促進酸化処理方法
【課題】被処理水のpHやSSなどの各種条件を選ばず、水中に溶存したオゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を発生させることが可能な促進酸化処理方法の提供。
【解決手段】アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にこのゼオライトの粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いることを特徴とする促進酸化処理方法である。
【解決手段】アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にこのゼオライトの粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いることを特徴とする促進酸化処理方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に溶存したオゾンを分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を発生させることにより酸化分解反応を促進させる促進酸化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは強力な酸化力を有しており、水処理分野では殺菌、色や臭気物質の除去、鉄やマンガンの除去、凝集特性や透視度の改善、有機物の酸化・分解、微生物群の活性化などの目的で使用されている。分子状のオゾンが水に溶解するとき、オゾン分子はO3として残留するか、各種の機構によって分解し、最終的に分子状のオゾンよりも強力な酸化剤であるヒドロキシラジカル等の活性酸素種が生成される。
【0003】
水中での溶解性有機物とオゾンとの反応は、オゾン分子による直接反応とオゾンの分解により生成されたヒドロキシラジカル等の活性酸素種による間接反応(フリーラジカル反応)の2つがあるが、直接反応は選択性が強く、一般に完全な酸化分解・無機化が難しく、酸化されにくい有機物も存在する。一方、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種は、分子状のオゾンよりも酸化力が遥に強く、反応の選択性も低いため、オゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を生成させることが望まれている。
【0004】
このオゾンを分解する技術について、気相中のオゾンを分解する、いわゆる「オゾン分解触媒」あるいは「オゾン分解フィルタ」の技術はほぼ確立されている。また、触媒表面で生成した酸素ラジカル種によって、難分解性の有機物質が効率的に分解することも知られている(非特許文献1)。しかしながら、水中に溶存したオゾンを分解する技術については、例えば非特許文献2に記載のように、紫外線照射との併用や過酸化水素との共存などの各種の促進酸化処理方法は提案されているものの、いわゆる「水中オゾン分解触媒」や「水中オゾン分解フィルタ」等の技術は確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】太田能生、北山幹人著,“第1章第8節 オゾンを利用した揮発性有機物質分解除去技術の開発研究”,各種手法による有機物の分解技術,株式会社情報機構,2007年5月30日,ページp.97−106
【非特許文献2】高橋信行著,“第1章第9節 オゾンによる水中有機物分解技術の開発状況”,各種手法による有機物の分解技術,株式会社情報機構,2007年5月30日,ページp.107−118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の促進酸化処理方法のうち、過酸化水素との共存では、処理に有効なpH領域が6〜8に限定されるとともに、オゾン注入率に対して最適な量の過酸化水素を添加することが必要であり、処理が煩雑である。また、紫外線照射との併用では、SSが多いと紫外線の透過率が低下するため、濁った水には適用できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明においては、被処理水のpHやSSなどの各種条件を選ばず、水中に溶存したオゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を発生させることが可能な促進酸化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の促進酸化処理方法は、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にこのゼオライトの粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いることを特徴とする。本発明に係るゼオライト化合物は親水性を示し、水中に溶存したオゾンを接触させると、高いオゾン分解活性によりオゾンを高効率で分解し、ヒドロキシラジカル(OH・)、スーパーオキシドアニオン(O2-)やヒドロペルオキシド(HO2)等の活性酸素種を発生させる。
【0009】
なお、カルシウムなどのアルカリ土類金属を含むゼオライト化合物では、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を含むゼオライト化合物と比べ、水中で遥に低いオゾン分解活性を示す。また、酸処理によってアルカリ金属を脱離させたゼオライト化合物では、アルカリ土類金属を含むゼオライト化合物よりもさらに低いオゾン分解活性を示す。さらに、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であっても、pH値が7未満の場合には、pH値が7以上のものと比べて、水中で遥に低いオゾン分解活性を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の促進酸化処理方法によれば、被処理水のpHやSSなどの各種条件を選ばず、オゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンやヒドロペルオキシド等の活性酸素種を発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スクリーニング試験の装置概要図である。
【図2】スクリーニング試験の結果を示す図である。
【図3】比較試験の装置概要図である。
【図4】3Aの比較試験の結果を示す図である。
【図5】4Aの比較試験の結果を示す図である。
【図6】13Xの比較試験の結果を示す図である。
【図7】5Aの比較試験の結果を示す図である。
【図8】2,4−Dの分解試験の装置概要図である。
【図9】2,4−Dの分解試験の分解試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態における促進酸化処理方法は、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いるものである。特に、ゼオライト化合物は、アルカリ金属酸化物の含有量が4質量%以上であることを特徴とする。
【0013】
この種の特定のゼオライト化合物では、親水性を示し、水中に溶存したオゾンを接触させると、高いオゾン分解活性によりオゾンを高効率で分解し、ヒドロキシラジカル(OH・)、スーパーオキシドアニオン(O2-)やヒドロペルオキシド(HO2)等の活性酸素種を発生させる。以下、この特定のゼオライト化合物について詳述する。
【0014】
まず、種々のゼオライト化合物についてスクリーニング試験を実施した。試験に使用したゼオライト化合物を表1に示す。また、図1にスクリーニング試験の装置概要図を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
スクリーニング試験は、以下の手順により行った。
1)ゼオライト化合物の粉末(東ソー社製)は、予め、1Lの蒸留水に分散し、5分間静置後、上澄みを捨て、80℃で一晩乾燥しておく。
2)密閉ガラス容器に1Lの蒸留水を入れ、10℃の恒温槽に浸し、マネティックスターラーで攪拌しながら10000ppmのオゾンを含む酸素ガスを約1時間通すことにより、飽和オゾン水(オゾン濃度・約11ppm)を作成する。
3)ガラス容器内に、上記1)の処理を行ったゼオライト化合物の粉末30gを投入する。
4)1分後、ゼオライト化合物が分散された分散液をサンプリングし、遠心分離機によってゼオライト化合物を手早く沈降させた後、上澄みの水中オゾン濃度(ppm)を、ヨウ素滴定法を用いて測定する。
5)以後、2、4、8時間後、サンプリングを行い、水中オゾン濃度を測定する。
【0017】
試験結果を表2および図2に示す。なお、pH値は、純水1L中にゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、市販のpHメータ(HORIBA社製D−52)を用いてpH値を測定し、一定となったときの値を測定した。表2中、pH以外の数値は、水中オゾン濃度(ppm)の値である。
【0018】
【表2】
【0019】
表2および図2から、pH値が7以上、アルカリ酸化物含有量が4質量%以上のもの(A−4、F−9、HSZ−320NAA、HSZ−320HOA、HSZ−642NAA)では、ゼオライト化合物の投入から8時間経過後であっても、水中オゾン濃度が上がっておらず、オゾン分解が継続していることが分かる。一方、pH値が7未満、アルカリ酸化物含有量が4質量%未満のもの(HSZ−720KOA、HSZ−640HOA、HSZ−350HUA)では、ゼオライト化合物の投入時には、オゾンがゼオライト化合物に吸着されることによって一旦水中オゾン濃度が下がるものの、時間の経過とともに吸着平衡に達し、それ以上のオゾンを吸着することができなくなるため、水中オゾン濃度が上がっており、オゾン分解活性が低いことが分かる。
【0020】
したがって、オゾンを高効率で分解し、継続的にヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンやヒドロペルオキシド等の活性酸素種を発生させるためには、pH値が7以上、さらに好ましくはアルカリ酸化物の含有量が4質量%以上であることが必要であることが分かる。
【0021】
次に、本発明の促進酸化処理方法におけるゼオライト化合物に含まれるアルカリ金属の作用効果について調べるため、各種のゼオライト化合物を水洗処理したものと脱アルカリ処理したものとについて比較試験を行った。図3に試験装置の概要図を示す。
【0022】
試験は以下の手順により行った。
1)ゼオライト化合物の前処理
・水洗処理:ゼオライト・ペレット(1/16''ペレット:和光純薬社製モレキュラーシーブ3A(K7.2Na4.8〔(AlO2)12(SiO2)12〕・xH2O)、4A(Na12〔(AlO2)12(SiO2)12〕・xH2O)、5A(Ca4.8Na2.4〔(AlO2)12(SiO2)12〕・xH2O)、13X(Na86〔(AlO2)86(SiO2)106〕・xH2O))は、予め、60gを3Lの蒸留水に分散し、1時間静置後、上澄みを捨て、80℃で一晩乾燥しておく。
・0.01N HCl処理:ゼオライト・ペレットは、予め、3Lの0.01N HCl水溶液に分散し、1時間静置後ろ過し、蒸留水で洗浄後、80℃で一晩乾燥しておく。
・1N HCl処理:上記と同様な処理を1N HCl水溶液を用いて行う。
2)密閉ガラス容器に1Lの蒸留水を入れ、10℃の恒温槽に浸し、マネティックスターラーで攪拌しながら10000ppmのオゾンを含む酸素ガスを約1時間通すことにより、飽和オゾン水(オゾン濃度・約11ppm)を作成する。
3)体積約44mlの容器内に、上記1)の処理を行ったゼオライト粉末30gを充填する。
4)送液ポンプを用いて数ml/min〜百数十ml/minの速度で飽和オゾン水を容器内に通過させ、容器出口でサンプリングし、水中オゾン濃度を、ヨウ素滴定法を用いて測定する。
【0023】
試験結果を図4〜図7に示す。図4〜図6に示されるように、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を含むゼオライト化合物では、水洗処理のみの場合には、流速に関わらず、優れたオゾン分解活性を示しているが、脱アルカリ処理した場合には、流速が高くなるとオゾン分解活性が急速に低下している。また、図7に示されるように、カルシウム(アルカリ土類金属)でイオン交換されたゼオライト化合物では、水洗処理のみであっても流速が高くなるとオゾン分解活性が低下し、脱アルカリ処理した場合にはさらにオゾン分解活性が急速に低下している。すなわち、被処理水の処理速度に関わらず、水中に溶存したオゾンを高効率で分解するためには、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であることが必要であることが分かる。
【0024】
次に、難分解性有機物質(2,4−D)の分解試験を行った。図8に試験装置の概要図を示す。試験は以下の手順による。
【0025】
・ゼオライト化合物なしの場合
1)溶液タンク内に、濃度100ppmの2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)水溶液を2L作成し、そのpHを3、7および10に調整する。
2)室温にて、50mmφ×280mmの反応槽に、上記1)の溶液とオゾンを7500〜8000ppm含有する酸素ガスを、それぞれ、19L/minと2L/minの速度で同時に通過させ、溶液タンク間を循環させながら、溶液タンク内より30分毎にサンプリングし、分光光度法によって2,4−D濃度を決定した。
【0026】
・ゼオライト化合物ありの場合
1)溶液タンク内に、濃度100ppmの2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)水溶液を2L作成し、そのpHを7に調整する。
2)50mmφ×280mmの反応槽に、50gのゼオライト(和光純薬社製モレキュラーシーブ3Aおよび4A)を充填する。
3)室温にて、2)の反応槽に、上記1)の溶液とオゾンを7500〜8000ppm含有する酸素ガスを、それぞれ、19L/minと2L/minの速度で同時に通過させ、溶液タンク間を循環させながら、溶液タンク内より30分毎にサンプリングし、分光光度法によって2,4−D濃度を決定した。
【0027】
試験結果を図9に示す。図9に示されるように、ゼオライト化合物がない場合であっても、単純にpHを高くすることで、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種の生成量が多くなり、2,4−D濃度は低くなるが、本発明に係るゼオライト化合物を用いることで、pHを調整しなくても2,4−D濃度は低くなっており、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種の生成量が多くなっていることが分かる。
【0028】
以上のことから、特定のゼオライト化合物、すなわち、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物であり、アルカリ金属酸化物の含有量が4質量%以上であるゼオライト化合物を用いた促進酸化処理方法によれば、被処理水のpHやSSなどの各種条件を選ばず、オゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンやヒドロペルオキシド等の活性酸素種を発生させることが可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の促進酸化処理方法は、水中に溶存したオゾンを分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を発生させることにより酸化分解反応を促進させ、殺菌、色や臭気物質の除去、凝集特性や透視度の改善、特に難分解性有機物の酸化・分解などの水処理に有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に溶存したオゾンを分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を発生させることにより酸化分解反応を促進させる促進酸化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オゾンは強力な酸化力を有しており、水処理分野では殺菌、色や臭気物質の除去、鉄やマンガンの除去、凝集特性や透視度の改善、有機物の酸化・分解、微生物群の活性化などの目的で使用されている。分子状のオゾンが水に溶解するとき、オゾン分子はO3として残留するか、各種の機構によって分解し、最終的に分子状のオゾンよりも強力な酸化剤であるヒドロキシラジカル等の活性酸素種が生成される。
【0003】
水中での溶解性有機物とオゾンとの反応は、オゾン分子による直接反応とオゾンの分解により生成されたヒドロキシラジカル等の活性酸素種による間接反応(フリーラジカル反応)の2つがあるが、直接反応は選択性が強く、一般に完全な酸化分解・無機化が難しく、酸化されにくい有機物も存在する。一方、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種は、分子状のオゾンよりも酸化力が遥に強く、反応の選択性も低いため、オゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を生成させることが望まれている。
【0004】
このオゾンを分解する技術について、気相中のオゾンを分解する、いわゆる「オゾン分解触媒」あるいは「オゾン分解フィルタ」の技術はほぼ確立されている。また、触媒表面で生成した酸素ラジカル種によって、難分解性の有機物質が効率的に分解することも知られている(非特許文献1)。しかしながら、水中に溶存したオゾンを分解する技術については、例えば非特許文献2に記載のように、紫外線照射との併用や過酸化水素との共存などの各種の促進酸化処理方法は提案されているものの、いわゆる「水中オゾン分解触媒」や「水中オゾン分解フィルタ」等の技術は確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】太田能生、北山幹人著,“第1章第8節 オゾンを利用した揮発性有機物質分解除去技術の開発研究”,各種手法による有機物の分解技術,株式会社情報機構,2007年5月30日,ページp.97−106
【非特許文献2】高橋信行著,“第1章第9節 オゾンによる水中有機物分解技術の開発状況”,各種手法による有機物の分解技術,株式会社情報機構,2007年5月30日,ページp.107−118
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の促進酸化処理方法のうち、過酸化水素との共存では、処理に有効なpH領域が6〜8に限定されるとともに、オゾン注入率に対して最適な量の過酸化水素を添加することが必要であり、処理が煩雑である。また、紫外線照射との併用では、SSが多いと紫外線の透過率が低下するため、濁った水には適用できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明においては、被処理水のpHやSSなどの各種条件を選ばず、水中に溶存したオゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を発生させることが可能な促進酸化処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の促進酸化処理方法は、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にこのゼオライトの粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いることを特徴とする。本発明に係るゼオライト化合物は親水性を示し、水中に溶存したオゾンを接触させると、高いオゾン分解活性によりオゾンを高効率で分解し、ヒドロキシラジカル(OH・)、スーパーオキシドアニオン(O2-)やヒドロペルオキシド(HO2)等の活性酸素種を発生させる。
【0009】
なお、カルシウムなどのアルカリ土類金属を含むゼオライト化合物では、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属を含むゼオライト化合物と比べ、水中で遥に低いオゾン分解活性を示す。また、酸処理によってアルカリ金属を脱離させたゼオライト化合物では、アルカリ土類金属を含むゼオライト化合物よりもさらに低いオゾン分解活性を示す。さらに、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であっても、pH値が7未満の場合には、pH値が7以上のものと比べて、水中で遥に低いオゾン分解活性を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の促進酸化処理方法によれば、被処理水のpHやSSなどの各種条件を選ばず、オゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンやヒドロペルオキシド等の活性酸素種を発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スクリーニング試験の装置概要図である。
【図2】スクリーニング試験の結果を示す図である。
【図3】比較試験の装置概要図である。
【図4】3Aの比較試験の結果を示す図である。
【図5】4Aの比較試験の結果を示す図である。
【図6】13Xの比較試験の結果を示す図である。
【図7】5Aの比較試験の結果を示す図である。
【図8】2,4−Dの分解試験の装置概要図である。
【図9】2,4−Dの分解試験の分解試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態における促進酸化処理方法は、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いるものである。特に、ゼオライト化合物は、アルカリ金属酸化物の含有量が4質量%以上であることを特徴とする。
【0013】
この種の特定のゼオライト化合物では、親水性を示し、水中に溶存したオゾンを接触させると、高いオゾン分解活性によりオゾンを高効率で分解し、ヒドロキシラジカル(OH・)、スーパーオキシドアニオン(O2-)やヒドロペルオキシド(HO2)等の活性酸素種を発生させる。以下、この特定のゼオライト化合物について詳述する。
【0014】
まず、種々のゼオライト化合物についてスクリーニング試験を実施した。試験に使用したゼオライト化合物を表1に示す。また、図1にスクリーニング試験の装置概要図を示す。
【0015】
【表1】
【0016】
スクリーニング試験は、以下の手順により行った。
1)ゼオライト化合物の粉末(東ソー社製)は、予め、1Lの蒸留水に分散し、5分間静置後、上澄みを捨て、80℃で一晩乾燥しておく。
2)密閉ガラス容器に1Lの蒸留水を入れ、10℃の恒温槽に浸し、マネティックスターラーで攪拌しながら10000ppmのオゾンを含む酸素ガスを約1時間通すことにより、飽和オゾン水(オゾン濃度・約11ppm)を作成する。
3)ガラス容器内に、上記1)の処理を行ったゼオライト化合物の粉末30gを投入する。
4)1分後、ゼオライト化合物が分散された分散液をサンプリングし、遠心分離機によってゼオライト化合物を手早く沈降させた後、上澄みの水中オゾン濃度(ppm)を、ヨウ素滴定法を用いて測定する。
5)以後、2、4、8時間後、サンプリングを行い、水中オゾン濃度を測定する。
【0017】
試験結果を表2および図2に示す。なお、pH値は、純水1L中にゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、市販のpHメータ(HORIBA社製D−52)を用いてpH値を測定し、一定となったときの値を測定した。表2中、pH以外の数値は、水中オゾン濃度(ppm)の値である。
【0018】
【表2】
【0019】
表2および図2から、pH値が7以上、アルカリ酸化物含有量が4質量%以上のもの(A−4、F−9、HSZ−320NAA、HSZ−320HOA、HSZ−642NAA)では、ゼオライト化合物の投入から8時間経過後であっても、水中オゾン濃度が上がっておらず、オゾン分解が継続していることが分かる。一方、pH値が7未満、アルカリ酸化物含有量が4質量%未満のもの(HSZ−720KOA、HSZ−640HOA、HSZ−350HUA)では、ゼオライト化合物の投入時には、オゾンがゼオライト化合物に吸着されることによって一旦水中オゾン濃度が下がるものの、時間の経過とともに吸着平衡に達し、それ以上のオゾンを吸着することができなくなるため、水中オゾン濃度が上がっており、オゾン分解活性が低いことが分かる。
【0020】
したがって、オゾンを高効率で分解し、継続的にヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンやヒドロペルオキシド等の活性酸素種を発生させるためには、pH値が7以上、さらに好ましくはアルカリ酸化物の含有量が4質量%以上であることが必要であることが分かる。
【0021】
次に、本発明の促進酸化処理方法におけるゼオライト化合物に含まれるアルカリ金属の作用効果について調べるため、各種のゼオライト化合物を水洗処理したものと脱アルカリ処理したものとについて比較試験を行った。図3に試験装置の概要図を示す。
【0022】
試験は以下の手順により行った。
1)ゼオライト化合物の前処理
・水洗処理:ゼオライト・ペレット(1/16''ペレット:和光純薬社製モレキュラーシーブ3A(K7.2Na4.8〔(AlO2)12(SiO2)12〕・xH2O)、4A(Na12〔(AlO2)12(SiO2)12〕・xH2O)、5A(Ca4.8Na2.4〔(AlO2)12(SiO2)12〕・xH2O)、13X(Na86〔(AlO2)86(SiO2)106〕・xH2O))は、予め、60gを3Lの蒸留水に分散し、1時間静置後、上澄みを捨て、80℃で一晩乾燥しておく。
・0.01N HCl処理:ゼオライト・ペレットは、予め、3Lの0.01N HCl水溶液に分散し、1時間静置後ろ過し、蒸留水で洗浄後、80℃で一晩乾燥しておく。
・1N HCl処理:上記と同様な処理を1N HCl水溶液を用いて行う。
2)密閉ガラス容器に1Lの蒸留水を入れ、10℃の恒温槽に浸し、マネティックスターラーで攪拌しながら10000ppmのオゾンを含む酸素ガスを約1時間通すことにより、飽和オゾン水(オゾン濃度・約11ppm)を作成する。
3)体積約44mlの容器内に、上記1)の処理を行ったゼオライト粉末30gを充填する。
4)送液ポンプを用いて数ml/min〜百数十ml/minの速度で飽和オゾン水を容器内に通過させ、容器出口でサンプリングし、水中オゾン濃度を、ヨウ素滴定法を用いて測定する。
【0023】
試験結果を図4〜図7に示す。図4〜図6に示されるように、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属を含むゼオライト化合物では、水洗処理のみの場合には、流速に関わらず、優れたオゾン分解活性を示しているが、脱アルカリ処理した場合には、流速が高くなるとオゾン分解活性が急速に低下している。また、図7に示されるように、カルシウム(アルカリ土類金属)でイオン交換されたゼオライト化合物では、水洗処理のみであっても流速が高くなるとオゾン分解活性が低下し、脱アルカリ処理した場合にはさらにオゾン分解活性が急速に低下している。すなわち、被処理水の処理速度に関わらず、水中に溶存したオゾンを高効率で分解するためには、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であることが必要であることが分かる。
【0024】
次に、難分解性有機物質(2,4−D)の分解試験を行った。図8に試験装置の概要図を示す。試験は以下の手順による。
【0025】
・ゼオライト化合物なしの場合
1)溶液タンク内に、濃度100ppmの2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)水溶液を2L作成し、そのpHを3、7および10に調整する。
2)室温にて、50mmφ×280mmの反応槽に、上記1)の溶液とオゾンを7500〜8000ppm含有する酸素ガスを、それぞれ、19L/minと2L/minの速度で同時に通過させ、溶液タンク間を循環させながら、溶液タンク内より30分毎にサンプリングし、分光光度法によって2,4−D濃度を決定した。
【0026】
・ゼオライト化合物ありの場合
1)溶液タンク内に、濃度100ppmの2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)水溶液を2L作成し、そのpHを7に調整する。
2)50mmφ×280mmの反応槽に、50gのゼオライト(和光純薬社製モレキュラーシーブ3Aおよび4A)を充填する。
3)室温にて、2)の反応槽に、上記1)の溶液とオゾンを7500〜8000ppm含有する酸素ガスを、それぞれ、19L/minと2L/minの速度で同時に通過させ、溶液タンク間を循環させながら、溶液タンク内より30分毎にサンプリングし、分光光度法によって2,4−D濃度を決定した。
【0027】
試験結果を図9に示す。図9に示されるように、ゼオライト化合物がない場合であっても、単純にpHを高くすることで、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種の生成量が多くなり、2,4−D濃度は低くなるが、本発明に係るゼオライト化合物を用いることで、pHを調整しなくても2,4−D濃度は低くなっており、ヒドロキシラジカル等の活性酸素種の生成量が多くなっていることが分かる。
【0028】
以上のことから、特定のゼオライト化合物、すなわち、アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中にゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物であり、アルカリ金属酸化物の含有量が4質量%以上であるゼオライト化合物を用いた促進酸化処理方法によれば、被処理水のpHやSSなどの各種条件を選ばず、オゾンを高効率で分解してヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオンやヒドロペルオキシド等の活性酸素種を発生させることが可能となることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の促進酸化処理方法は、水中に溶存したオゾンを分解してヒドロキシラジカル等の活性酸素種を発生させることにより酸化分解反応を促進させ、殺菌、色や臭気物質の除去、凝集特性や透視度の改善、特に難分解性有機物の酸化・分解などの水処理に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中に前記ゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いることを特徴とする促進酸化処理方法。
【請求項2】
前記ゼオライト化合物は、アルカリ金属酸化物の含有量が4質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の促進酸化処理方法。
【請求項1】
アルカリ金属を含むゼオライト化合物であり、純水1L中に前記ゼオライト化合物の粉末30gを分散させた後、pH値を測定し、一定となったときのpH値が7以上であるゼオライト化合物を、水中に溶存したオゾンの分解触媒として用いることを特徴とする促進酸化処理方法。
【請求項2】
前記ゼオライト化合物は、アルカリ金属酸化物の含有量が4質量%以上であることを特徴とする請求項1記載の促進酸化処理方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−63368(P2013−63368A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202213(P2011−202213)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月16日 公益社団法人日本セラミックス協会発行の「2011年年会 Annual Meeting of The Ceramic Society of Japan,2011講演予稿集」
【出願人】(500372717)学校法人福岡工業大学 (32)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月16日 公益社団法人日本セラミックス協会発行の「2011年年会 Annual Meeting of The Ceramic Society of Japan,2011講演予稿集」
【出願人】(500372717)学校法人福岡工業大学 (32)
【Fターム(参考)】
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