説明

便器洗浄装置

【課題】本発明は、対象物の検出をドップラセンサで行った場合であっても、消費電力を抑制することができる便器洗浄装置を提供すること。
【解決手段】本発明にかかる小便器洗浄装置Aは、便器と、便器周辺の対象物を検出するマイクロ波ドップラセンサ7と、マイクロ波ドップラセンサ7のセンサ出力Sig3に応じて給水バルブを制御する制御部8とを備えており、制御部8は、センサ出力Sig3に含まれる定在波信号Sig8に基づいて人体(M)の存在を検出する人体位置検出部33と、センサ出力Sig3に含まれるドップラ信号Sig6に基づいて人体(M)の動きを検出する人体検出処理部31とを有し、人体位置検出部33の出力に応じて、人体検出処理部31を動作させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器洗浄装置に関し、さらに詳細には、ドップラセンサから出力されるドップラ信号に基づいて人体などの対象物の検出を行い、便器内に給水を行って便器を洗浄する便器洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波ドップラセンサなどのドップラセンサを用いて人体や尿流を検出し、便器内を洗浄する便器洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
マイクロ波ドップラセンサは、マイクロ波を送信し、対象物によって反射したマイクロ波を受信することにより、対象物の動きを検出するものである。
【0004】
すなわち、マイクロ波ドップラセンサは、センサから送信するマイクロ波の周波数と、センサから送信したマイクロ波が人体などの対象物によって反射してセンサにより受信される信号の周波数との差分信号からドップラ信号を生成する。
【0005】
このドップラ信号は、対象物の動き(例えば、対象物の接近や対象物の離反)を表す信号であり、便器洗浄装置の制御部は、このドップラ信号から対象物の動きを検出して、便器内の洗浄を行う。
【0006】
この種の便器洗浄装置は、赤外線によって人体検出などを行う便器洗浄装置に比べ、センサを便器内に配置することができる点で有効である。
【0007】
すなわち、マイクロ波が陶器を透過することができるという特性を利用して、マイクロ波ドップラセンサを小便器の内側に隠すことができるため、小便器洗浄装置の美観を向上させることができるのである。
【特許文献1】実開平2−69760号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、対象物の動きを検出するためには、ドップラ信号の周波数成分及びその大きさを抽出するための処理を行わなければならない。
【0009】
人体などの対象物が接近したり離反したりする時刻は一定でないことから、ドップラセンサを常時動作させておく必要がある。すなわち、対象物の動きの検出を適切に行うために従来の便器洗浄装置では、ドップラセンサを常に動作状態にしていた。
【0010】
そのため、ドップラセンサを動作するための電力及びドップラ信号の処理のための電力を常に消費することになっていた。
【0011】
便器洗浄装置は一般的に電池駆動のものが多く、このようにドップラセンサの動作及びドップラ信号の処理を常時行うことによって、容量の大きい電池を使用しなければならなかった。
【0012】
そこで、本発明は、対象物の検出をドップラセンサで行った場合であっても、消費電力を抑制することができる便器洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の発明は、便器と、前記便器へ洗浄水を供給する給水バルブと、前記便器周辺の対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に応じて前記給水バルブを制御する制御部と、を備えた便器洗浄装置において、前記制御部は、前記センサ出力に含まれる定在波信号に基づいて前記対象物の存在を検出する第1検出手段と、前記センサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて前記対象物の動きを検出する第2検出手段と、を有し、前記第1検出手段の出力に応じて、前記第2検出手段を動作させ前記給水バルブを制御することを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記制御部は、前記ドップラセンサを所定周期で間欠的に動作させるセンサ制御手段を備え、前記第1検出手段は、前記センサ制御手段によって前記ドップラセンサを動作させるタイミングで前記対象物の存在を間欠的に検出することを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記制御部は、前記洗浄水の供給頻度を検出する供給頻度検出手段を備え、前記センサ制御手段は、前記供給頻度検出手段によって検出した洗浄水の供給頻度に応じて前記所定周期を変更することを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2又は請求項3に記載の発明において、前記第1検出手段による前記対象物の存在検出の基準となる第1基準値よりも大きい第2基準値を記憶する記憶部を備え、前記制御部は、前記センサ出力に含まれる定在波信号が前記第2基準値以上であることを前記第1検出手段が検出すると、前記給水バルブを閉止する掃除モードに設定することを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記制御部は、前記掃除モードに設定するときに前記所定周期を再設定することを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記制御部は、前記第1検出手段による検出結果と前記第2検出手段による検出結果に基づいて、前記対象物の接近の検出及び前記対象物の離反の検出を行うことを特徴とする。
【0019】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記第2検出手段は、前記対象物として人体の動きを検出して当該人体を検出する人体検出処理部と、前記対象物として尿流の動きを検出して当該尿流を検出する尿流検出処理部とを有することを特徴とする。
【0020】
また、請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記制御部は、前記センサ出力と前記尿流検出処理部との間に、前記センサ出力に含まれるノイズを除去する適応フィルタを設け、前記尿流検出処理部を動作させるときに前記適応フィルタを動作させることを特徴とする。
【0021】
また、請求項9に記載の発明は、請求項7又は請求項8に記載の発明において、前記制御部は、前記人体検出処理部によって人体を検出したときに前記尿流検出処理部を動作させることを特徴とする。
【0022】
また、請求項10に記載の発明は、請求項7〜9のいずれか1項に記載の発明において、前記制御部は、前記尿流検出処理部にて尿流を検出しているときに、前記人体検出処理部を停止させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
請求項1に記載の発明によれば、対象物の検出をまず定在波信号に基づいて行い、その後、ドップラ信号に基づいて行うようにしているため、便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。定在波の検出は、ドップラ信号の検出に比べてその処理負荷が小さいため、対象物の検出をまず定在波信号に基づいて行うことによって、便器洗浄装置の消費電力を低減するのである。すなわち、所定の範囲内に対象物が入るまでは、定在波信号を用いるのである。そして、定在波信号に基づいて対象物を検出したとき、すなわち所定の範囲内に対象物が入った後は、次にドップラ信号に基づいて対象物の検出を行うので、従来の便器洗浄装置での対象物の検出精度を保つことができるのである。
【0024】
また、請求項2に記載の発明によれば、ドップラセンサを所定周期で間欠的に動作させ、この間欠動作のタイミングで対象物の存在を検出するので、ドップラセンサの動作時間を短縮することができ、従って、ドップラセンサの消費電力を低減することができ、その結果、便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。
【0025】
また、請求項3に記載の発明によれば、便器への洗浄水の供給頻度に応じてドップラセンサの間欠動作周期を増減することができるので、洗浄水の供給頻度が低いような場合には間欠周期を長くすることによって便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。
【0026】
また、請求項4に記載の発明によれば、第1検出手段による対象物の存在検出の基準となる第1基準値よりも大きい第2基準値以上の定在波信号を検出したときには、給水バルブを閉止する掃除モードに設定されるので、掃除モードに設定するためのモード設定手段を別途設ける必要がない。
【0027】
また、請求項5に記載の発明によれば、掃除モードに設定するときにドップラセンサの間欠動作周期を再設定するので、掃除モードに応じた感度で対象物の存在検出を行うことができる。たとえば、通常のモードにおいてドップラセンサの間欠動作周期を1秒としたとき、掃除モードにおいてドップラセンサの間欠動作周期を3秒とすることによって、便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。
【0028】
また、請求項6に記載の発明によれば、第1検出手段による定在波信号の検出結果と第2検出手段によるドップラ信号の検出結果に基づいて、対象物の接近及び離反の検出を行うようにしたので、対象物の状態をさらに適切に判定することができる。特に、第1検出手段によって所定範囲の対象物を検出した後、第1検出手段とともに第2検出手段を動作させることにより、その対象物が近づくのか遠ざかるのかを検出することができ、その結果、第2検出手段の動作を停止するタイミングをより適切に判定することができる。
【0029】
また、請求項7に記載の発明によれば、第2検出手段は、対象物として人体の動きを検出して当該人体を検出する人体検出処理部と、対象物として尿流の動きを検出して当該尿流を検出する尿流検出処理部とを有するので、人体検出に加え、尿流検出を行うことができる。従って、例えば、実際に便器洗浄装置の使用者が放尿していないときに、尿流検出処理部によって放尿していないことを検出することができるので、放尿が行われていないときの不要な洗浄を防止することができる。
【0030】
また、請求項8に記載の発明によれば、センサ出力と尿流検出処理部との間に、センサ出力に含まれるノイズを除去する適応フィルタを設けているので、通常は適応フィルタの動作を停止させて便器洗浄装置の消費電力を低減させることができ、尿流検出処理部を動作させるときに適応フィルタを動作させて周期的なノイズ等を適切に除去することができる。
【0031】
また、請求項9に記載の発明によれば、制御部は、人体検出処理部によって人体を検出したときに尿流検出処理部を動作させる。すなわち、人体が検出されているときにのみ尿流が発生することになることから、人体を検出しているときのみ尿流検出処理を行うことで、さらに便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。また、第2検出手段での演算処理時間を短縮することができる。
【0032】
また、請求項10に記載の発明によれば、制御部は、尿流検出処理部にて尿流を検出しているときに、人体検出処理部を停止させる。すなわち、尿流が検出されているときには人体が当然に存在することから、尿流を検出しているときに人体検出を行う必要がなく、従って、尿流を検出しているときには人体検出処理を行わないようにすることで、さらに、便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明に係る便器洗浄装置は、便器と、この便器周辺の対象物を検出するドップラセンサと、このドップラセンサのセンサ出力に応じて給水バルブを制御する制御部とを備えている。
【0034】
ドップラセンサとしては、マイクロ波を用いたマイクロ波ドップラセンサのほか、超音波を用いた超音波ドップラセンサなどがある。本実施形態においては、マイクロ波ドップラセンサを例に挙げて以下説明する。
【0035】
マイクロ波ドップラセンサは、送信信号としてマイクロ波を送信する送信手段と、その反射波を受信信号として受信する受信手段と、送信信号と受信信号とを混合(ミキシング)するミキシング手段とを備えている。
【0036】
ミキシング手段は、送信信号と受信信号とを合成してセンサ出力とするものである。このセンサ出力には、後述する定在波信号とドップラ信号とが含まれている。定在波信号は、対象物との距離(対象物の位置)を表すものであり、ドップラ信号は対象物の動きを表すものである。
【0037】
また、便器洗浄装置の制御部には、ドップラセンサのセンサ出力に含まれる定在波信号に基づいて対象物の存在を検出する第1検出手段と、ドップラセンサのセンサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて対象物の動きを検出する第2検出手段とを有しており、第1検出手段の出力に応じて、第2検出手段を動作させるようにしている。
【0038】
このように便器洗浄装置が構成されているため、便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。すなわち、定在波の検出は、ドップラ信号の検出に比べてその処理負荷が小さいため、所定の範囲内に対象物が入るまでは、対象物の検出を定在波信号に基づいて行うことによって、便器洗浄装置の消費電力を低減するのである。また、定在波信号に基づいて対象物を検出したとき、すなわち所定の範囲内に対象物が入った後は、次にドップラ信号に基づいて対象物検出を行うので、便器洗浄装置の対象物検出精度を保つことができるのである。
【0039】
また、便器洗浄装置は、第1基準値を記憶する記憶部を有しており、制御部は、センサ出力に含まれる定在波信号が第1基準値以上であることを第1検出手段により検出したとき、第2検出手段を動作させ、その後、便器内に給水を行うようにしている。
【0040】
従って、対象物の検出をまず定在波信号に基づいて行い、第1基準値以上の定在波信号を検出したときに対象物を検出したと判断し、次にドップラ信号に基づいて対象物検出を行うので、対象物と便器洗浄装置との距離が第1基準値で規定される距離となった後に、ドップラ信号による対象物検出を行うことができ、それまではドップラ信号による対象物の検出を行うことがなく、便器洗浄装置の消費電力を低減することができる。また、第1基準値を変更可能に構成することにより、消費電力を適切に抑制することが可能となる。
【0041】
また、記憶部には、第1基準値に加え、第1基準値よりも大きい第2基準値を記憶するようにしており、制御部は、センサ出力に含まれる定在波信号が第2基準値以上であることを第1検出手段が検出すると、第2検出手段の動作を停止し、給水バルブの閉止する掃除モードに設定する。
【0042】
このように構成することにより、第2基準値以上の定在波信号を検出したときには、給水バルブを閉止する掃除モードに設定されるので、掃除モードに設定するためのモード設定手段を別途設ける必要がない。
【0043】
以下、本発明に係る便器洗浄装置の実施形態について、いくつかを図面を参照して具体的に説明する。
【0044】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る便器洗浄装置の第1実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、以下の説明では、小便器洗浄装置について例を挙げて説明する。図1(a)は小便器洗浄装置Aの外観斜視図、図1(b)は小便器洗浄装置Aの全体構成図、図2は小便器洗浄装置Aのマイクロ波ドップラセンサ7及び制御部8の概略構成図である。
【0045】
図1(a),(b)に示すように、第1実施形態における小便器洗浄装置Aは、小便器1と、ボール部2と、給水路3の中途部に設けられ、小便器1のボール部2内へ洗浄水を供給する給水バルブ4と、ボール部2の底部に配置され、小便器1のボール部2内の汚水を排水する排水路5と、この排水路5に連通するトラップ管路6と、小便器1周辺の対象物を検出するマイクロ波ドップラセンサ7と、マイクロ波ドップラセンサ7からのセンサ出力に基づいて人体検出や尿流検出を行い、この人体検出や尿流検出の結果に応じて給水バルブ4を制御し、ボール部2内に洗浄水を供給する制御部8とを有している。なお、給水バルブ4は、電磁弁などから構成される。
【0046】
まず、マイクロ波ドップラセンサ7について図面を参照して説明する。
【0047】
マイクロ波ドップラセンサ7は、小便器1の上部背面側に配置され、図1に示すように、ボール部2を含む斜め下前方に向けてマイクロ波を放射して送信し、このマイクロ波の反射波を受信するものであり、小便器1に人体が近づいてきたこと(人体近接)や小便器から人体が遠ざかったこと(人体離反)のほか、小便器1のボール部2に尿が流れたこと(尿流)を検出するために用いられるものであり、図2に示すように構成されている。
【0048】
すなわち、マイクロ波ドップラセンサ7は、小便器1の上部背面側から正面側のボール部2に向けて電波を送信するために10.525GHzの電気信号である送信信号Sig1を生成する発振回路10と、発振回路10から出力される送信信号Sig1を10.525GHzのマイクロ波として送信する送信手段11と、送信手段11から送信されたマイクロ波が検出対象物Mによって反射され、その反射波を受信して電気信号に変換した受信信号Sig2を出力する受信手段12と、送信信号Sig1と受信信号Sig2とを混合(ミキシング)して出力するミキシング手段13とから構成される。
【0049】
次に、小便器洗浄装置Aの制御部8について、図面を参照して具体的に説明する。
【0050】
制御部8は、センサ出力Sig3を利用して給水バルブ4を制御し、小便器1のボール部内に洗浄水を供給するために、図2に示すように、ローパスフィルタ部21、アンプ部22、人体帯域フィルタ部23、尿流帯域フィルタ部24、定在波検出部25、対象物検出部26、給水バルブ制御部27、記憶部28、センサ制御部29、供給頻度検出部30等を備えている。なお、第1実施形態においては、人体帯域フィルタ部23、尿流帯域フィルタ部24、対象物検出部26、センサ制御部29、供給頻度検出部30等はマイクロコンピュータから構成されている。
【0051】
また、対象物検出部26には、人体検出処理部31、尿流検出処理部32及び人体位置検出部33などを有している。なお、人体位置検出部33が第1検出手段の一例に相当し、人体検出処理部31や尿流検出処理部32が第2検出手段の一例に相当する。
【0052】
ローパスフィルタ部21は、送信信号Sig1や受信信号Sig2の周波数帯域(すなわち、マイクロ波周波数帯域)成分を除去することができるローパスフィルタを備えており、マイクロ波センサ出力Sig3から送信信号Sig1や受信信号Sig2の周波数帯域成分を除去する。
【0053】
アンプ部22は、ローパスフィルタ部21によって高周波帯域が除去された信号Sig4を増幅して出力する。
【0054】
人体帯域フィルタ部23は、アンプ部22によって増幅された信号Sig5の周波数成分のうち、人体検出に不要な周波数帯域(50Hzを超える周波数帯域)を除去するフィルタであり、この人体帯域フィルタ部23により人体検出用ドップラ信号Sig6を抽出する。
【0055】
ここで、人体帯域フィルタ部23は、アンプ部22によって増幅された信号Sig5をA/D変換してデジタル信号とした後、マイクロコンピュータによるデジタルフィルタ処理を行うことによって、人体検出用ドップラ信号Sig6を抽出する。
【0056】
このように抽出された人体検出用ドップラ信号Sig6は、人体検出処理部31に入力される。人体検出処理部31は、人体検出用ドップラ信号Sig6が所定レベル以上であるときに、人体の検出、すなわち小便器1近傍に人体が存在することを検出する。
【0057】
例えば、人体検出用ドップラ信号Sig6の電圧レベルが大きくなって所定レベル以上になったとき人体接近検出を行い、人体検出用ドップラ信号Sig6の電圧レベルが小さくなって所定レベル以下になったときに人体離反検出を行う。
【0058】
また、人体検出用ドップラ信号Sig6の電圧レベルによって人体接近と人体離反とを行うのではなく、人体検出用ドップラ信号Sig6の周波数の変化に基づいて行うこともできる。
【0059】
例えば、定在波検出部25から出力される定在波信号のレベルが所定レベル以上あれば人体位置検出部33によって人体の有り(人体の存在)を判定し、その上で、人体検出処理部31は人体帯域フィルタ部23から出力される人体検出用ドップラ信号Sig6の周波数の変化によって、人体が遠ざかっているか、人体が近づいているかを判定する。
【0060】
つまり、人体が小便器1に接近する時にはその接近スピードが遅くなり人体検出用ドップラ信号Sig6の周波数が小さくなっていく。また、反対に人体が小便器1から離反する時にはその離反スピードが速くなり人体検出用ドップラ信号Sig6の周波数が大きくなっていく。人体検出処理部31は、人体検出用ドップラ信号Sig6の周波数が小さくなっていくこと検出して人体接近を判定し、人体検出用ドップラ信号Sig6の周波数が大きくなっていくことを検出して人体離反を判定するのである。
【0061】
ところで、これら人体接近検出と人体離反検出は、次のように人体検出処理部31による人体の動き検出と人体位置検出部33による人体の位置検出とを用いることによってより精度よく行うことができる。
【0062】
すなわち、人体位置検出部33は、定在波検出部25から出力される定在波信号のレベルによって人体の位置を判定することができる。一方で、人体検出処理部31は人体帯域フィルタ部23から出力されるドップラ信号の周波数によって人の動きを判定することができる。従って、ある期間で人体の動きがあったとき、その期間の2箇所の定在波信号のレベルを判定することによって人体が遠ざかっているか、人体が近づいているかを判定することができる。つまり、2箇所の定在波信号のレベルが小さくなっていくときには人体離反が検出でき、2箇所の定在波信号のレベルが大きくなっていくときには人体接近が検出できる。
【0063】
尿流帯域フィルタ部24は、アンプ部22によって増幅された信号Sig5の周波数成分のうち、尿流検出に不要な周波数帯域(100Hz〜180Hz以外の周波数帯域)を除去するバンドパスフィルタであり、この尿流帯域フィルタ部24により尿流検出用ドップラ信号Sig7を抽出する。
【0064】
ここで、尿流帯域フィルタ部24は、アンプ部22によって増幅された信号Sig5をA/D変換してデジタル信号とした後、マイクロコンピュータによるデジタルフィルタ処理を行うことによって、尿流検出用ドップラ信号Sig7を抽出する。
【0065】
このように抽出された尿流検出用ドップラ信号Sig7は、尿流検出処理部32に入力される。尿流検出処理部32は、尿流検出用ドップラ信号Sig7が所定レベル以上であるときに小便器1の尿流を検出する。
【0066】
ここで、マイクロ波ドップラセンサ7のセンサ出力Sig3に含まれるドップラ信号による対象物(尿流や人体)の動き検出について、説明する。対象物の動きは、以下の式(1)の関係からその検出を行うものである。
【0067】
基本式:ΔF=FS―Fb=2×FS×ν/c ・・・(1)
ΔF:ドップラ 周波数(センサ出力Sig3に含まれるドップラ信号の周波数)
FS:送信周波数(送信信号Sig1の周波数)
Fb:反射周波数(受信信号Sig2の周波数)
ν:検出対象物の移動速度
c:光速(300×10m/s)
すなわち、送信手段11から送信された周波数FSのマイクロ波は、速度νで移動している検出対象物に反射する。この反射波は、相対運動によるドップラ周波数シフトを受けているためその周波数はFbとなり、受信手段12によって受信される。そして、送信信号Sig1と受信信号Sig2とをミキシングした信号からローパスフィルタ部21によって高周波成分を除去することによってセンサ出力Sig3からドップラ周波数ΔFを抽出する。
【0068】
そして、人体帯域フィルタ部23によって人体検出のための周波数帯域(50Hz以下)を抽出して人体検出処理部31によって人体の検出を行い、尿流帯域フィルタ部24によって尿流検出のための周波数帯域(100Hz〜180Hz)を抽出して尿流検出処理部32によって尿流の検出を行う。
【0069】
人体検出処理部31で人体を検出した後、尿流検出処理部32で尿流検出が判定されたとき、給水バルブ制御部27は所定の条件に従い給水バルブ4を制御して、小便器1のボール部2内に洗浄水を供給する。
【0070】
ところで、尿流検出処理部32により常時尿流の検出を行うと、制御部8での電力の消費が大きくなってしまう。これは、デジタルフィルタ処理等の処理に時間を要するためである。
【0071】
そこで、本第1実施形態における小便器洗浄装置Aでは、人体が小便器1に接近後、尿流検出をするようにしている。すなわち、人体検出処理部31において人体の接近検出を行った後、尿流帯域フィルタ部24及び尿流検出処理部32を動作させるようにしており、それまでは尿流帯域フィルタ部24及び尿流検出処理部32の動作を停止する。その結果、制御部8によって消費する電力を低減することができる。
【0072】
同様に、人体検出処理部31により常時人体の検出の検出を行うと、制御部8での電力の消費が大きくなってしまう。これは、デジタルフィルタ処理等の処理に時間を要するためである。
【0073】
そこで、本第1実施形態における小便器洗浄装置Aでは、人体位置検出部33によって人体の接近を検出した後に、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31を動作させるようにしている。このように、人体位置検出部33によって人体の接近を検出するまでは、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31の動作を停止することにより、制御部8によって消費する電力を低減することができる。
【0074】
以下、定在波検出部25及び人体位置検出部33について、具体的に説明する。図3はマイクロ波ドップラセンサ7から出力される定在波の検出説明図である。
【0075】
定在波検出部25は、アンプ部22によって増幅された信号Sig5から定在波信号を検出するものであり、ローパスフィルタ回路(交流成分除去回路)、位相シフト回路、全波整流回路、加算回路などから構成される。
【0076】
アンプ部22から出力される信号Sig5は、定在波信号である直流成分とドップラ信号である交流成分から構成されており、定在波検出部25のローパスフィルタ回路によってドップラ信号成分を除去することによって定在波信号が抽出される。すなわち、アンプ部22から出力される信号Sig5から交流成分を除去するのである。
【0077】
この定在波信号は、対象物Mとの距離に応じてそのレベルが図3(a)に示すように変化する。すなわち、定在波信号の電圧レベルは、図3(a)に示すように、マイクロ波ドップラセンサ7から対象物Mまでの距離に応じて周期的な軌跡をたどって大きくなっていく。なお、図3(a)〜(e)において、横軸はマイクロ波ドップラセンサ7から対象物Mまでの距離を表しており、右に行くほどその距離が遠くなる。
【0078】
このように定在波信号は、1/2周期にて振幅の大きな腹部と振幅の小さな節部が周期的に存在するため、定在波信号に対する対象物Mとの距離の精度に問題が出てくる。
【0079】
そこで、定在波信号に対する対象物Mとの距離の精度を上げるために、定在波検出部25のローパスフィルタ回路から出力される定在波信号からいくつかの異なった位相差を持った信号を生成する。
【0080】
このように位相を異ならしめた定在波信号を合成して定在波合成信号を生成することにより、図3(e)に示すように、マイクロ波ドップラセンサ7と対象物Mとの距離検出の精度を向上させることができる。すなわち、マイクロ波ドップラセンサ7を搭載した小便器洗浄装置Aと人体との距離が近いほどレベルが大きくなるような信号を生成することができるのである。
【0081】
すなわち、定在波検出部25のローパスフィルタ回路から出力される定在波信号の位相をシフトした信号をシフト回路によって生成する(図3(b)参照)。このように位相がシフトされた定在波信号を全波整流回路によって全波整流する(図3(d)参照)。また、定在波検出部25のローパスフィルタ回路からを出力される定在波信号を全波整流回路で全波整流する(図3(c)参照)。
【0082】
このように全波整流した2つの定在波信号(図3(c),(d)参照)は、加算回路によって加算され、定在波合成信号として定在波検出部25から出力される(図3(e)参照)。
【0083】
なお、合成する位相の異なる定在波信号の数が多ければ多いほど、算出される定在波合成信号は滑らかな曲線となり、距離に対する出力値が1対1となり、より正確な距離を検出することが可能となるが、本第1実施形態においては説明を容易にするため、2つの位相の異なる定在波信号から生成した定在波合成信号から小便器洗浄装置Aと人体との距離を検出するようにしている。
【0084】
このように定在波検出部25によって生成された定在波合成信号は、マイクロ波ドップラセンサ7と対象物Mとの距離に応じた電圧レベルの信号となることから、定在波合成信号の電圧レベルからマイクロ波ドップラセンサ7と対象物Mとの距離を容易に検出することが可能となる。ここで、図3(e)中の第1基準値は人体接近を検出するための基準値であり、第2基準値は後述の掃除モードへの移行を判断するための基準値である。
【0085】
特に、定在波合成信号の電圧レベルの検出だけでよいため、人体検出を行うための処理が短くて済む。従って、ドップラ信号に基づいて人体検出を行うことに比べ、人体検出を行うための処理が軽減される。
【0086】
すなわち、ドップラ信号に基づく人体検出では、50Hz以下の交流信号であることを検出する必要があるため、その検出処理には必然的に時間を要してしまう。例えば、50Hzのドップラ信号を検出するためには、少なくとも20msを越える時間を要してしまう。
【0087】
しかし、定在波信号に基づく人体検出では、定在波合成信号の電圧レベルを検出するだけでよいため、短時間(例えば、1ms)で人体検出が可能となる。そして、所定間隔(例えば、1sec)で人体検出を行い、人体検出を行っていないときには、マイクロ波ドップラセンサの動作、定在波検出部25及び人体位置検出部33の動作を停止することにより、小便器洗浄装置Aの消費電力を低減することができる。
【0088】
そこで、センサ制御部29は、マイクロ波ドップラセンサ7を所定周期(例えば、1ms周期)で間欠的に動作させるようにしており、人体位置検出部33はマイクロ波ドップラセンサ7が間欠動作するタイミングで動作するようにしている。
【0089】
また、制御部8には、給水バルブ制御部27による洗浄水の供給頻度を検出する供給頻度検出部30(供給頻度検出手段の一例に相当)が設けられている。そして、センサ制御部29(センサ制御手段の一例に相当)は、供給頻度検出部30によって検出した洗浄水の供給頻度に応じてマイクロ波ドップラセンサ7を間欠動作させる周期を変更するようにしている。
【0090】
ここで、洗浄水の供給頻度とは、所定時間内(例えば、1日間)にどのくらい洗浄水が小便器1に供給されたかを示す度合いを表すものであり、例えば、1日に10回を標準値に設定(記憶部28に記憶)した場合、1日に5回の洗浄水の供給頻度であるときには、マイクロ波ドップラセンサ7の動作周期を基準周期(例えば、1秒周期)よりも長くする(例えば、2秒周期)。一方、1日に20回の洗浄水の供給頻度であるときには、マイクロ波ドップラセンサ7の動作周期を標準周期よりも短くする(例えば、0.5秒周期)。なお、使用頻度が更に多くなった場合であっても、記憶部28に記憶された最小限周期(例えば、0.3秒周期)よりは小さくしない。これは、間欠周期を短くしすぎると、消費電力の低減の効果が少なくなるからであり、一方であまり検出周期を短くしても検出感度にあまり影響を与えないからである。
【0091】
なお、センサ制御部29は、時間帯毎に異なる周期でマイクロ波ドップラセンサ7を間欠動作させるようにしてもよい。例えば、使用される可能性が少ない時間帯はマイクロ波ドップラセンサ7の間欠動作周期を標準周期(例えば、1秒周期)よりも長くし、小便器1が使用される可能性が高い時間帯にはマイクロ波ドップラセンサ7の間欠動作周期を標準周期とすることにより、全体的な消費電力を低減することができる。
【0092】
ここで、制御部8に配置された記憶部28には、人体接近検出用の第1基準値が記憶されており、制御部8は、センサ出力Sig3に含まれる定在波信号が第1基準値以上であることを人体位置検出部33により検出したとき、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31を動作させる。その後、センサ出力Sig3に含まれる人体検出用のドップラ信号Sig6が所定値以上であると人体検出処理部31により判定されたとき、制御部8は尿流帯域フィルタ部24及び尿流検出処理部32を動作させる。
【0093】
また、本第1実施形態における小便器洗浄装置Aにおいては、小便器1を掃除するために、掃除モードが設けられている。
【0094】
この掃除モードは、小便器1を掃除中に小便器1内に洗浄水が供給され、清掃者に水がかかったり、洗浄水が飛散して周辺を汚すという課題に対し、掃除中は小便器1内に洗浄水が流れないようにするものである。その結果、清掃者は掃除作業に専念することができ、小便器1周辺を洗浄水の飛散によって汚すことを抑制することができる。
【0095】
従来の掃除モードへの移行は、例えば、人体検出を赤外線センサで行う小便器洗浄装置においては、特開2000−213049号公報に記載されているように、赤外線センサを覆い検知作動を阻止するための着脱自在なセンサカバーを赤外線センサの前面に配置することにより、掃除中に小便器1に洗浄水が供給されることを防止している。
【0096】
しかし、従来の小便器洗浄装置においては、清掃者はセンサカバーを用意しなければならず、わずらわしい。また、複数の人間による交代制で小便器洗浄装置を掃除するためには、複数のセンサカバーが必要である。
【0097】
そこで、第1実施形態における小便器洗浄装置Aにおいては、マイクロ波ドップラセンサ7からの出力に含まれる定在波信号が第1基準値よりも大きい第2基準値以上となったときに、掃除モードに移行するようにしている。この第2基準値は、第1基準値と同様に記憶部28に記憶される。
【0098】
この第2基準値は、小便器洗浄装置Aの利用者の手とマイクロ波ドップラセンサ7との距離が所定の距離内(以下、「掃除モード移行距離」と呼ぶ。)になったときに、マイクロ波ドップラセンサ7から出力される定在波信号の電圧レベルである。
【0099】
この掃除モード移行距離は、小便器洗浄装置Aが通常の使用状態における人体とマイクロ波ドップラセンサ7との距離よりも短い距離であり、図4(a),(b)に示すように、小便器1内であって、ボール部2上方に小便器洗浄装置Aの利用者が手を挿入しなければ、掃除モード移行距離にはならないようにしている。
【0100】
掃除モードに移行すると、小便器洗浄装置Aにおける自動洗浄モードが停止するため、清掃者は小便器洗浄装置Aの掃除に専念することができる(図4(c)参照)。
【0101】
以上のように構成された小便器洗浄装置Aについて、その動作をフローチャートを用いて具体的に説明する。図5は、小便器洗浄装置Aのメイン処理フローチャート、図6は第1基準値設定処理のフローチャート、図7は、掃除モード処理のフローチャートである。
【0102】
図5に示すように、小便器洗浄装置Aのメイン処理において、まず、制御部8は、記憶部28に第1基準値を設定するための処理を実行する(ステップS10)。この第1基準値設定処理は、後述する図6におけるステップS30〜34からなる処理である。
【0103】
ステップS10の処理が終了すると、制御部8は定在波信号が記憶部28に記憶された第1基準値以上であるか否かを判定する(ステップS11)。
【0104】
この処理において、制御部8は、まず、センサ制御部29を動作させて、マイクロ波ドップラセンサ7を所定間隔で間欠動作させる。この間欠動作は、Tb(例えば、1ms)間のマイクロ波ドップラセンサ7の動作をTa(例えば、1秒)間隔で行うものである。Taを大きくするとマイクロ波ドップラセンサ7が動作する時間が減少するため、小便器洗浄装置Aの消費電力も減少する。また、Tbを小さくしても、小便器洗浄装置Aの消費電力も減少する。一方、Taを小さくすると小便器洗浄装置Aの消費電力は大きくなるが、人体接近の検出精度が高くなる。
【0105】
マイクロ波ドップラセンサ7を所定間隔での間欠動作を開始した後、制御部8は、センサ出力Sig3から定在波信号を抽出するために、定在波検出部25を動作させると共に、人体位置検出部33を動作させる。
【0106】
人体位置検出部33は、定在波検出部25から出力される定在波信号Sig8が記憶部28に記憶された第1基準信号以上であるか否かを判定することにより、定在波信号が第1基準値以上であるか否かを判定する。
【0107】
ステップS11において、定在波信号が記憶部28に記憶された第1基準値以上であると判定されると(ステップS11:Yes)、ステップS12の処理に移行する。一方、定在波信号が記憶部28に記憶された第1基準値以上ではないと判定されると(ステップS11:No)、制御部8は、ステップS11の処理を繰り返し行う。
【0108】
ステップS12において、制御部8は、定在波信号が第2基準値以上であるか否かを判定する。この処理では、間欠動作させたマイクロ波ドップラセンサ7から出力されるセンサ出力Sig3から定在波信号を定在波検出部25によって抽出し、定在波検出部25から出力される定在波信号Sig8が記憶部28に記憶された第2基準信号以上であるか否かを判定することにより、定在波信号Sig8が第2基準値以上であるか否かを判定する。
【0109】
この処理において、定在波信号Sig8が第2基準値以上であると判定されると(ステップS12:Yes)、制御部8は、掃除モードに移行する(ステップS13)。この掃除モード処理は、後述する図7におけるステップS40〜44からなる処理である。
【0110】
一方、定在波信号Sig8が第2基準値以上ではないと判定されると(ステップS12:No)、制御部8は、ドップラ信号に基づいて人体の検出があったか否かを判定する(ステップS14)。すなわち、人体検出用のドップラ信号Sig6が所定値以上であるか否かを判定するのである。
【0111】
このようにステップS14でドップラ信号に基づいて人体検出(人体接近検出)を行うのは、排水路5やトラップ管路6が詰まると、ボール部2に溜まった尿や洗浄水(以下、「封水」と呼ぶ。)によって定在波信号が発生するからである。つまり、定在波信号の検出では封水を人体と誤検出してしまう可能性がある。そこで、本第1実施形態における小便器洗浄装置Aでは、ドップラ信号に基づいて人体検出をも行うようにして、人体の検出精度を高めているのである。
【0112】
このステップS14において、制御部8は、まず、センサ制御部29によって、マイクロ波ドップラセンサ7の間欠動作を連続動作に移行させる。すなわち、マイクロ波ドップラセンサ7を常時動作状態にするのである。
【0113】
マイクロ波ドップラセンサ7を連続動作させた後、制御部8は、センサ出力Sig3から人体検出用のドップラ信号を抽出するために、人体帯域フィルタ部23を動作させると共に、人体検出処理部31を動作させる。
【0114】
人体検出処理部31は、人体帯域フィルタ部23によってデジタルフィルタ処理された人体検出用のドップラ信号Sig6が記憶部28に記憶された人体検出用の基準値以上であるか否かを判定することにより、人体検出用のドップラ信号が所定値以上であるか否かを判定する。
【0115】
ステップS14において、人体検出用のドップラ信号Sig6が所定値以上であると判定されると(ステップS14:Yes)、制御部8は、給水バルブ制御部27によって、給水バルブ4を制御し、小便器1のボール部2内に洗浄水を所定時間だけ流す。これにより、利用者が小便器1を使用する前に、小便器1内を事前に洗浄(予備洗浄)を行う(ステップS15)。一方、人体検出用のドップラ信号Sig6が所定値以上ではないと判定されると(ステップS14:No)、制御部8はその処理をステップS11に移行する。
【0116】
その後、制御部8は、尿流検出用のドップラ信号Sig7に基づいて尿流検出ができたか否かを判定する(ステップS16)。
【0117】
この処理において、制御部8は、尿流帯域フィルタ部24及び尿流検出処理部32を動作させる。尿流検出処理部32は、尿流帯域フィルタ部24によってデジタルフィルタ処理された尿流検出用のドップラ信号Sig7が記憶部28に記憶された尿流検出用の基準値以上であるか否かを判定することにより、尿流が検出できたか否かを判定する。
【0118】
ステップS16において、尿流検出用のドップラ信号Sig7に基づいて尿流検出ができたと判定されると(ステップS16:Yes)、制御部8は、尿流帯域フィルタ部24及び尿流検出処理部32における処理動作を停止するとともに、ステップS12同様に、制御部8は定在波が記憶部28に記憶された第2基準値以上であるか否かを判定する(ステップS17)。一方、尿流検出用のドップラ信号Sig7に基づいて尿流検出ができないと判定されると(ステップS16:No)、制御部8はその処理をステップS16に移行する。なお、ここでの「尿流検出用のドップラ信号Sig7に基づいて尿流検出ができた」とは、尿流が検出され、その後尿流が検出されなくなったことを検出したことを意味する。
【0119】
ステップS17において、定在波信号が記憶部28に記憶された第2基準値以上であると判定されると(ステップS17:Yes)、ステップS13の処理に移行する。一方、定在波信号が第2基準値以上ではないと判定されると(ステップS17:No)、制御部8は、ステップS18の処理に移行する。
【0120】
次に、ステップS18において、制御部8は、人体検出用ドップラ信号による人体離反検出ができたか否かを判定する。
【0121】
この処理において、人体検出用ドップラ信号による人体離反検出ができたと判定されると(ステップS18:Yes)、制御部8は、ステップS16における尿流の検出時間が所定時間以上であるか否かを判定する(ステップS19)。なお、制御部8において、人体帯域フィルタ部23、尿流帯域フィルタ部24、定在波検出部25及び対象物検出部26の処理動作は停止状態となる。また、センサ制御部29によって、マイクロ波ドップラセンサ7の動作を停止する。一方、人体検出用ドップラ信号による人体離反検出ができないと判定されると(ステップS18:No)、制御部8はその処理をステップS16に移行する。
【0122】
ステップS19において、尿流の検出時間が所定時間以上であると判定されると(ステップS19:Yes)、制御部8は、給水バルブ制御部27によって、給水バルブ4を制御し、小便器1のボール部2内に洗浄水を所定時間だけ流して小便器1の本洗浄を行う(ステップS20)。一方、ステップS19において、尿流の検出時間が所定時間以上ではないと判定されると(ステップS19:No)、処理をステップS11に移行する。
【0123】
ステップS20の処理が終了すると、制御部8は、センサ制御部29によって、マイクロ波ドップラセンサ7を連続動作させる。すなわち、マイクロ波ドップラセンサ7を常時動作状態にするのである。
【0124】
マイクロ波ドップラセンサ7を連続動作させた後、制御部8は、センサ出力Sig3から人体検出用のドップラ信号を抽出するために、人体帯域フィルタ部23を動作させると共に、人体検出処理部31を動作させる。
【0125】
そして、制御部8は、ドップラ信号による人体検出があるか否かを判定する(ステップS21)。すなわち、人体検出用のドップラ信号Sig6が所定値以上であるか否かを判定するのである。
【0126】
この人体検出処理はT1秒間行われ(ステップS21:No,ステップS22)、このT1間に人体の検出があったと判定されると(ステップS21:Yes)、制御部8は、その処理をステップS16の処理に移行する。
【0127】
一方、T1間に人体の検出がなかったと判定されると(ステップS21:No)、制御部8は、T1経過後にその処理をステップS11の処理に移行する。
【0128】
このように小便器洗浄装置Aにおいては、マイクロ波ドップラセンサ7のセンサ出力に含まれる定在波信号に基づいて対象物の存在を検出する第1検出手段である人体位置検出部33によって第1基準値以上の定在波信号が検出されたときに、第2検出手段を動作させるようにしている。すなわち、マイクロ波ドップラセンサのセンサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて対象物の動きを検出する人体検出処理部を動作させるようにしている。
【0129】
従って、小便器洗浄装置Aの消費電力を低減することができる。すなわち、定在波信号の検出は、ドップラ信号の検出に比べてその処理負荷が小さいため、対象物の検出をまず定在波信号に基づいて行うことによって、小便器洗浄装置Aの消費電力を低減するのである。
【0130】
しかも、定在波信号に基づいて対象物を検出したときには、次にドップラ信号に基づいて対象物検出を行うので、従来の便器洗浄装置での対象物検出精度を保つことができるのである。すなわち、封水などの状態が発生した場合であっても、人体の誤検出を防止することができるのである。
【0131】
なお、ボール部2に封水が存在するとき、小便器1のボール部2内に洗浄水を流すと、ボール部2から洗浄水が溢れてしまう恐れがある。そこで、制御部8は、人体検出用のドップラ信号によって人体が検出されていないときであって、定在波信号が第1基準値よりも所定以上大きい電圧レベル以上であることを検出すると、ボール部2に封水が存在すると判定し、自動洗浄モードを停止するようにしてもよい。
【0132】
次に、第1基準値設定処理について、図6のフローチャートを参照して、その動作を具体的に説明する。
【0133】
制御部8は、この第1基準値設定処理において、まず、マイクロ波ドップラセンサ7を連続的(継続的)に動作させた後、センサ出力Sig3から人体検出用のドップラ信号を抽出するために、人体帯域フィルタ部23を動作させると共に、人体検出処理部31を動作させる(ステップS30)。
【0134】
ステップS30の処理が終了すると、制御部8は、人体検出処理部31によって所定値以下のドップラ信号が検出されたか否かを判定する(ステップS31)。この所定値は、ステップS14等における人体検出用の基準値よりも小さい値であり、小便器1周辺で物体が動いていないかどうかを判定するために用いられるものである。
【0135】
ステップS31において、人体検出処理部31によって所定値以下のドップラ信号が検出されたとき(ステップS31:Yes)、制御部8は、その処理をステップS32に移行する。一方、人体検出処理部31によって所定値以下のドップラ信号が検出されない(すなわち、所定値を越えるドップラ信号が検出された)とき(ステップS31:No)、ステップS31の処理に移行する。
【0136】
ステップS32において、制御部8は、消費電力を低減するために、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31の処理動作を停止する。さらに、制御部8は、センサ出力Sig3から定在波信号を抽出するために、定在波検出部25を動作させると共に、人体位置検出部33を動作させる。
【0137】
その後、制御部8における人体位置検出部33は、定在波検出部25から出力される定在波信号Sig8がデフォルト値以上であるか否かを判定する。なお、このデフォルト値は記憶部28に記憶されている。
【0138】
この処理において、定在波信号Sig8がデフォルト値以上と判定されると(ステップS32:Yes)、制御部8は、検出した定在波信号の電圧レベルよりもαだけ大きい値を第1基準値として記憶部28に設定(記憶)する(ステップS33)。一方、定在波信号Sig8がデフォルト値以上ではないと判定されると(ステップS32:No)、制御部8は、デフォルト値を第1基準値として記憶部28に設定する(ステップS34)。このステップS33,S34の処理が終了すると、この第1基準値設定処理を終了する。
【0139】
このように本第1実施形態における小便器洗浄装置Aの制御部8では、小便器1周辺に対象物が存在していない(特に、人体の動きが検出されない)ことを、ドップラ信号によって判定した後、定在波信号のレベルを検出するようにし、第1基準値を設定する。
【0140】
従って、小便器洗浄装置Aが設定された環境に応じて第1基準信号を設定することができる。すなわち、小便器洗浄装置Aが狭いトイレ空間に設定される場合には、マイクロ波を反射する物体が小便器1の近くに存在する可能性が高くなる。それゆえ、固定的に第1基準信号を設定したのでは、人体が接近していない状態であっても、定在波信号が第1基準信号以上のレベルとなることがある。その結果、図5におけるステップS11の処理が常にYesとなり、常に人体帯域フィルタ部23や人体検出処理部31の処理動作を行わなければならず、ステップS11の処理を行っている意味がなくなる可能性がある。
【0141】
そこで、本第1実施形態における小便器洗浄装置Aでは、予め人体が存在しない状態で、定在波信号を検出することによって、小便器1周辺の環境を判断して、第1基準値を適切に設定することにより、定在波信号での人体の接近検出を有効に行うようにしている。
【0142】
なお、予め人体が存在しない状態で、定在波信号が第1基準値の最大設定値よりも大きくなるときには、制御部8は、第1基準値を最大設定値として記憶部28に設定する。
【0143】
このように第1基準値を最大設定値以上としないのは、図5のS14における人体検出処理が遅れ、ステップS15の予備洗浄処理が遅れるのを防止するためである。
【0144】
次に、掃除モード処理について、図7のフローチャートを参照して、その動作を具体的に説明する。
【0145】
制御部8は、この掃除モード処理において、まず、マイクロ波ドップラセンサ7の動作を停止し、給水バルブ4を事実上閉止状態にする。すなわち、自動的に給水バルブ4を制御して、小便器1に洗浄水を供給する自動洗浄モードを停止状態とする(ステップS40)。
【0146】
その後、制御部8は、タイマtのカウントを開始し(ステップS41)、タイマtが所定値T3をカウントするまで待つ(ステップS42)。
【0147】
ステップS42において、タイマtが所定値T3をカウントすると(ステップS42:Yes)、制御部8は、定在波信号Sig8が記憶部28に記憶されている第3基準値以上であるか否かを判定する(ステップS43)。この第3基準値は、第1基準値よりも大きく、第2基準値よりも小さい値で、清掃者が小便器1を掃除中に定在波信号が下回る可能性の少ないレベルである。
【0148】
定在波信号Sig8が第3基準値以上ではないと判定されると(ステップS43:No)、制御部8は、自動洗浄モードに移行して、給水バルブ4の閉止を解除して(ステップS44)、掃除モード処理を終了する。一方、定在波信号Sig8が第3基準値以上であると判定されると(ステップS43:Yes)、制御部8は、ステップS40の処理へ移行する。
【0149】
このように本第1実施形態における小便器洗浄装置Aの制御部8では、掃除モードに移行すると、所定時間(カウント値t=T3)となるまで小便器1への洗浄水の供給を停止するようにしている。しかも、所定時間となった場合に、まだ清掃者が掃除をしている場合には、再度所定時間だけ小便器1への洗浄水の供給を停止する。これにより清掃者は小便器1の掃除に専念することができる。
【0150】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る便器洗浄装置の第2実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、ここでは、第1実施形態と同様に、小便器洗浄装置を例に挙げて説明する。図8は小便器洗浄装置A’のマイクロ波ドップラセンサ7及び制御部8’の概略構成図である。
【0151】
この第2実施形態に係る小便器洗浄装置A’の制御部8’は、第1実施形態に係る小便器洗浄装置Aの制御部8において、マイクロ波ドップラセンサ7の出力(ここでは、アンプ部22)と尿流帯域フィルタ部24との間に適応フィルタ34を設けたものであり、ここでは、第1実施形態に係る小便器洗浄装置Aと異なる部分のみ説明する。なお、第1実施形態に係る小便器洗浄装置Aと同様の機能を有するものについては同一符号を付し、説明は省略することとする。
【0152】
小便器洗浄装置A’の制御部8’は、アンプ部22によって増幅された信号Sig5を適応フィルタ34に入力し、この適応フィルタ34において、信号Sig5をA/D変換してデジタル信号とした後、周期性のあるノイズを除去することによって信号Sig9が生成される。この信号Sig9を尿流帯域フィルタ部24へ入力して、尿流検出に不要な周波数帯域(100Hz〜180Hz以外の周波数帯域)を除去した後、信号Sig7として、尿流検出処理部32に入力する。尿流検出処理部32は、尿流検出用ドップラ信号Sig7が所定レベル以上であるときに小便器1の尿流を検出する。制御部8’は、尿流検出処理部32を動作させるときに、適応フィルタ34を動作させるようにしており、これにより、周期的なノイズ等を適切に除去しつつ、小便器洗浄装置A’の消費電力を低減させることができる。
【0153】
ここで、適応フィルタ34は、上述のように周期性のノイズを除去する機能を有しており、次の理由により設けられるものである。
【0154】
小便器洗浄装置A’の設置場所に設置される照明器具として多用されている蛍光灯はノイズを発生することが知られている。特にマイクロ波ドップラセンサ7の指向特性パターン内に蛍光灯が存在する場合、蛍光灯が発するノイズがマイクロ波ドップラセンサ7で受信されやすくなる。蛍光灯が発するノイズがマイクロ波ドップラセンサ7によって受信されたとき、マイクロ波ドップラセンサ7から出力される信号Sig3には蛍光灯が発するノイズが混入することになる。適応フィルタ34はノイズが混入した信号Sig3からそのノイズを除去する役割を果たすことになる。
【0155】
蛍光灯からのノイズの特徴は、ある程度の周期性が見られること、完全な正弦波ではなく所々に波形の乱れや大きなうねりが見られることなどがあることであり、このことは本出願人の特開2004−293216号明細書で詳解している。すなわち、蛍光灯に供給する商用電源の周波数が例えば60Hzのとき、蛍光灯のノイズの周波数スペクトルは、120Hzを最大振幅ピークとし、その2倍の240Hzにもピークが見られ、さらに20Hzとその2倍の40Hz、3倍の60Hzにもピークが見られる。このように蛍光灯のノイズは、120Hzを基本成分としながらも、そのn次高調波成分や、電源周波数とは直接は関連のない周波数とそのn次高調波成分などが、複雑に組み合わされた波形となっている。なお、商用電源の周波数が50Hzのとき、蛍光灯のノイズの周波数スペクトルは、100Hzを最大振幅ピークとし、その2倍の200Hzにもピークが見られることになる。尿流検出は100〜180Hzのドップラ信号を検出することによって行うため、蛍光灯からのノイズは可及的に低減する必要がある。
【0156】
そこで、本第2実施形態における小便器洗浄装置A’においては、適応フィルタ34をアンプ部22と尿流帯域フィルタ部24との間に設けて、蛍光灯ノイズなどの周期性のあるノイズを除去するようにしている。すなわち、適応フィルタ34によって信号Sig5から周期性成分を予測して、この信号Sig5から予測した周期性成分を減算することによって、周期成分である蛍光灯のノイズを効果的に取り除くのである。なお、尿流検出すべき信号Sig5は、180Hz以下の周波数成分が多く含まれるものの、時間軸で見ればランダム性周波数成分の信号になっている。これは、壁面を流れる水流も含めて、尿流が移動したり、脈動したりすることによって形成される様々な水流をマイクロ波ドップラセンサ7が検出しているためである。このように、ランダム性周波数成分つまり尿流の検出成分だけを得ることができる。すなわち、適応フィルタ34では、周期性成分を取り除き、尿流検出に必要なランダム性周波数成分は取り除かれないのである。
【0157】
以下、第2実施形態の小便器洗浄装置A’における適応フィルタ34の構成および動作について、その一例を挙げ、図9を参照してさらに詳しく説明する。
【0158】
適応フィルタ34は、図9に示すように、A/Dコンバータ35と、遅延回路40と、デジタルフィルタ41と、信号加算回路42と、フィルタ係数更新回路43とで構成されている。
【0159】
適応フィルタ34に入力された信号Sig5は、A/Dコンバータ35によりデジタルデータx[n]変換され、遅延回路40に入力される。Z−1はZ変換を表しており、本第2実施形態においては、Z変換を行う遅延素子40aが10段で遅延回路40を構成している。遅延素子40aは各サンプリング時間毎に次段へ入力信号値を送出するので、本第2実施形態の遅延回路40より出力されるデジタルデータx[n]は、10サンプリング前の入力信号に等しい。
【0160】
デジタルフィルタ41は、遅延回路40から送出される信号を受信し、ノイズ予測波形y[n]を出力する。本第2実施形態ではデジタルフィルタ41として64段のFIR型のデジタルフィルタを用いている。FIR型デジタルフィルタのフィルタ係数h0〜h63を、各対応する遅延素子40aの各段とそれぞれ乗算し、さらに、その結果の加算合計を算出して出力信号y[n]を得る。各フィルタ係数h0〜h63は、後述するフィルタ係数更新回路43により、入力信号x[n]に含まれる蛍光灯のノイズなど周期成分信号のみを取り出すように予め調節されており、出力信号y[n]はノイズ除去に最適な信号となっている。
【0161】
また、信号加算回路42は、入力信号x[n]に、デジタルフィルタ41の出力信号y[n]の反転信号すなわち逆位相信号である−y[n]を加算する。前述したように、y[n]は入力信号に含まれる周期成分、すなわち蛍光灯のノイズなどの周期成分信号となっているので、結果的に周期性ノイズの逆位相信号を入力信号x[n]と加算することになる。
【0162】
そして、加算結果ε[n]は、入力信号x[n]から蛍光灯のノイズなどの周期性ノイズが取り除かれた信号となっている。なお、デジタルフィルタ41の周期性ノイズの予測信号y[n]は、x[n]のノイズ成分と完全に一致しないので、加算結果ε[n]は必ずしも0にはならない。
【0163】
次に、フィルタ係数更新回路43は、ノイズ予測誤差である前述した加算結果ε[n]を最小にすべく、デジタルフィルタ41のフィルタ係数h0〜h63を調節する機能を有している。本第2実施形態では適応フィルタ34の係数更新方法として、計算処理を簡略化することが可能なLMS(Least Mean Square)法を使用している。このLMS法によれば、加算結果ε[n]にステップサイズμ49の2倍を乗じた上で、各対応する遅延素子の各段をさらに乗じ、現在時刻の各フィルタ係数h[n]に足し合わせて、次時刻の各フィルタ係数h[n+1]を得ている。
【0164】
この方法により、計算開始時刻においては残差ε[n]の絶対値は大きいものの、時刻が経過するにつれてε[n]の絶対値が0に収束していくという結果が得られる。ここで、ステップサイズμ49は収束の速度と収束後の誤差量を決定するパラメータであり、一般には0<μ<1なる値を設定する。
【0165】
以上のように、本第2実施形態の小便器洗浄装置A’は、適応フィルタ34を設けたことにより、蛍光灯からのノイズを除去することができ、これによって、小便器洗浄装置A’の誤動作をなくすことができる。
【0166】
なお、ノイズ成分を除去する手段として、適応フィルタ34に代えて、例えば、ノッチフィルタも有効である。すなわち、特定の周波数のみを選択して減衰させるものである。ノイズの周波数が既知であれば、その周波数を選択減衰するようにノイズの特性を選定することにより、ノイズを効率的に除去することができる。なお、ノッチフィルタの周波数の選択範囲より尿流検出の周波数の範囲の方が十分広ければ、ノイズ周波数部分を減衰させても尿流検出に大きな影響はない。なお、商用電源の2次高調波のノイズは、西日本地域では120Hz、東日本地域では100Hzとなり地域によって除去する周波数を変える必要がある。さらに、目的とする尿流の周波数範囲に、複数の周波数のノイズ成分が見られる場合、一つのノッチフィルタでは対応できないので複数個のノッチフィルタを使用することとなる。本第2実施形態においては、周波数が既知でなくても、複数個のノイズであってもノイズの状況に応じて有効にノイズ除去を行うため、適応フィルタ34を設けている。
【0167】
なお、上述においては、アンプ部22と尿流帯域フィルタ部24との間に適応フィルタ34を設けることとしたが、アンプ部22と人体帯域フィルタ部23との間に適応フィルタを設けるようにしてもよい。このようにすれば、尿流の検出精度と同様に、人体の検出精度を向上させることができる。この場合、アンプ部22からの信号を適応フィルタ34に入力し、この適応フィルタの出力信号を人体帯域フィルタ部23と尿流帯域フィルタ部24とにそれぞれ入力することによって適応フィルタを人体検出と尿流検出とで共用化することができる。
【0168】
また、適応フィルタ34の係数更新を逐次行うようにしているが、適応フィルタ34の動作を開始して所定期間経過後は係数の更新を行わないようにしてもよい。このようにすることで、係数更新処理に伴う電力消費を低減させることができる。
【0169】
(第3実施形態)
次に、本発明に係る便器洗浄装置の第3実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、ここでは、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、小便器洗浄装置を例に挙げて説明する。図10は第3実施形態に係る小便器洗浄装置A”のメイン処理フローチャート、図11は、図10における掃除モード処理のフローチャートである。
【0170】
この第3実施形態に係る小便器洗浄装置A”は、上述の実施形態の小便器洗浄装置A,A’において、尿流検出及び人体離反検出の処理が一部異なり、また、掃除モード処理も一部異なるが、それ以外の部分は同様であるため、ここでは、上述の実施形態の小便器洗浄装置A’との相違部分を例挙げて説明する。
【0171】
まず、小便器洗浄装置A”のメイン処理について、図10を参照して説明する。この図10のフローチャートは、ステップS53,S56〜S61の処理が、図5のフローチャートのステップS13,S16〜18の処理と異なるものであり、図5のフローチャートのステップS10〜S12,S14,S15までの処理と図10のステップS50〜S52,S54,S55の処理は同様の処理であり、図5のフローチャートのステップS19〜S22までの処理と図10のステップS62〜S65までの処理は同様の処理であるため、同様の処理については説明を省略する。
【0172】
ステップS55の予備洗浄が終了すると、制御部8’は、尿流帯域フィルタ部24と尿流検出処理部32と適応フィルタ34とを動作させることによって、尿流検出処理を開始する(ステップS56)。その後、尿流検出処理部32は、尿流帯域フィルタ部24によってデジタルフィルタ処理された尿流検出用のドップラ信号Sig7が記憶部28に記憶された尿流検出用の基準値以上であるか否かを判定することにより、尿流が検出できたか否かを判定する(ステップS57)。
【0173】
この処理において、尿流検出用のドップラ信号Sig7に基づいて尿流検出ができたと判定されると(ステップS57:Yes)、制御部8’は、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31における処理が実行されているきには、その動作を停止して、処理をステップS57へ戻す。
【0174】
一方、尿流検出用のドップラ信号Sig7に基づいて尿流検出ができないと判定されると(ステップS57:No)、制御部8’は、図5に示すステップS12と同様に、定在波信号が記憶部28に記憶された第2基準値以上であるか否かを判定する(ステップS59)。
【0175】
ステップS59において、定在波信号が記憶部28に記憶された第2基準値以上であると判定されると(ステップS59:Yes)、ステップS53の処理に移行する。一方、定在波信号が第2基準値以上ではないと判定されると(ステップS59:No)、制御部8’は、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31を動作させ、人体検出処理を開始し(ステップS60)、ステップS61の処理に移行する。
【0176】
このステップS61において、制御部8’は、人体検出用ドップラ信号による人体離反検出ができたか否かを判定する。
【0177】
この処理において、人体検出用ドップラ信号による人体離反検出ができないと判定されると(ステップS61:No)、制御部8’はその処理をステップS57に移行する。一方、人体検出用ドップラ信号による人体離反検出ができたと判定されると(ステップS61:Yes)、制御部8’は、処理をステップS62に移行する。なお、このとき、制御部8’において、人体帯域フィルタ部23、尿流帯域フィルタ部24、定在波検出部25、適応フィルタ34及び対象物検出部26の処理動作は停止状態となる。また、センサ制御部29によって、マイクロ波ドップラセンサ7の動作を停止する。
【0178】
このように小便器洗浄装置A”においては、マイクロ波ドップラセンサ7のセンサ出力に含まれる定在波信号に関して、対象物の存在を検出する第1検出手段である人体位置検出部33によって第1基準値以上の定在波信号が検出されたときに、第2検出手段を動作させるようにしている。すなわち、マイクロ波ドップラセンサのセンサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて対象物の動きを検出する人体検出処理部を動作させるようにしている。
【0179】
しかも、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31によって人体検出(人体接近検出)を行い、予備洗浄を行った後に、尿流帯域フィルタ部24及び尿流検出処理部32と適応フィルタ34とを動作させ、尿流検出処理を実行するようにしている。
【0180】
さらに、尿流帯域フィルタ部24及び尿流検出処理部32によって尿流検出処理を実行しているときには、人体帯域フィルタ部23及び人体検出処理部31の動作を停止して人体検出処理を停止するようにしている。
【0181】
従って、小便器洗浄装置Aの消費電力を低減することができる。すなわち、定在波信号の検出は、ドップラ信号の検出に比べてその処理負荷が小さいため、対象物の検出をまず定在波信号に基づいて行い、しかも、人体検出をした後に尿流検出を行い、さらに、尿流検出をしているときには人体検出を行わないようにして、小便器洗浄装置A”の消費電力を低減するものである。
【0182】
次に、掃除モード処理について、図11のフローチャートを参照して、その動作を具体的に説明する。
【0183】
制御部8’は、マイクロ波ドップラセンサ7が間欠周期Ta(ここでは、1秒(sec)周期とする)で動作している状態から、間欠周期Taを長く(ここでは、3秒(sec)周期)するようにセンサ制御部29を制御する(ステップS70)。
【0184】
その後、制御部8’は、タイマtのカウントを開始し(ステップS71)、定在波信号Sig8が記憶部28に記憶されている第2基準値以上であるか否かを判定する(ステップS72)。この第2基準値は図10のステップS59で用いられた基準値である。
【0185】
ステップS72において、定在波信号Sig8が第2基準値以上であると判定されると(ステップS72:Yes)、制御部8’は、給水バルブ制御部27によって、給水バルブ4を制御し、小便器1のボール部2内に洗浄水を所定時間だけ流す。これにより、小便器1内の洗浄を行う(ステップS73)。
【0186】
その後、タイマが所定値T3をカウントしたか否かを判定し(ステップS74)、所定値T3をカウントしていないとき(ステップS74:No)、処理をステップS72に戻し、所定値T3をカウントしたとき(ステップS74:Yes)、処理をステップS75に移行する。
【0187】
ステップS75において、制御部8’は、定在波信号Sig8が第3基準値以上であるか否かを判定する。この処理において、定在波信号Sig8が第3基準値以上ではないと判定されると(ステップS75:No)、制御部8’は、マイクロ波ドップラセンサ7が間欠周期Ta(ここでは、3秒(sec)周期とする)で動作している状態から、間欠周期Taを短く(ここでは、1秒(sec)周期)するようにセンサ制御部29を制御して(ステップS76)、掃除モード処理を終了する。一方、定在波信号Sig8が第3基準値以上であると判定されると(ステップS75:Yes)、制御部8’は、ステップS70の処理へ移行する。
【0188】
このように本第3実施形態における小便器洗浄装置A”の制御部8’では、マイクロ波ドップラセンサ7の出力信号に含まれる定在波信号が第2基準値以上であることを人体位置検出部33が検出すると、給水バルブ4を原則閉止する掃除モードに設定される。この掃除モードに移行すると、所定時間(カウント値t=T3)となるまで小便器1への洗浄水の供給を停止するようにしている。しかも、所定時間となった場合に、まだ清掃者が掃除をしている場合には、再度所定時間だけ小便器1への洗浄水の供給を停止する。これにより清掃者は小便器1の掃除に専念することができる。
【0189】
しかも、所定時間(カウント値t=T3)の間に、小便器洗浄装置Aの利用者の手とマイクロ波ドップラセンサ7との距離が掃除モード移行距離になったときに、小便器1内の洗浄を行うので、清掃者は小便器1に水を簡単に流すことができ、清掃作業の効率化を図ることができる。
【0190】
さらに、制御部8’は、掃除モードに設定するときに、マイクロ波ドップラセンサ7の間欠周期Taを長くするように再設定するので、小便器洗浄装置A”の消費電力を低減することができる。
【0191】
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明の実施をすることが可能である。
【0192】
例えば、マイクロ波ドップラセンサ7の出力に含まれる定在波信号に基づいて尿流の存在を検出する尿流存在検出部(第1検出手段の一例に相当)を別途設け、この尿流存在検出部によって尿流の存在を検出した後、尿流検出処理部32(第2検出手段の一例に相当)を動作させることも可能である。
【0193】
また、第3実施形態においては、尿流検出処理及び人体離反検出(図10におけるステップS56〜S61の処理)と、掃除モード処理(図11のステップS70〜S76参照)とを行う小便器洗浄装置を説明したが、それぞれ単独で適用してもよい。すなわち、尿流検出処理及び人体離反検出のみ適用しても、掃除モード処理のみ適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】本発明の第1実施形態に係る小便器洗浄装置の全体的な構成を示した図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る制御部のブロック図である。
【図3】マイクロ波ドップラセンサから出力される定在波の検出説明図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る小便器洗浄装置において掃除モードに移行する動作例を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る小便器洗浄装置のメイン処理フローチャートである。
【図6】図5における第1基準値設定処理のフローチャートである。
【図7】図5における掃除モード処理のフローチャートである。
【図8】本発明の第2実施形態に係る制御部のブロック図である。
【図9】図8における適応フィルタのブロック図である。
【図10】本発明の第3実施形態に係る小便器洗浄装置のメイン処理フローチャートである。
【図11】図10における掃除モード処理のフローチャートである。
【符号の説明】
【0195】
A,A’,A” 小便器洗浄装置
1 小便器
2 ボール部
3 給水路
4 給水バルブ
5 排水路
6 トラップ管路
7 マイクロ波ドップラセンサ
8,8’ 制御部
21 ローパスフィルタ部
22 アンプ部
23 人体帯域フィルタ部
24 尿流帯域フィルタ部
25 定在波検出部
26 対象物検出部
27 給水バルブ制御部
28 記憶部
29 センサ制御部
30 供給頻度検出部
31 人体検出処理部
32 尿流検出処理部
33 人体位置検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器と、前記便器へ洗浄水を供給する給水バルブと、前記便器周辺の対象物を検出するドップラセンサと、前記ドップラセンサのセンサ出力に応じて前記給水バルブを制御する制御部と、を備えた便器洗浄装置において、
前記制御部は、
前記センサ出力に含まれる定在波信号に基づいて前記対象物の存在を検出する第1検出手段と、
前記センサ出力に含まれるドップラ信号に基づいて前記対象物の動きを検出する第2検出手段と、を有し、
前記第1検出手段の出力に応じて、前記第2検出手段を動作させ前記給水バルブを制御することを特徴とする便器洗浄装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記ドップラセンサを所定周期で間欠的に動作させるセンサ制御手段を備え、
前記第1検出手段は、
前記センサ制御手段によって前記ドップラセンサを動作させるタイミングで前記対象物の存在を間欠的に検出する
ことを特徴とする請求項1に記載の便器洗浄装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記洗浄水の供給頻度を検出する供給頻度検出手段を備え、
前記センサ制御手段は、
前記供給頻度検出手段によって検出した洗浄水の供給頻度に応じて前記所定周期を変更する
ことを特徴とする請求項2に記載の便器洗浄装置。
【請求項4】
前記第1検出手段による前記対象物の存在検出の基準となる第1基準値よりも大きい第2基準値を記憶する記憶部を備え、
前記制御部は、
前記センサ出力に含まれる定在波信号が前記第2基準値以上であることを前記第1検出手段が検出すると、前記給水バルブを閉止する掃除モードに設定する
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の便器洗浄装置。
【請求項5】
前記制御部は、
前記掃除モードに設定するときに前記所定周期を再設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の便器洗浄装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記第1検出手段による検出結果と前記第2検出手段による検出結果に基づいて、前記対象物の接近の検出及び前記対象物の離反の検出を行う
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の便器洗浄装置。
【請求項7】
前記第2検出手段は、
前記対象物として人体の動きを検出して当該人体を検出する人体検出処理部と、前記対象物として尿流の動きを検出して当該尿流を検出する尿流検出処理部とを有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の便器洗浄装置。
【請求項8】
前記制御部は、
前記センサ出力と前記尿流検出処理部との間に、前記センサ出力に含まれるノイズを除去する適応フィルタを設け、
前記尿流検出処理部を動作させるときに前記適応フィルタを動作させる
ことを特徴とする請求項7に記載に記載の便器洗浄装置。
【請求項9】
前記制御部は、
前記人体検出処理部によって人体を検出したときに前記尿流検出処理部を動作させる
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の便器洗浄装置。
【請求項10】
前記制御部は、
前記尿流検出処理部にて尿流を検出しているときに、前記人体検出処理部の動作を停止させる
ことを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の便器洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−31825(P2008−31825A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62358(P2007−62358)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】