説明

便器排水路の吸気装置

【課題】繰り返し確実にサイホン作用を発生させて便器洗浄を良好に行うことができる便器排水路の吸気装置を提供する。
【解決手段】便器排水路5の吸気装置200は、便器本体1の水封部4の下流側に連なる便器排水路5から空気を吸引する。吸気装置200は、負圧発生装置201と、負圧発生装置201と便器排水路5との間に接続される吸引タンク80とを有している。吸引タンク80の内部は、設置時の上下方向で移動可能な隔膜83によって第1室81と第2室82とに区画されている。隔膜83は、平坦に形成された平面部83aと、平面部83aに設けられた錘86とを有している。第1室81は負圧発生装置201に接続され、第2室82は便器排水路5に接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便器排水路の吸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1に従来の便器排水路の吸気装置が開示されている。この吸気装置は、便器本体の水封部の下流側に連なる便器排水路から空気を吸引する。吸気装置は、便鉢に洗浄水を給水するための給水管又はバイパス管に設けられ、負圧を発生させるエゼクタと、エゼクタと便器排水路との間に接続される吸引タンクとを有している。吸引タンクの内部は、ベローズの外側(第1室)とベローズの内側(第2室)とに区画されている。第1室はエゼクタに接続され、第2室は便器排水路に接続されている。
【0003】
このような構成である従来の便器排水路の吸気装置は、ベローズの伸長により増加するベローズの内容積に応じた一定量の空気が便器排水路から吸引される。このため、便器排水路に安定してサイホン作用を発生させることができる。また、便器排水路内の臭気を含んだ空気等をベローズより上流側へ放散しないという効果も奏する。
【0004】
そして、便鉢への洗浄水の供給が終了すると、エゼクタが大気と連通し、吸引タンクの第1室が大気圧になる。これにより、第1室が負圧になることにより伸張していたベローズは縮小し、次回の便器洗浄の準備状態となる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−54388号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の便器排水路の吸気装置では、ベローズの縮小が大気圧のみで行なわれるため、ベローズを縮小させる力が弱い。このため、第2室と便器排水路とを接続する経路に汚物等が残存する等の理由により、第2室内の空気を便器排水路に排出する方向に抵抗が生じると、ベローズが充分に縮小しない虞がある。この場合、次回の便器洗浄の際に便器排水路からの空気の吸引が不十分になり、サイホン作用が発生し難くなる。この結果、便器洗浄が良好に行なわれない虞がある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、繰り返し確実にサイホン作用を発生させて便器洗浄を良好に行うことができる便器排水路の吸気装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の便器排水路の吸気装置は、便器本体の水封部の下流側に連なる便器排水路から空気を吸引する便器排水路の吸気装置において、
負圧発生装置と、該負圧発生装置と前記便器排水路との間に接続される吸引タンクとを備え、
該吸引タンクの内部は、設置時の上下方向で移動可能な隔膜によって第1室と第2室とに区画され、
該隔膜は、平坦に形成された平面部と、該平面部に設けられた錘とを有し、
該第1室は該負圧発生装置に接続され、該第2室は該便器排水路に接続されていることを特徴とする。
【0009】
このような構成である本発明の便器排水路の吸気装置において、負圧発生装置により吸引タンクの第1室を負圧にすると、隔膜の平面部が上方に移動し、第2室の容積が一定量増加する。この結果、便器排水路の空気が第2室に吸引され、サイホン作用が発生する。
【0010】
その後、第1室を大気圧に戻すと、錘を有する平面部には、この錘の重さにより下方に大きな力が働く。このため、第2室内の空気を便器排水路に排出する方向に抵抗が生じていても、その抵抗を打ち消して、平面部は下方の所定の位置に確実に移動する。
【0011】
したがって、本発明の便器排水路の吸気装置は、繰り返し確実にサイホン作用を発生させて便器洗浄を良好に行なうことができる。
【0012】
本発明の吸気装置において、負圧発生装置としては、負圧を発生させることができるものであれば、種々のものを採用することができる。例えば、洗浄水を供給することにより負圧を発生させるエゼクタの他、ポンプ等を採用することができる。
【0013】
本発明の便器排水路の吸気装置において、吸引タンク内は平面視で円形に形成され、
隔膜は、円形状の平面部の周縁から立ち上がる可撓性のある周膜と、周膜の上端から径方向外側へ延びる鍔部と、鍔部の周縁から下方に折り曲げられて延びる取付片とを有することが好ましい。
【0014】
この場合、周膜が変形することにより、平面部が吸引タンクの上内壁面と下内壁面との間を安定して移動する。また、平面部が円形状であるため、周膜全体に均等に力が働き、平面部は水平状態を維持した状態で上下移動することができる。このため、平面部が傾いて空気の吸引量が減少してしまうことを防止することができる。
【0015】
また、周膜は下部が膨らんだ略円筒形状であると良い。この場合、周膜の側面が蛇腹状でない曲面であるため、仮に便器排水路から第2室に汚物を含んだ洗浄水等が吸引されても、その洗浄水等は、周膜の側面に引っかかって留まることがなく、第2室から便器排水路へ排出され易い。
【0016】
また、錘を円形状の平板にして、隔膜の平面部に平面部と同心に設けると良い。この場合、錘の重さが周膜の全体に均等に働くため、平面部が水平状態を維持した状態で上下移動を行ない易い。
【0017】
また、鍔部が吸引タンクの上内壁面と接するように隔膜を吸引タンクに設けると良い。この場合、隔膜の平面部を吸引タンクの上内壁面に接するまで上昇させることができる。
【0018】
さらに、隔膜の平面部が下降時に吸引タンクの下内壁面に接するように隔膜を吸引タンクに設けると良い。この場合、隔膜の平面部を吸引タンクを下内壁面に接するまで下降させることができる。
【0019】
隔膜の平面部の上昇位置及び下降位置が吸引タンクの上内壁面及び下内壁面に接する位置になるように隔膜を設けると、第1室及び第2室の容積変動量を吸引タンクの内容積に近づけることができ、吸引タンクの内部の空間が有効に利用され、吸引タンクの小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の便器排水路の吸気装置を洋風水洗式便器に具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0021】
図1に示すように、この洋風水洗式便器は、便器本体1と、便器洗浄装置100とを備えている。なお、便座及び便蓋の図示は省略する。
【0022】
便器本体1は便鉢2の上部内周にリム3を有している。また、便器本体1には便鉢2の下端から上方に延びる上昇流路が形成され、便鉢2の下方には水封部4が形成されている。
【0023】
図3に示すように、便器本体1は、上昇流路を形成し、後方に向けて開口する便器排水管150を有している。便器排水管150の下流側には、接続管151及び排水接続管8が接続されている。
【0024】
接続管151の上流端開口部には、パッキン150pを介して便器排水管150の下流端が挿入されている。排水接続管8の上流端開口部には、パッキン8pを介して接続管151の下流端が挿入されている。排水接続管8は、とぐろを巻いた形状に形成され、途中に洗浄水が滞留して上流側と下流側とを封鎖する滞留部6を有している。排水接続管8は、上流端開口部に嵌め込まれ、管径を縮小するオリフィス部材8aを有している。便器排水管150、接続管151及び排水接続管8により形成され、水封部4の下流側かつ滞留部6の上流側が排水流路5である。
【0025】
排水接続管8は、床排水接続部材9に接続され、床排水接続部材9は床面から立ち上げられた床排水管300に接続されている。このようにして排水接続管8の下端の排水口7は床排水管300に連通している。床排水接続部材9は、排水接続管8の滞留部6を支持する支持部9aを有している。また、便器本体1は、便鉢2の後方に側壁1Wに囲まれた収納部1Sを有している。
【0026】
また、図1に示すように、便器洗浄装置100は、洗浄水供給装置と便器排水路5の吸気装置200とを備えている。
【0027】
洗浄水供給装置は、水道管と接続される導水管10と、導水管10を開閉する第1開閉弁V1とを備えている。
【0028】
導水管10は、便器本体1が据え付けられるトイレルームの床面又は壁面から引き込まれた水道管の止水栓V5に連通している。また、第1開閉弁V1より上流側には、止水弁及びストレーナを内蔵するストレーナ装置11と定流量弁12とが設けられており、下流側にはバキューブブレーカ13が設けられている。
【0029】
また、バキュームブレーカ13より下流側の導水管10にエゼクタ30の導入口31が接続されている。エゼクタ30の導出口32にはタンク20の流入口21が接続され、タンク20は貯留した洗浄水を流出口22から流出可能になっている。
【0030】
タンク20は、流入口21に連通する流入室25と、流入室25と底部が連通され、流出口22に連通する流出室26とを有している。流入室25には大気口23が設けられ、ここには第2開閉弁V2が接続されている。流入室25は、エゼクタ30の導出口32に連通するノズル50から洗浄水が吐出され、旋回流が形成される旋回室29を有する。流出口22には、便器本体1のリム3まで延びる送出管40が接続されている。
【0031】
エゼクタ30は外部に連通する吸気口33を有している。この吸気口33は導出口32から洗浄水を導出することにより空気を吸引する。
【0032】
便器排水路5の吸気装置200は、負圧発生装置201と吸引タンク80とを有している。
【0033】
負圧発生装置201は、エゼクタ30と負圧蓄圧タンク70とを有している。エゼクタ30の吸気口33は、逆止弁111が設けられた第1導圧管110を介して負圧を蓄圧する負圧蓄圧タンク70に接続されている。
【0034】
逆止弁111より負圧蓄圧タンク70よりの第1導圧管110には、途中に第3開閉弁V3が設けられて外部に連通する第2導圧管120が分岐されている。また、この第1導圧管110には、途中に第4開閉弁V4が設けられ、吸引タンク80に連通する第3導圧管130が分岐されている。
【0035】
吸引タンク80の内部は、上下方向で移動可能な隔膜83によって第1室81と第2室82とに区画されている。第1室81は第3導圧管130に接続され、第2室82は吸引管90によって便器排水路5に接続されている。
【0036】
図2に示すように、第1開閉弁V1、第2開閉弁V2、第3開閉弁V3及び第4開閉弁V4は制御装置Cにより開閉タイミング及び開閉時間が制御されている。第2開閉弁V2、第3開閉弁V3及び第4開閉弁V4は、空気用の開閉弁であるため、水用の開閉弁に比べ、小型にされ、開閉動作を小さな力で行なうことができるようになっている。
【0037】
この実施例の特徴的な構成である吸引タンク80について、より詳細に説明する。図4に示すように、吸引タンク80は、なべ状の本体84と、上蓋85と、隔膜83とを有している。図5に示すように、本体84及び上蓋85により吸引タンク80の外郭が形成され、図4に示すように、その内部が上下方向で移動可能な隔膜83によって第1室81と第2室82とに区画されている。
【0038】
図4及び図6〜図8に示すように、本体84は、円形の底壁84aと、底壁84aの周縁から立ち上がる周壁84dとを有している。底壁84aの下内壁面84mの最下部には、下部開口84bと、下部開口84bに連通し、下方に突出する挿入管84cとが形成されている。また、底壁84aの下内壁面84mには、底壁84aの外周から下部開口84bに連通する複数本の溝84eが放射状に凹設されている。周壁84dの上部外周面には、各々のボルト87bを挿通する複数個の貫通孔84gを有するフランジ84fが形成されている。本体84の内側表面は粗面加工されている。
【0039】
図4〜図6及び図9に示すように、上蓋85は、上方に膨らんだ曲面形状であり、その上内壁面85mには、中心から放射状に延びる複数本のリブ85dが形成されている。上蓋85は、上部開口85aと、上部開口85aに連通する導圧連通管85bとを有している。上蓋85の外周面には、各々ボルト87bを挿通する複数個の貫通孔85gを有するフランジ85fが形成されている。上蓋85の導圧連通管85bが第3導圧管130に接続され、上部開口85aが負圧発生装置201に連通されている。上蓋85の内側表面は粗面加工されている。
【0040】
図6、図10及び図11に示すように、隔膜83はゴム製であり、平坦に形成された円形状の平面部83a、平面部83aの周辺から立ち上がる可撓性を有する周膜83b、周膜83bの上端から径方向外側へ延びる鍔部83c及び鍔部83cの周縁から下方に折り曲げられて延びる取付片83dを有している。周膜83bは下部が膨らんだ略円筒形状である。平面部83a及び周膜83bの表面は粗面加工されている。
【0041】
平面部83aが上下移動する際、周膜83bの全体に均等に力が働くため、平面部83aが水平状態を維持した状態で上下移動する。このため、平面部83aが傾いて便器排水路5から吸引する空気量が減少してしまうことを防止することができる。
【0042】
また、仮に便器排水路5から汚物を含んだ洗浄水等が第2室82に吸引されても、その洗浄水等は、周膜83bの側面に引っかかって留まることがなく、第2室82から便器排水路5へ排出される。
【0043】
平面部83aには、平面部83aと同心の円形凹部83iが形成され、その中心に先端が拡径した突部83gが一体に形成されている。また、円形凹部83iの外周壁83wの上部内周面から内方へ突出する3つの係止片83hが平面部83aと一体に形成されている。突部83g及び各係止片83hもゴム製の可撓性を有するものである。
【0044】
隔膜83は、平面部83aの円形凹部83iに嵌め込まれた円形状の平板の錘86を有している。錘86は金属製であり、中心に開口86aが形成されている。錘86は、開口86aに突部83gを挿入しながら、係止片83hを変形させて、円形凹部83i内に嵌めこまれる。錘86は、開口86aが突部83gの拡径した先端に係止し、かつ周縁部が各係止片83hに係止することにより、円形凹部83iから外れない。
【0045】
第1室81を大気圧に戻すと、隔膜83の平面部83aには錘86の重さにより下方に大きな力が働く。このため、第2室82の空気を便器排水路5に排出する方向に抵抗が生じていても、その抵抗を打ち消して、平面部83aは下方の所定位置に確実に移動する。また、平面部83aと錘86とは同心に設けられているため、周膜83b全体に均等に力が働くため、平面部83aが水平状態を維持した状態で上下移動する。このため、平面部83aが傾いて便器排水路5から吸引する空気量が減少してしまうことを防止することができる。
【0046】
図6に示すように、本体84のフランジ84fの下面には、各ボルト87bに螺合する複数個のねじ孔87hを有するリング状の補強金具87dが配置されている。また、上蓋85のフランジ85fの上面にも、各ボルト87bを挿通する複数個の貫通孔87gを有するリング状の補強金具87uが配置されている。図4及び図12に示すように、隔膜83の取付片83dは、本体84のフランジ84fと上蓋85のフランジ85fとの間に密閉状態で挟持されている。各ボルト87bを上方から各々の貫通孔87g、85g、84gに挿通し、補強金具87dのねじ孔87hに螺合させることにより、本体84のフランジ84f、隔膜83の取付片83d及び上蓋85のフランジ85fが締め付け固定される。
【0047】
図4及び図12に示すように、隔膜83の鍔部83cは、上蓋85の上内壁面85mに接するように固定されている。また、図10に示すように、隔膜83の平面部83aは、周縁より内側の下面に等間隔に配置され、下方に突出する6個の下凸部83eを有している。また、隔膜83の平面部83aは、周縁より内側の上面に等間隔に配置され、上方に突出する6個の上凸部83fを有している。図11(A)に示すように、隔膜83は、下降位置において、下凸部83eが本体84の底壁84aの下内壁面84mに点接触し、かつ図11(B)に示すように、上昇位置において、上凸部83fが上蓋85の上内壁面85m又はリブ85dに点接触する。
【0048】
このように隔膜83の平面部83aは、上蓋85の上内壁面85mと本体84の底壁84aの下内壁面84mとの間を移動するため、第1室81及び第2室82の容積変動量を吸引タンク80の内容積に近づけることができる。つまり、吸引タンク80の内部の空間が有効に利用されるため、吸引タンク80の小型化を図ることができる。
【0049】
図4に示すように、本体84の下部に設けられた挿入管84cは、図3に示す接続管151から分岐した分岐連通管90の連通口90aにパッキン90pを介して挿入されている。このため、吸引タンク80の第2室82と便器排水路5とを気密性を確保しつつ、容易に連通させることができる。
【0050】
以上の洋風水洗式便器では、便器排水路5の吸気装置200は、エゼクタ30、第1導圧管110、逆止弁111、負圧蓄圧タンク70、第2導圧管120、第3開閉弁V3、第3導圧管130、第4開閉弁V4、吸引タンク80、吸引管90及び制御装置Cによって構成されている。洗浄水供給装置は、導水管10、ストレーナ装置11、定流量弁12、第1開閉弁V1、バキューブブレーカ13、エゼクタ30、ノズル50、タンク20、第2開閉弁V2、送出管40、第1導圧管110、第2導圧管120、第3開閉弁V3及び制御装置Cによって構成されている。
【0051】
次に、本発明の吸気装置200を組み込んだ便器洗浄装置100の作動について図1に示す構成に基づいて説明する。
【0052】
[非洗浄時]
図13において、t1時点によりも前の非洗浄時には、第1開閉弁V1、第2開閉弁V2、第3開閉弁V3及び第4開閉弁V4は閉弁している。この状態では、タンク20内には洗浄水が貯留されている。吸引タンク80内の隔膜83は吸引タンク80内の下内壁面84mに当接している。
【0053】
[便鉢洗浄行程・負圧蓄圧行程]
用便後、図13のt1時点において、制御装置Cに便器洗浄の開始信号を送信する洗浄スイッチを使用者が操作することにより、制御装置Cによって第1開閉弁V1が開弁する。
【0054】
これにより、導水管10内を流れる洗浄水はエゼクタ30を通って旋回室29内に流入する。エゼクタ30内に洗浄水が流れることにより、エゼクタ30が負圧蓄圧タンク70内の空気を第1導圧管110及び逆止弁111を介して吸引し、吸引された空気は洗浄水とともに旋回室29内に流入する。旋回室29内では洗浄水が旋回するため、洗浄水中の空気は、良好に分離され、流入室25の上部に蓄積される。これにより、負圧蓄圧タンク70内に負圧が徐々に蓄積されるとともに、負圧蓄圧タンク70から吸引した空気の分だけ流入室25の水面が徐々に下がる。
【0055】
また、導水管10から供給された洗浄水と、タンク20内に貯留され、負圧蓄圧タンク70から吸引した空気に応じた量の洗浄水とが送出管40を介してリム3に供給される。リム3に供給された洗浄水は便鉢2の内面に沿って旋回しながら流れ落ち、便鉢2内に旋回流が形成される。この旋回流により、汚物は便鉢2の中央に集められる。なお、この旋回流により、ペーパーは、ほぐれて洗浄水となじみ、洗浄水中に分散する。
【0056】
[吸気行程]
図13のt2時点において、制御装置Cによって第4開閉弁V4が開弁される。これにより、負圧蓄圧タンク70内の負圧が第1導圧管110、第3導圧管130及び第4開閉弁V4を介して吸引タンク80の第1室81に伝達され、第1室81内が負圧になる。また、エゼクタ30内には引き続き洗浄水が供給されているため、エゼクタ30によっても第1室81内の空気が吸引される。これにより、吸引タンク80内の隔膜83は、第4開閉弁V4が開弁された当初は負圧蓄圧タンク70内の負圧により急激に引き上げられ、その後、エゼクタ30により吸引タンク80の上内壁面85mに当接するまで緩やかに引き上げられる。
【0057】
吸引タンク80により便器排水路5内の空気を第2室82に吸引する際には、便鉢2内の水位はリム3から供給された洗浄水によって十分に高くなっており、水封部4の最高位部4aとの間の水頭差が十分に大きなものとなっている。このため、便鉢2内の洗浄水は、この水頭差と便器排水路5内の空気の吸引とにより、早期に便器排水路5内が洗浄水で満水状態になって強力なサイホン作用が発生し、少ない洗浄水で早期に排出流が形成される。
【0058】
この際、便鉢2内に形成された旋回流により便鉢2の中央に集められた汚物は、サイホン作用により便器排水路5へ排水される洗浄水に伴って、便器排水路5へ確実に排出される。
【0059】
また、便器排水路5は、滞留部6によって下流側と封鎖され、便器排水路5は水封部4と滞留部6との間に存在する閉空間にされている。このため、確実に便器排水路5から一定量の空気を吸引することができるため、サイホン作用を安定して発生させることができる。
【0060】
また、吸引タンク80内が隔膜83によって第1室81と第2室82とに区画され、第2室82のみが便器排水路5と連通しているため、汚物を含んだ洗浄水や臭気を含んだ空気等が負圧蓄圧タンク70やエゼクタ30側へ入り込むことを確実に防止している。
【0061】
[洗浄水増加行程」
図13のt3時点において、便鉢2の水位は便鉢2後部の最低位部2aの高さ近傍にまで低下しており、この瞬間、制御装置Cによって第3開閉弁V3を開弁し、第4開閉弁V4を閉弁する。
【0062】
この際、いまだエゼクタ30内に洗浄水が供給されているため、外部の大量の空気が第3開閉弁V3、第2導圧管120及び第1導圧管110を介して旋回室29内に流入する。このため、流入室25内の洗浄水は、流入した大量の空気により流出室26及び送出管40を介してリム3に押し出される。これにより、流入室25内の水位は急激に大きく低下する。
【0063】
便鉢2内の水位が便鉢2後部の最低位部2aより低くなり、便器排水路5に便鉢2から空気が流入してサイホン作用が終了する前において、こうしてリム3に供給される洗浄水が増加する。つまり、リム3から供給される洗浄水は、導水管10から供給される洗浄水とタンク20に貯留されていた洗浄水とを加えたものであるため、便鉢2への単位時間当たりの洗浄水の供給水量は多くなっている。このため、水封部4は破封せず、便鉢2内の洗浄水は旋回を継続し、サイホン作用も継続する。また、便鉢2内の旋回流も強力になる。さらに、洗浄水の水勢も増加する。このため、便鉢2内に残留する汚物は、便器排水路5内へ押し出されるようにより確実に排出される。
【0064】
[隔膜の戻し行程]
図13のt4時点において、制御装置Cによって第1開閉弁V1を閉弁し、第4開閉弁V4を開弁する。これにより、吸引タンク80の第1室81が第4開閉弁V4、第3導圧管130、第1導圧管110、第2導圧管120及び第3開閉弁V3を介して外部と連通するため、第1室81内が大気圧になり、隔膜83が下降する。このため、便器排水路5内に第2室82から空気が徐々に押し込まれ、便器排水路5内において徐々に空気が増加するため、便器排水路5を洗浄水の満水にする状態が維持できず、サイホン作用が終了する。
【0065】
[覆水行程]
図13のt5時点において、制御装置Cによって第1開閉弁V1及び第2開閉弁V2を開弁し、第4開閉弁V4を閉弁する。これにより、エゼクタ30が外部から空気を吸引しながら旋回室29に洗浄水が流入する。洗浄水中の空気は、旋回室29内で良好に分離され、大気口23、第2開閉弁V2を介して外部に放出される。このため、タンク20内の洗浄水は洗浄開始前の所定の水位まで蓄積される。また、流出室26から送出管40を介して洗浄水がリム3に供給され、便鉢2内に洗浄水が溜まり覆水する。
【0066】
[大気開放行程]
図13のt6時点において、制御装置Cによって第1開閉弁V1が閉弁し、第4開閉弁V4が開弁する。これにより、再度、吸引タンク80の第1室81が第4開閉弁V4、第3導圧管130、第1導圧管110、第2導圧管120及び第3開閉弁V3を介して外部と連通し、隔膜83が吸引タンク80の下内壁面84mに当接するまで下降する。この結果、隔膜83が洗浄前の所定の位置に戻され、次回の洗浄を安定して行なうことができる。その後、図13のt7時点において、制御装置Cによって第2開閉弁V2、第3開閉弁V3及び第4開閉弁V4が閉弁される。
【0067】
したがって、実施例の便器排水路5の吸気装置200は、繰り返し確実にサイホン作用を発生させて便器洗浄を良好に行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は便器排水路の吸気装置に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】実施例の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の模式図である。
【図2】実施例の洗浄水供給装置の制御装置を示す模式図である。
【図3】実施例の便器排水路の吸気装置を備えた洋風水洗式便器の要部断面図である。
【図4】実施例の吸引タンクの断面図である。
【図5】実施例の吸引タンクの斜視図である。
【図6】実施例の吸引タンクの分解断面図である。
【図7】実施例の吸引タンクを構成する本体の断面図である。
【図8】実施例の吸引タンクを構成する本体の平面図である。
【図9】実施例の吸引タンクを構成する上蓋の底面図である。
【図10】実施例の吸引タンクを構成する隔膜の平面図である。
【図11】図6のA−A矢視の一部断面図に係り、(A)は隔膜が下降位置に位置する際のものであり、(B)は隔膜が上昇位置に位置する際のものである。
【図12】実施例の吸引タンクの一部拡大断面図である。
【図13】実施例の洋風水洗式便器の作動を説明するタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1…便器本体
4…水封部
5…便器排水路
80…吸引タンク
81…第1室
82…第2室
83…隔膜
83a…平面部
86…錘
200…吸気装置
201…負圧発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器本体の水封部の下流側に連なる便器排水路から空気を吸引する便器排水路の吸気装置において、
負圧発生装置と、該負圧発生装置と前記便器排水路との間に接続される吸引タンクとを備え、
該吸引タンクの内部は、設置時の上下方向で移動可能な隔膜によって第1室と第2室とに区画され、
該隔膜は、平坦に形成された平面部と、該平面部に設けられた錘とを有し、
該第1室は該負圧発生装置に接続され、該第2室は該便器排水路に接続されていることを特徴とする便器排水路の吸気装置。
【請求項2】
前記吸引タンク内は平面視で円形に形成され、
前記隔膜は、円形状の前記平面部の周縁から立ち上がる可撓性のある周膜と、該周膜の上端から径方向外側へ延びる鍔部と、該鍔部の周縁から下方に折り曲げられて延びる取付片とを有する請求項1記載の便器排水路の吸気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−231721(P2008−231721A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70563(P2007−70563)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】