説明

作業用手袋及びその製造方法

【課題】使用時における良好な装着感と装着状態での良好な作業性を長期に亘って維持し得るようにした耐熱性及び耐切創性に優れた作業用手袋並びにその製造方法を提案する。
【解決手段】
耐熱性及び/又は耐切創性を有する繊維からなる所定形状の縫合基布4〜8を縫合して製作される作業用手袋の掌側の表面にシリコン樹脂をコーティングする。係る構成によれば、縫合基布4〜8がその素材特性として備える耐熱性及び/又は耐切創性と、シリコン樹脂が備える耐熱性と引き裂き強度及び引張り強度の相乗効果によって作業用手袋1の掌側の表面部分の耐熱性及び耐切創性が格段に向上し、作業上における安全性の高い作業用手袋を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、耐熱性と耐切創性に優れた作業用手袋及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5には、従来の耐熱性及び耐切創性を備えた作業用手袋50を示している。この作業用手袋50は、布材で製作された基材手袋の掌側の表面、即ち、掌部51から親指部52、人差指部53、中指部54、薬指部55、小指部56に亘る範囲の表面に天然皮革61〜64(同図にハッチングを付した部分)を縫着することで、掌側の耐熱性及び耐切創性を確保するようにしたものである。
【0003】
なお、このように基材手袋の掌側の表面に天然皮革を縫着した作業用手袋としては、その用途は異なるものの、例えば、特許文献1、2に示されるものが提案されている。
【0004】
特許文献1に示される手袋は、機械作業用の手袋であって、掌側指部を含む掌部を羊皮で形成した上に、この掌部に羊皮より丈夫な牛皮でなる補強部を重ねて縫着して該掌部の強度を高めたものである。
【0005】
特許文献2に示される手袋は、ゴルフ用の手袋であって、伸縮生地で形成された手袋本体の掌側のほぼ全域に、滑り止め作用を発揮する天然皮革製の薄片から構成される防滑薄片を縫着して掌部分の強度を高めたものである(第9頁第21行参照)。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献】
【特許文献1】 特開2008−202176号公報
【特許文献2】 再表W099−55433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、このように掌側部分に天然皮革を縫着して該部分の耐熱性とか耐切創性を高めるようにした作業用手袋においては、以下のような問題があった。
【0008】
第1の問題点は水濡れに対するものである。即ち、掌部分に天然皮革を縫着することによってこの掌部分の耐熱性とか耐切創性は高められるものの、例えば、天然皮革部分が水濡れした場合には、天然皮革に特有の性状に起因して、縫着された天然皮革の表面に「ぬめり」が生じ、この「ぬめり」の発生によって、元来天然皮革がもつ滑り止め機能を期待してこれを採用したにも拘らず、掌部分が滑り易くなり、その結果、本来の目的を達成することが困難となるものである。従って、この作業用手袋は、水濡れする可能性の少ない作業環境において使用されることを前提に開発されたもので、水濡れする可能性のある作業環境において使用される作業用手袋としては不向きなものと言える。
【0009】
第2の問題点も水濡れに関するものであって、これも天然皮革に特有の性状に起因するものであるが、天然皮革は水洗い時などにおいて水に比較的長い時間暴露されると、天然皮革の内部に水が浸入し、その皮質内に含まれていた油脂成分が次第に水に滲出する。この結果、この水濡れした作業用手袋を乾かした場合には、天然皮革部分が強ばってゴワゴワ感が生じ、乾燥後にこれを再使用する場合にはその装着感が悪く、また天然皮革の伸縮性に依存する掌部分の把持性が低下し、作業用手袋を装着した状態での作業性が低劣となり、さらには作業用手袋そのものの耐久性の低下をも招来することになる。
【0010】
第3の問題点は、天然皮革の取付構造に関するものである。即ち、基材手袋に対して天然皮革を縫着によって取付ける構成であることから、例え天然皮革の耐摩耗性は十分であったとしても、これを縫着する縫糸には天然皮革ほどの耐摩耗性は望み得ず、その結果、作業用手袋の使用によって天然皮革が摩耗して破れ等を生じるよりもさらに早い時期に縫糸が摩耗により破断して天然皮革が剥離する可能性が高く、係る場合には天然皮革の再縫合作業が必要になるとか、場合によっては作業用手袋そのものの再使用が不能になる、等のことも懸念される。
【0011】
第4の問題点も天然皮革の取付構造に関するものである。即ち、基材手袋に対して天然皮革を縫着によって取付ける構成であることから、天然皮革には縫合線に沿って連続的に針孔が形成されており、この連続的に形成された針孔によって天然皮革の耐熱性とか耐切創性等の機能が低下する恐れが有り、さらにこの多数の針孔を通って作業用手袋の内部に水が浸入し易くなり該手袋を装着しての作業に支障を来たすことも懸念される。
【0012】
そこで本願発明は、使用時における良好な装着感と装着状態での良好な作業性を長期に亘って維持し得るようにした耐熱性及び耐切創性に優れた作業用手袋並びにその製造方法を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明では、上記課題を解決するための具体的手段として次のような構成を採用している。
【0014】
本願の第1の発明では、耐熱性及び/又は耐切創性を有する繊維からなる縫合基布4〜8を縫合して製作される作業用手袋において、その掌側の表面にシリコン樹脂をコーティングしたことを特徴としている。ここで、「耐熱性及び/又は耐切創性」としたのは、上記繊維は、耐熱性と耐切創性の少なくとも一方の特性を有すれば良いという趣旨である。
【0015】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る作業用手袋において、上記縫合基布4〜8を構成する繊維として、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維、ガラス繊維、ポリイミド繊維の何れか一つ又は二つ以上の組み合わせを採用したことを特徴としている。
【0016】
本願の第3の発明では、縫製される作業用手袋の製造方法であって、素材布を裁断して複数の縫合基布4〜8を得る裁断工程と、上記各縫合基布4〜8にシリコン樹脂をコーティングするコーティング工程と、シリコン樹脂がコーティングされた上記各縫合基布4〜8を縫合する縫合工程で構成したことを特徴としている。
【0017】
本願の第4の発明では、上記第3の発明に係る作業用手袋の製造方法において、上記コーティング工程における上記各縫合基布4〜8に対するシリコン樹脂のコーティングを、スクリーン10を用いたスクリーン法にて行うものとし、上記スクリーン10には上記各縫合基布4〜8のコーティング部31〜34の形状に合致した複数の透過部12〜17が設けられており、上記各縫合基布4〜8をそのコーティング部31〜34が上記スクリーン10の各透過部12〜17に対応するように位置決めして固定したのち、上記スクリーン10を上記各縫合基布4〜8の表面側にセットしてシリコン樹脂をコーティングすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
(a)本願の第1の発明によれば、耐熱性及び/又は耐切創性の向上に寄与し得る特性をもつ繊維からなる縫合基布4〜8を縫合して製作される作業用手袋の掌側の表面にシリコン樹脂をコーティングしているので、以下のような効果が得られる。
【0019】
(イ)シリコン樹脂はその特性として高い耐熱性と引き裂き強さ及び引張り強さを備えることから、上記縫合基布4〜8がその素材特性として備える耐熱性及び/又は耐切創性と、シリコン樹脂が備える耐熱性と引き裂き強さ及び引張り強さ等との相乗効果によって、上記掌側の表面部分の耐熱性及び耐切創性が格段に向上し、作業上における安全性の高い作業用手袋を提供できる。
【0020】
(ロ)シリコン樹脂はその特性として高い耐水性を備えることから、作業用手袋を装着しての作業時にこれが水濡れしてもその表面がぬめって作業がし辛くなるということがなく、作業上における安全性の高い作業用手袋を提供できる。
【0021】
(ハ)また、シリコン樹脂は、その耐水性によって、作業用手袋を水洗いし長時間水に暴露されたような場合でもその内部に水は浸透しないので、例えば、従来の天然皮革を備えた作業用手袋のように水濡れ後の乾燥によって該天然皮革が変質して装着感とか把持性が損なわれるということもなく、水洗いを繰り返しながら長期に亘って使用しても良好な装着感とか把持性が維持されることから、その耐久性が格段に向上し、経済性にも優れた作業用手袋を提供できる。
【0022】
(ニ)縫合基布4〜8の表面にシリコン樹脂をコーティングする構成であることから、例えば、天然皮革を縫着する構成とした従来の作業用手袋のような縫糸の摩耗破断によって天然皮革が剥離してその再縫合が必要になるとか、再使用が不能になるというような恐れがなく、耐久性に優れた作業用手袋を提供できる。
【0023】
縫合基布4〜8の表面にシリコン樹脂をコーティングする構成であることから、例えば、天然皮革を縫着する従来の作業用手袋のように、天然皮革に連続的に形成された針孔によって該天然皮革の耐熱性とか耐切創性等の機能が低下するとか、針孔を通って作業用手袋の内部に水が浸入し易くなり作業に支障を来たす等のことが確実に回避され、耐熱性及び耐切創性という面における信頼性の高い作業用手袋を提供できる。
【0024】
(b)本願の第2の発明に係る作業用手袋によれば、上記(a)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記縫合基布4〜8を構成する繊維を、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維、ガラス繊維、ポリイミド繊維の何れか一つ又は二つ以上の組み合わせとしているところ、これら各繊維は耐熱性又は耐切創性又は耐熱性と耐切創性の双方において優れた特性をもつことから、これらの繊維によって構成された縫合基布4〜8に対してさらにシリコン樹脂がコーティングされることで、上記各繊維が備える特性とシリコン樹脂が備える特性の相乗的効果がより位相促進される。
【0025】
なお、「何れか一つ又は二つ以上の組み合わせ」としたのは、上記縫合基布4〜8は、その全てについて同じ繊維が使用されることに限定されるものではなく、例えば、上記縫合基布4〜8の中に異なる種類の繊維で構成されたものが混在することも有り得ることを意味しており、特に後者の場合にあっては、作業用手袋の各部位の要求機能(例えば、断熱性が重視される部位と耐切創性が重視される部位)に合せて縫合基布4〜8を構成する繊維を選択することで、作業用手袋の多様化を図ることができる。
【0026】
(c)本願の第3の発明に係る作業用手袋の製造方法では、縫製加工により製作される作業用手袋の製造に際して、素材布を裁断して複数の縫合基布4〜8を得る裁断工程と、上記各縫合基布4〜8にシリコン樹脂をコーティングするコーティング工程と、シリコン樹脂がコーティングされた上記各縫合基布4〜8を縫合する縫合工程を経て作業用手袋1を製作するようにしている。
【0027】
従って、この発明によれば、裁断された縫合基布4〜8に対してのみシリコン樹脂がコーティングされることから、換言すれば、使用されずに廃棄される裁断屑部分にはシリコン樹脂のコーティングは行われないことから、例えば、素材布全体にシリコン樹脂をコーティングしたのち、該素材布を裁断して縫合基布4〜8を得るという従来一般的な手法に比して、無駄なコーティングが行われない分だけシリコン樹脂の使用量を低く抑えることができ、これによって作業用手袋1の製造コストの低廉化が促進される。
【0028】
また、裁断された縫合基布4〜8に対してシリコン樹脂をコーティングすることから、例えば、上記縫合基布4〜8の素材布の種類(構成繊維の種類等)を任意に変更設定することができ、例えば、作業用手袋1において、上記縫合基布4〜8のそれぞれを用いて形成される複数の部位毎に素材を異ならせることも可能であり、該作業用手袋1の用途及び要求機能(例えば、通気性を必要とする部位と防水性を必要とする部位という部位毎の要求機能)に適合した作業用手袋1を製造することも可能であり、作業用手袋1の多様化が促進される。
【0029】
さらに、縫合基布4〜8に対してシリコン樹脂をコーティングして耐熱性等の機能向上を図るものであることから、例えば、従来のように縫合基布4〜8に対して天然皮革等を縫着して耐熱性等の機能向上を図る場合に比して、作業工数の低減が可能で、それだけ製品としての作業用手袋1の製造コストを低く抑えることができる。
【0030】
(d)本願の第4の発明に係る作業用手袋の製造方法では、上記縫合基布4〜8に対するシリコン樹脂のコーティングを、スクリーン10を用いたスクリーン法にて行うものとし、上記スクリーン10には上記縫合基布4〜8のコーティング領域の形状に合致した複数の透過部12〜17を設け、上記縫合基布4〜8を上記スクリーン10の各透過部12〜17に対応するように位置決めして固定したのち、上記スクリーン10を上記縫合基布4〜8の表面側にセットしてシリコン樹脂をコーティングするようにしている。
【0031】
従って、この発明によれば、上記(c)に記載の効果に加えて以下のような特有の効果が得られる。
【0032】
この発明では、所定形状に裁断された縫合基布4〜8に対応する上記スクリーン10の透過部12〜17の形状を適宜設定することで、例えば、上記縫合基布4〜8の全域にシリコン樹脂をコーティングするとか、該縫合基布4〜8の特定部位のみにシリコン樹脂をコーティングするなど、該縫合基布4〜8におけるシリコン樹脂のコーティング範囲あるいは形状を任意に設定することができ、作業用手袋1における縫合基布4〜8毎の要求機能(例えば、耐熱性の要求度合い等)に容易に対応でき、延いては作業用手袋1の要求機能面での多様化への対処が容易となる。
【0033】
また、上記スクリーン10の透過部12〜17の形状が、上記縫合基布4〜8のコーティング領域の形状に合致した形状であることから、シリコン樹脂の使用量を最小限に抑えることができ、さらなる低コスト化が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】 本願発明の実施の形態に係る作業用手袋の全体斜視図である。
【図2】 図1に示した作業用手袋の構成部材の分解説明図である。
【図3】 樹脂コーティングが施される部材の説明図である。
【図4】 樹脂コーティングに供されるスクリーンの説明図である。
【図5】 従来の作業用手袋の全体斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本願発明に係る作業用手袋及びその製造方法を具体的に説明する。
【0036】
図1には、本願発明に係る作業用手袋1を示している。この作業用手袋1は、特に耐熱性及び耐切創性を重視した作業用手袋であって、手の甲と掌部分を一体に覆う手覆部2と手首部分を覆う裾部3を備えて構成される。
【0037】
上記作業用手袋1は縫製手袋であって、所定形状に裁断された複数の縫合基布、即ち、図1及び図2に示すように、上記手覆部2から上記裾部3にかけての掌側部分と人差指部22の掌側部分及び小指部25の掌側部分を一体に構成する第1縫合基布4と、上記手覆部2から上記裾部3にかけての甲側部分と人差指部22と中指部23と薬指部24と小指部25の甲側部分と上記裾部3の甲側部分を一体的に構成する第2縫合基布5と、親指部21の掌側部分と甲側部分をそれぞれ構成する第3縫合基布6及び第4縫合基布7と、中指部23と薬指部24の掌側部分を一体に構成する第5縫合基布8を、所定の配置構成の下で縫合して製作される。
【0038】
また、上記各縫合基布4〜8のうち、特定の縫合基布の表面には、各縫合基布4〜8の縫合作業に先立って、樹脂コーティングが施されている。この樹脂コーティングが施される領域は、上記作業用手袋1を手に装着して所要の作業を行う際に物を把持する部位に対応し、特に耐熱性、耐切創性あるいは耐磨耗性等が要求されると想定される部位に設定されている。
【0039】
具体的には、図1及び図2においてそれぞれハッチングを付して示したように、上記第1縫合基布4の掌部9に対応する部位から人差指部22及び小指部25に掛けての領域と、上記第3縫合基布6の上記掌部9寄りの領域と、上記第5縫合基布8のほぼ全領域に樹脂コーティングが施される。
【0040】
ここで、製品としての上記作業用手袋1の特徴点は、作業用手袋1を構成する素材布の種類と、該作業用手袋1の掌側への樹脂コーティング構造である。また、上記作業用手袋1の製造時における特徴点は、製造工程の構成と、樹脂コーティングの施工手法である。以下、これら特徴点について個別に説明する。
【0041】
A:素材布の種類
上記作業用手袋1は、上述のように耐熱性及び耐切創性を重視した手袋であることから、その素材布の種類の選定に当っては、該素材布を構成する繊維の特性、即ち、耐熱性あるいは耐切創性に直接的にあるいは間接的に寄与し得る特性を有するか否かに重点を置いて判断している。そして、この実施形態では、高強度で耐熱性が高いという特性からアラミド繊維を、高強度で耐熱性及び耐磨耗性が高いという特性から特性ポリアリレート繊維を、高強度で耐熱性及び耐磨耗性が高いという特性からPBO繊維を、ガラス繊維高強度で弾性率が高いという特性からガラス繊維を、耐熱性及びループ強度が高いという特性からポリイミド繊維を、それぞれ採用している。
【0042】
そして、素材布を裁断して所定形状の縫合基布を得るが、その場合、必要とされる縫合基布の全てを同一種類の素材布(同一の繊維で構成された素材布)から得ることができることは勿論であるが、これに限定されるものではなく、製品としての作業用手袋1における各縫合基布の配置部位に応じて、二以上の種類の素材布(構成繊維が異なる二以上の素材布)から得ることもできる。
【0043】
B:樹脂コーティング構造
上記作業用手袋1においては、上述のように手袋の耐熱性及び耐切創性を重視して、素材布の選定に際して該素材布を構成する繊維の特性を考慮しているが、これに止まらず、特に掌側の耐熱性及び耐切創性をさらに高めるべく、素材布(具体的には縫合基布)に樹脂コーティングを施すようにしている。
【0044】
係る観点から、この実施形態では、コーティング用樹脂として、上記作業用手袋1の耐熱性及び耐切創性の向上に対して直接的にあるいは間接的に寄与し得る特性を考慮して、各種のコーティング用樹脂の中から、特に耐熱性、耐水性、引裂き強さ及び引張り強さにおいて優れるシリコン樹脂を採用している。この場合、シリコン樹脂の深部硬化性、硬化速度の調整性及び短時間硬化性等を考慮して、2液型のシリコン樹脂を採用している。なお、この実施形態では、2液型シリコン樹脂の硬化特性を有効に活用すべく特有の硬化手法を採用しているが、これについては後述する。
【0045】
C:製造工程の構成
上記作業用手袋1の製造は、素材布を所定形状に裁断して上記縫合基布4〜8を得る裁断工程と、上記縫合基布4〜8のうちの特定の縫合基布にシリコン樹脂をコーティングするコーティング工程と、上記縫合基布4〜8を縫合する縫合工程で構成される。
【0046】
この製造工程での特徴点は、裁断工程の後にコーティング工程が設定されている点である。係る設定の理由は以下の通りである。
【0047】
第1の理由は、裁断された縫合基布4〜8に対してシリコン樹脂をコーティングすることで、例えば、素材布全体にシリコン樹脂をコーティングしたのち、該素材布を裁断して所定形状の縫合基布4〜8を得る従来一般的な手法に比して、シリコン樹脂の使用量が少なくて済むという経済面での理由である。
【0048】
第2の理由は、樹脂コーティングに先立って裁断を行えば、上記縫合基布4〜8の素材布の種類(構成繊維の種類等)を任意に選択し、これら選択された種類の縫合基布4〜8に対して樹脂コーティングを施すことで、例えば、作業用手袋1の用途及び要求機能に適合した作業用手袋1を製造して製品の多様化が図れるという製品販売面での理由である。
【0049】
D:樹脂コーティングの施工手法
この実施形態の施工手法では、例えば、従来一般的に行われていたように、未裁断の素材布の表面に樹脂コーティングを施したのち、この素材布を裁断して所定形状の縫合基布4〜8を切り出すのではなく、上述のように、先に素材布から切り出された縫合基布4〜8に対して樹脂コーティングを施すものである。
【0050】
この実施形態では、スクリーン10(図4参照)を用いたスクリーン法によって樹脂コーティングを行うようにしている。そして、作業性あるいは作業管理の容易さ等を考慮して、一回のスクリーン操作において、一双の手袋(左手用手袋と右手用手袋)を構成する複数の縫合基布のうち、樹脂コーティングが必要とされる縫合基布のそれぞれに対して同時に樹脂コーティングを行うようにしている。
【0051】
なお、樹脂コーティングの手法は、スクリーン法に限定されるものではなく、例えば、プリンティング法等の他の手法も採用し得るものである。
【0052】
図3には、「一双の手袋」を構成する縫合基布のうち、樹脂コーティングが必要な縫合基布のみを示している。即ち、右手用の第1縫合基布4Aと第3縫合基布6Aと第5縫合基布8Aと、左手用の第1縫合基布4Bと第3縫合基布6Bと第5縫合基布8Bの合計6個の縫合基布を示している。なお、当然ではあるが、図2においてハッチングが付されていない(即ち、樹脂コーティングを必要としない)第2縫合基布5と第4縫合基布7については、図3から除かれている。
【0053】
また、図2に示すように、樹脂コーティングの施工対象とされる上記第1縫合基布4と第3縫合基布6と第5縫合基布8においても、その全域に樹脂コーティングが施されるのではなく、同図においてハッチングが付されたように、上記第1縫合基布4においてはその掌部9から人差指部22及び小指部25にかけての領域のみに第1コーティング部31が、上記第3縫合基布6においては上記第4縫合基布7に縫合される右縁近傍を除いた領域に第2コーティング部32が、さらに上記第5縫合基布8においては上下両縁近傍を除いた領域に第3コーティング部33及び第4コーティング部34が、それぞれ設定されている。
【0054】
このような樹脂コーティングの施工対象とされる左右一対の縫合基布4,6,8と、これら各縫合基布4,6,8におけるコーティング領域の関係を考慮して、図4に示すように上記スクリーン10が構成されている。
【0055】
即ち、上記スクリーン10は、フレーム10aの内側に幕10bを張設して構成されるもので、該幕10bには、樹脂コーティングの施工対象とされる左右一対の縫合基布4,6,8の各施工領域の形状に対応した外縁形状をもつ透過部、即ち、右手用の第1縫合基布4Aの第1コーティング部31(図3参照)の領域形状に対応した第1透過部12と、左手用の第1縫合基布4Bの第1コーティング部31の領域形状に対応した第2透過部13と、右手用の第3縫合基布6Aの第2コーティング部32(図3参照)の領域形状に対応した第1透過部14と、左手用の第3縫合基布6Bの第2コーティング部32の領域形状に対応した第4透過部15と、右手用の第5縫合基布8Aの第3コーティング部33及び第4コーティング部34(図3参照)の領域形状に対応した第5透過部16と、左手用の第5縫合基布8Bの第3コーティング部33及び第4コーティング部34の領域形状に対応した第6透過部17が設けられており、これら各透過部12〜17を除く部分は非透過部11とされている。
【0056】
そして、シリコン樹脂のコーティングに際しては、図4に破線で示すように、右手用の第1縫合基布4Aと左手用の第1縫合基布4Bと右手用の第3縫合基布6Aと左手用の第3縫合基布6Bと右手用の第5縫合基布8Aと左手用の第5縫合基布8Bの各コーティング部31、32、33、34(図2参照)に、上記スクリーン10の各透過部12、13、14、15、16、17を合致させた状態で、上記スクリーン10をセットする。
【0057】
そして、このセット状態で、上記スクリーン10の幕10a上に適量のシリコン樹脂を投入し、このシリコン樹脂を幕10a上に展延させながら上記各透過部12、13、14、15、16、17から上記各縫合基布4A、4B、6A、6B、8A、8Bの各コーティング部31、32、33、34側へ透過させることで、該各コーティング部31、32、33、34にシリコン樹脂がコーティングされる。
【0058】
しかる後、上記スクリーン10側から上記各縫合基布4A、4B、6A、6B、8A、8Bを取り出してコーティングされたシリコン樹脂を乾燥硬化させる。具体的には、加熱対象物の深部まで加熱させる特性をもつ赤外線ヒータを加熱源として乾燥させる。このように赤外線ヒータを加熱源として用いることで、該赤外線ヒータの深部加熱性という加熱特性と、2液型シリコン樹脂の深部硬化性という硬化特性が相俟って、より短時間でシリコン樹脂を硬化させることができ、コーティング工程における作業時間の短縮化が促進される。また、このシリコン樹脂の硬化時間は、上記赤外線ヒータの加熱温度及び加熱時間によっても調整できる。
【0059】
以上のようにしてシリコン樹脂がコーティングされた縫合基布4、6、8と、コーティングが施されていない縫合基布5、7を順次縫合することで、製品としての作業用手袋1が得られるものである。
【符号の説明】
【0060】
1 ・・作業用手袋
2 ・・手覆部
3 ・・裾部
4 ・・第1縫合基布
5 ・・第2縫合基布
6 ・・第3縫合基布
7 ・・第4縫合基布
8 ・・第5縫合基布
9 ・・掌部
10 ・・スクリーン
11 ・・非透過部
12〜17 ・・透過部
21 ・・親指部
22 ・・人差指部
23 ・・中指部
24 ・・薬指部
25 ・・小指部
31〜34 ・・コーティング部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性及び/又は耐切創性を有する繊維からなる縫合基布(4)〜(8)を縫合して製作される作業用手袋であって、該手袋の掌側の表面にシリコン樹脂がコーティングされていることを特徴とする作業用手袋。
【請求項2】
請求項1において、
上記縫合基布(4)〜(8)を構成する繊維が、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、PBO繊維、ガラス繊維、ポリイミド繊維の何れか一つ又は二つ以上の組み合わせであることを特徴とする作業用手袋。
【請求項3】
縫製される作業用手袋の製造方法であって、
素材布を裁断して複数の縫合基布(4)〜(8)を得る裁断工程と、上記各縫合基布(4)〜(8)にシリコン樹脂をコーティングするコーティング工程と、シリコン樹脂がコーティングされた上記各縫合基布(4)〜(8)を縫合する縫合工程で構成されたことを特徴とする作業用手袋の製造方法。
【請求項4】
請求項3において、
上記コーティング工程における上記各縫合基布(4)〜(8)に対するシリコン樹脂のコーティングを、スクリーン(10)を用いたスクリーン法にて行うものとし、上記スクリーン(10)には上記各縫合基布(4)〜(8)のコーティング部(31)〜(34)の形状に合致した複数の透過部(12)〜(17)が設けられており、上記各縫合基布(4)〜(8)を上記スクリーン(10)の各透過部(12)〜(17)に対応するように位置決めして固定したのち、上記スクリーン(10)を上記各縫合基布(4)〜(8)の表面側にセットしてシリコン樹脂をコーティングすることを特徴とする作業用手袋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−21250(P2012−21250A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173993(P2010−173993)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(501231440)興和グローブ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】