説明

便器洗浄装置及び便器の洗浄方法

【課題】より信頼性の高い汚れの検知手法を実現し、それによって便器を適切に自動洗浄する。
【解決手段】便器洗浄装置は、便器10に設けられた発信機20及び受信機22を用いて汚れを検知すると、モータ32を駆動して洗浄水を流出させる。発信機20から超音波が発信されると、それによって便器10に振動が発生する。このとき便器10に汚れが付着していると、受信機22で受信した超音波に減衰が生じるので、これを用いて正確に汚れを検知することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器を自動で洗浄する便器洗浄装置に関する。また本発明は、自動洗浄機能を用いて実行される便器の洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、便器の自動洗浄に関して、所定のアルゴリズムに基づいて自動洗浄機能の洗浄モードを制御する先行技術がある(例えば、特許文献1参照。)。この先行技術は、便蓋の裏や便座の裏に設置したCCDカメラで便器の内部を定期的に撮影し、その撮影した画像を基準画像と比較した結果、ある基準値を超えている場合は自動洗浄が必要であると判断して、その後に便器の不使用の時間を見計らって便器を自動洗浄するものである。
【0003】
上記の先行技術によれば、単純に便器の使用回数や経過時間などによって便器の汚れ状態を定量的に判断するのではなく、便器内部を撮影して得た画像データの比較により汚れの有無を客観的に判断できるので、実際の便器の汚れ具合に応じて自動洗浄を行うことができると考えられる。
【特許文献1】特開2008−25288号公報(段落0052〜0057、図9)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した先行技術の手法は、カメラ等の光学的撮像手段を用いて汚れの有無を判断するものであるから、例えばレンズに汚れが付着した場合、間違って便器が汚れていると判断してしまうおそれがある。この場合、実際には汚れが付着していないのに自動洗浄が頻繁に行われることから、それだけ水資源を無駄に消費するという問題がある。特に、もともと便器は排泄物で汚れやすい性質のものであるから、その付属品である弁蓋や便座だけを汚れない環境におくことは困難である。したがって、このような汚れやすい環境にカメラを設置して、果たして正確に汚れを検知できるかどうかは甚だ疑問である。
【0005】
また、先行技術のように便器にカメラを設置するという手法は、カメラの存在が使用者に「撮られている」という心理的な圧迫感を与え、トイレの快適性を損なうおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、より信頼性の高い汚れの検知手法を実現し、それによって便器を適切に自動洗浄することができる技術の提供を課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の解決手段を採用する。
すなわち本発明の便器洗浄装置は、洗浄対象となる便器の内部に洗浄水を流出させて洗浄動作を実行する洗浄動作実行手段と、便器に設けられて超音波を発信する発信機、及びこの発信機から発信された超音波を少なくとも便器を介して受信する受信機を有し、この受信機で受信した超音波に基づいて便器の汚れを検知する検知手段と、発信機及び受信機をそれぞれ動作させて検知手段による検知の動作を制御するとともに、その検知結果に基づいて洗浄動作実行手段による洗浄動作の実行を制御する制御手段とを備える。
【0008】
上記のように本発明の便器洗浄装置は、超音波を用いて便器の汚れを検知しているため、汚れの付着によって検知機能そのものが劣化することはない。したがって、便器の汚れの有無を正確に検知することができ、汚れがあった場合にのみ適切に洗浄動作を実行することができる。
【0009】
上記の検知手段は、受信機により受信した超音波に生じている要素の変化に基づいて便器の汚れの有無を判別する。
【0010】
検知手段が発信機から超音波を発信させると、それによって便器を含む振動系を振動させることができる。このときの振動系の特性(例えば減衰定数、固有振動数)は、便器が汚れていない状態と汚れが付着した状態とで異なる。すなわち、便器に汚れが付着していると、それによって振動系の特性が変化することで、発信機から発信された超音波が伝播していく過程で振動に減衰が生じることになる。しがって、受信機で受信した超音波に減衰が生じていれば、それによって便器に汚れが付着していることを確実に検知することができる。
【0011】
なお発信機及び受信機は、便器の内面に露出しない状態で設置されている。この場合、発信機や受信機が洗浄水に触れないので、これらに防水性を求める必要がない。また、内面に露出せずに便器に埋め込まれた状態であれば、それぞれの設置位置での振動の伝播効率が向上する。
【0012】
あるいは発信機及び受信機は、便器の内面に露出した状態で設置されている態様であってもよい。この場合、発信機や受信機の状態を外部から容易に観察できるため、保守作業性を向上することができる。
【0013】
また、発信機及び受信機の少なくとも一方は複数箇所に設置されている。このような設置態様であれば、より多くの位置で超音波を受信できるため、それだけ汚れの検知精度を高めることができる。
【0014】
受信機は、便器の中心位置を前後方向に延びる仮想的な基準線を挟んで対称となる複数の箇所に設置されていることが望ましい。
【0015】
このような設置態様であれば、単なる汚れの有無だけでなく、基準線を挟んでどちらの位置により多くの汚れが付着しているかを検知することができる。例えば、基準線を挟んだ一方側の箇所で受信された超音波の減衰よりも、他方側の箇所で受信された超音波の減衰の方がより大きければ、それによって他方側により多くの汚れが付着していることを容易に検知することができる。
【0016】
上記のように複数の箇所に発信機又は受信機を設置する場合、便器洗浄手段は、便器内で洗浄水の流出方向を複数通りに切り替え可能であることが好ましく、また検知手段は、複数箇所に設置された受信機が個々に受信した超音波に基づいて便器内部での汚れを検知することができる。そして制御手段は、検知手段による検知結果に基づき、便器洗浄手段による洗浄水の流出方向を特定して洗浄動作を制御することができる。
【0017】
このような構成であれば、より多くの汚れが付着している箇所を狙って洗浄水を流出させることができるので、それだけ洗浄効果や洗浄動作による精度を高めることができる。
【0018】
本発明の便器洗浄装置は、便器を使用する人体を検知する人体検知手段をさらに備えており、制御手段は、検知手段による汚れの検知結果に加えて、人体検知手段による人体の検知結果に基づいて洗浄動作を制御することができる。
【0019】
この場合、使用者が便器を使用している間は自動洗浄を実行しないので、使用者に違和感を与えることがない。また、通常は使用者自身が洗浄を行うはずであるから、無駄に自動洗浄を実行してしまうことを防止することができる。
【0020】
また制御手段は、データ記録部を含むことが好ましく、この場合、制御手段は、便器洗浄手段による洗浄動作の後に受信機により受信された超音波の波形をデータ記録部に記録する。
【0021】
このような構成であれば、例えば今回記録しておいた波形を用いて次回の洗浄動作の際に得た波形と比較し、その結果から汚れが落ちたか否かを判断することができる。以下にその態様を述べる。
【0022】
(1)制御手段は、受信機により受信された超音波の波形をデータ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等であると判断した場合は洗浄動作を実行させない。
【0023】
この場合、自動洗浄をおこなった程度では落ちない汚れであると考えられることから、それ以上の洗浄動作を繰り返しても効果がない。したがって、この場合は洗浄動作を実行しないこととし、水資源の無駄を防止する。
【0024】
(2)本発明の便器洗浄装置は、所定の警報動作を実行する警報手段をさらに備える。その上で制御手段は、受信機により受信された超音波の波形をデータ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等であり、かつ発信機により発信された超音波の原波形と相違すると判断した場合、警報手段に警報動作を実行させるものとする。
【0025】
このような構成であれば、それ以上の無駄な洗浄動作を実行しないことに加えて、自動洗浄を行っても落ちにくい汚れが付着していることを警報によって周囲に知らせることができる。これにより、警報に気付いた使用者や管理者に汚れの除去(清掃作業)を促すことができる。
【0026】
(3)また制御手段は、受信機により受信された超音波の波形をデータ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等でないと判断した場合、所定回数に達するまで洗浄動作を実行させた後にデータ記録部に波形を記録する。
【0027】
この場合、自動洗浄によってある程度(少しずつ)汚れが落ちている間は、所定回数まで洗浄動作とその後の波形の記録を繰り返すことで、引き続き汚れの除去を試みることができる。
【0028】
(4)そして、上記(3)において警報手段をさらに備える場合、制御手段は、受信機により受信された超音波の波形をデータ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等でなく、かつ、これまでに洗浄動作を実行させた回数が所定回数に達している場合、洗浄動作を実行させることなく警報手段に警報動作を実行させるものとする。
【0029】
この場合、ある程度の回数まで自動洗浄を繰り返しても汚れが充分に落ちないと考えられるため、それ以上の洗浄動作をやめて水資源の消費を抑え、警報によって便器に汚れが付着していることを周囲に知らせることができる。
【0030】
なお制御手段は、発信機を作動させた状態で便器洗浄手段による洗浄動作を実行させることもできる。この場合、超音波を発信させながら洗浄水を流すことで、汚れの剥離を促進することができ、それだけ洗浄効果を高めることができる。
【0031】
また本発明の便器の洗浄方法は、便器に設けられた発信機から超音波を発信させ、この超音波を少なくとも便器を通じて伝播させる第1の工程と、発信機から発信された超音波を便器に設けられた受信機にて受信させる第2の工程と、受信機にて受信した超音波の波形と、発信機から発信された超音波の波形とを比較する第3の工程と、比較の結果、2つの波形が互いに同等でない場合に便器の内部に洗浄水を流出させる第4の工程とを有する。
【0032】
本発明の洗浄方法によれば、超音波を用いて便器の汚れの有無を正確に検知し、その結果に基づいて便器を適切に洗浄することができる。
【0033】
上記第1の工程及び第2の工程は、発信機及び受信機の少なくとも一方を複数の箇所に設置した状態で超音波の発信と受信とを実行させるものである。また第3の工程は、発信機から発信された超音波の原波形と、複数箇所に設置された受信機にて個々に受信した複数の超音波の波形とをそれぞれ比較するものである。そして第4の工程は、比較の結果、原波形と同等でない波形を有する超音波を受信した特定の受信機の設置箇所に向けて洗浄水を流出させるものであることが望ましい。
【0034】
この場合、より汚れの付着が多い箇所を特定して洗浄水を流すことができるので、それだけ洗浄効果を高めることができる。
【0035】
また本発明の洗浄方法は、第3及び第4の工程を実行した場合、その前に実行した第2の工程で受信機により受信させた超音波の波形を第1受信波形として記録する第5の工程と、第5の工程の後、第1及び第2の工程をさらに実行して受信機により受信させた超音波の波形を第2受信波形とし、この第2受信波形と第1受信波形とを比較する第6の工程と、この比較の結果、第1受信波形と第2受信波形とが互いに同等である場合は便器の内部に洗浄水を流出させず、一方で第1受信波形と第2受信波形とが互いに同等でなければ、さらに第2受信波形と原波形とを比較し、その結果、両者が互いに異なる場合は便器の内部に洗浄水を流出させる第7の工程とをさらに有する。
【0036】
この場合、自動洗浄によって落ちにくい汚れが付着している場合はそれ以上の洗浄動作を実行せずに水資源の無駄を抑えることができる。一方で汚れの程度が変化していたり、新たな汚れが検知されたりした場合は引き続き洗浄動作を実行することで、確実に便器を洗浄することができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のように本発明によれば、便器の汚れの有無をより正確に検知することで、必要な場合にだけ適切に洗浄動作を実行することができる。これにより、水資源の無駄を抑えるとともに、便器を清浄に保って使用者に快適なトイレ環境を提供することができる。
【0038】
また本発明は、カメラ等の撮像手段をもちいないので、使用者に心理的な圧迫感を与えることがなく、より快適なトイレ空間の提供に大きく寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0040】
図1は、一実施形態の便器洗浄装置が適用された便器10を部分的に破断して示した斜視図である。この便器10はいわゆる洋式便器であり、それゆえ便器10はその内部がボウル型の構造を有している。なお便器10は全てが一体の成型品であってもよいし、例えば本体部分と外装部分とが別部品で構成される構造であってもよい。
【0041】
便器10は上面が大きく開口しており、その開口縁上に便座ユニット12が取り付けられている。便座ユニット12は、例えば便座14及び便蓋16を有しており、これらは便器10の上面にて開閉する。また便座ユニット12はユニットベース18を有しており、便座14及び便蓋16は、それぞれユニットベース18にヒンジを介して接合されている。なおユニットベース18は、例えば便器10の後部に固定されている。
【0042】
その他、便器10には図示しない給水管や排水管等が接続されている。便器10の内縁には図示しない流水口(リム孔)が形成されており、洗浄動作時に上記の給水管を通じて供給された洗浄水(水道水)は、流水口から便器10の内部に勢いよく流出する。また便器10の底部にはサイホン式の排水通路10aが形成されており、洗浄動作時にはこの排水通路10aを通じて上記の排水管に排水が押し流される。
【0043】
なお便器10は、洗浄水タンクに接続されるタイプのものであってもよいし、タンクを介さずに水道管に直結されるタイプ(いわゆるタンクレスタイプ)のものであってもよい。すなわち便器10の型式や設置態様にかかわらず、本実施形態の便器洗浄装置を広く適用することができる。
【0044】
次に、先ず図1に示されている範囲内で便器洗浄装置の構成について説明する。
【0045】
便器10には、超音波の発信機20及び受信機22がそれぞれ設置されている。このうち発信機20は、例えば便器10の後部壁10bに埋め込んだ状態で設置されており、また受信機22は、例えば前部壁10cに埋め込んだ状態で設置されている。このため図1に示される設置態様では、発信機20及び受信機22は、いずれも便器10の内部(内面)に露出していない。
【0046】
また上記のユニットベース18には、人体検知窓18aが形成されている。ユニットベース18の内部には図示しない人体センサが設置されており、この人体センサは人体検知窓18aを通じて例えば赤外線を送受する。便器10の使用者が便器10に近寄っていたり、あるいは便座14に着座していたりすると、その存在が人体センサによって検知されるものとなっている。なお人体検知窓18aは、便蓋16を閉じた状態でもユニットベース18の外面に露出する。このため人体センサは、便蓋16を閉じた状態でも使用者の人体を検知することができる。したがって人体センサによる検知動作は、便器10が設置された個室内に使用者が入って来た場合にも有効である。
【0047】
続いて、上記の発信機20や受信機22、人体センサ等とともに便器洗浄装置を構成するその他の要素について説明する。
【0048】
図2は、便器10の平面図とともに便器洗浄装置の全体的な構成を概略的に示す図である。なお図2では、便座ユニット12の図示を省略し、便器10のみを図示するものとする。
【0049】
〔洗浄設備〕
先ず、便器10の洗浄設備に関する構成について説明する。便器10には、その後端部に例えば2系統の給水管24,26が接続されている。また便器10の後端部には、各給水管24,26に通じる2本の流水路24a,26aが貫通して形成されている。そして便器10の内縁には、各流水路24a,26aに対応して2つの流水口10d,10eが形成されており、これら2つの流水口10d,10eは、便器10の内縁にて互いに異なる方向に開口している。また流水路24a,26aは、便器10の内部でそれぞれ流水口10d,10eの開口方向へ湾曲している。
【0050】
図2に示される例では、上記の給水管24,26に洗浄水タンク28から洗浄水が供給される型式を採用している。洗浄水タンク28はある程度の量の洗浄水を蓄えており、水栓30を開くことで一定量の洗浄水を供給する。水栓30は、例えば図示しない水洗レバーを使用者が操作することで開くことができるほか、モータ32の動力を用いて開くこともできる。
【0051】
洗浄水の給水経路上には、水栓30の下流に例えば切替弁34が設置されている。この切替弁34は、例えば図示しない弁体(スプール)の位置を内部で切り替えることにより、洗浄水の流路を給水管24,26のいずれか一方に切り替えることができる。切替弁34による切り替え動作は、例えば図示しないソレノイドを駆動又は停止させることで行うことができる。なお切替弁34が3位置型であれば、洗浄水を給水管24,26の両方に同時に流すこともできる。
【0052】
〔制御ユニット〕
上記のモータ32や切替弁34の動作は、例えば制御ユニット36により制御されている。すなわち制御ユニット36は、モータ32に駆動パルスを印加してモータ32を所定の回転角だけ回転させる。また制御ユニット36は、切替弁34のソレノイドに励磁電圧を印加したり、その印加を停止したりして流路を切り替える。なお制御ユニット36は、例えば上記のユニットベース18内に設置されている。
【0053】
制御ユニット36は、CPU38をはじめROM40やRAM42等のメモリデバイスを有する制御用コンピュータである。また制御ユニット36は、入出力回路(I/O)44を有するほか、A/Dコンバータ(ADC)46やマルチプレクサ(MUX)48を有している。
【0054】
上記のモータ32には回転角センサ50が付属しており、この回転角センサ50は、モータ32の基準位置からの回転角(回転変位量)に応じた検出パルスを出力する。制御ユニット36は、回転角センサ50から出力される検出パルスに基づいてモータ32の回転角を検出することができる。このような回転角センサ50は、例えばフォトインタラプタとスリット付ディスクの組み合わせで構成することができる。
【0055】
〔人体検知機能〕
また上記の人体センサ52は、例えば赤外線の反射強度に応じた検知信号を出力する。制御ユニット36は、人体センサ52から出力される検知信号に基づいて便器10の使用者の人体を検知することができる。なお、人体センサ52は赤外線検知方式のほか、便器10周辺の温度変化から人体を検知する方式であってもよい。あるいは、便座14の下面(パッド)に設置した圧力(荷重)センサを人体センサ52として使用してもよい。
【0056】
〔警報出力機能〕
またユニットベース18には、アラーム56が内蔵されている。このアラーム56は、例えば図示しないスピーカを駆動して警報音を発することができる。なおアラーム56は、制御ユニット36から印加される駆動信号に応じて動作する。
【0057】
〔汚れ検知機能〕
上記の発信機20及び受信機22は、いずれも制御ユニット36によりその動作を制御されている。すなわち制御ユニット36は、発信機20に対して駆動信号を印加し、その設置箇所で超音波を発信させる。受信機22は、その設置箇所で受信した超音波の振動レベルに応じた検知信号を出力する。
【0058】
制御ユニット36は、受信機22から出力された検知信号に基づいて、受信機22による超音波の受信波形を取得することができる。具体的には、検知信号は入出力回路44で減衰され、A/Dコンバータ46の感度レンジ(分解能の範囲)内に調整される。そして、調整済みの検知信号はマルチプレクサ48を介してA/Dコンバータ46に受け渡され、受信機22ごとのアナログ波形信号からデジタル信号に変換される。このデジタル信号を例えばCPU38でサンプリング処理やアベレージング処理することで、データとしての受信波形が抽出される。そしてこの受信波形に基づき、制御ユニット36は便器10に付着した汚れの有無や汚れの位置を検知することができる。
【0059】
〔受信波形を用いた汚れの検知〕
図3は、超音波の受信波形を用いた汚れの検知手法を図解して示す概念図である。先ず、基本的な検知手法について説明する。
【0060】
図3中(A):発信機20と受信機22とは、便器10の中央位置を前後方向に延びる仮想的な基準線(図中符号L)上に前後に分かれて設置されている。ここでは発信機20が後方、受信機22が前方に設置されている例を示しているが、これらの配置関係は逆であってもよい。また、ここでいう前後方向は使用者からみて手前側を前方、奥側を後方とする。
【0061】
例えば、便器10の内面に汚れ(図中符号D)が付着していた場合を想定する。この状態で、発信機20から超音波を発信させると、それによって便器10の材料(例えば陶器)をはじめ、その内部の滞留水等の構造体が励振される(超音波発振)。すなわち、これら構造体は超音波によって励振される1つの振動系(例えば1自由度振動系とする)を構成することから、そこには振動系としての質量やばね定数、減衰定数が存在し、それらによって振動系の固有振動数が一意に決定される。
【0062】
図3中(B):発信機20から発信される超音波の波形を常に一定のプロファイルとし、その周波数を振動系の固有振動数に同調させると、上記の振動系が超音波の波形に合わせて共振を起こす。
【0063】
図3中(C):超音波は振動系を介して伝播し、受信機22の設置箇所で受信される。このとき、振動系の質量やばね定数、減衰定数等に特段の変化が生じていなければ、受信波形は原波形を略トレースしたプロファイル(2点鎖線で示す波形)となる。しかし、上記のように便器10の内面に汚れDが付着していると、それによって振動系の特性が変化するため、図中に実線で示されるように超音波の受信波形には減衰が生じることになる。したがって、制御ユニット36において受信波形を原波形と比較することで、便器10内での汚れの有無を検知することができる。
【0064】
〔汚れの位置の検知〕
次に、汚れの位置まで検知する手法を説明する。図4は、複数箇所での超音波の受信波形を用いて汚れの位置を検知する手法を図解して示す概念図である。
【0065】
図4中(A):便器10内には、上記の発信機20及び受信機22が設置されているほか、さらに基準線Lを挟んで左右対称となる位置に受信機23,25が設置されている。つまり、ここでは3つの受信機22,23,25が便器10に設置されている。
【0066】
図4中(B):左側に設置されている受信機23で受信された超音波の波形を示す。この場合、発信機20と受信機23との間に汚れDが付着しているため、それによって受信波形には減衰が生じている。
【0067】
図4中(C):右側に設置されている受信機25で受信された超音波の波形を示す。右側の受信波形には、左側の受信波形ほどの減衰が生じていない。このような違いは、便器10内での汚れDの付着する位置に依存している。すなわち、発信機20から各受信機23,25までの間で超音波が伝播する経路を互いに比較すると、左側の経路には汚れDの付着があり、それによって振動系に大きな特性の変化が生じていることが直感的に理解される。これに対し、右側の経路には特段の汚れがなく、振動系の特性には直接的な変化が生じていない。ただし、系全体として汚れDの付着による特性の変化があるため、それによって僅かに右側でも受信波形は減衰する。
【0068】
図4中(D):発信機20から最も離れた箇所に設置された受信機22で受信された超音波の波形を示す。この受信波形は、左右それぞれの受信波形を合成したものとなる。つまりここでの受信波形は、振動系全体の特性変化による超音波の減衰傾向を示している。
【0069】
〔汚れ位置の検知と方向別の洗浄機能〕
以上より制御ユニット36は、左右の受信波形を個別に取得し、これらを互いに比較することで、少なくとも左右いずれに大きな汚れDが付着しているかを検知することができる。その結果、例えば左側に汚れDが付着していることを検知した場合、制御ユニット36は上記の切替弁34を駆動して洗浄水の流路を左側の給水管24に切り替える。この状態で制御ユニット36がモータ32を駆動すれば、便器10内には左側の流出口10dから洗浄水が流出するので、便器10内の左側の範囲をより勢いよく洗浄することができる。なお、このような方向別の洗浄を行う制御についてはさらに後述する。
【0070】
〔洗浄方法(制御方法)〕
次に、制御ユニット36による具体的な制御方法について説明する。また以下の説明により、便器の洗浄方法に関する実施形態が明らかとなる。
【0071】
〔定常処理〕
図5は、制御ユニット36のCPU38が実行する定常処理の手順例を示すフローチャートである。この定常処理は、例えばROM40にメイン制御プログラムとして格納されている。制御ユニット36の電源投入に伴い、CPU38が起動すると、CPU38は定常処理を実行する。
【0072】
この定常処理は、例えばCPU38が定常的に実行する複数の処理(プログラムモジュール)の集合として構成されている。CPU38は定常処理に記述された順序で複数の処理を実行する。以下、それぞれの概要を説明する。
【0073】
ステップS10:先ずCPU38は、時間計測処理を実行する。この処理は、制御ユニット36が内蔵するタイマカウンタ回路(図示していない)にて経過時間を測定したり、あるいは現在時刻や日時等の記録を更新したりするものである。CPU38は、この処理を通じて各処理の実行中に任意の経過時間をカウントしたり、あるいは現在時刻(タイムスタンプ)を取得したりすることができる。
【0074】
ステップS20:次にCPU38は、人体検知処理を実行する。この処理は、上記の人体センサ52を定期的に駆動し、その検知信号を取得するためのものである。CPU38はこの処理を通じて使用者の接近や着座の有無を定常的に検知することができる。なお、この処理において人体センサ52を駆動する周期は、使用者の有無によって可変としてもよい。例えば、便器10の使用者が頻繁に訪れる時間帯(例えば昼間)は人体センサ52の駆動周期を短縮し、逆に使用者があまり頻繁に訪れない時間帯(夜間等)には人体センサ52の駆動周期を延長する。
【0075】
ステップS30:続いてCPU38は、使用後確認処理を実行する。この処理は、使用者が便器10を使用した後の状態を確認するためのものである。例えば、CPU38は上記の回転角センサ50からの検出パルスを観測し、その変化から水洗レバーが操作されたか否かを確認する。すなわち、制御ユニット36がモータ32に駆動パルスを印加していない状態で、回転角センサ50から検出パルスが入力された場合、それは使用者が手動で水洗レバーを操作したことを意味する。この場合、CPU38は便器10が使用されて洗浄動作が行われたことを確認することができる。なお、特に検出パルスが入力されていなければ、CPU38は使用者による便器10の新たな使用がされていないことを確認する。
【0076】
ステップS40:次にCPU38は、便器洗浄処理を実行する。この処理は、便器10の使用後に汚れの残留を検知した場合、モータ32を駆動して自動的に洗浄動作を実行するためのものである。なお、具体的な制御手順については別のフローチャートを用いて後述する。
【0077】
ステップS50:そしてCPU38は、警報出力処理を実行する。この処理は、必要に応じて上記のアラーム56を作動させ、警報音を発するための処理である。この警報音は、便器10に落ちにくい汚れが付着していることを使用者又は管理者に知らせるためのものである。なお、この処理についても具体的な制御手順は別のフローチャートを用いて後述する。
【0078】
〔便器洗浄処理〕
図6は、便器洗浄処理の具体的な手順例を示すフローチャートである。以下、各手順に沿って説明する。
【0079】
ステップS100:CPU38は、便器10が使用後であり、洗浄動作が可能な状態であるか否かを確認する。例えば、先の使用後確認処理(図5中のステップS30)で便器10の使用後、ある程度の流水時間(例えば数秒〜十数秒)が経過したことを確認している場合、CPU38は動作可能であると判断する(Yes)。この場合、CPU38は次にステップS102を実行する。なお、特に直近で便器10が使用されていない状態か、もしくは使用の直後で未だ充分な流水時間が経過していない状態(洗浄中)であることを確認した場合(No)、CPU38はひとまず定常処理に復帰する。
【0080】
ステップS102:動作可能な状態であれば(ステップS100:Yes)、CPU38は超音波発振を実行する。すなわち、上記のように発信機20を作動させ、一定の原波形で超音波を発信させる。
【0081】
ステップS104:続いてCPU38は、超音波の波形を取得する。すなわちCPU38は、上記の受信機22から入力された検知信号に基づいて波形を観測し、デジタルデータとしての波形を取得する。この段階で取得した波形を以下では「第1受信波形」と呼称する。なお、複数箇所に受信機22,23,25を設置している場合、それぞれの受信機22,23,25からの検知信号に基づいて個別に第1受信波形を取得する。
【0082】
ステップS106:CPU38は、取得した第1受信波形を保存する。具体的には、CPU38はRAM42のデータ記録領域に第1受信波形のデータを記録する。またこのとき、CPU38は適宜、第1受信波形の記録データにタイムスタンプ等の情報をラベルとして挿入してもよい。
【0083】
ステップS108:次にCPU38は、第1受信波形を原波形と比較し、その結果として第1受信波形の減衰が許容範囲内に収まっているか否かを判断する。ここでの許容範囲は、例えば減衰の程度が原波形のピークの何%以内であるかによって設定することができる。このような許容範囲は、洗浄動作の対象とする汚れをどの程度にするかによって設定することができる。例えば、目視で目立たない程度の微量の汚れであっても洗浄動作の対象とするのであれば、許容範囲を極端に小さく設定する。逆に、微量な汚れについては洗浄動作の対象外とするのであれば、許容範囲をある程度まで大きく設定すればよい。
【0084】
いずれにしてもステップS108での比較の結果、第1受信波形の減衰が許容範囲内であると判断した場合(Yes)、実際に便器10に汚れはほとんど付着していないと考えられるので、CPU38は便器洗浄処理から定常処理に復帰する。この場合、今回の便器10の使用後において、便器洗浄装置による自動的な洗浄動作は実行されない。これに対し、ステップS108での比較の結果、許容範囲内でないと判断した場合(No)、便器10にある程度の汚れが付着していると考えられる。この場合、CPU38はステップS110以降を実行する。
【0085】
ステップS110:CPU38は、最近の受信波形が保存されているか否かを確認する。具体的には、CPU38はRAM42のデータ記録領域をサーチし、その中から最近(例えば過去数分〜十数分以内)に記録された受信波形があるか否かを確認する。その結果、最近の受信波形があることを確認した場合(Yes)、CPU38は次にステップS112を実行する。
【0086】
ステップS112:CPU38は、最近(過去の洗浄時)の受信波形と今回の第1受信波形との比較を行う。そしてその結果、減衰の程度が指定範囲内に収まっているか否かを判断する。ここでの指定範囲は、先の許容範囲と同様の考え方で設定すればよい。すなわち、最近の受信波形と今回の第1受信波形とを比較することで、前回の洗浄後と比較して今回の使用後にどの程度まで汚れの状態が変化したかを知ることができる。前回の洗浄後からあまり変化がみられないのであれば(比較結果がYes)、それ以上の洗浄動作を行っても効果がない(汚れが落ちない)と考えられる。この場合、やはりCPU38は便器洗浄処理から定常処理に復帰するので、今回の便器10の使用後において便器洗浄装置による自動的な洗浄動作は実行されない。
【0087】
これに対し、ステップS112での比較の結果、指定範囲内でないと判断した場合(No)、今回の使用によって便器10に新たな汚れが付着したと考えられる(洗浄効果に期待できる状態)。この場合、CPU38はステップS114に進む。また、先のステップS110で最近の受信波形が保存されていないことを確認した場合(No)、CPU38は制御上で今回を初めての洗浄動作として扱い、同じくステップS114に進む。
【0088】
ステップS114:CPU38は、水栓駆動処理を実行する。この処理では、CPU38は上記のモータ32に駆動パルスを印加する。これにより、水栓30が自動的に開かれて便器10の洗浄動作が行われる。なお、より具体的な処理の内容については、さらに別のフローチャートを用いて後述する。
【0089】
ステップS116:洗浄動作を終えると、CPU38は再び発信機20を作動させて超音波発振を行う。なお、汚れを検知するための超音波の発信は、水流がある程度まで安定した状態で行う。これとは別に、洗浄中に発信機20を作動させて超音波を発信させることで、洗浄効果を高めることもできる。すなわち、超音波による励振で付着物が剥離しやすくなり、それだけ水流による洗浄効果を高めることができる。なお、洗浄中の超音波は洗浄効果を高める目的で発信しているため、このとき受信波形を取得する必要はない。
【0090】
ステップS118:CPU38は水流が安定した状態で超音波の波形を取得する。ここでも同様に、CPU38は受信機22から入力された検知信号に基づいて波形を観測し、デジタルデータとしての波形を取得する。この段階で取得した波形を以下では「第2受信波形」と呼称する。また、複数箇所に受信機22,23,25を設置している場合、それぞれの受信機22,23,25からの検知信号に基づいて個別に第2受信波形を取得する。
【0091】
ステップS120:CPU38は、取得した第2受信波形を保存する。具体的には、CPU38はRAM42のデータ記録領域に第2受信波形のデータを記録する。また同様に、CPU38は適宜、第2受信波形の記録データにタイムスタンプ等の情報をラベルとして挿入することができる。
【0092】
ステップS122:CPU38は、第1受信波形と第2受信波形とを比較し、これらが許容範囲内で一致するか否かを判断する。すなわち、第1受信波形と第2受信波形とが許容範囲内で一致すると判断できた場合、それは洗浄動作によって汚れが落ちたことを意味する。この場合(Yes)、CPU38は次にステップS123を実行する。
【0093】
ステップS123:次にCPU38は、原波形と第2受信波形とを比較し、これらが許容範囲内で一致するか否かを判断する。つまり、原波形と比較して第2受信波形が許容範囲内で一致していれば、それは汚れが落ちた(洗浄効果があった)ことを意味する。この場合(Yes)、CPU38は便器洗浄処理を終了して定常処理に復帰する。一方、原波形と第2受信波形との比較結果が一致していなかった場合(No)、CPU38は次にステップS124を実行する。
【0094】
ステップS124:CPU38は、制御上の警報フラグをONにする。警報フラグの値は、例えばRAM42のフラグ領域(又はCPU38のレジスタでもよい)に記録される。そしてCPU38は便器洗浄処理を終了し、定常処理に復帰する。
【0095】
これに対し、先のステップS122の比較において第1受信波形と第2受信波形とが許容範囲内で一致しないと判断した場合(ステップS122:No)、CPU38はステップS126に進む。
【0096】
ステップS126:ここでCPU38は、これまで洗浄動作を行った回数がN回(例えば3〜5回)に達しているか否かを確認する。その結果、洗浄回数が未だN回に達していなければ(No)、CPU38はステップS114に戻って洗浄動作を実行し、以降のステップS116〜ステップS122を繰り返し実行する。
【0097】
この後、ステップS122で第1受信波形と第2受信波形との比較結果が一致することを確認した場合(ステップS122:Yes)、CPU38はステップS123以降に進んで便器洗浄処理を終了する。一方、引き続きステップS122で比較結果が一致することを確認できない間は(ステップS122:No)、CPU38は洗浄回数がN回に達するまでステップS116〜ステップS122を繰り返し実行する(ステップS126:No)。これにより、便器洗浄装置は複数回の洗浄動作を試みることができる。
【0098】
そして、洗浄動作を実行しても汚れが落ちないまま洗浄回数がN回に達すると(ステップS126:Yes)、CPU38はステップS124に進み、上記のように警報フラグをONにして便器洗浄処理から定常処理に復帰する。
【0099】
〔水栓駆動処理〕
図7は、上記の水栓駆動処理の手順例を示すフローチャートである。以下、手順に沿って説明する。
【0100】
ステップS200:CPU38は、現時点で人体を検知しているか否かを判断する。この判断は、定常処理中の人体検知処理(図5中のステップS20)の結果に基づいて行うことができる。あるいは、ここでCPU38は改めて人体センサ52からの検知信号に基づいて人体を検知したか否かを判断してもよい。
【0101】
〔人体を検知した場合〕
人体を検知したと判断した場合(ステップS200:Yes)、CPU38はここで水栓駆動処理から便器洗浄処理に復帰する。この場合、今回の水栓駆動処理で洗浄動作は実行されない。一方、人体を検出したと判断しなかった場合(ステップS200:No)、CPU38は次にステップS202に進む。
【0102】
ステップS202:CPU38は、便器10内での汚れの経路差(左右の差)が所定範囲内に収まっているか否かを判断する。具体的には、CPU38は左右の受信機23,25で個別に受信した波形を互いに比較し、その結果、互いの減衰レベルの差が所定範囲内に収まっているか否かを判断する。ここでの所定範囲もまた、上記の許容範囲や指定範囲と同じ考え方で設定することができる。すなわち、左右で微量でも汚れの程度に差が生じていることを見逃さないのであれば、所定範囲を極端に小さく設定する。逆に、微量な汚れの差を問題にしないのであれば、所定範囲をある程度まで大きく設定すればよい。
【0103】
いずれにしても、ステップS202での比較の結果、波形の違いが所定範囲内であると判断した場合(Yes)、実際に便器10内の左右で汚れの差はほとんどないと考えられる。この場合、CPU38はステップS204を実行する。一方、比較の結果、波形の違いが所定範囲内でないと判断した場合(No)、便器10内の左右である程度の汚れの差が生じていると考えられる。この場合、CPU38はステップS206を実行する。
【0104】
〔汚れの差がない場合〕
ステップS204:便器10内の左右でほとんど汚れの差がない場合、CPU38は基本洗浄を実行する制御を行う。例えば、通常は給水管24,26のいずれか一方だけを使用するものとし、特に切替弁34を動作させることなくモータ32を駆動する。この場合、便器10内には通常(デフォルト)の方向に洗浄水が流出する。
【0105】
〔汚れの差がある場合〕
ステップS206:これに対し、便器10内の左右である程度の汚れの差がある場合、CPU38は経路別洗浄を実行する制御を行う。この場合、CPU38は原波形との違いがより大きい結果となった受信機23,25の方向を指定して切替弁34の動作を制御する。例えば、右側の受信機25で受信した波形に原波形との違いがより顕著であった場合、CPU38は切替弁34を右側の給水管26に切り替えてモータ32を駆動する。これにより、便器10内には汚れが多い位置として特定した右方向に洗浄水が流出する。以上の手順を終えると、CPU38は便器洗浄処理に復帰する。
【0106】
〔警報の出力〕
次に図8は、上記の警報出力処理(図5中のステップS50)の手順例を示すフローチャートである。以下、手順に沿って説明する。
【0107】
ステップS300:CPU38は、上記のフラグ格納領域から値をロードし、警報フラグがオフ(00h)であるかどうかを確認する。このとき、例えば先の便器洗浄処理(図6中のステップS124)で警報フラグをオン(01h)にしていれば(No)、CPU38は次にステップS302を実行する。
【0108】
ステップS302:CPU38は、上記のアラーム56を駆動する。これにより、例えば図示しないスピーカから警報音が出力される。なおアラーム56の駆動は、例えば予め設定された警報出力パターン(例えば警報音量、鳴動周期、鳴動回数等)で制御される。これにより、使用者又は管理者に便器10が汚れていることを知らせたり、注意を喚起したりすることができる。
【0109】
ステップS306:続いてCPU38は、警報フラグがオフ(00h)になったか否かを確認する。例えば、警報音に気付いた使用者又は管理者が水栓レバーを操作したり、図示しないスイッチを操作したりしたことを確認すると、CPU38は警報フラグをオフにする。一方、特にこれらの操作を確認できなければ(No)、CPU38はステップS308に進む。
【0110】
ステップS308:CPU38は、これまで警報を出力した回数がM回(例えば3〜5回)以下であるか否かを確認する。その結果、警報回数が未だM回以下であれば(No)、CPU38は警報フラグをオンにしたまま定常処理に復帰する。この場合、CPU38は次回の警報出力処理でも再びステップS302でアラーム56を駆動することになる。
【0111】
この後、上記のステップS306で警報フラグをオフにするか(ステップS306:Yes)、もしくは警報回数がM回に達したと判断すると(ステップS308:Yes)、CPU38はステップS310を実行する。
【0112】
ステップS310:CPU38は、アラーム56の駆動を停止する。これにより、以降の警報音の出力はされなくなる。
【0113】
ステップS312:そしてCPU38は、警報フラグをリセット(00hに書き換え)し、定常処理に復帰する。なお、アラーム56を駆動してない状態で、最初にステップS300で警報フラグがオフであることを確認した場合、同じくCPU38はステップS310,ステップS312を実行するが、これによる状態の変化は特に生じない。
【0114】
〔洗浄方法のまとめ〕
以上の制御手順をCPU38が実行することで、本実施形態の便器洗浄装置による必要な動作を全て制御することができる。これにより、例えば以下の結果を得ることができる。
【0115】
(1)使用者が便器10を使用して自ら洗浄水を流した後で、そのまま立ち去ったとしても、第1受信波形に基づいて便器10に汚れが付着(残留)していることが確認された場合、便器洗浄装置は自動的に洗浄動作を実行することができる。
【0116】
(2)その結果、次の第2受信波形に基づいて汚れが落ちたことを確認できた場合、便器洗浄装置はそれ以上の洗浄動作を停止することができる。この場合、無駄な洗浄動作を繰り返すことがなく、節水に寄与することができる。
【0117】
(3)逆に汚れが落ちなかった場合、便器洗浄装置がN回まで洗浄動作を繰り返し試みることで、その回数内で汚れを落とすことができる。これにより、便器洗浄装置は便器10を清浄に保つことができ、使用者に快適なトイレ環境を提供することができる。
【0118】
(4)N回の洗浄動作でも汚れが落ちなかった場合、便器洗浄装置はそれ以上の洗浄動作を実行せず、警報を出力することができる。これにより、使用者や管理者にしつこい汚れが付着していることを知らせたり、便器10の清掃を促したりすることができる。
【0119】
(5)また、使用後に取得した第1受信波形が最近の受信波形とほとんど一致していた場合、便器10の使用の前後で汚れの状態が変化していないことから、便器洗浄装置はそれ以上の洗浄動作を実行しない。これにより、たとえ汚れが付着していても無駄な洗浄動作を行うことを防止することができる。
【0120】
(6)あるいは、もともと第1受信波形によって汚れが検知されなければ、便器洗浄装置は洗浄動作を実行しない。このため、便器洗浄装置を設置していても過剰な洗浄水の使用が控えられるので、それだけ節水に寄与することができる。
【0121】
なお、上記の実施形態では、便器10の滞留水より上の内面に汚れが付着している場合を例に挙げているが、汚れが滞留水に水没している場合でも検知は可能である。また、検知できる汚れには排泄物の他、紙類や毛髪も含まれる。
【0122】
〔その他の実施形態〕
また、その他の実施形態として以下のものが挙げられる。
【0123】
便器10の複数箇所に発信機20が設置されていてもよい。この場合、複数の発信機20からそれぞれ発信した超音波を1箇所の受信機22で受信してもよいし、複数箇所の受信機22,23,25で受信してもよい。いずれにしても、個々の受信波形を原波形と比較することで、より高精度に汚れの付着や汚れの場所を検知することができる。
【0124】
また発信機20や受信機22,23,25の設置箇所は図示の例に限られず、その他の箇所であってもよい。さらに、発信機20や受信機22,23,25は便器10に埋め込んだ状態で設置するだけでなく、便器10の内面に露出する位置に設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】一実施形態の便器洗浄装置が適用された便器を部分的に破断して示した斜視図である。
【図2】便器の平面図とともに便器洗浄装置の全体的な構成を概略的に示す図である。
【図3】超音波の受信波形を用いた汚れの検知手法を図解して示す概念図である。
【図4】複数箇所での超音波の受信波形を用いて汚れの位置を検知する手法を図解して示す概念図である。
【図5】定常処理の手順例を示すフローチャートである。
【図6】便器洗浄処理の具体的な手順例を示すフローチャートである。
【図7】水栓駆動処理の手順例を示すフローチャートである。
【図8】警報出力処理の手順例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0126】
10 便器
12 便座ユニット
14 便座
16 便蓋
18 ユニットベース
20 発信機
22,23,25 受信機
28 洗浄水タンク
30 水栓
32 モータ
36 制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄対象となる便器の内部に洗浄水を流出させて洗浄動作を実行する洗浄動作実行手段と、
前記便器に設けられて超音波を発信する発信機、及びこの発信機から発信された超音波を少なくとも前記便器を介して受信する受信機を有し、この受信機で受信した超音波に基づいて前記便器の汚れを検知する検知手段と、
前記発信機及び前記受信機をそれぞれ動作させて前記検知手段による検知の動作を制御するとともに、その検知結果に基づいて前記洗浄動作実行手段による洗浄動作の実行を制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項2】
請求項1に記載の便器洗浄装置において、
前記検知手段は、
前記受信機により受信した超音波に生じている要素の変化に基づいて前記便器の汚れの有無を判別することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の便器洗浄装置において、
前記発信機及び前記受信機は、前記便器の内面に露出しない状態で設置されていることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の便器洗浄装置において、
前記発信機及び前記受信機は、前記便器の内面に露出した状態で設置されていることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の便器洗浄装置において、
前記発信機及び前記受信機の少なくとも一方は複数箇所に設置されていることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項6】
請求項5に記載の便器洗浄装置において、
前記受信機は、前記便器の中心位置を前後方向に延びる仮想的な基準線を挟んで対称となる複数の箇所に設置されていることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の便器洗浄装置において、
前記便器洗浄手段は、
前記便器内で洗浄水の流出方向を複数通りに切り替え可能であり、
前記検知手段は、
複数箇所に設置された前記受信機が個々に受信した超音波に基づいて前記便器内部での汚れを検知し、
前記制御手段は、
前記検知手段による検知結果に基づき、前記便器洗浄手段による洗浄水の流出方向を特定して前記洗浄動作を制御することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の便器洗浄装置において、
前記便器を使用する人体を検知する人体検知手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記検知手段による汚れの検知結果に加えて、前記人体検知手段による人体の検知結果に基づいて前記洗浄動作を制御することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の便器洗浄装置において、
前記制御手段はデータ記録部を含み、前記便器洗浄手段による前記洗浄動作の後に前記受信機により受信された超音波の波形を前記データ記録部に記録することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項10】
請求項9に記載の便器洗浄装置において、
前記制御手段は、
前記受信機により受信された超音波の波形を前記データ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等であると判断した場合は前記洗浄動作を実行させないことを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項11】
請求項10に記載の便器洗浄装置において、
所定の警報動作を実行する警報手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記受信機により受信された超音波の波形を前記データ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等であり、かつ前記発信機により発信された超音波の原波形と相違すると判断した場合、前記警報手段に警報動作を実行させることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の便器洗浄装置において、
前記制御手段は、
前記受信機により受信された超音波の波形を前記データ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等でないと判断した場合、所定回数に達するまで前記洗浄動作を実行させた後に前記データ記録部に波形を記録することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項13】
請求項12に記載の便器洗浄装置において、
所定の警報動作を実行する警報手段をさらに備え、
前記制御手段は、
前記受信機により受信された超音波の波形を前記データ記録部に記録された波形と比較した結果、これら2つの波形が互いに同等でなく、かつ、これまでに前記洗浄動作を実行させた回数が所定回数に達している場合、前記洗浄動作を実行させることなく前記警報手段に警報動作を実行させること特徴とする便器洗浄装置。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の便器洗浄装置において、
前記制御手段は、
前記発信機を作動させた状態で前記便器洗浄手段による前記洗浄動作を実行させることを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項15】
便器に設けられた発信機から超音波を発信させ、この超音波を少なくとも前記便器を通じて伝播させる第1の工程と、
前記発信機から発信された超音波を前記便器に設けられた受信機にて受信させる第2の工程と、
前記受信機にて受信した超音波の波形と、前記発信機から発信された超音波の波形とを比較する第3の工程と、
前記比較の結果、2つの波形が互いに同等でない場合に前記便器の内部に洗浄水を流出させる第4の工程と
を有する便器の洗浄方法。
【請求項16】
請求項15に記載の便器の洗浄方法において、
前記第1及び第2の工程は、
前記発信機及び前記受信機の少なくとも一方を複数の箇所に設置した状態で超音波の発信と受信とを実行させるものであり、
前記第3の工程は、
前記発信機から発信された超音波の原波形と、複数箇所に設置された前記受信機にて個々に受信した複数の超音波の波形とをそれぞれ比較するものであり、
前記第4の工程は、
前記比較の結果、前記原波形と同等でない波形を有する超音波を受信した特定の前記受信機の設置箇所に向けて洗浄水を流出させるものであることを特徴とする便器の洗浄方法。
【請求項17】
請求項15又は16に記載の便器の洗浄方法において、
前記第3及び第4の工程を実行した場合、その前に実行した前記第2の工程で前記受信機により受信させた超音波の波形を第1受信波形として記録する第5の工程と、
前記第5の工程の後、前記第1及び第2の工程をさらに実行して前記受信機により受信させた超音波の波形を第2受信波形とし、この第2受信波形と前記第1受信波形とを比較する第6の工程と、
前記比較の結果、前記第1受信波形と前記第2受信波形とが互いに同等である場合は前記便器の内部に洗浄水を流出させず、一方で前記第1受信波形と前記第2受信波形とが互いに同等でなければ、さらに前記第2受信波形と前記原波形とを比較し、その結果、両者が互いに異なる場合は前記便器の内部に洗浄水を流出させる第7の工程と
をさらに有する便器の洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−287213(P2009−287213A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138601(P2008−138601)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】