説明

便座シートとその製造法

【課題】主として病院や老人介護施設などに有用な硬過ぎず、軟らか過ぎないクッション性の便座シートを提供する。
【解決手段】洋風便器の便座へ左右対称な2枚1組として載置使用される便座シートの製造法であって、硬度が約30度以下のシリコーンゴムと、その100重量%に対する約2重量%の加硫剤と、同じくシリコーンゴムの100重量%に対する約2.0〜3.5重量%の発泡剤との混合材料を金型に入れて、所要時間だけ加熱・加圧することにより、上記便座の平面輪郭形状と対応するほぼ半月形の平面輪郭形状並びに約10〜15mmの一定厚みを備えた断面ほぼ等脚台形に成形・加硫する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として病院や老人介護施設、ホテルなどにふさわしく有用な便座シートとその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
洋風便器に載置使用する便座シートとしては、便座の平面形状と対応するほぼ半月形状に作成された左右対称な2枚1組から成るもの(例えば特許文献1、2)と、便座の平面形状と対応するほぼU字形の1枚物であって、且つ下向きに張り出すフランジを便座の開口縁部へ嵌め付けることにより、使用者の着座面を高くする補高便座(例えば特許文献3、4)との2種が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−238868号公報
【特許文献2】実用新案登録第3105081号公報
【特許文献3】特開2001─95721号公報
【特許文献4】特開2007−151981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1、2に開示された便座シートは、合成繊維(ポリエステル)の不織布や基布とこれらの裏面に重合一体化された粘着剤層とから成り、その粘着剤層の離型フィルムを剥ぎ取って、便座の上面へ貼り付け使用するようになっており、その不織布や基布はたとえ起毛させたとしても、極めて薄肉であってクッション性を発揮しないため、一般家庭において健常者が使用するならばともかく、老人や病人、障害者、その他の病弱者が長時間着座することには不適当であって、病院や老人介護施設などに不向きとなる。
【0005】
又、便座から取りはずし、洗濯すれば、繰り返し使用できることになっているが、その不織布や基布の裏面に塗工された粘着剤層の粘着力は、洗濯の繰り返しにより弱体化するため、全体の薄肉・軽量品であることとも相俟って、必らず使用中の位置ズレや剥落を生ずることとなり、新品との早期な交換を余儀なくされるのである。
【0006】
他方、上記特許文献3、4に開示された補高便座は、発泡ポリウレタンを代表例とする軟らかいクッション材料から成るため、便座や使用者の肌に馴染みやすい追従性を有する利点がある反面、必要な厚みの不足により底づきしてしまうおそれがあるほか、吸水性を有するため、水洗いやトイレ洗剤による拭き掃除,アルコールによる消毒などを行なうこともできず、又熱伝導性に劣るため、保温便座の保温効果を期待できなくなる。
【0007】
それにもまして、便座に対する粘着力や吸着力がなく、全体の軽量品であるため、その便座の開口縁部へ嵌め付け使用する補高便座であればともかく、便座の上面ヘ言わば載置するだけの汎用的な便座シートとしては、到底使用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題の抜本的な解決を目的としており、その目的を達成するために、請求項1では洋風便器の便座へ左右対称な2枚1組として着脱自在に載置使用される便座シートであって、上記便座とほぼ対応する平面輪郭形状と大きさ並びに一定の厚みを備えた低硬度なシリコーンゴムから成り、そのシリコーンゴムに添加した発泡剤によって、低反発クッション性を与えたことを特徴とする。
【0009】
又、請求項2ではシリコーンゴムの強度を約30度以下の低硬度として、厚みが約10〜15mmの断面ほぼ等脚台形に成形すると共に、
【0010】
便座に接地する裏面を自己粘着力が発現する鏡面とする一方、使用者の肌が接触する表面をシボ付きの粗面としたことを特徴とする。
【0011】
請求項3では洋風便器の便座へ左右対称な2枚1組として載置使用される便座シートの製造法であって、
【0012】
硬度が約30度以下のシリコーンゴムと、その100重量%に対する約2重量%の加硫剤と、同じくシリコーンゴムの100重量%に対する約2.0〜3.5重量%の発泡剤との混合材料を金型に入れて、所要時間だけ加熱・加圧することにより、上記便座の平面輪郭形状と対応するほぼ半月形の平面輪郭形状並びに約10〜15mmの一定厚みを備えた断面ほぼ等脚台形に成形・加硫することを特徴とする。
【0013】
請求項4ではシリコーンゴムと加硫剤並びに発泡剤との混合材料を金型へ入れる前に、その金型のキャビティにシボ加工を施して、コーンスターチやタルク、シッカロールなどの粉をまぶしておくと共に、
【0014】
成形直後の未だ膨張状態にある成形物の表面へ、再度上記粉を塗布して、その粉を成形物の収縮作用により、気泡やシボの内部へ埋め込むことを特徴とする。
【0015】
更に、請求項5ではシリコーンゴムと加硫剤並びに発泡剤との混合材料に、そのシリコーンゴムの100重量%に対する約7〜15重量%のシリコーンオイルを添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の構成によれば、低硬度のシリコーンゴム製として、そのムーニー粘度に基き便座の上面ヘ言わば置くだけで、安定良く粘着させることができ、合成繊維の布地に特別の粘着剤層を塗工したり、或いは補高便座のように便座の開口縁部へ嵌め付けたりしなくとも、決して位置ズレしたり、剥落したりするおそれがなく、汎用性に優れる。
【0017】
又、シリコーンゴムに対する発泡剤の添加により、低反発クッション性が与えられているため、軟らか過ぎて底づきしてしまったり、逆に硬いため長時間の着座が苦痛となったりせず、使用者の座圧を効果的に分散させ、肌に馴染む感触を得られる。その結果、水洗いはもとより、アルコール消毒や熱湯消毒などを支障なく行なえることとも相俟って、特に病人や老人、身体障害者などに有益な便座シートであると言える。
【0018】
特に、請求項2の構成を採用するならば、床から便座の上面までをいたずらに高くせず、しかも底づきのおそれを確実に解消できる効果がある。又、便座シートの裏面が鏡面となって、便座への粘着効果を昂め得る一方、便座シートの表面は逆にベタ付かない粗面として、使用者の快適な着座感を与えることができる。
【0019】
請求項3の製造法によれば、上記硬さと軟らかさとが適度に併存する低反発クッション性の便座シートを、容易・確実に成形・加硫することができ、安価に提供し得る効果がある。
【0020】
その場合、請求項4の構成を採用するならば、便座シートが使用者の肌と接触する表面を、その気泡やシボの内部へ埋め込まれるシッカロールやタルク、コーンスターチなどの粉により、所謂サラサラの乾燥状態に保つことができ、肌触りの良好な便座シートを得られる効果がある。
【0021】
更に、請求項5の構成を採用するならば、便座シートが便座に接地する裏面の粘着力を、そのシリコーンゴムに対するシリコーンオイルの添加によって、耐用的に持続させることができ、その低下の予防に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る便座シートの斜面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の3−3線拡大断面図である。
【図4】便座シートを洋風便器の便座に取り付けた状態の斜面図である。
【図5】図5の拡大平面図である。
【図6】便座に便座シートを取り付けた状態の断面図である。
【図7】プレス加硫金型の平面図である。
【図8】プレス加硫金型の型開き状態を示す断面図である。
【図9】プレス加硫金型の型締め状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基いて本発明を具体的に詳述すると、図1〜6は本発明に係る便座シート(10)とその使用状態を示しており、便座シート(10)は左右対称な2枚1組から成り、その各個が低硬度のシリコーンゴムから便座(11)の平面形状と対応するほぼ半月形の平面輪郭形状や一定の厚み(T)を備えた断面ほぼ等脚台形に成形・加硫されているが、そのシリコーンゴムに対する発泡剤の混入によって、低反発クッション性も与えられている。便座シート(10)の厚み(T)は一例として約10〜15mm、同じく長さ(L)は一例として約343mm、その長さ(L)を2等分する中間部での幅(W)は、やはり一例として約69mmである。
【0024】
図7〜9は上記便座シート(10)のプレス加硫金型(M)を示しており、これは断面ほぼ倒立等脚台形のキャビティ(C)を有する下型(12)と、その下型(12)のキャビティ(C)を密閉し得る上型(熱盤)(13)との1組から成り、その上型(13)を複数本のガイドピン(14)に沿って、下型(12)から昇降作動できるようになっている。(15)はスライド盤(16)に対する下型(12)の取付け用固定ネジである。尚、図例のプレス加硫金型(M)は上記便座シート(10)の言わば2個取りを示しているが、これに限らぬことは勿論である。
【0025】
上記プレス加硫金型(M)を用いて、本発明の便座シート(10)を製造するに当っては、低硬度(好ましくは30度以下)のシリコーンゴム(コンパウンド)と、その100重量%の約7〜15重量%に相当するシリコーンオイルと、同じくシリコーンゴムの100重量%に対する約2重量%の加硫剤と、やはりシリコーンゴムの100重量%に対する約2.0〜3.5重量%の発泡剤とを混合して、その混合材料を図8、9のように上記プレス加硫金型(M)における下型(12)のキャビティ(C)へ装入し、予じめタイマーにより設定した時間だけ加熱・加圧するのである。そうすれば、図1〜3に示した左右対称な2枚1組の便座シート(10)を成形・加硫することができる。
【0026】
その場合、上記加熱温度は約170〜180℃として、約13〜17分の一定時間だけ電気により加熱する。加圧力は約30〜50トンである。特に、シリコーンゴムの硬度を好ましくは30度以下の低硬度として、そのシリコーンゴムに発泡剤を混入した所以は、本発明の便座シート(10)に低反発クッション性を発揮させるためである。
【0027】
但し、シリコーンゴムの100重量%に対する発泡剤の混合比率が、2重量%よりも過少であると、便座シート(10)の目標とする軟らかさを確実に得ることができない。他方、3.5重量%よりも過多であると、ゴムスポンジ(発泡剤の混合率は約5重量%)のように軟らかくなり過ぎて、復元性を発揮することができない。上記数値範囲により初めて、硬過ぎず、軟らか過ぎない中間程度のクッション性を得られるのである。
【0028】
又、便座シート(10)の一定厚み(T)については、約10〜15mmに寸法化することが望ましい。その10mmよりも薄肉であると、上記クッション性との関係上底づきしてしまうおそれがあり、他方15mmよりも厚肉であると、洋風便器(P)の開閉カバー(17)によって被覆し難くなる。
【0029】
何れにしても、上記数値条件のもとで成形・加硫すると、その成形直後の成形物は約1.5倍の体積に膨張し、その冷却での収縮作用によって、図1〜3に例示した寸法の便座シート(10)を得られることとなる。着色剤を混入させて、希望する着色カラーを与えたり、アンモニアに有効な抗菌剤を混入させたり、或いはシリコーンゴムの100重量%に対する約1〜2重量%の香料を添加して、便座シート(10)から好みの芳香を発散させたりすることも可能である。
【0030】
殊更、上記プレス加硫金型(M)における下型(12)のキャビティ(C)へ、シリコーンゴムと加硫剤並びに発泡剤などの混合材料を装入する前に、予じめシボ加工を好ましくは約140〜200μmの深さとして施すと共に、そのキャビティ(C)にタルクやコーンスターチ、シッカロールなどの粉をまぶしておく。
【0031】
そして、上記キャビティ(C)内での成形直後にある成形物が、約1.5倍の体積に膨張した時、その成形物の表面へ再度上記粉を塗布することが望ましい。そうすれば、その粉を塗布された成形物が、その後に自然冷却して収縮する作用により、気泡の内部や上記シボの凹部へ粉を自づと埋め込むことができ、便座シート(10)の表面(使用者の肌が接触する着座面)(10a)に快適なサラサラ感を与え得る効果がある。
【0032】
他方、上記プレス加硫金型(M)における上型(13)の下面を平滑に鏡面加工すれば、これと対応する便座シート(10)の便座(11)に接地する裏面(10b)が自己粘着力(タック力)を発現するため、従来品のような特別の粘着剤層を塗工する必要なく、その便座シート(10)を洋風便器(P)の便座(11)へ安定裡に貼り付け使用することができ、着脱操作も便利良く行なえる。
【0033】
その場合、上記便座シート(10)の自己粘着力(タック力)はシリコーンゴムに対する発泡剤の混合により低下するおそれがあるが、その低下のおそれはシリコーンオイルの混合によって防止することができる。但し、そのためにはシリコーンゴムを上記した通り、シリコーンゴムの100重量%に対する約7〜15重量%として混合させる必要がある。その混合比率が7重量%よりも過少であると、便座(11)に粘着する効果的なゲル状態を得られず、それだからと言って15重量%よりも過多であると、軟らか過ぎて不安定となり、使用時の底づきを起すおそれもある。
【0034】
本発明の便座シート(10)は上記のような一定厚み(T)の断面ほぼ等脚台形に成形・加硫された低硬度のシリコーンゴム製であるため、それ自体の重さ並びに鏡面となる裏面(10b)の自己粘着力により、洋風便器(P)の便座(11)へ図4〜6のように、言わば置くだけで確実に安定良く使用することができ、不慮な位置ズレや剥落を生ずるおそれがない。
【0035】
しかも、低硬度なシリコーンゴムに対する所定の混合比率を占める発泡剤の混合により、低反発クッション性が与えられているため、その便座シート(10)の一定厚み(T)が約10〜15mmに寸法化されたこととも相俟って、使用者の体重を支持し乍らも底づきするおそれはなく、ゆっくりと弾性変形し、長時間の着座使用による痺れや局部的な圧迫、痛みなどを招くこともない。
【0036】
更に、シリコーンゴム製の便座シート(10)であるため、一般家庭用として洗濯できることは勿論、病院や介護老人保険施設などに用いるも、熱湯消毒やアルコール消毒、酸/アルカリ性のトイレ洗剤による拭き掃除などを支障なく行なえ、保温便座の熱伝導性や難燃性、耐寒性、電気絶縁性などにも優れる。
【符号の説明】
【0037】
(10)・便座シート
(11)・便座
(12)・下型
(13)・上型
(14)・ガイドピン
(15)・固定ネジ
(16)・スライド盤
(17)・開閉カバー
(M)・プレス加硫金型
(P)・洋風便器
(C)・キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洋風便器の便座へ左右対称な2枚1組として着脱自在に載置使用される便座シートであって、
上記便座とほぼ対応する平面輪郭形状と大きさ並びに一定の厚みを備えた低硬度なシリコーンゴムから成り、そのシリコーンゴムに添加した発泡剤によって、低反発クッション性を与えたことを特徴とする便座シート。
【請求項2】
シリコーンゴムの強度を約30度以下の低硬度として、厚みが約10〜15mmの断面ほぼ等脚台形に成形すると共に、
便座に接地する裏面を自己粘着力が発現する鏡面とする一方、使用者の肌が接触する表面をシボ付きの粗面としたことを特徴とする請求項1記載の便座シート。
【請求項3】
洋風便器の便座へ左右対称な2枚1組として載置使用される便座シートの製造法であって、
硬度が約30度以下のシリコーンゴムと、その100重量%に対する約2重量%の加硫剤と、同じくシリコーンゴムの100重量%に対する約2.0〜3.5重量%の発泡剤との混合材料を金型に入れて、所要時間だけ加熱・加圧することにより、上記便座の平面輪郭形状と対応するほぼ半月形の平面輪郭形状並びに約10〜15mmの一定厚みを備えた断面ほぼ等脚台形に成形・加硫することを特徴とする便座シートの製造法。
【請求項4】
シリコーンゴムと加硫剤並びに発泡剤との混合材料を金型へ入れる前に、その金型のキャビティにシボ加工を施して、コーンスターチやタルク、シッカロールなどの粉をまぶしておくと共に、
成形直後の未だ膨張状態にある成形物の表面へ、再度上記粉を塗布して、その粉を成形物の収縮作用により、気泡やシボの内部へ埋め込むことを特徴とする請求項3記載の便座シートの製造法。
【請求項5】
シリコーンゴムと加硫剤並びに発泡剤との混合材料に、そのシリコーンゴムの100重量%に対する約7〜15重量%のシリコーンオイルを添加することを特徴とする請求項3記載の便座シートの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−246736(P2010−246736A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99568(P2009−99568)
【出願日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(509108135)有限会社 東京ポリマー (2)
【Fターム(参考)】