説明

便器上の開閉体の電動開閉装置

【課題】ガタの状態によらず、便器上の便座または便蓋等の開閉体をスムーズに開くことができ、該開閉体を駆動するための部品に対する負荷を軽減することができる便器上の開閉体の電動開閉装置を提供すること。
【解決手段】駆動源であるモータMと、モータMが出力するトルクを便器1上の開閉体2に伝達する伝達機構8と、モータM、特にモータ回転軸5の回転速度を検出する検出手段であるホールIC9と、ホールIC9による検出に基づいてモータMのトルクを制御する手段であって、閉止された開閉体2を開く際、最初はモータMに開閉体2を動かすために必要なトルクよりも小さくかつモータMと開閉体2のトルク伝達経路間のガタを詰めるのに必要なトルクよりは大きい第1のトルクを出力させ、その後、ホールIC9が少なくともモータ回転速度の低下を検出すると、開閉体2を動かすために必要なトルクよりも大きい第2のトルクを出力させる制御手段10を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器上の開閉体の電動開閉装置に関し、特に、便座および/または便蓋の電動開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、モータの出力軸と便座および便蓋のヒンジ部との間に多段の減速歯車列を接続し、モータが出力するトルクを多段の減速歯車列で減速してヒンジ部に伝達して便座および便蓋を電動開閉する装置において、便座および便蓋を開閉駆動する際に、便座および便蓋が便器の上に接触した位置(全閉位置)を原点として定める装置が提案されている。
【0003】
特許文献2には、特許文献1と同様の装置において、モータが便座または便蓋が動き始める瞬間に発生する駆動トルクを抑制することにより、便座または便蓋が開き始める瞬間の角加速度を小さくして、減速歯車列等の駆動部品にかかるストレスを軽減するため、便座または便蓋を開方向へ駆動する際、モータは、開動作開始後から所定時間までは該モータが発生可能な最大駆動トルクよりも低い駆動トルクを発生し、その後、段階的に駆動トルクを増加していく装置が提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−57276号公報
【特許文献2】特開2006−101933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、モータの出力軸と便座および便蓋のヒンジ部との間でトルクを伝達する部品間、特に、減速歯車列間には、ガタがある。したがって、特許文献1のように、便座および便蓋が便器の上に接触した位置(全閉位置)を原点として定めても、この原点にある便座または便蓋が動き出す瞬間と、モータ軸が回り始める瞬間とは一致しない。よって、便座または便蓋の開閉動作上の原点とモータ制御上の原点との間にはずれがあり、結果として、便座または便蓋の開動作または閉動作にバラツキが生じる。
【0006】
また、特許文献2の装置のように、便座または便蓋を開く際に、ガタの大きさに関係なく、モータに予め定められたシーケンスにしたがって駆動トルクを発生させたとしても、特許文献1の装置と同様の問題点がある。
【0007】
すなわち、減速歯車列の個々の部品間にガタがある装置において、モータ軸が回り始める当初から、モータに便座または便蓋が動き出すほど大きいトルクを出力させた場合、モータ軸がガタ分空回りした直後(モータ軸だけが回転した直後)、モータ軸、歯車或いは便座等のヒンジ軸が他部品と高速で衝突して、それらの破損や磨耗が生じるおそれがある。
【0008】
また、長期使用によりガタが多くなると、モータON期間の多くがガタ分の空回りに費やされ、肝心の便座あるいは便蓋が開ききらない、もしくは完全に閉じないという現象が起きるおそれがある。
【0009】
本発明の目的は、ガタの状態によらず、便器上の便座または便蓋等の開閉体をスムーズに開くことができ、該開閉体を駆動するための部品に対する負荷を軽減することができる便器上の開閉体の電動開閉装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第1の視点において、駆動源であるモータと、前記モータが出力するトルクを便器上の開閉体に伝達する伝達機構と、前記モータの回転速度を検出する検出手段と、前記検出手段による前記検出に基づいて前記モータの前記トルクを制御する手段であって、閉止された前記開閉体を開く際、最初は前記モータに前記開閉体を動かすために必要なトルクよりも小さくかつ前記モータと前記開閉体のトルク伝達経路間のガタを詰めるのに必要なトルクよりは大きい第1のトルクを出力させ、その後、前記検出手段が少なくとも前記回転速度の低下を検出すると、前記開閉体を動かすために必要なトルクよりも大きい第2のトルクを出力させる制御手段と、を有する、ことを特徴とする便器上の開閉体の電動開閉装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、便器上の開閉体を開く際、まず、開閉体本体は動かさないようモータが出力するトルクを小さくしてガタのみを詰め、少なくともモータの回転速度の低下、好ましくは、モータ回転の停止を検出して、ガタが詰まったことを確認した後、始めて開閉体本体が動くようにモータが出力するトルクを大きくする。
【0012】
このように、本発明によれば、モータの回転速度から、モータと便器上の開閉体間に存在するガタの大きさを検出することができ、ガタの大きさに応じて、ガタが詰まる前と後でそれぞれ適切な大きさのモータトルクを発生させることができる。換言すると、便器上の開閉体自体の動作原点とモータ制御上の原点を常に一致させることができる。これによって、ガタの状態によらず、便器上の開閉体を毎回同じフィーリングで自動開閉させることが可能になると共に、開閉体を駆動するための部品に対する負荷を軽減することができる。
【0013】
以下、本発明の効果を例示する。
(1)便器上の開閉体が、スムーズな動作フィーリングで開き、これを繰り返し再現させることができるため、商品価値が向上する。
(2)ガタを詰めた後で、便座または便座等の開閉体自体が動き出すのに必要なモータトルクを発生させるため、モータと便座等の間を接続する伝達機構、例えば、減速歯車列等へのストレスが軽減され、それらの部品の寿命を延ばすことが可能になる。
(3)製品の長期使用によりガタが多くなっても、ガタの大きさに応じてモータのトルクが制御されるため、全てのガタを詰めた上で便座または便座等の開閉体を動かし始めることができるため、開閉体が開ききらない、あるいは閉じないという現象の発生が防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の好ましい実施の形態において、前記制御手段は、閉止された前記開閉体を開く際、前記第1のトルクを出力した後で前記検出手段によって前記モータの回転軸の一旦停止が確認された後、前記第2のトルクを出力する、ことを特徴とする。この形態によれば、ガタが詰められたことを確実に確認し、便器上の開閉体自体の動作原点とモータ制御上の原点を常に一致させてから、便器上の開閉体を開くことができる。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態において、前記制御手段は、前記第1のトルクを出力する期間を前記検出手段による前記検出に基づいて可変に設定することを特徴とする。この形態によれば、経時的またはロット間のガタの変化に応じて、第1および第2のトルクがそれぞれ適切な期間、出力される。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態において、前記検出手段は、モータの回転軸或いはモータの回転速度に対応する部品の速度を検出することにより、モータの回転速度を検出する。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態において、前記検出手段にはホールIC等の回転センサを用いることができ、前記制御手段には所定のプログラムに従って動作するマイクロコンピュータを用いることができる。
【実施例1】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置の概念図である。図2(A)および図2(B)は、本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置の概念を説明するための動作図であって、(A)は開閉体が全閉された状態、(B)は開閉体が開き始めた状態をそれぞれ示している。
【0019】
図1を参照すると、本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置によれば、便器1上の開閉体2を完全に閉止された状態から開く際、まず、A区間では第1のトルクを出力する巻き込み処理が実行され、B区間では第2のトルクを出力する通常の処理が実行される。
【0020】
但し、A区間は、モータと開閉体2のトルク伝達経路間にガタがある区間であって、モータが第1のトルクで駆動されても開閉体2は動かない区間である。B区間は、モータと開閉体2のトルク伝達経路間のガタが詰まり、モータが第2のトルクを出力することにより開閉体2が動き出してから、開閉体2がストッパ21に制止されるまでの区間である。第1のトルクは、閉止された開閉体2を開く際、開閉体2を動かすために必要なトルクよりも小さくかつモータと開閉体2のトルク伝達経路間のガタを詰めるのに必要なトルクよりは大きいトルクである。第2のトルクは、開閉体2を動かすために必要なトルクよりも大きいトルクである。
【0021】
図2(A)は、図1のA区間に対応する動作図であって、A区間は、モータと開閉体2(開閉体被付勢部20)のトルク伝達経路間のガタが詰まるまでの区間である。このA区間では、第1のトルク(ガタ詰め用出力)により、モータ回転軸5が回転させられる。
【0022】
図2(B)は、図1のB区間に対応する動作図であって、B区間は、前記ガタが詰まった後の区間である。このB区間では、第2のトルクにより、モータ回転軸5が回転させられる。
【0023】
図3は、本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置を内蔵する便器の側面図である。図4は、図3に示した便器に内蔵される電動開閉装置の側面拡大図である。
【0024】
図3を参照すると、便器1上には、開閉体として、便座3および便蓋4が配置されている。便座3および便蓋4の電動開閉は制御手段10によって制御される。便座3および便蓋4は、開閉体軸2aを回転軸として開閉される。
【0025】
図4を参照すると、本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置は、駆動源であるモータMと、モータMが出力するトルクを便器1上の開閉体2に伝達する伝達機構(多段減速歯車列)8と、モータM、特にモータ回転軸5の回転速度を検出する検出手段であるホールIC9と、ホールIC9による検出に基づいてモータMのトルクを制御する制御手段(マイクロコンピュータ)10と、を有している。
【0026】
制御手段10は、閉止された開閉体2を開く際、最初はモータMに開閉体2を動かすために必要なトルクよりも小さくかつモータMと開閉体2のトルク伝達経路間のガタを詰めるのに必要なトルクよりは大きい第1のトルクを出力させ、その後、ホールIC9が少なくともモータ回転速度の低下を検出すると、開閉体2を動かすために必要なトルクよりも大きい第2のトルクを出力させる。
【0027】
制御手段10には、ホールIC9から出力されるモータ回転速度に対応する検出信号(ホールIC信号)11が入力される。制御手段10は検出信号11に基づいて、モータMが出力するトルクを制御する制御信号12を出力する。本実施例において、モータMはPWM制御され、デューティ比が高いほど、モータMが出力するトルクは大きくなる。
【0028】
次に、以上説明した本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置の動作を説明する。図5は、図4に示した電動開閉装置の動作を説明するためのフローチャートである。図6は、図4に示した電動開閉装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【0029】
図5を参照すると、閉止されている開閉体を開く際、ステップS1で、制御手段10は、ガタ詰め用出力値(第1のトルク)を指定してモータMを駆動すると共に、ガタ詰め期間制限タイマのカウントを開始する。例えば、制御手段10は、10%のデューティ比でモータMをPWM制御によって駆動する。10%のデューティ比では、開閉体2は動かない。
【0030】
ステップS2で、制御手段10は、ホールIC9が出力する検出信号(ホールIC信号)11のH/L間隔により、モータMの回転速度を判定し、H/Lの切り替わりが所定時間以上ない場合、ガタが詰まった(モータ回転軸5がロックした)と判定し、ステップS4の処理に移行する。一方、制御手段10は、H/Lの切り替わりがある場合(モータ回転軸5が回転中の場合)、ステップS3の処理に移行し、前記タイマがタイムアップしていなければ、ステップS2の処理に戻り、タイムアップしていれば、開閉体2が電動で開かない現象を防止するため、ステップS4の処理に移行する。
【0031】
制御手段10は、ステップS4でモータMを出力停止にし、すぐに、ステップS5で、開閉体2を駆動するための出力値(第2のトルク)を指定してモータMを駆動する。例えば、制御手段10は、100%のデューティ比でモータMをPWM制御によって駆動する。なお、制御手段10は、検出信号11、すなわち、モータ回転軸5の回転速度に基づいて、デューティ比をフィードバック制御することが好ましい。
【0032】
ステップS6で、制御手段10は、ホールIC9が出力する検出信号11のH/L間隔により、モータMの回転速度を判定する。制御手段10は、H/Lの切り替わりが所定時間以上ない場合、開閉体2がロックされた、例えば、開閉体2が図1のストッパ21によって制止された、或いは人手により制止されたと判定し、ステップS8に移行してモータMを出力停止にし、H/Lの切り替わりがある場合(開閉体2が回動中の場合)、ステップS7に移行する。ステップS7で、制御手段10は、ホールIC9が出力する検出信号11のH/L切り替わり回数をカウントし、H/Lの切り替わり回数が制限値を超えた場合は、ステップS8に移行してモータMを出力停止にし、超えていない場合はステップS6に戻る。
【0033】
以上のフローチャートに従い、実機で便座および便蓋を開く実験を行った。図6中、CH1はモータ回転軸5の回転速度を示す検出信号11の波形であり、CH2は、モータMに駆動制御するためのPWM信号のデューティ比を示す制御信号12の波形である。デューティ比はA区間で10%、B区間で100%とした。図5のステップS2のロック検出期間は100msとした。
【0034】
図6を参照すると、ガタを詰めるA区間では、便座および便蓋は動かずガタのみが詰められ、ガタが詰まった後の約100msのロック期間R、モータ回転軸は停止した。続いて、デューティを上げると、すなわち、B区間で、モータ回転軸が再度動き出し、さらに、便座および便蓋が開き始めた。ガタを詰めるA区間では、特に、その終了時、モータと便座等の間を接続する伝達機構、例えば、減速歯車列等のガタ打ち音がなく、A区間からB区間に遷移するときも便座等の開閉体はスムーズな動作フィーリングで開いた。また、この実験を繰り返したところ、同様の効果が繰り返し再現された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、便座および/または便蓋の自動開閉装置に好適に適用される。また、本発明は、多段の減速機構、例えば、多段の減速歯車機構によってモータのトルクを減速して便座および/または便蓋に伝達する装置に好適に適用される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置の概念図である。
【図2】(A)および(B)は、本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置の概念を説明するための動作図であって、(A)は開閉体が全閉された状態、(B)は開閉体が開き始めた状態をそれぞれ示している。
【図3】本発明の一実施例に係る便器上の開閉体の電動開閉装置を内蔵する便器の側面図である。
【図4】図3に示した便器に内蔵される電動開閉装置の側面拡大図である。
【図5】図4に示した電動開閉装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【図6】図4に示した電動開閉装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0037】
1 便器
2 開閉体
2a 開閉体軸
3 便座
4 便蓋
5 モータ回転軸(モータ出力軸)
6 ウォームギヤ
7 ウォームホイール
8 伝達機構(多段減速歯車列)
9 ホールIC(検出手段)
10 制御手段(モータ制御手段、マイクロコンピュータ)
11 検出信号(ホールIC信号)
12 制御信号(PWM信号)
20 開閉体被付勢部
21 ストッパ
A ガタを詰める区間
B 開閉体を動かす区間
R ロック期間
M モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源であるモータと、
前記モータが出力するトルクを便器上の開閉体に伝達する伝達機構と、
前記モータの回転速度を検出する検出手段と、
前記検出手段による前記検出に基づいて前記モータの前記トルクを制御する手段であって、閉止された前記開閉体を開く際、最初は前記モータに前記開閉体を動かすために必要なトルクよりも小さくかつ前記モータと前記開閉体のトルク伝達経路間のガタを詰めるのに必要なトルクよりは大きい第1のトルクを出力させ、その後、前記検出手段が少なくとも前記回転速度の低下を検出すると、前記開閉体を動かすために必要なトルクよりも大きい第2のトルクを出力させる制御手段と、
を有する、ことを特徴とする便器上の開閉体の電動開閉装置。
【請求項2】
前記制御手段は、閉止された前記開閉体を開く際、前記第1のトルクを出力した後で前記検出手段によって前記モータの回転軸の一旦停止が確認された後、前記第2のトルクを出力する、ことを特徴とする請求項1記載の便器上の開閉体の電動開閉装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記第1のトルクを出力する期間を前記検出手段による前記検出に基いて可変に設定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の便器上の開閉体の電動開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−237331(P2008−237331A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79289(P2007−79289)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】