けに用いるブラケット46を示す図である。このブラケット46は、既存クランプ10,11に共締めにより取付けるための取付け孔46a,46bを有する。また、このブラケット46の一端側には追加クランプ40を取付けるための取付け孔46cを穿設するとともに、取付け孔46cを取付けた部分の裏面には追加クランプ40を取付けるためのナット46dを溶接する。また、ブラケット46の他端側には、その表面に、追加クランプ41を取付けるためのねじ穴46eを有するシートスクリュー46fを溶接する。
【0026】
図8に示すように、既存クランプ10はそれぞれ油圧ホース6を挟持する2つのピース10a,10bからなり、各ピースにはそれぞれボルト48を挿通するボルト挿通孔50を有する。既存クランプ11も同様に、それぞれ油圧ホース6を挟持する2つのピース11a,11bからなり、各ピースにはそれぞれボルト49を挿通するボルト挿通孔51を有する。図7に示すように、各ピース10a,10b,11a,11bは油圧ホース6を挟持するための半円形の凹部を有する。また、図8に示すように、縦板2にはボルト48,49を挿通するボルト挿通孔52,53を設けると共に、これらのボルト挿通孔52,53を設けた縦板2の裏面にそれぞれボルト48,49を螺合するナット54,55を溶接する。
【0027】
追加クランプ40は、それぞれ油圧ホース14を挟持する2つのピース40a,40bからなり、各ピースにはボルト57を挿通するボルト挿通孔59を有する。追加クランプ41も同様に、それぞれ油圧ホース14を挟持する2つのピース41a,41bからなり、各ピースにはボルト58を挿通するボルト挿通孔60を有する。これらの追加クランプ40,41のピース40a,40b,41a,41bも油圧ホース14を挟持するための半円形の凹部を有する。
【0028】
図8に示すように、ブラケット46の既存クランプ10,11への取付けは、既存クランプ10,11にブラケット46を重ね、共締め用ボルト48,49を既存クランプ10,11のボルト挿通孔50,51および縦板2のボルト挿通孔52,53に挿通してナット54,55に螺合し締結することにより行なう。
【0029】
また、追加クランプ40,41のブラケット46への取付けは、追加クランプ40,41をブラケット46に重ね、ボルト57,58を追加クランプ40,41のボルト挿通孔59,60に挿通してナット46dまたはシートスクリュー4fのねじ孔46eに螺合して締結することにより行なう。
【0030】
このように、本実施の形態においては、追加クランプ40,41を取付けるブラケット46が、複数の既存クランプ10,11にボルト48,49の共締めにより取付けられるため、ブラケットを片持ち式に既存クランプに取付ける従来構造に比較し、機体の振動あるいは油圧脈動に伴う油圧ホースの揺動により生じる共締め用ボルト48,49への応力が複数の既存クランプ10,11を取付けると共締め用ボルト48,49に分散するため、共締め用ボルト48,49の負担が軽減され、共締め用ボルト48,49の破損が防止される。
【0031】
また、図8に示すように、追加クランプ40,41を既存クランプ10,11の幅W(既存クランプ10,11により把持される油圧ホースの軸心方向の幅)より大きな距離Lで示すように離して取付けることが可能となる。このため、旋回モータ3aと縦板2との間のように複雑なスペースに適合させることができ、ブラケット46に対する追加クランプ40,41の取付け位置の自由度が上がり、実状に適した油圧ホースの拘束構造が実現できる。また、既存クランプ10,11から離れた位置にブラケットの曲成部を形成する等のスペースの構造に好適な構造を実現することも可能となる。
【0032】
本発明は、旋回モータ3aと縦板2との間のスペース以外の他の部位に追加クランプを設ける場合にも適用することができる。また本発明は、油圧ショベル以外の他の油圧式作業機にも適用することが可能である。また、本発明を実施する場合、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変更、付加が可能である。
【符号の説明】
【0033】
1:旋回フレーム、2:縦板、3:旋回装置、3a:旋回モータ、4:コントロール弁組合せ体、10,11:既存クランプ、14:追加油圧ホース、30:下部走行体、31:パワーユニット、32:運転室、33:ブームシリンダ、34:ブーム、35:アームシリンダ、36:アーム、37:バケットシリンダ、38:バケット、40,41:追加クランプ、46:ブラケット、46a,46b:取付け孔、46d:ナット、46f:シートスクリュー、48,49:共締め用ボルト、54,55:ナット、58,59:ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存の油圧ホースを拘束する複数の既存クランプに、板状のブラケットを、前記既存クランプと共に作業機のクランプ取付け部に締結するボルトによって共締めして橋渡し状に取付け、
追加の油圧ホースを拘束する追加クランプを、前記ブラケットに、前記既存クランプと異なる位置に取付けたことを特徴とする作業機の油圧ホース拘束構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−96051(P2013−96051A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236351(P2011−236351)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】