説明

作業用手袋

【課題】NBRを原料として用いて、耐油性および耐溶剤性に優れ、柔軟性、グリップ性、皮膜強度も兼ね備えた作業用手袋を提供する。
【解決手段】NBRラテックスにアクリロニトリルと(メタ)アクリル酸とアルキルアクリレートとの共重合体をブレンドしてなる、全アクリロニトリル量が36質量%〜53質量%のNBRコンパウンドを材料に用いて皮膜を形成する。前記の共重合体の添加によって全アクリロニトリル量を高めるので、耐油性、耐溶剤性を強化しながら、柔軟性を保持し、滑り止め効果を確保し、皮膜強度低下も抑制することができ、低重合度のポリマーの溶出もない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性、耐溶剤性の作業用手袋に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐油性、耐溶剤性が求められる作業用手袋としては、フッソゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、ウレタンエラストマーなどで皮膜を形成したサポート手袋、アンサポート手袋が用いられてきた。なかでもNBR手袋は原料が安価であるため幅広い分野で使用されている(特許文献1および2)。
【特許文献1】特開平5−59603号公報
【特許文献2】特開平4−333604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に耐油性手袋とされているNBR手袋には、アクリロニトリル含有率が約20質量%−約40質量%のNBR系ラテックスが使用されている。アクリロニトリル含有率が高いグレードを使用すると、耐油性、耐溶剤性は強化されるのであるが、柔軟性が損なわれ、作業手袋用途には不十分となってしまう。またアクリロニトリル含有率が約37質量%を越えると成膜性が悪く、加工性に難が出てくる。約45質量%を越えるNBRの重合は難しいと言われている。高アクリロニトリル含有NBRと低アクリロニトリル含有NBRとのブレンドは引張強度低下を引き起こし実用に耐えない。
【0004】
一方で、NBRは、耐油性、耐溶剤性であるとはいえ、スプレー塗装等に多用される芳香族系溶剤に弱く、膨潤しやすい。耐芳香族系溶剤性を向上させるための手法として、NBR系ラテックスに他素材、たとえばフッ素系やシリコン系の重合体をブレンドして用いることが考えられるが、このような素材を含んだ手袋を装着して物を掴むと残留モノマーや重合度の低いポリマーが転移することがあり、塗装作業等では嫌われる。
【0005】
グリップ性を向上させるために、NBR系ラテックスに化学発泡剤等を添加して発泡させたり、あるいは機械的に空気を取り込んで発泡させて、滑り止め層とすることがある。しかしこのような滑り止め層は、スポンジのようなポーラス構造をとっているがゆえに非常に溶剤を吸収保持しやすく、数秒で膨潤し、滑り止め効果がなくなってしまい、かえって滑りやすくなったり、皮膜強度が低下してしまう。
【0006】
本発明は上記問題を解決するもので、NBRを原料として用いて、耐油性および耐溶剤性に優れ、柔軟性、グリップ性、皮膜強度も兼ね備えた作業用手袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の作業用手袋は、NBRラテックスにアクリロニトリルと(メタ)アクリル酸とアルキルアクリレートとの共重合体をブレンドしてなる、全アクリロニトリル量が36質量%〜53質量%のNBRコンパウンドを材料に用いて皮膜を形成したことを特徴とする。
【0008】
前記の共重合体の添加によって全アクリロニトリル量を高めるので、耐油性、耐溶剤性を強化しながら、柔軟性を保持し、滑り止め効果を確保し、皮膜強度低下も抑制することができ、重合度の低いポリマー等の溶出もない。
【0009】
本発明に使用されるNBRラテックスは、36質量%−40質量%のアクリロニトリルと、55−59質量%のブタジエンと、5質量%以下のカルボキシル変性基とを持つNBR分子が分散されたものである。NBR分子中のアクリロニトリルの好ましい含有量は約37質量%である。
【0010】
NBRラテックスにブレンドされる共重合体の第1の構成成分であるアクリロニトリルセグメントは、NBR分子との相溶性がよく、含有率が増加するにしたがって、形成される皮膜の特性、特に耐摩耗性、耐油性、耐溶剤性が向上する。当該共重合体中のアクリロニトリルの含有率は37質量%−85質量%が好ましい。37質量%を下回ると特に耐溶剤性向上効果が低く、85質量%を超える重合は現在のところ困難である。ここで言う耐溶剤性は芳香族系溶剤に対する耐性である。
【0011】
共重合体の第2の構成成分である(メタ)アクリル酸、つまりアクリル酸やメタクリル酸は、当該共重合体自体の安定化に必要であるとともに、NBR分子と共架橋することによって、共重合体の溶出を防止する働きがある。共重合体中のアクリル酸もしくはメタクリル酸の含有率は1質量%−18質量%が好ましい。1質量%を下回ると共重合体(ラテックス)の安定性が劣る傾向があり、18質量%を越えるとNBRラテックスへの添加時に共重合体の肥大傾向があり、凝固を起こしやすい。より好ましい含有率は2質量%−12質量%である。アクリル酸もしくはメタクリル酸のカルボキシル基にNa、Li、K、Ca、Mg、Zn、Al等から選ばれる金属イオンが結合したイオン性ポリマーを用いると、引裂強度が向上する。
【0012】
共重合体の第3の構成成分であるアルキルアクリレートとは、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、iso−ブチルアクリレート、iso−ブチルメタクリレート、エチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、iso−プロピルアクリレート、iso−プロピルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート等である。アルキルアクリレートセグメントは、皮膜の柔軟性向上や反発弾性向上に効果がある。特にn−ブチルアクリレートはその効果が高い。
【0013】
作業用手袋に適した耐摩耗性、耐溶剤性を得るためには、上記のアクリロニトリル高含有率の共重合体(固形分)を、NBRラテックス(固形分)100質量部に対して、1−100質量部ブレンドする。このブレンド量によって全アクリロニトリル量は36質量%−63質量%となる。より好ましくは10−40質量部ブレンドする。このブレンド量によって全アクリロニトリル量は36質量%−53質量%となる。NBR中のアクリロニトリルが好ましい含有量37質量%であるときには、全アクリロニトリル量は38質量%−50質量%となり、特に好ましい。
【0014】
NBRラテックスにブレンドに対して、天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリウレタン、ブチルゴム、ポリブタジエンゴム等を耐溶剤性や強度が低下しない程度にブレンドしてもよい。天然ゴムなる語句は、天然ゴム単独だけでなく、天然ゴム−メチルメタクリレート共重合体やエポキシ化変性天然ゴム共重合体等を包含する。アクリルゴムなる語句は、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、アリルメタクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸等を含んだ共重合体を包含する。
【0015】
NBRラテックスに、周知の架橋剤、加硫促進剤、老化防止剤、増粘剤等を添加してもよい。
滑り止め効果を高めるために、皮膜の少なくとも表層部を発泡層としてもよい。またその発泡層の表面に凹凸を付型してもよい。皮膜を発泡によってポーラスにすると、またその表面を凹凸状にすると、液体はその凹部に吸入されて対象物との間に介在しなくなり、水や油、さらには溶剤を取り扱う場合も高いグリップ力を得ることが可能となる。上記のように全アクリロニトリル量が高いことから、凹部に液体が吸入されても膨潤は起こらない。発泡のために、起泡剤、整泡剤、化学発泡剤、気体等を内包したマイクロカプセルなどを添加することができる。
【0016】
起泡剤としては、アルキルサルフェートNa、アルキルエーテルサルフェートNa、ジアルキルスルホサクシネートNa、N−ラウロイルアミドプロピルジメチルベタイン、アルキルアミドプロピルジメチルアミンオキサイド、スルホコハク酸N−アルキルモノアミドジナトリウム、オレイン酸カリ、ひまし油カリが利用できる。整泡剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアミノエーテル、ポリアクリル酸ソーダ、ステアリン酸アンモニウム、ペプチド、β−アラニン、アルキルジプロピオン酸ソーダ等が利用できる。ここでの起泡剤と整泡剤との区別は厳密なものではない。これら起泡剤および整泡剤はそれぞれ、NBR系ラテックス(固形分)100質量部に対して1−10質量部添加するのが好ましい。
【0017】
化学発泡剤としては、トルエンスルホニルヒドラジド、PP’オキシビス(ベンゾスルホニルヒドラジド)、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチロニトリル等がある。マイクロカプセルとしては、塩化ビニリデンやアクリロニトリルなどの共重合物よりなる殻壁に低沸点炭化水素を内包した、平均粒径1−50μmの熱膨張性微小球等を利用できる。これら化学発泡剤およびマイクロカプセルは、NBR系ラテックス(固形分)100質量部に対して1−10質量部添加するのが好ましい。
【0018】
なお化学発泡剤は水への分散時に分解して気泡を生じやすいので、所望の気泡量を得るためには、起泡剤や整泡剤を併用してコンパウンド中に機械的に空気を取り込むのが都合よい。またマイクロカプセルを添加する場合には、皮膜を熱成形する際の熱膨張率の調整が難しく、NBR皮膜が先に熱融着して表面にスキン層が形成されるため、カプセルから出た低沸点炭化水素などのガスの逃げ道がなくなり、皮膜表面が激しく波打つことがあるので、起泡剤や整泡剤を併用してコンパウンド中に機械的に空気を取り込んでおくのが好ましい。
【0019】
滑り止め効果をさらに高めるために、各種の粒子、たとえば、アクリル、ウレタン、天然ゴム粉、EVA粉、PVC、NBR等の有機物粒子や、シリカ、炭酸カルシウム、マイカ等の無機物粒子を添加してもよい。
【0020】
コンパウンドの気泡含有量は、連続機械発泡機や家庭用ミキサーによって1%〜300%まで任意に調整できる。気泡含有量は比重で測定することができるが、成形後もコンパウンド状態とほぼ同じ気泡含有率となっている。皮膜の表面及び層内に、平均径10μm〜400μmの気泡(痕)が、1cmあたり10個〜130個、含まれるのが好ましい。化学発泡剤やマイクロカプセルのみを利用するよりも、上述したように機械的に空気を取り込む方式を併用する方が、連続気泡になり、スキン層が出来にくく、皮膜表面に気泡穴がより多く開口する。
【0021】
本発明の手袋を製造するには、たとえば、陶器型を凝固剤溶液(硝酸カルシウム、シクロヘキシルアミン、塩化亜鉛、メタノール等の水溶液)に浸漬した後、上記のように発泡させたコンパウンド(以下発泡コンパウンドという)に浸漬し、熱セット(75℃、10分間程度)を行い、次いで、アクリル樹脂もしくはウレタン系樹脂のエマルジョン(ガラス転移温度Tgが15℃〜65℃の硬いものが好ましい)に浸漬し、110−130℃、40−60分間程度キュアを行うことにより、皮膜を形成する。アクリル樹脂もしくはウレタン樹脂のエマルジョンに浸漬するのは、スムーズに装着するための皮膜(厚み1−5μm)を手袋内側に形成するためである。この浸漬を行わずに次亜塩素酸と塩酸や酢酸溶液に浸漬するクロリネーションを行ってもよい。リーチングはキュア前もしくは離型後に行うことができる。
【0022】
陶器型を凝固剤溶液に浸漬した後に、液体不透過性のNBR皮膜を形成するコンパウンドで被覆し半キュアしたうえで、上記と同様にして発泡コンパウンドを用いて皮膜を形成してもよい。ここで液体不透過性のNBR皮膜とは、EUROPEAN STANDARD EN374のWater Leak Testに準じて試験したときに水が浸透しない程度のNBR皮膜を言い、上述のNBRラテックスを単独使用するか、もしくは上述の発泡コンパウンドを脱泡して使用して形成することができる。
【0023】
金属製手型に繊維製手袋基材(原手)を被せ、凝固剤溶液に浸漬し、この手袋基材上に、塗布法もしくは浸漬法を用いて発泡皮膜を形成してもよい。手袋基材上に液体不透過性のNBR皮膜と発泡皮膜とを順次に形成してもよい。
【0024】
繊維製手袋基材は、綿、羊毛、ポリエステル、ナイロン、アラミド、ポリエチレン等の天然繊維もしくは化学繊維、あるいは、金属、PVA、カーボン、ガラス繊維をも含んだ複合糸等を用いて、編み織り、不織布製、縫製にて手袋形状としたものである。
【0025】
耐摩耗、滑り止め効果向上のために発泡層(発泡皮膜)の表面に凹凸を付型するには、発泡コンパウンドをスキージ、スクリーン法で凹凸を付して熱成形する方法や、発泡コンパウンドを熱セットして半ゲル化(半架橋)させた後に、凹凸板にて熱プレスして固化させる方法がある。
【0026】
ここで熱プレスとは、金属製、合成樹脂製の型を利用して、半ゲル化した発泡コンパウンドを、プレス圧:1〜100kgf/cm、温度:60〜300℃程度で押圧することをいう。押圧された箇所の気泡はつぶれて熱融着を起こし、空気含有量が減少し、耐摩耗強度が大きくなる。
【0027】
ただしプレス圧を大きくすると、耐摩耗強度が大きくなる半面、皮膜表面に開口する気泡穴が少なくなるので、滑り止め効果の観点からは、軽く押さえるか、あるいは押さえないのが好ましい。特に摩耗しやすい指先や掌部分だけを強化するために部分押ししたり、あるいはプレス型に平板でなく凹凸板を用いるようにしてもよい。
【0028】
凹凸板にて熱プレスする場合、その凸部が当たる箇所の気泡がつぶれて熱融着を起こし、皮膜に凹凸模様が施される。熱融着状態をマイクロスコープによって確認すると、凹部の気泡含有量は凸部の気泡含有量の10容量%〜90容量%に圧縮されている。気泡含有量は凹凸板の凸部の高さ(凹部の掘り込み深さ)を適宜に決めることで調整することができるので、耐摩耗強度、滑り止め効果とも、確保することが可能である。
【0029】
凹凸を付型した手袋を図1および図2に示す。図中の1が原手、2が発泡皮膜、3が押圧箇所、4が気泡(痕)である。液体不透過性のNBR皮膜を形成する場合は原手1と発泡皮膜2との間に配置する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の作業用手袋は、NBRラテックスにアクリロニトリルと(メタ)アクリル酸とアルキルアクリレートとの共重合体をブレンドして、全アクリロニトリル量を高めているので、溶剤に対しての皮膜膨潤がなくなり、耐溶剤性、滑り止め効果が向上し、耐油性、柔軟性、皮膜強度も保持することができ、低重合度のポリマー等の溶出もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかしこれらの実施例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
以下の配合1に示すコンパウンドを、NBRラテックスと、アクリロニトリルとアルキルアクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体(以下、アクリル酸系共重合体という)ラテックスとの比(A/B)を95/5、90/10、80/20、70/30、60/40、50/50として準備した。
【0032】
複数の陶器手型をそれぞれ、硝酸カルシウム溶液に浸漬した後、準備しておいたいずれか1種のコンパウンドに浸漬し、75℃で10分間熱セットし、次いで3%-アクリル樹脂エマルジョン(ガンツ化成社製B-600;ガラス転移温度(Tg)約20℃)に浸漬し、130℃で40分間キュアして、6種類の手袋を作製した。
【0033】
【表1】

(実施例2)
以下の配合2に示すコンパウンドを家庭用ミキサーで攪拌して、それぞれ気泡含有率15%、30%、70%の発泡コンパウンドを準備した(平均泡径:約40μm)。
【0034】
複数の金属手型にナイロン製編み原手を被せ、それぞれを硝酸カルシウム溶液に浸漬した後、準備しておいた発泡コンパウンドのいずれか1種に浸漬し、75℃で10分間、次いで130℃で40分間キュアして、発泡皮膜を備えた3種類の手袋を作製した。
【0035】
【表2】

(実施例3)
以下の配合3に示すコンパウンドを家庭用ミキサーで攪拌して、気泡含有率が15%、30%、70%の3種類の発泡コンパウンドを準備した(平均泡径:約40μm)。
【0036】
複数の金属手型にナイロン製編み原手を被せ、それぞれを硝酸カルシウム溶液に浸漬した後、以下の配合4のコンパウンドに浸漬し、75℃で10分間熱セットし、次いで、準備しておいた配合3の発泡コンパウンドのいずれか1種に浸漬し、75℃で10分間、130℃で40分間キュアして、液体不透過性皮膜と発泡皮膜とを備えた9種類の手袋を作製した。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

(実施例4)
以下の配合5および配合6に示すコンパウンドを家庭用ミキサーで攪拌して、それぞれ気泡含有率15%の発泡コンパウンドを準備した。
【0039】
複数の金属手型にナイロン製編み原手を被せ、それぞれを硝酸カルシウム溶液に浸漬した後、準備しておいた配合5あるいは配合6の発泡コンパウンドに浸漬し、75℃で10分間熱セット、130℃で40分間キュアして、発泡皮膜を備えた2種類の手袋を作製した。
【0040】
【表5】

【0041】
【表6】

(実施例5)
上記の配合5および配合6に示すコンパウンドを家庭用ミキサーで攪拌して、それぞれ気泡含有率15%の発泡コンパウンドを準備した。
【0042】
複数の金属手型にナイロン製編み原手を被せ、それぞれを硝酸カルシウム溶液に浸漬した後、上記の配合4のコンパウンドに浸漬し、75℃で10分間熱セットし、次いで、準備しておいた配合5あるいは配合6の発泡コンパウンドに浸漬し、75℃で10分間熱セット、130℃で40分間キュアして、液体不透過性皮膜と発泡皮膜とを備えた2種類の手袋を作製した。
(実施例6)
実施例2と同様にして、配合2のコンパウンドを用いて空気含有量30%の発泡コンパウンドを準備し、ナイロン製編み原手上に前記配合2の発泡コンパウンドにより皮膜形成して、発泡皮膜を備えた手袋を作製した。
【0043】
また実施例3と同様にして、配合2のコンパウンドを用いて空気含有量30%の発泡コンパウンドを準備し、ナイロン製編み原手上に、配合4のコンパウンドと前記配合2の発泡コンパウンドとにより皮膜形成して、液体不透過性皮膜と発泡皮膜とを備えた手袋を作製した。
【0044】
ただし、各手袋とも、発泡皮膜を形成する75℃,10分間熱セットと130℃,40分間キュアとの間に、凹凸板を用いて凹凸に付型した(図2参照)。凹凸板は、2mm×3mmの長方形で深度0.5mmの凹部を10個/cmの密度で形成したもので、半ゲル化した発泡コンパウンドの掌部を表面側から熱プレス(1kgf/cm,200℃,5秒)した。
(比較例1)
以下の配合7に示すコンパウンドを用いること、NBRとアクリル酸系共重合体との比(A/B)を100/0、98/2、40/60としたこと、を除いては実施例1と同様にして3種類の手袋を作製した。
【0045】
【表7】

(比較例2)
以下の配合8のコンパウンドを用いること以外は実施例2と同様にして、発泡皮膜を備えた3種類の手袋を作製した。
【0046】
【表8】

(比較例3)
上記の配合4のコンパウンドに次いで配合8のコンパウンドを用いること以外は実施例3と同様にして、液体不透過性皮膜と発泡皮膜とを備えた手袋を作製した。
(比較例4)
以下の配合9および配合10のコンパウンドをそれぞれ用いること以外は実施例4と同様にして、発泡皮膜を備えた2種類の手袋を作製した。
【0047】
【表9】

【0048】
【表10】

(比較例5)
上記の配合4のコンパウンドに次いで配合9または配合10のコンパウンドを用いること以外は実施例5と同様にして、液体不透過性皮膜と発泡皮膜とを備えた2種類の手袋を作製した。
(比較例6)
上記の配合8の発泡コンパウンドを配合2のコンパウンドに代えて用いること以外は実施例6と同様にして、発泡皮膜を備えた手袋と、液体不透過性皮膜と発泡皮膜とを備えた手袋とを、発泡皮膜の表面に凹凸を付型して作製した。
【0049】
以上の実施例1〜実施例6及び比較例1〜比較例6で作製した各手袋の物性を次のようにして評価した。
・耐摩耗性の評価
Nu-Martindale測定機を用いてEN388に準拠して行った。原手を発泡皮膜で被覆した手袋については原手が見えるまでの回数、原手を液体不透過性皮膜と発泡皮膜とで被覆した手袋については発泡皮膜がなくなるまでの回数を調べた。回数が多いほど耐摩耗性が強い。研磨剤の種類による影響はない。
・グリップ性の評価
各手袋を装着し、トルエンを付着させた金属棒を実際に握って、滑る度合いを確認した。
【0050】
◎全く滑らない ○滑らない △わずかに滑る ×滑る
・耐溶剤性評価
各手袋より試験片を切り取り、それぞれの引張強度(常態強度)を測定し、その後にトルエンに1分間漬け、表面を軽くぬぐってから引張強度(残留引張強度)を測定した。常態強度に対する残留引張強度の割合が高いほど耐溶剤性が強いとした。発泡皮膜を備えた手袋(原手+液体不透過性皮膜+発泡皮膜)については、親指と人差指とをトルエンに漬け、一定時間毎にこすり合わせ、剥離が生じる浸漬時間が長いほど耐溶剤性が強いとした。
・曲げ評価
KES−FB2曲げ試験機(カトーテック社製) モード:3サイクル でB値〔gf・cm/cm〕を側定した。B値は曲げ硬さの指標で小さな値ほど柔らかいという意味である。通常、サポート(繊維製基材がついている)手袋の場合はB値が2.5を越えると、またアンサポート(繊維性基材がついていない)手袋の場合はB値が1.5を越えると、作業に難がある硬さである。
【0051】
実施例1、比較例1の手袋の試験結果を以下の表11に示す。実施例1は、NBRラテックスにアクリル酸系共重合体をブレンドして作製したアンサポート手袋であり、比較例1は前記共重合体をブレンドしていないアンサポート手袋である。表11において、実施例1の手袋は比較例1の手袋に比べて、常態強度が向上し、溶剤浸漬後も引張強度低下が少なく、耐溶剤性(残留引張強度/常態強度)も134〜276%向上しており、曲げ試験でも充分に柔軟である。A/Bが98/2の手袋は曲げ試験では柔軟であるが耐溶剤性が5%向上と効果が少ない。A/Bが40/60の手袋は曲げ試験で硬く、離型が非常に困難である。
【0052】
【表11】

実施例2、比較例2の手袋の試験結果を以下の表12に示す。実施例2、比較例2はともに、滑り止めを目的として、機械的に気泡を含有させた発泡皮膜を備えたサポート(繊維製基材がついている)手袋である。実施例2は、アクリル酸系共重合体をブレンドしているが、比較例2は前記共重合体をブレンドしていない。表12において、実施例2の手袋は比較例2の手袋に比べて、耐摩耗性が280〜433%向上している。滑り止め効果は同等である。曲げ試験については、実施例2の手袋の方がやや硬いが、硬いと感じるB値2.5に比べると小さい値であり、柔軟であると言える。
【0053】
【表12】

実施例3、比較例3の手袋の試験結果を以下の表13に示す。実施例3、比較例3はともに、繊維性基材上に液体不透過性皮膜を形成し、その上に機械的に気泡を含有させた発泡皮膜を形成した手袋であり、実施例3の発泡皮膜には、アクリル酸系共重合体をブレンドしているが、比較例3の発泡皮膜には前記共重合体をブレンドしていない。
【0054】
表13において、実施例3の手袋は比較例3の手袋に比べて、耐溶剤性は4〜180倍に向上しており、溶剤に対する滑り止め効果も向上している。耐摩耗性も3〜4倍に向上している。柔軟性については、実施例3の手袋の方がやや硬いが、硬いと感じるB値2.5に比べると小さい値であり、柔軟であると言える。また液体不透過性層がない実施例2と比べると硬くなっているが作業性に難はない。耐摩耗性は3倍〜4倍に向上している。
【0055】
【表13】

実施例4、比較例4の手袋の試験結果を以下の表14に示す。実施例4(a)、比較例4(a)は化学発泡剤を添加して発泡皮膜を形成した手袋、実施例4(b)、比較例4(b)はマイクロカプセルを添加して発泡皮膜を形成した手袋であり、実施例4(a)(b)の発泡皮膜には、アクリル酸系共重合体をブレンドしているが、比較例4(a)(b)の発泡皮膜には前記共重合体をブレンドしていない。
【0056】
表14において、実施例4の手袋は比較例4の手袋に比べて、耐摩耗性が約2倍以上に向上している。柔軟性については、実施例4の手袋の方がやや硬いが、硬いと感じるB値2.5に比べると十分に小さい値であり、柔軟であると言える。
【0057】
【表14】

実施例5、比較例5の手袋の試験結果を以下の表15に示す。実施例5(a)、比較例5(a)は、繊維性基材上に液体不透過性皮膜を形成し、その上に化学発泡剤を添加して発泡層を設けた手袋、実施例5(b)、比較例5(b)は、繊維性基材上に液体不透過性皮膜を形成し、その上にマイクロカプセルを添加して発泡層を設けた手袋であり、実施例5(a)(b)の発泡皮膜には、アクリル酸系共重合体をブレンドしているが、比較例5(a)(b)の発泡皮膜には前記共重合体をブレンドしていない。
【0058】
表15において、実施例5(a)の手袋は比較例5(a)の手袋に比べて、耐摩耗性は243%向上し、耐溶剤性は6倍になっている。溶剤に対する滑り止め効果も向上している。実施例5(b)の手袋は比較例5(b)の手袋に比べて、耐摩耗性は267%向上し、耐溶剤性は6倍になっている。滑り止め効果も向上している。柔軟性については、実施例5(a)(b)の手袋の方がやや硬いが、硬いと感じるB値2.5に比べると小さい値であり、実質上は大差ない。
【0059】
【表15】

実施例6、比較例6の手袋の試験結果を以下の表16に示す。実施例6(a)、比較例6(a)は、繊維性基材上に機械的に気泡を含有させた発泡皮膜を形成した手袋、実施例6(b)、比較例6(b)は、繊維性基材上に液体不透過性皮膜を形成し、その上に機械的に気泡を含有させた発泡皮膜を形成した手袋であり、全て、発泡皮膜を凹凸状に成型している。実施例6(a)(b)の発泡皮膜には、アクリル酸系共重合体をブレンドしているが、比較例6(a)(b)の発泡皮膜には前記共重合体をブレンドしていない。
【0060】
表16において、実施例6(a)(b)の手袋は比較例6(a)(b)の手袋に比べて、耐摩耗性が166−193%、耐溶剤性が8倍になっている。滑り止め効果も向上している。柔軟性については、実施例5(a)(b)の手袋の方がやや硬いが、硬いと感じるB値2.5に比べると小さい値であり、実質上はほぼ同等である。
【0061】
【表16】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の作業用手袋は、耐油性および耐溶剤性に優れ、柔軟性、グリップ性、皮膜強度も兼ね備えているので、塗装作業等、広範な作業に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の一実施形態の手袋の外観図および断面図
【図2】本発明の他の実施形態の手袋の外観図および断面図
【符号の説明】
【0064】
1 原手
2 発泡皮膜
3 押圧箇所
4 気泡(痕)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NBRラテックスにアクリロニトリルと(メタ)アクリル酸とアルキルアクリレートとの共重合体をブレンドしてなる、全アクリロニトリル量が36質量%〜53質量%のNBRコンパウンドを材料に用いて皮膜を形成した作業用手袋。
【請求項2】
皮膜の少なくとも表層部が発泡層である請求項1記載の作業用手袋。
【請求項3】
発泡層の表面に凹凸を付型した請求項2記載の作業用手袋。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−231428(P2007−231428A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51401(P2006−51401)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(591161900)ショーワグローブ株式会社 (39)
【Fターム(参考)】