説明

併用薬物送達のためのポリマー性ミセル

本発明は、薬物併用療法のためのブロックポリマー、ミセルおよびミセル製剤を提供する。ポリアミドブロックポリマー、すなわち、式IおよびIIのポリマー等が、例えば、単純混合型ミセル、物理的混合型ミセルおよび化学的混合型ミセルを含めた、混合型薬物ミセルの調製のために有用である。本発明は、癌を治療する方法、および癌細胞を阻害し、死滅させる方法もさらに提供する。また、ポリマー薬物コンジュゲート、およびそれらを合成するための中間体を調製するための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、米国特許法§119(e)の下、2007年2月26日に出願された、米国仮特許出願第60/891,632号に対する優先権を主張し、この仮出願は本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(政府的援助)
本発明は、国立衛生研究所からの奨学金番号AI−043346の下の政府的援助によりなされている。米国政府は、本発明において特定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
無血管性腫瘍組織における薬物濃度の選択的な増大は、巨大分子バイオコンジュゲートを使用する現在の癌化学療法の最も難しい課題の1つである。ほとんどの抗癌薬は、薬理学的には有効であるが、重大な毒性および低い水溶性のために、それらの臨床適用が制限される。これらの薬物の体内分布を改善すると、それらの全体的な毒性が低下し、治療効果が改善するであろう。これらの理由により、適切な量の活性薬物を固形腫瘍に安全かつ正確に送達する薬物担体の創出に着眼した。
【0004】
抗癌薬はしばしば、癌化学療法の効力を最大化し、かつ毒性を最小化するために併用される。しかし、各抗癌薬が、それ自体の薬物動態プロファイルを有する。1つの薬物が、別の薬物と、それらのそれぞれの薬学的特性が変化するように相互作用し、それによって、副作用の危険が増加する恐れがある。したがって、2つ以上の薬物の量および放出速度を注意深く制御することができる薬物送達の方法およびシステムが求められている。そのような薬物送達システムによって、安全かつ効率的な併用化学療法が可能となるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、制御された併用化学療法のための新規な化合物、組成物および方法が求められている。また、プロドラッグの細胞への送達を媒介するための新規な組成物、すなわち、ミセルバイオコンジュゲート等、および方法も求められている。さらに、安定であり、正常組織に対して毒性が低く、標的の組織または細胞において治療剤を放出することができる組成物も求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(要旨)
本発明は、薬物担体システムとして使用することができるpH応答性ミセルを提供する。pH応答性ミセルは、広い範囲の抗癌薬を、薬物の型、量および放出速度を正確に制御して、腫瘍に送達することを可能にする。pH応答性ミセルは、単一の型の抗癌剤または複数の型の薬物を組み込むことができ、血流または特定の身体組織への、それらの同時送達を可能にする。ミセルの直径は、注意深く制御することができる。1つのクラスのミセルは、狭いサイズ分布を有する、約100nm未満の平均直径を有し得る。サイズおよびサイズ分布のこの正確な制御は、調製物中で使用する薬物の混合比にかかわらずもたらされる。
【0007】
薬物送達システムは、複数の型の薬物を、血流または体内の標的部位に送達することができ、かつ各型の薬物が、ミセルから放出された後には、併用の状況における、そのそれぞれの薬物動態を保持することができる。したがって、これらの薬物送達システムは、ミセル系中に治療剤を組み合わせて使用する化学療法上の方法を提供する。薬物の併用により、相乗効果をもたらすことができ、その結果、適切な治療の利益を得るのに必要な有効用量が減少する。
【0008】
また、本発明は、第1のブロックおよび第2のブロックを含むブロックポリマーも提供し;第1のブロックは、2つ以上のエチレングリコール区分を含み;第2のブロックは、アスパラギン酸、グルタミン酸または両方から誘導された、2つ以上のアミノ酸単位を含み;アミノ酸単位の少なくとも1つの側鎖は、少なくとも1つの治療剤に、ヒドラジド、エステルまたはアミドの部分を通して共有結合により連結している。ヒドラジド、エステルまたはアミドの部分は場合により、治療剤に、連結基または「リンカー」、例えば、コハク酸、4−(ヒドロキシメチル)−ベンズアルデヒド、レブリン酸、エタノールアミン誘導体、またはそれらの組合せから誘導されたリンカーを通して任意に連結されている。
【0009】
アミノ酸は、D−またはL−アミノ酸であってよい。いくつかの実施形態では、ポリマー鎖の少なくとも2つの側鎖が、治療剤にヒドラジド部分を通して共有結合により連結している。いくつかの実施形態では、治療剤は、ポリマーに、このポリマーのアミノ酸区分の側鎖から誘導されたヒドラジド部分およびエステル部分の両方を通して連結している。これらの治療剤は、同一であっても、または異なっていてもよい。
【0010】
1つの型の治療剤がポリマーにつながっている場合、ミセル製剤を、そのようなポリマーから、本発明のポリマーであって、それに連結している少なくとも1つの異なる型の治療剤を有するポリマーと組み合わせて調製し、それによって、物理的混合型ミセル製剤を、これらの2つの、異なる薬物が連結しているポリマーを同一のミセル中に組み合わせることによってもたらすことができる。
【0011】
ヒドラジド部分は、アスパラギン酸単位もしくはグルタミン酸単位の側鎖のカルボン酸部分、または治療剤もしくは治療剤につながっているリンカーのカルボニル部分(例えば、治療剤もしくはリンカーのケトン部分もしくはアルデヒド部分)と、ヒドラジンまたはヒドラジン誘導体とを組み合わせることよって形成することができる。治療剤は、ヒドラジド部分に、ヒドラジドのN’窒素において、ヒドラゾン結合を通して連結することができる。治療剤は、薬物もしくはプロドラッグであってもよく、または薬物もしくはプロドラッグから誘導してもよい。
【0012】
2つ以上のエチレングリコール区分は、ポリ(エチレングリコール)鎖から形成することができる。この鎖は、直鎖、分枝鎖、環状または多環であってよい。この鎖は、約400から約36,000g/モルの分子量を有してよい。1つの実施形態では、10個以上のエチレングリコール区分を、ポリ(エチレン)グリコール鎖から形成することができ、この鎖は、直鎖または分枝鎖のいずれかであってよい。第1のブロックは、約10から約600個のエチレングリコール区分を含むことができる。
【0013】
ポリ(エチレングリコール)鎖は、末端に、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル保護基または任意に置換されているアミノ基を有してよい。ポリ(エチレングリコール)鎖は、末端に、アミノ保護基、例えば、アセテート基等によって置換されているアミノ基を有してよい。
【0014】
第1のブロックと第2のブロックとを相互に、アミド結合または連結基を通して連結することができる。第2のブロックのアミノ酸単位は、D−またはL−アミノ酸から誘導することができる。特定の実施形態では、アミノ酸はL−アミノ酸である。第2のブロックのアミノ酸は、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、それらの組合せ、またはそれらの誘導体であってよい。第2のブロックの分子量は、約350から約40,000g/モルまたは約500から約20,000g/モルであってよい。第2のブロックは、約2から約200、約5から約150、約10から約100、または約10から約50個のアミノ酸単位を含むことができる。
【0015】
ポリマーは、治療剤に連結しているアミノ酸側鎖を有し得る。例えば、1つのポリマー分子が、それにつながっている、いくつかの治療剤を有し得る。治療剤は、同一であっても、または異なっていてもよい。1つの実施形態では、少なくとも2つの異なる型の治療剤が、各ポリマー鎖に連結している。その他の実施形態では、各ポリマー鎖が、全て同一の型の治療剤を有する。これらの実施形態では、これらのポリマーを使用して、その他の型のポリマー、例えば、側鎖であって、その上に異なる型の治療剤を有する側鎖を有するポリマーと共にミセルを調製し、それによって、物理的混合型ポリマー性ミセルをもたらすことができる。あらゆるアミノ酸側鎖が、治療剤に連結している必要があるわけではない。いくつかの実施形態では、特定のポリマーの半分超のアミノ酸側鎖が、治療剤に連結しているであろう。すなわち、ミセルが、多数のポリマー鎖から調製されると;ポリマーの側鎖のうち、第1の型の薬物に連結している側鎖もあれば、場合により第2の型の薬物に連結している側鎖もあり、薬物に連結していない側鎖もある。
【0016】
治療剤は、抗癌性の薬剤、例えば、抗癌薬であってよい。所望の治療剤は、低い水溶性を有する場合があり、そのため、癌療法に現在利用可能なものに代わる代替の送達システムの必要性が高まっている。本明細書に記載するポリマーと共にバイオコンジュゲートを形成するために使用することができる治療剤の例として、これらに限定されないが、アクラルビシン、アピシジン(apicidin)、シクロパミン−KAAD、ククルビタシン、ドラスタチン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、フェンレチニド(fenritinide)、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA、2−メトキシエストラジオール、パクリタキセル、ラディシコール、ラパマイシン、トリプトライド、ワートマニン、およびこれらの種々の組合せが挙げられる。
【0017】
また、本発明は、第1のブロックおよび第2のブロックを含むブロックポリマーも提供し;第1のブロックは、約5から約600個のエチレングリコール区分、または約10から約500個のエチレングリコール区分を含み;第2のブロックは、アスパラギン酸、グルタミン酸、またはアスパラギン酸およびグルタミン酸の両方から誘導された、5から約50個のアミノ酸単位を含み;アミノ酸単位の少なくとも1つの側鎖は、治療剤に、以下の式のリンカーを通して共有結合により連結している。
【0018】
【化1】

式中、Lは、直接的な結合または連結基である。
【0019】
治療剤は、癌を治療するための治療に有効である薬物等の任意の薬物、例えば、本明細書に列挙する治療剤であってもよく、またはそれから誘導してもよい。本発明のポリマーのヒドラゾン連結は、ヒドラジドの窒素と、抗癌薬またはそのような薬物につながっているリンカーのカルボニル(例えば、アルデヒド部分またはケトン部分)とから形成することができる。
【0020】
さらに、本発明は、式Iを含むポリマー;またはそれらの塩も提供する。
【0021】
【化2】

式中、mは、約10から約600であり;nは、約10から約100であり;pは、1、2、3または4であり;
Yは、1から20個の炭素原子を含み、任意に1から8個の酸素原子、窒素原子またはアミド基により介在される連結基であり;かつ
各Rは、独立に、OH、ヒドロキシル保護基、−NH−NH、または−NH−N=C−L−[薬物](式中、Lは、直接的な結合もしくは連結基である)。
【0022】
−NH−N=C−L−[薬物]の基は、ポリマーのアミノ酸部分の側鎖上のヒドラジド基と、薬物のカルボニル基または薬物につながっているリンカーのカルボニル基との間で形成されていてよい。本発明の併用治療用組成物において使用する薬物は、治療に有効な任意の薬物であってよい。したがって、[薬物]の基は、任意の薬物、例えば、ヒートショックタンパク質90阻害剤等の癌を治療するための薬物、例えば、アンサマイシン、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA、ラディシコール、HSP90のATP結合部位に結合する合成化合物等であってよい。適切な薬物の具体的な例として、これらに限定されないが、アクラルビシン、アピシジン、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG)、シクロパミン−KAAD、ククルビタシン、ドラスタチン、ドキソルビシン、フェンリチニド(fenritinide)、ハービマイシンA、ゲルダナマイシン、パクリタキセル、プロテアソーム阻害剤、ラディシコール、ラパマイシン、トリプトライドおよびワートマニンが挙げられる。連結基に共有結合し、次いで、ポリマーにヒドラゾン結合を通して連結することができる任意の薬物を利用することができる。例えば、薬物は、ポリマーに連結基を通してつなげることができる、適切に反応性のヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基またはアミノ基を有する任意の薬物であってよい。各R基は、同一であってもよく、またはいくつかが、異なっていてもよい。すなわち、各R基の身元は、相互に独立して決定することができる。
【0023】
その上さらに、本発明は、式IIのポリマー;またはそれらの塩も提供する。
【0024】
【化3】

式中、
mは、約10から約600であり;nは、約10から約100であり;pは、1、2、3または4であり;
は、H、アルキル、またはヒドロキシルもしくは窒素の保護基であり;
Xは、O、NHまたは非存在であり;Rは、Hまたは窒素保護基であり;かつ
各Rは、式Iの上記の定義に従う。1つの実施形態では、mは、約200から約300であってよく、nは、約30から約50であってよく、pは、1または2であってよい。
【0025】
さらに、本発明は、上記の多数のポリマーを含むミセルも提供する。治療剤は、ミセルの内部上に存在することができ、ポリマーのエチレングリコール区分は、ミセルの外側表面に向かって整列することができる。1つの実施形態では、2つ以上の型の薬物が、ミセルの各個別のポリマー鎖にコンジュゲートしている。すなわち、各ポリマー鎖は、それに連結している2つ以上の型の薬物を有する。別の実施形態では、1つの型の薬物のみが、各個別のポリマー鎖にコンジュゲートしている。しかし、これらの実施形態では、これらポリマー鎖を、その他のポリマー鎖であって、それらに連結している異なる型の薬物を有するポリマー鎖と組み合わせ、それによって、混合型ポリマー性ミセルを形成する。適切な生理的条件下では、これらの混合型ポリマー性ミセルのポリマーは、加水分解して、異なる薬物の種々の組合せおよび比をもたらすことができる。
【0026】
また、本発明は、癌細胞を阻害するまたは死滅させる方法も提供し、この方法は、癌細胞を本明細書に記載する有効量のミセルと接触させるステップを含む。本明細書に記載するミセルを使用して、医薬組成物を、ミセルを薬学的に許容できる希釈剤または担体と組み合わせることによって形成することができる。
【0027】
また、本発明は、癌を治療するための方法も提供し、この方法は、本明細書に記載するミセルを含む、治療有効量の医薬組成物を、癌に罹患している患者に投与するステップを含む。癌の治療は、2つ以上の薬物を腫瘍に送達することを含むことができ、腫瘍に送達する薬物の型の比を、医薬組成物のミセルを調製するために使用するポリマーの比を制御することによって決定する。さらに、本発明は、薬物を哺乳動物の血流に送達する方法も提供し、この方法は、ミセル組成物を含む製剤を静脈内に投与するステップを含む。
【0028】
また、本発明は、治療剤を臓器または細胞に送達する方法も提供し、この方法は、本明細書に記載するミセルを臓器または細胞に投与するステップを含み、約7未満のpHに遭遇すると、ミセルのポリマーの側鎖のヒドラゾンリンカーが加水分解して、治療剤を放出する。ミセルは、それらの環境のpHが6.0を下回ると、pH依存性の薬物放出を示す。こうしたpHは、エンドソームおよびリソソーム等の細胞内の酸性の区画の状態に対応する。
【0029】
したがって、本発明は、新規なポリマー、ミセルを含むポリマー組成物、ならびにポリマーおよび組成物を作製および使用する方法を提供する。例えば、ポリマーおよび組成物を使用して、哺乳動物の疾患または障害を治療することができる。そのような疾患は、米国特許第6,833,373号(McKernら)に記載されている癌等の癌を含む。また、ポリマーおよび組成物を使用して、哺乳動物における疾患、例えば、ヒトにおける癌を治療するための医薬品を調製することもできる。また、本明細書に開示するポリマーの調製に有用な中間体も提供する。
【0030】
本発明の実施形態は、以下の説明および付随する図面を参照することによって最良に理解することができる。説明および図面によって、特定の具体的な実施例または本発明の特定の態様を強調することができるが、当業者であれば、強調された実施例または態様の部分を、本発明のその他の実施例または態様と組み合わせて使用することができること、および特定の態様は、明確化の目的に限って例証することが許され、本発明の範囲は、そのような態様よりも広いことを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のある実施形態によるポリマー性ミセルを図示する図である:(a)自己集合性、酸感受性、両親媒性のブロックコポリマーから調製したミセル;および(b)水溶液中のミセル。ミセルの超分子構造は、哺乳動物の体内では、部位特異的な標的化の利点を有し、かつ血液循環の間は、親水性の外側のシェルにより、反応性の官能基の部分が保護される。
【図2】本発明のある実施形態による、PEG−p(Asp−Hyd−ADR)ミセルの時間およびpH依存性のアドリアマイシン(「ADR」)(ドキソルビシン)の放出プロファイルを示すグラフである。ミセルは、それぞれ外側の状態および細胞内の状態に対応する、領域Aおよび領域BのpHの条件の下では、ADRを選択的に放出した。ミセル上に搭載されたADRの量は、放出が顕著に増加した領域CにおけるpH3.0において計算した。
【図3】本発明の混合型ミセル製剤の3つの異なる型を図示する図である。各ミセルに1つの型の薬物(例えば、薬物A)のみを有するポリマー性薬物コンジュゲートを調製し、次いで、ポリマー性薬物Bコンジュゲートから形成したミセルと製剤中に組み合わせて、単純混合型ミセル製剤を得て、併用薬物療法に提供することができる。ミセル製剤はまた、2つ以上の型の薬物が各ポリマー鎖に連結しているポリマーから調製して、化学的混合型ミセルを形成して、併用薬物療法において使用することもできる。ミセルはまた、同一のミセル中で、薬物Aにコンジュゲートしているいくつかのポリマーと、薬物Bにコンジュゲートしている他のポリマーとを組み合わせ、これによって、物理的混合型ミセルを得て、併用薬物療法において使用することもできる。
【図4】ADRおよびPEG−p(Asp−Hyd−ADR)ミセル(10μg/mL)と共にインキュベートしたヒト小細胞肺癌SBC−3細胞を示すCLSM画像である。遊離のADRとは対照的に、ミセル中のADRの蛍光は、これらが活性化された場合に限って検出される。機械の焦点面を細胞の深さにわたり段階的に動かすことによって、一連の光学切片を積み重ねた(Z−スタックした)。Z−スタックした画像は、ミセルが、点様の形状で細胞質内部に局在化しており、このことから、ミセルは、酸性のリソソーム区画内にあることが想定され、一方、ミセルから放出されたADRの大部分は、細胞核中にあることを明らかに示す;a)暴露1時間後の遊離のADR、b)インキュベーション24時間後の遊離のADR、c)暴露1時間後のミセル、d)インキュベーション24時間後のミセル。
【図5】ヒト小細胞肺癌SBC−3細胞上で、異なるADR濃度および暴露時間を用いた増殖阻害アッセイの結果を示すグラフである。時間の経過と共に、ADR含有ミセルの阻害効果を示す曲線が、遊離のADRの阻害効果を示す曲線に近づいた。
【図6】本発明のある実施形態によって、pH感受性ポリマー性ミセルの設計および細胞内酸性領域への送達の概念を図示する図である。種々の薬物コンジュゲートブロックコポリマーの組合せを使用して、併用薬物療法のために、物理的混合型ミセルまたは単純混合型ミセルを調製することができる。種々のADR部分が、1つまたは複数のその他の治療剤から誘導した部分で置換されている、図に示すミセルを調製することによって、併用薬物療法のために、化学的混合型ミセルを使用することができる。
【図7】本発明のある実施形態によって、本発明のミセルの体内分布および腫瘍特異的蓄積、ならびにドキソルビシンと、本明細書に記載するミセル中で送達されたポリマー連結ドキソルビシンとの、血漿レベルの比較を示すグラフである。動物研究によって、pH感受性ミセルの血液中における長期の循環および腫瘍特異的蓄積が確認された。
【図8】治療対対照(T/C)の比に基づいた、ドキソルビシン注射と比較して、ドキソルビシンのミセルのより広い治療ウィンドウを示すグラフである。pH感受性ミセルの癌治療効力を、小型分子の薬物(ドキソルビシン)と、ドキソルビシン−コンジュゲートミセルとを、治療ウィンドウについて比較することによって評価した。
【図9】混合型ミセルを使用する併用化学療法の改善された有効性を、癌性腫瘍中における薬物の蓄積の結果として示すグラフである。混合型ミセルは、複数の薬物を、同一の薬物動態プロファイルで送達することができるので、注射時の最初の薬物混合比を、腫瘍組織の内部で維持することができる。併用療法は、個別の投与計画の合計よりも大きい相乗効果をもたらす。
【図10】本発明の種々の実施形態による、複数の薬物の送達のための混合型ミセルを図示する図である。この模式図は、種々の実施形態のポリマーが「調律可能である」様子を図示し、約0.1%から約99.9%までの任意のパーセントの1つの薬物を調製することができ、かつポリマー鎖に連結している、残りの薬物は、異なる薬物コンジュゲートである。
【図11】本発明の種々の実施形態による、種々のポリマー−薬物のバイオコンジュゲートのUV吸光度を示すグラフである(同一ポリマー鎖上のドキソルビシンとワートマニンの比が変化している)。
【図12A】DOX/WORのミセル製剤についてのin vitroにおけるデータを示すグラフである。混合型ポリマー性ミセルの組成物を、混合型ミセルの調製の仕方に依存して、「化学的混合型ミセル(CMM)」および「物理的混合型ミセル(PMM)」の名前を用いて区別する。ヒト乳癌MCF−7細胞系に対する、遊離の薬物を組み合わせて使用した場合および混合型ポリマー性ミセルの、薬物への暴露後、30時間(A)および72時間(B)における細胞傷害活性。細胞の生存率の差を、50μMの薬物濃度を用いて比較した(C)。
【図12B】DOX/WORのミセル製剤についてのin vitroにおけるデータを示すグラフである。混合型ポリマー性ミセルの組成物を、混合型ミセルの調製の仕方に依存して、「化学的混合型ミセル(CMM)」および「物理的混合型ミセル(PMM)」の名前を用いて区別する。ヒト乳癌MCF−7細胞系に対する、遊離の薬物を組み合わせて使用した場合および混合型ポリマー性ミセルの、薬物への暴露後、30時間(A)および72時間(B)における細胞傷害活性。細胞の生存率の差を、50μMの薬物濃度を用いて比較した(C)。
【図12C】DOX/WORのミセル製剤についてのin vitroにおけるデータを示すグラフである。混合型ポリマー性ミセルの組成物を、混合型ミセルの調製の仕方に依存して、「化学的混合型ミセル(CMM)」および「物理的混合型ミセル(PMM)」の名前を用いて区別する。ヒト乳癌MCF−7細胞系に対する、遊離の薬物を組み合わせて使用した場合および混合型ポリマー性ミセルの、薬物への暴露後、30時間(A)および72時間(B)における細胞傷害活性。細胞の生存率の差を、50μMの薬物濃度を用いて比較した(C)。
【図13】DOX/GAの混合型ミセル製剤の例を図示する図である。pH感受性ポリマー性ミセルの化学設計および調製。HSP90阻害剤およびTOPOII阻害剤が、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(アスパラギン酸−ヒドラジド)ブロックコポリマーに、pH応答性薬物放出制御のための分解性ヒドラゾンリンカーを通してコンジュゲートしている。
【図14】小型分子薬物(A)およびミセル(B)を用いて、異なる投与スケジュールおよび併用処方により、正常体温(37℃)において処理したMCF−7乳癌細胞の生存率を示すグラフである。D、G、DM、GMおよびNTはそれぞれ、DOX、17−HEA−GA、DOX搭載ミセル、17−HEA−GA搭載ミセル、および正常体温を表わす。
【図15】小型分子薬物とポリマー性ミセルとの、細胞の生存を50%抑制する阻害濃度(IC50)の正常体温(37℃)における比較を示すグラフである。D、G、DMおよびGMはそれぞれ、DOX、I7−HEA−GA、DOX搭載ミセル、および17−HEA−GA搭載ミセルを表わす。
【図16】種々の実施形態による混合型ミセルのライブラリーを調製するために使用した種々の薬物、およびそれらのそれぞれのポリマーコンジュゲートから調製したミセルから得られた粒子サイズを図示する図である。データは、NICOMP380サブミクロン粒子分析器の使用によるダイナミック光散乱による測定によって得た;試料は、希釈し、2mg/mLとした。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(詳細な説明)
本発明は、ポリマー、特にブロックコポリマーを提供し、これらのポリマーは、薬物併用療法において使用するために、それらを「調律できる」ようにする精緻化された特性を有し得る。ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)区分を含むブロックコポリマーが、興味深い。これは、PEGが、付加した薬剤の細胞膜を越える移動を促進する、その能力において独特であることによる。PEGは、水溶性および膜透過性の両方であり、したがって、PEGを本明細書に記載するポリマーにおいて使用すると、現在知られている技術を上回るいくつかの利点が得られる。
【0033】
PEG鎖を本明細書に開示するポリマー上に含めると、治療剤を共有結合によるにもかかわらず柔軟につなげることができ、細胞の中または周囲における薬剤の放出を調律または調節することができる。具体的には、癌細胞中ならびにエンドソームおよびリソソーム等の細胞内区画中に見い出されるpH等、生理的なpHよりも若干低いpHに応答して、ミセルが加水分解により除去される際に、ミセル粒子に付加した治療剤を放出させることができる。薬物連結ミセルのpH依存性を、図2に図示する。
【0034】
定義
本明細書において、「1つの実施形態(one embodiment)」、「ある実施形態(an embodiment)」、「ある例示的な実施形態(an example embodiment)」等という場合、記載する実施形態は、特定の特色、構造または特徴を含むことができるが、あらゆる実施形態が、その特定の特色、構造または特徴を必ずしも含むとは限らない場合があることを示す。さらに、そのような句は、同一の実施形態を必ずしも指すとは限らない。さらに、特定の特色、構造または特徴を、ある実施形態に関連して記載する場合、明確に記載されていてもそうでなくても、その他の実施形態に関連する、そのような特色、構造または特徴に影響を及ぼすことは、当業者の知識の範囲内に属すると考えられる。
【0035】
「ブロックコポリマー」は、1つの型の反復単位が直鎖状に相互に隣接してブロックを形成し、これが、第2の型の反復単位からなる第2のブロックに、例えば、共有結合を通して連結しているポリマーを指す。第2の型の反復単位は、直鎖状に相互に隣接して、ブロックコポリマーの第2のブロックを形成する。
【0036】
「治療剤」という用語は、生物学的に活性な薬剤、プロドラッグまたは薬物を指し、これらとして、例えば、任意の有機または有機金属の小型分子化合物(例えば、約500未満または約800未満の分子量を有する分子)、ポリマー性の種(核酸(DNAおよびRNA)、タンパク質、ペプチド、ホルモン、炭水化物、ならびにそれらの誘導体を含む)、脂質、さらにそれらの混合物が挙げられ、前記薬物または薬剤は、疾患、状態または障害を治療するために、(ヒトまたは動物において)in vivoで投与することができる。適切な治療剤のいくつかの例を、米国特許第6,833,373号(McKernら)、および本明細書に引用する文書に見い出すことができる。それらの開示は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0037】
治療剤は、シグナル伝達阻害剤、癌細胞が急速に増加し、その他の組織に侵入する能力を阻止することができる薬物を含む。本発明のミセル製剤中で使用することができる1つのクラスの治療剤には、ヒートショックタンパク質(HSP)90阻害剤およびトポイソメラーゼII阻害剤がある。HSP90は、トポイソメラーゼIIと複合体を形成する分子シャペロンであり、トポイソメラーゼIIは、細胞の生存の維持において極めて重要な役割を担う、HSP90のクライアントタンパク質の1つである。ゲルダナマイシンおよびその類似体(例えば、17−AAG)等のHPS90阻害剤は、HSP90の二量体のN末端に結合する。ドキソルビシンのような抗癌薬は、中間体のトポイソメラーゼII複合体を標的として、アポトーシスを、DNAにインターカレートすることによって引き起こす。本明細書に記載する治療剤は、本発明のミセル製剤中に含めると、相乗的な治療効果をもたらすことができる。
【0038】
バイオコンジュゲートを本明細書に記載するポリマーと形成するために使用することができる、本発明の治療剤の具体的な例として、これらに限定されないが、アクラルビシン、アピシジン、17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG)、シクロパミン−KAAD、ククルビタシン、ドセタキセル、ドラスタチン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ゲルダナマイシン、フェンリチニド(fenritinide)、ハービマイシンA、2−メトキシエストラジオール(血管新生阻害剤)、パクリタキセル、ラディシコール、ラパマイシン、トリプトライド、ワートマニン、およびそれらの種々の組合せが挙げられる。その他の治療剤として、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、およびカテプシンKの強力な阻害剤でもあるベンジルオキシカルボニル−L−ロイシル−L−ロイシル−L−ロイシナール(「Z−Leu−Leu−Leu−H(アルデヒド)」)が挙げられる。Vottaら、J. Bone Miner. Res.、12巻、1396頁(1997年)を参照されたい。適切に反応性のカルボニル基またはリンカーを利用することができる基を有し、バイオコンジュゲートを形成するために使用することができる追加の治療剤を、The Merck Index、12th Edition(1996年)に見い出すことができる。
【0039】
ポリマーに連結して本発明のミセル製剤を調製することができる、適切な治療剤のさらなる具体的な例として、アクラシノマイシン(aclacinomycin)、9−アミノカンプトテシン、アミノプテリン、ara−C(シタラビン)、アザセリン、ビリコダール(biricodar)、ブレオマイシン、カクチノマイシン(cactinomycin)、カルステロン、カンプトテシン、カルボプラチン、カルボコン、カルミノマイシン(carminomycin)、カルビシン、酢酸クロルマジノン、クロモマイシン、シスプラチン、CPT11、シクロホスファミド、シタラビン(cytarbin)、シトシンアラビノシド、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ジクロロメトトレキセート、ドセタキセル、ドキソルビシン、プロピオン酸ドロモスタノロン、ドロモスタノロン、エミテフル(emitefur)、エピルビシン、エストラムスチン、エトポシド、エキセメスタン、フラボピリドール、5−フルオロウラシル、ホルメスタン、ゲムシタビン、ヘキサメチルメラミン、イダルビシン、イリノテカン、ロイロシジン(leurosidine)、メドロキシプロゲステロン、酢酸メゲストロール、メレンゲストロール、メルファラン、メノガリル、6−メルカプトプリン、メトプテリン(methopterin)、メトトレキセート、メトキサレン、マイトマイシン−C、ミトキサントロン、ノガラマイシン、オナプリストン(onapristone)、フェネステリン(phenesterine)、ピポブロマン、ピポスルファン(piposulfan)、ピラルビシン、ポドフィロトキシン、ポルフィロマイシン、プレドニムスチン、ルビテカン(rubitecan)、ソブゾキサン、スピロノラクトン、ストレプトニグリン、テニポシド、テヌアゾン酸、テストラクトン、トポテカン、トレチノイン、トリアジコン、トリメトレキセート、ウレデパ(uredepa)、バルルビシン、バルスポダール(valspodar)、ビンブラスチン、ビンカミン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびゾルビシンが挙げられる。これらの薬物のそれぞれは、本発明の治療用ミセル中で使用するために、本発明のリンカーと結合を形成することができる、少なくとも1つのヒドロキシル基、カルボキシル基、ケトン基またはアミン基を有する。
【0040】
場合により薬剤をポリマーにリンカーを用いて共有結合させることによって、本発明のミセル製剤中で利用することができる、その他の具体的な治療剤として、ティピファニブ、ゲフィチニブ、セツキシマブ、オキサリプラチン、アンサミトシン(ansamitocin)、アラビノシルアデニン、メルカプトポリリシン、ブスルファン、クロラムブシル、ミトタン、プロカルバジン塩酸塩、プリカマイシン、アミノグルテチミド、エストラムスチンリン酸ナトリウム、フルタミド、酢酸ロイプロリド、クエン酸タモキシフェン、トリロスタン、アムサクリン、アスパラギナーゼ、インターフェロン、硫酸ビンブラスチン、硫酸ビンクリスチン、カルゼレシン(carzelesin)、タキソテイン(taxotane)、ダウノマイシン等の抗悪性腫瘍剤;インドメタシン、イブプロフェン、ケトプロフェン、ジクロフェナク(dichlofenac)、ピロキシカム、テノキシカム、ナプロキセン、アスピリンおよびアセトアミノフェン等の抗炎症剤;テストステロン、エストロゲン、プロゲステロン(progestone)、エストラジオール等の性ホルモン;カプトプリル、ラミプリル、テラゾシン、ミノキシジルおよびプラゾシン(parazosin)等の降圧剤;オンダンセトロンおよびグラニセトロン等の制吐剤;メトロニダゾールおよびフシジン酸等の抗生物質;シクロスポリン;プロスタグランジン;ビフェニルジメチルジカルボン酸、ケトコナゾールおよびアンホテリシンB等の抗真菌剤;トリアムシノロンアセトニド、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロンおよびベタメタゾン等のステロイド;シクロスポリン、ならびにそれらの機能的に同等な類似体、誘導体、またはそれらの組合せが挙げられる。
【0041】
本明細書で使用する場合、薬物の名前であるアドリアマイシンおよびドキソルビシンは、薬物コンジュゲートを形成する文脈においては互換的に使用する。「アドリアマイシン」という用語は時には、ドキソルビシンのHCl塩を具体的に指すために使用する。したがって、本発明の種々の実施形態では、ドキソルビシンおよびそのHCl塩の両方が同一の薬物コンジュゲートを形成することを、当業者であれば容易に認識するであろう。
【0042】
「治療有効量」という用語は、これらに限定されないが、1)癌細胞数の減少;2)腫瘍サイズの減少;3)癌細胞の周辺臓器への浸潤の阻害(すなわち、ある程度の緩慢化、好ましくは、停止);3)腫瘍の転移の阻害(すなわち、ある程度の緩慢化、好ましくは、停止);4)腫瘍の成長のある程度の阻害;5)障害に伴う症状のうちの1つもしくは複数のある程度の軽減もしくは低下;および/または6)抗癌剤の投与に伴う副作用の軽減もしくは低下を含めて、疾患または障害の症状のうちの1つまたは複数をある程度軽減するのに必要な治療剤の量を定めることを意図する。
【0043】
「治療する」および「治療」という用語は、任意の過程、作用、適用、療法等を指し、ヒトを含めた哺乳動物に、哺乳動物の状態を改善する目的で、直接的または間接的に医療扶助を与える。
【0044】
新生物、腫瘍の成長または腫瘍細胞の増殖の文脈における「阻害」という用語は、とりわけ、原発性腫瘍または二次性腫瘍の出現の遅延、原発性腫瘍または二次性腫瘍の発達の緩慢化、原発性腫瘍または二次性腫瘍の発生の減少、疾患の二次的な作用の重症度の緩慢化または減少、腫瘍の成長の停止および腫瘍の退縮によって査定することができる。極端な場合には、完全な阻害を、予防または化学予防と呼ぶことができる。
【0045】
「ミセル」という用語は、コア−シェルの形態を有する超分子構造を指す。ミセルの形成は、エントロピーによって推進され、水分子は典型的には、バルク相に排除される。臨界ミセル濃度(CMC)を上回ると、利用しているポリマーの両親媒性部分が凝集して、ミセル構造をなす。ポリマー性ミセルは典型的には、球状であり、約1から約250nmの範囲、典型的には20〜100nmの範囲のナノスケールの寸法を有し得る。約200nm未満の循環する粒子は、脾臓における内皮細胞間スリットによるろ過を回避することができるので、これは好都合である。ポリマー性ミセルは、血液中で長期間循環し、治療剤、例えば、核酸または水溶性が劣る化合物の標的送達が可能であることが示されている。解離後、ミセルのユニマーは典型的には、<50,000g/モルであり、腎臓からの排除が可能である。これらの特性により、長期の循環が可能となるが、蓄積症に至る恐れがある肝臓におけるミセル構成成分の増加はほとんどまたは全くない。
【0046】
本明細書で使用する場合、「混合型ミセル」または「混合型薬物ミセル」という句は一般に、ミセルのポリマーにつながっている2種類以上の薬物を含む任意のミセルの組成物または製剤を指す。ミセル製剤は、ヒトへの投与に適した溶液等の適切な担体中のミセルの1つの群を指す。3つの異なる型のミセル製剤を、本発明により提供する:単純に異なるミセル製剤、物理的混合型ミセル製剤、および化学的混合型ミセル製剤。これらの製剤のそれぞれから、2つ以上の型の治療剤を含有するミセルが得られ、それによって、相乗的な治療効果をもたらすことができる併用療法を提供する。3つの異なる型の混合型ミセル製剤を図3に模式的に図示する。
【0047】
「単純に異なる」ミセル製剤は、2つの異なる型のミセルを有する製剤を指し、本発明の第1のポリマーが、第1の薬物の型に連結して、1つの型のミセルを形成し、本発明の第2のポリマーが、第2の薬物の型に連結して、第2の型のミセルを形成する。次いで、これらの2つの型のミセルを一緒にして調製物中で混合して、単純に異なるミセル製剤を形成する。
【0048】
「物理的混合型」ミセル製剤は、本発明のポリマーの異なる(それに連結している薬物の型に基づくと異なる)型から調製した、実質的に1つの型のミセルを含み、本発明の第1のポリマーが、第1の薬物の型に連結し、それとは別に、本発明のその他の第1のポリマーが、第2の薬物の型に連結し、これらの異なるポリマーを一緒にして、同一のミセル自己集合過程において混合して、実質的に1つの型のミセル、すなわち、物理的混合型ミセル製剤を形成する。したがって、物理的混合型ポリマーは、各ポリマー鎖がそれに連結している1種類の薬物のみを有する、ポリマー鎖から調製され、2つ以上の異なる型のポリマー鎖を使用して、ミセルを調製する。
【0049】
「化学的混合型」ミセル製剤は、本発明のポリマーの1つの型から調製した、実質的に1つの型のミセルを含み、第1の薬物の型および第2の薬物の型の両方が、同一のポリマー鎖に連結している。次いで、それらに連結している2つ以上の型の薬物を有する、これらのポリマーをミセルに形成して、実質的に1つの型のミセル、すなわち、化学的混合型ミセル製剤を形成する。したがって、化学的混合型ミセルは、各ミセルを形成する、各個別のポリマーに連結している2つ以上の種類の薬物を有するポリマーから調製される。
【0050】
「PEG」という用語は、ポリ(エチレングリコール)およびその誘導体を指す。PEG鎖の分子量は、約500から約20,000であってよい。特定の実施形態では、PEG基は、約2,000から約15,000、約3,500から約12,000、または約3,000から約9,000の分子量を有してよい。その他の実施形態では、PEG基は、約4,000または約7,000の分子量を有してよい。PEG誘導体は、一方または両方の末端にアミン基またはアミド基を、かつ一方または両方の末端にカルボン酸基を有するPEG基を含む。
【0051】
「リンカー」または「連結基」という用語は、共有結合、または2つの部分を一緒にして共有結合により連結する鎖、典型的には炭素鎖、例えば、C〜C20鎖を指す。この鎖には場合により、1つまたは複数の窒素原子、酸素原子、カルボニル基、(置換されている)芳香環もしくはペプチド結合が介在し、かつ/またはこれらの基の1つが、リンカーを形成する鎖の一方もしくは両方の末端に存在してもよい。したがって、リンカーの一方または両方の末端が、オキシ基、アミノ基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、アミド基、炭酸エステル基、カルバメート基、スルホニル基またはヒドラゾン基において終止してよい。したがって、リンカーはまた、ポリL−グリシン、ポリL−グルタミンもしくはポリL−リシン等の同一の型、または異なる型のアミノ酸の1から約5個のアミノ酸の鎖であってもよい。いくつかの実施形態では、リンカーは、20個までの反復単位を有するPEG基であってよい。単純なリンカーの例として、サクシンイミジル基、スルホサクシンイミジル基、マレイミジル基、ならびに種々のC〜C12のジアミンおよびジカルボン酸が挙げられる。多くのリンカーが、当技術分野でよく知られており、本明細書に記載するポリマーを別の治療剤に連結するために使用することができる。例えば、Sewald and Jakubkeによって記載されているリンカー(Peptides: Chemistry and Biology、Wiley−VCH、Weinheim (2002年)、212〜223頁);およびDorwaldによって記載されているリンカー(Organic Synthesis on Solid Phase、Wiley−VCH、Weinheim(2002年))を参照されたい。
【0052】
「保護基」という用語は、ヒドロキシル、窒素またはその他のヘテロ原子に結合させて、この基において望ましくない反応が生じるのを阻止し、従来の化学的または酵素的なステップによって除去して、「未保護」のヒドロキシル、窒素またはその他のヘテロ原子の基を再確立することができる任意の基を指す。利用する特定の除去可能な基はしばしば、種々の合成経路において、その他の基と相互に交換できる。特定の除去可能な保護基として、例えば、アリル、ベンジル、アセチル、クロロアセチル、チオベンジル、ベンジリジン(benzylidine)、フェナシル、メチルメトキシ、シリルエーテル(例えば、トリメチルシリル(TMS)、t−ブチル−ジフェニルシリル(TBDPS)またはt−ブチルジメチルシリル(TBS))等の従来の置換基、およびヒドロキシル官能基上に化学的に導入し、後に、生成物の性質に適合する穏やかな条件において化学的方法もしくは酵素的方法のいずれかによって選択的に除去することができる任意のその他の基が挙げられる。
【0053】
多数の保護基および対応する化学的な切断反応が、Protective Groups in Organic Synthesis、Theodora W. Greene(John Wiley & Sons, Inc.、New York、1991年、ISBN 0−471−62301−6)に記載されている(「Greene」、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている)。Greene は、多くの窒素保護基、例えば、アミド形成基を記載している。具体的には、Chapter 1、Protecting Groups: An Overview、1〜20頁、Chapter 2、Hydroxyl Protecting Groups、21〜94頁、Chapter 4、Carboxyl Protecting Groups、118〜154頁、およびChapter 5、Carbonyl Protecting Groups、155〜184頁を参照されたい。また、Kocienski, Philip J.;Protecting Groups(Georg Thieme Verlag Stuttgart、New York、1994年)も参照されたい。これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。以下に、本発明の方法と併せて利用することができる、いくつかの具体的な保護基について論じる。
【0054】
Greene(14〜118頁)に記載されている典型的な窒素保護基には、ベンジルエーテル、シリルエーテル、スルホン酸エステル、炭酸エステル、硫酸エステルおよびスルホネートを含めたエステルがある。例えば、適切な窒素保護基として、置換されているメチルエーテル;置換されているエチルエーテル;p−クロロフェニル、p−メトキシフェニル、2,4−ジニトロフェニル、ベンジル;置換されているベンジルエーテル(p−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、o−ニトロベンジル、p−ニトロベンジル、p−ハロベンジル、2,6−ジクロロベンジル、p−シアノベンジル、p−フェニルベンジル、2−および4−ピコリル、ジフェニルメチル、5−ジベンゾスベリル(5−dibenzosuberyl)、トリフェニルメチル、p−メトキシフェニル−ジフェニルメチル、ジ(p−メトキシフェニル)フェニルメチル、トリ(p−メトキシフェニル)メチル、1,3−ベンゾジチオラン−2−イル、ベンズイソチアゾリルS,S−ジオキシド);シリルエーテル(シリロキシ基)(トリメチルシリル、トリエチルシリル、トリイソプロピルシリル、ジメチルイソプロピルシリル、ジエチルイソプロピルシリル、ジメチルテキシルシリル、t−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、トリベンジルシリル、トリ−p−キシリルシリル、トリフェニルシリル、ジフェニルメチルシリル、t−ブチルメトキシ−フェニルシリル);エステル(ギ酸エステル、ベンゾイルギ酸エステル、酢酸エステル、クロロ酢酸エステル(choroacetate)、ジクロロ酢酸エステル、トリクロロ酢酸エステル、トリフルオロ酢酸エステル、メトキシ酢酸エステル、トリフェニルメトキシ酢酸エステル、フェノキシ酢酸エステル、p−クロロフェノキシ酢酸エステル、3−フェニルプロピオン酸エステル、4−オキソペンタン酸エステル(レブリン酸エステル)、ピバル酸エステル、アダマントエート(adamantoate)、クロトン酸エステル、4−メトキシクロトン酸エステル、安息香酸エステル、p−フェニル安息香酸エステル、2,4,6−トリメチル安息香酸エステル(メシトエート));炭酸エステル(メチル、9−フルオレニルメチル、エチル、2,2,2−トリクロロエチル、2−(トリメチルシリル)エチル、2−(フェニルスルホニル)エチル、2−(トリフェニルホスホニオ(triphenylphosphonio))エチル、イソブチル、ビニル、アリル、p−ニトロフェニル、ベンジル、p−メトキシベンジル、3,4−ジメトキシベンジル、o−ニトロベンジル、p−ニトロベンジル、S−ベンジルチオ炭酸エステル、4−エトキシ−1−ナフチル、メチルジチオ炭酸エステル);切断の補助が伴う基(2−ヨード安息香酸エステル、4−アジド酪酸エステル、4−ニトロ−4−メチルペンタン酸エステル、o−(ジブロモメチル)安息香酸エステル、2−ホルミルベンゼンスルホネート、2−(メチルチオメトキシ)エチル炭酸エステル、4−(メチルチオメトキシ)酪酸エステル、多岐にわたるエステル(2,6−ジクロロ−4−メチルフェノキシ酢酸エステル、2,6−ジクロロ−4−(1,1,3,3 テトラメチルブチル)フェノキシ酢酸エステル、2,4−ビス(1,1−ジメチルプロピル)フェノキシ酢酸エステル、クロロジフェニル酢酸エステル、イソ酪酸エステル、モノコハク酸エステル、(E)−2−メチル−2−ブテノエート(チグロエート(tigloate))、o−(メトキシカルボニル)安息香酸エステル、p−ポリ安息香酸エステル、α−ナフトエ酸エステル、硝酸エステル、アルキルN,N,N’,N’−テトラメチル−ホスホロジアミダート、n−フェニルカルバメート、ホウ酸エステル、2,4−ジニトロフェニルスルフェネート(2,4−dinitrophenylsulfenate));ならびにスルホネート(硫酸エステル、メタンスルホネート(メシル酸エステル)、ベンジルスルホネート、トシレート、トリフレート)が挙げられる。
【0055】
「薬学的に許容できる」という句は、妥当な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、またはその他の問題もしくは合併症を伴うことなく、ヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適しており、相応に道理にかなった利益/危険の比を有する化合物、材料、組成物および/または投与剤型を指す。
【0056】
「薬学的に許容できる塩」という句は、イオン性化合物を指し、親の非イオン性化合物が、その酸または塩基の塩を作製することによって改変されている。薬学的に許容できる塩の例として、これらに限定されないが、アミン等の塩基性残基の金属塩または有機酸塩;カルボン酸等の酸性残基のアルカリ塩または有機塩等が挙げられる。薬学的に許容できる塩は、従来の無毒性の塩、および例えば、無毒性の無機酸または有機酸から形成された親化合物の四級アンモニウム塩を含む。無毒性の塩は、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、スルファミン酸、リン酸、硝酸等に由来する塩を含むことができる。有機酸から調製された塩は、酢酸、2−アセトキシ安息香酸、アスコルビン酸、ベンゼンスルホン酸、ベヘン酸、安息香酸、クエン酸、エタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ゲンチシン(gentisinic)酸、グルカロン(glucaronic)酸、酸グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシマレイン酸、イセチオン酸、イソニコチン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、シュウ酸、パモ酸(1,1’−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフト酸))、パントテン酸、フェニル酢酸、プロピオン酸、サリチル酸、スルファニル酸、トルエンスルホン酸、ステアリン酸、コハク酸、酒石酸、バイタルタリック(bitartaric)酸等から調製された塩を含むことができる。特定の化合物が、種々のアミノ酸と共に、薬学的に許容できる塩を形成することができる。薬学的に許容できる塩についての総説は、Bergeら、J. Pharm. Sci.、1977年、66巻(1号)、1〜19頁を参照されたい。これは、参照により本明細書に組み込まれている。特定の実施形態では、種々の有機部分の塩を、本発明のポリマー上で利用することが有用である場合がある。例えば、ポリアミドブロックポリマーは、適切な条件下で塩を形成することができる、1つまたは複数の酸性または塩基性の側鎖を含むことができる。
【0057】
本明細書に記載する化合物の薬学的に許容できる塩は、塩基性または酸性の部分を含有する親化合物から、従来の化学的な方法によって合成することができる。一般に、そのような塩は、水もしくは有機溶媒またはそれら2つの混合液中で、これらの化合物の遊離の酸または塩基の形態を、化学量論量の適切な塩基または酸と反応させることによって調製することができ;一般に、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノールまたはアセトニトリルのような非水性の媒体が好ましい。適切な塩のリストが、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed.、Mack Publishing Company、Easton, PA、(1985年)、1418頁に見い出される。この開示は、参照により本明細書に組み込まれている。
【0058】
「低い水溶性」という句は、例えば、中性のpHにおいて測定した場合、約200μg/mL未満の量で水中に溶解する化合物を指す。いくつかの実施形態では、低い水溶性を有する化合物は、約100μg/mL未満で溶解する。その他の実施形態では、低い水溶性は、約75μg/mL未満、約50μg/mL未満、または約25μg/mL未満の溶解性を指す。多くの薬物は、親油性であり、したがって、低い水溶性を有し、そのような薬物を安全かつ有効な様式で投与するのが困難である。適切な水溶性は、非経口投与のためには特に重要であり、したがって、本明細書に記載するミセル製剤は、これらの薬物を投与する、特に併用療法において薬物を投与する場合に顕著な利点をもたらす。
【0059】
ポリマーの特定の態様の変形形態
本発明のポリマーにおいて、2つ以上のエチレングリコール区分が、ポリ(エチレングリコール)(「PEG」)鎖を形成することができる。典型的には、この数は、2区分よりはるかに大きく、約5、約10、約20、約50、約100、約200、約300、約400、約500、約600もしくは約800区分、または前記の値のうちのいずれか2つの間の任意の範囲等である。鎖は、約200から約40,000g/モルの分子量を有してよい。いくつかの実施形態は、約300から約30,000g/モル、または約400から約20,000g/モルのPEG部分を有する。特定の実施形態は、約5,000、約6,000、約8,000、約10,000、約12,000、約15,000、約20,000、約25,000もしくは約30,000、または前記の値のうちのいずれか2つの間の任意の範囲の分子量をもつPEG部分を有してよい。これらのPEG基は、一本鎖、二本鎖、分枝鎖、または環状もしくは複素環の基であってよい。特定の状況においては、複数の型の水不溶性の薬物および/または分子をコンジュゲートする場合、より高い分子量のPEG鎖がブロックコポリマーの溶解性を高めるために有用である場合がある。
【0060】
第2のブロックのアミノ酸単位は、L−アミノ酸、もしくはそれに代わってD−アミノ酸、またはL−アミノ酸とD−アミノ酸との組合せから誘導することができる。第2のブロックの分子量は、約500から約20,000g/モルであってよい。第2のブロックは、約10から約100個のアミノ酸単位を含むことができる。特定の具体的な実施形態は、約10から100単位の任意の数のアミノ酸、例えば、約20〜60個のアミノ酸単位、約30〜50個のアミノ酸単位、または約35〜45個のアミノ酸単位を有してよい。1つの実施形態では、ミセルを形成するポリマーは、約12,000g/モルのPEG鎖および約35〜40個のアミノ酸のアミノ酸から誘導したブロックを有する。この組合せは、非常に安定なミセルをもたらす。
【0061】
混合型ミセルは、組み込まれている薬物の全てについて類似または同一の薬物動態をもたらすことができ、これは、既知の複数薬物送達システムのいずれによっても示されていない特性である。さらに、ミセル中に搭載されている薬物の濃度および比は、制御可能である。種々の組み込まれている薬物の相対的な比率を最適化して、薬物の組合せから、所望の相乗的な活性をもたらすことができる。効率的かつ安全な併用化学療法を、混合型ミセルシステムを使用して、最適な比の薬物分子を標的送達することによって達成することができる。
【0062】
ポリアミド薬物コンジュゲートの調製
ポリアミド区分は、当業者に既知の方法によって調製することができる。以下の実施例に提供する方法等のその他の方法は、本発明のミセルを調製するために有用な種々のポリアミドの効率的な合成をもたらす。次いで、ポリアミドのアミノ酸側鎖を、例えば、保護基を除去し、ヒドラジド基をつなげ、薬物コンジュゲート、リンカー等をつなげることによって改変することができる。種々のリンカーを利用して、特定の生理的条件下で分解する側基を有するポリアミドを調製することができる。例えば、ヒドラゾンリンカーを使用して、薬物をポリアミド骨格に連結することができる。ヒドラゾンリンカーは、中性のpHにおいては、分子の安定性の利点をもたらし、一方、腫瘍の血管構造において典型的に見い出されるより高い酸性度等の酸性環境においては、ヒドラゾンの加水分解性の切断が可能となり、薬物を放出する。
【0063】
さらに、リンカーを使用して、ポリマーの側鎖のヒドラジン部分と縮合させるための適切に反応性のカルボニル基を有しない治療剤に、ポリマーの側鎖を連結するこができる。例えば、反応性のカルボニル基をもたない、対象とする治療剤が、連結基とエステルまたはアミドを形成するために使用することができる、適切に反応性のヒドロキシル基またはカルボキシル基を有する場合がある。これらの官能基は、本発明の標準的な連結基のヒドラゾン結合よりも緩慢な速度で加水分解する(または酵素によって切断される)場合があるが、これらのより緩慢な切断速度を好都合に使用して、遅延放出性の製剤を設計することができる。別の薬物の放出速度と比較して1つの薬物の所望の放出速度をもたらすためには、製剤の放出速度は、ミセルポリマーの薬物への、ヒドラジド連結、および例えば、エステル連結の量を加減することによって調律することができる。
【0064】
例えば、ゲルダナマイシンは、多様なアルキルアミン求核試薬を用いて、そのC17位において容易に置換することができる。次いで、アルキル鎖を、本発明のブロックコポリマーへの連結基として用いることができる。連結基は、それらの鎖上に、ポリアミドブロックの側鎖のヒドラジド部分と縮合するカルボニル基を含むことができる。ゲルダナマイシンの適切なリンカーの例には、2−アミノアセトアルデヒド、またはそのカルボニル基保護誘導体がある。以下のスキームに図示するように、2−アミノアセトアルデヒドは、ゲルダナマイシンのC17−メトキシ基を手際よく置換して、「ゲルダナマイシン−CHO」をもたらす。
【0065】
【化4】

反応は、クロロホルム等の適切な溶媒中、室温で、円滑に進行する。反応の完了は、反応混合液の顕著な色の変化によって明らかに示される。アルデヒド部分は、ポリアミドの側鎖のヒドラゾン部分と容易に縮合するので、優れた連結基として役立つ。次いで、この薬物連結ポリマーを使用して、薬物送達用ミセル製剤を調製することができる。
【0066】
以下の表1に、類似の反応を使用して調製することができる、いくつかのゲルダナマイシン誘導体を示す。適切に反応性のカルボニルをもつリンカーを有する誘導体も、本明細書に開示するポリアミドに連結することができる。
【0067】
【表1−1】

【0068】
【表1−2】

これらおよび類似のリンカーを、検討中のポリアミドのヒドラジド部分と縮合することができるカルボニル基をそれら自体ではもたない、その他の治療剤と共に使用することができる。特定のリンカーは、所望の目的のために、追加の合成操作を必要とする場合があるが、これらの転換は、当業者であれば通常実施することができる。例えば、末端のヒドロキシル基を、メシル酸エステルおよびトシレート等の脱離基に変換することができる。次いで、脱離基を、カルボン酸等、種々のポリアミドの側鎖部分と反応させて、エステル連結を形成することができる。この様式で、薬物連結ポリマーを、2つ以上の型の連結、例えば、治療剤への、ヒドラゾンおよびエステルの両方の連結を用いて調製することができる。次いで、これらのポリマーを使用して、本発明のミセルを調製することができ、薬剤は、異なる放出速度を有するであろう。
【0069】
ミセルの調製
ミセルは、共溶媒蒸発法を含めた種々の方法によって調製することができる。ミセルは典型的には、本明細書に開示するポリマーの溶液を作製して調製することができる。例えば、ポリマーを、水混和性溶媒系に溶解させることができる。この溶液を、激しく撹拌されている水性溶液にゆっくりと添加し、その後に、溶媒を蒸発させるか、または透析することができる。得られた組成物を、ナノろ過および/または遠心分離して、不必要な材料を除去することができる。ミセルを調製するためのその他の有用な技法が、Kwonらによって報告されている(Pharm. Res.、2004年、21巻、1184〜1191頁)。
【0070】
ミセル担体の1つの有用な態様は、それらを利用して、薬剤を化学的に改変することなく、治療剤を送達することができることである。治療剤の送達のためのミセルの特性を増強するために、本明細書に記載するポリマーの構造を手直しすることができる。そのような手直しには、以下の実施例に記載するもの等、アミノ酸側鎖改変の量および性質を変化させることがある。
【0071】
本明細書に開示するポリマーから形成したミセルによって、ポリマーのPEG基が、ミセルの外側部分に集中することが可能になる。したがって、ミセルのコロナは親水性であり、血中における長期の循環、および最終的には、ミセルの細胞内への組み込みが可能となる。
【0072】
ミセル組成物の1つの利点として、ミセルの保管および送達の容易さが挙げられる。ミセル組成物は、凍結乾燥し、静脈内投与の前に再構成することができる。これによって、場合によっては、塞栓症の形成に至る恐れがある薬剤の沈殿の危険を低下させることができる。ミセル組成物は、長期の血液循環、単核食細胞による低い取り込み、および低いレベルの腎排泄が可能である。また、ミセル組成物は、増強された透過性および保持率(EPR)を有しており、被包されている治療剤が標的、例えば、腫瘍に達する可能性が高まる。
【0073】
腫瘍は典型的には、高い血管密度、および不完全な血管構造を有する。したがって、高度の血管外遊走が生じ、リンパ管のクリアランスを損なう場合がある。エンドサイトーシス、およびそれに続くミセルの脱凝集によって、被包されていた薬剤の放出および細胞内への送達が可能となる。
【0074】
ポリプレックスミセルを含めて、種々の直径のミセルを調製することができる。種々の実施形態では、未搭載または空のミセルを調製することができる。その他の実施形態では、得られたミセルは、約200nm未満または約100nm未満の平均直径を有してよい。別の実施形態では、ミセルは、約55nmから約90nmの平均直径を有してよい。1つの実施形態では、ミセルのキュムラント直径が、約60nmから約90nmであってよい。調製されている、いくつかの薬物コンジュゲートポリマーの粒子サイズについてのデータを、図16に示す。
【0075】
PEGのコロナを有する、小型のサイズのポリマー性ミセルは、生物学的な系において、ミセル担体が認識されない、すなわち、自己としての状態を維持するのを支援することができる。ポリマー性ミセルのナノスケールの寸法に伴うその他の利点には、ろ過による滅菌の容易さ、および投与の安全性がある。ミセルのコアは、生物学的に活性な薬剤を取り込み、保護し、保持して、in vivoにおける薬剤の溶解性および安定性を改善し、薬剤の放出を制御し、全体的な毒性を低下させ、その他の治療剤との薬物動態学的な相互作用を減弱させる。
【0076】
関連のミセルおよびそれらの使用が、Kanayama、Kataokaらによって、Chem. Med. Chem.、2006年、1巻、439〜444頁に記載されている。これは、参照によって本明細書に組み込まれている。その他の関連の技術が、Fukushima、Kataokaらによって、J. Am. Chem. Soc.、2005年、127巻、2810〜2811頁に開示されている。これは、参照によって本明細書に組み込まれている。さらに、光化学的トランスフェクション技術がKataokaらによって、J. Controlled Release、2006年、115巻、208〜215頁に開示されている。これもまた、参照によって本明細書に組み込まれている。ポリアミドおよびミセル技術に関する、その他の有用な情報を、WO2005/118672(LavasanifarおよびKwon)、ならびに米国特許出願公開第2004/0005351号(Kwonら)、第2004/0116360号(Kwonら)、第2006/0251710号(Kwonら)に見い出すことができる。これらのそれぞれが、参照によって本明細書に組み込まれている。
【0077】
ミセルの投与
ミセルは、医薬組成物として適切に製剤化して、in vivoにおける投与に適した、生物学的に適合性の形態で、ヒト対象に投与することができる。したがって、特定の実施形態では、本明細書に記載するミセルを、適切な希釈剤または担体と共に混合物中に含む医薬組成物を提供する。適切な希釈剤または担体には、食塩水、または水性デキストロース、例えば、5%水性デキストロース溶液がある。そのような製剤は、血液等のヒトの流体、または種々の組織環境と等張であるように調製することができる。特定の実施形態ではまた、高張または低張な調製物を調製することが望ましい場合もある。その他の実施形態では、組成物を調製し、in vitroにおける実験のために、例えば、種々のスクリーニングおよび診断手順において使用することができる。
【0078】
ミセルを含有する組成物は、対象に投与することができる薬学的に許容できる組成物を調製するための既知の方法によって調製することができ、したがって、ミセル内の有効な分量の治療剤が、薬学的に許容できるビヒクルと共に混合物中に組み合わさっている。適切なビヒクルは、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(2003年、20th Ed.)、The United States Pharmacopeia: The National Formulary(USP 24 NF19)、1999年出版、および the Handbook of Pharmaceutical Additives(MichaelおよびIrene Ash編、Gower Publishing Limited、Aldershot, England (1995年))に記載されている。これに基づいて、組成物は、これらに限らないが、1つまたは複数の薬学的に許容できるビヒクルまたは希釈剤と合わさり、適切なpHを有する、生理的な流体と等張の緩衝溶液中に含有されているミセルの溶液を含む。この点については、米国特許5,843,456号(Paolettiら)を参照することができる。1つの実施形態では、医薬組成物を使用して、ミセルのポリマーに連結している薬物等の治療剤の体内分布および薬物送達を増強することができる。
【0079】
本明細書に記載するミセルは、当業者には容易に理解されるように、選択された投与経路に依存して、多様な形態で対象に投与することができる。ミセルは、例えば、経口、非経口、頬側、舌下、経鼻、直腸、パッチ、ポンプまたは経皮による投与によって投与することができ、それに応じて、医薬組成物を製剤化することができる。非経口投与には、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、胸骨内、経上皮、経鼻、肺内、くも膜下腔内、直腸、および注入形態の投与がある。非経口投与は、選択された期間にわたる連続注入によってもよい。
【0080】
注射用調製物、例えば、無菌の注射用の水性または油性の懸濁剤を、既知の技術に従って、適切な分散剤もしくは湿潤剤、および懸濁化剤を使用して製剤化することができる。無菌の注射用調製物はまた、無毒性の非経口的に許容できる希釈剤または溶媒中の無菌の注射用の液剤または懸濁剤、例えば、1,3−ブタンジオール中の液剤であってもよい。利用することができる許容できるビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル液および等張の塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌の固定油は、溶媒または懸濁媒体として、従来から利用されている。この目的では、合成のモノ−またはジグリセリドを含めた、任意の温和な固定油を利用することができる。さらに、オレイン酸等の脂肪酸は、注射剤の調製において利用できる。ジメチルアセトアミド、イオン性および非イオン性の洗剤を含めた界面活性剤、ポリエチレングリコールを使用してもよい。また、溶媒と湿潤剤との混合液も、有用である場合がある。
【0081】
ミセルを、例えば、不活性な希釈剤もしくは吸収可能な食用の担体と共に経口投与してもよく、または硬質もしくは軟質の殻のゼラチンカプセル中に封入してもよく、または錠剤に圧縮してもよく、または食餌の食品に直接組み込んでもよい。経口治療投与のためには、本発明のミセルを、賦形剤と共に組み込み、摂取可能な錠剤、バッカル錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハ剤等の形態で使用することができる。ミセルはまた、非経口投与することもできる。
【0082】
ミセルの液剤を、適切な賦形剤と適切に混合した水中で調製することができる。保管および使用の通常の条件下では、これらの調製物は、保存剤を、例えば、微生物の増殖を阻止するために含有することができる。
【0083】
注射用に適した薬学的形態には、無菌の水性の液剤または分散剤、および無菌の注射用の液剤または分散剤を用時調製するための無菌の散剤がある。製剤は、無菌でなければならず、液剤または分散剤がシリンジを介して投与できる程度に流動性でなければならない。
【0084】
経鼻投与のための組成物を、エアロゾル剤、滴下剤、ジェル剤および散剤として好都合に製剤化することができる。エアロゾル製剤は典型的には、生理的に許容できる水性または非水性の溶媒中の活性物質の液剤または微粒子の懸濁剤を含み、通常、密閉容器中に無菌の形態の単回用量または多回用量の分量で提供され、容器は、噴霧装置を用いて使用するために、カートリッジの形態をとってもよく、または詰め替えてもよい。あるいは、密閉容器は、単位用量を分配する装置、すなわち、単回用量経鼻吸入器、または計量バルブをつけたエアロゾルディスペンサー等であってもよく、この容器は、使用後には廃棄するものとする。この投与剤型がエアロゾルディスペンサーを含む場合、これは、圧縮空気等の圧縮ガス、またはフルオロクロロヒドロカーボン等の有機噴霧剤であってよい噴霧剤を含有する。エアロゾル投与剤型はまた、ポンプ−噴霧器の形態をとってもよい。
【0085】
頬側または舌下からの投与に適した組成物には、錠剤、ドロップ剤および芳香錠剤があり、活性成分を、糖、アカシア、トラガントまたはゼラチン等の担体、およびグリセリンと共に製剤化する。直腸投与のための組成物は、カカオ脂等の従来の坐剤用基剤を含有する坐剤の形態であるのが好都合である。
【0086】
本明細書に記載する組成物は、単独で、または上記で注目したように、薬学的に許容できる担体と組み合わせて動物に投与することができ、その比率は、化合物の溶解性および化学的性質、選ばれた投与経路、ならびに標準的な薬学的習慣によって決定する。ある実施形態では、医薬組成物を、感染部位への直接的な適用等の好都合な様式で、例えば、注射(皮下、静脈内、非経口等)により投与する。呼吸感染の場合には、本発明のミセルおよびそれを含む組成物を、当技術分野で既知の技法、例えば、吸入によって投与するのが望ましい場合がある。投与経路(例えば、注射、経口または吸入等)に依存して、医薬組成物またはミセルまたは本発明のミセル中の生物学的に活性な薬剤を材料中に被覆して、酵素、酸、および組成物または被包されている薬剤の特定の特性を不活性化する恐れがある、その他の自然条件から、ミセルまたは薬剤を保護することができる。
【0087】
また、医薬組成物に加えて、非薬学的な目的の組成物も本発明の範囲に含まれる。そのような非薬学的な目的には、美容用製剤の調製、または診断用もしくは研究用のツールを調製する目的がある。1つの実施形態では、治療剤、またはそのような薬剤を含むミセルを、蛍光標識または放射標識等の当技術分野で既知の標識を用いて標識することができる。いくつかの実施形態では、ポリマーの薬物の1つまたは複数を、診断薬で置換することができる。
【0088】
また、本発明は、生物学的に活性な薬剤または製剤または医薬組成物を送達するために使用することができる送達システムも提供する。1つの実施形態では、本発明は、癌治療剤の組合せの送達を含む。別の実施形態では、本発明は、両親媒性または疎水性のコアおよび親水性の外側表面を含むミセルに自己集合するポリマーに治療剤を連結することによる治療剤の送達を含み、それによって、血液、体液、組織および臓器等の水性媒体中での治療剤の送達を改善する。
【0089】
その他の態様では、本発明は、生物学的に活性な薬剤を、それらの毒性プロファイルを低減させて送達することを含む。これはしばしば、治療剤を組み合わせて投与することによって引き起こした相乗作用によって生じ、それによって、同等の治療効果に必要な用量が低下する。また、本発明は、薬物の可溶化および送達のために現在使用されているビヒクルに伴う共通の問題である、送達ビヒクル中での薬物の凝集または沈殿を低減するための方法も含む。したがって、本発明は、治療剤の体内分布の改善をもたらし、その結果、毒性の低下および/またはより低い用量での治療効力の改善を得る。例えば、本発明の併用療法において使用する組み合わせた用量を使用して、1つの薬物の単回用量として提供することができる量よりも多い量の薬物を、より多い用量が単一の薬物によって提供された場合に発生するであろう付随する毒性の問題なしに送達することができる。
【0090】
本発明の別の態様は、生物学的に活性な薬剤を送達して、それを必要とする対象の疾患、状態または障害を治療する方法を含み、この方法は、効果量の薬剤搭載ミセルを対象に投与するステップを含む。1つの実施形態では、疾患、状態または障害は、癌もしくは薬物耐性の癌、感染症、または自己免疫疾患である。
【0091】
本発明のミセルの投与量は、ミセルの薬物動態特性、生物学的に活性な薬剤、薬剤のミセルからの放出速度、投与経路、レシピエントの年齢、健康状態および体重、症状の性質および程度、治療の頻度および、もしあれば、併用する治療の型、治療する対象における薬剤および/またはミセルのクリアランス速度等の多くの要因に依存して変化することができる。
【0092】
例えば、いくつの実施形態では、約1mg/mLから約100mg/mLに相当するミセル製剤の用量を患者に投与することができる。特定のその他の実施形態では、ミセル製剤は、約2〜20、約5〜15または約10mg/mLを含む。治療効果および/または予防効果を得るための本発明により投与する化合物の具体的な用量はもちろん、例えば、投与する化合物、投与経路、治療する状態および治療する個人を含めた、症例を囲む特定の状況によって決定される。(単回用量または分割用量として投与する)典型的な1日の用量は、約0.01mg/kgから約150mg/kg体重までの本明細書に記載する活性な治療剤の投与量のレベルを含有することができる。いくつかの実施形態では、約5〜10、約10〜20、約20〜40、約25〜50、約50〜75、約75〜100、または約100〜150 150mg/kg体重の治療剤を、一用量として提供する。その他の実施形態では、約5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、90、100、110、120、125、140または150mg/kg体重の治療剤を、一用量として送達する。しばしば、1日の用量は、一般に、約0.05mg/kgから約20mg/kgまで、理想的には、約0.1mg/kgから約10mg/kgまでである。
【0093】
当業者であれば、上記の要因に基づいて、適切な投与量を決定することができる。ミセルは最初、臨床応答に依存して必要に応じて加減することができる、適切な投与量で投与することができる。短期間、例えば、30分から1時間以上にわたるex vivoにおける細胞の治療の場合には、より長期のin vivoにおける療法の場合よりも高い用量のミセルを使用することができる。
【0094】
ミセルを、単独で、または同一および/もしくは別の状態、疾患または障害を治療する、その他の薬剤と組み合わせて使用することができる。ミセルまたは生物学的に活性な薬剤のいずれかまたは両方を標識する、別の実施形態では、多様な疾患について、最適な用量範囲、薬物搭載濃度およびミセルのサイズを決定し、薬物を標的に送達するために、in vivoまたはin vitroにおいて研究を実施することができる。
【0095】
併用療法
本発明のポリマー、ミセルおよびミセル製剤は、水溶性が劣る治療剤の組合せを送達するための好都合な方法を提供する。これらの治療剤はしばしば、通常遭遇する送達ビヒクル中では不適合である。ポリマーに連結している薬物は、酸性環境においてのみ加水分解するので、治療剤の送達は、良好に制御される。ミセルは、高いレベルで薬物を搭載し、かつ低い毒性を維持することができる。これは、薬物が、腫瘍の付近にない場合には、感知できるほどの速度では放出されないことによる。薬物の腫瘍に特異的な蓄積に加えて、ミセルはまた、血液中での長期の循環および標的部位におけるプロドラッグからの活性薬物の再生も提供する。さらに、pH応答性のポリマー性ミセルを使用することによって、非特異的な薬物の分布を低下させ、それによって、2つ以上の薬物を同時に送達する間中、抗癌薬の安全性および腫瘍を標的とする送達の効率の両方を増強する。
【0096】
2つ以上の治療剤の送達は通常、併用療法として知られている。「併用療法」(または「共治療」)という句は、2つの治療剤の共同作用から有益な効果をもたらすことを意図する特異的な治療計画としての、これら2つの異なる治療剤の投与を包含する。組合せの有益な効果として、これに限定されないが、治療剤の組合せから生じる薬物動態学的または薬物動力学的な共同作用が挙げられる。これらの治療剤の組み合わせての投与は典型的には、定義された期間(通常、選択した組合せに依存して、数分、数時間、数日または数週間)にわたり実施される。
【0097】
併用薬物療法は典型的には、大部分の薬物が非常に水に不溶性であることから、適切な投与に伴う内在性の困難を有する。したがって、経口および静脈内の投与に、問題が生じ、無効になる場合がある。本発明のミセルを使用して投与することができる、併用療法の顕著な利点は、2つ以上の、溶解性の低い薬剤等、それ以外の方法では投与が困難な薬剤を、同時の様式となすことができる点である。同時投与は、例えば、各治療剤を一定の比で有する単一のミセル製剤を対象に投与することによって達成することができる。治療剤の組合せの同時投与は、これらに限定されないが、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、および粘膜組織を通しての直接的な吸収を含めた、任意の適切な経路によって達成することができる。個々の共治療は、同一の経路または異なる経路によって投与することができる。
【0098】
「併用療法」はまた、その他の生物学的に活性な成分(これらに限定されないが、第3の治療剤および異なる治療剤等)ならびに非薬物療法(これらに限定されないが、手術または放射線治療等)をさらに組み合わせた、上記で説明した治療剤の投与も包含することができる。併用療法が放射線治療をさらに含む場合には、治療剤の組合せと放射線治療との共同作用から有益な効果が達成される限り、任意の適切な時期において、放射線治療を実施してよい。例えば、適切な症例では、放射線治療が治療剤の投与から一時的に、おそらく数日の単位、または数週間もの単位で除かれても、有益な効果が依然として達成される。
【0099】
併用療法において治療剤の治療有効量を特徴付ける際の「低い用量」または「低い投与量」という句は、障害または疾患の重症度を改善し、かつ骨髄抑制、心臓毒性、脱毛症、悪心または嘔吐等、1つまたは複数の治療剤によって引き起こされる副作用を低減または回避することができる、そのような薬剤の分量またはそのような薬剤の分量の範囲を定義する。
【0100】
多くの相乗的な薬物の組合せを、本発明のミセル組成物を使用して投与することができる。1つの極めて重要な相乗的な組合せが、17−AAGとパクリタキセルとを含むミセル製剤である。17−AAGとパクリタキセルとの相乗作用については、Rosenらによって論じられている(Cancer Research、63巻、2139〜2144頁、2003年5月1日;これは、参照によって組み込まれている)。本発明の1つの実施形態では、ミセル製剤の1つの薬剤が、第2の薬物によって引き起こされる腫瘍細胞のアポトーシスに対する感受性を増加させる。これらの相乗効果は、乳癌を治療するために特に価値がある場合がある。
【0101】
治療剤の組合せを、非拮抗的である、特に、広い範囲の濃度にわたって非拮抗的である比で送達することが特に好都合である。PCT公開第PCT/CA02/01500号に記載されているように、in vitroにおける試験の結果に基づいて非拮抗的な比を決定することができるアルゴリズムが利用可能である。適切な相乗的な薬物の組合せの例および広い範囲の薬物濃度にわたる非拮抗的な比の決定についてのさらなる論述を、WO2006/014626(Mayerら)に見い出すことができる。これは、参照により本明細書に組み込まれている。
【0102】
以下の実施例は、上記の発明を例証するためのものであって、その範囲を狭めるためのものであると解釈されてはならない。実施例から、本発明を実行することができる多くのその他のやり方を思いつくことを当業者であれば容易に認識するであろう。本発明の範囲内に留まりながら、多くの変形形態および改変形態を作製することができることを理解されたい。
【実施例】
【0103】
(実施例1)
併用化学療法のための混合型薬物ミセル
緒言
複数の薬物を含有する制御薬物送達システムは、薬物動態プロファイルの不必要な変化および副作用の危険の増加を、併用化学療法のための効率的かつ安全な方法を達成することによって回避することができる。この実施例では、ドキソルビシン(DOX;広く使用されているアントラサイクリン)およびワートマニン(WOR;ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ阻害剤)を腫瘍組織に同時に送達することができる「化学的混合型ミセル」について説明する。DOXおよびWORを、種々の混合比で、α−メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(アスパラギン酸ヒドラジド)(1−2)に酸感受性リンカーを通してコンジュゲートさせた。α−メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(アスパラギン酸ヒドラジド)の調製については、Y. Baeら、Bioconjugate Chem.、16巻:122〜30頁(2005年);およびY. Baeら、Angew. Chem. Int. Ed.、42巻:4640〜3頁(2003年)を参照されたい。ミセルを、エンドソームおよびリソソーム中のpHの減少に対して(例えば、約6.0未満のpHにおいて)反応させることによって、薬物を細胞内部において選択的に放出させるように設計した。この実施例は、薬物搭載の正確な制御、2つの薬物の薬物可溶化、および混合型ミセルによって引き起こされる相乗効果の調査が、癌細胞傷害性に関しての薬物送達を改善することができることを例証する。
【0104】
材料および方法
β−ベンジル−L−アスパラギン酸N−カルボン酸無水物(「BLA−NCA」)
【0105】
【化5】

トリホスゲン(5.77g)を、乾燥THE(150mL)中で、β−ベンジル−L−アスパラギン酸(10g)に添加し、反応を40℃で、溶液が清澄になるまで進行させた。β−ベンジル−L−アスパラギン酸N−カルボン酸無水物(BLA−NCA)を、ヘキサンからの再結晶によって精製した。
【0106】
α−メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(β−ベンジル−L−アスパラギン酸)ブロックコポリマー(「PEG−PBLA」)の合成
【0107】
【化6】

α−メトキシω−アミノポリ(エチレングリコール)(PEG−NH;MW=12,000、2g)をマクロ開始剤として使用して、BLA−NCA(1.7g)を、DMSO(7mL)中、40℃で2日間重合して、メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(β−ベンジル−L−アスパラギン酸)(「PEG−PBLA」)を得た。重合反応完了後、PEG−PBLAのω−アミノ基を、無水酢酸によって保護した。
【0108】
PEG−PBLAの側鎖を修飾して、薬物結合性ヒドラジドリンカー(「PEG−p(Hyd)」)を得る
【0109】
【化7】

PEG−PBLAの側鎖であるベンジルエステルのうちの約80%を、薬物と結合させるためのヒドラジド基で置換した。PEG−PBLA(500mg)を、DMF(10mL)中に溶解させた。次いで、無水ヒドラジン(ベンジル基に関して0.8当量)を、アルゴン雰囲気下でポリマー溶液に添加した。反応を、40℃で1時間進行させ、その後、残留するベンジル基を0.1N NaOH水溶液を用いて25℃で1時間脱保護した。ポリマーを、0.25%アンモニア溶液に対して透析し、凍結乾燥して、生成物であるメトキシ−ポリ(エチレングリコール)−ポリ(アスパラギン酸ヒドラジド)[PEG−p(Hyd)]を得た。
【0110】
薬物コンジュゲーションおよび化学的混合型薬物ミセルの調製
【0111】
【化8】

DOXおよびWORを、PEG−p(Hyd)のヒドラジド基に、それらの13−C位および17−C位のそれぞれにおいて、酸感受性ヒドラゾン連結を通してコンジュゲートさせた。PEG−p(Hyd)(100mg)を、DMSO(20mL)中に溶解させた。溶液を、ポリマーのヒドラジド基の数に関して2当量の薬物と混合した。
【0112】
種々の試行において使用したDOXとWORとの薬物混合比は、100:0、75:25、50:50、25:75および0:100であった。混合溶液を、25℃で3日間撹拌した。未反応の余分な薬物を、エーテルからの沈殿によって除去し、その後、Sephadex LH20を使用してゲルろ過した。ポリマーを、凍結乾燥によって収集した。薬物コンジュゲートポリマーを、DMSO(5mg/mL)中に溶解させ、Tris−HCl緩衝溶液(pH7.4)を用いて1000倍に希釈した。DMSOを、溶液から遠心限外ろ過によって除去した。薬物搭載量を、UVによって決定し;濃縮ミセル溶液を4℃で保管した。
【0113】
結果
PEG−PBLAのGPCおよびH−NMRの測定値から、分子量が19,769であり、多分散指数が1.18であり、重合度が40であることが明らかになっている。典型的には、約31個のヒドラジド基(77.5%)が、PEG−PBLAの側鎖に導入されて、PEG−p(Asp−Hyd)をもたらすことが決定された。UVの測定値から、DOXおよびWORが、比較的多い薬物搭載量(25〜29wt.%)で、ポリマーに効率的にコンジュゲートすることが実証された。最も注目に値するのは、各薬物−ポリマーのコンジュゲートの薬物搭載の比が制御可能である点であった。これらのポリマーから調製したミセルは、P.D.I<0.2を有する狭い分布を示し、平均粒子サイズは、約100nmであった。これは、in vivoにおける薬物送達には最適である。N. Nishiyamaら、Drug Discov. Today: Technologies、2巻:21〜6頁(2005年);およびA. Lavasanifarら、Adv. Drug. Deliv. Rev.、54巻:169〜90頁(2002年)を参照されたい。
【0114】
結論
複数の抗癌薬、すなわち、DOXおよびWORを組み込むことができる混合型薬物ミセルの調製は成功し、両方の薬物を同時に運ぶ単一の担体システムを得た。これらのミセルを、身体、例えば、腫瘍中のpHレベルに対して反応させることによって、薬物を選択的に放出させるように設計した。また、搭載する薬物の型およびミセル中の薬物の比も、ミセル調製物を適切に改変することによって制御可能である。したがって、効率的かつ安全な併用化学療法を、本明細書に記載するミセル製剤を使用することによって達成することができる。
【0115】
さらに、ドキソルビシンとワートマニンとの組合せについての細胞傷害性の結果も得られている。ドキソルビシンのpH感受性ポリマー性ミセルの結果に基づくと、この薬物の組合せは、マウス腫瘍モデルにおいては相加的または相乗的な抗腫瘍効力を示すと考えられる。ミセル製剤のさらなる利点は、異なる作用機構を有する薬物が関与する薬物の組合せを、しばしば、単一の薬物の総用量を上回って投与することができ、かつ副作用の発生も低減させることができる点である。これは、薬物が実質的に放出されるのは、ミセル担体が腫瘍中に蓄積してからであるからである。
【0116】
(実施例2)
細胞内pH変化に応答性のポリマー性ミセルによる細胞内薬物送達
生体内で機能する生体分子装置の最近の開発には、in vivoにおいて化学的な刺激を感知する能力、検出可能なシグナルを発生させる能力、および適切な応答を単一の分子または分子複合体にもたらす能力の一体化が求められている。特に、イオン、タンパク質、酵素およびpH変化等の細胞内の構成成分または事象と相互作用するバイオ医薬品システムは、身体のサインに対して応答するプログラムされた機能の実行の面で重要性を増している。超分子化学は、構造的および動的な変化が可能な異なる構成要素を単一の分子中に組み立てるための方法を提供するので、これには、関心が集まっている。本明細書では、活性化されると、構造を変化させ、蛍光を発して、悪性細胞の死滅を引き起こすpH感受性の超分子アセンブリの細胞内局在化を実証する。
【0117】
いくつかの生体分子装置を臨床において使用する場合には多くの困難がある。これらの問題には、血液循環の間の食細胞によるクリアランス、毒性作用を引き起こす全身的な拡散、および膜輸送体による細胞からの排除がある。一般に、細胞の選択的に透過性の膜によって、適切に設計されていない生体分子装置の接近が阻止される。したがって、細胞内環境に対して感受性である生体分子装置の創出が、これらの生理的なボトルネックを克服するための方法として提案されている。
【0118】
自己集合性、酸感受性、両親媒性のブロックコポリマーから、細胞内pHの値によって活性化されるポリマー性ミセルを調製した(図1)。このポリマー性ミセルは、直径が数十ナノメータであるコアを保護する二重層構造、ヒトの体内での低い毒性等の特徴的な特性を有する超分子アセンブリであり、その高い水溶性のために血液中で長期に循環し、したがって、食細胞によるおよび腎臓におけるクリアランスを回避する。さらに、ミセルの機能を、ブロックコポリマーの化学的な構造を単に変化させることによって改変することができ、薬物、タンパク質およびDNA等の材料を、体内の固形腫瘍に選択的に送達することができる。
【0119】
MaedaおよびMatsumuraによって提案されているように、体内における部位特異的腫瘍標的化は、透過性および保持率(EPR)の効果を増強することによって達成される。彼らの報告によれば、固形腫瘍は、緩んだ接合部および不十分なリンパ排泄を有する異常な血管を有し、その結果、ミセルは、血管から容易に脱出し、腫瘍組織中に蓄積するが、血流に再度戻ることはほとんどない。一般に、細胞は、ミセル等の大型の材料を、細胞膜を内側にたたみ込み、摂取する材料を取り囲むことによって取り込む。
【0120】
次いで、材料は、小型の泡様の細胞内小胞中に貪食される。これは、エンドサイトーシスのプロセスと呼ばれ、超分子アセンブリが、細胞−膜の輸送体を回避して、細胞内領域中にこっそり入るのを可能にする。ミセルが、細胞内部にエンドサイトーシスを通して取り込まれると、物質の輸送が生じる。細胞内小胞が、早期エンドソームから後期エンドソームに、最終的には、リソソームに変化する。リソソーム中では、水素イオン濃度が、生理的な状態(pH7.4)よりも100倍低く(pH5.0)、このことは、生体分子装置の機能を始動させるために使用することができる重要なin vivoにおける化学的な刺激である。治療剤のより低いpHにおける放出を、pH制御性薬物放出を示すスキーム1−1に図示する。
【0121】
スキーム1−1.酸性条件下におけるpH感受性ヒドラゾンリンカーの加水分解
【0122】
【化9】

両親媒性のブロックコポリマーであるポリ(エチレグリコール)−ポリ(アスパラギン酸ヒドラゾン−アドリアマイシン)(PEG−p(Asp−Hyd−ADR))を、ポリ−(エチレングリコール)−ポリ(b−ベンジル−1−アスパラギン酸)(PEG−PBLA)のアスパラギン酸を好都合な鋳型として使用して合成した(上記の実施例1を参照されたい)。シッフ塩基が、ADRのC13ケトンとPEG−p(Asp−Hyd)ブロックポリマーのヒドラジド基との間で形成された。このリンカーは、pH5.0付近の酸性条件下において有効に切断可能であり、このpHは、哺乳動物細胞中のリソソームのpHに対応する。
【0123】
PEG−PBLAから調製したPEG−p(Asp−Hyd−ADR)ブロックコポリマーは、式Iのポリマーであってよい。
【0124】
【化10】

式中、m、n、p、LおよびRについての適用できる値は、明細書における上記の定義に従う。例えば、式Iのポリマーが調製されており、その場合、R基のうちの約80%が、−NH−N=[薬物]であり、薬物は、一部のR基についてはドキソルビシンであり、一部のR基についてはワートマニンである。実質的に全ての残留するR基は、ヒドロキシル基であるが、一部は、ベンジルオキシ基である場合がある。追加の操作をカルボニル部分およびR部分の上で実施して、ヒドロキシルの保護基(「PG」)であるR、すなわち、−O−PG、具体的には、アセチル基、アルキルエステル基、または保護基に関する上記のセクションで記載したもの等のその他の基等をもたらすことができる。ヒドラジン基は、Baeら(Angew. Chem. Int. Ed.、2003年、42巻、4640〜4643頁)に記載されている方法によって導入してもよく、または無水ヒドラジンを使用するベンジルオキシ基のアミノリシスによって導入してもよい。後者の技法は、ヒドラジド部分の置換比の制御のみならず、その増加もまた援助する。
【0125】
PEG−PBLAを、β−ベンジル−1−アスパラギン酸N−カルボン酸無水物(BLA−NCA)の開環重合から合成した。BLA−NCAの重合を、アルゴン雰囲気下、蒸留ジメチルホルムアミド中のα−メトキシ−ω−アミノポリ(エチレングリコール)の末端の一級アミノ基によって開始して、PEG−PBLAを得た。PEG−PBLAのベンジル基を、薬物と結合させるためのヒドラジド基で、エステル−アミド交換(EAE)アミノリシス反応によって置換した。PEG−PBLA(500mg)を、10mLの乾燥DMF中に溶解させ、無水ヒドラジン(0.62mg、MW=32.05)を溶液に添加した。反応を、40℃で24時間進行させ、その後、残留するベンジル基を水中の0.1N NaOHを用いて25℃で脱保護し、その後、0.25%アンモニア溶液に対して透析した。
【0126】
凍結乾燥後、得られたPEG−p(Asp−Hyd)(50mg)を、10mLのDMSO中に溶解させ、ポリマーの側鎖の薬物結合性ヒドラジド残基に関して過剰量のADR−HClを添加した。混合液を、光から保護しながら約23℃で3日間撹拌し、その後、Sephadex LH−20を使用してゲル精製して、未結合のADRを完全に除去した。精製したPEG−p(Asp−Hyd−ADR)を、DMSO中に再度溶解させて、ミセルを透析法により調製した。
【0127】
次いで、アドリアマイシン(ADR)を、ポリマー骨格に、ADRのC13とPEG−p(Asp−Hyd)ブロックコポリマーのヒドラジド基との間で、酸性下で不安定なヒドラゾン結合を通してコンジュゲートさせた。それに続いて、ポリマー性ミセルを、有機構成成分を水性環境中に移す透析法によって調製した。ミセルは、ダイナミック光散乱(DLS)による測定によって確認すると、直径が約65nmで、均一のサイズであった。ADRは、抗癌剤であり、細胞の増殖を、細胞核中のDNA鎖と結合することによって抑制する。その効力にもかかわらず、ADRの使用には、毒性の副作用が伴うことが多い。しかし、その活性は、ポリマー、抗体および分子複合体等の材料に結合することによって一時的に中断される。さらに、ADRの検出可能な蛍光によって、この実施例では、それを蛍光プローブとして使用することが可能になる。
【0128】
ミセルの酸感受性を、逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)によって評価した。図1−2に示すように、ミセルは、pH値がpH7.4から3.0まで減少するにつれて、時間およびpHの両方に依存してADRを放出する。ミセルは、領域Aにおいては、72時間にわたり安定であった(図2)。これらは、生理的な条件および早期エンドソームの条件に対応する。他方、ADRの放出は、領域BおよびCにおいては、pHが減少にするにつれて、次第に増加し、平衡に達する。細胞中の後期エンドソームおよび/またはリソソームにおけるpH値が、酸感受性のヒドラゾン結合を最も有効に切断することができる5付近であることを考慮すると、領域BにおけるADR放出プロファイルは、注目に値する。可逆性のヒドラゾン結合の形成は、強力な酸性度によって妨害されるので、ミセル上のADRの搭載量は、領域C中のpH3.0における最大ADR放出から計算した。計算から、ミセルは、PEG−p(Asp−Hyd−ADR)のアスパラギン酸単位に関して67.6%モルの置換率でADRを含有するブロックコポリマーからなることが明らかになった。
【0129】
蛍光強度の測定から、ミセルは、生理的な条件下では安定であり、蛍光は、ADRが酸性条件下で放出されるときに限って生じることが明らかである。ミセルおよび遊離のADRを、細胞培養培地、すなわち、10%ウシ胎仔血清を補ったダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で24時間インキュベートした。イオンおよびpHのレベルを、DMEM中で制御し、この状態は、体内の生理的な状態に非常に類似している。ADRおよびミセル中に結合しているADRの濃度を、同等になるように加減した(100μg/mL)。
【0130】
試料を、485nmの波長で励起し、590nmにおける蛍光を、分光蛍光光度計によりモニターした。遊離のADRの強力な蛍光と比較して、ミセル中に結合しているADRの蛍光強度は、低く留まり、24時間のモニター後、強度の顕著な変化は観察されなかった。大部分の蛍光材料と同様、ADRの蛍光は、溶液中の高い濃度においては消光する。この現象はまた、ADR分子が高い局所濃度で閉じ込められるミセルのコア中においても生じる。蛍光は、ADRがミセルのコア中に組み込まれている限り消光状態を維持し、蛍光の変化は、ミセルからのADRの放出を反映する。したがって、ミセルのpH感受性の構造変化を、蛍光の変化を通して検出することができる。
【0131】
共焦点レーザー走査顕微鏡法(CLSM)を使用した観察から、ヒト小細胞肺癌SBC−3細胞と共にインキュベートしたミセルの細胞内局在化が明らかである。図4に示すように、24時間にわたり、時間依存性の蛍光強度変化が観察された。暴露1時間後、蛍光強度の増加が、ADRと共にインキュベートしたSBC−3について観察された(図4a)が、そのような増加は、ミセルの場合には検出されなかった(図4c)。他方、相当な蛍光変化が、インキュベーション24時間後には、ミセルに暴露した細胞中で観察され(図4d)、このことは、ミセルの細胞内分布およびADRの放出を明らかに実証している。
【0132】
ADRが細胞核中にのみに蓄積することを示す図4bに比較して、図4dは、局在化した蛍光が、細胞質内部で点状をなしていることを示し、このことは、細胞内小胞中に捕捉されたミセルの存在を示唆している。一般に、溶液中において、蛍光材料であるADRとそのポリマーコンジュゲートとを区別することは非常に困難である。これは、両方が強力な蛍光を示すからである。しかし、このミセルは、その特徴的な蛍光消光効果によって、この問題を解決する。
【0133】
生理活性分子を放出するシステムとしては、搭載したADRに、細胞の増殖を細胞核中のDNA鎖と結合することによって抑制する能力を維持させることが、ミセルには求められる。図5は、SBC−3細胞上におけるミセルの増殖阻害効果を示す。ミセルを用いて得られた結果は、遊離のADRの結果に徐々に近づき、このことは、ミセルから放出されたADRが、薬学的に活性であることを実証している。したがって、ADRは、細胞質の内部に局在化するミセルから放出された後、細胞核中に蓄積すると結論付けることができる。
【0134】
本発明のある実施形態による、細胞の細胞内酸性領域におけるポリマー性ミセルからのpH感受性薬物放出を、図6に図示する。図6に示すように、単一の型の薬物がポリマー鎖に連結する場合、1つの型の薬物のみを示すが、ミセルは、物理的混合型ミセルまたは単純混合型ミセルのいずれかであり、したがって、併用薬物療法を実施することができることを理解されたい。さらに、本明細書に記載するように、種々の化学的混合型ミセルを、ドキソルビシン部分のうちの1つまたは複数をその他の薬物コンジュゲート部分で置換することによって調製することもできる。
【0135】
図7は、本発明のある実施形態によって、本発明のミセルの体内分布および腫瘍特異的蓄積、ならびにドキソルビシンと、本明細書に記載するミセル中で送達されたポリマー連結ドキソルビシンとの、血漿レベルの比較を図示する。動物研究によって、pH感受性ミセルの血液中における長期の循環および腫瘍特異的蓄積が確認された。CDF1マウス(雌、n=6)に、腫瘍体積が約100mmに達したときに、実験のために、DOXまたはミセルを0.1mL/10g体重の容量で注射した。用量は、DOXの場合の10mg/kg、または(DOXと等価の)ミセルのいずれかであった。
【0136】
注射後、血液、腫瘍および主要な臓器(心臓、腎臓、肝臓および脾臓)を、0.5、1、3、6、9、24および48時間で収集し、その後、HPLC解析を行った(関連のプロトコールの詳細については、Supporting Information、Bae ら、Journal of Controlled Release、122巻(2007年)324〜330頁を参照されたい。これは、参照によって本明細書に組み込まれている)。図に見ることができるように、24時間後、投与したミセルのうちの17%が血液中に留まるのに対して、わずか10時間後でさえ、投与したドキソルビシンはほとんど留まらなかった。同様に、48時間後、腫瘍中では、11倍高いミセルの蓄積が見い出された。
【0137】
表2は、従来のドキソルビシン治療技法を用いて治療したマウスと、ドキソルビシンのポリマー性ミセルを用いて治療したマウスとの間における治癒率のデータの比較を図示する。
【0138】
【表2】

表2および図8に見ることができるように、本発明のミセルは、治療対対照(T/C)の比に基づくと、標準的な投与よりも広い治療ウィンドウをもたらす。
【0139】
pH感受性ミセルの癌治療の効力を、小型分子の薬物(ドキソルビシン)と、ドキソルビシン−コンジュゲートミセルとを、治療ウィンドウについて比較することによって評価した。治療ウィンドウを、TDに対するED50の比に基づいて決定した。ED50およびTDはそれぞれ、腫瘍体積の50%減少を引き起こすのに有効な用量、およびマウスの体重を20%減少させる毒性を示す用量と定義する。データは、各試料を、有効な癌治療を達成する一方で、安全に注射できる用量範囲を示す。
【0140】
図9は、混合型ミセルを使用する併用化学療法の改善された有効性を、癌性腫瘍中における薬物の蓄積の結果として図示する。混合型ミセルは、複数の薬物を、同一の薬物動態プロファイルで送達することができるので、注射時の最初の薬物混合比を、腫瘍組織の内部で維持することができる。従来の化学療法により注射された薬物の全身的な薬物濃度は、患者の腫瘍に達する前に、肝臓、脾臓および腎臓によって顕著に低下することが多い。既知のミセル担体は、1つの型の薬物のみを送達するように設計され、腫瘍においては十分に蓄積できない。本発明の混合型薬物ミセルの使用によって、癌治療に関する化学療法の顕著な相乗効果および併用効果が期待される。
【0141】
図10は、本発明の種々の実施形態による、複数の薬物の送達のための混合型ミセルを図示する。この模式図は、種々の実施形態のポリマーが「調律可能である」様子を図示し、約0.1%から約99.9%までの任意のパーセントの1つの薬物を調製することができ、かつポリマー鎖に連結している、残りの薬物は、異なる薬物コンジュゲートである。この図は、100:0から0:100までの様々な比のドキソルビシンとワートマニンとを有するポリマーを模式的に図示する。本発明の種々の実施形態では、その他のカルボニル含有薬物または適切なリンカーを有する薬物で、ドキソルビシンおよびワートマニンのうちのいずれかまたは両方を交換することができる。
【0142】
1つの特異的な実施形態では、同一のポリマー鎖状上にドキソルビシンコンジュゲート(「DOX」)とワートマニンコンジュゲート(「WOR」)とを含む二重薬物送達ポリマーを使用して、併用療法のための化学的混合型ミセルを調製することができる。図11は、調製されている5つのポリマー−薬物のバイオコンジュゲート、すなわち、100%DOX、75%DOX/25%WOR、50%DOX/50%WOR、25%DOX/75%WOR、および100%WORのUV吸光度を図示する。
【0143】
図12は、DOX/WORのミセル製剤についてのin vitroにおけるデータを図示する。混合型ポリマー性ミセルの組成物を、混合型ミセルの調製の仕方に依存して、「化学的混合型ミセル(CMM)」および「物理的混合型ミセル(PMM)」の名前を用いて区別する。例えば、混合型ポリマー性ミセルを、DOXおよびWORの両方を単一のポリマー鎖上に同時に含有するブロックコポリマーから形成すると、これはCMMとなる。それに対して、PMMは、それぞれがDOXまたはWORのみを含有する、2つの異なるブロックコポリマーから調製したポリマー性ミセルを示す。ヒト乳癌MCF−7細胞系に対する、遊離の薬物を組み合わせて使用した場合および混合型ポリマー性ミセルの、薬物への暴露後、30時間(A)および72時間(B)における細胞傷害活性。細胞の生存率の差を、50μMの薬物濃度を用いて比較した(C)。Baeら、Journal of Controlled Release、122巻(2007年)324〜330頁を参照されたい。これは、参照により本明細書に組み込まれている。
【0144】
図13は、DOX/GAの混合型ミセル製剤の例を図示する。pH感受性ポリマー性ミセルの化学設計および調製。HSP90阻害剤およびTOPOII阻害剤が、ポリ(エチレングリコール)−ポリ(アスパラギン酸−ヒドラジド)ブロックコポリマーに、pH応答性薬物放出制御のための分解性ヒドラゾンリンカーを通してコンジュゲートしている。
【0145】
図14は、小型分子薬物(A)およびミセル(B)を用いて、異なる投与スケジュールおよび併用処方により、正常体温(37℃)において処理したMCF−7の生存率を図示する。D、G、DM、GMおよびNTはそれぞれ、DOX、17−HEA−GA、DOX搭載ミセル、17−HEA−GA搭載ミセル、および正常体温を表わす。小型分子薬物(またはポリマー性ミセル)の投与スケジュールを、以下に記載する:D(DM)−NT:D(DM)を単独で添加;G(GM)−NT:G(GM)を単独で添加;D/G(DM/GM)−NT:D(DM)およびG(GM)を同時に添加;DG(DMGM)−NT:最初にD(DM)を、24時間後にG(GM)を添加;GD(GMDM)−NT:最初にG(GM)を、24時間後にD(DM)を添加。(平均±標準偏差、n=4)
図15は、小型分子薬物とポリマー性ミセルとの、細胞の生存を50%抑制する阻害濃度(IC50)の正常体温(37℃)における比較を図示する。D、G、DMおよびGMはそれぞれ、DOX、I7−HEA−GA、DOX搭載ミセル、および17−HEA−GA搭載ミセルを表わす。小型分子薬物(またはポリマー性ミセル)の投与スケジュールを、以下に記載する:D(DM):D(DM)を単独で添加;G(GM):G(GM)を単独で添加;D/G(DM/GM):D(DM)およびG(GM)を同時に添加;DG(DMGM):最初にD(DM)を、24時間後にG(GM)を添加;GD(GMDM):最初にG(GM)を、24時間後にD(DM)を添加。(平均±標準偏差、n=4)
次いで、本発明の混合型ミセルの解析から得られた相乗的な薬物の比のin vitroにおけるデータを、抗癌併用療法の改善に変換することができる。この場合、所望の薬物比を制御して、in vivoにおける投与後もそれを維持することができ、したがって、相乗効果を生かすことができる。in vitroにおけるデータをin vivoにおける療法に変換するための適切な技法が、Mayer およびJanoff(Molecular Interventions(2007年)、7巻(4号)、216〜223頁)によって記載されている。
【0146】
要約すると、機能が生細胞によって制御されるpH感受性ポリマー性ミセルの細胞内局在化の実施に成功した。多機能性の生体分子装置として、ミセルは、環境刺激(pHの値)に応答して、構造および/または機能の動的な変化を起こす。さらに、ミセルから放出されたADRは蛍光を発し、これによって、生細胞の内部におけるADRの局在化の検出も可能となる。CLSMから、ミセルが、リソソーム中に捕捉されることは明らかである。リソソーム中では、ミセルは、低いpHに応答することによって機能するようにプログラムされ、放出されたADRは、細胞核中に蓄積し、癌細胞の同調性の細胞の生存を有効に抑制する。したがって、ようやく、高度に制御された機能性の生体分子装置が利用可能になった。
【0147】
細胞傷害性の結果が、単純に異なるミセルの製剤として提供されたドキソルビシンとゲルダナマイシン類似体との併用について得られている。併用に関する細胞傷害性のこの結果は、1対1の薬物の比における相加効果または相乗効果を示している。薬物のその他の比によって、さらにより大きな相乗効果をもたらすことができると考えられている。この薬物併用によって、マウス腫瘍モデルにおいて、相加的または相乗的な抗腫瘍効力を達成することができると考えられている。
【0148】
(実施例3)
治療剤の連結
本発明の特定の態様および実施形態が図示されている図5〜16を参照されたい。図中、ドキソルビシンおよびドキソルビシンコンジュゲートが図示されている場合があるが、このドキソルビシンは、多くのその他のカルボニル含有抗癌剤、例えば、2〜3例を挙げると、アピシジン、ククルビタシン、ラディシコールおよびワートマニンで交換してもよいことに留意されたい。これらはまた、以下のスキーム3.1にも図示する。
【0149】
スキーム3.1
【0150】
【化11】

スキーム3.1に図示する各治療剤は、接近可能かつ反応性のケトンを有し、本明細書に記載するポリアミドポリマーのヒドラジドを末端に有する側鎖と直接縮合することができる。17−アリルアミノ−17−デメトキシゲルダナマイシン(17−AAG)およびパクリタキセル等の特定の治療剤には、薬物をポリアミド側鎖のヒドラゾンに連結することができるリンカーを提供するために、小規模の化学修飾が必要である。例えば、以下に図示するマクロライドである17−AAGは、C7においてウレタン基を有する。この基のアミンは、十分に反応性であり、酸塩化物、トリフレート等の活性化された求電子試薬と混合型のアミドを形成することができる。
【0151】
【化12】

あるいは、C11におけるヒドロキシルが、立体的に接近可能である場合があり、これは、エステル連結を、任意の適切な酸または酸塩化物を用いて調製するために使用することができよう。いくつかのその他の適切な転換については、詳細な説明中、ゲルダナマイシンについて上記で論じている。例えば、表1は、ゲルダナマイシンをヒドロキシエチルアミンリンカーで置換することができることを図示している。しかし、末端のヒドロキシル基は、ヒドラゾン部分との縮合に適した基ではない。以下のスキーム3.2は、HEA−GA誘導体を、適切に反応性のカルボニル、すなわち、レブリン酸基のカルボニルを有する類似体に変換するために用いることができる手軽なステップを図示する。
【0152】
スキーム3−2.7−ヒドロキシエチルアミノゲルダナマイシン(「HEA−GA」)を介するゲルダナマイシン類似体の調製
【0153】
【化13】

スキーム3−2では、HEA−GAの遊離のヒドロキシル基を、レブリン酸(4−オキソペンタン酸)を用いてエステル化した。同様に、パクリタキセルおよびトリプトライド等の薬物についても、リンカーを、遊離のヒドロキシルをレブリン酸等の適切なケト酸を用いて単にエステル化することによって導入することができる。レブリン酸は、パクリタキセルおよびトリプトライドの両方を、ポリアミドにヒドラジドを通して連結するための類似体を調製するために使用されている。
【0154】
レブリン酸リンカーおよび安息香酸4−アセチルリンカーを使用する、パクリタキセル(「PAX」)−リンカーの誘導体の合成を、以下のスキーム3.3および3.4にそれぞれ図示する。
【0155】
スキーム3.3
【0156】
【化14】

以下のスキーム3.4に図示するように、類似の合成ステップを使用して、トリプトライドのレブリン酸エステルを調製することもできる。
【0157】
スキーム3.4
【0158】
【化15】

ドキソルビシン、ゲルダナマイシン、パクリタキセル、ラディシコール、トリプトライドおよびワートマニンの薬物コンジュゲートについての例が、合成されており、H NMRおよびダイナミック光散乱による測定(サイズを決定するため)によって特徴付けられている。これらの薬物コンジュゲートポリマーを使用して、ドキソルビシンとゲルダナマイシン類似体の組合せ等の単純に異なるミセルまたは物理的混合型ミセルを調製することができる。これらの場合の全てから、特に、静脈内投与に適した併用療法のための、新規な可溶化薬物併用製剤が得られる。
【0159】
(実施例4)
薬物連結ポリマー
低い水溶性を有する多くの化学療法剤を、本発明のポリマー性ミセルを使用して、腫瘍細胞に好都合に送達することができる。多くの治療剤は、それらを、ポリアミドブロックコポリマーのヒドラゾン側鎖に連結するのに適したカルボニル官能基を有する。その他の治療剤は、ヒドラゾン部分に、リンカー中にケトン基またはアルデヒド基を有する連結基を使用することによって連結しても、リンカーの一端を薬剤のヒドロキシル基、カルボキシル基またはその他の官能基と連結するために使用することができる適切な官能基を使用することによって連結してもよい。
【0160】
例えば、以下のスキーム4.1は、ゲルダナマイシンにエステルリンカーを通して連結しているポリマーの調製を図示する。本発明のミセルを調製するために、類似の技法を使用して、その他の治療剤を、ポリアミドのヒドラジド側鎖に連結することができる。
【0161】
スキーム4.1
【0162】
【化16】

エステルの連結技術を使用して、ヒドロキシル官能基またはカルボキシ官能基を有する治療剤等の多くの治療剤のためのカルボニルの「ハンドル」をもたらすことができる。
【0163】
(実施例5)
混合型ミセルを調製するためのポリマー
本明細書に記載する、薬物を組み合わせて送達するミセル製剤の具体的な利点は、これらが水中で凝集しない点である。凝集は、薬物を静脈内に同時に投与するために、水溶性が劣る薬物を一緒にして組み合わせようとする際に遭遇する問題である。親油性の薬物が、pHの加減、共溶媒、界面活性剤および複合体等、種々の方法によって可溶化される。しかし、親油性の薬物をその他の薬物、およびひいてはその他の賦形剤に添加すると、沈殿が生じる場合がある。したがって、現在の併用療法のアプローチでは、複数の抗癌薬を投与するために、複数のIVカテーテルラインが必要になるであろう。本明細書に記載するミセルを使用することによって、組み合わせた薬物の沈殿が問題になることもなく、複数のIVカテーテルラインの必要性も排除される。
【0164】
多様な治療剤を、本明細書に記載するポリマー鎖に連結して、単純混合型ミセル、物理的混合型ミセルおよび化学的混合型ミセルを調製することができる(図3を参照されたい)。表3は、本発明の種々の実施形態において、任意に組み合わせて使用することができる薬物の5つの具体的な例を示す。
【0165】
【表3】

表4は、表3に列挙した薬物を用いて使用することができる多様な薬物併用療法の戦略をさらに示す。このアプローチは、本明細書に記載するように、全てのその他の治療剤に拡大適用することができる。
【0166】
【表4】

以下のスキーム5.1に図示するゲルダナマイシン誘導体およびドキソルビシンのコンジュゲートを含む化学的混合型ミセルを、ポリアミドポリマーにヒドラジド結合を形成することによって調製することができる。
【0167】
スキーム5.1
【0168】
【化17】

以下のスキーム5.2は、ドキソルビシンコンジュゲートおよびゲルダナマイシン誘導体コンジュゲートを含む物理的混合型ミセルを調製するために使用することができるポリマーの例を図示する。
【0169】
スキーム5.2
【0170】
【化18】

物理的混合型ミセルの顕著な利点は、ミセル調製用混合物中に添加するゲルダナマイシン誘導体コンジュゲートポリマーに対するドキソルビシンコンジュゲートポリマーの比を単に変化させることによって、ミセル製剤中の薬物の比を変化させるのが単純なことであるという点である。例えば、1:100から100:1までの薬物の比を有するミセルを、適切な量の各型のポリマーを調製物に添加することによって容易に調製することができる。
【0171】
調製されている混合型ミセルには、ドキソルビシンおよびゲルダナマイシンの両方に連結しているポリアミドから調製した化学的混合型ミセル(上記のスキーム5.1を参照されたい)、ならびにドキソルビシンおよびワートマニンに連結しているポリアミドから調製した化学的混合型ミセルがある。
【0172】
物理的混合型ミセルには、パクリタキセルとゲルダナマイシンとの組合せ、パクリタキセルとドキソルビシンとの組合せ、およびパクリタキセルとトリプトライドとの組合せがある。併用療法の技法および投与量に磨きをかけ、それらを見直すための研究が、現在進行中である。
【0173】
本明細書に引用する全ての刊行物、特許、特許文書が、参照によって個別に組み込まれているかのごとく、参照によって組み込まれている。本発明を、種々の特異的でかつ好ましい実施形態および技法を参照して説明してきた。しかし、本発明の精神および範囲内に留まりながら、多くの変形形態および改変形態を作製することができることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のブロックおよび第2のブロックを含むブロックポリマーであって、
前記第1のブロックは、2つ以上のエチレングリコール区分を含み、
前記第2のブロックは、アスパラギン酸、グルタミン酸、またはアスパラギン酸とグルタミン酸との組合せから誘導された2つ以上のアミノ酸単位を含み、
前記第2のブロックの2つ以上のアミノ酸側鎖が個別に、治療剤にヒドラジド部分を通して共有結合により連結しており、
前記治療剤は、少なくとも2つの異なる治療剤を含むポリマー。
【請求項2】
前記ヒドラジド部分が、前記第2のブロックの側鎖のカルボン酸部分、ヒドラジンまたはヒドラジン誘導体と、前記治療剤のカルボニル部分または前記治療剤上の連結基のカルボニル部分との縮合から形成される、請求項1に記載のポリマー。
【請求項3】
前記治療剤上の前記連結基が、C〜C20炭素の鎖、環またはそれらの組合せを含み、任意に1から8個の酸素原子、窒素原子またはアミド基により介在されており、任意に1から8個のオキソ基で置換されている、請求項1または2に記載のポリマー。
【請求項4】
前記治療剤が、癌の治療に有効である薬物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項5】
前記治療剤のうち1つまたは複数が低い水溶性を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項6】
前記8個以上のエチレングリコール区分が、約400から約30,000g/モルの分子量を有するポリ(エチレングリコール)鎖を形成し、前記ポリ(エチレン)グリコール鎖が、直鎖または分枝鎖である、請求項1から5のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項7】
前記ポリ(エチレングリコール)鎖が、末端に、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシル保護基、または任意に置換されているもしくは保護されているアミノ基を有する、請求項6に記載のポリマー。
【請求項8】
前記第2のブロックの1つまたは複数のアミノ酸側鎖が個別に、治療剤にエステル連結を通して共有結合により連結している、請求項1から7のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項9】
前記第1のブロックと前記第2のブロックとが相互に、アミド結合または連結基を通して連結している、請求項1から8のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項10】
前記第2のブロックの分子量が、約500から約20,000g/モルであり、前記アミノ酸単位が、任意にL−アミノ酸から誘導される、請求項1から9のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項11】
前記アミノ酸側鎖のうち約50%超が個別に、治療剤に連結しており、前記ポリマーが、2、3または4つの異なる型の治療剤を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項12】
前記異なる治療剤が、癌患者に投与した場合、相乗的な治療効果をもたらす、請求項1から11のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項13】
前記治療剤が、アクラルビシン、アピシジン、ボルテゾミブ、ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシル−L−ロイシル−L−ロイシナール、シクロパミン−KAAD、ククルビタシン、ドラスタチン、ドキソルビシン、フェンリチニド、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA、2−メトキシエストラジオール、パクリタキセル、ラディシコール、ラパマイシン、トリプトライド、ワートマニン、またはそれらの組合せを含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項14】
第1のブロックおよび第2のブロックを含み、
前記第1のブロックは、約10から約600個のエチレングリコール区分を含み、
前記第2のブロックは、アスパラギン酸、グルタミン酸、またはアスパラギン酸とグルタミン酸との組合せから誘導された、5から約100個のアミノ酸単位を含み、
前記第2のブロックの2つ以上の側鎖が、治療剤に、以下の式のリンカーを通して共有結合により連結している、請求項1に記載のポリマー
【化19】

[式中、Lは、直接的な結合または連結基である]。
【請求項15】
式Iまたはその塩を含むポリマー
【化20】

[式中、
mは、約10から約600であり;nは、約10から約100であり;pは、1、2、3または4であり;
Yは、1から20個の炭素原子を含み、任意に1から8個の酸素原子、窒素原子またはアミド基により介在されており、任意に1から8個のオキソ基で置換される連結基であり;
各Rは、独立に、−OH、ヒドロキシル保護基、任意に置換されるもしくは保護されるアミノ基、−NH−NH、または−NH−N=C−L−[薬物](式中、Lは、直接的な結合もしくは連結基である)であり;かつ少なくとも2つのR基が、異なる薬物を含む]。
【請求項16】
式IIまたはその塩を有する、請求項15に記載のポリマー
【化21】

[式中、
mは、約10から約600であり;nは、約10から約100であり;pは、1、2、3または4であり;
は、H、アルキル、またはヒドロキシルもしくは窒素の保護基であり;
Xは、O、NHまたは非存在であり;
は、Hまたは窒素保護基であり;かつ
各Rは、独立に、OH、ヒドロキシル保護基、−NH−NH、または−NH−N=C−L−[薬物](式中、Lは、直接的な結合もしくは連結基である)である]。
【請求項17】
mが、約200から約300であり、nが、約30から約50であり、かつpが、1または2である、請求項15または16に記載のポリマー。
【請求項18】
前記治療剤が、アクラルビシン、アピシジン、ボルテゾミブ、ベンジルオキシカルボニル−L−ロイシル−L−ロイシル−L−ロイシナール、シクロパミン−KAAD、ククルビタシン、ドラスタチン、ドキソルビシン、フェンリチニド、ゲルダナマイシン、ハービマイシンA、2−メトキシエストラジオール、パクリタキセル、ラディシコール、ラパマイシン、トリプトライド、ワートマニン、またはそれらの組合せを含む、請求項15から17のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項19】
前記治療剤が、前記ミセルのコアに向かって存在し、前記ポリマーの前記エチレングリコール区分が、前記ミセルのコロナに向かって整列する、請求項1から18のいずれか一項に記載の多数のポリマーを含むミセル。
【請求項20】
第1のブロックおよび第2のブロックを含む、多数のブロックポリマーを含むミセル製剤であって、
前記第1のブロックは、2つ以上のエチレングリコール区分を含み、
前記第2のブロックは、アスパラギン酸、グルタミン酸、またはアスパラギン酸とグルタミン酸との組合せから誘導された2つ以上のアミノ酸単位を含み、
前記第2のブロックの少なくとも1つのアミノ酸側鎖は、治療剤にヒドラジド部分を通して共有結合により連結しており、
前記製剤の前記ミセルは、少なくとも2つの異なる治療剤を含むミセル製剤。
【請求項21】
前記製剤の各個別のミセルが、1つの型の治療剤のみを含む、請求項20に記載のミセル製剤。
【請求項22】
各個別のミセルが、2つ以上の治療剤を含み、各ミセルの各個別のポリマーが、1つの型の治療剤のみを含む、請求項20または21に記載のミセル製剤。
【請求項23】
請求項20から22のいずれか一項に記載のミセル製剤および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項24】
癌細胞の増殖を阻害するかまたは癌細胞を死滅させる方法であって、前記細胞を、請求項20から22のいずれか一項に記載の有効量の前記ミセル製剤と接触させるステップを含む方法。
【請求項25】
請求項20から22のいずれか一項に記載の治療有効量の前記ミセル製剤を、癌治療を必要とする患者に投与するステップを含む、癌を治療する方法。
【請求項26】
癌治療が、2つ以上の薬物を腫瘍に送達することを含み、前記腫瘍に送達する薬物の型の比が、前記ミセル製剤の前記ミセルを調製するために使用する異なる治療剤を個別に含むポリマーの比を制御することによって決定される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
治療剤を臓器または腫瘍に送達する方法であって、請求項20から22のいずれか一項に記載のミセル製剤を前記臓器または細胞に投与するステップを含み、前記ミセルの前記ポリマーが、約7未満のpHに遭遇すると、加水分解して、前記治療剤を放出する方法。
【請求項28】
薬物を哺乳動物の血液に送達する方法であって、請求項20から22のいずれか一項に記載のミセル製剤を含む製剤を非経口投与するステップを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−519305(P2010−519305A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−550945(P2009−550945)
【出願日】平成20年2月26日(2008.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2008/002518
【国際公開番号】WO2008/106129
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(506223510)ウィスコンシン・アルムニ・リサーチ・ファウンデーション (11)
【氏名又は名称原語表記】WISCONSIN ALUMNI RESEARCH FOUNDATION
【出願人】(509239820)
【出願人】(509239831)
【出願人】(509239842)
【Fターム(参考)】