説明

便座の製造方法及び便座本体

【課題】表面品位不良を抑制し、安定した温感効果の発揮と生産性の向上とを同時に実現できる便座の製造方法を提供する。
【解決手段】便座1は、便座本体2と、便座本体2の少なくとも着座面側の表面に形成された断熱層3とからなる。この便座1の製造方法は、便座本体2として着座面側の表面から各々周囲に凸部21を残留させるように独立して凹設された無数の凹部22を有するものを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便座の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の請求項3に従来の便座が開示されている。この便座は便座本体と断熱層とからなる。便座本体は便座の形状をなすものであり、断熱層は便座本体の少なくとも着座面側の表面に断熱用塗料が塗布されることにより形成されている。
【0003】
上記従来の便座は、以下の製造方法により製造されていた。最初に、例えば、熱可塑性樹脂を用いる射出成形等の成形方法等により便座本体が成形される。次に、その便座本体の少なくとも着座面側の表面にスプレー塗装等の一般的なコーティング方法により断熱用塗料が塗布される。これにより、便座が得られる。
【0004】
こうして得られる従来の便座は、着座面が断熱層によって形成されることになるため、その着座面に人が座ったときに温感効果を発揮し、冷感を感じる等の不快感を和らげることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−275133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、便座本体の少なくとも着座面側の表面に断熱用塗料を塗布する場合、以下のような問題があった。
【0007】
すなわち、人の座り心地を良くするため、便座の着座面は一般的に曲面形状とされている。このため、便座本体の少なくとも着座面側の表面に塗布された断熱用塗料は乾燥するまでの間に曲面の下方に流動し易く、断熱用塗料の垂れ等の表面品位不良を生じやすい。このため、従来の便座の製造方法では、安定した温感効果を発揮することが困難であったとともに、収率も低下して生産性を向上させることも難しかった。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、表面品位不良を抑制し、安定した温感効果の発揮と生産性の向上とを同時に実現できる便座の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の便座の製造方法は、便座本体の少なくとも着座面側の表面に断熱用塗料を塗布することにより断熱層を形成し、該便座本体と該断熱層とからなる便座を製造する便座の製造方法において、
前記便座本体として、前記着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各該凹部の周囲に凸部を残留させたものを用いることを特徴とする。
【0010】
本発明の便座の製造方法は、下記の手順で実施されるものである。
【0011】
まず、最初に、各種の製造方法により便座本体が用意される。この際、便座本体としては、着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各凹部の周囲に凸部を残留させた凹凸形状が形成されたものである。具体的には、例えば、熱可塑性樹脂を用いる射出成形により便座本体を成形する際、成形型の少なくとも着座面側の金型面には、着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各凹部の周囲に凸部を残留させた凹凸形状を形成できるように、無数の凹部に対応した凸部が加工される。このため、便座本体には、射出成形等の成形方法によって、着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各凹部の周囲に凸部を残留させた凹凸形状が形成される。
【0012】
次に、便座本体の少なくとも着座面側の表面に刷毛塗りやスプレー塗装等の一般的なコーティング方法により断熱用塗料を塗布する。これにより、便座本体の少なくとも着座面側の表面に断熱層が形成され、便座が得られる。
【0013】
この際、断熱用塗料は、曲面形状とされた着座面の表面において、曲面の下方に流動しようとする。しかし、本発明に係る便座本体は、各凹部が独立して凹設されていることから着座面の表面に残留する凸部が連続しているため、断熱用塗料の大部分は各凹部内に流れ込んで溜まることとなる。このため、断熱用塗料は、水滴状に盛り上がって垂れるというような表面品位不良を生じ難い。このような作用は、便座本体として、着座面側の表面から独立して無数の凸部が凸設され、各凸部の周囲に凹部を残留させた凹凸形状を有するものである場合には奏し得ない。このような便座本体は凹部が連続するものとなるため、断熱用塗料はその凹部を伝わって曲面の下方に流動し易く、断熱用塗料の垂れ等の表面品位不良を生じやすいからである。
【0014】
このため、本発明の製造方法により得られる着座面は良好な表面品位を安定的に発揮する。その結果、得られる便座は安定した温感効果を発揮することが可能となる。また、便座の収率も向上し、その結果として、生産性を向上させることができる。
【0015】
したがって、本発明の便座の製造方法によれば、表面品位不良を抑制し、安定した温感効果の発揮と生産性の向上とを同時に実現することができる。
【0016】
また、本発明の便座の製造方法によれば、着座面の表面に塗布された断熱用塗料が硬化して断熱層を形成した後も、着座面の表面に無数の凹部が残る。このため、人が便座にすわるときに、臀部が着座面に接触する面積を大幅に減少させることができる。このため、本発明の製造方法で得られる便座は、平滑な着座面をもつ従来の便座と比較して、温感効果をさらに高くすることができる。
【0017】
本発明に係る便座本体は、着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各凹部の周囲に凸部を残留させた凹凸形状が形成されたものであるので、着座面の表面に残留する凸部は連続している。このような凸部の形状は種々可能であり、例えば、四角格子、六角格子又は網目等の形態となるように凸部の形状を定めると同時に凹部の形状も定めることが可能である。他方、着座面側の表面から独立して無数の凸部が凸設され、各凸部の周囲に凹部を残留させた凹凸形状を有する便座本体においては、凹部が連続するものとなることから、この便座本体の凸部及び凹部は本発明に係る便座本体の凸部及び凹部とは異なる。
【0018】
本発明の便座の製造方法において、全ての凸部及び凹部は縁部が曲面によって形成されていることが好ましい。凸部の縁部が曲面によって形成されていれば、臀部が着座面に接触しても、痛いとかざらざらしているというような不快な触感を感じることを抑制することができる。また、凸部及び凹部の縁部が平面によって形成されて角状になっている場合には付着した汚れが落ち難いのに対し、凸部及び凹部の縁部が曲面とされている場合にはその汚れを容易に除去することができる。
【0019】
本発明の便座の製造方法において、断熱用塗料は内部に気孔をもつ無数の気孔体を含むものとし得る。
【0020】
この場合、断熱層の内部には、内部に気孔をもつ無数の気孔体が分散した状態となる。このため、断熱性能をより向上させることができ、その結果として、温感効果を一層高くすることができる。
【0021】
ここで、気孔体とは、非吸水性の球状又は略球状の殻内に密閉された気孔をもつ粒子である。気孔体の中空部によって断熱部の気孔を確保すれば、その気孔は独立気孔となる。気孔体内は、空気等の気体が充満していてもよく、真空であってもよい。無機系の気孔体であってもよく、有機系の気孔体であってもよい。無機系の気孔体としては、粒径が数10μm程度のガラスバルーン、シリカバルーン、石英ガラスバルーン、フライアッシュ、シラスバルーン、アルミナバルーン、セラミックスバルーン等を採用することができる。有機系の気孔体としては、粒径が5〜150μm程度のウレタンバルーン、フェノールバルーン、ポリアミドバルーン、塩化ビニリデンとメタクリル酸メチルとアクリロニトリルのコポリマーからなるバルーン等を採用することができる。
【0022】
本発明の便座本体は、少なくとも着座面側の表面に断熱用塗料が塗布されることにより断熱層が形成されて便座となる便座本体において、
前記着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各該凹部の周囲に凸部を残留させていることを特徴とする。
【0023】
上述した本発明の便座の製造方法に本発明の便座本体を適用することにより、上述の作用効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本発明を具体化した試験例1〜3を説明する。
【0025】
(試験例1)
図1〜3に示す実施例1の便座1と、比較例1〜3の便座1とを用意した。
【0026】
図1に示す実施例1の便座1は、図2及び図3に示すように、便座本体2と断熱層3とからなる。便座本体2には、着座面側の表面から独立して無数の凹部22が凹設され、各凹部22の周囲に凸部21を残留させた凹凸形状が形成されている。具体的には、この便座本体2には、四角格子の模様が表面に浮き出た凹凸形状が形成されている。この凹凸形状は、図3(a)に示すように、便座本体2の着座面側の表面自体に形成されたものである。また、この凹凸形状において、凸部21及び凹部22は、縁部が曲面によって形成されている。
【0027】
断熱層3は、便座本体2の着座面側の表面に形成されている。この断熱層3は、図3(b)に示すように、アクリルポリオールと無変性ポリイソシアネートとを主成分としたウレタン系ベース樹脂からなるマトリックス5中に、内部に気孔42をもつ無数のガラスバルーン4が分散した構成である。ガラスバルーン4は、略球状の殻41内に密閉された気孔42をもつ粒子であり、粒径としては約65μmのものを採用している。
【0028】
実施例1の便座1の製造方法は、下記の手順で実施される。
【0029】
予め、断熱用塗料を準備する。断熱用塗料は、ウレタン系ベース樹脂にガラスバルーン4、顔料及び抗菌剤を調合及び混合し、さらに希釈用溶媒で低粘度化させてスプレー塗装し易いようにしたものである。実施例1において、これらの調合比率は、ウレタン系ベース樹脂100質量部に対し、ガラスバルーン4が5質量部、顔料が1質量部、抗菌剤が1質量部、希釈用溶媒が50質量部である。
【0030】
また、便座本体2を成形する。実施例1の便座本体2は、図示しない射出成形用金型内に熱可塑性樹脂(ポリプロピレン、ABS等)を注入することにより成形される。このとき、便座本体2の着座面側の表面に四角格子の模様が浮き出た凹凸形状が同時に形成される。この凹凸形状の基本寸法は、表1に示すように、四角格子の間隔が3mm、開口部である凹部22の大きさが約2.2mm角、凹部22の深さが0.35mmとした。なお、便座1の着座面は曲面に形成されるので、場所により四角格子の模様を若干変形させている。
【0031】
【表1】

【0032】
そして、図示しないスプレー塗装機により、断熱用塗料が便座本体2の着座面側の表面に霧状に噴霧され、便座本体2の着座面側の表面に断熱用塗料の塗膜が形成される。その後、塗膜は乾燥し、完全に硬化する。その結果、図3(a)及び(b)に示すように、便座本体2の着座面側の表面に、無数の気孔42を有して構成された断熱層3が一体に設けられる。この際、断熱層3の表面にも、便座本体2の着座面側の表面に形成された凹凸形状に倣うような凹凸形状が形成される。
【0033】
こうして得られた実施例1の便座1において、断熱層3の平均塗膜厚さは、表1に示すように、約70μmであった。なお、断熱層3の塗膜厚さは、断熱用塗料が乾燥するまでの流動により、凸部21の上方と凹部22の上方とで異なり、その幅は、約30〜110であった。
【0034】
一方、図1に示す比較例1〜3の便座1は、上記の実施例1の便座本体2と異なり、着座面側の表面を平滑なものとした。このため、便座本体2の着座面側の表面には、図4(a)及び(b)に示すように、便座本体2の着座面側の平滑な表面に断熱層3が形成されている。また、比較例1〜3の便座1に形成される断熱層3の平均塗膜厚さは、表1に示す厚さとなるようにした。その他の構成及び製造方法は全て、実施例1と同様にして、比較例1〜3の便座1を用意した。この際、断熱層3の表面にも、着座面側の表面に形成された平滑面に倣うように平滑な面が形成される。
【0035】
次に、これらの実施例1の便座1及び比較例1〜3の便座1について、塗装後の表面品位の評価を実施した。塗装後の表面品位の評価方法は、外観目視により断熱用塗料の垂れの有無を判定するものである。
【0036】
その結果、実施例1の便座1の表面品位は、着座面側の表面に断熱用塗料の垂れが生じておらず、良好であった。この際、便座本体2の着座面側の表面に塗布された断熱用塗料は、曲面形状とされた着座面の表面において、曲面の下方に流動する傾向にあるが、着座面の表面から独立して凹設され、各々周囲に凸部を残留させた無数の凹部22の中にそのうちの大部分が流れ込んで溜まった状態となっていた。このように、実施例1の便座1は、断熱用塗料が曲面形状とされた着座面の表面に塗布された場合でも、水滴状に盛り上がって垂れるというような表面品位不良を生じ難くなっているのである。このため、着座面は良好な表面品位を安定的に得ることができるのである。また、便座1の収率も向上し、その結果として、生産性を向上させることができるのである。
【0037】
一方、比較例1〜3の便座1の表面品位は、曲面形状とされた着座面側の表面において、曲面の下方に、数箇所の断熱用塗料の垂れが生じており、不良であった。この際、便座本体2の着座面側の表面に塗布された断熱用塗料は、乾燥するまでの間に曲面の下方に流動する傾向が強く、また流動するにつれて、平滑な面の上で水滴状に盛り上がるような傾向が強かった。このように、比較例1〜3の便座1の着座面側の表面は、凹凸形状が形成されていない平滑な面であるので、断熱用塗料が曲面形状とされた着座面の表面に塗布された場合には、水滴状に盛り上がって垂れるというような表面品位不良を生じやすいのである。このため、着座面は良好な表面品位を安定的に得ることが困難なのである。このため、便座1の収率も低下して生産性を向上させることも難しいのである。
【0038】
さらに、実施例1の便座1及び比較例1〜3の便座1について、温感効果を判断するための官能評価を実施した。官能評価試験は、着座面側の表面が平滑で凹凸がなく、断熱層が形成されていない便座本体2を用い、この便座本体2に人が着座して感じる温感を基準として、相対的に評価するものである。全く冷たさを感じないときの評価点を+2、殆ど冷たさを感じないときの評価点を+1.5、あまり冷たさを感じないときの評価点を+1、同じときの評価点を0、少し冷たさを感じるときの評価点を−1、結構冷たさを感じるときの評価点を+1.5、かなり冷たさを感じるときの評価点を−2とした。そして、20名が採点した官能評価点を平均した値を官能評価点とした。
【0039】
その結果、実施例1の便座1は、官能評価点が1.3となり、比較例1〜3の便座1の0.94〜1.28という官能評価点に対して、同等以上の温感効果を発揮することができている。このため、実施例1の便座1は、良好な温感効果を発揮することができているのである。
【0040】
なお、比較例1〜3の便座1に関しては、表1に示すように、断熱層3の平均塗膜厚さと比例して官能評価点が向上していない。これは、図4(b)に示すように、断熱層3の表面に発生する微小な突起31が影響していると推測される。各突起31は、塗布された断熱用塗料が乾燥するまで間に、ガラスバルーン4が表層に浮き上がることにより発生するものである。突起31によって人が触れたときの接触面積がより小さくなり、より温感効果を発揮しやすくなる。一方、塗布された断熱用塗料の塗膜が厚くなるにつれて、ガラスバルーン4が塗膜内に埋没し易くなる結果、突起31が発生しにくくなると考えられる。このため、温感効果のためには、断熱用塗料の塗膜の厚さが100〜150μmであることが好ましいことがわかる。
【0041】
また、この官能評価の際に触感評価も併せて実施した。これは、着座時に臀部が着座面に接触したときの感覚を判定するものである。その結果、実施例1の便座1は、着座面が平滑である比較例1〜3の便座1と同様に、臀部が着座面に接触しても、痛いとかざらざらしているというような不快な触感を感じ難いという結果が得られた。その理由は、実施例1の便座1では、図3(a)及び(b)に示すように、全ての凸部21の縁部が曲面によって形成されているからであると考えられる。
【0042】
さらに、実施例1の便座1について、凹凸形状が形成された着座面の汚れの除去のし易さについても評価した。この結果、実施例1の便座1では、凹部22の縁部が曲面とされているので、着座面に付着した汚れを容易に除去することができた。
【0043】
(試験例2)
次に、実施例1の便座1の温感効果を安定的に発揮させるための要因について、さらに検討を行った。ここでは、便座1の一部分を模擬した150mm角の平板を用いた。
【0044】
表2に示すように、実施例2〜4の150mm角の平板と、比較例4〜7の150mm角の平板とを用意して、人が触れる表面における凹凸形状の有無、断熱層3の有無及び断熱層3の平均塗装厚さと温感効果との関係について検討を行った。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例2〜4の150mm角の平板も、図2及び図3に示すように、平板本体2と、平板本体2の上面側に形成される断熱層3とからなる。平板本体2は、射出成形用金型内にポリプロピレン樹脂を注入することにより成形される。このとき、平板本体2の上面側の表面には、図2に示すように、実施例1と同様な四角格子の模様が浮き出た凹凸形状が同時に形成される。この凹凸形状の基本寸法は、表2に示すように、四角格子の間隔が3mm、開口部である凹部22の大きさが約2.2mm角、凹部22の深さが0.35mmとした。
【0047】
そして、スプレー塗装機により、断熱用塗料が平板本体2の上面側の表面に霧状に噴霧され、平板本体2の上面側の表面に断熱用塗料の塗膜が形成される。その後、塗膜は乾燥し、完全に硬化する。その結果、図3(a)及び(b)に示すように、平板本体2の上面側の表面に、無数の気孔を有して構成された断熱層3が一体に設けられる。この際、断熱層3の表面にも、平板本体2の着座面側の表面に形成された凹凸形状に倣うような凹凸形状が形成される。
【0048】
こうして得られた実施例2〜4の平板において、断熱層3の平均塗膜厚さは、表2に示す通り、実施例2が約70μm、実施例3が約107.5μm、実施例4が約190μmであった。なお、断熱層3の塗膜厚さは、断熱用塗料が乾燥するまでの流動により、凸部の上方と凹部の上方とで異なり、その幅は表2に示す通りである。
【0049】
一方、比較例4〜7の150mm角の平板のうち、比較例4の150mm角の平板は、実施例2〜4に使用する平板本体2の上面側の表面に断熱層を形成していないものとした。このため、比較例4の平板本体2の上面には、実施例2〜4に使用する平板本体2と同じ凹凸形状が形成されている。その他の構成や製造方法は実施例2〜4と同様である。
【0050】
さらに、比較例5の150mm角の平板は、上記の実施例2〜4の平板本体2と異なり、図4(a)及び(b)に示す上面側の表面が平滑な平板本体2の上面側の表面に断熱層3を形成していないものである。このため、平板本体2の上面側の表面には、図2に示すような凹凸形状が形成されていない。その他の構成や製造方法は全て、実施例2〜4と同様である。
【0051】
また、比較例6〜7の150mm角の平板は、上記比較例5の平板に使用される平板本体2と同じく、図4(a)及び(b)に示すように、上面側の表面が平滑な平板本体2と、その平板本体2の上面側に形成される断熱層3とからなる。このため、平板本体2の上面側の表面には、凹凸形状が形成されていない。また、比較例6〜7の平板に形成される断熱層3の平均塗膜厚さは、表2に示すような厚さとなるようにした。その他の構成及び製造方法は全て、実施例2〜4の平板と同様である。この際、比較例6、7の平板に設けられた断熱層3の表面にも、着座面側の表面に形成された平滑面に倣うように、平滑な面が形成される。
【0052】
こうして得られた比較例6、7の平板において、断熱層3の平均塗膜厚さは、表2に示すように、比較例6が約35μm、比較例7が約163μmである。
【0053】
これらの実施例2〜4及び比較例4〜7の平板について、耐冷感評価試験を実施し、耐冷感指数を得た。
【0054】
耐冷感評価試験では、まず、平板に人が臀部を乗せることを考慮し、荷重体を用意する。この荷重体は、質量5kgの荷重本体と、この荷重本体の裏面に一体に形成された厚みが5mmのウレタンフォームからなるシートとからなる。また、測定板を用意する。この測定板は、50mm×50mm×10mmのシリコン板と、このシリコン板の裏面から1mm内部に埋め込んだ熱電対とからなる。さらに、支持板を用意する。この支持板は厚みが10mmのウレタンフォームからなる。
【0055】
そして、各平板を冷蔵庫内で5°Cに12時間以上保持する。この後、25±1°Cの室内において、各支持板を敷き、その上に平板を載せ、その上に恒温槽内で37±1°Cに保持した荷重体及び測定板を載せる。測定板の熱電対による温度を擬似臀部温度(°C)として測定し、各平板に測定板を接触させた直後からの接触時間(sec)と擬似臀部温度(°C)との関係を求める。得られた曲線の線形近似式を求め、それらの傾きを耐冷感指数(いかに冷たく感じるかの指数)とする。
【0056】
その結果、表2及び図5に示すように、比較例5の平板では、平滑かつ断熱層のないものであることにより、耐冷感指数が一番高く、人が触れたときに冷たいという不快感を感じやすいという結果であった。そして、図4(a)及び(b)に示すように、平板本体2に断熱層3を形成した比較例6、7の平板では、比較例5の平板に対して耐冷感指数が低下しており、人が触れたときに冷たいという不快感を大幅に抑制できている。また、比較例6、7の平板は、断熱層3の平均塗膜厚さが増すにつれて、耐冷感指数が低下する傾向を示している。
【0057】
さらに、比較例4の平板は、断熱層のないものであるが、表面に凹凸形状が形成されたことにより、人が触れたときの接触面積を減らすことができている。このため、比較例5の平板に対して、耐冷感指数が低下し、人が触れたときに冷たいという不快感を大幅に抑制できている。
【0058】
一方、実施例2〜4の平板は、図3(a)及び(b)に示すように、断熱層3が形成され、かつ表面に凹凸形状が形成されたものであり、比較例4及び比較例6、7の平板の良い特徴を取り込んたものである。このため、比較例4〜7の平板に対して、同等以下の耐冷感指数を安定的に示す結果となっている。また、比較例6、7の平板と同様に、実施例2〜4の平板は、断熱層3の平均塗膜厚さが増すにつれて、耐冷感指数が低下する傾向を示している。このため、実施例2〜4の平板は、比較例4〜7の平板に対して、人が触れたときに冷たいという不快感を抑制することをより確実に実現できている。
【0059】
(試験例3)
実施例1の便座1の温感効果を安定的に発揮させるための要因について、試験例3では、さらに別の角度から検討を行った。具体的には、表3に示すように、テストピース1〜6の150mm角の平板を用意し、平板本体2の上面側の表面に形成された凹凸形状について、四角格子模様の間隔を変えた場合の温感効果との関係について検討を行った。但し、凹凸形状の上には断熱層は形成されていない。
【0060】
【表3】

【0061】
便座1の一部分を模擬したテストピース1〜6の150mm角の平板は、試験例2における実施例2〜4の平板と同様に、表面には四角格子の模様が浮き出た凹凸形状が形成されているが、その上に断熱層が形成されていないものである。この凹凸形状の基本寸法は、表3に示すように、テストピース1の平板からテストピース6の平板まで、四角格子の間隔が順次幅広くなるように設定した。また、開口部である凹部22の大きさはテストピース1では0.7mm、テストピース2では0.9mm、テストピース3では1.0mm、テストピース4では1.25mm、テストピース5では1.9mm、テストピース6では2.2mmとした。開口部である凹部22の深さは、0.35mmとした。
【0062】
これらのテストピース1〜6の平板について、表3に示すように、官能評価を実施した。官能評価は、試験例2と同様の方法であり、表面が平滑かつ断熱層のない比較例5の平板を基準とし、この基準に対して、テストピース1〜6の平板を相対評価した。
【0063】
その結果、テストピース1〜6の平板においては、四角格子の間隔が最も狭いテストピース1の官能評価点が最も低く、四角格子の間隔が最も幅広いテストピース6の官能評価点が最も高いという結果となった。これは、開口部である凹部22が適度に大きいほうが、人の皮膚に触れる接触面積を効果的に減少させることができるからであると推測される。また、このことから、開口部である凹部22が大きくなりすぎても、人の皮膚が凹部の中にまで押し当たって接触面積が増え、官能評価が低くなることも予想される。さらに、テストピース1〜6の平板の表面の凹凸形状の上に断熱層3が形成されている場合においても、凹部21の大きさが官能評価に対して同様の影響を与えることが推測される。
【0064】
こうして得られた試験例1〜3の結果から、実施例1の便座1の製造方法において、以下のことが実現できている。
【0065】
すなわち、実施例1の便座1の製造方法において、曲面形状とされた着座面の表面にスプレー塗布された断熱用塗料が水滴状に盛り上がって垂れるというような表面品位不良を生じ難くなっている。このため、着座面は良好な表面品位を安定的に得ることができ、その結果として、安定した温感効果を発揮することが可能となっている。また、便座1の収率も向上し、その結果として、生産性を向上させることができている。
【0066】
したがって、実施例1の便座1の製造方法によれば、表面品位不良を抑制し、安定した温感効果の発揮と生産性の向上とを同時に実現することができている。
【0067】
また、実施例1の便座1の製造方法において、着座面の表面に塗布された断熱用塗料が硬化して断熱層3を形成した後も、着座面の表面に無数の凹部22が残っている。このため、人が便座1にすわるときに、臀部が着座面に接触する面積を大幅に減少させることができている。このため、実施例1の製造方法で得られる便座1は、平滑な着座面をもつ従来の便座と比較して、温感効果をさらに高くすることができている。
【0068】
さらに、実施例1の便座1の製造方法において、全ての凸部21の縁部が曲面によって形成されている。このため、臀部が着座面に接触しても、痛いとかざらざらしているというような不快な触感を感じることを抑制することができている。また、凹部22の縁部が曲面とされているので、汚れを容易に除去することが可能となっている。
【0069】
また、実施例1の便座1の製造方法において、断熱用塗料は内部に気孔42をもつ無数の気孔体4を含むものである。このため、断熱層3の内部には、内部に気孔42をもつ無数の気孔体4が分散した状態となっている。このため、実施例1の便座1は、断熱性能をより向上させることができており、その結果として、温感効果を一層高くすることができている。
【0070】
以上において、本発明を実施例1〜4に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜4に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は便座に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1及び比較例1〜3の便座1を示す概略斜視図である。
【図2】実施例1の便座1の着座面側の表面及び実施例2〜4の平板の上面側の表面の凹凸形状を示す概略斜視図及び概略断面図である。
【図3】実施例1の便座1の着座面側の表面及び実施例2〜4の平板の上面側の表面の凹凸形状に係り、(a)は要部断面図であり、(b)は要部拡大断面図である。
【図4】比較例1〜3の便座1の着座面側の表面及び比較例5〜7の平板の上面側の表面の凹凸形状に係り、(a)は要部断面図であり、(b)は要部拡大断面図である。
【図5】試験例2の試験結果に係り、耐冷感指数の評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0073】
1…便座
2…便座本体(平板本体)
3…断熱層
4…気孔体
21…凸部
22…凹部
42…気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座本体の少なくとも着座面側の表面に断熱用塗料を塗布することにより断熱層を形成し、該便座本体と該断熱層とからなる便座を製造する便座の製造方法において、
前記便座本体として、前記着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各該凹部の周囲に凸部を残留させたものを用いることを特徴とする便座の製造方法。
【請求項2】
全ての前記凸部及び前記凹部は縁部が曲面によって形成されていることを特徴とする請求項1記載の便座の製造方法。
【請求項3】
前記断熱用塗料は、内部に気孔をもつ無数の気孔体を含むものであることを特徴とする請求項1又は2記載の便座の製造方法。
【請求項4】
少なくとも着座面側の表面に断熱用塗料が塗布されることにより断熱層が形成されて便座となる便座本体において、
前記着座面側の表面から独立して無数の凹部が凹設され、各該凹部の周囲に凸部を残留させていることを特徴とする便座本体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−102285(P2006−102285A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294542(P2004−294542)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】