説明

作業用手袋とその製造方法

【課題】素手に近い使用感があり、しかも手袋外面に適度の滑り止め性能を備えて優れた作業性を発揮できるようにする。
【解決手段】伸縮性を備えた編糸(5)によりメリヤス編みされた作業用手袋である。編糸(5)を、摩擦係数の高い伸縮性を備えた第1編糸(5a)と伸縮性を備えた第2編糸(5b)とで構成する。メリヤス編みは、プレーティング編みにより、手袋外面(6)に第1編糸(5a)を配置し、手袋内面(9)に第2編糸(5b)を配置する。このとき、手袋外面(6)には、横方向(コース方向)に沿った編糸(5)の湾曲部(8)が表出している横目(7)を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は作業用手袋とその製造方法に関し、更に詳しくは、素手に近い使用感があり、しかも手袋外面に適度の滑り止め性能を備えて優れた作業性を発揮できる作業用手袋とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、精密機械を扱う作業や食品加工作業などの各種作業に用いられる作業用手袋としては、軍手などのメリヤス編み手袋やスムス手袋などの縫製手袋がある(以下、従来技術1という)。この従来技術1の作業用手袋は、厚さを薄くすると素手に近い使用感を得ることができる利点があるが、手袋外面の摩擦力が小さく滑り易い問題がある。特に、作業者の手指を保護するためアラミド繊維などの高強度・高弾性率を備えたいわゆる高機能繊維を用いたもの(例えば、特許文献1参照)では、これらの高機能繊維は摩擦係数が低いことから手袋外面が一層滑り易く作業性が低下する虞がある。また、この従来技術1では一般に短繊維からなる編糸が用いられているため、使用中に繊維の脱落を生じる虞があり、精密機械を扱う作業や食品加工作業での使用には好適でない問題もある。
【0003】
また、従来の他の形式の作業用手袋には、手袋外面の滑り止め性能を高めるため、メリヤス手袋の外面をゴムラテックスでコーティングしたゴム引き手袋がある(例えば、特許文献2参照、以下従来技術2という)。この従来技術2の作業用手袋は手袋外面の摩擦力が大きく、適度の滑り止め性能を備える点で優れる。しかしこの従来技術2では、外面にゴム層が形成されるため、手袋全体が硬く厚手になって、素手感覚に劣る問題がある。また、手袋外面をゴム層で覆っているため通気性が少なく、長時間着用すると蒸れを生じる問題もある。
【0004】
従来のさらに他の形式の作業用手袋には、メリヤス手袋の掌部や指部の外面に、塩化ビニル樹脂や天然ゴムなどの滑り止め用粒子を転写して滑り止め性能を高めた作業用手袋がある(例えば、特許文献3参照、以下従来技術3という)。しかしこの従来技術3の作業用手袋は、使用中に上記の滑り止め用粒子が剥離し脱落する虞があり、精密機械を扱う作業や食品加工作業には好適でない。また、指先などの外面に上記の滑り止め用粒子を付着させてあるため、素手感覚が低く、例えば細かな部品などを取り扱う際にこの滑り止め用粒子が邪魔になって作業性が低下する虞もある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−11060号公報
【特許文献2】特開平8−209415号公報
【特許文献3】特開平11−269707号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の技術的課題は、上記の問題点を解消し、素手に近い使用感があり、しかも手袋外面に適度の滑り止め性能を備えて優れた作業性を発揮できる作業用手袋とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために、例えば、本発明の実施の形態を示す図1と図2に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち、本発明1は作業用手袋に関し、伸縮性を備えた編糸(5)によりメリヤス編みされた作業用手袋であって、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかの手袋外面(6)に、横方向(コース方向)に沿った編糸(5)の湾曲部(8)が表出している横目(7)を形成したことを特徴とする。
【0008】
本発明2は作業用手袋に関し、メリヤス編みを、複数本の編糸(5)の一方を外面側に配置し他方を内面側に配置させるプレーティング編みにより形成した作業用手袋であって、上記の編糸(5)を、摩擦係数の高い伸縮性を備えた第1編糸(5a)と伸縮性を備えた第2編糸(5b)とで構成し、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかの手袋外面(6)に上記の第1編糸(5a)を配置したことを特徴とする。
【0009】
本発明3は作業用手袋の製造方法に関し、伸縮性を備えた編糸(5)によりメリヤス編みを形成する作業用手袋の製造方法であって、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかを内面側に横目(7)が形成されるように編み上げたのち、手袋の内外面を反転させることを特徴とする。
【0010】
本発明4は作業用手袋の製造方法に関し、メリヤス編みを、複数本の編糸(5)の一方を外面側に配置し他方を内面側に配置させるプレーティング編みにより形成する作業用手袋の製造方法であって、上記の編糸(5)を、摩擦係数の高い伸縮性を備えた第1編糸(5a)と伸縮性を備えた第2編糸(5b)とで構成し、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかの内面側に上記の第1編糸(5a)を配置して編み上げたのち、手袋の内外面を反転させることを特徴とする。
【0011】
本発明1や本発明3によれば、手袋外面に横目が形成される。この横目は横方向(コース方向)に沿った編糸の湾曲部が表出しており、比較的凹凸があることから、手袋外面の摩擦力が大きい。この結果、前記の従来技術2や3と異なり、ゴムラテックスのコーティングや滑り止め用粒子などを形成することなく、適度の滑り止め性能が発揮される。
一方、この手袋外面に横目が形成された部位では、通常、手袋内面に縦目、即ち、ループの縦方向に沿った編糸の直線状部が表出している編み目が形成される。この縦目は比較的凹凸が少なく摩擦力が小さいため、手袋の着脱が容易になるうえ、手肌との接触が滑らかとなる。しかも、上記の編糸は伸縮性を備えているので、装着した手袋は使用者の手に良好にフィットする。
【0012】
本発明2や本発明4によれば、摩擦係数の高い第1編糸が手袋外面に配置されるので、前記従来技術2や3と異なり、ゴムラテックスのコーティングや滑り止め用粒子などを形成することなく、高い滑り止め性能が発揮される。
一方、上記の手袋外面に第1編糸が配置された部位では、通常、手袋内面に摩擦係数の低い第2編糸が配置される。このため、手袋の着脱が容易になるうえ、手肌との接触が滑らかとなる。しかも、上記の両編糸はいずれも伸縮性を備えているので、装着した手袋は使用者の手に良好にフィットする。
【0013】
上記の伸縮性を備えた編糸とは、例えば、ポリウレタン繊維やウーリーナイロン繊維、ポリエステルウーリー繊維などのフィラメント糸を挙げることができるが、特定の材質には限定されず、また、これらの伸縮性のある繊維を芯糸にしてその周囲に鞘糸を捲回したカバーリング糸であってもよい。
【0014】
本発明2や本発明4において、摩擦係数の高い繊維とは、例えばポリウレタン繊維などをいう。また、上記の第2編糸は、伸縮性を備えた芯糸とその周囲に捲回した鞘糸とからなるカバーリング糸で構成してもよい。上記の鞘糸には、ナイロンやポリエステルなどの合成繊維を用いることができ、高強度で高弾性率を備えた高機能繊維を用いると、使用者の手指を切創等から良好に保護できるのでより好ましい。なお、上記の高機能繊維とは、高強度で高弾性率を備えたものであればよく、具体的にはアラミド繊維や超高強力ポリエチレン繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維などを挙げることができるが、特定の繊維材料に限定されるものではない。
【0015】
上記の本発明2において、上記の手袋外面に第1編糸を配置した部位は、上記の本発明1と同様、その手袋外面に横目を形成することができる。この場合は、摩擦係数の高い第1編糸と横目との相乗効果により、手袋外面は一層良好な滑り止め性能を発揮することができる。またこの場合、手袋内面に縦目を形成するとともに、摩擦係数の低い編糸を配置することができ、一層肌触りを良好にし、着脱を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0017】
(1) 手袋外面に横目を形成し、或いは摩擦係数の高い編糸を配置してあるので、前記の従来技術2や従来技術3と異なって、手袋外面にゴム層や滑り止め粒子を加工することなく、手袋外面の摩擦力を大きくでき、適度の滑り止め性能を備えるので優れた作業性を発揮することができる。
【0018】
(2) 手袋外面にゴム層や滑り止め粒子を加工する必要が無いので、長時間装着しても蒸れを生じる虞がなく、また使用中に滑り止め粒子が脱落することがない。しかも、手袋の厚さを薄くして柔軟性を維持でき、素手に近い使用感を得ることができる。
【0019】
(3) 編糸が伸縮性を備えているので装着時の手指に良好にフィットできるうえ、内側に凹凸の少ない縦目を形成したり摩擦係数の低い編糸を配置したりすることができ、この場合には手袋の着脱が一層容易であるうえ、肌触りを一層良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1と図2は本発明の実施形態を示し、図1(a)は作業用手袋の一部破断図、図1(b)は図1(a)のB部の編み目を示す部分拡大図、図1(c)は図1(a)のC部の編み目を示す部分拡大図、図2は第2編糸の概略構成図である。
【0021】
図1(a)に示すように、この作業用手袋(1)は、掌部(2)と指部(3)と甲部(4)の全体が伸縮性を備えた編糸(5)でメリヤス編みされている。この作業用手袋(1)の外面(6)の編み目は、図1(b)に示すように、横目(7)に、即ち、横方向(コース方向)に沿った編糸(5)の湾曲部(8)が表出している編み目に形成されている。従って、この作業用手袋(1)の内面(9)の編み目は、図1(c)に示すように、縦目(10)、即ち、ループの縦方向に沿った編糸(5)の直線状部(11)が表出している編み目に形成されている。
【0022】
図1(b)と図1(c)に示すように、上記の編糸(5)は摩擦係数が高く且つ伸縮性を備えた第1編糸(5a)と伸縮性を備えた第2編糸(5b)とからなり、プレーティング編みにより第1編糸(5a)を手袋外面(6)側に、第2編糸(5b)を手袋内面(9)側に、配置させてある。
【0023】
上記の第1編糸(5a)は、ポリウレタン繊維などの、摩擦係数が高く伸縮性を備えた繊維が用いられる。一方、上記の第2編糸(5b)は、図2に示すように伸縮性を備えた芯糸(12)とその周囲に捲回した鞘糸(13)とからなるカバーリング糸が用いてある。上記の芯糸(12)には、ポリウレタン繊維などの伸縮性を備えた繊維が用いられ、上記の鞘糸(13)には、合成繊維、例えばアラミド繊維などの高強度で高弾性率を備えた高機能繊維が用いられる。
【0024】
次に、上記の作業用手袋の製造手順について説明する。
最初に、上記の第1編糸(5a)と第2編糸(5b)とを用いて、プレーティング編みにより第1編糸(5a)が内面側に、第2編糸(5b)が外面側に位置するようにしてメリヤス手袋を編み上げる。このとき、内面側に横目(7)が形成され、外面側に縦目が形成されるように編み目を形成する。次いで、その編み上げたメリヤス手袋の内外面を反転させ、これにより図1に示す作業用手袋(1)が得られる。
【0025】
上記の手順により得られた作業用手袋(1)は、伸縮性を備えた編糸でメリヤス編みされているので、これを装着した作業者の手に良好にフィットすることができた。また、手袋外面(6)は適度の滑り止め性能を備えており、しかも手袋の厚みが薄く柔軟であるため、素手に近い使用感があった。さらに、手袋内面(9)は凹凸が少なく、装着などが容易であり、肌触りも良好であった。
【0026】
なお、上記の実施形態で説明した作業用手袋は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、編糸の材質、編み目の形成範囲などをこれらの実施形態のものに限定するものではなく、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。
【0027】
例えば、上記の編糸は第1編糸と第2編糸を1本ずつ用いたが、いずれか一方または両方を複数本の編糸で構成してもよい。また、上記の第2編糸は鞘糸を一重巻きしたカバーリング糸を用いたが、鞘糸を二重巻きしたカバーリング糸を用いてもよい。また、この鞘糸の捲回は、芯糸に緩やかなピッチで捲き付けるなど、巻付け間隔や巻付け方向を任意に設定することができる。さらに、上記の第1編糸を手袋全体の外面に配置し、また横目を手袋全体の外面に形成したが、掌部や指部にのみ配置し形成してもよく、例えば各指部の第1関節部分にのみ配置し形成することも可能である。また、編糸の材質としてポリウレタン繊維やアラミド繊維以外の繊維を用いてもよいことは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の作業用手袋は、素手に近い使用感があり、しかも手袋外面に適度の滑り止め性能を備えて優れた作業性を発揮できるので、精密機械を扱う作業や食品加工作業などに特に好適に利用できるが、その他の各種作業にも好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態を示し、図1(a)は作業用手袋の一部破断図、図1(b)は図1(a)のB部の編み目を示す部分拡大図、図1(c)は図1(a)のC部の編み目を示す部分拡大図である。
【図2】第2編糸の概略構成図である。
【符号の説明】
【0030】
1…作業用手袋
2…掌部
3…指部
5…編糸
5a…第1編糸
5b…第2編糸
6…手袋外面
7…横目
8…編糸(5)の湾曲部
12…芯糸
13…鞘糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を備えた編糸(5)によりメリヤス編みされた作業用手袋であって、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかの手袋外面(6)に、横方向(コース方向)に沿った編糸(5)の湾曲部(8)が表出している横目(7)を形成したことを特徴とする、作業用手袋。
【請求項2】
メリヤス編みを、複数本の編糸(5)の一方を外面側に配置し他方を内面側に配置させるプレーティング編みにより形成した作業用手袋であって、
上記の編糸(5)を、摩擦係数の高い伸縮性を備えた第1編糸(5a)と伸縮性を備えた第2編糸(5b)とで構成し、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかの手袋外面(6)に上記の第1編糸(5a)を配置したことを特徴とする、作業用手袋。
【請求項3】
上記の手袋外面(6)に第1編糸(5a)を配置した部位は、その手袋外面(6)に横目(7)を形成してある、請求項2に記載の作業用手袋。
【請求項4】
上記の第2編糸(5b)が、伸縮性を備えた芯糸(12)とその周囲に捲回した鞘糸(13)とからなるカバーリング糸である、請求項2または3に記載の作業用手袋。
【請求項5】
上記の鞘糸(13)が高強度で高弾性率を備えた高機能繊維からなる、請求項4に記載の作業用手袋。
【請求項6】
伸縮性を備えた編糸(5)によりメリヤス編みを形成する作業用手袋の製造方法であって、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかを内面側に横目(7)が形成されるように編み上げたのち、手袋の内外面を反転させることを特徴とする、作業用手袋の製造方法。
【請求項7】
メリヤス編みを、複数本の編糸(5)の一方を外面側に配置し他方を内面側に配置させるプレーティング編みにより形成する作業用手袋の製造方法であって、
上記の編糸(5)を、摩擦係数の高い伸縮性を備えた第1編糸(5a)と伸縮性を備えた第2編糸(5b)とで構成し、少なくとも掌部(2)と指部(3)とのいずれかの内面側に上記の第1編糸(5a)を配置して編み上げたのち、手袋の内外面を反転させることを特徴とする、作業用手袋の製造方法。
【請求項8】
上記の第1編糸(5a)を内面側に配置して編む際に、その内面側に横目(7)を形成する請求項7に記載の作業用手袋の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−2320(P2006−2320A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182722(P2004−182722)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000101499)アトム株式会社 (8)
【Fターム(参考)】