説明

便座

【課題】
座面に入力される荷重を分散させること。
【解決手段】
腰掛け式の便器9に取り付けられ、座面20を備えるソフト便座10であって、便器9に対向する裏面11aと、座面20を成す表面11bとが設けられるベース部材11と、ベース部材11の表面11bに固定され、互いに間隔を隔てて配置される複数の突起部12と、を備える構成としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰掛け式便器の便座に関するものである。
【背景技術】
【0002】
公知の便座として、後述の特許文献1に記載のものがある。この便座について、図4を参照して説明する。
【0003】
図7において、便座1は、硬質部2および軟質部3とから構成されている。
【0004】
硬質部2は、PP、ABS等の合成樹脂材料からなる硬質材を用いて形成され、所要の剛性を有する。硬質部2は、便座1の底面部および外周部に相当する部分を成し、便座1の基盤部として機能する。
【0005】
軟質部3は、発泡ウレタン等の発泡体で形成され、弾性を有する。軟質部3は、硬質部2の上部に着脱自在に載置され、使用者が着座した時に使用者の臀部および脚部が接触する皮膚接触部(座面)として機能する。
【0006】
座面である軟質部3に使用者が着座する場合、発泡体からなる軟質部3は、弾性的に変形することで、使用者の臀部および脚部と全体的に接触する。このとき、硬質材で形成された硬質部2が、その上部に載置された軟質部3を安定して保持する。
【特許文献1】特開平5−176865号公報(図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述の便座1において、軟質部3は、全体として1つの形状を成している。このため、使用者の着座により、軟質部3におけるある部位に荷重が入力されると、当該部位は、その周囲の部位に拘束された状態で変形する。
【0008】
この場合、便座1においては、使用者が軟質部3に着座した時に、この着座にともなった荷重の入力に対して、軟質部3の変形が追従できない可能性がある。
【0009】
その結果、着座した使用者の荷重を座面である軟質部3が十分に分散しきれずに、使用者の臀部および脚部が軟質部3によって部分的に強く押圧され、使用者が違和感を覚えるおそれがあった。
【0010】
よって、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、座面に入力される荷重を分散させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明にて講じた技術的手段は、請求項1に記載の様に、腰掛け式の便器に取り付けられ、座面を備える便座であって、前記便器に対向する一側と、前記座面を成す他側とが設けられるベース部材と、該ベース部材の他側に固定され、互いに間隔を隔てて配置される複数の樹脂弾性体と、を備える構成としたことである。
【0012】
好ましくは、請求項2に記載の様に、前記樹脂弾性体は柱状を成し、前記ベース部材の他側に固定される固定部と、荷重が入力される入力部とを備えると良い。
【0013】
好ましくは、請求項3に記載の様に、前記樹脂弾性体は、スチレン系エラストマから成ると良い。
【0014】
好ましくは、請求項4に記載の様に、前記樹脂弾性体の側面を覆う外套部材が設けられると良い。
【0015】
好ましくは、請求項5に記載の様に、前記樹脂弾性体間を連結する連結部材が設けられると良い。
【0016】
好ましくは、請求項6に記載の様に、前記樹脂弾性体が、変形可能な材料で形成されたカバーで覆われると良い。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、使用者が座面に着座すると、ベース部材に固定された樹脂弾性体に荷重が入力され、この入力された荷重に応じて、樹脂弾性体が弾性的に変形する。各樹脂弾性体は、互いに間隔を隔てて配置されているので、その変形に際して拘束を受けることがなく、入力される荷重に応じて独立して変形できる。したがって、各樹脂弾性体においては、荷重の入力に対する十分な変形量を確保できる。その結果、使用者が座面に着座する時には、座面に入力される荷重の分布に追従するように各樹脂弾性体が適切に変形することで、座面に入力される荷重を分散できる。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、柱状を成す樹脂弾性体において、荷重が入力される入力部は、ベース部材の他側に固定される固定部を支点に、周囲にある樹脂弾性体との間隔の範囲内で変位可能となっている。これにより、座面上で位置決めを行う際に、使用者は容易に移動できる。
【0019】
請求項3に記載の発明によれば、樹脂弾性体はエラストマから成るので、その変形に係る特性は、温度依存性が低い。これにより、便座の使用される環境にかかわらず、樹脂弾性体が安定して変形できる。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、樹脂弾性体の側面を外套部材で覆っているので、荷重の大きさに対する受圧面の面積変化量を変え、便座の使用感を変えることができる。
【0021】
請求項5に記載の発明によれば、樹脂弾性体間が連結部材で連結されているので、複数の樹脂弾性体を一体で成形でき、低コスト化できる。
【0022】
請求項6に記載の発明によれば、樹脂弾性体が、変形可能なカバーで覆われているので、隣接する樹脂弾性体が連動して変形できる。これにより、樹脂弾性体にてベース部材から剥離される方向に負荷が加わっても、樹脂弾性体の変形により、剥離負荷を緩和できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を基に説明する。
【0024】
図1は、本発明に係るソフト便座10(便座)の構造を概略的に示す斜視図、図2は、図1におけるA−A線に沿う断面図である。なお、図2は、使用者に着座されていない時のソフト便座10の態様を示している。
【0025】
ソフト便座10は、腰掛け式の便器9に取り付けられ、使用者によって着座される座面20を備えている。
【0026】
ソフト便座10は、大まかには、ベース部材11と、突起部12(図1においては、2つにのみ符番を付す)とを備えている。
【0027】
ベース部材11は、PP、ABS等の合成樹脂材料からなる硬質材を用いて形成され、所要の剛性を有する。ベース部材11は、腰掛け式便器9に設けられた開口部9aに対応して環状に形成され、ソフト便座10の構造における基部として機能する。
【0028】
ベース部材11の裏面11a(一側)は、腰掛け式便器9に対向している。ベース部材の裏面11aには、脚部11cが設けられている。この脚部11cを介して、ベース部材11は、腰掛け式便器9に載置されている。ベース部材11の表面11b(他側)は、ソフト便座10の座面20を成している。ベース部材11の表面11bには、複数の突起部12が固定されている。
【0029】
突起部12(樹脂弾性体)は、ベース部材11の表面11b上にて、互いに間隔が隔てられるように、複数配置されている。なお、この間隔は、ベース部材11の表面11bの範囲内で、突起部12が配置される場所に応じて変化させても良い。
【0030】
突起部12は、樹脂材料を用いて形成されている。この樹脂材料として、例えば、柔軟性と弾力性とを備えたスチレン系エラストマ、ウレタン系エラストマを用いると良い。なお、スチレン系エラストマの変形に係る特性は、温度依存性が非常に低いので、この材料を用いて形成された突起部12は、ソフト便座10が使用されるさまざまな温度環境下においても、安定した性能を発揮できる。なお、突起部12においては、その大きさや硬度を、ベース部材11の表面11bの範囲内で、配置される場所に応じて変化させても良い。
【0031】
突起部12は、ベース部材11の表面11bから便座上方(図2示上方)に突出するように延在し、円柱状を呈している。突起部12は、固定部12aと、入力部12bとを備えている。固定部12aは、突起部12において、便座下方(図2示下方)の側に設けられている。固定部12aは、接着層12cを介して、ベース部材11の表面11bに固定されている。入力部12bは、突起部12において、便座上方の側に設けられている。入力部12bには、使用者の座面20への着座にともなって、荷重が入力される。これを受けて、ベース部材11に固定された突起部12が、弾性的に変形することとなる。
【0032】
ベース部材11に固定された突起部12には、フィルム13を介して、カバー14が被せられている。カバー14は、ソフト便座10(座面20)の外観意匠を成し、使用者が座面20に着座する時に使用者の臀部が当接する部位である。カバー14は、ベース部材11に固定された突起部12の変形に追従すべく柔軟性を有し、変形可能となっている。カバー14の材質としては、例えば、布、ポリウレタン、合皮を用いると良い。
【0033】
隣接し合う複数の突起部12は、カバー14により連結されている。したがって、突起部12にて、使用者の座面20上での無理な移動等により、ベース部材11から剥離される方向に負荷が加わった場合には、隣接し合う突起部12が連動して変形する。これにより、負荷が加わった付近にある突起部12は、局所的な剥離負荷の影響を受けない。さらには、突起部12の変形により、剥離負荷を緩和できる。
【0034】
フィルム13は、突起部12とカバー14との間に設けられている。フィルム13は、突起部12がカバー14にはりつくのを防止するためのものである。なお、このフィルム13とカバー14との間に、図中2点鎖線で示す様に、面状を成すフレキシブルヒーター15を配置することも可能である。
【0035】
なお、本実施形態においては、突起部12が円柱状を呈する例を示したが、これに限定されるものではなく、突起部12が楕円柱状や多角柱状を呈する構造でも良い。さらに、図4に示す様々な形状を目的に合わせて使用できる。円柱の場合、その製造が簡単となり、製造コストを低減できる。図4(a)に示す逆円錐形状、図4(b)に示す円錐形状、図4(c)に示す樽型形状にすることで、入力荷重に対する変形の度合い(以下、荷重・変形特性と称す)を目的に合わせたものとできる。すなわち、突起部12の形状を変えることで、荷重・変形特性を変えることができ、目的に合わせた荷重・変形特性を適宜選択できる。
【0036】
また、荷重・変位特性は、突起部12の側面を外套部材21で覆うことで、変えることができる。ここで、突起部12の側面とは、突起部12における、受圧面とベース部材11に固定される面とを除く面のことである。
【0037】
図5において、円柱状の突起部12は、その側面全体が外套部材21で覆われている。外套部材21は、弾性を有する材料で形成されている。外套部材21の材料として、突起部12と同じ材料系で硬度の異なる材料を使用しても良いし、別の材料系を使用しても良い。外套部材21の材料として、突起部12より大きな硬度を有する材料を使用すれば、突起部12の受圧面積の変化量を変えることができ、荷重・変形特性を変えることができる。この場合、外套部材21の硬度、及びその厚さを変えることで、さらに荷重・変形特性を変えることができる。
【0038】
また、複数の突起部12間を連結するリブ22(連結部材)を設けても良い。これにより、複数の突起部12を一体で成形でき、低コスト化できる。リブ22は、突起部12の上下方向全体にわたってもよいが、この場合は、リブ22を細くして受圧面積が変化できるようにする必要がある。リブ22を突起部12の下側(ベース部材11側)のみに形成すれば、突起部12の変形に係る独立性は確保でき、受圧面積の変化は妨げられない。図6は、突起部12の下側にリブ22を設けた例であり、図6(a)は平面図、図6(b)は側面図である。突起部12は、その下側にて、リブ22により連結されている。リブ22は、突起部12と同材質のエラストマからなり、突起部12と一体で成形されている。
【0039】
以下、使用者に着座された時のソフト便座10の態様について、図3を参照して説明する。図3は、図1におけるA−A線に沿う断面図で、使用者に着座された時のソフト便座10の態様を示している。
【0040】
ソフト便座10において、使用者が座面20に着座すると、突起部12の入力部12bには、便座下方(図3示下方)に作用する荷重が、カバー14を介して使用者の臀部8から入力される。突起部12は、その固定部12aにて、ベース部材11の表面11bに固定されているので、便座下方に作用する荷重の入力を受けて、突起部12は、便座上下方向(図3示上下方向)に圧縮されるように変形する。この場合、複数の突起部12は、ベース部材11の表面11bにて、互いに間隔を隔てて配置されているので、ある突起部12が荷重を受けて変形する際に、この突起部12は、別の突起部12によって拘束されることがない。この構造により、各突起部12は、入力される荷重に応じて、適切且つ十分に変形することが可能となり、座面20に作用する荷重を分散して受け止めることができる。さらに、突起部12は、周囲にある他の突起部12との間に設けられた間隔の範囲内で、その固定部12aを支点に変位可能なので、座面20に着座した使用者が位置決めのために容易に移動できる。
【0041】
以上説明した様に、本発明のソフト便座10によれば、使用者が座面20に着座すると、ベース部材11の表面11bに固定された突起部12に荷重が入力され、この入力された荷重に応じて、突起部12が弾性的に変形する。各突起部12は、互いに間隔を隔てて配置されているので、その変形に際して拘束を受けることがなく、入力される荷重に応じて独立して変形できる。したがって、各突起部12においては、荷重の入力に対する十分な変形量を確保できる。その結果、使用者が座面20に着座する時には、座面20に入力される荷重の分布に追従するように各突起部12が適切に変形することで、座面20に入力される荷重を分散できる。これにより、使用者の臀部8が座面20から部分的に押圧されることがなく、着座した使用者は、良好な座り心地を得ることができる。
【0042】
また、本発明によれば、円柱状を呈する突起部12において、荷重が入力される入力部12bは、ベース部材11の表面11bに固定される固定部12aを支点に、周囲にある突起部12との間隔の範囲内で変位可能となっている。これにより、座面20上で位置決めを行う際に、使用者は容易に移動できる。
【0043】
また、本発明によれば、突起部12はスチレン系エラストマから成るので、その変形に係る特性は、実使用温度において殆ど依存しない。これにより、ソフト便座10の使用される環境にかかわらず、突起部12が安定して変形できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るソフト便座10の構造を概略的に示す斜視図。
【図2】図1におけるA−A線に沿う断面図で、使用者に着座されていない時のソフト便座10の態様を示す。
【図3】図1におけるA−A線に沿う断面図で、使用者に着座された時のソフト便座10の態様を示す。
【図4】突起部12の他の実施形態を示す図。
【図5】突起部12を覆う外套部材21の構造を示す図。
【図6】突起部12に設けられるリブ22の構造を示す図。
【図7】公知の便座の構造を示す図。
【符号の説明】
【0045】
9 便器
10 ソフト便座(便座)
11 ベース部材
11a 裏面(一側)
11b 表面(他側)
12 突起部(樹脂弾性体)
12a 固定部
12b 入力部
14 カバー
20 座面
21 外套部材
22 リブ(連結部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腰掛け式の便器に取り付けられ、座面を備える便座であって、
前記便器に対向する一側と、前記座面を成す他側とが設けられるベース部材と、
該ベース部材の他側に固定され、互いに間隔を隔てて配置される複数の樹脂弾性体と、
を備えることを特徴とする便座。
【請求項2】
前記樹脂弾性体は柱状を成し、前記ベース部材の他側に固定される固定部と、荷重が入力される入力部とを備えることを特徴とする請求項1に記載の便座。
【請求項3】
前記樹脂弾性体は、エラストマから成ることを特徴とする請求項2に記載の便座。
【請求項4】
前記樹脂弾性体の側面を覆う外套部材が設けられることを特徴とする請求項3に記載の便座。
【請求項5】
前記樹脂弾性体間を連結する連結部材が設けられることを特徴とする請求項3に記載の便座。
【請求項6】
前記樹脂弾性体が、変形可能な材料で形成されたカバーで覆われることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の便座。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−141622(P2006−141622A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334486(P2004−334486)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】