促進された遺伝子発現能力を伴う新規発現ベクターおよびそれを使用するための方法
【課題】従来の遺伝子発現方法の欠点、および哺乳動物細胞(特にヒト細胞)における遺伝子発現を促進するための従来の方法の欠点を緩和するかまたは防止するための方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、対象の遺伝子、核のアンカーリングエレメント、および少なくとも一つの逆位反復エレメント、好ましくは二つの逆位反復エレメントを含む新規発現ベクターを提供する。発現ベクターは、哺乳動物細胞をトランスフェクトする能力を有するエピソームベクターである。本発明は、発現ベクターを哺乳動物細胞に、好ましくはヒト細胞にトランスフェクトすることによって、遺伝子発現を促進するための方法をさらに提供する。
【解決手段】本発明は、対象の遺伝子、核のアンカーリングエレメント、および少なくとも一つの逆位反復エレメント、好ましくは二つの逆位反復エレメントを含む新規発現ベクターを提供する。発現ベクターは、哺乳動物細胞をトランスフェクトする能力を有するエピソームベクターである。本発明は、発現ベクターを哺乳動物細胞に、好ましくはヒト細胞にトランスフェクトすることによって、遺伝子発現を促進するための方法をさらに提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞における遺伝子発現を促進することができる新規発現ベクターに関する。この発現ベクターは、発現される遺伝子に加えて、核のアンカーリングエレメントおよび少なくとも一つの逆位反復エレメント、好ましくは二つの逆位反復エレメントを含む。さらに本発明は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞へ発現ベクターをトランスフェクトすることによる、遺伝子発現を促進するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遺伝子発現の方法では、原核生物の発現系を用いてヒトの組み換えタンパク質を発現させている。大部分のヒトの組み換えタンパク質では、グリコシル化、g−カルボキシル化またはg−ヒドロキシル化などの翻訳後修飾および/または翻訳時前後修飾を必要とする。従って、原核生物の発現系に関する周知の問題は、哺乳動物の発現系が行うような翻訳後修飾および/または翻訳時前後修飾を原核生物の発現系が行わないことである。正常な機能のために翻訳後修飾および/または翻訳時前後修飾を必要とするタンパク質は、原核生物の発現系で正確に発現されるはずがない。
【0003】
当該ヒトの組み換えタンパク質を発現させるために従来より広く用いられている別の遺伝子発現方法は、哺乳動物の発現系である。翻訳後修飾および翻訳時前後修飾を経験するそれらの能力が原因で、哺乳動物の発現系では哺乳動物細胞を用いる。
【0004】
とりわけ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いる哺乳動物の発現系は、治療および診断に用いるための生物薬剤学的タンパク質を発現させることに関してはルーチンで使いやすい発現系となった。
【0005】
哺乳動物細胞における遺伝子発現を促進するための従来の方法は、濃度を徐々に高めた選択薬剤に対する段階的な選択によって遺伝子を増幅する工程を含む。哺乳動物細胞における遺伝子発現を促進するための従来の方法の一つの態様では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて、メトトレキサート(MTX)に対しての段階的な選択を利用して、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子を増幅させる(Omasa,2002,J.Biosci.Bioeng.94、600−605を参照。)。
【0006】
しかしながら、段階的な選択は単調であって時間を要する。このプロセスでは、遺伝子を高レベルで発現する細胞を完成させるのに数ヶ月を要し、非ヒト哺乳動物細胞での翻訳後修飾はヒト細胞でのそれと同一ではない。さらに、このような遺伝子増幅を伴う従来の遺伝子発現の促進方法は、治療および診断のために用いる生物薬剤学的タンパク質の生産の際に、ヒト細胞で広く採用されてはいない。一般的に、ヒト細胞で作製されたヒトのタンパク質は、非ヒト系で生産されたその対応物と比較して有利な特性を持っているはずである。
【0007】
ヒト細胞におけるミスマッチ修復(MMR)系が遺伝子の増幅を強く抑制することが観測された。Lin et al.,2001,Nucleic Acids Res 29,3304−3310、Chen et al.,2001,Proc Natl Acad Sci USA 98,13802−13807を参照すること。したがって、遺伝子の増幅によって促進された遺伝子発現は、MMR+(MMR−正常/MMR熟練)細胞で強く抑制される。HCT116細胞はhMLH1遺伝子の変異体であるため、MMR-(MMR−欠損)である。HCT116細胞が遺伝子の増幅によって遺伝子発現を促進することが示される。対照的に、HCT116+Ch3(野生型hMLH1遺伝子を保持する染色体3の導入の故にMMR+である)またはHCT116+hMLH1(野生型hMLH1遺伝子を保持するcDNAの導入の故にMMR+である)は、遺伝子の増幅による薬物抵抗性遺伝子発現の促進を抑制する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の遺伝子発現方法の欠点、および哺乳動物細胞(特にヒト細胞)における遺伝子発現を促進するための従来の方法の欠点を克服するために、本発明は、上記の問題を緩和するかまたは防止するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様は、少なくとも一つの遺伝子、核のアンカーリングエレメント、およびそれぞれが互いに対して相補的な二本の外側核酸配列を含む少なくとも一つの逆位反復(IR)エレメントを含む発現ベクターを提供することである。発現ベクターはエピソームベクターであり、哺乳動物細胞をトランスフェクトする能力にさらに特徴を有する。好ましくは、IRエレメントは二本の外側核酸配列の間に挿入された中央部配列を含み、それは二本の外側核酸配列のそれぞれとは異なるものである。また好ましくは、発現ベクターがpGT02−GFPなどの一つのIRエレメントを含み、最も有利には、pGT03−GFPおよびpGT04−IDなどの二つのIRエレメントを含む。発現ベクターが二つのIRエレメントを含む場合、これらの二つのIRエレメントは同一であってもよく、または異なっていてもよい。
【0010】
発現ベクター内の遺伝子は、タンパク質をコードするものか、または非コードRNA内に転写されてもよい。遺伝子によってコードされるタンパク質としては、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質、および薬物抵抗性タンパク質が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。タンパク質は天然由来のものまたは人為的に修飾されたものであり、たとえばEGFP(すなわち、緑色蛍光タンパク質)があり、これはレポータータンパク質である。
【0011】
非コードRNAとしては、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNAおよび二本鎖RNAが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0012】
哺乳動物細胞としては、ミスマッチ修復欠損(MMR-)細胞またはミスマッチ修復熟練(MMR+)細胞などのヒト細胞が好ましい。MMR-細胞の具体例としては、HCT116(hMLH1-)細胞またはDLD−1(hMSH6-)細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。MMR+細胞の具体例としては、HCT116+ch3細胞またはHCT116+hMLH1細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0013】
核のアンカーリングエレメントとしては、EBV核タンパク質EBNA−1およびEBVレプリコンoriPをコードするEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)遺伝子が好ましい。
【0014】
発現ベクターは、哺乳動物細胞内で遺伝子の発現を促進する能力を持つものである。
【0015】
本発明の別の態様は、インバーテッドダイマー(ID)として組織される発現ベクターを提供することである。発現ベクターは、二つの逆位反復(IR)エレメントで分離された二本の長い核酸配列を有する環状の核酸分子である。二本の長い核酸配列のそれぞれは互いに対して相補的であって、それぞれが少なくとも一つの遺伝子および核のアンカーリングを含み、二つのIRエレメントのそれぞれが二本の外側核酸配列を含み、それぞれが互いに対して相補的である。二つのIRエレメントは、互いに同一であるかまたは異なっている。IDはエピソームベクターである。
【0016】
最後に、本発明は、発現ベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を生産する工程、トランスフェクト細胞を培養して、遺伝子がコードするタンパク質をトランスフェクト細胞に生産させる工程、および哺乳動物細胞からタンパク質を回収する工程によって、哺乳動物細胞における遺伝子を発現させるための方法を提供する。
【0017】
発現ベクターは、エレクトロポレーションによって哺乳動物細胞内にトランスフェクトされる。
【0018】
本発明のその他の目的、利点および新規な特性は、次の詳細な説明と、添付の図面とを併せて用いることによってより明白になるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
定義
本明細書で用いられる「発現ベクター」という用語は、ベクター、とりわけエピソームベクターを意味する。一般的に、ベクターは、標的細胞内に特定の遺伝子を導入して発現させるために用いられるプラスミドである。発現ベクターによって、安定したmRNAの大量生産が可能になる。一旦発現ベクターが細胞内に入ると、細胞性転写および翻訳機構によって、その遺伝子がコードするタンパク質が生産される。プラスミドは、mRNAの大量生産を誘導する非常に活性の強いプロモーターが含まれるように改変される。エピソームベクターは、宿主細胞内で自発的に自己複製する能力を有する。
【0020】
本明細書で用いられる「遺伝子」という用語は、機能的RNA産物を生産するのに必要な情報を含む核酸セグメントのセットであって、転写プロセスを介してコントロールされるものを意味する。次いで、このRNAを直接的に(例えばtRNA、rRNA、snRNAおよびその他の非コードRNA(SRP・RNAなど)、アンチセンスRNA、もしくはマイクロRNA)用いてもよく、またはタンパク質の合成に方向付けることができる。「タンパク質をコードする遺伝子」または「タンパク質が遺伝子によってコードされる」というフレーズが用いられる場合、遺伝子がmRNAに転写され、次いでタンパク質に翻訳されることを意味し、哺乳動物細胞で生じる翻訳後および翻訳時前後が包含される。
【0021】
発現ベクターの促進された複製系を介して哺乳動物細胞内で発現され得るタンパク質の具体例としては、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポーター遺伝子、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。このタンパク質は、天然由来のものか、または人為的に修飾されたものである。
【0022】
本明細書で用いられる「レポーター遺伝子」という用語は、細胞培養中、動物内または植物内において、対象の別の遺伝子に接触する「遺伝子」を意味する。特定の遺伝子をレポーターとして選択する。というのは、それらが容易に特定されたり測定されるか、またはそれらが選択マーカーだからである。レポーター遺伝子は一般的に、対象の遺伝子が細胞集団または生物体の集団によって利用されたか、またはそれらによって発現したかどうかを決定するのに用いられている。通常用いられるレポーター遺伝子としては、クラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子(これはそれを発現する細胞がUV光下で緑に輝くように導く)、酵素ルシフェラーゼ(これはルシフェリンとの反応を触媒して発光させる)、lacZ遺伝子(これはβ−ガラクトシダーゼタンパク質をコードする遺伝子を発現する宿主細胞を青く見せる)、およびクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子(これは抗生物質のクロラムフェニコールに対する抵抗性を付与する)、が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。レポーター遺伝子がコードするタンパク質を、本明細書では「レポータータンパク質」と呼ぶ。
【0023】
本明細書で用いられる「逆位反復エレメント」という用語(以下「IR」)は、二本の外側核酸配列と、必要に応じて中央部配列とを有する核酸分子を意味する。外側核酸配列のそれぞれは、互いに対して相補的である。この二本の外側核酸配列はパリンドロームを形成してもよい。中央部配列は、二本の外側核酸配列のそれぞれとは異なり短い核酸配列であり、二本の外側核酸配列の間に挿入され、二本の外側核酸配列によって形成されたパリンドロームを混乱させる。たとえば、「5’−taatccgga tt tccggatta−3’」の配列を有する核酸であって、二本の外側核酸配列が「5’−taatccgga−3’」および「5’−tccggatta−3’」であり、それに対して中央部配列が「5’−tt−3’」というものである。
【0024】
種々のIRを、ヒトのゲノムの多数の異なる領域から見出すことができる。ヒトのゲノムのIR情報は、一般に開放されている。たとえば、Boston Univeristyは逆位反復データベース(IRDB)の公共の集積所を有し、ここではゲノムDNAにおけるIRに関する情報が提供されており、分析のための様々なツールを保持している。http、//tandem.bu.edu/cgi-bin/irdb/irdb.exeを参照すること。現在のところ、これらには、逆転反復発見アルゴリズム、対象の特定の反復を発見するためのクエリーとフィルタリング能力、配列の類似性に基づく反復クラスタリングアルゴリズム、PCRプライマー選択、および様々なフォーマットデータのダウンロードが含まれる。さらに、IRDBは研究のための集積化された作業場として機能する。分析結果の貯蔵スペースが提供され、共同研究者がそれらのデータおよび分析を非公開で共有することも可能である。その他のIRとしては、Lyu、LinおよびLiu(Lyu et al.,1999,J.Mol.Biol.,285、1485−1501)が記載したものが挙げられる。IRは人工的に設計することもできる。
【0025】
本明細書で用いられる「インバーテッドダイマー」という用語(以下「ID」)は、二つのIRエレメントによって分離された二本の長い核酸配列を含む、環状の核酸分子を意味する。二本の長い核酸配列のそれぞれは、互いに対して相補的であり、それぞれは少なくとも一つの遺伝子および核のアンカーリングエレメントを含む。IDは、二つの末端IRを含む線状DNA基質から生産される。理論上、二つの末端IRを含む線状DNA基質は、細胞内のエキソヌクレアーゼまたはヘリカーゼ/ヌクレアーゼによる処理を経てダンベル様DNA中間体に変換される。エキソヌクレアーゼ/ヘリカーゼの特異性に応じて、二つのタイプの環状のIDを作製することができる。第一のタイプでは、二本鎖5’→3’または3’→5’エキソヌクレアーゼが、DNA鎖の両側に一本鎖DNAが突き出るように二つの末端IRを露出させることができる。次いで、逆位反復における末端ヘアピンループの形成により、DNAが末端ループを伴うダンベル様中間体に変換する。その後のDNAの複製により、ダンベル様DNAが環状のインバーテッドダイマーに変換される。第二のタイプでは、同一のまたは異なるエキソヌクレアーゼ/ヘリカーゼが線状DNA基質を一本鎖DNAに変換させることができる。このことは、一方の末端から前進して作動する単一のエキソヌクレアーゼかまたはヘリカーゼのいずれかによって達成することができる。一本鎖DNA上でIRをアニーリングすることによって、末端ループを伴うダンベル様DNAが形成される。その後のDNAの複製により、ダンベル様DNAが環状のインバーテッドダイマーに変換される。引用により本明細書に取り込まれるLin et al.,2001,Nucleic Acids Res.29、3529−3538を参照すること。
【0026】
「核のアンカーリングエレメント」という用語は、細胞の核内、特にヒト細胞の核内に保持される核酸分子の核酸配列を意味する。ベクターであって核のアンカーリングエレメントを有するこの核酸分子は、核の核マトリックスに固定されている。核のアンカーリングエレメントの具体例としては、EBV核タンパク質をコードするEBV遺伝子(たとえば核抗原−1[EBNA−1])およびEBVの複製起点(すなわちEBVレプリコン、oriP)、パポバウイルスの複製起点およびパポバウイルスのlarge T抗原、またはポリオーマウイルス(Py)の複製起点(PyOri)およびlarge T(LT)抗原遺伝子(PyLT)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。Heffernan and Dennis,1991,Nucleic Acids Res.19、85−92を参照すること。
【0027】
好ましい核のアンカーリングエレメントとしては、EBV遺伝子およびEBVの複製起点である。EBV遺伝子およびEBVの複製起点のアンカーリングの効力は、oriP配列の高親和性のマトリックス付着(Jankelevich et al.,1992,EMBO J.,11,1165−1176、Mattia et al.,1999,Virology 262,9−17)、およびoriPの複製開始領域結合タンパク質のEBNA−1(Lupton and Levine,1985,Mol.Cell Biol.5,2533−2542、Polvino−Bodnar and Schaffer,1992,Virology 187,591−603、Yates et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81,3806−3810)との相互反応に起因することが示されている。
【0028】
本発明に従えば、少なくとも一つの逆位反復エレメントを含むか、またはインバーテッドダイマーとして組織された発現ベクターが構築される。これらのベクターは、遺伝子発現が劇的に向上するように選択されたことが実証される。選択薬剤に対する抵抗性遺伝子が発現した場合、高濃度の選択薬剤を利用して一工程で細胞を選択してもよい。さらにMMR+ヒト細胞では、発現ベクターによって発現されるタンパク質を迅速かつ効率的に得ることができる。
【0029】
本発明による方法は、細胞内で少なくとも一つのタンパク質を生産するためのものであり、次の工程を含む、
【0030】
(a)少なくとも一つの核のアンカーリングエレメント、少なくとも一つの遺伝子、および少なくとも一つの逆位反復エレメントを含む発現ベクターを調製する工程、
【0031】
(b)発現ベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を作製する工程、
【0032】
(c)トランスフェクト細胞を培養して、遺伝子がコードするタンパク質をトランスフェクト細胞に生産させる工程、ならびに
【0033】
(d)タンパク質を回収する工程。
【0034】
発現ベクターによって保持されている遺伝子を発現させるために用いる哺乳動物細胞の中で好ましいものとしては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒトの胚腎臓(HEK293)細胞、hMLH1-/-細胞を伴うヒトの結腸ガン細胞(HCT116、HCT116+ch3およびHCT116+hMLH1)、ヒトの結腸ガン細胞(DLD−1(hMSH6-))が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0035】
次の実験計画は例証であり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲から逸脱することなく、思慮分別のある熟練者が想定するものなどの妥当な変形物を、ここで生産することができる。
【実施例1】
【0036】
[発現ベクターの構築およびトランスフェクション]
図1Aに関連して、市販のpEGFP−N1プラスミド(Clontech,CA)、市販のpDR2プラスミド(Clontech,CA)に由来するEBVベースのp220.2プラスミド、および市販のpMAMneoプラスミド(Clontech,CA)を用いて、pGT01−GFPプラスミドを構築した。
【0037】
pEGFP−N1プラスミドは、BglIIおよびBamHIならびにXhoIの制限部位を含むマルチクローニング部位を有する。
【0038】
pEGFP−N1プラスミドを制限酵素BglIIおよびBamHIで消化して、マルチクローニング部位に由来するXhoI制限部位を消去し、線状pEGFP−N1・DNAを得た。この線状pEGFP−N1・DNAは、アガロースゲル精製の後にセルフライゲーションを受けた。EcoRIによる消化を利用して、XhoI部位の欠失を確認した。XhoI欠失pEGFP−N1プラスミドを得た。XhoI欠失pEGFP−N1プラスミドを制限酵素AflIIおよびApaLIで消化することによって、EGFPタンパク質およびEGFP・CDSを駆動させるCMVプロモーターをコードするEGFPコード配列(CDS)を有するEGFP遺伝子を得た。
【0039】
図1A、1Bおよび1Cに関連して、プラスミドpGT01−GFPは、核のアンカーリングエレメント、ハイグロマイシンB抵抗性遺伝子、アンピシリン抵抗性遺伝子、HindIII制限部位、AflII制限部位、PvuII制限部位、XhoI制限部位およびBamHI制限部位を有する。EGFP遺伝子を一つの遺伝子としてBamHI制限部位内に挿入した。核のアンカーリングエレメントは、EBV核タンパク質EBNA−1およびEBVレプリコンoriPをコードするEBV遺伝子を含む。
【0040】
まず最初に、pMAMneoプラスミドのBamHI−HindIII断片を伴うp220.2プラスミドから、プラスミドpGT01−GFPを得た。
【0041】
逆位反復エレメントであって、外側核酸配列としての二つのHセグメントおよび逆位反復エレメントの中央部配列としてのPセグメントを含むHPH断片を、pHPHプラスミドから得た。pBR322(Bi and Liu,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93,819−823)からpHPHプラスミドを作製した。HPH断片はpHPHプラスミドにおけるHPH/tetカセットとして形成され、そしてそれは、Pセグメントの方向性に依存して機能的テトラサイクリン遺伝子の転写をコントロールする遺伝子スイッチであった。
【0042】
pHPHプラスミド(Lin et al.,1997,Nucleic Acids Res.25,3009−3016)をNruI消化することによって、短縮HPH断片を得た。
【0043】
HPH断片を第一の逆位反復エレメントとしての平滑末端化BamHI部位にクローニングし、そしてEGFP遺伝子をAflII制限部位にクローニングすることによって、プラスミドpGT02−GFPを作製した。
【0044】
第二の逆位反復エレメントとしてのHPH断片を、pGT02−GFPのPvuII制限部位に第一の逆位反復エレメントに対してPの逆向きでさらにクローニングすることによって、プラスミドpGT03−GFPを作製した。制限酵素消化によって、第一の逆位反復エレメントおよび第二の逆位反復エレメントの相対的な方向性を決定した。
【0045】
図2に関連して、pGT03−GFPをXhoI酵素で消化し、ゲル精製に付して線状pGT03−GFP・DNAを得た。
【0046】
線状pGT03−GFP・DNAは二つの末端を有し、第一の逆位反復エレメントおよび第二の反復はそれぞれ末端に近い位置にあった。
【0047】
線状pGT03−GFP・DNAを変性させて、一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAを含んだ中和されたDNA溶液を得た。ある量の0.1N・NaOHを用いるアルカリ変性によって、線状pGT03−GFP・DNAの変性を達成した。
【0048】
等容量の0.1N・HCl+10分の1の容量の1M・Tris(pH7.8)を加えて中性とし、それによって、DNA溶液をクエンチした。中和されたDNA溶液を37℃で10分間という短時間インキュベートし、次いで氷上で維持した。
【0049】
第一の逆位反復エレメントの外側核酸配列(Hセグメント)のそれぞれを他のものとアニーリングし、第二の反復の外側核酸配列のそれぞれもそのようにした。
【0050】
一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAの二つの末端のそれぞれの近傍ではヘアピン様構造が形成され、自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAが得られた。図2に関連して、自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAの末端間でギャップが形成された。DNAポリメラーゼおよびリガーゼを用いて、自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP DNAを処理してギャップをふさぎ、そしてダンベル様DNAを得てもよい(Lin et al.,1997,Nucleic Acids Res.25,3009−3016、Lin et al.,2001,Nucleic Acids Res.29、3529−3538)。
【0051】
自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP DNAを大腸菌DH5α(RecA-)内に導入してDNAの複製を可能にし、図2で示されるようなダンベル様DNAから二本鎖DNAを作製した。二本鎖DNAプラスミドをHindIII/NotI消化で選択し、インバーテッドダイマーpGT04/IDを得た。
【0052】
発現ベクターとして用いられる構築されたpGT01−GFP、pGT02−GFP、pGT03−GFPおよびpGT04/IDを用いて、市販のNuleofectorシステム(Amaxa、ドイツ)を利用したエレクトロポレーションによって、製造メーカーの説明書に従って細胞内へのトランスフェクションを行った。トランスフェクト細胞を24〜48時間培養した後、安定したクローンを選択するための50μg/mlのハイグロマイシンBを添加した。
【0053】
本発明による主な目的は、トランスフェクト細胞において遺伝子発現を促進することであった。この目的のために、ヒト細胞を複製する能力を有する発現ベクターを消化して、核のアンカーリングエレメントを含むことによって長期の培養期間にわたって持続性を分子に与えた。実施例において、核のアンカーリングエレメントはEBNA−1およびoriPを含む。EBNA−1およびoriPを含むベクターまたは発現ベクターも、EBVベクターとして知られている。oriP配列を含む高親和性マトリックス付着領域を介してEBVベクターが核マトリックスにしっかりと固定されることが示された(Jankelevich et al.,1992,EMBO J.,11,1165−1176、Mattia et al.,1999,Virology,262,9−17)。さらに、oriPの複製開始領域結合タンパク質EBNA−1との相互作用が、EBVベクターの霊長類細胞における複製、分離および保存にとって必要である(Lupton and Levine,1985,Mol.Cell Biol.5,2533−2542、Polvino−Bodnar and Schaffer,1992,Virology 187,591−603、Yates et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81,3806−3810)。図1A、1Bおよび1Cに関連して、少なくとも一つの逆位反復エレメントが介在するDNAの再配列が、濃度を徐々に高めた薬物による選択および遺伝子コピーの増加を介しての遺伝子発現をさらに促進できるかどうかを実証するために、EBVエレメントおよび少なくとも一つの逆位反復(IR)エレメントを含む発現ベクターを、上記のように構築した。CMVプロモーターによって駆動される、EGFPタンパク質をコードするEGFP遺伝子を、それぞれの発現ベクター内に遺伝子としてクローニングした。さらに図2に関連して、インバーテッドダイマーpGT04/IDは、IRが介在する再配置を介したpGT03−GFPから作製されたDNA産物であった。
【実施例2】
【0054】
[細胞の調製]
HCT116(hMLH1-/-を伴うヒトの結腸ガン)細胞を、Dr.C.R.Boland(UCSD,CA)(Koi et al.,1994,Cancer Res.54,4308−4312、ATCC#CCL−247)から入手した。
【0055】
野生型hMLH1 cDNA(CMVプロモーターのコントロール下)を内部に持つプラスミドpC9MLHWTを、Dr.B.Vogelsteinから入手した。
【0056】
プラスミドpC9MLHWTを用いて、エレクトロポレーションによりHCT116細胞をトランスフェクトし、ミスマッチ修復機能を復活させた(Lin et al.,Nucleic Acids Res.29,3304−3310)。得られたhMLH1タンパク質を発現するG418抵抗性クローンをHCT116+hMLH1と名付けた。HCT116+hMLH1細胞を100μg/mlのG418存在下で培養した。
【0057】
別の結腸ガンのセルラインDLD−1(hMSH6-)(ATCC#CCL−221)を、Dr.Thomas A.Kunkel(NIEHS,NC)から入手した。10%のウシ胎仔血清を添加した完全RPMI培地でDLD−1細胞を培養した。
【実施例3】
【0058】
[エンリッチメント・アッセイ]
薬剤による選択の24時間前に、約1×104のサブコンフルエントな細胞を、10%の市販のウシ胎仔血清(Gibco)を添加した完全RPMI−1640培地またはDMEM培地を満たした100×20mmの培養皿に播種した。培地の栄養が消費され、細胞の老廃物が蓄積したので、古くなった培地を期間内に新鮮な培地で新しいものにした。培地を新しいものにした後、支持された濃度でハイグロマイシンBをそれぞれのプレートに添加した。5%のCO2を供給したインキュベーター内で、培養皿を37℃でインキュベートした。処理から2〜4日後に、ハイグロマイシンBによって誘導される細胞毒性によって、新鮮な培地と一緒に細胞を再補充した。生き残ったコロニーの生育を10〜14日後に観察した。500細胞を100×20mmの培養皿に播種し、生育から10日後のコロニー数を数えることによって、セルラインの平板効率を測定した。
【実施例4】
【0059】
(1)緑色蛍光タンパク質(EGFP)生産の測定
細胞をPBSで一回洗浄し、トリプシン処理を行って、PBSに再懸濁させた。FACS・Vantageセルソーター(Becton Dickinson,Mountain View,CA)を用いて、480nmの励起波長および525nmの蛍光波長で、EGFPの緑色蛍光を測定した。
【0060】
(2)組み換え遺伝子発現の促進
ヒトの結腸ガン細胞であるDLD−1、HCT116、およびHCT116+hMLH1を、それぞれの発現ベクターでトランスフェクトし、50μg/mlのハイグロマイシンBを用いて、安定したクローンについて選択した。それぞれの安定したクローンの複数の安定したクローン細胞を培養した。それぞれのヒトの結腸ガン細胞の1×104の安定したクローン細胞を播種し、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBのいずれかを含む培地でさらに培養した。
【0061】
図3A、3B、3Cおよび3Dに関連して、pGT04/IDをトランスフェクトされた結腸ガンのセルラインDLD−1(MMR-)細胞およびHCT116(MMR-)細胞では、1000μg/mlのハイグロマイシンBで選択された少なくとも一つの逆位反復を伴う細胞に比べて、50倍を超えるコロニーが生じた。図4Aに関連して、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBでの培養時において、細胞中のEGFPの収率が上昇したことが、フローサイトメトリーによって観察された。
【実施例5】
【0062】
[ウェスタンブロット]
プロテアーゼインヒビターのカクテルは、セリン、システイン、アスパラギン酸のプロテアーゼおよびアミノペプチダーゼなどのプロテアーゼの阻害について幅広い特異性を伴ったプロテアーゼインヒビターの混合物である。プロテアーゼインヒビターのカクテルは、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド(AEBSF)、ペプスタチンA、E−64、ベスタチン、ロイペプチンおよびアプロチニンを含んでもよい。プロテアーゼインヒビターのカクテルは、金属キレート剤を含んでいなくてもよい。プロテアーゼインヒビターのカクテルは市販品でもよい。
【0063】
プロテアーゼインヒビターのカクテル(Sigma)を含む溶解用緩衝液(50mMのHEPES・pH7.6、0.5%のSDS、1%のデオキシコール酸ナトリウムおよび5mMのEDTA)で細胞抽出物を調製した。同じ量のタンパク質サンプルを12%のSDS−PAGEゲル上で分離し、ポリフッ化ビニリデン膜(Amersham)にエレクトロブロッティングした。GFP(Chemicon International)に対する抗体およびアクチン(l−19、Santa Cruz Biotechnology)に対する抗体を用いてウェスタンブロットを実施した。検出のために、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(Sigma)と複合化させた二次抗体およびエンハンスド・ケミルミネセンス(ECL、Amersham)を用いた。
【0064】
さらに図4Bに関連して、50μg/ml、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBでの培養時に、細胞内でのEGFPの収率の増加が、ウェスタンブロットによって観察された。
【0065】
結果
上記で示される実施例から、核のアンカーリングエレメントおよび(単数または複数の)IRエレメントの両者を含む発現ベクターが、MMR-細胞およびMMR+細胞の両者において、遺伝子のトランス遺伝子発現を促進することが明確に実証された。
【0066】
核のアンカーリングエレメント、一つまたは二つのIRエレメント、二つの薬物抵抗性遺伝子(すなわちハイグロマイシンB抵抗性遺伝子およびアンピシリン遺伝子)ならびにヒト細胞に対するレポーター遺伝子(すなわちEGFP遺伝子)を含む発現ベクターをトランスフェクトすることによって、本発明の実験を実施した。図3に示されるような、より多くのクローンが1000μgのハイグロマイシンBでも生存したという知見によって実証されるように、トランスフェクト細胞は、薬物抵抗性(すなわちハイグロマイシンB抵抗性)が劇的に改善することが明らかになった。さらに、図4で示されるような、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動でのEGFPのより高い蛍光強度およびより強い染色で実証されるように、より高濃度のハイグロマイシンBでも生存したクローンにおけるEGFPの濃度は、より低濃度のハイグロマイシンBおよび(発現ベクターによるトランスフェクトを受けていない)コントロールにおいて生存したもののそれよりも有意に高かった。この結果から、遺伝子の増幅および発現がトランスフェクト細胞内で促進されたことが確認された。最も注目すべきことは、(遺伝子の増幅および発現が抑制されていない)MMR−欠損細胞だけではなく、(遺伝子の増幅および発現を抑制する影響があるはずの)MMR熟練細胞でも改善が見られたことであった。
【0067】
本発明において構築された様々なベクターの中で、環状のインバーテッドダイマー(「ID」)として構築されたpGT04/ID発現ベクターが、宿主細胞内での最も強い薬物抵抗性効果と最も高いEGFP濃度を提供した。
【0068】
熟練者であれば、本明細書で用いられる薬物抵抗性遺伝子およびEGFP遺伝子を、その他のタンパク質、たとえば成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、転写調節因子、およびリボザイムをコードする遺伝子と置換することができることを理解するだろう。従って、本発明によって、治療用タンパク質の大量生産のために、およびタンパク質の生産に最も適した発現系またはセルラインのスクリーニングのために、発現ベクターを用いることができることが実証された。
【0069】
本発明の多くの特徴および利点は、本発明の構造および特性の詳細と共に上記の説明に記載されているが、その開示はあくまで例示である。細部において、とりわけ本発明の原則の範囲内で各部の形状、大きさおよび配置に関して、添付の請求の範囲が表現する用語の広く一般的な意味が示す最大の範囲まで、変更がなされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1A】本発明に基づく発現ベクターpGT01−GFPの地図である。
【図1B】本発明に基づく発現ベクターpGT02−GFPの地図である。
【図1C】本発明に基づく発現ベクターpGT03−GFPの地図である。
【図2】図1Cの発現ベクターpGT03−GFPから発現ベクターpGT04/IDを作製するフローチャートである。
【図3A】pGT03−GFPまたはpGT04/IDでトランスフェクトされたDLD−1(hMSH6-)細胞の写真であり、ここで、このトランスフェクト細胞は400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBで処理されていた。
【図3B】pGT02−GFP、pGT03−GFPまたはpGT04/IDでトランスフェクトされたHCT116(hMLH1-)細胞またはHCT116+hMLH1細胞の写真であり、ここで、このトランスフェクト細胞は1000μg/mlのハイグロマイシンBで処理されていた。
【図3C】図3Aのトランスフェクト細胞の生き残ったコロニーを示す棒グラフである。
【図3D】図3BのpGT03−GFPまたはpGT04/IDでトランスフェクトされた細胞の生き残ったコロニーを示す棒グラフである。
【図4A】pGT04/IDでトランスフェクトされ、そして50μg/ml、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBで処理されたDLD−1細胞の緑色蛍光の強度に対する細胞数のグラフである。
【図4B】図4Aの細胞のEGFP発現のウェスタンブロット分析の写真である。トランスフェクトされていないDLD−1細胞をネガティブコントロールとして用いた。細胞抽出物のゲルにおける抗アクチンモノクローナル抗体を利用して、タンパク質の添加レベルのコントロールを行った(データは示さず)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物細胞における遺伝子発現を促進することができる新規発現ベクターに関する。この発現ベクターは、発現される遺伝子に加えて、核のアンカーリングエレメントおよび少なくとも一つの逆位反復エレメント、好ましくは二つの逆位反復エレメントを含む。さらに本発明は、哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞へ発現ベクターをトランスフェクトすることによる、遺伝子発現を促進するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の遺伝子発現の方法では、原核生物の発現系を用いてヒトの組み換えタンパク質を発現させている。大部分のヒトの組み換えタンパク質では、グリコシル化、g−カルボキシル化またはg−ヒドロキシル化などの翻訳後修飾および/または翻訳時前後修飾を必要とする。従って、原核生物の発現系に関する周知の問題は、哺乳動物の発現系が行うような翻訳後修飾および/または翻訳時前後修飾を原核生物の発現系が行わないことである。正常な機能のために翻訳後修飾および/または翻訳時前後修飾を必要とするタンパク質は、原核生物の発現系で正確に発現されるはずがない。
【0003】
当該ヒトの組み換えタンパク質を発現させるために従来より広く用いられている別の遺伝子発現方法は、哺乳動物の発現系である。翻訳後修飾および翻訳時前後修飾を経験するそれらの能力が原因で、哺乳動物の発現系では哺乳動物細胞を用いる。
【0004】
とりわけ、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いる哺乳動物の発現系は、治療および診断に用いるための生物薬剤学的タンパク質を発現させることに関してはルーチンで使いやすい発現系となった。
【0005】
哺乳動物細胞における遺伝子発現を促進するための従来の方法は、濃度を徐々に高めた選択薬剤に対する段階的な選択によって遺伝子を増幅する工程を含む。哺乳動物細胞における遺伝子発現を促進するための従来の方法の一つの態様では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を用いて、メトトレキサート(MTX)に対しての段階的な選択を利用して、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子を増幅させる(Omasa,2002,J.Biosci.Bioeng.94、600−605を参照。)。
【0006】
しかしながら、段階的な選択は単調であって時間を要する。このプロセスでは、遺伝子を高レベルで発現する細胞を完成させるのに数ヶ月を要し、非ヒト哺乳動物細胞での翻訳後修飾はヒト細胞でのそれと同一ではない。さらに、このような遺伝子増幅を伴う従来の遺伝子発現の促進方法は、治療および診断のために用いる生物薬剤学的タンパク質の生産の際に、ヒト細胞で広く採用されてはいない。一般的に、ヒト細胞で作製されたヒトのタンパク質は、非ヒト系で生産されたその対応物と比較して有利な特性を持っているはずである。
【0007】
ヒト細胞におけるミスマッチ修復(MMR)系が遺伝子の増幅を強く抑制することが観測された。Lin et al.,2001,Nucleic Acids Res 29,3304−3310、Chen et al.,2001,Proc Natl Acad Sci USA 98,13802−13807を参照すること。したがって、遺伝子の増幅によって促進された遺伝子発現は、MMR+(MMR−正常/MMR熟練)細胞で強く抑制される。HCT116細胞はhMLH1遺伝子の変異体であるため、MMR-(MMR−欠損)である。HCT116細胞が遺伝子の増幅によって遺伝子発現を促進することが示される。対照的に、HCT116+Ch3(野生型hMLH1遺伝子を保持する染色体3の導入の故にMMR+である)またはHCT116+hMLH1(野生型hMLH1遺伝子を保持するcDNAの導入の故にMMR+である)は、遺伝子の増幅による薬物抵抗性遺伝子発現の促進を抑制する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の遺伝子発現方法の欠点、および哺乳動物細胞(特にヒト細胞)における遺伝子発現を促進するための従来の方法の欠点を克服するために、本発明は、上記の問題を緩和するかまたは防止するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様は、少なくとも一つの遺伝子、核のアンカーリングエレメント、およびそれぞれが互いに対して相補的な二本の外側核酸配列を含む少なくとも一つの逆位反復(IR)エレメントを含む発現ベクターを提供することである。発現ベクターはエピソームベクターであり、哺乳動物細胞をトランスフェクトする能力にさらに特徴を有する。好ましくは、IRエレメントは二本の外側核酸配列の間に挿入された中央部配列を含み、それは二本の外側核酸配列のそれぞれとは異なるものである。また好ましくは、発現ベクターがpGT02−GFPなどの一つのIRエレメントを含み、最も有利には、pGT03−GFPおよびpGT04−IDなどの二つのIRエレメントを含む。発現ベクターが二つのIRエレメントを含む場合、これらの二つのIRエレメントは同一であってもよく、または異なっていてもよい。
【0010】
発現ベクター内の遺伝子は、タンパク質をコードするものか、または非コードRNA内に転写されてもよい。遺伝子によってコードされるタンパク質としては、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質、および薬物抵抗性タンパク質が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。タンパク質は天然由来のものまたは人為的に修飾されたものであり、たとえばEGFP(すなわち、緑色蛍光タンパク質)があり、これはレポータータンパク質である。
【0011】
非コードRNAとしては、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNAおよび二本鎖RNAが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0012】
哺乳動物細胞としては、ミスマッチ修復欠損(MMR-)細胞またはミスマッチ修復熟練(MMR+)細胞などのヒト細胞が好ましい。MMR-細胞の具体例としては、HCT116(hMLH1-)細胞またはDLD−1(hMSH6-)細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。MMR+細胞の具体例としては、HCT116+ch3細胞またはHCT116+hMLH1細胞が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0013】
核のアンカーリングエレメントとしては、EBV核タンパク質EBNA−1およびEBVレプリコンoriPをコードするEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)遺伝子が好ましい。
【0014】
発現ベクターは、哺乳動物細胞内で遺伝子の発現を促進する能力を持つものである。
【0015】
本発明の別の態様は、インバーテッドダイマー(ID)として組織される発現ベクターを提供することである。発現ベクターは、二つの逆位反復(IR)エレメントで分離された二本の長い核酸配列を有する環状の核酸分子である。二本の長い核酸配列のそれぞれは互いに対して相補的であって、それぞれが少なくとも一つの遺伝子および核のアンカーリングを含み、二つのIRエレメントのそれぞれが二本の外側核酸配列を含み、それぞれが互いに対して相補的である。二つのIRエレメントは、互いに同一であるかまたは異なっている。IDはエピソームベクターである。
【0016】
最後に、本発明は、発現ベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を生産する工程、トランスフェクト細胞を培養して、遺伝子がコードするタンパク質をトランスフェクト細胞に生産させる工程、および哺乳動物細胞からタンパク質を回収する工程によって、哺乳動物細胞における遺伝子を発現させるための方法を提供する。
【0017】
発現ベクターは、エレクトロポレーションによって哺乳動物細胞内にトランスフェクトされる。
【0018】
本発明のその他の目的、利点および新規な特性は、次の詳細な説明と、添付の図面とを併せて用いることによってより明白になるだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
定義
本明細書で用いられる「発現ベクター」という用語は、ベクター、とりわけエピソームベクターを意味する。一般的に、ベクターは、標的細胞内に特定の遺伝子を導入して発現させるために用いられるプラスミドである。発現ベクターによって、安定したmRNAの大量生産が可能になる。一旦発現ベクターが細胞内に入ると、細胞性転写および翻訳機構によって、その遺伝子がコードするタンパク質が生産される。プラスミドは、mRNAの大量生産を誘導する非常に活性の強いプロモーターが含まれるように改変される。エピソームベクターは、宿主細胞内で自発的に自己複製する能力を有する。
【0020】
本明細書で用いられる「遺伝子」という用語は、機能的RNA産物を生産するのに必要な情報を含む核酸セグメントのセットであって、転写プロセスを介してコントロールされるものを意味する。次いで、このRNAを直接的に(例えばtRNA、rRNA、snRNAおよびその他の非コードRNA(SRP・RNAなど)、アンチセンスRNA、もしくはマイクロRNA)用いてもよく、またはタンパク質の合成に方向付けることができる。「タンパク質をコードする遺伝子」または「タンパク質が遺伝子によってコードされる」というフレーズが用いられる場合、遺伝子がmRNAに転写され、次いでタンパク質に翻訳されることを意味し、哺乳動物細胞で生じる翻訳後および翻訳時前後が包含される。
【0021】
発現ベクターの促進された複製系を介して哺乳動物細胞内で発現され得るタンパク質の具体例としては、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポーター遺伝子、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。このタンパク質は、天然由来のものか、または人為的に修飾されたものである。
【0022】
本明細書で用いられる「レポーター遺伝子」という用語は、細胞培養中、動物内または植物内において、対象の別の遺伝子に接触する「遺伝子」を意味する。特定の遺伝子をレポーターとして選択する。というのは、それらが容易に特定されたり測定されるか、またはそれらが選択マーカーだからである。レポーター遺伝子は一般的に、対象の遺伝子が細胞集団または生物体の集団によって利用されたか、またはそれらによって発現したかどうかを決定するのに用いられている。通常用いられるレポーター遺伝子としては、クラゲの緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子(これはそれを発現する細胞がUV光下で緑に輝くように導く)、酵素ルシフェラーゼ(これはルシフェリンとの反応を触媒して発光させる)、lacZ遺伝子(これはβ−ガラクトシダーゼタンパク質をコードする遺伝子を発現する宿主細胞を青く見せる)、およびクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子(これは抗生物質のクロラムフェニコールに対する抵抗性を付与する)、が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。レポーター遺伝子がコードするタンパク質を、本明細書では「レポータータンパク質」と呼ぶ。
【0023】
本明細書で用いられる「逆位反復エレメント」という用語(以下「IR」)は、二本の外側核酸配列と、必要に応じて中央部配列とを有する核酸分子を意味する。外側核酸配列のそれぞれは、互いに対して相補的である。この二本の外側核酸配列はパリンドロームを形成してもよい。中央部配列は、二本の外側核酸配列のそれぞれとは異なり短い核酸配列であり、二本の外側核酸配列の間に挿入され、二本の外側核酸配列によって形成されたパリンドロームを混乱させる。たとえば、「5’−taatccgga tt tccggatta−3’」の配列を有する核酸であって、二本の外側核酸配列が「5’−taatccgga−3’」および「5’−tccggatta−3’」であり、それに対して中央部配列が「5’−tt−3’」というものである。
【0024】
種々のIRを、ヒトのゲノムの多数の異なる領域から見出すことができる。ヒトのゲノムのIR情報は、一般に開放されている。たとえば、Boston Univeristyは逆位反復データベース(IRDB)の公共の集積所を有し、ここではゲノムDNAにおけるIRに関する情報が提供されており、分析のための様々なツールを保持している。http、//tandem.bu.edu/cgi-bin/irdb/irdb.exeを参照すること。現在のところ、これらには、逆転反復発見アルゴリズム、対象の特定の反復を発見するためのクエリーとフィルタリング能力、配列の類似性に基づく反復クラスタリングアルゴリズム、PCRプライマー選択、および様々なフォーマットデータのダウンロードが含まれる。さらに、IRDBは研究のための集積化された作業場として機能する。分析結果の貯蔵スペースが提供され、共同研究者がそれらのデータおよび分析を非公開で共有することも可能である。その他のIRとしては、Lyu、LinおよびLiu(Lyu et al.,1999,J.Mol.Biol.,285、1485−1501)が記載したものが挙げられる。IRは人工的に設計することもできる。
【0025】
本明細書で用いられる「インバーテッドダイマー」という用語(以下「ID」)は、二つのIRエレメントによって分離された二本の長い核酸配列を含む、環状の核酸分子を意味する。二本の長い核酸配列のそれぞれは、互いに対して相補的であり、それぞれは少なくとも一つの遺伝子および核のアンカーリングエレメントを含む。IDは、二つの末端IRを含む線状DNA基質から生産される。理論上、二つの末端IRを含む線状DNA基質は、細胞内のエキソヌクレアーゼまたはヘリカーゼ/ヌクレアーゼによる処理を経てダンベル様DNA中間体に変換される。エキソヌクレアーゼ/ヘリカーゼの特異性に応じて、二つのタイプの環状のIDを作製することができる。第一のタイプでは、二本鎖5’→3’または3’→5’エキソヌクレアーゼが、DNA鎖の両側に一本鎖DNAが突き出るように二つの末端IRを露出させることができる。次いで、逆位反復における末端ヘアピンループの形成により、DNAが末端ループを伴うダンベル様中間体に変換する。その後のDNAの複製により、ダンベル様DNAが環状のインバーテッドダイマーに変換される。第二のタイプでは、同一のまたは異なるエキソヌクレアーゼ/ヘリカーゼが線状DNA基質を一本鎖DNAに変換させることができる。このことは、一方の末端から前進して作動する単一のエキソヌクレアーゼかまたはヘリカーゼのいずれかによって達成することができる。一本鎖DNA上でIRをアニーリングすることによって、末端ループを伴うダンベル様DNAが形成される。その後のDNAの複製により、ダンベル様DNAが環状のインバーテッドダイマーに変換される。引用により本明細書に取り込まれるLin et al.,2001,Nucleic Acids Res.29、3529−3538を参照すること。
【0026】
「核のアンカーリングエレメント」という用語は、細胞の核内、特にヒト細胞の核内に保持される核酸分子の核酸配列を意味する。ベクターであって核のアンカーリングエレメントを有するこの核酸分子は、核の核マトリックスに固定されている。核のアンカーリングエレメントの具体例としては、EBV核タンパク質をコードするEBV遺伝子(たとえば核抗原−1[EBNA−1])およびEBVの複製起点(すなわちEBVレプリコン、oriP)、パポバウイルスの複製起点およびパポバウイルスのlarge T抗原、またはポリオーマウイルス(Py)の複製起点(PyOri)およびlarge T(LT)抗原遺伝子(PyLT)が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。Heffernan and Dennis,1991,Nucleic Acids Res.19、85−92を参照すること。
【0027】
好ましい核のアンカーリングエレメントとしては、EBV遺伝子およびEBVの複製起点である。EBV遺伝子およびEBVの複製起点のアンカーリングの効力は、oriP配列の高親和性のマトリックス付着(Jankelevich et al.,1992,EMBO J.,11,1165−1176、Mattia et al.,1999,Virology 262,9−17)、およびoriPの複製開始領域結合タンパク質のEBNA−1(Lupton and Levine,1985,Mol.Cell Biol.5,2533−2542、Polvino−Bodnar and Schaffer,1992,Virology 187,591−603、Yates et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81,3806−3810)との相互反応に起因することが示されている。
【0028】
本発明に従えば、少なくとも一つの逆位反復エレメントを含むか、またはインバーテッドダイマーとして組織された発現ベクターが構築される。これらのベクターは、遺伝子発現が劇的に向上するように選択されたことが実証される。選択薬剤に対する抵抗性遺伝子が発現した場合、高濃度の選択薬剤を利用して一工程で細胞を選択してもよい。さらにMMR+ヒト細胞では、発現ベクターによって発現されるタンパク質を迅速かつ効率的に得ることができる。
【0029】
本発明による方法は、細胞内で少なくとも一つのタンパク質を生産するためのものであり、次の工程を含む、
【0030】
(a)少なくとも一つの核のアンカーリングエレメント、少なくとも一つの遺伝子、および少なくとも一つの逆位反復エレメントを含む発現ベクターを調製する工程、
【0031】
(b)発現ベクターを哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を作製する工程、
【0032】
(c)トランスフェクト細胞を培養して、遺伝子がコードするタンパク質をトランスフェクト細胞に生産させる工程、ならびに
【0033】
(d)タンパク質を回収する工程。
【0034】
発現ベクターによって保持されている遺伝子を発現させるために用いる哺乳動物細胞の中で好ましいものとしては、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒトの胚腎臓(HEK293)細胞、hMLH1-/-細胞を伴うヒトの結腸ガン細胞(HCT116、HCT116+ch3およびHCT116+hMLH1)、ヒトの結腸ガン細胞(DLD−1(hMSH6-))が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0035】
次の実験計画は例証であり、本発明の範囲を限定するものではない。本発明の範囲から逸脱することなく、思慮分別のある熟練者が想定するものなどの妥当な変形物を、ここで生産することができる。
【実施例1】
【0036】
[発現ベクターの構築およびトランスフェクション]
図1Aに関連して、市販のpEGFP−N1プラスミド(Clontech,CA)、市販のpDR2プラスミド(Clontech,CA)に由来するEBVベースのp220.2プラスミド、および市販のpMAMneoプラスミド(Clontech,CA)を用いて、pGT01−GFPプラスミドを構築した。
【0037】
pEGFP−N1プラスミドは、BglIIおよびBamHIならびにXhoIの制限部位を含むマルチクローニング部位を有する。
【0038】
pEGFP−N1プラスミドを制限酵素BglIIおよびBamHIで消化して、マルチクローニング部位に由来するXhoI制限部位を消去し、線状pEGFP−N1・DNAを得た。この線状pEGFP−N1・DNAは、アガロースゲル精製の後にセルフライゲーションを受けた。EcoRIによる消化を利用して、XhoI部位の欠失を確認した。XhoI欠失pEGFP−N1プラスミドを得た。XhoI欠失pEGFP−N1プラスミドを制限酵素AflIIおよびApaLIで消化することによって、EGFPタンパク質およびEGFP・CDSを駆動させるCMVプロモーターをコードするEGFPコード配列(CDS)を有するEGFP遺伝子を得た。
【0039】
図1A、1Bおよび1Cに関連して、プラスミドpGT01−GFPは、核のアンカーリングエレメント、ハイグロマイシンB抵抗性遺伝子、アンピシリン抵抗性遺伝子、HindIII制限部位、AflII制限部位、PvuII制限部位、XhoI制限部位およびBamHI制限部位を有する。EGFP遺伝子を一つの遺伝子としてBamHI制限部位内に挿入した。核のアンカーリングエレメントは、EBV核タンパク質EBNA−1およびEBVレプリコンoriPをコードするEBV遺伝子を含む。
【0040】
まず最初に、pMAMneoプラスミドのBamHI−HindIII断片を伴うp220.2プラスミドから、プラスミドpGT01−GFPを得た。
【0041】
逆位反復エレメントであって、外側核酸配列としての二つのHセグメントおよび逆位反復エレメントの中央部配列としてのPセグメントを含むHPH断片を、pHPHプラスミドから得た。pBR322(Bi and Liu,1996,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93,819−823)からpHPHプラスミドを作製した。HPH断片はpHPHプラスミドにおけるHPH/tetカセットとして形成され、そしてそれは、Pセグメントの方向性に依存して機能的テトラサイクリン遺伝子の転写をコントロールする遺伝子スイッチであった。
【0042】
pHPHプラスミド(Lin et al.,1997,Nucleic Acids Res.25,3009−3016)をNruI消化することによって、短縮HPH断片を得た。
【0043】
HPH断片を第一の逆位反復エレメントとしての平滑末端化BamHI部位にクローニングし、そしてEGFP遺伝子をAflII制限部位にクローニングすることによって、プラスミドpGT02−GFPを作製した。
【0044】
第二の逆位反復エレメントとしてのHPH断片を、pGT02−GFPのPvuII制限部位に第一の逆位反復エレメントに対してPの逆向きでさらにクローニングすることによって、プラスミドpGT03−GFPを作製した。制限酵素消化によって、第一の逆位反復エレメントおよび第二の逆位反復エレメントの相対的な方向性を決定した。
【0045】
図2に関連して、pGT03−GFPをXhoI酵素で消化し、ゲル精製に付して線状pGT03−GFP・DNAを得た。
【0046】
線状pGT03−GFP・DNAは二つの末端を有し、第一の逆位反復エレメントおよび第二の反復はそれぞれ末端に近い位置にあった。
【0047】
線状pGT03−GFP・DNAを変性させて、一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAを含んだ中和されたDNA溶液を得た。ある量の0.1N・NaOHを用いるアルカリ変性によって、線状pGT03−GFP・DNAの変性を達成した。
【0048】
等容量の0.1N・HCl+10分の1の容量の1M・Tris(pH7.8)を加えて中性とし、それによって、DNA溶液をクエンチした。中和されたDNA溶液を37℃で10分間という短時間インキュベートし、次いで氷上で維持した。
【0049】
第一の逆位反復エレメントの外側核酸配列(Hセグメント)のそれぞれを他のものとアニーリングし、第二の反復の外側核酸配列のそれぞれもそのようにした。
【0050】
一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAの二つの末端のそれぞれの近傍ではヘアピン様構造が形成され、自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAが得られた。図2に関連して、自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP・DNAの末端間でギャップが形成された。DNAポリメラーゼおよびリガーゼを用いて、自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP DNAを処理してギャップをふさぎ、そしてダンベル様DNAを得てもよい(Lin et al.,1997,Nucleic Acids Res.25,3009−3016、Lin et al.,2001,Nucleic Acids Res.29、3529−3538)。
【0051】
自己アニーリングした一本鎖の線状pGT03−GFP DNAを大腸菌DH5α(RecA-)内に導入してDNAの複製を可能にし、図2で示されるようなダンベル様DNAから二本鎖DNAを作製した。二本鎖DNAプラスミドをHindIII/NotI消化で選択し、インバーテッドダイマーpGT04/IDを得た。
【0052】
発現ベクターとして用いられる構築されたpGT01−GFP、pGT02−GFP、pGT03−GFPおよびpGT04/IDを用いて、市販のNuleofectorシステム(Amaxa、ドイツ)を利用したエレクトロポレーションによって、製造メーカーの説明書に従って細胞内へのトランスフェクションを行った。トランスフェクト細胞を24〜48時間培養した後、安定したクローンを選択するための50μg/mlのハイグロマイシンBを添加した。
【0053】
本発明による主な目的は、トランスフェクト細胞において遺伝子発現を促進することであった。この目的のために、ヒト細胞を複製する能力を有する発現ベクターを消化して、核のアンカーリングエレメントを含むことによって長期の培養期間にわたって持続性を分子に与えた。実施例において、核のアンカーリングエレメントはEBNA−1およびoriPを含む。EBNA−1およびoriPを含むベクターまたは発現ベクターも、EBVベクターとして知られている。oriP配列を含む高親和性マトリックス付着領域を介してEBVベクターが核マトリックスにしっかりと固定されることが示された(Jankelevich et al.,1992,EMBO J.,11,1165−1176、Mattia et al.,1999,Virology,262,9−17)。さらに、oriPの複製開始領域結合タンパク質EBNA−1との相互作用が、EBVベクターの霊長類細胞における複製、分離および保存にとって必要である(Lupton and Levine,1985,Mol.Cell Biol.5,2533−2542、Polvino−Bodnar and Schaffer,1992,Virology 187,591−603、Yates et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81,3806−3810)。図1A、1Bおよび1Cに関連して、少なくとも一つの逆位反復エレメントが介在するDNAの再配列が、濃度を徐々に高めた薬物による選択および遺伝子コピーの増加を介しての遺伝子発現をさらに促進できるかどうかを実証するために、EBVエレメントおよび少なくとも一つの逆位反復(IR)エレメントを含む発現ベクターを、上記のように構築した。CMVプロモーターによって駆動される、EGFPタンパク質をコードするEGFP遺伝子を、それぞれの発現ベクター内に遺伝子としてクローニングした。さらに図2に関連して、インバーテッドダイマーpGT04/IDは、IRが介在する再配置を介したpGT03−GFPから作製されたDNA産物であった。
【実施例2】
【0054】
[細胞の調製]
HCT116(hMLH1-/-を伴うヒトの結腸ガン)細胞を、Dr.C.R.Boland(UCSD,CA)(Koi et al.,1994,Cancer Res.54,4308−4312、ATCC#CCL−247)から入手した。
【0055】
野生型hMLH1 cDNA(CMVプロモーターのコントロール下)を内部に持つプラスミドpC9MLHWTを、Dr.B.Vogelsteinから入手した。
【0056】
プラスミドpC9MLHWTを用いて、エレクトロポレーションによりHCT116細胞をトランスフェクトし、ミスマッチ修復機能を復活させた(Lin et al.,Nucleic Acids Res.29,3304−3310)。得られたhMLH1タンパク質を発現するG418抵抗性クローンをHCT116+hMLH1と名付けた。HCT116+hMLH1細胞を100μg/mlのG418存在下で培養した。
【0057】
別の結腸ガンのセルラインDLD−1(hMSH6-)(ATCC#CCL−221)を、Dr.Thomas A.Kunkel(NIEHS,NC)から入手した。10%のウシ胎仔血清を添加した完全RPMI培地でDLD−1細胞を培養した。
【実施例3】
【0058】
[エンリッチメント・アッセイ]
薬剤による選択の24時間前に、約1×104のサブコンフルエントな細胞を、10%の市販のウシ胎仔血清(Gibco)を添加した完全RPMI−1640培地またはDMEM培地を満たした100×20mmの培養皿に播種した。培地の栄養が消費され、細胞の老廃物が蓄積したので、古くなった培地を期間内に新鮮な培地で新しいものにした。培地を新しいものにした後、支持された濃度でハイグロマイシンBをそれぞれのプレートに添加した。5%のCO2を供給したインキュベーター内で、培養皿を37℃でインキュベートした。処理から2〜4日後に、ハイグロマイシンBによって誘導される細胞毒性によって、新鮮な培地と一緒に細胞を再補充した。生き残ったコロニーの生育を10〜14日後に観察した。500細胞を100×20mmの培養皿に播種し、生育から10日後のコロニー数を数えることによって、セルラインの平板効率を測定した。
【実施例4】
【0059】
(1)緑色蛍光タンパク質(EGFP)生産の測定
細胞をPBSで一回洗浄し、トリプシン処理を行って、PBSに再懸濁させた。FACS・Vantageセルソーター(Becton Dickinson,Mountain View,CA)を用いて、480nmの励起波長および525nmの蛍光波長で、EGFPの緑色蛍光を測定した。
【0060】
(2)組み換え遺伝子発現の促進
ヒトの結腸ガン細胞であるDLD−1、HCT116、およびHCT116+hMLH1を、それぞれの発現ベクターでトランスフェクトし、50μg/mlのハイグロマイシンBを用いて、安定したクローンについて選択した。それぞれの安定したクローンの複数の安定したクローン細胞を培養した。それぞれのヒトの結腸ガン細胞の1×104の安定したクローン細胞を播種し、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBのいずれかを含む培地でさらに培養した。
【0061】
図3A、3B、3Cおよび3Dに関連して、pGT04/IDをトランスフェクトされた結腸ガンのセルラインDLD−1(MMR-)細胞およびHCT116(MMR-)細胞では、1000μg/mlのハイグロマイシンBで選択された少なくとも一つの逆位反復を伴う細胞に比べて、50倍を超えるコロニーが生じた。図4Aに関連して、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBでの培養時において、細胞中のEGFPの収率が上昇したことが、フローサイトメトリーによって観察された。
【実施例5】
【0062】
[ウェスタンブロット]
プロテアーゼインヒビターのカクテルは、セリン、システイン、アスパラギン酸のプロテアーゼおよびアミノペプチダーゼなどのプロテアーゼの阻害について幅広い特異性を伴ったプロテアーゼインヒビターの混合物である。プロテアーゼインヒビターのカクテルは、4−(2−アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド(AEBSF)、ペプスタチンA、E−64、ベスタチン、ロイペプチンおよびアプロチニンを含んでもよい。プロテアーゼインヒビターのカクテルは、金属キレート剤を含んでいなくてもよい。プロテアーゼインヒビターのカクテルは市販品でもよい。
【0063】
プロテアーゼインヒビターのカクテル(Sigma)を含む溶解用緩衝液(50mMのHEPES・pH7.6、0.5%のSDS、1%のデオキシコール酸ナトリウムおよび5mMのEDTA)で細胞抽出物を調製した。同じ量のタンパク質サンプルを12%のSDS−PAGEゲル上で分離し、ポリフッ化ビニリデン膜(Amersham)にエレクトロブロッティングした。GFP(Chemicon International)に対する抗体およびアクチン(l−19、Santa Cruz Biotechnology)に対する抗体を用いてウェスタンブロットを実施した。検出のために、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(Sigma)と複合化させた二次抗体およびエンハンスド・ケミルミネセンス(ECL、Amersham)を用いた。
【0064】
さらに図4Bに関連して、50μg/ml、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBでの培養時に、細胞内でのEGFPの収率の増加が、ウェスタンブロットによって観察された。
【0065】
結果
上記で示される実施例から、核のアンカーリングエレメントおよび(単数または複数の)IRエレメントの両者を含む発現ベクターが、MMR-細胞およびMMR+細胞の両者において、遺伝子のトランス遺伝子発現を促進することが明確に実証された。
【0066】
核のアンカーリングエレメント、一つまたは二つのIRエレメント、二つの薬物抵抗性遺伝子(すなわちハイグロマイシンB抵抗性遺伝子およびアンピシリン遺伝子)ならびにヒト細胞に対するレポーター遺伝子(すなわちEGFP遺伝子)を含む発現ベクターをトランスフェクトすることによって、本発明の実験を実施した。図3に示されるような、より多くのクローンが1000μgのハイグロマイシンBでも生存したという知見によって実証されるように、トランスフェクト細胞は、薬物抵抗性(すなわちハイグロマイシンB抵抗性)が劇的に改善することが明らかになった。さらに、図4で示されるような、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動でのEGFPのより高い蛍光強度およびより強い染色で実証されるように、より高濃度のハイグロマイシンBでも生存したクローンにおけるEGFPの濃度は、より低濃度のハイグロマイシンBおよび(発現ベクターによるトランスフェクトを受けていない)コントロールにおいて生存したもののそれよりも有意に高かった。この結果から、遺伝子の増幅および発現がトランスフェクト細胞内で促進されたことが確認された。最も注目すべきことは、(遺伝子の増幅および発現が抑制されていない)MMR−欠損細胞だけではなく、(遺伝子の増幅および発現を抑制する影響があるはずの)MMR熟練細胞でも改善が見られたことであった。
【0067】
本発明において構築された様々なベクターの中で、環状のインバーテッドダイマー(「ID」)として構築されたpGT04/ID発現ベクターが、宿主細胞内での最も強い薬物抵抗性効果と最も高いEGFP濃度を提供した。
【0068】
熟練者であれば、本明細書で用いられる薬物抵抗性遺伝子およびEGFP遺伝子を、その他のタンパク質、たとえば成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、転写調節因子、およびリボザイムをコードする遺伝子と置換することができることを理解するだろう。従って、本発明によって、治療用タンパク質の大量生産のために、およびタンパク質の生産に最も適した発現系またはセルラインのスクリーニングのために、発現ベクターを用いることができることが実証された。
【0069】
本発明の多くの特徴および利点は、本発明の構造および特性の詳細と共に上記の説明に記載されているが、その開示はあくまで例示である。細部において、とりわけ本発明の原則の範囲内で各部の形状、大きさおよび配置に関して、添付の請求の範囲が表現する用語の広く一般的な意味が示す最大の範囲まで、変更がなされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1A】本発明に基づく発現ベクターpGT01−GFPの地図である。
【図1B】本発明に基づく発現ベクターpGT02−GFPの地図である。
【図1C】本発明に基づく発現ベクターpGT03−GFPの地図である。
【図2】図1Cの発現ベクターpGT03−GFPから発現ベクターpGT04/IDを作製するフローチャートである。
【図3A】pGT03−GFPまたはpGT04/IDでトランスフェクトされたDLD−1(hMSH6-)細胞の写真であり、ここで、このトランスフェクト細胞は400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBで処理されていた。
【図3B】pGT02−GFP、pGT03−GFPまたはpGT04/IDでトランスフェクトされたHCT116(hMLH1-)細胞またはHCT116+hMLH1細胞の写真であり、ここで、このトランスフェクト細胞は1000μg/mlのハイグロマイシンBで処理されていた。
【図3C】図3Aのトランスフェクト細胞の生き残ったコロニーを示す棒グラフである。
【図3D】図3BのpGT03−GFPまたはpGT04/IDでトランスフェクトされた細胞の生き残ったコロニーを示す棒グラフである。
【図4A】pGT04/IDでトランスフェクトされ、そして50μg/ml、400μg/mlまたは1000μg/mlのハイグロマイシンBで処理されたDLD−1細胞の緑色蛍光の強度に対する細胞数のグラフである。
【図4B】図4Aの細胞のEGFP発現のウェスタンブロット分析の写真である。トランスフェクトされていないDLD−1細胞をネガティブコントロールとして用いた。細胞抽出物のゲルにおける抗アクチンモノクローナル抗体を利用して、タンパク質の添加レベルのコントロールを行った(データは示さず)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの遺伝子、
核のアンカーリングエレメント、および
それぞれが互いに対して相補的な二本の外側核酸配列を含む少なくとも一つの逆位反復(IR)エレメント、を含む発現ベクターであって、
前記発現ベクターが哺乳動物細胞をトランスフェクトする能力を有し、かつ
前記発現ベクターが前記哺乳動物細胞内のエピソームベクターである、発現ベクター。
【請求項2】
前記遺伝子が、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項3】
前記タンパク質が天然由来のものか、または人為的に修飾されたものである、請求項2に記載の発現ベクター。
【請求項4】
前記レポータータンパク質が緑色蛍光タンパク質(EGFP)である、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項5】
前記遺伝子が、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNAおよび二本鎖RNAからなる群より選択される一つのRNA内に転写される、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項7】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-)細胞である、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項8】
前記MMR-細胞がHCT116(hMLH1-)細胞かまたはDLD−1(hMSH6-)細胞である、請求項7に記載の発現ベクター。
【請求項9】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練(MMR+)細胞である、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項10】
核のアンカーリングエレメントが、EBV核タンパク質EBNA−1およびEBVレプリコンoriPをコードするEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)遺伝子を含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項11】
前記IRエレメントが、前記二本の外側核酸配列の間に挿入され、かつ前記二本の外側核酸配列のそれぞれとは異なる中央部配列をさらに含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項12】
前記少なくとも一つのIRエレメントが一つのIRエレメントを含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項13】
前記発現ベクターがpGT02−GFPである、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
前記少なくとも一つのIRエレメントが二つのIRエレメントを含み、そして前記二つのIRエレメントがそれぞれ同一であるかまたは異なっている、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項15】
前記発現ベクターがpGT03−GFPまたはpGT04−IDである、請求項14に記載の発現ベクター。
【請求項16】
前記発現ベクターが、前記哺乳動物細胞における前記遺伝子の発現を促進することができる、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項17】
請求項1に記載の発現ベクターを含むヒト細胞。
【請求項18】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-細胞)である、請求項17に記載のヒト細胞。
【請求項19】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練(MMR+細胞)である、請求項17に記載のヒト細胞。
【請求項20】
二つの逆位反復(IR)エレメントで分離された二本の長い配列を有する環状の核酸分子を含むインバーテッドダイマー(ID)として組織された発現ベクターであって、
前記二本の長い配列のそれぞれが互いに対して相補的であって、それぞれが、
少なくとも一つの遺伝子、および
核のアンカーリングエレメントを含み、
前記二つのIRエレメントのそれぞれが二本の外側核酸配列を含み、それぞれが互いに対して相補的であって、前記二つのIRエレメントが互いに同一であるかまたは異なっており、かつ
前記発現ベクターが前記哺乳動物細胞内のエピソームベクターである、発現ベクター。
【請求項21】
前記遺伝子が、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項20に記載の発現ベクター。
【請求項22】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項20に記載の発現ベクター。
【請求項23】
前記発現ベクターがミスマッチ修復欠損細胞である、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項24】
前記発現ベクターがミスマッチ修復熟練細胞である、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項25】
請求項20に記載の発現ベクターを含むヒト細胞。
【請求項26】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-細胞)である、請求項25に記載のヒト細胞。
【請求項27】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練熟練(MMR+細胞)である、請求項25に記載のヒト細胞。
【請求項28】
哺乳動物細胞における遺伝子を発現させるための方法であって、
請求項1に記載の発現ベクターを前記哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を生産する工程、
前記トランスフェクト細胞を培養して、前記遺伝子がコードするタンパク質を前記トランスフェクト細胞に生産させる工程、および
前記哺乳動物細胞から前記タンパク質を回収する工程、を含む方法。
【請求項29】
前記遺伝子が、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記遺伝子が、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNAおよび二本鎖RNAからなる群より選択される一つのRNA内に転写される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-)細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記MMR-細胞がHCT116(hMLH1-)細胞またはDLD−1(hMSH6-)細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練(MMR+)細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
哺乳動物細胞における遺伝子を発現させるための方法であって、
請求項20に記載の発現ベクターを前記哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を生産する工程、
前記トランスフェクト細胞を培養して、前記遺伝子がコードするタンパク質を前記トランスフェクト細胞に生産させる工程、および
前記哺乳動物細胞から前記タンパク質を回収する工程、を含む方法。
【請求項1】
少なくとも一つの遺伝子、
核のアンカーリングエレメント、および
それぞれが互いに対して相補的な二本の外側核酸配列を含む少なくとも一つの逆位反復(IR)エレメント、を含む発現ベクターであって、
前記発現ベクターが哺乳動物細胞をトランスフェクトする能力を有し、かつ
前記発現ベクターが前記哺乳動物細胞内のエピソームベクターである、発現ベクター。
【請求項2】
前記遺伝子が、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項3】
前記タンパク質が天然由来のものか、または人為的に修飾されたものである、請求項2に記載の発現ベクター。
【請求項4】
前記レポータータンパク質が緑色蛍光タンパク質(EGFP)である、請求項3に記載の発現ベクター。
【請求項5】
前記遺伝子が、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNAおよび二本鎖RNAからなる群より選択される一つのRNA内に転写される、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項6】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項7】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-)細胞である、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項8】
前記MMR-細胞がHCT116(hMLH1-)細胞かまたはDLD−1(hMSH6-)細胞である、請求項7に記載の発現ベクター。
【請求項9】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練(MMR+)細胞である、請求項6に記載の発現ベクター。
【請求項10】
核のアンカーリングエレメントが、EBV核タンパク質EBNA−1およびEBVレプリコンoriPをコードするEBV(エプスタイン・バー・ウイルス)遺伝子を含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項11】
前記IRエレメントが、前記二本の外側核酸配列の間に挿入され、かつ前記二本の外側核酸配列のそれぞれとは異なる中央部配列をさらに含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項12】
前記少なくとも一つのIRエレメントが一つのIRエレメントを含む、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項13】
前記発現ベクターがpGT02−GFPである、請求項12に記載の発現ベクター。
【請求項14】
前記少なくとも一つのIRエレメントが二つのIRエレメントを含み、そして前記二つのIRエレメントがそれぞれ同一であるかまたは異なっている、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項15】
前記発現ベクターがpGT03−GFPまたはpGT04−IDである、請求項14に記載の発現ベクター。
【請求項16】
前記発現ベクターが、前記哺乳動物細胞における前記遺伝子の発現を促進することができる、請求項1に記載の発現ベクター。
【請求項17】
請求項1に記載の発現ベクターを含むヒト細胞。
【請求項18】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-細胞)である、請求項17に記載のヒト細胞。
【請求項19】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練(MMR+細胞)である、請求項17に記載のヒト細胞。
【請求項20】
二つの逆位反復(IR)エレメントで分離された二本の長い配列を有する環状の核酸分子を含むインバーテッドダイマー(ID)として組織された発現ベクターであって、
前記二本の長い配列のそれぞれが互いに対して相補的であって、それぞれが、
少なくとも一つの遺伝子、および
核のアンカーリングエレメントを含み、
前記二つのIRエレメントのそれぞれが二本の外側核酸配列を含み、それぞれが互いに対して相補的であって、前記二つのIRエレメントが互いに同一であるかまたは異なっており、かつ
前記発現ベクターが前記哺乳動物細胞内のエピソームベクターである、発現ベクター。
【請求項21】
前記遺伝子が、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項20に記載の発現ベクター。
【請求項22】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項20に記載の発現ベクター。
【請求項23】
前記発現ベクターがミスマッチ修復欠損細胞である、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項24】
前記発現ベクターがミスマッチ修復熟練細胞である、請求項22に記載の発現ベクター。
【請求項25】
請求項20に記載の発現ベクターを含むヒト細胞。
【請求項26】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-細胞)である、請求項25に記載のヒト細胞。
【請求項27】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練熟練(MMR+細胞)である、請求項25に記載のヒト細胞。
【請求項28】
哺乳動物細胞における遺伝子を発現させるための方法であって、
請求項1に記載の発現ベクターを前記哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を生産する工程、
前記トランスフェクト細胞を培養して、前記遺伝子がコードするタンパク質を前記トランスフェクト細胞に生産させる工程、および
前記哺乳動物細胞から前記タンパク質を回収する工程、を含む方法。
【請求項29】
前記遺伝子が、シグナルペプチド、成長因子、ホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ニューロペプチド、抗原、抗体、酵素、凝固因子、抗血管新生因子、前血管新生因子、輸送タンパク質、レセプター、リガンド、調節タンパク質、構造タンパク質、レポータータンパク質、転写調節因子、リボザイム、融合タンパク質および薬物抵抗性タンパク質からなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記遺伝子が、tRNA、rRNA、アンチセンスRNA、マイクロRNAおよび二本鎖RNAからなる群より選択される一つのRNA内に転写される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項28に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復欠損(MMR-)細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記MMR-細胞がHCT116(hMLH1-)細胞またはDLD−1(hMSH6-)細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ヒト細胞がミスマッチ修復熟練(MMR+)細胞である、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
哺乳動物細胞における遺伝子を発現させるための方法であって、
請求項20に記載の発現ベクターを前記哺乳動物細胞にトランスフェクトしてトランスフェクト細胞を生産する工程、
前記トランスフェクト細胞を培養して、前記遺伝子がコードするタンパク質を前記トランスフェクト細胞に生産させる工程、および
前記哺乳動物細胞から前記タンパク質を回収する工程、を含む方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【公開番号】特開2009−82130(P2009−82130A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−199941(P2008−199941)
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(508234545)ジェネタイ インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】GENETAI INC
【住所又は居所原語表記】LEVEL 3,ALEXANDER HOUSE,35 CYBERCITY,EBENE,MAURITIUS
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月1日(2008.8.1)
【出願人】(508234545)ジェネタイ インク. (1)
【氏名又は名称原語表記】GENETAI INC
【住所又は居所原語表記】LEVEL 3,ALEXANDER HOUSE,35 CYBERCITY,EBENE,MAURITIUS
【Fターム(参考)】
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