説明

作業用足場装置及び躯体作業方法並びに躯体仮設構台提供方法

【課題】
本体(デッキ)の安定性と作業性を格段に向上させる作業用足場装置及び躯体作業方法並びに躯体仮設構台提供方法を提供すること。或いは、従来と比して、経済性・設置容易性が格段に高く、或いは段取り換えの容易性が高い作業用足場装置及び躯体作業方法並びに躯体仮設構台提供方法を提供すること。
【解決手段】
足場設置面にレベル差を調整可能に設置される固定ベースフレーム18と、前記固定ベースフレームに接続され昇降足場12が昇降自在に設けられセルフクライム可能なガイドマスト14と、前記昇降足場の一方向もしくは多方向に連接されたメインデッキフレーム120A及び該フレーム上に敷設されるメインデッキプレート120Bと、前記ガイドマストに接続され作業対象躯体に対してアンカーをとるアンカー部であって、先端には吸着脱着可能な電磁チャック及び/または真空吸着パッドを備えたアンカー部10と、前記電磁チャック及び/または真空吸着パッドに対して電力を供給する電力供給部16とを具備して構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば作業用足場装置及び船体外壁作業方法並びに躯体仮設構台提供方法に係り、特に、電磁石及び/または真空吸着パッドを利用した作業用足場装置及び躯体作業方法並びに躯体仮設構台提供方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ビルメンテナンス、造船等の高所作業において、ゴンドラを吊下げて作業をする方法が知られている。図3がその様子を示す図である。しかし、この方法を用いる場合、ゴンドラの中で作業員が移動などをすると、反力が働かない為左右に揺れられてしまう。このため作業の効率性が悪く、作業員の安全も脅かされることが多々ある。このほかに地上より足場を組む方法もあるが、ビル壁面や船体本体にアンカーを打つことはできない場合が多いため、安全性が確保されず高所作業ができなかった。
【0003】
この点において、たとえば、特許文献1においては、船底の斜壁面に立て掛ける梯子を作業者が保持しておく必要がなく、その梯子を所定位置に保持固定できる船底斜壁面点検用仮設足場装置という技術的思想が開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、永久磁石からなる複数個の吸着体を備え、永久磁石が椅子と壁面を吸着固定するため、アンカーを打つ必要がないとされるが、特許文献1は梯子についてであって、鉛直方向に巨大な壁面を形成するビル壁面や船体(特にタンカー等)の躯体作業或いは高所作業には用いることができない。
【0005】
また、保持固定に磁石を用いているため、磁力が作用できる金属体の壁面の作業足場の固定には良いが、ビル壁面のようなコンクリートやガラス窓面へは磁力が効かず使用することが出来ないという欠点がある。
【0006】
また特許文献2には大規模なプラントにおける建て屋などの建築物の建設工事における足場の横揺れ防止の「移動式吊り足場」という技術的思想が開示されている。
【0007】
特許文献2においては、走行可能なホイストに足場を吊り下げ、足場下部の伸縮棒の先に吸盤を付加し、足場左右の壁に真空吸着させて足場の横揺れを防止している。文献1と同様 はしごを壁面に電磁的に吸着させるというものであるが、特許文献1と同様に、その用途対象がはしごであるため、高さを設定できる範囲が非常に狭い上に、上記と同様に躯体作業或いは高所作業には用いることができない。また、はしごの上での作業となるため、より細かく精度の高い作業を要求される場合には対応しきれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−105458号公報
【特許文献2】特開平9−60290号公報
【特許文献3】特開2008−28306号公報
【特許文献4】特開平5−263817号公報
【特許文献5】「タコパッド取扱説明書」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまでの技術もしくは技術的思想では、高所作業等の場所における作業足場は通常の枠組み足場を組むか、ビル壁面や船舶などの躯体そのものにアンカーのとれない躯体作業の場合には上部デッキからゴンドラを吊下げてアンカーをとらないで行う作業足場しかなく、前者では経済性・設置容易性が、後者では安全性や段取り換えの容易性が、それぞれ損なわれていた。こうした事情はいわゆる枠組足場、仮設エレベータでも同様であった。
【0010】
本発明はこうした従来技術上の問題点を解決することを企図したものであり、本体(デッキ)の安定性と作業性を格段に向上させる作業用足場装置及び躯体作業方法並びに躯体仮設構台提供方法を提供することを目的とする。本願の別の目的は、従来と比して、経済性・設置容易性が格段に高く、或いは段取り換えの容易性が高い作業用足場装置及び躯体作業方法並びに躯体仮設構台提供方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため、本発明の請求項1に係る作業用足場装置は、足場設置面にレベル差を調整可能に設置される固定ベースフレームと、固定ベースフレームに接続され昇降足場が昇降自在に設けられセルフクライム可能なガイドマストと、昇降足場の一方向もしくは多方向に連接されたメインデッキフレーム及び該フレーム上に敷設されるメインデッキプレートと、前記ガイドマストに接続され作業対象躯体に対してアンカーをとるアンカー部であって、先端には着磁脱磁可能な電磁チャックを備えたアンカー部と、該電磁チャックに対して電力を供給する電力供給部とを具備して構成される。
【0012】
アンカー部とは、磁石を用いてデッキと対象物を吸着・固定させ、安定させる機能を実現するための機械、器具、装置(以下、「装置等」という。)をいい、具体的には、たとえばかかる機能を有する電磁石等によって実現される。アンカー部は電力供給部から電力を供給して着磁させることができる。着磁されたアンカー部は以後、電力の供給を止めても磁力を備えた状態を保つ。アンカー部はまた、電力供給部からの電力供給により脱磁させることができる。たとえば、対象物に吸着させるときは脱磁された状態で船体に位置決めし、電力供給を制御できる操作盤によって適宜電力供給することで着磁させると、磁力が発生して相手側(磁力による吸着が可能な躯体側)に吸着する。作業を終え、移動する場合には、これとは逆に、(脱磁に備えて予め重量を保持できる態勢を整えた上で)電力供給によって脱磁させ、所望の場所・位置に移動させた後、着磁させる。使用される電磁石は永久磁石やソレノイドなどが利用できるが、電磁石として使用可能なものなら特に制限はない。
【0013】
さらにアンカー部は、上記電磁チャックに換えて、真空吸着力を用いてデッキと対象物を吸着・固定させ、安定させる機能を実現するための機械、器具、装置でも良く、具体的には、たとえばかかる機能を有する特許文献3或いは4のような真空ポンプとホースで接続される真空吸着パッド或いは参考文献5のような真空ポンプとパッドが直に接続された真空吸着パッド等によって実現されてもよい。その場合、アンカー部は電力供給部から電力を供給して真空吸着させることができる。
【0014】
また、アンカー部は該電磁チャックと該真空吸着パッドとの組み合わせによって構成されてもよい。この場合、対象物となる壁面や船体等の躯体に起伏や凹凸があっても、磁力及び真空吸着力双方の相乗効果によってデッキを吸着・固定させてより安定させることが可能となる。
【0015】
ガイドマストとは、高所においての作業可能な距離を構成する機能を有するユニット構造物であり、好適にはトラス構造をなすパイプ材の接合体もしくはコラム材がユニットを形成する。ガイドマストには、昇降足場が昇降自在に設けられている。ガイドマストは一つのユニット上に別のユニットを連結することで上部に連結が可能となっている、いわゆるセルフクライム式が好ましい。
【0016】
昇降足場とは、ガイドマストに対して昇降自在に取り付けられているユニットである。好適にはガイドマストの縦軸材に挿着された支柱部とこれに接続された床を支えるフロア下構造と、所望の場所にまでの位置移動を可能にする駆動装置、所望位置で固定し降下を防止するストッパ機構とを備えている。フロア下構造上には昇降足場の床材を敷設することで昇降足場自体も作業足場としても機能する。この場合、駆動装置とは、昇降足場を昇降させる原動力となる機能を有する装置等である。具体的にはたとえば、電動式、空圧式モータ等の自動回転駆動装置等を用いて実現される。好適には足場上から作業者が回転駆動の操作を行なえる構造とする。
【0017】
メインデッキフレームとは、昇降足場の支柱部もしくはフロア下構造に接続されこれによって支持される構造体である。好適にはパイプ材によるトラス構造を採用する。このメインデッキフレーム上にはメインデッキプレートを敷設可能であり、これによって作業員が実質的に作業を行う足場が実現される。アンカー部によって躯体からの支持が実現されるため、安全性が確保され、高所における作業も可能となる。その形状、寸法、材質については特に限定されない。
【0018】
操作制御部として、アンカー部に流す電流のON/OFFの切替や機能を実現するための装置等を別途備えてもよく、或いは作業足場上から制御可能な形式としても遠隔操作形式としてもよい。
【0019】
上記のように構成されることで、たとえば貨物船の高所作業等において、ガイドマストに取り付けられたアンカー部を船体躯体に吸着・固定させることで、作業の際におけるデッキ部の揺れ等の不安定要因が解消され、効率よく且つ安全に作業に行うことができる。アンカー部を船体に吸着させるには、電力供給部から(場合に応じて操作制御部を介して)通電させて(それまで脱磁状態の)アンカー部を着磁させる。こうすることでアンカー部に磁力が働き強力な吸着力が発生するため、風力、揺れ、荷重等に対して足場の安全性が確保される。また、アンカー部を船体から乖離させるには電力供給部からの電力供給によりアンカー部を脱磁させる。こうすることでアンカー部の躯体への吸着が解かれ、船体から簡単に取り外すことができる。また、本構成によれば、トラス式ガイドマストでも、コラム式ガイドマストでも、軽量にすますことが可能なので、1スパンの作業終了後に、一定高さの足場構造は解体することなく、そのままクレーン等で吊下げて隣り等の別のスパン箇所に容易に移動・移設可能である。
【0020】
上記の構成において、請求項4のように、前記ガイドマストは2本設けられ、第1のガイドマストに接続される昇降足場と第2のガイドマストに接続される昇降足場とが前記少なくとも一つのメインデッキフレームで連接されるようによい。
【0021】
ガイドマストを2本設け、それぞれの昇降足場間をメインデッキフレームで連接することで、メインデッキフレームと2本のガイドマストで剛構造を形成し、ガイドマスト1本に係る片持ち梁構造に比して、剛性、対荷重性が向上するため、積載荷重が増加する。
【0022】
上記の構成において、請求項5のように、前記固定ベースフレームに換えて移動式シャーシーを用いることとしてもよい。
【0023】
移動式シャーシーとは、ベースと設置面(地面)との間を車輪等の移動可能な支持材によって支持させ、作業時には適宜固定装置を張り出して固定させる構造をもったベースフレームをいう。
【0024】
移動式シャーシーとすることで、足場装置自体を移動することが可能である。したがって、一か所の作業を終了した場合に、これまでのように足場を解体したり、ゴンドラの最頂部まで上昇させてから段取り換えするなどの手間を要することなく、足場装置自体を移動させることができる。
【0025】
上記の構成において、請求項6のように、前記ガイドマストとしてトラスもしくはコラム材を用い、前記アンカー部は複数個設けられる構成とすることもできる。
【0026】
トラス構造を形成することで、軽量であっても強度を確保でき、運搬性、作業性の向上を促す。また、アンカー部をトラスに対して複数個連接するとは、トラスを形成する軸材の異なる箇所から躯体の別位置に対してアンカーをとることにより、いわゆる足場繋ぎの機能が充足され、引張力、圧縮力に対して対抗性を持たせ、風、地震その他の揺れや重量物の搬入、取り付け時等の揺れに対しても、安全性を確保することができる。代替的に、前記ガイドマストとしてコラム材を用いる場合には、トラス式ガイドマストの場合よりも簡便、軽量であるため作業性に優れる。
【0027】
上記の構成において、請求項7のように、前記アンカー部は、その被覆面の形状が略屈曲状である構成としてもよい。この場合、アンカー部は、その被覆面の形状が略屈曲状のみならず、略屈折状、略凹凸状、略波形状であってもよい。また、参考文献4のような凹凸の激しい外壁素材にも吸着できる真空吸着パッドを使用しても良く、さらに電磁チャックと真空吸着パッドを併用し、さらに磁力と真空吸着力双方による吸着を行ってもよい。
【0028】
また、上記の構成において、請求項2のように、前記アンカー部は、複数個の電磁チャック及び/または真空吸着パッドによって構成されても良い。この場合、アンカー部の複数の電磁チャック及び/または真空吸着パッドは、対象面が大きな起伏または凹凸を有するものであっても吸着することが可能となる。
【0029】
上記のように構成されることで、アンカー部と吸着する対象物の表面が平面でない場合にも対応することができる。具体的にたとえば、足場を組み、高所で作業する際、アンカー部を吸着しようとする対象物の表面の形状が平面であるとは限らない。屈曲していた場合など、被覆面の形状が平面のアンカー部では十分な吸着力を発揮することはおろか、全く吸着できない可能性もある。そこで、アンカー部の被覆面をその対象物の表面の形状に合わせて変形可能とすることで、十分な吸着力・固定力を維持することができる。
【0030】
また、上記の構成に係る足場装置において、メインデッキ部(メインデッキフレームとメインデッキプレートとで構成される足場)は単数基又は複数基であってもよい。複数連接することで、作業足場を長くすることができる。この場合の連接にはメインデッキフレームをピン接合或いは剛接合することでフレームを延設し、その上にデッキプレートを敷設する。
【0031】
また、上記において、請求項8のように、前記メインデッキフレームは、前記昇降足場の両側に設けられるようにしてもよい。
【0032】
メインデッキフレームは、昇降足場から片持ち梁様にして支持されるものであるため、昇降足場から任意の方向に延設可能であるが、躯体に沿って両側に設置することで、重量の安定性(バランス効果)が期待され、また躯体の外壁作業に便宜である足場が提供される。
【0033】
また、上記において、請求項9のように、前記メインデッキフレームにはサブデッキフレームが摺動自在に挿着され、必要に応じて前記作業対象躯体の方向に引き出されたサブデッキフレームとサブデッキプレートとでサブ作業足場が形成されるようにしてもよい。
【0034】
サブデッキフレームが摺動自在に挿着される状態とは、メインデッキフレームから躯体方向にサブデッキ部が延伸できるように、メインデッキフレームの横軸材にサブデッキフレームの横軸材が挿入されて接続される構造をいう。
【0035】
これにより、必要に応じてサブデッキフレームを躯体側に引き出して仮設足場枠組みを形成できる。この上にサブデッキプレートを敷設することでサブ作業足場が形成される。したがって、たとえば外壁の微細作業など躯体表面に近接した方がよい作業の場合や重量物を吊下げ、足場上に仮置搬入する場合等に、より作業性、利便性を向上することができる。
【0036】
また、上記の構成に係る足場装置において、請求項10のように前記電力供給部は、過負荷状態を防止する機構を備えてもよい。
【0037】
上記のように構成されることで、電気の過負荷状態による装置等の故障、及びそれにより発生する事故等を防ぐことができる。電気の過負荷によりデッキ部の昇降中に何か異常が発生すれば事故に繋がる可能性が非常に高い。そこで、電気が過負荷状態になることを防止する装置を備えることで上記事故を防止でき、併せて作業員の安全性を確保することもできる。
【0038】
また、上記の構成に係る足場装置において、請求項11のように、前記ガイドマスト及び/もしくは前記メインデッキフレーム及び/もしくは前記メインデッキプレートは表面処理が施されるようにしてもよい。
【0039】
表面処理とは、たとえば、亜鉛メッキ処理を施すことが挙げられるが、特に材料、施工法等に限定はない。上記のように構成されることで、ガイドマスト及び/もしくはメインデッキフレーム及び/もしくはメインデッキプレートにおける雨風による錆や薬品等による腐食を防ぐことができる。一般的な足場作業において、たとえば風速が10Mを超えたような場合は作業の一旦中止が求められる。そのまま作業を継続すると、足場装置の転倒や、錆に起因する足場材の疲労劣化により作業員の人命が脅かされる可能性がある。そこで、これらの部位における防食性を確保することで作業員の安全性が高度に確保される。
【0040】
また、上記では触れていないが、駆動部を単数及び/もしくは複数のモーターを含むようにすれば、駆動部を安全に運転することができ、また作業員の安全性と作業の効率性を高めることができる。複数のデッキ部に対して単数の駆動部で対応するのでは、負荷がかかりやすく、電力消費も激しい。そこで複数のデッキ部に負荷と電力消費を分散させることで、上記の効果を奏することができる。
【0041】
また、上記課題を解決するために、本発明の請求項12に係る躯体作業方法は、磁力による吸着可能な躯体に対する作業を行う躯体作業方法において、足場設置面にレベル差調整機構付き固定ベースフレームを略水平に設置するステップと、前記固定ベースフレームにガイドマストを取り付けるステップであって、該ガイドマストには昇降足場が昇降自在に設けられ、その昇降足場にはトラスを形成するメインデッキフレームが緊結支持され該フレーム上にはメインデッキプレートが設けられるステップと、前記ガイドマストから前記躯体に対して、先端に着磁脱磁自在な電磁チャックを設けたアンカー部をそれぞれ所定位置に設定するステップと、それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記ガイドマストから前記躯体に対してアンカーをとるステップと、鉛直方向或いは斜め方向に延設する際には、それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを脱磁させることで前記アンカーを解いた上で、前記ガイドマストをセルフクライムさせ、延設後の所定位置においてそれぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記ガイドマストから前記躯体に対して再度アンカーをとるステップとを具備して構成される。
【0042】
上記のように構成されることで、対象物に吸着させるときは脱磁された状態で躯体に位置決めし、適宜電力供給することで着磁させると、磁力が発生して相手側(磁力による吸着が可能な躯体側)に吸着する。移動する場合には、これと逆に、電力供給によって脱磁させ、所望の場所・位置に移動させた後、着磁させることができる。したがって、たとえば貨物船の高所作業等において、マスト部に取り付けられたアンカー部を躯体に吸着・固定させることで、作業際におけるデッキ部の揺れ等の不安定要因が解消され、効率よく且つ安全に作業に行うことができる。
【0043】
さらに、上記アンカー部は、真空吸着パッドによる真空吸着力によって対象物に吸着・固定されるものであっても良く、また電磁チャックと真空吸着パッドの組み合わせによって構成されても良い。
【0044】
また、上記の構成においては、請求項15のように、前記アンカー部を所定位置に設定する際、及び/もしくは、前記アンカー部の電磁チャックを脱磁させる際には、少なくとも2か所において支持されるようにしてもよい。
【0045】
電磁チャック、または真空吸着パッドは一定の重量があることから、電磁チャックまたは真空吸着パッドの脱着前に少なくとも2か所において支持されるようにする(たとえば作業員が最低2名で支えるなど)ことで、意図しない落下を防ぐことができる。したがって、作業員の安全性をより高度に確保することもできる。
【0046】
また、上記課題を解決するために、本発明の請求項16に係る躯体仮設構台提供方法は、磁力による吸着可能な躯体に対する作業、資材運搬、移動を行うための仮設構台を提供する躯体仮設構台提供方法において、縦材を立設しこの縦材を繋ぐ横材を架構して得られるユニットを縦方向或いは斜め方向に延伸させて仮設枠材を構築し、前記仮設枠材の少なくとも複数個所から前記躯体に対して、先端に着磁脱磁自在な電磁チャックを設けたアンカー部をそれぞれ所定位置に設定し、それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記仮設枠材から前記躯体に対してアンカーをとり、縦方向或いは斜め方向に延設する際には、それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを脱磁させることで前記アンカーを解いた上で、前記仮設枠材をセルフクライムさせ、延設後の所定位置においてそれぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記仮設枠材から前記躯体に対して再度アンカーをとることを具備して構成される。
【0047】
躯体に対する作業、資材運搬、移動を行うための仮設構台とは、作業用仮設足場、仮設エレベータを含み、本設工事以外に仮設的に設置されるあらゆる構台を含む。また、仮設構台とは床もしくは足場を含み、作業員その他の人間、資材が載ることのできる一定の剛性、対荷重性を備えた構台をいう。
【0048】
上記の構成によれば、作業用の足場としてコラム式、トラス式のものに限られず、いわゆる枠組足場や作業用もしくは資材搬入用の仮設エレベータについても、磁着力を有する対象躯体に吸着させるときは脱磁された状態で躯体に位置決めし、適宜電力供給することで着磁させると、磁力が発生して相手側(磁力による吸着が可能な躯体側)に吸着させ、移動する場合には、これと逆に、電力供給によって脱磁させ、所望の場所・位置に移動させた後、着磁させることができる。したがって、たとえば貨物船の躯体に対する作業、資材運搬、移動を行う高所作業等において、マスト部に取り付けられたアンカー部を躯体に吸着・固定させることで、揺れ等の不安定要因が解消された枠組足場や作業用もしくは資材搬入用の仮設エレベータが実現され、躯体に対する作業、資材運搬、移動を行うための作業を効率よく且つ安全に行うことができる。
【発明の効果】
【0049】
本願に係る発明によれば、アンカーを打ち辛い高所作業において、マスト部に取り付けられたアンカー部を船体に吸着・固定させることで、作業におけるデッキ部のゆれ等を起こさず、非常に効率よく且つ安全に作業を行うことができる。従来、新造船といったアンカーを打つことができない高所での作業には、建造ヤードよりゴンドラを鉛直方向に吊らせ、そのゴンドラの中で作業をするというのが一般的な方法であった。しかしゴンドラの中での作業は、ゴンドラ自体の揺れ等が激しく作業に集中できない。また、ゴンドラを支えるワイヤーが腐食により切れ、落下するという事故も多発した。さらにゴンドラは鉛直方向にしか移動できないので、横移動するにはわざわざゴンドラを吊り上げて地上で移動させた後、また吊り下げ直すという大変煩雑な作業を要した。そこで、本発明はアンカーとして電磁石を使用することで、造船体本体を傷つけることなく、躯体にアンカーを吸着・固定でき、足場を安定させることができる。尚且つ、電力供給にすることで電磁チャックを脱磁させて簡単に外すことができるので、足場の設置・解体作業も容易且つ効率よく行うことができる。
【0050】
また、上記アンカー部は、前述のように、真空吸着力を有する真空吸着パッドによって構成されてもよく、さらに電磁チャックと真空吸着パッドの組み合わせによって構成されても良い。
【0051】
また本願に係る発明によれば、アンカー部と吸着する対象物の表面の形状が平面でない場合にも対応することができる。たとえば、船体の側面が凹型である場合、被覆面が平面のアンカー部では足場と吸着・固定させることはできない。そこで、本発明はアンカー部の被覆面を平面に限定せず、凸型、凹型、波形型と様々な形に対応可能とすることで、あらゆる対象物との吸着・固定が可能である。
【0052】
また本願に係る発明によれば、マスト部を一定間隔で設置し、デッキ部を連接することが可能となるので、たとえば数十基連接させればデッキ部でビル壁面全体や船体の全長をカバーすることができる。こうすることで足場を移動させる必要がなくなり、煩雑な足場の設営・解体作業を省略化できる。また、足場自体への積載荷重が増加する。
【0053】
また、本願に係る発明によれば、これまでのように足場を解体したり、ゴンドラの最頂部まで上昇させてから段取り換えしたりするなどの手間を要することなく、足場装置自体を移動させることができる。
【0054】
また、本願に係る発明によれば、ガイドマストとしてトラス構造を形成することで、軽量であっても強度を確保でき、運搬性、作業性の向上が達成される。代替的にコラム材を用いる場合には、トラス式ガイドマストの場合よりも簡便、軽量であるため作業性に優れる。
【0055】
また、本願に係る発明によれば、メインデッキフレームを躯体に沿って昇降式デッキの両側に設置することで、重量の安定性(バランス効果)が期待され、また躯体の外壁作業に便宜である足場が提供される。
【0056】
また、本願に係る発明によれば、必要に応じてサブデッキフレームを躯体側に引き出してサブ作業足場が形成され、たとえば外壁の微細作業など躯体表面に近接した方がよい作業の場合や重量物を吊下げ、足場上に仮置搬入する場合等に、より作業性、利便性を向上することができる。
【0057】
また、本願に係る発明によれば、作業員が複数乗員できる作業の足場とすることができる。
【0058】
また、本願に係る発明によれば、複数のデッキ部に対して単数の駆動部で対応するのでは、負荷がかかりやすく、電力消費も激しい。そこで複数の駆動部に負荷と電力消費をかけ、分散させることで、駆動部の故障等を防ぐことができる。
【0059】
また、本願に係る発明によれば、デッキ部及びマスト部の雨風による錆等の腐食を防ぐことができる。デッキ部及びマスト部等の疲労劣化、破損・欠損は直接人命の危険につながるものである。そこで、本発明のように亜鉛メッキ加工等の表面処理を施すことで、腐食の防止を図り、作業員の安全性を確保することができる。
【0060】
また、本願に係る発明によれば、電気の過負荷状態による装置等の故障、及びそれより発生するデッキの落下事故等を防ぐことができる。
【0061】
また、本願に係る発明によれば、たとえば貨物船の高所作業等において、マスト部に取り付けられたアンカー部をビルや船体躯体に吸着・固定させることで、作業際におけるデッキ部の揺れ等の不安定要因が解消され、効率よく且つ安全に作業に行うことができる。
【0062】
また、本願に係る発明によれば、電磁チャックまたは真空吸着パッドの意図しない落下を防ぎ、作業員の安全性をより高度に確保することもできる。
【0063】
また、本願に係る発明によれば、揺れ等の不安定要因が解消された枠組足場や作業用もしくは資材搬入用の仮設エレベータが実現され、躯体に対する作業、資材運搬、移動を行うための作業を効率よく且つ安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置であって、ガイドマストがトラス式の場合の全体概要を示す斜視図である。
【図1A】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置の全体側面を示す図である。
【図1−1】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置のアンカー部とマスト部(ガイドマスト)の拡大側面図である。
【図1−2】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置の通電状態のアンカー部とマスト部(ガイドマスト)の拡大平面図である。
【図1−2A】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置の遮電状態のアンカー部とマスト部(ガイドマスト)の拡大平面図である。
【図1−3】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置の移設の様子を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置のアンカー部の拡大正面図である。
【図2A】本発明の一実施形態に係る真空吸着パッドで構成されたアンカー式足場装置で真空吸着パッドと真空ポンプをパイプで接続されている場合のアンカー部の拡大斜視図である。
【図2B】本発明の一実施形態に係る真空吸着パッドで構成されたアンカー式足場装置で真空吸着パッドと真空吸引ポンプが直に接続されている場合のアンカー部の拡大斜視図である。
【図2C】本発明の一実施形態に係る真空吸着パッドで構成されたアンカー式足場装置のアンカー部の拡大内面図である。
【図2D】本発明の一実施形態に係る真空吸着パッドで構成されたアンカー式足場装置で、真空吸着パッドを複数並べた場合の斜視図である。
【図2E】本発明の一実施形態に係る真空吸着パッドで構成されたアンカー式足場装置で真空吸着パッドを複数並べた場合の断面図である。
【図2F】本発明の一実施形態に係る真空吸着パッドで構成されたアンカー式足場装置で対象躯体の凹凸が大きい場合の吸着図である。
【図2−1】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置のアンカー部の拡大斜視図である。
【図2−2】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置のアンカー部の拡大背面図である
【図2−3】本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置であって、ガイドマストがコラム式の場合の全体概要を示す斜視図である。
【図3】船体について、従来のゴンドラで作業する様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、以下では本発明の目的を達成するための説明に必要な範囲を模式的に示し、本発明の該当部分の説明に必要な範囲を主に説明することとし、説明を省略する箇所については公知技術によるものとする。
【0066】
図1は本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置であって、ガイドマストがトラス式の場合の全体概要を示す斜視図、図1Aは同永電磁チャックアンカー式足場装置の全体側面を示す図である。同図に示すように、永電磁チャックアンカー式足場装置1は、永電磁チャックで吸着・固定をするアンカー部10と、実質的に作業を行うデッキ部12と、そのデッキ部12を支え、高所での作業を可能とする(トラス式)マスト部(ガイドマスト)14と、永電磁チャックやデッキ部12を昇降させる駆動部16とを具備して構成される。アンカー部10は船体20とマスト部14を吸着・固定している。マスト部(ガイドマスト)14は、設置面(地面)に固定ベースフレーム18を介して設置されている。なお、図1においては、(トラス式)マスト部(ガイドマスト)14と固定ベースフレーム18との取り合いについての詳細な記載は省略してある。
【0067】
(昇降式)デッキ部12は、トラス構造を形成するデッキフレーム12Aとこのフレーム上に載置される(図示しない)根太材上に敷設されるデッキプレート12Bとを備えて構成されている。図示する(昇降式)デッキ部12は、詳細には昇降足場を形成する昇降式デッキ部である。この(昇降式)デッキ部12には、片側もしくは両側(或いは任意の方向)に、(昇降機能を有しなくてもよい)メインデッキ部120が接続されている。メインデッキ部120はメインデッキフレーム120Aとこのフレーム上に載置される(図示しない)根太材上に敷設されるメインデッキプレート120Bとを備えて構成されている。メインデッキフレーム120Aとメインデッキプレート120Bとはユニット形式のものを接続して1スパンを形成するものでも、或いは1スパン分の長尺物をデッキ部12と接続するタイプのものであってもよい。なお、図1においては、メインデッキフレーム120Aの一部についての詳細な記載は省略してある。
【0068】
デッキフレーム12A、ガイドマスト14、メインデッキフレーム120Aは好適にはトラスを形成し、アンカー部10はこのトラスに対して複数個連接される。この複数個としては、平面的に複数、断面的に複数であることが好ましく、たとえば図1に示すように、2段にわたり、各段で平面的に2方向の計4か所のアンカーをとることができる。トラス構造を形成することで、軽量であっても強度を確保でき、運搬性、作業性の向上を促す。また、アンカー部をトラスに対して複数個連接するとは、トラスを形成する軸材の異なる箇所から躯体の別位置に対してアンカーをとることにより、いわゆる足場繋ぎの機能が充足され、引張力、圧縮力に対して対抗性を持たせ、風、地震その他の揺れや重量物の搬入、取り付け時等の揺れに対しても、安全性を確保することができる。
【0069】
メインデッキフレーム120Aにはサブデッキフレーム130A(図示しない)が摺動自在に挿着される。具体的には、メインデッキフレーム120Aから躯体方向にサブデッキ部130が引き出されて延伸できるように、メインデッキフレーム120Aの横軸材(図示しない)にサブデッキフレーム130Aが摺動自在に挿着されて接続される構造が採用される。こうした構造により、必要に応じて作業対象である船体(躯体)20の方向に引き出されたサブデッキフレーム130Aとサブデッキプレート130B(図示しない)とでサブ作業足場130が形成される。したがって、たとえば外壁の微細作業など躯体表面に近接した方がよい作業の場合や重量物を吊下げ、足場上に仮置搬入する場合等に、より作業性、利便性を向上することができる。
【0070】
なお、図1に示した例ではガイドマスト14が2本樹立され、その間をメインデッキフレーム120Aが架構されて剛構造を構成する一方、ガイドマスト14の外側にはメインデッキフレーム120Aが片持ち梁形式で支持される構造を示したが、ガイドマスト14が1本のみ樹立され、そのガイドマスト14の躯体に沿った両側にメインデッキフレーム120Aが片持ち梁形式で支持される構造を採用することもできる(図示しない)(後述するガイドマスト141の場合についても同じ)。
【0071】
図1−1は本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置のアンカー部とマスト部の拡大側面図である。支持材(図示しない)の先端に取付けたアンカー部10は船体20に吸着・固定し、マスト部14の安定性を維持している。
【0072】
また、図2は本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置のアンカー部の正面図、図2−1はその斜視図、図2−2はその背面図である。図2のようにアンカー部10は永電磁チャックであり、制御装置及び電力供給部16で電流のON/OFFを操作制御するものである。制御装置及び電力供給部16は、好適には電力供給部に対して過負荷状態を防止する機構を備える。これにより、電気の過負荷状態による装置等の故障、及びそれにより発生する事故等を防ぐことができる。電気の過負荷によりデッキ部の昇降中に何か異常が発生すれば事故に繋がる可能性が非常に高い。そこで、電気が過負荷状態になることを防止する装置を備えることで上記事故を防止でき、併せて作業員の安全性を確保することもできる。
【0073】
次に、上記により構成される永電磁チャックアンカー式足場装置の作用・動作について詳細に説明する。
【0074】
図1に示すとおりに組立てた本発明のアンカー部10に、図2−1に示す制御装置16で電流をONの状態とする。そうするアンカー部10に電力が供給され、着磁される。従ってアンカー部に真空吸着力が働き、ビル壁面或いは船体20と強力に吸着・固定する。こうすることでマスト部14及びデッキ部12の安定性が増大し、作業員(図示しない)は効率良く且つ安全に作業を行うことができる。電力の供給を止めたあとでも着磁状態は保持される。
【0075】
アンカー部10がビル壁面或いは船体20に吸着・固定する様子をさらに具体的に示したのが、図1−2と図1−2Aである。図1―2Aによれば、マスト部14より延設した二つのアンカー部10が船体20に密着している。上述のように、アンカー部10Aへの電力供給を止めた後でも、船体20に吸着・固定されている。また、この状態からアンカー部10を別の場所へ移動させるには、制御装置から電力供給を指示し、アンカー部10を脱着した後、簡単に取り外すことができる。
【0076】
図1−3は本発明の一実施形態に係る永電磁チャックアンカー式足場装置の移設の様子を示す側面図である。同図の通り、永電磁チャックアンカー式足場装置1を移設したのが永電磁チャックアンカー式足場装置1Aである。脱着状態にしたアンカー部10A(図示しない)はビル壁面或いは船体20から容易に取り外され、マスト部14、デッキ部12を移設される。移設には図示しないクレーン等で足場構造全体を吊下げて移動することができる。
【0077】
また、メインデッキ部120(メインデッキフレーム120A及びメインデッキプレート120B)は単数基又は複数基であってもよい。複数連接することで、作業足場を長くすることができる。この場合の連接にはメインデッキフレーム120Aをピン接合或いは剛接合することでフレームを延設し、その上にデッキプレート120Bを敷設する。すなわち、またマスト部14をさらに数基等間隔に設置し、そのマスト部14の間をさらに数基のメインデッキ部120で繋ぐことで、船体20の全長を本足場でカバーすることが可能である。こうすることで、特に足場装置を移動させることを要せずして作業を行うことができるので、従来の移設作業の煩雑性を取り除くことができる。
【0078】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することが可能である。
【0079】
たとえば、上述のごとく、ガイドマスト14を2本設け、第1のガイドマストに接続される昇降足場12と第2のガイドマストに接続される昇降足場12とが少なくとも一つのメインデッキフレーム120Aで連接されるようにすることもできる。このように、マスト部(ガイドマスト)14を2本設け、それぞれの昇降足場間をメインデッキフレームで連接することで、メインデッキフレームと2本のガイドマストで剛構造を形成し、ガイドマスト1本に係る片持ち梁構造の場合に比して、積載荷重が増加する。
【0080】
さらに、上記において、固定ベースフレームに換えて移動式シャーシーを用いる構成をとることもできる。この場合、移動式シャーシーとは、ベースと設置面(地面)との間を車輪等の移動可能な支持材によって支持させ、作業時には適宜固定装置を張り出して固定させる構造をもったベースフレームをいう。このように、移動式シャーシーとすることで、足場装置自体を移動することが可能である。したがって、一か所の作業を終了した場合に、これまでのように足場を解体したり、ゴンドラの最頂部まで上昇させてから段取り換えするなどの手間を要することなく、或いはクレーン等の吊下げ機械を用いることなく、もしくはこれを用いた場合でも自走させる補助としてのみ用いることで作業性を容易にしつつ、足場装置自体を移動させることができる。
【0081】
また、アンカー部10の被覆面の形状は略屈曲状、略屈折状、略凹凸状、略波形状としてもよい。こうすることで、アンカー部と吸着する対象物の表面が平面でない場合にも対応することができる。具体的にたとえば、足場を組み、高所で作業する際、アンカー部を吸着しようとする対象物の表面の形状が平面であるとは限らない。屈曲していた場合など、被覆面の形状が平面のアンカー部では十分な吸着力を発揮することはおろか、全く吸着できない可能性もある。そこで、アンカー部の被覆面をその対象物の表面の形状に合わせて変形可能とすることで、十分な吸着力・固定力を維持することができる。
【0082】
さらに、メインデッキフレーム120Aは、(昇降式)デッキ部12(「昇降足場」ともいう。)の両側に設けられるようにしてもよい。メインデッキフレーム120Aは、昇降足場12から片持ち梁様にして支持されるものであるため、昇降足場から任意の方向に延設可能であるが、躯体に沿って両側に設置することで、重量の安定性(バランス効果)が期待され、また躯体の外壁作業に便宜である足場が提供される。
【0083】
また、上記の例ではガイドマストとしてトラス式ガイドマスト14が採用される場合を例にとって説明したが、ガイドマストとしては、たとえば図2−3に示されるようなコラム式ガイドマスト141を採用することもできる。コラム材としてはたとえば175mm角の鋼材等が採用されるが、寸法、材質、製造法等に特に制限はない。コラム材を採用する場合のアンカー部10との接続としては種々の構成が採用可能であるが、たとえばコラム材に接合(剛接合もしくはピン接合)されたパイプ材を介してアンカー部10を接合してもよい。また、上述のように、コラム式ガイドマスト141単体での使用、2本のコラム式ガイドマスト141の使用とも可能である。因みに、出願人の研究・調査によれば、トラス式ガイドマスト14ではスパン長をコラム式ガイドマスト141の場合よりも長くできる一方、コラム式ガイドマスト141ではトラス式ガイドマスト14よりも簡便、軽量であるため作業性に優れるという特徴がある。なお、図2−3の場合にはアンカー部10が平面的に2か所をとる場合を例示しているが、このような用い方に限定されず、図1のように断面的に複数とる形式を用いてもよく、こうすることで、さらに揺れに対する耐性・剛性が向上し安全性が向上する。
【0084】
また、上記の例ではガイドマストとしてトラス式及びコラム式の場合を例示したが、本願に係る技術的思想は、枠組み足場についても適用可能である(図示しない)。すなわち、既存の枠組み足場を仮設構築し、その縦枠からのアンカーとして本願に係るアンカー部10を用いることができ、こうすることで、ビル壁面或いは船体等の躯体表面に損傷を与えることのできない場合の作業においても安全性の高い作業足場が構築できることとなる。さらに、本願に係る思想は、(図示しない)仮設エレベータに対しても適用可能である。すなわち、仮設エレベータを作業現場に構築する場合、これまではコンクリート躯体等にアンカーをとる必要があったが、本願の技術的思想を適用することで、当該仮設エレベータのフレーム(図示しない)からのアンカーとして本願に係るアンカー部10を用いることで、船体等の躯体表面に損傷を与えることのできない場合の作業においても安全性の高い仮設エレベータが容易かつ経済的に構築できることとなる。
【0085】
さらに(昇降式)デッキ部12、ガイドマスト14、メインデッキフレーム120A、メインデッキプレート120Bの少なくともいずれかには表面処理を施してもよい。表面処理とは、たとえば、亜鉛メッキ処理を施すことが挙げられるが、特に材料、施工法等に限定はない。これにより、これらの部位における雨風による錆や薬品等による腐食を防ぐことができる。一般的な足場作業において、たとえば風速が10Mを超えたような場合は作業の一旦中止が求められる。そのまま作業を継続すると、足場装置の転倒や、錆に起因する足場材の疲労劣化により作業員の人命が脅かされる可能性がある。そこで、これらの部位における防食性を確保することで作業員の安全性が高度に確保される。
【0086】
また、上記では触れていないが、駆動部(図示しない)を単数及び/もしくは複数のモーターを含むようにすれば、駆動部を安全に運転することができ、また作業員の安全性と作業の効率性を高めることができる。複数のデッキ部に対して単数の駆動部で対応するのでは、負荷がかかりやすく、電力消費も激しい。そこで複数のデッキ部に負荷と電力消費を分散させることで、上記の効果を奏することができる。
【0087】
さらに、本願に係る足場を使用した作業において、アンカー部10を船体20(躯体)の外壁の所定位置に設定する際、及び/もしくは、アンカー部10の永電磁チャックを脱着させる際には、好適には少なくとも2か所において、別々の作業員がアンカー部10を支えることにする。永電磁チャックは一定の重量があることから、永電磁チャックの脱磁前に少なくとも2か所において支持されるようにする(たとえば作業員が最低2名で支えるなど)ことで、意図しない落下を防ぐことができる。したがって、作業員の安全性をより高度に確保することもできる。
【0088】
さらに、本願に係るアンカー部において、図2A乃至図2Eのように、複数の伸縮可能な電磁チャック及び/または真空吸引パッドを備えることにより、吸着する対象物が大きな起伏や凹凸がある場合にも図2Fのごとく、各電磁チャック及び/または真空吸着パッドが起伏に合わせて結合して確実に吸着できるわけである。
【0089】
また、上述した実施例は、本発明に係る技術思想を具現化するための実施形態の一例を示したにすぎないものであり、他の実施形態でも本発明に係る技術思想を適用することが可能である。さらにまた、本発明を用いて生産される装置、方法、システムが、その2次的生産品に搭載されて商品化された場合であっても、本発明の価値は何ら減ずるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0090】
上述したように、本願に係る発明によれば、たとえば船体などのアンカーを打ち辛い高所作業において、マスト部に取り付けられたアンカー部をビル壁面或いは船体に吸着・固定させることで、作業におけるデッキ部のゆれ等を起こさず、非常に効率よく且つ安全に作業を行うことができる。
【0091】
したがって、本発明は、その作業の対象をビル壁面或いは船体に限定されることなく、あらゆる素材、用途に対しても、特に高所作業場所に対して、利用・適用可能である。よって、本願は、造船業、建設・土木業、電力産業、観光業、広告業の他、特に大がかりな造設を伴う各種産業に対して大きな有益性をもたらすものである。
【符号の説明】
【0092】
1…永電磁チャックアンカー式足場装置(作業用足場装置)、10,10−A…アンカー部、12…昇降式デッキ部、12A…デッキフレーム、12B…デッキプレート、14…トラス式マスト部(ガイドマスト)、16…制御装置及び電力供給部、18…固定ベースフレーム、20…船体、30…パッド、31…筒型スプリング、32…真空ポンプ、33…パイプ、120…メインデッキ、120A…メインデッキフレーム、120B…メインデッキプレート、141…コラム式マスト部(ガイドマスト)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足場設置面にレベル差を調整可能に設置される固定ベースフレームと、
前記固定ベースフレームに接続され昇降足場が昇降自在に設けられセルフクライム可能なガイドマストと、
前記昇降足場の一方向もしくは多方向に連接されたメインデッキフレーム及び該フレーム上に敷設されるメインデッキプレートと、
前記ガイドマストに接続され作業対象躯体に対してアンカーをとるアンカー部であって、先端には着磁脱磁可能な電磁チャックを備えたアンカー部と、
前記電磁チャックに対して電力を供給する電力供給部と
を具備することを特徴とする作業用足場装置。
【請求項2】
前記アンカー部は、前記電磁チャックに換えて真空吸着パッドを用いることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項3】
前記アンカー部は、伸縮可能な電磁チャック及び/または真空吸着パッドを複数備えることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項4】
前記ガイドマストは2本設けられ、
第1のガイドマストに接続される昇降足場と第2のガイドマストに接続される昇降足場とが前記少なくとも一つのメインデッキフレームで連接されることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項5】
前記固定ベースフレームに換えて移動式シャーシーを用いることを特徴とする請求項1もしくは4記載の作業用足場装置。
【請求項6】
前記ガイドマストとしてトラスもしくはコラム材を用い、前記アンカー部は複数個設けられることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項7】
前記アンカー部は、その被覆面の形状が略屈曲状であることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項8】
前記メインデッキフレームは、前記昇降足場の両側に設けられることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項9】
前記メインデッキフレームにはサブデッキフレームが摺動自在に挿着され、必要に応じて前記作業対象躯体の方向に引き出されたサブデッキフレームとサブデッキプレートとでサブ作業足場が形成されることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項10】
前記電力供給部は、過負荷状態を防止する機構を備えることを特徴とする請求項1記載の作業用足場装置。
【請求項11】
前記ガイドマスト及び/もしくは前記メインデッキフレーム及び/もしくは前記メインデッキプレートは表面処理が施されていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の作業用足場装置。
【請求項12】
磁力による吸着可能な躯体に対する作業を行う躯体作業方法において、
足場設置面にレベル差調整機構付き固定ベースフレームを略水平に設置するステップと、
前記固定ベースフレームにガイドマストを取り付けるステップであって、該ガイドマストには昇降足場が昇降自在に設けられ、その昇降足場にはトラスを形成するメインデッキフレームが緊結支持され該フレーム上にはメインデッキプレートが設けられるステップと、
前記ガイドマストから前記躯体に対して、先端に着磁脱磁自在な電磁チャックを設けたアンカー部をそれぞれ所定位置に設定するステップと、
それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記ガイドマストから前記躯体に対してアンカーをとるステップと、
鉛直方向或いは斜め方向に延設する際には、それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを脱磁させることで前記アンカーを解いた上で、前記ガイドマストをセルフクライムさせ、延設後の所定位置においてそれぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記ガイドマストから前記躯体に対して再度アンカーをとるステップと
を具備することを特徴とする躯体作業方法。
【請求項13】
前記アンカー部は、前記電磁チャックに換えて真空吸着パッドを用いることを特徴とする請求項12記載の躯体作業方法。
【請求項14】
前記アンカー部は、伸縮可能な電磁チャック及び/または真空吸着パッドを複数備えることを特徴とする請求項12記載の躯体作業方法。
【請求項15】
前記アンカー部を所定位置に設定する際、及び/もしくは、前記アンカー部の電磁チャックを脱磁させる際には、少なくとも2か所において支持されることを特徴とする請求項12記載の躯体作業方法。
【請求項16】
磁力による吸着可能な躯体に対する作業、資材運搬、移動を行うための仮設構台を提供する躯体仮設構台提供方法において、
縦材を立設しこの縦材を繋ぐ横材を架構して得られるユニットを縦方向或いは斜め方向に延伸させて仮設枠材を構築し、
前記仮設枠材の少なくとも複数個所から前記躯体に対して、先端に着磁脱磁自在な電磁チャックを設けたアンカー部をそれぞれ所定位置に設定し、
それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記仮設枠材から前記躯体に対してアンカーをとり、
縦方向或いは斜め方向に延設する際には、それぞれの前記アンカー部の電磁チャックを脱磁させることで前記アンカーを解いた上で、前記仮設枠材をセルフクライムさせ、延設後の所定位置においてそれぞれの前記アンカー部の電磁チャックを着磁させることで前記仮設枠材から前記躯体に対して再度アンカーをとる
ことを具備することを特徴とする躯体仮設構台提供方法。
【請求項17】
前記アンカー部は、前記電磁チャックに換えて真空吸着パッドを用いることを特徴とする請求項16記載の躯体仮設構台提供方法。
【請求項18】
前記アンカー部は、伸縮可能な電磁チャック及び/または真空吸着パッドを複数備えることを特徴とする請求項16記載の躯体仮設構台提供方法。

【図1】
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【図1A】
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【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−2A】
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【図1−3】
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【図2】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図3】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【公開番号】特開2011−140859(P2011−140859A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102776(P2010−102776)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(509341606)株式会社川瀬工務店 (6)
【Fターム(参考)】