説明

作業機械及びピン型ロードセル

【課題】荷重の作用方向が変化しても、高精度な測定を安価に行うことができるピン型ロードセルを提供すること。
【解決手段】ピン4Aと、ピンの軸方向に設けられたピン穴4Bと、ピン穴におけるピンの周方向に等間隔で配置され、それぞれピンの径方向外側にへこんだ4つの凹部15と、4つの凹部のうち1つの凹部に取り付けられた第1ひずみセンサ8と、第1ひずみセンサが取り付けられた凹部に対してピンの周方向において隣接する凹部に取り付けられた第2ひずみセンサ9と、4つの凹部のうちピンの周方向において隣り合う2つの凹部を接続する合計4つの接続部16とを備え、4つの接続部におけるピンの厚みを、4つの凹部におけるピンの厚みよりも厚くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピンに作用する荷重を検出するピン型ロードセルと、そのピン型ロードセルを備える作業機械に関する。
【背景技術】
【0002】
機械を構成する各部品(機械部品)が受ける荷重を検出する技術の1つとして、各部品を結合する結合ピン自体を荷重センサとしたピン型ロードセルが知られている。特に油圧ショベル等の作業機械の分野では、作業機械の転倒防止や作業量の把握を目的として、各部品が受ける荷重を高精度に検出することが望まれている。例えば、油圧ショベルでは、バケットとアームを連結するリンク機構部の結合ピン(ジョイントピン)をピン型ロードセルとしたものがある(特開平10−038713号公報、実開平03−056182号公報等参照)。
【0003】
ピン型ロードセルには、ピンの内部に設けた検出ブロックにピンのひずみ測定用センサ(ひずみセンサ)を取り付けたタイプのもの(特開昭61−145427号公報等参照)や、ピンの軸方向に設けたピン穴の内壁にひずみセンサを直接取り付けたタイプのものがある。油圧ショベル等の作業機械に組み込んで使用する場合、前者のタイプのものは、検出ブロックの構造が複雑になることが多く、製造コストが高くなる傾向があるため現実的ではない。これに対して後者のタイプのものは、前者と比較して構造が単純であり、製造コストが低廉なため作業機械での使用に適している。また、後者のピン型ロードセルは、荷重負荷時に生じる応力がピンの破断強度を超えないように設計される一方で、測定感度を向上させるためにピン穴の径をできるだけ大きく確保することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−038713号公報
【特許文献2】実開平03−056182号公報
【特許文献3】特開昭61−145427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の油圧ショベルの例では、作用する荷重の方向が一定であるクレーン等と異なり、アームに対するバケットの回動状況(アームとバケットの結合角度)に応じてピン型ロードセルに作用する荷重の方向が変化してしまう。
【0006】
このように種々の方向から作用する荷重を測定する技術としては、ピンの同一周上に位置しかつ互いに直行する2面に取り付けたひずみセンサの検出値を利用するものがある。このようにひずみセンサを設けると、2つのひずみセンサの出力から2軸方向の荷重を分離計測することができるので、作用する方向が変化しても荷重を検出することが原理的に可能である。しかしながら、このように構成したピン型ロードセルを利用して荷重を測定した場合でも、実際に得られる測定結果が荷重の作用方向によって異なる場合があることを発明者らは知見した。
【0007】
本発明の目的は、荷重の作用方向が変化しても、高精度な測定を安価に行うことができるピン型ロードセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、種々の方向から荷重が作用するピンと、前記ピンの軸方向に設けられたピン穴と、前記ピン穴における前記ピンの周方向に等間隔で配置され、それぞれ前記ピンの径方向外側にへこんだ4つの凹部と、前記4つの凹部のうち1つの凹部に取り付けられた第1ひずみセンサと、前記第1ひずみセンサが取り付けられた凹部に対して前記ピンの周方向において隣接する凹部に取り付けられた第2ひずみセンサと、前記4つの凹部のうち前記ピンの周方向において隣り合う2つの凹部を接続する合計4つの接続部とを備え、前記4つの接続部における前記ピンの厚みは、それぞれ、前記4つの凹部における前記ピンの厚みよりも厚いものとする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、種々の方向から荷重の作用したときにおけるピンのつぶれ変形によるひずみの偏差を小さくできるので、荷重の作用方向が変化しても高精度な測定を安価に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1の実施の形態である作業機械の側面図。
【図2】図1の作業機械におけるアームとバケットの連結部付近の斜視図。
【図3】図1の作業機械におけるアームとバケットの連結部を図1中のB方向からみた矢視図。
【図4】本発明の第1の実施の形態である作業機械におけるピン型ロードセルの縦断面図。
【図5】図4中のA−A’断面図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る4つの凹部の配置に関する説明図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るひずみセンサの他の配置例を示す図。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係るひずみセンサの固定例を示す図。
【図9】本発明の実施の形態に対する比較例であるピン型ロードセルの横断面図。
【図10】比較例のピン型ロードセルに対して異なる方向から荷重が作用したときにおける当該ピン型ロードセルの横断面図。
【図11】比較例のピン型ロードセルに対して荷重作用方向を変化させた場合の測定誤差発生状況を示す図。
【図12】本発明の第1の実施のピン型ロードセルに対して荷重作用方向を変化させた場合の測定誤差発生状況を示す図。
【図13】本発明の第1の実施におけるピン型ロードセルの第1変形例の横断面図。
【図14】本発明の第1の実施におけるピン型ロードセルの第2変形例の横断面図。
【図15】本発明の第1の実施の形態係るひずみセンサのさらに他の配置例を示す図。
【図16】本発明の第2の実施の形態である作業機械に係る機体バランス検知システムの概略図。
【図17】半導体ひずみセンサの概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0012】
図1は本発明の第1の実施の形態である作業機械の側面図であり、図2は図1の作業機械におけるアームとバケットの連結部付近の斜視図であり、図3は図1の作業機械におけるアームとバケットの連結部を図1中のB方向からみた矢視図である。
【0013】
これらの図に示す作業機械200は、地面と接して走行する下部走行体201と、下部走行体201の上部に取り付けられた上部作業体202を備えている。なお、本実施の形態の作業機械200は油圧ショベルであり、その下部走行体201と上部作業体202は連結部203を介して旋回可能に連結されている。
【0014】
下部走行体201は、いわゆるクローラ式のものであり、地面に接する履体7と、履体7を駆動する駆動輪(図示せず)と、履体7によって回転される従動輪(図示せず)と、これらを支持する構造物等で構成されている。なお、下部走行体201は、複数の車輪を備えたいわゆるホイール式で構成しても勿論良い。
【0015】
上部作業体202は、運転台6Aと、釣合重り(カウンターウエイト)6Bと、作業装置6C等を備えている。本実施の形態の作業装置6Cは、上部作業体202の本体に対して回動可能に取り付けられたブーム1と、ブーム1の先端に回動可能に取り付けられたアーム2Aと、アーム2Aの先端に回動可能に取り付けられたバケット3を備えている。バケット3は、リンク機構部204を介してアーム2Aと連結されている。本実施の形態におけるリンク機構部204は、ピン(結合ピン)でリンク同士を連結しており、バケット3の取付けに用いられる結合ピンとしてピン型ロードセル4,5を利用している。また、リンク機構部204とアーム2Aにはバケットシリンダ2Bが架け渡されており、バケットシリンダ2Bを伸縮させるとピン型ロードセル4を中心にバケット3が回動される。このようにバケット3が回動されると、ピン型ロードセル4,5に作用する荷重の方向が変化する。なお、本実施の形態の作業機械(油圧ショベル)200のアタッチメントとしては、掘削作業を行うためのバケット3が取り付けられているが、リフティングマグネットやグラップル等の運搬用のものや、圧砕機やカッター等の破砕用のもの等、様々なアタッチメントを取り付けた場合も同様に本発明に係るピン型ロードセルを利用できる。
【0016】
ピン型ロードセル4は、図3に示すように、アーム2Aとバケット3を貫通してバケット3とアーム2Aを連結している。このとき、バケット3からピン型ロードセル4に対しては、バケット3の自重とバケット3内の掘削物(土砂等)の重量による荷重Fが図3中の下向きに加わっている。一方、アーム2Aからピン型ロードセル4に対しては、荷重Fと釣り合う上向きの力Fが図3中の上向きに加わっている。これにより、ピン型ロードセル4にはバケット3及びアーム2Aによってせん断力が生じる。すなわち、このせん断力によってピン型ロードセル4に生じるひずみを測定すれば、荷重Fを算出することができる。図3におけるひずみセンサ8,9,10,11,8A,9A,10A,11A((以下において「ひずみセンサ8〜11A」と略すことがある))は、ピン型ロードセル4に生じるひずみを検出するものである。このひずみセンサ8〜11Aは、リンク機構部204のジョイントであるピン4Aを介して連結される2つの構造物(すなわち、アームとバケット)の間又はその近傍に位置するように、ピン4Aに取り付けられている。
【0017】
図4は本発明の第1の実施の形態である作業機械におけるピン型ロードセルの縦断面図(ピン4Aの軸方向における断面図)であり、図5は図4中のA−A’断面図(ピン4Aの径方向における断面図)である。また、図6は本発明の第1の実施の形態に係る4つの凹部15の配置に関する説明図であり、図7は本発明の第1の実施の形態に係るひずみセンサの他の配置例を示す図である。なお、先の図と同じ部分には同じ符号を付して説明は省略する(後の図も同様とする)。
【0018】
これらの図に示すピン型ロードセル4は、ピン4Aと、ピン4Aの軸方向に設けられたピン穴4Bと、ピン穴4Bの壁面に設けられた4つの凹部15A,15B,15C,15D(以下において「凹部15」と略すことがある)と、ピン4Aの周方向において隣り合う2つの凹部15を接続する合計4つの接続部16A,16B,16C,16D(以下において「接続部16」と略すことがある)と、4つの凹部15に取り付けられたひずみセンサ8〜11Aと、ピン4Aの外周上においてピン4Aの周方向に形成されたピン溝12,13と、ピン穴4Bに充填された樹脂14を備えている。
【0019】
ピン4Aは、例えば構造用炭素鋼(S45C)を用いて製造され、略円柱状の外形を有している。また、ピン4Aには、ピン内部にひずみセンサ8〜11Aが設置される箇所が短径となった円柱状のピン溝12、13が設けられている。
【0020】
ピン穴4Bはピン4Aの内部に設けられた貫通孔であり、ピン穴4Bの両端は開口部となってピン4Aの両側面に表出している。本実施の形態のピン穴4Bは、円柱状に形成されており、その中心軸はピン4Aの中心軸100と合致している。なお、本実施の形態ではピン穴4Bとして貫通孔の例を挙げたが、ピン4Aの両側からピン中央付近まで穴を穿ち、貫通しない2つの穴をピン穴4Bとしても良い。
【0021】
4つの凹部15は、図5に示すように、ピン穴4Bにおけるピン4Aの周方向に等間隔で配置されている。すなわち、凹部15A,15B,15C,15Dは、中心軸100を中心にしてピン4Aの周方向に90゜の間隔で配置されている。また、荷重が作用する際の対称性を保持するために、4つの凹部15はそれぞれ同一の形状で形成することが好ましい。
【0022】
本実施の形態における4つの凹部15は、図5の断面(ピン4Aの径方向における断面)において、それぞれ円弧状に形成されている。また、本実施の形態における4つの凹部15は、図6に示すように、ピン4Aの径方向における断面において、各円弧の中心点が正方形4Cの頂点にそれぞれ位置するように配置されている。さらに、本実施の形態における4つの凹部15は、半径が同一の円弧で形成されており、正方形4Cの中心点はピン4Aの中心(中心軸100)と一致している。このように凹部15を同一の半径の円弧で形成すると、ドリル等の一般的な工作機械で穴を開けることができるので、ピン穴4Bを容易に加工することができる。
【0023】
接続部16A,16B,16C,16Dは、4つの凹部15のうちピン4Aの周方向において隣り合う2つの凹部15を接続する部分であり、ピン4Aの周方向において合計4箇所に設けられている。また、各接続部16におけるピン4Aの厚み(ピン穴4Bの壁面からピン4Aの表面までの距離)は、それぞれ、4つの凹部15におけるピン4Aの厚みよりも厚くなっている。すなわち、図5に示すように、ひずみセンサ8〜11が取り付けられた面を通過する円Cを設定すると、各接続部16は円Cよりもピン4Aの中心側に位置している。このように接続部16におけるピン4Aの厚みを厚くすると、各接続部16に荷重が作用したときにおけるピン4Aの断面形状のつぶれ変形の発生を抑制することができる。なお、本稿における「ピン4Aの断面形状のつぶれ変形」とは、後述する図9に示すように、ピン4Aに荷重が作用したとき、ピン4Aの径方向における断面において、当該断面の形状がつぶれるように変形することを示すものとする。
【0024】
また、本実施の形態における接続部16は、ピン穴4Bにおいて凸状の部分となっている。さらに詳細には、図5に示すようにひずみセンサ9の設置位置を0゜として角度を設定すると、接続部16Aは315゜の位置に設置されており、接続部16Bは45゜の位置に設置されており、接続部16Cは135゜の位置に設置されており、接続部16Dは225゜の位置に設置されている。
【0025】
ひずみセンサ8は凹部15Aの底部に取り付けられており、ひずみセンサ9は凹部15Bの底部に取り付けられており、ひずみセンサ10は凹部15Cの底部に取り付けられており、ひずみセンサ11は凹部15Dの底部に取り付けられている。さらに、これらのひずみセンサ8,9,10,11は、ピン穴4Bの壁面における同一周上に位置している。すなわち、ひずみセンサ8,9,10,11はA−A’断面上に位置するように配置されている。
【0026】
ひずみセンサ8A,9A,10A,11Aは、図3に示すように、それぞれ、ひずみセンサ8,9,10,11からピン4Aの軸方向に間隔を介して配置されている。すなわち、ひずみセンサ8Aは凹部15Aに、ひずみセンサ9Aは凹部15Bに、ひずみセンサ10Aは凹部15Cに、ひずみセンサ11Aは凹部15Dに取り付けられている。なお、ピン4Aのせん断ひずみをできるだけ正確に検出する観点からは、各ひずみセンサ8〜11Aは、図8に示したセンサ9のようにピン4Aの軸方向(長手方向)に対して45゜傾けて固定することが好ましく、エポキシ系などの接着剤を用いてピン穴4Bの壁面に直接固定することが好ましい。また、ひずみセンサ8〜11Aからは電圧入出力用の配線(図示せず)が延びており、当該配線はピン型ロードセル4の外部に引き出されている。
【0027】
なお、本実施の形態では、図5に示すように、同一周上に4つのひずみセンサ8,9,10,11を設けた。しかし、図7に示すピン型ロードセル43のように、ピン4Aの周方向において隣接する2つの凹部15を4つの凹部15の中から任意に選択し、その選択した2つの凹部15に対して1つずつひずみセンサを取り付けても良い。図7に示した場合は、4つの凹部15のうちの1つである凹部15Aにひずみセンサ(第1ひずみセンサ)8を取り付け、その第1ひずみセンサが取り付けられた凹部15Aに対してピン4Aの周方向において隣接する凹部15Bにひずみセンサ(第2ひずみセンサ)9を取り付けた場合である。このように少なくとも2つのひずみセンサがあれば、荷重方向が変化した場合でも荷重を検出することができる。
【0028】
なお、先述のように、第1ひずみセンサ8の取付部とピン4Aにおける同一周上に位置する部分であって、第1ひずみセンサ8の取付部とピンの中心100を介して対向する部分(すなわち、凹部15Cの底部)にひずみセンサ(第3ひずみセンサ)10を取り付け、さらに、第2ひずみセンサ9の取付部とピン4Aにおける同一周上に位置する部分であって、第2ひずみセンサ9の取付部とピンの中心100を介して対向する部分(すなわち、凹部15Dの底部)にひずみセンサ(第4ひずみセンサ)11を取り付けて同一周上に4つのひずみセンサを設けると、ピン4Aに非対称な荷重が作用した場合にもその平均をとることができるので、測定精度を向上できる点がメリットとなる。
【0029】
ところで、ひずみセンサ8〜11Aとしては、一般的に広く使用されている金属抵抗式ひずみゲージや、半導体ひずみセンサ等が適用できる。後に図17を用いて詳述するが、半導体ひずみセンサは、ひずみ感応抵抗体として単結晶シリコン基板に不純物を導入した不純物拡散抵抗を用いたものである。なお、ピン型ロードセルの測定感度を向上させることに制限がある場合には、ひずみゲージと比較して感度の高い半導体ひずみセンサを利用することが好ましい。また、半導体ひずみセンサは、低ドリフトなので検出値の誤差が小さく、さらに、増幅器(アンプ)を内蔵すると小型化できるという利点を有する。ここで、低ドリフトとは、経時的な出力変動が少ないとともに温度変化に対する出力変動が少ないこと、すなわち、経時ドリフトおよび温度ドリフトが低いことを示す。
【0030】
ピン溝12,13は、それぞれ、ピン4Aの周方向に沿ってピン4Aの外周面上に設けられている。ピン溝12はその幅内にひずみセンサ8,9,10,11が収まるように形成されており、ピン溝13はその幅内にひずみセンサ8A,9A,10A,11Aが収まるように形成されている。このようにピン溝12,13にセンサ8〜11Aを収めると、ピン型ロードセル4に対して力を加える点(荷重点)の位置を決定することが容易となる。
【0031】
樹脂14は、ピン穴4Bの内部に充填されており、ピン穴4Bを封している。樹脂14としては、耐候性を確保する観点から、シリコーン樹脂や、フッ素樹脂などを利用することが好ましい。なお、本実施の形態では、ピン穴4B内部に樹脂14を充填した場合について説明したが、樹脂14を充填することなくピン穴4Bを空洞のまま利用しても良い。
【0032】
次に、従来のピン型ロードセルにおける課題に対して発明者らが得た知見を示しつつ、本実施の形態の作用及び効果について説明する。
【0033】
先述のように、種々の方向から作用する荷重をピン型ロードセルで測定する技術としては、ピンの同一周上に位置しかつ互いに直交する2面に取り付けたひずみセンサの検出値を利用するものがある。しかしながら、発明者らは、この技術を利用しても荷重の作用方向が変化すると測定結果が異なることがあることを発見した。そして、この課題に対し、発明者らは測定結果に誤差が生じる原因が下記のメカニズムにあることを発見した。ここでは、図9から図11を用いて、作用方向が変化する荷重を検知するときの測定誤差発生メカニズムについて説明する。
【0034】
図9は本発明の実施の形態に対する比較例であるピン型ロードセルの横断面図(ピン4Aの径方向における断面図)である。この図に示すピン型ロードセル54は、第1の実施の形態のピン型ロードセル4と比較してピン穴の断面形状のみが異なっており、円形状のピン穴4Dを備えている。なお、図9では図5と同様にひずみセンサ9の設置位置を0゜として角度を設定しており、以下においては当該角度に基づいて荷重の作用方向を規定することがある。
【0035】
図10は、比較例であるピン型ロードセル54に対して、異なる方向から荷重が作用したときにおけるピン型ロードセル54の横断面である。図10(a)は、ピン型ロードセル54に対して、ひずみセンサ9の取付部(図9における0゜の位置)から中心軸100に向かう方向に荷重が作用した場合の横断面図であり、図10(b)は、ひずみセンサ9の取付部とひずみセンサ10の取付部の間(図9における45゜の位置)から中心軸100に向かう方向に荷重が作用した場合の横断面図である。図10に示すようにピン型ロードセル54に荷重が負荷されると、ピン4Aの断面形状は荷重の作用方向に応じてつぶれるように変形(つぶれ変形)する。
【0036】
ところで、本来、ピン型ロードセルに取り付けたひずみセンサ8〜11Aで検出したいのは、ピンのせん断変形によるひずみ(ピンの長手方向(軸方向)に対して45゜方向に発生するひずみ)である。しかし、ピン型ロードセル54では、このせん断変形によるひずみに加えて、ピンの断面形状のつぶれ変形によるひずみ(以下において「つぶれ変形によるひずみ」と略すことがある)も発生してしまう。発明者らは、このつぶれ変形によるひずみがピン型ロードセル54の測定誤差の要因であることを発見した。すなわち、つぶれ変形によるひずみが、荷重の作用方向に関わらず常に一定の値で発生するのであれば問題ないが、実際にはひずみセンサの取付部に対する荷重の作用方向(荷重作用角度)によってつぶれ変形によるひずみが変化するため、測定誤差が発生するのである。そのため、荷重の作用方向が変化する作業機械等に搭載した場合に荷重を正確に測定することができなくなるのである。そこで、発明者らは、ピン型ロードセル54に対して、荷重作用方向を変化させた場合の測定誤差の発生状況を調査した。
【0037】
図11は、比較例であるピン型ロードセル54に対して、荷重作用方向を変化させた場合の測定誤差発生状況を示す図である。この図では、荷重作用方向を図9で設定した角度に基づいて規定しており、ひずみセンサ9の取付部から中心軸100に向かって荷重が作用する場合を荷重作用角度0゜とした。
【0038】
図11に示すように、荷重作用角度を0゜から360゜まで変化させた場合、測定誤差は荷重作用角度に応じて変化し、荷重作用角度が45゜,135゜,225゜,315゜のときに特に大きくなることが分かった。これらの角度は、ピン4Aの周方向における各ひずみセンサ8,9,10,11の取付部の中間部分に位置している。さらに、発明者らは、荷重作用角度が45゜,135゜,225゜,315゜のときに誤差が大きくなるのは、これらの方向から荷重が作用した場合のつぶれ変形によるひずみが特に大きくなるためであることを知見した。そこで、発明者らは、つぶれ変形の影響を受けやすい45゜,135゜,225゜,315゜のときにおけるピン4A自体のつぶれ変形の発生を抑制することにより、その他の方向から荷重が作用したときにおけるつぶれ変形によるひずみ間に生じる偏差を小さくすることを考えた。
【0039】
本実施の形態におけるピン型ロードセル4は、上記の技術的思想に基づいて形成されたものであって、4つの凹部15と、ピン4Aの周方向において隣り合う2つの凹部15を接続する4つの接続部16と、ピン4Aの周方向において隣り合う2つの凹部15に取り付けられたひずみセンサ8,9を備えており、4つの接続部16におけるピン4Aの厚みは4つの凹部15におけるピン4Aの厚みよりも厚くなっている。すなわち、本実施の形態におけるピン型ロードセル4には、上記の45゜,135゜,225゜,315゜方向におけるピン4Aの厚みが厚くなるように、接続部16A,16B,16C,16Dが設けられている。
【0040】
このようにピン型ロードセル4を設けると、45゜,135゜,225゜,315゜方向から荷重を受けたときのつぶれ変形の発生を抑制できるので、その他の方向から荷重が作用したときにおけるつぶれ変形によるひずみ間に生じる偏差を小さくすることができる。そのため、種々の方向から荷重が作用したときに発生するつぶれ変形によるひずみの差を低減できるので、つぶれ変形によるひずみが荷重の作用方向に関わらず概ね一定であるとみなすことができる。これにより、つぶれ変形によるひずみを除外して、せん断ひずみのみに基づいて荷重を算出することができるので、種々の方向から作用する荷重の測定誤差を小さくすることができる。
【0041】
図12は、本実施の形態のピン型ロードセル4に対して、荷重作用方向を変化させた場合の測定誤差発生状況を示す図である。この図に示すように、本実施の形態のピン型ロードセル4によれば、45゜,135゜,225゜,315゜方向から荷重が作用した場合にも測定誤差の発生を抑制できることが分かる。したがって、本実施の形態のピン型ロードセル4によれば,油圧ショベル200のバケット3の角度により荷重方向が変化する場合等でも、ピン型ロードセル4に負荷される荷重を正確かつ安価に測定することができる。また、本実施の形態のようにピン穴4Bの壁面に直接センサ8〜11Aを取り付けると、検出ブロック等のように複雑な構造をとる必要がないので、製造コストを低廉に抑えることができるというメリットがある。
【0042】
なお、本実施の形態における4つの接続部16におけるピン4Aの厚みは、ピン4Aに種々の方向から荷重が作用したときにおけるピン4Aの断面形状のつぶれ変形量が一定に近づくように設定することが好ましい。このように接続部16を設けると、種々の方向から荷重が作用したときに発生するつぶれ変形によるひずみを一定に近づけることができるので、荷重の測定精度を向上させることができるからである。例えば、本実施の形態のように円弧状の凹部15を組み合わせて接続部16を形成した場合に、45゜,135゜,225゜,315゜におけるつぶれ変形量が他の方向と比較して抑制され過ぎる場合には、次のように調節すると良い。
【0043】
図13は本実施の形態におけるピン型ロードセルの第1変形例の横断面図である。この図に示すピン型ロードセル41における接続部16A,16B,16C,16Dは、それぞれ、切り欠き部17A,17B,17C,17D(以下において「切り欠き部17」と略すことがある)を備えている点で、先に説明したピン型ロードセル4と異なる。
【0044】
切り欠き部17は、ピン型ロードセル4における凸状の接続部16において中心軸100側に位置する凸部を削って形成した部分である。凸部を削る程度は、荷重の作用方向を変更したときのピン4Aの断面形状のつぶれ変形量が一定に近づくように調節されている。このように接続部16に切り欠き部17を設けると、種々の方向から荷重が作用したときに発生するつぶれ変形によるひずみを一定に近づけることができるので、荷重の測定精度を向上させることができる。なお、図13に示した場合と逆に、45゜,135゜,225゜,315゜におけるつぶれ変形量が他の方向と比較して大きい場合には、ピン型ロードセル4の接続部16におけるピン4Aの厚さをさらに厚くすることでつぶれ変形量を一定に調節すれば良いことはいうまでもない。
【0045】
図14は本実施の形態におけるピン型ロードセルの第2変形例の横断面図である。本変形例は、断面形状が多角形となるようにピン穴4Bを形成している点に特徴がある。
【0046】
この図に示すピン型ロードセル42は、2つの平面18A,18Bから成る第1対向面18と、2つの平面19A,19Bから成る第2対向面19と、第1対向面18及び第2対向面19を形成する合計4つの面(平面18A,18B,19A,19B)のうちピン4Aの周方向において隣り合う2つの面を接続する合計4つの接続面16A,16B,16C,16Dを備えている。
【0047】
第1対向面18を構成する2つの平面18A,18Bは、ピン4Aの中心100を挟んで対向して配置された互いに平行な面であり、ピン4Aの中心100からの距離がそれぞれ等しくなるように設置されている。また、第2対向面19を構成する2つの平面19A,19Bは、第1対向面18における2つの平面18A,18Bをピン4Aの中心100を中心に90゜回転させた面に相当する。
【0048】
平面18Aにはひずみセンサ8が取り付けられており、平面19Aにはひずみセンサ9が取り付けられており、平面18Bにはひずみセンサ10が取り付けられており、平面19Bひずみセンサ11が取り付けられている。また、ひずみセンサ8,9,10,11は、ピン4Aにおける同一周上に取り付けられている。特に図示して説明しないが、ひずみセンサ8,9,10,11からピン4Aの軸方向に間隔を介した位置には、図4の場合と同様にひずみセンサ8A,9A,10A,11Aが配置されている。
【0049】
なお、ここでは、同一周上に4つのひずみセンサ8,9,10,11を設けた場合について説明するが、図7に示した例と同様に、4つの平面18A,18B,19A,19Bの中から互いに直交する2つの平面を任意に選択し、その選択した2つの平面に対して1つずつひずみセンサ(第1ひずみセンサ、第2ひずみセンサ)を取り付けても良い。すなわち、種々の方向から作用する荷重を測定する観点からは、第1対向面18における一方の面及び第2対向面19における一方の面に、それぞれ1つずつひずみセンサを取り付ければ足りる。
【0050】
4つの接続面16A,16B,16C,16Dは、第1対向面18及び第2対向面19を形成する合計4つの面(平面18A,18B,19A,19B)よりもピン4Aの中心100側に位置している。これは、図14における4つの平面18A,18B,19A,19B及び4つの接続面16と円Cとの関係から明らかである。
【0051】
上記のようにピン型ロードセル42を形成しても、ピン穴の断面形状が円である場合と比較して、45゜,135゜,225゜,315゜方向におけるピン4Aの厚みを厚くすることができる。したがって、45゜,135゜,225゜,315゜方向から荷重を受けた場合のつぶれ変形の発生を抑制できるので、先に示したピン型ロードセル4と同様の効果を得ることができる。なお、図14では、ピン4Aの径方向におけるピン穴4Bの断面形状が八角形の場合について説明したが、各接続面16をそれぞれ2以上の面を組み合わせて形成し、ピン穴4Bの断面形状を12角形以上にしても良い。
【0052】
ところで、上記の各実施の形態では、ひずみセンサ8〜11Aをピン穴4Bの壁面(すなわち、凹部15、第1対向面18、第2対向面19)に取り付けたが、ピン4Aの外周面上に取り付けても良い。ここでは、図5に示した例におけるひずみセンサ8〜11Aをピン4Aの外周面上に取り付けた場合について説明する。
【0053】
図15は本発明の第1の実施の形態係るひずみセンサのさらに他の配置例を示す図である。この図におけるひずみセンサ8〜11は、ピン4Aの外周面上であって、各凹部15からピン4Aの径方向における外側にそれぞれ取り付けられている。すなわち、ひずみセンサ8〜11は、図5に示した例と同様の姿勢でピン溝12内に取り付けられている。なお、特に図示して説明しないが、ひずみセンサ8A〜11Aも同様にピン溝13内に取り付けられている。
【0054】
このようにひずみセンサ8〜11Aをピン4Aの外周面上に取り付けると、図5に示した例等のようにピン4Aの内部に取り付ける場合と比較してひずみセンサ8〜11Aへのアクセスが容易になるので、メンテナンス性を向上させることができる。また、ひずみセンサ8〜11Aを溶接(例えば、スポット溶接)、ボルト締め、ネジ締め等を利用して固着することができるので、接着剤で固定する場合と比較して強固に固定することができ、センサの寿命を長期化することができる。なお、溶接、ボルト締め、ネジ締め等を利用して固着する場合には、ひずみセンサ8〜11Aに溶接等の影響を与えないようにするために、ひずみセンサ8〜11Aに金属部材を取付けて、その金属部材をピン4Aと固着することが好ましい。
【0055】
ところで、図5の例等のようにピン4Aの内部にひずみセンサ8〜11Aを固定した場合には、水分の侵入を抑制することができるので、ピン4Aの外周面上に取り付ける場合と比較して耐候性を向上させることができる。また、ひずみセンサ8〜11Aを中心軸100近傍に配置することができるので、より強い曲げに対しても耐えることができる点もメリットである。
【0056】
なお、ピン4Aの外周面上にひずみセンサを取り付ける場合にも、ピン4Aにおける同一周上に少なくとも2つのひずみセンサ(例えば、ひずみセンサ8,9)を取り付ければ荷重が測定可能なことは先の場合と同様である。具体的には、図5の例のようにピン穴4Bに4つの凹部15が設けられている場合には、ピン4Aの外周面上に取り付けられたひずみセンサであって、4つの凹部15のうち任意の1つである凹部15Aからピン4Aの径方向外側に取り付けられたひずみセンサ(第1ひずみセンサ)8と、ピン4Aの外周面上に取り付けられたひずみセンサであって、先の凹部15Aに対してピン4Aの周方向において隣接する凹部15Bからピン4Aの径方向外側に取り付けられたひずみセンサ(第2ひずみセンサ)9を取り付ければ足りる。また、図14の例のようにピン穴4Bの断面形状が多角形の場合には、ピン4Aの外周面上に取り付けられたひずみセンサであって、第1対向面18における一方の面からピン4Aの径方向外側に取り付けられたひずみセンサ(第1ひずみセンサ)8と、ピン4Aの外周面上に取り付けられたひずみセンサであって、第2対向面19における一方の面からピン4Aの径方向外側に取り付けられたひずみセンサ(第2ひずみセンサ)9を取り付ければ足りる。
【0057】
次に、作業機械200に機体バランス検知システムを取り付けたものを第2の実施の形態として説明する。
図16は本発明の第2の実施の形態である作業機械に係る機体バランス検知システムの概略図である。
【0058】
この図に示す機体バランス検知システムは、ひずみセンサ8〜11Aのひずみ検出信号を受信する受信装置31と、受信装置31で受信したひずみ検出信号を演算して機体バランスを求める演算装置32と、演算装置32で転倒の危険性が大である(危険性が高い)と判断されたときに転倒回避指令を出力する転倒回避指令出力手段38を備えている。
【0059】
転倒回避指令出力手段38は、演算装置32によって演算された機体バランスを表示する機体バランス表示装置34と、演算装置32で作業機械(油圧ショベル)200が転倒する危険性が大であると判断されたときに、それをオペレータに報知する警告発生装置33と、警告発生装置33からの警告に反してオペレータが作業を継続したときに、作業機械200の動力源を停止させる指令(停止指令)や、転倒の危険性がない時点の姿勢まで作業機械200の姿勢を遡らせる指令(逆動作指令)等を出力する制御装置36と、転倒する危険性が大であると演算装置32が判断した時点から遡って一定期間(すなわち、転倒の危険が無い期間)の作業機械200の動作を記憶するメモリ部35を有している。なお、警告発生装置33としては、例えば、転倒の危険がある旨を表示装置(機体バランス表示装置34でも良い)に表示するものや、その旨の案内放送を行うものや、警告灯を点灯させるもの等がある。
【0060】
上記のように構成される機体バランス検知システムを備える作業機械において、演算装置32によって、作業機械200の機体バランスが転倒に至るものでないと判断された場合には、警告発生装置33や制御装置36に作動指令を出力することなく、機体バランス表示装置34に現在の機体バランスが表示される。これに対して、演算装置32で演算された機体バランスが転倒の危険がある領域に接近した場合には、機体バランス表示装置34に現在の機体バランスを表示するとともに、警告発生装置33によってオペレータの注意を促す。それでもオペレータが作業を継続した場合には、機体が転倒してしまう前に、制御装置36から動力源(エンジン)に対して停止指令を出力させる等して強制的に作業を中止させる。
【0061】
従来、油圧ショベル等の動作が複雑な作業機械では、ピン型ロードセルに作用する荷重の作用方向が変化するので荷重を正確に測定することが難しく、実用に耐え得る機体バランス検知システムを構築することが困難だった。これに対して、本実施の形態の作業機械は、作用方向が変化しても荷重を正確に測定できるピン型ロードセル4を備えている。このピン型ロードセル4を利用して上記のような機体バランス検知システムを構築すれば、ひずみセンサ8〜11Aのひずみ変化を検出することによって、正確な機体バランスをリアルタイムに取得することができる。したがって、本実施の形態によれば、油圧ショベル等の作業機械の作業中に荷重の作用方向が変化した場合にも、その作業中の機体バランスを直ちに知ることができる。
【0062】
なお、上記において、制御装置36によって強制的に作業を中止させる代わりに、メモリ部35に記憶されている転倒の危険の無い期間の動作データに基づいて、安全な姿勢まで強制的に遡らせる逆動作指令を作成し、その逆動作指令を制御装置36から作業機械200に出力することで転倒を回避するように構成しても良い。また、オペレータに自発的な注意を促すことなく制御装置36の動作だけで転倒を回避する構成を採用する場合には、機体バランス表示装置34は省略しても良い。
【0063】
ところで、第1の実施の形態では、ひずみセンサ8〜11Aとして検出感度の優れた半導体ひずみセンサを適用することが好ましいと説明したが、第2の実施の形態のように荷重を精度よく検出して機体バランスを瞬時に報知して転倒事故などを防止する場合等には、半導体ひずみセンサを用いることが更に好ましい。ここで半導体ひずみセンサについて詳述する。
【0064】
図17は半導体ひずみセンサの概略図である。
この図に示す半導体ひずみセンサ8Sは、同一のシリコン基板表面に取り付けられた4本の拡散抵抗8a,8b,8c,8dを有しており、これら4本の拡散抵抗8a,8b,8c,8dは、ブリッジ回路を形成している。4本の拡散抵抗8a,8b,8c,8dはそれぞれP型拡散抵抗であり、拡散抵抗8b及び拡散抵抗8dは長手方向がシリコン単結晶の<110>方向D1と平行に配置されており、拡散抵抗8a及び拡散抵抗8cは長手方向がシリコン単結晶の<110>方向D2と平行に配置されている。図17中に示すように、シリコン単結晶の<110>方向D1とシリコン単結晶の<110>方向D2は互いに直交しているので、拡散抵抗8b及び拡散抵抗8dの組と、拡散抵抗8a及び拡散抵抗8cの組とは、互いに直交している。すなわち、拡散抵抗8a,8b,8c,8dは、長手方向がシリコン単結晶<110>方向D1と平行な2本の拡散抵抗8b,8dと、この拡散抵抗8b,8dと垂直な2本の拡散抵抗8a,8cとからなるブリッジ回路を構成している。なお、ピン4Aのせん断ひずみをできるだけ正確に検出するためには、シリコン単結晶<110>方向がピン4Aの軸方向(長手方向)に対して45度傾く方向に半導体ひずみセンサ8Sを配置することが好ましい。また、半導体ひずみセンサ8Sの詳細については、例えば、特開2006−258674号公報等の特許文献を参照されたい。
【0065】
このようにひずみセンサ8〜11Aに検出感度の高い半導体ひずみセンサ8Sを用いると、作業機械の作業中にピン型ロードセル4に負荷される荷重によるピンのひずみ変形を感度良く測定することができる。また、ブリッジ回路構成によって局部的な温度変化による測定誤差を抑制することができるので、半導体ひずみセンサ8Sがノイズ源(例えば、動力源であるモータ等)の近傍に配置されても、ノイズの混入が抑制されて高精度のひずみ測定を実施することができる。
【0066】
なお、シリコン基板表面には、図17に示すように、PN接合の温度センサ22を設けることが好ましい。このようにすると、温度が変化する環境下で作業する場合にも、温度センサ21による測定温度に基づいて温度変化によるひずみ測定変動分を補正できるので、より正確にひずみを測定できる。また、シリコン基板表面には、ブリッジ回路の出力を増幅するための増幅器(アンプ)21を設けても良い。このように増幅器21を半導体ひずみセンサ8Sに設けると、拡散抵抗8a,8b,8c,8dからの出力を増幅できるので耐ノイズ性が向上し、増幅器21を備えた半導体ひずみセンサ8Sをユニット化することができる。
【0067】
ところで、以上の各実施の形態においては、作業機械として油圧ショベルを例に挙げて説明したが、リンク機構部の結合ピンとしてピン型ロードセルを利用する作業機械であって、そのピン型ロードセルに作用する荷重の方向が変化するものであれば、本発明は適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0068】
4 ピン型ロードセル
4A ピン
4B ピン穴
4C 正方形
6C 作業装置
7 履体
8,9,10,11,8A,9A,10A,11A ひずみセンサ
8a,8b,8c,8d 拡散抵抗
8S 半導体ひずみセンサ
12,13 ピン溝
15 凹部
16 接続部
17 切り欠き部
18 第1対向面
19 第2対向面
21 増幅器
22 温度センサ
31 受信装置
32 演算装置
33 警告発生装置
35 メモリ部
36 制御装置
38 転倒回避指令出力手段
100 ピンの中心軸
200 作業機械

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種々の方向から荷重が作用するピンと、
前記ピンの軸方向に設けられたピン穴と、
前記ピン穴における前記ピンの周方向に等間隔で配置され、それぞれ前記ピンの径方向外側にへこんだ4つの凹部と、
前記4つの凹部のうち1つの凹部に取り付けられた第1ひずみセンサと、
前記第1ひずみセンサが取り付けられた凹部に対して前記ピンの周方向において隣接する凹部に取り付けられた第2ひずみセンサと、
前記4つの凹部のうち前記ピンの周方向において隣り合う2つの凹部を接続する合計4つの接続部とを備え、
前記4つの接続部における前記ピンの厚みは、それぞれ、前記4つの凹部における前記ピンの厚みよりも厚いことを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項2】
種々の方向から荷重が作用するピンと、
前記ピンの軸方向に設けられたピン穴と、
前記ピン穴における前記ピンの周方向に等間隔で配置され、それぞれ前記ピンの径方向外側にへこんだ4つの凹部と、
前記ピンの外周面上であって、前記4つの凹部のうち1つの凹部から前記ピンの径方向における外側に取り付けられた第1ひずみセンサと、
前記ピンの外周面上であって、前記1つの凹部に対して前記ピンの周方向において隣接する凹部から前記ピンの径方向外側に取り付けられた第2ひずみセンサと、
前記4つの凹部のうち前記ピンの周方向において隣り合う2つの凹部を接続する合計4つの接続部とを備え、
前記4つの接続部における前記ピンの厚みは、それぞれ、前記4つの凹部における前記ピンの厚みよりも厚いことを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項3】
請求項1又は2記載のピン型ロードセルにおいて、
前記4つの凹部は、前記ピンの径方向における断面において、それぞれ円弧状に形成されており、
前記4つの凹部における各円弧の中心点は、前記ピンの径方向における断面において、それぞれ、正方形の頂点に位置しており、
前記正方形の中心点は、前記ピンの中心に位置することを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項4】
種々の方向から荷重が作用するピンと、
前記ピンの軸方向に設けられたピン穴とを備え、
前記ピン穴は、
前記ピンの中心を挟んで対向して配置された互いに平行な2つの面であって、前記ピンの中心からの距離がそれぞれ等しい2つの面から成る第1対向面と、
前記第1対向面を前記ピンの中心を中心に90゜回転させた2つの平面に相当する第2対向面と、
前記第1対向面及び前記第2対向面を形成する面のうち前記ピンの周方向において隣り合う2つの面を接続する合計4つの接続面とによって形成されており、
前記4つの接続面は、前記第1対向面及び前記第2対向面を形成する4つの面よりも前記ピンの中心側に位置しており、
前記第1対向面における一方の面には第1ひずみセンサが取り付けられており、
前記第2対向面における一方の面には第2ひずみセンサが取り付けられていることを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載のピン型ロードセルにおいて、
前記ピン穴は、貫通孔であることを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項6】
請求項1から5いずれかに記載のピン型ロードセルにおいて、
前記ピン穴は、前記ピンの両端から穿たれた2つのピン穴であることを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項7】
請求項1から6いずれかに記載のピン型ロードセルにおいて、
前記第1ひずみセンサ及び前記第2ひずみセンサが収まるように、前記ピンの外周の周方向に形成されたピン溝をさらに備えることを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載のピン型ロードセルにおいて、
前記第1ひずみセンサの取付部と前記ピンにおける同一周上に位置する部分であって、前記第1ひずみセンサの取付部と対向する部分に取り付けられた第3ひずみセンサと、
前記第2ひずみセンサの取付部と前記ピンにおける同一周上に位置する部分であって、前記第2ひずみセンサの取付部と対向する部分に取り付けられた第4ひずみセンサとをさらに備えることを特徴とするピン型ロードセル。
【請求項9】
請求項1から8いずれかに記載のピン型ロードセルでリンクを連結するリンク機構部を備える作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−281783(P2010−281783A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137167(P2009−137167)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】