保存安定性が改善されたSPLA2加水分解性リポソーム
本発明は、sPLA2加水分解性リポソームと、外部溶液と、リポソーム内の内部溶液とを含んでなる組成物であって、オスモライトの濃度が外部溶液よりも内部溶液において高いことを特徴とする組成物を提供する。該組成物は、sPLA2加水分解性リポソームの、特に摂氏2〜8度で保存された時の保存安定性を改善する。リポソームは好ましくはシスプラチンを封入する。本発明は、本発明の組成物を調製する方法も提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性が改善されたsPLA2加水分解性リポソーム薬物送達システムに関し、より詳細には、摂氏2乃至8度おける保存安定性が改善されたsPLA2加水分解性リポソーム薬物送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物送達用のリポソーム
リポソームは、1980年代に薬物送達ビヒクル/システムとして開発された微小な球体である。最初のリポソームに基づく薬剤は、1990年代に商業的用途について承認された。
【0003】
リポソームは、薬物など様々な化合物を運搬するために使用可能な3つの別個のコンパートメント、すなわち:内部の水性コンパートメント;疎水性の二分子層;ならびに内葉および外葉の極性相間、を有している。封入される化合物の化学的性質に応じて、該化合物はいずれかのコンパートメントに局在化することになる。
【0004】
現在のところ、数個の非経口リポソーム−薬物製剤が市販されている。水溶性薬物は、リポソームの水性コンパートメントに局在化される傾向にあり、リポソームに封入される薬物の例としては、例えば、ドキソルビシン(Doxil(R))、ドキソルビシン(Myocet(R))及びダウノルビシン(DaunoXone(R))がある。リポソーム膜に挿入される薬物の例としては、アンホテリシンB(AmBisome(R))、アンホテリシン(Albelcet B(R))、ベンゾポルフィリン(Visudyne(R))及びムラミルトリペプチド−ホスファチジルエタノールアミン(Junovan(TM))がある。
【0005】
リポソームは、過形成および血管透過性増大、またリンパ排液異常のような、固形腫瘍の病態生理学的特徴を使用することにより、腫瘍組織を受動的に標的化することから、有望な薬物送達システムと考えられている。これらの特徴はナノ粒子の血管外遊出を促進し、またリポソームはEPR効果(enhanced permeability and retention effect)のためより長い間組織内に保持されうる。
【0006】
薬物送達ビヒクルとしてのリポソームの特性は、リポソームの表面電荷、透過性、溶解度、安定性などに強く依存し、これらはリポソーム組成物中に含まれる脂質によって著しく影響を受ける。さらに、リポソーム内に封入される薬物は、安定なリポソーム製剤の調製において考慮すべきさらなる要件を必要とする場合がある。
【0007】
安全性および薬効に関して考察するには、リポソーム製剤がその特性を維持すること、すなわち調製時から投与まで安定を維持することが必要である。
更に、薬物が特異的に放出される標的部位にそのような製剤が到達するまで、該製剤は、治療される対象者内の輸送の間、損傷を受けないことが望ましい。
【0008】
リポソームのための様々な標的化戦略、例えば抗体のような細胞特異的リガンドへの結合については既に記載がある。
sPLA2加水分解性リポソーム
別の手法は、がん組織中、および炎症部位においても、分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)のレベルが高いことに基づいて示唆されてきた。基本的概念は、sPLA2により加水分解可能なリポソームを調製可能であること、およびsPLA2による加水分解がリポソーム内に封入された薬物の放出をもたらすことである。さらに、sPLA2加水分解の生成物であるリゾ脂質(lysolipid)および脂肪酸は、細胞による薬物の取込み増加をもたらす細胞膜の透過化剤として作用する。がん組織中および炎症部位ではsPLA2レベルが高いので、sPLA2活性化リポソームを使用して、封入された薬物をそのような部位へ優先的に送達することが可能である。
【0009】
sPLA2加水分解性リポソームの保存安定性
sPLA2加水分解性リポソームは、保存安定性に関して特有の課題を提起している。その課題は、有効なsPLA2加水分解に必要な特定の脂質組成に基づくものである。
【0010】
一般に、数多くのパラメータが保存安定性に影響を及ぼし、またバッファー組成の変更が保存安定性に与える結果を予言することは、この変更が浸透圧モル濃度だけでなく膜安定性にも影響を与えるので、困難である。
【0011】
先行技術
多数の文献にsPLA2活性化リポソームが記載されており、様々な文献がリポソームの保存安定性について検討している。しかしながらいずれの文献も、sPLA2加水分解性リポソームによって提起される特別な保存の問題は検討していない。
【0012】
特許文献1は、モノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグを含んでなるsPLA2活性化リポソームについて記載している。同文献はさらに、追加の生物活性化合物の封入についても記載している。
【0013】
特許文献2は、sPLA2によって活性化されるエーテルリゾ脂質のプロドラッグを投与するための、哺乳類の皮膚組織または皮下組織における細胞外sPLA2の局所的増大を伴う疾患または症状の治療用の脂質を用いた薬物送達システムの使用を示唆した。該システムはいわゆるエッジ活性化合物(edge active compound)をさらに含んでいた。
【0014】
特許文献3は、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、マラリア、赤痢アメーバ症(Entaboeba,Histolyticasis)および「東洋肝吸虫クロモルキス・シネンシス(Oriental liver fluke chlomorchis sinensis)」から選択された寄生虫感染の治療または予防のための、脂質を用いた薬物送達システムの使用を示唆したが、該システムはsPLA2によって活性化される脂質誘導体の形のプロドラッグを含んでなるものであった。このリポソームはさらなる生物活性化合物を含有することができる。
【0015】
特許文献4および特許文献5も、sPLA2活性化リポソームについて記載している。
特許文献6は、安定性および加熱による放出に関して最適化された温度感受性リポソームを開示した。この文献に記載されたリポソームは、好ましくは温血動物の体液の浸透圧より1.2〜2.5倍高い浸透圧を備えた内部溶液を有し、かつ摂氏40〜45度の相転移温度を有する。この文献に開示されたリポソームは、適切な脂質組成を持たないためsPLA2の基質ではない。
【0016】
ほとんどのリポソーム製剤は、保存時の漏出に関する問題を有していない。むしろ、該製剤は極めて安定であるため意図した部位で封入化合物の放出を生じることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開公報第0158910号パンフレット
【特許文献2】国際公開公報第0176555号パンフレット
【特許文献3】国際公開公報第0176556号パンフレット
【特許文献4】国際公開公報第06048017号パンフレット
【特許文献5】国際公開公報第07107161号パンフレット
【特許文献6】米国特許第5094854号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の態様では、本発明は、
・sPLA2加水分解性リポソームと、
・外部溶液と、
・リポソーム内の内部溶液と
を含んでなる組成物であって、オスモライトの濃度が外部溶液よりも内部溶液において高いことを特徴とする組成物を提供する。
【0020】
該組成物は、特に摂氏2〜8度で保存された時、sPLA2加水分解性リポソームの保存安定性を改善する。リポソームは好ましくはシスプラチンを封入する。
本発明はさらに、本発明の組成物を調製する方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】リポソーム調製時に用いられたスクロース濃度およびホモジナイゼーション圧力の粒子径に対する影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字は粒子径を示す。
【図2】リポソーム中の総Pt濃度を粒子径の関数として示す図。
【図3】LPB0057〜LPB0073に関する2〜8℃保存中の粒子径の変化を示す図。
【図4】LPB0057〜LPB0073に関する2〜8℃保存中のPDIの変化を示す図。
【図5】リポソーム調製時に用いられた内部NaCl濃度およびホモジナイゼーション圧力の初期DOE%に対する影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字はDOE%を示す。
【図6】LPB0057〜LPB0073に関する保存中のPt濃度を示す図。
【図7】LPB0057〜LPB0073に関する保存中の外部Pt(%)を示す図。
【図8】2〜8℃保存中のLPB0057〜LPB0073からの漏出を示す図。
【図9】ホモジナイゼーション圧力を12,500KPaに維持して、2〜8℃で56日間保存した後のDOE%に対する内部NaCl濃度およびスクロース濃度の影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字は2〜8℃で56日間保存した後のDOE%を示す。
【図10】ホモジナイゼーション圧力を12,500KPaに維持して、2〜8℃で56日間保存した後の漏出(%)に対する内部NaCl濃度およびスクロース濃度の影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字は2〜8℃で56日間保存した後の漏出(%)を示す。
【図11】2〜8℃保存中のリポソーム系シスプラチン製剤からの漏出を示す図。製剤は様々な浸透勾配を用いて調製された。さらなる詳細については表3を参照のこと。
【図12】2〜8℃保存中のリポソーム系シスプラチン製剤の粒子径を示す図。バッファー組成に関する詳細な説明については表3を参照のこと。
【図13】実際の実験の要因設定および応答を示す表1。
【図14】後退消去後のモデルの回帰係数および有意(P)値を示す表2。
【図15】様々な浸透勾配を備えて調製されたリポソーム系シスプラチン製剤の大要を示す表3。
【図16】様々な分子量を備えて調製された異なるリポソーム系製剤の大要を示す表4。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、sPLA2加水分解性リポソームの内部溶液よりも低濃度のオスモライトを有する外部溶液の中での保存により、該リポソームからの漏出を低減可能であるという発見に基づいている。
【0023】
漏出の問題は、sPLA2加水分解性リポソーム内に封入されたシスプラチンの等浸透圧製剤の第1相試験に使用される予定の、sPLA2加水分解性リポソーム内に封入されたシスプラチンの保存に関して観察された。この製剤では、内部溶液は0.9% NaClであり、外部溶液は10mMリン酸バッファー、pH6.5、1mM NaClおよび10%スクロースであった。摂氏2〜8度で保存されると大きく漏出するため、該等浸透圧製剤を摂氏−80度で保存しなければならなかったが、これは商業製品にとって最適な解決策ではない。したがって、すべての病院が−80度保存のための設備を有しているとは限らない。さらに、摂氏−80度での輸送は煩雑である。
【0024】
さらに、使用前にバイアルを解凍する時、バイアルの破損に関する問題が生じ、また解凍はリポソームからの顕著な漏出を引き起こした。
既述のように、漏出の問題はsPLA2加水分解性リポソームの脂質組成に関する特有の要件の結果であると考えられている。特に、漏出は、sPLA2加水分解性リポソーム中にコレステロールのような安定化剤が不在であるかまたは低量であることによって引き起こされると考えられている。さらに、sPLA2加水分解性リポソームのアニオン性の性質が漏出に影響を及ぼす可能性もある。
【0025】
したがって、摂氏2〜8度での保存時の漏出が低減されたsPLA2加水分解性リポソームを含んでなる組成物が必要とされている。
sPLA2リポソームに関する「漏出の低減」および「安定性の改善」という用語は、本明細書中で互換的に使用される。当然ながら、漏出は、好ましくは経時的な、内部溶液中における治療薬の濃度(または量)の変化に関し、かつ該変化によって記載されうる。
【0026】
第1の態様では、本発明は、
・sPLA2加水分解性リポソームと、
・外部溶液と、
・リポソーム内の内部溶液と、
を含んでなる組成物であって、内部溶液のオスモライト濃度が外部溶液のオスモライト濃度よりも高いことを特徴とする組成物を提供する。
【0027】
該組成物は通常は医薬組成物であろう。
好ましい実施形態では、リポソームは、リポソーム内に封入された治療薬を含んでなる。治療薬は、典型的には内部溶液に溶解される。しかしながら、治療薬は、例えば封入時の溶解度と比較して保存時の溶解度が低いことにより、部分的または完全に沈殿する場合もある。封入時の溶解度は、高温であるために高くなっている場合がある。
【0028】
漏出の問題は典型的には小さな作用物質について生じ、かつ小さな作用物質ほどリポソームの脂質二重層を容易に通過できると考えられるので、治療薬は350g/mol未満の分子量を有することが好ましい。
【0029】
治療薬はシスプラチン(シス−ジアンミンジクロロ白金(II))であることがより一層好ましい。上述のように、シスプラチンを封入しているsPLA2加水分解性リポソームは保存中に漏出を生じる傾向がある。
【0030】
好ましい実施形態では、sPLA2加水分解性リポソーム中の唯一の治療薬はシスプラチンである。したがって、内部溶液は単にオスモライトおよびシスプラチンのみ、ならびに任意選択でバッファーを含んでなる。
【0031】
塩化物イオンは、シスプラチンが望ましくない極めて有毒な水和生成物を形成するのを防止する。したがって、内部溶液が少なくとも0.2%または0.4%、より好ましくは0.2〜2.5%(w/w)、または0.4〜1.8%および最も好ましくは0.8〜1%の濃度でNaClまたはKClを含んでなることが好ましい。いくつかの実施形態では、他の塩化物が使用されてもよい。通常はNaClがKClよりも好ましい。
【0032】
いくつかの実施形態では、外部溶液が少なくとも0.2%または0.4%、より好ましくは0.2〜2.5%(w/w)、または0.4〜1.8%および最も好ましくは0.8〜1%の濃度でNaClまたはKClを含んでなることが好ましい。典型的な濃度は0.9%である。したがって、少量のシスプラチンがリポソームから漏出するという状況において、塩化物イオンの存在は毒性の水和生成物の形成を最小限にするであろう。この場合もまた、通常はNaClがKClよりも好ましい。
【0033】
1つの実施形態では、外部溶液中にはカルシウムイオンのような2価カチオンは存在しない。
別の実施形態では、2価カチオンが外部溶液に含まれていてもよい。内部溶液は典型的にはバッファーを含まない。さらに、硫酸塩は通常は内部溶液に含まれない。
【0034】
組成物の1つの実施形態では、内部溶液は少なくとも1.4%のNaClまたはKCl、より好ましくは1.8%のNaClまたはKClを含んでなり、かつ、粘性増強剤であって好ましくはラクトース、スクロース、マルトース、ガラクトース、グルコースのような糖類ならびにデンプン、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キサンタンおよび部分加水分解されたセルロースオリゴマーのような親水性ポリマーならびにタンパク質およびポリペプチドから成る群から選択された粘性増強剤を含まない。
【0035】
組成物の別の実施形態では、内部溶液は少なくとも5%の粘性増強剤を含んでなる。好ましくは、粘性増強剤は、ラクトース、スクロース、マルトース、ガラクトース、グルコースのような糖類ならびにデンプン、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キサンタンおよび部分加水分解されたセルロースオリゴマーのような親水性ポリマーならびにタンパク質およびポリペプチドから成る群から選択される。粘性増強剤がオスモライトとしても機能するであろうことが認識されるべきである。
【0036】
内部溶液が粘性増強剤を含んでなる場合、濃度は5%(w/w)より高いことが好ましい。さらにより好ましいのは、6、7、8、9または10%%を超える濃度である。好ましい実施形態では、粘性増強剤は、ラクトース、スクロース、マルトース、ガラクトース、グルコースのような糖類ならびにデンプン、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キサンタンおよび部分加水分解されたセルロースオリゴマーのような親水性ポリマーならびにタンパク質およびポリペプチドから成る群から選択される。最も好ましいのは糖類、特にスクロースである。
【0037】
一般に、外部溶液は、生理的なオスモライト濃度であることから約300mMのオスモライト濃度を有することが好ましい。したがって、実施形態では、外部溶液は200〜400mM、より好ましくは250〜350mM、最も好ましくは275〜325mMのオスモライト濃度を有することが好ましい。
【0038】
本発明の組成物は、内部溶液と外部溶液との間にオスモライト濃度の差があるという点を特徴とする。この差は本明細書中では浸透勾配とも呼ばれる。
実施例のセクションで実証されるように、27mMの浸透勾配(内部のオスモライト濃度から外部のオスモライト濃度を減算)は漏出を十分には低減することができない。59mMの勾配は漏出をさらに低減し、91mMの勾配も同様である。留意すべきことは、オスモライト濃度はすべての溶質粒子の合計濃度であり、これは溶液の浸透圧モル濃度(Osm)と呼ばれることが多いことである。
【0039】
1つの実施形態では、溶液の浸透圧モル濃度は溶質粒子の浸透係数を使用して補正される。
浸透勾配は27mMより高いことが好ましい。より好ましいのは、59mMを上回るかまたは91mMを上回る浸透勾配である。さらにより好ましいのは、100mMを上回ること、例えば150mM超、200mM超、250mM超、275mM超、および300mM超である。
【0040】
1つの実施形態では、内部溶液のオスモライト濃度はリポソームを調製する時に使用される水和溶媒中のオスモライト濃度と同じであると仮定される。すなわち、内部溶液のオスモライト濃度に言及する場合、この濃度は水和溶媒中のオスモライト濃度であるため容易に決定することができる。
【0041】
内部溶液のオスモライトの実際の濃度は水和溶媒中のオスモライト濃度とは同じではない可能性がある、というのも、形成後のリポソーム内に水が移動し、そのためオスモライト濃度を低下させる(同時にリポソーム内の浸透圧を増大させる)可能性があるからである。
【0042】
最大の浸透勾配は好ましくは1500mMであり、より好ましくは1200mM、最も好ましくは900mMである。浸透勾配が大きすぎると、リポソームは初期に漏出しやすく、最大限の許容可能な勾配が確立されるまでオスモライトが膜を通過することになり、その後で漏出が最小となる。
【0043】
したがって、浸透勾配は典型的には27〜900mM、より好ましくは200〜600mM、最も好ましくは280〜320mMである。
外部溶液のpHは典型的にはpH5〜7であり、内部溶液は典型的にはpH5〜7を有する。pHを所望の値に維持するために適切なバッファーが使用されてもよい。
【0044】
しかしながら、1つの実施形態では、内部溶液または外部溶液のうち少なくともいずれか一方はバッファー(とくにリン酸バッファー)を含まない。いくつかの実施形態では、リン酸バッファーはシスプラチンの副産物への転換を促進するので望ましくない。
【0045】
シスプラチンがリポソーム中に封入される場合の特定の好ましい組成物は以下すなわち:
1)内部溶液:0.8〜1.9%のNaCl、例えば0.9% NaClおよび9〜11%のスクロース、例えば10%スクロース。
【0046】
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+9〜11%スクロース、例えば10%スクロース。
2)内部溶液:1.6〜2.0%のNaCl、例えば1.8% NaCl
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+9〜11%スクロース、例えば10%スクロース。
【0047】
3)内部溶液:0.8〜1.0%のNaCl、例えば0.9% NaClおよび9〜11%のスクロース、例えば10%スクロース。
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+0.35%〜0.55%、例えば0.45%のNaCl+4〜6%のスクロース、例えば5%スクロース。
【0048】
4)内部溶液:1.6〜2.0%のNaCl、例えば1.8% NaCl
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+0.8〜1.0%のNaCl、例えば0.9% NaCl
【0049】
を含んでなる。
最終組成物中の治療薬の濃度は、典型的には0.1mg/ml〜15mg/mlである。治療薬がシスプラチンである場合、濃度は0.5mg/ml〜1.5mg/mlであることが好ましい。そのような濃度は、リポソーム調製時に水和溶液中8mg/mlのシスプラチン濃度を使用することにより達成することができる。8mg/mlの濃度は水和溶液を摂氏65%度(65% degrees Celsius)の温度に熱することにより達成することができる。
【0050】
組成物のリポソームは、好ましくは平均サイズ(直径)が50〜200nm、より好ましくは75〜160nmである。
組成物のリポソームは、摂氏2〜8度の温度で56日間の保存後に漏出が20%未満、15%未満または10%未満、より好ましくは9%未満、8%未満または7%未満であるべきである。実施例のセクションで実証されるように、これは浸透勾配を調節することにより達成することができる。
【0051】
漏出率(%)について言及する場合、透析または限外濾過のステップ後のリポソーム中のシスプラチンの量を、保存後のリポソーム中のシスプラチンの量と比較して述べている。透析または限外濾過のステップ後、外部溶液は、組成物中の全シスプラチン量の5%を含んでなる場合がある。したがって、内部溶液は、組成物中のシスプラチンの95%を含んでなる。保存後、内部溶液は総シスプラチン量の85.5%を、従って外部溶液は14.5%を含んでなる場合がある。よって漏出は9.5/95=10%であった。
【0052】
好ましい実施形態では、第1の態様の組成物は第2の態様の方法によって調製される。
sPLA2加水分解性リポソーム
本発明の組成物において使用するためのsPLA2加水分解性リポソームは、以降の実施形態においてより詳細に定義される。その最も広い実施形態では、sPLA2加水分解性リポソームという用語は、生理学的条件下、特にがん組織中において加水分解可能なリポソームを指す。
【0053】
好ましくは、sPLA2加水分解性リポソームは20%〜45%(mol/mol)のアニオン性脂質を含んでなる。アニオン性脂質の含量は、sPLA2を介したリポソームの脂質加水分解速度のようなリポソームの重要な特徴に影響し、またリポソームに対する免疫応答にも影響する。
【0054】
アニオン性脂質の含量が増大するにつれて、sPLA2による脂質加水分解(および薬物の放出)の速度も増大する。適度な加水分解速度は、20%〜45%のアニオン性脂質含量によって達成されうることが実証された。したがって1つの実施形態では、アニオン性脂質の含量は少なくとも20%である。別の実施形態では、アニオン性脂質の含量は45%以下である。さらに別の実施形態では、リポソームのアニオン性脂質含量は、20%〜45%、25%〜45%、28%〜42%、30%〜40%、32%〜38%、および34%〜36%からなる群から選択される。
【0055】
上述のように、リポソームに対する免疫応答もアニオン性脂質の含量によって影響を受ける。したがって、体内におけるリポソームのクリアランス率は、リポソーム中のアニオン性脂質の含量をあるレベルより下に維持することにより低減される可能性があり、本発明者らは、リポソーム中のアニオン性脂質の含量を使用してsPLA2の加水分解速度と細網内皮系によるクリアランスとの間のバランスを取ることができることを認めた。
【0056】
好ましくは、アニオン性脂質はリン脂質であり、また好ましくは、リン脂質は、PI(ホスファチジルイノシトール)、PS(ホスファチジルセリン)、DPG(ビスホスファチジルグリセロール)、PA(ホスファチジン酸)、PEOH(ホスファチジルアルコール)、およびPG(ホスファチジルグリセロール)から成る群から選択される。より好ましくは、アニオン性リン脂質はPGである。好ましくは、脂質はステアロイル鎖を含んでなる。したがって、好ましくはPGはDSPGなどである。
【0057】
親水性ポリマー
好ましい実施形態では、本発明で使用されるsPLA2加水分解性リポソームは、PEG[ポリ(エチレングリコール)]、PAcM[ポリ(N−アクリロイルモルホリン)]、PVP[ポリ(ビニルピロリドン)]、PLA[ポリ(ラクチド)]、PG[ポリ(グリコリド)]、POZO[ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)]、PVA[ポリ(ビニルアルコール)]、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、PEO[ポリ(エチレンオキシド)]、キトサン[ポリ(D−グルコサミン)]、PAA[ポリ(アミノ酸)]、ポリHEMA[ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリラート)]およびこれらのコポリマー、から成る群から選択された親水性ポリマーをさらに含んでなる。
【0058】
最も好ましくは、ポリマーは100Da〜10kDaの分子量を有するPEGである。特に好ましいのは、2〜5kDaのサイズのPEG(PEG2000〜PEG5000)であり、最も好ましいのはPEG2000である。
【0059】
リポソーム上へのポリマーの組み入れは当業者には良く知られており、恐らくは細網内皮系によるクリアランスを低減することにより、血流中のリポソームの半減期を延長するために使用可能である。
【0060】
好ましくは、ポリマーはホスファチジル(phospatidyl)エタノールアミンの頭基にコンジュゲートされる。別の選択肢は、セラミド(この脂質がsPLA2によって加水分解不能であっても)へのコンジュゲートである。ポリマーがホスファチジル(phospatidyl)エタノールアミンにコンジュゲートされると負電荷が導入され、従ってDSPE−PEGは(DSPEが中性脂質とされているのに反して)アニオン性脂質と見なされる。
【0061】
ポリマーがコンジュゲートされた脂質は、少なくとも2%の量で存在することが好ましい。より好ましくは、その量は少なくとも5%かつ最大15%である。さらにより好ましくは、ポリマーがコンジュゲートされた脂質の量は少なくとも3%かつ最大6%である。アニオン性リン脂質および≦2.5%のDSPE−PEG2000を含有しているリポソームは、カルシウムの存在下で凝集する傾向が高まった。これは、通常は高粘着性ゲルの形成によって観察されうる。アニオン性リン脂質および>7.5%のDSPE−PEG2000を含有しているリポソームは、該リポソームの沈殿または相分離を引き起こす。
【0062】
リポソーム中の中性荷電脂質成分
好ましくは、本発明で使用されるリポソームは、PC(ホスファチジルコリン)およびPE(ホスファチジルエタノールアミン)を含んでなる双性イオン性リン脂質から成る群から選択された非荷電リン脂質も含んでなる。最も好ましくは、双性イオン性リン脂質はPCである。
【0063】
アニオン性リン脂質とは対照的に、双性イオン性リン脂質は、リポソーム中の電荷中性のsPLA2加水分解性脂質成分としての役割を果たす。同じリポソーム中で双性イオン性およびアニオン性のリン脂質を組み合わせることにより、十分に高いsPLA2加水分解と低い血中クリアランス速度の両方に適合する所望の表面電荷密度となるように調節することが可能である。
【0064】
リポソーム中の双性イオン性リン脂質の量は、好ましくは40%〜75%であり、より好ましくは50〜70%である。
好ましくは、脂質(アニオン性脂質、中性脂質およびポリマーにコンジュゲートした脂質)はステアロイル鎖を含んでなる。したがって、好ましくはPGはDSPGであり、PEは好ましくはDSPEなどである。
【0065】
エーテルリン脂質
リン脂質のうちの一部またはすべてがエーテルリン脂質であってもよい。
したがって、リン脂質は該リン脂質のグリセロール骨格のsn−1位にエステル結合の代わりにエーテル結合を有することができる。sPLA2がこの特定の種類のリン脂質を加水分解するとモノエーテルリゾリン脂質が生じ、これらは例えばがん細胞に対して有毒である。すなわち、エーテルリン脂質はモノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグと見なしてもよく、本発明のリポソームは、そのようなプロドラッグがsPLA2加水分解によって活性化される場であるがん細胞のsPLA2増強環境に、該プロドラッグを送達するために使用することができる。エーテルリン脂質は欧州特許第1254143号明細書および国際公開公報第2006/048017号パンフレットに記載されており、前記文献の内容は参照により本願に組込まれる。
【0066】
1つの実施形態では、本発明で使用されるようなsPLA2活性化リポソームはエーテルリン脂質を含まない。
その他のプロドラッグ
sPLA2によって脂質から放出されてリゾ脂質を作出する部分が薬物であってもよい。したがって、以降にさらに概説されるように、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグ、sPLA2によって脂質から放出されるプロドラッグ、および他の治療薬を含んでなることができる。
【0067】
1つの実施形態では、本発明で使用されるようなsPLA2活性化リポソームは、sPLA2によって脂質から放出されるプロドラッグを含まない。
安定化剤
リポソームは、該リポソーム中に膜成分としてコレステロールを組み入れることにより安定化されてもよい。しかしながら、リポソーム中の大量のコレステロールはPLA2による加水分解に悪影響を有し、したがってリポソームは最大でも10%までしかコレステロールを含まないことが好ましい。さらにより好ましくは、リポソームは、コレステロールを1%未満、0.1%未満しか含まないか、またはコレステロールを全く含まない。
【0068】
リポソームを構成している脂質のアルキル鎖長は、最適なPLA2加水分解速度、および封入される化合物の該リポソームからの漏出を最小限とするために調節可能である。好ましくは、アルキル鎖はC18またはC16の飽和鎖である。
【0069】
上述のように、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグ、またはsPLA2により脂質から放出されてリゾ脂質を作出する部分のプロドラッグのうち少なくともいずれかを含んでなることができる。
【0070】
リポソームの物理化学的特徴
リポソームは単層であっても多層であってもよい。最も好ましくは、リポソームは単層である。リポソームの直径は、50〜400nm、好ましくは80〜160nm、最も好ましくは90〜120nmであるべきである。
【0071】
好ましくは、本発明の第2の態様のリポソーム製剤の多分散性指数(PDI)は0.2を上回るべきではなく、より好ましくは0.10以下である。この範囲のPDI値は、製剤中の比較的狭い粒度分布を表している。
【0072】
上記から明らかとなるように、リポソームを構成する脂質のうち少なくとも1つが、リポソーム内にある場合にsPLA2の基質であることが好ましい。
1つの実施形態では、リポソームは、sn−2位の代わりにsn−3位においてsPLA2によって加水分解される脂質を含んでなる。そのような非天然の脂質および非天然の脂質を含んでなるリポソームは、国際公開公報第2006/048017号パンフレットに開示されており、前記文献の内容は参照により本願に組込まれる。
【0073】
最も好ましい実施形態では、本発明で使用されるリポソームは、70%のDSPC、25%のDSPGおよび5%のDSPE−PEGを含んでなる。
調製方法
本発明の第2の態様は:
a)選択された脂質を有機溶媒に溶解することにより脂質混合物を調製するステップと
【0074】
b)リポソームを形成するためにステップa)の生成物を水性水和溶媒と水和させるステップと
c)水性水和溶媒の追加前または水性水和溶媒の追加後にステップa)の有機溶媒を除去するステップと
【0075】
d)水和溶媒を、水和溶液より低いオスモライト濃度を有する外部溶液と交換するステップと
e)これにより本発明の第1の態様に記載されるような組成物を形成するステップと
を含んでなる方法である。
水和溶媒は、遠心分離、限外濾過、透析、または類似手法によって交換可能である。水和溶媒を外部溶液に交換した後、治療薬の15%未満、10%未満、より好ましくは8%または6%未満しか外部溶液中に存在しないことが好ましい。
【0076】
好ましくは、リポソーム中の薬物封入度は>70%であるべきであり、より好ましくは>95%、最も好ましくは>99%である。薬物封入度は、製剤中の薬物の総量に対する封入された薬物の比である。
【0077】
好ましくは、有機溶媒は水和溶媒の追加前に除去される。
該方法は、リポソームのサイズを縮小するためにハイシアー(high sheer)混合するステップをさらに含んでなることもできる。
【0078】
該方法は、ある一定の平均サイズのリポソームを生産するために、ステップc)に、生産されたリポソームをフィルタを通して押出し処理するステップをさらに含んでなることもできる。
【0079】
該方法は、ある一定のサイズのリポソームを生産するためにリポソーム製剤を超音波処理するステップを含んでなることもできる。
該方法は、5000〜20000KPaの圧力でのホモジナイゼーションを含んでなることもできる。
【0080】
好ましくは、リポソームは本発明の第1の態様に記載されるようなリポソームである、すなわち脂質はそのように選択される。
リポソームを調製するために使用される有機溶媒または水和溶媒中に薬物を溶解することにより、リポソームに少なくとも1つの治療薬を装荷することが可能である。好ましくは、治療薬は水和溶媒中に溶解され、治療薬は好ましくはシスプラチンである。
【0081】
別例として、最初にリポソームを形成し、最も外側のリポソーム層を横切る電気化学ポテンシャルを例えばpH勾配によって確立し、次にリポソームの外部の水性媒体にイオン化可能な治療薬を加えることで、リポソームにイオン化可能な治療薬を装荷することもできる。
【実施例】
【0082】
実施例1:sPLA2加水分解性リポソームの保存安定性の最適化
概要
2〜8℃での保存時、LiPlaCis(リポソーム系シスプラチン)は最初の2、3か月間で最大30%の漏出がありうることが観察されている。漏出は最初の2か月間では極めて大規模であり、この期間を越えるとごく軽微な漏出が生じる。
【0083】
2〜8℃でのLiPlacisの安定性を試験するために要因配置計画(factorial design)を設定した。製剤を様々な内部バッファー組成で調製し、複合面計画(composite face design)に従って異なる圧力でホモジナイズした。3つの要因を3つの水準で試験した:
【0084】
・内部のNaCl濃度(0.9、1.4および1.9%)
・内部のスクロース濃度(0、5および10%)
・調製時に使用されるホモジナイゼーション圧力(5000、12500、および20000KPa)。
【0085】
製剤からの漏出は試験したすべてのパラメータによって影響を受けることが実証された。リポソーム内部のスクロースおよびNaClの濃度を増大すること、およびリポソーム調製時に低いホモジナイゼーション圧力を有することにより、保存時に、より高度に薬物が保持される。2か月の保存後に封入度が最も高い製剤は、リポソーム内部を1.9% NaClおよび10%スクロースとして調製され、5000KPaでホモジナイズされたものであった。調製されたいずれの製剤についても保存中の粒子径に著しい変化は見られなかった。
【0086】
材料および方法
sPLA2リポソーム(LiPlaCis)の調製
1,2−ジ(オクタデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジ(オクタデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DSPG)、および1,2−ジ(オクタデカノイル)ホスファチジルエタノールアミン−メトキシポリ(エチレングリコール)2000(DSPE−PEG2000)はすべてリポイド(Lipoid)(ドイツ連邦共和国ルートヴィヒスハーフェン所在)から購入した。スクロースはシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)(米国ミズーリ州セントルイス所在)から購入した。塩化ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムは、それぞれメルク(Merck)(ドイツ連邦共和国ダルムシュタット所在)およびJ.T.ベーカー(J.T.Baker)(オランダ国デーヴェンター所在)から購入した。イリジウム原子吸光標準溶液はシグマ・アルドリッチ(米国ミズーリ州セントルイス所在)から購入した。Slide−A−Lyzer(R)10K MWCO透析カセットはサーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)(米国イリノイ州ロックフォード所在)から購入した。Amicon(R)ウルトラ−4 ウルトラセル−30k遠心式フィルタデバイスはミリポア(Millipore)(米国マサチューセッツ州ベッドフォード所在)から購入した。
【0087】
LiPlaCisの調製
均質な脂質混合物(DSPC/DSPG/DSPE−PEG2000、70:25:5、mol%)を、クロロホルム/メタノール(9:1、v/v)中に脂質を溶解することにより調製した。緩やかな窒素ガス流を使用して、温度50℃で脂質混合物から溶媒を蒸発させた。残留溶媒は、マーティン・クリスト・フリーズ・ドライヤ・ゲーエムベーハー(Martin Christ Freeze Dryers GmbH)(ドイツ連邦共和国ハルツ所在)のChrist Epsilon2−4凍結乾燥装置にて真空下で終夜保存することにより蒸発させた。8mg/mLのシスプラチンを含有する65℃の熱い水和媒体中に脂質薄膜を分散させ、表1に従ってスクロースおよび塩化ナトリウムの濃度を変えることにより、多層のベシクル(MLV)を調製した。該脂質を65℃で1/2時間水和した。水和中、試料を5分ごとに渦流混合した。水和された脂質懸濁液を、表1に従って様々な圧力(5000〜20,000KPa)でアヴェスティン・インコーポレイテッド(Avestin,Inc.)(カナダ国オンタリオ州所在)のEmulsiFlex(TM)−C3にてホモジナイズした。ホモジナイゼーションのステップはすべて温度65℃で行なった。取り込まれなかったシスプラチンは、沈澱反応および透析によって製剤から除去した。沈澱反応は、2ステップすなわち;最初に25℃で1時間、その後5℃で1時間として行った。10%スクロースを含有する10mMリン酸バッファー、pH6.5の中で100×容量に対して2回、それぞれ18時間および24時間透析した。調製後直ちに、該製剤をガラスバイアル中に分け、各バイアルに試料500μlとした。バイアルをキャップで密閉し、冷蔵庫(2〜8℃)に入れた。冷蔵庫に入れた日を開始日と見なす。試料を保存中に継続的に取り、それぞれPt濃度および粒子径の測定のためICP−MSおよびZetasizer nanoによって分析する。
【0088】
粒子径の測定
2滴のLiPlaCisを10mLのミリQ水中に混合した。1mLの混合物を使い捨てキュベットに移し、粒子径をモールヴァン・インコーポレイテッド(Malvern Inc.)(英国ウースタシア所在)のZetasizer Nano ZS動的光散乱(Dynamic Light Scattering)装置で計測した。粒子径は、内部基準物質として水を使用し温度25℃で3回測定した。平均のZ−平均粒子径(すなわち直径)を、3回の計測値に基づいて算出した。
【0089】
封入度の測定
リポソームを透析溶液中で100倍に希釈した。続いて、希釈されたリポソームを25℃で1時間平衡化した。その後、希釈されたリポソームの一部を、ミリポア(Millipore)(米国マサチューセッツ州ビレリカ所在)のAmicon(R)ウルトラ遠心式フィルタデバイス(30K MWCO)中で15℃にて30分間、2500gで遠心分離処理した。遠心分離前(すなわち、100倍希釈されたリポソーム)および遠心分離後(透過物(permeate))の試料を、ミリQ水で100倍に希釈した。1vol.%のイリジウム原子吸光標準溶液(1.05ppm)を内部標準としてすべての試料に加えた。クロスフロー型ネブライザーとptコーンを装備したパーキン・エルマー(Perkin−Elmer)PESCIEX Elan6000誘導結合プラズマデバイス(カナダ国オンタリオ州)を、LiPlaCisの試料中のプラチナレベルを計測するために使用した。
【0090】
実験計画および統計解析
実験は、各々が3水準で変化し、かつ反復のための3つの中心点をも備えた3つの要因の、一次効果、二次効果および交差積効果(cross product effect)を調査するために中心複合面計画(central composite face design)を使用して、行なった。要因およびその水準を表1に示す。選択された3つの要因は、内部のNaCl濃度(w/v%)、内部のスクロース濃度(w/v%)、およびホモジナイゼーション圧力(KPa)であった。
【0091】
用いた実験計画を表1に示す。ソフトウェア・パッケージ(Modde 8.0、ウメトリ(Umetri)、スウェーデン国ウメオ所在)を使用して二次モデルを独立変数にフィッティングした。
【0092】
応答曲面モデルを次の方程式:
【0093】
【数1】
にフィッティングした。上記式中、Yは応答変数、Xiはi番目の独立変数、β0は切片、βiは一次モデル係数、βiiは変数iの二次係数ならびにβijは要因iおよびjの間の相互作用のモデル係数であり、εは要因の実験誤差の組み合わせである。二次の項が、応答の曲率に関する情報を得ることを可能にする。
【0094】
決定係数(R2)および不適合度(lack−of−fit)検定を使用して、構築されたモデルが測定値を説明するのに適切かどうかを判断した。R2>0.8は、該モデルが許容可能な品質を有することを示している。可能な場合は、分散分析によって有意ではなかった(P>0.05)項を省略することにより該モデルを単純化する。しかしながら、R2が0.8未満になる場合は項を該モデルから除かなかった。
【0095】
RSMを使用して、初期粒子径、調製直後のDOE%、2〜8℃で56日間保存した後のDOE%および漏出、に対する選択された要因の影響を評価した。
結果および議論
モデルのフィッティング
多変量回帰および後退消去による最適フィッティングモデルを決定した。測定値および予測値は十分に相関した。応答変数に関するモデルの係数および確率(P)値の統計量を計算した(表2)。生成されたモデルは、測定結果および予測結果がよく相関したことから、概ね満足できる評価であった。分散分析によれば、生成されたモデルのいずれについても不適合はなかった。
【0096】
粒子径
データは、ホモジナイゼーション圧力が粒子径に最も大きな影響を有することを示している。調製時に使用されるホモジナイゼーション圧力が高いほど、粒子径は縮小する。調製時に使用されるスクロース濃度も粒子径に有意な影響を有することが実証された。スクロース濃度を増大させると大きな粒子径が得られる。リポソーム調製時に使用された内部スクロース濃度およびホモジナイゼーション圧力の粒子に対する影響を示す等高線プロットを、図1に示す。
【0097】
図2から、粒子径が大きくなると通常はより大量の封入シスプラチンが見られることが分かる。粒子径が大きくなると、内部容積が増大してより多くのPtが封入されることが可能となることも推測されるであろう。
【0098】
保存時の粒子径およびPDIの変化を図3〜4に示す。粒子径の著しい変化は、調製されたリポソーム製剤のうちいずれについても冷蔵時において観察されなかった。
初期の封入度(%)
製剤は84〜92%の範囲の初期封入度を有していた。NaClが初期の封入度(DOE)に最も大きな影響を有することが実証された。水和溶液中で高い塩濃度を使用すると、高い初期DOEが得られた。更に、調製時により高いホモジナイゼーション圧力を使用すると、低いDOEが得られた。これは恐らく、より高いホモジナイゼーション圧力ではより小さなリポソームが得られ、したがってより多くのプラチナがリポソーム外部にあると推測可能であるという事実による。リポソーム調製時に使用される内部NaCl濃度およびホモジナイゼーション圧力の初期DOE%に対する影響を例証する等高線を図5に示す。
【0099】
2〜8℃で56日間保存した後のDOE%および漏出に対するパラメータの影響
保存時のPt分析(総Pt含量、リポソーム外部のPt含量および漏出量)を図6〜8に示す。
【0100】
内部のNaClおよびスクロースの濃度が56日間保存後の封入度(DOE)に対して大きな影響を有することが実証された。リポソーム内部のNaClおよびスクロースの濃度がより高いほど、より高いDOEが得られた。ホモジナイゼーション圧力については主作用は観察されなかった;しかしながら、ホモジナイゼーション圧力とスクロースとの間の相互作用が見られた。内部のスクロース濃度が高く、かつホモジナイゼーション圧力が低いと、より高いホモジナイゼーション圧力を有する場合と比較して高いDOEが得られる。
【0101】
56日間の保存中に製剤から漏出するシスプラチンの量は、検討したすべての要因に左右される。しかしながら、漏出に対して最も重大な影響を有する要因はスクロース濃度であった。内部のNaClおよびスクロースの濃度の増大は、保存中の薬物保持を高めることが観察された。低圧で調製されたリポソームからは、高圧で調製されたものと比較してより多くの漏出の観察が可能であった。
【0102】
最も少ない漏出は、10%スクロースおよび1.9%NaClを含有する水和溶液で調製され、20000KPaでホモジナイズされた製剤について観察された。2〜8℃で56日間の保存後に最も高いDOEを有する製剤は、10%スクロースおよび1.9%NaClを含有する水和溶液で調製され、5000KPaでホモジナイズされていた。
【0103】
結論
応答モデルは、選択されたパラメータと応答との関係を十分に表した。結果は、内部のNaClおよびスクロースの濃度が2〜8℃で保存中のLiPlacis製剤からの漏出に重大な影響を有することを実証している。保存中に、薬物の保持に最も重大な影響を有する要因はスクロースであった。NaClの増大も薬物の保持を改善する。56日後で最も高い封入度は、リポソーム内部に高いNaClおよびスクロース濃度を有している製剤について見られた。DOEは水和媒体中のNaCl濃度を増大させることにより改善されることが実証された。
【0104】
高圧で調製されたリポソームと比較して、リポソームが低圧で調製されると漏出は最も顕著であった。初期のDOEも、より低い圧力で調製されたリポソームのほうが高い。ホモジナイゼーション圧力は粒子径に重大な影響を有するので、この結果は、薬物保持が粒子径によってある程度の影響を受けることを示している。i
【0105】
2か月間の保存後に最も高い封入度を有する製剤は、リポソーム内部に1.9% NaClおよび10%スクロースを用いて調製され、低圧でホモジナイズされたものであった。
【0106】
粒子径の著しい変化は、調製された製剤のうちいずれについても保存中に見られなかった。
実施例2
リポソーム系シスプラチン製剤を、薄膜水和およびその後の押出し処理によって調製した。水和溶液を、オスモライト濃度を変えて調製した。押出し処理後、リポソームを様々な媒体中で透析した。調製された製剤は、表3に略述されるような様々な浸透勾配(内部と外部との間の浸透圧モル濃度の差)を有していた。比較のために、他の化学療法剤のリポソーム製剤を表4に略述されるようにして調製した。すべての製剤を2〜8℃の冷蔵庫に入れ、保存中に継続的に試料を得た。
【0107】
リポソーム製剤の調製
リン脂質(DSPC/DSPG/DSPE−PEG2000、70:25:5、mol%)を9:1(v/v)クロロホルム/メタノールに溶解した。その後、溶解された脂質混合物の溶媒を、窒素ガス流下、50℃の温水浴で目視での乾燥状態まで蒸発させた。試料を真空下で終夜さらに乾燥させた。
【0108】
化学療法剤を含有する水和液(表3および4による様々な塩およびスクロース濃度のもの)を、多層のベシクル(MLV)を調製するために65℃の温度で乾燥脂質混合物に加えた。該脂質懸濁物を、確実に完全に水和させるために少なくとも30分間65℃に維持した。この間、脂質懸濁物を5分ごとに渦流混合した。大きな単層ベシクル(LUV)を、65℃にて規定の細孔径(100nm)を備えたメンブレンを通す押出し処理によって調製した。続いてLUVを、取り込まれなかった薬物を除去するために透析カセット(MWCO:10kDa)に移した。リポソーム製剤を、表3および4に略述されるような様々なバッファー中で透析した。
【0109】
調製後直ちに製剤をガラスバイアル中に分けた。ガラスバイアルをキャップで密閉し、冷蔵庫(2〜8℃)に入れた。冷蔵庫に入れた日を開始日と見なす。保存中に継続的に試料を取り、粒子径および薬物濃度(外部および総量)を測定した。
【0110】
結果:
リポソーム製剤を、シスプラチン、オキサリプラチン、MTX、ブレオマイシン、または5FUのいずれかを用いて調製した。シスプラチンおよび5FUのような低分子量の薬物(<350g/mol)を含有する製剤は、内部と外部との間の浸透勾配が小さい時に漏出しやすいことが観察された。より高分子量(>350g/mol)の薬物を含有するリポソーム製剤は、2〜8℃での保存中にほとんど漏出しないことが実証された。
【0111】
シスプラチン製剤における浸透勾配を高める試みは、保存中に漏出を最小限にする有効な方法であることが実証された。内部と外部との間の浸透勾配の差が>282mOsMであった時、保存中に観察される漏出は許容可能な水準に維持された(表3および図11を参照)。
【0112】
粒子径の変化は2〜8℃での保存中に粒子径において観察されなかった(図12)。このように製剤の粒子径は、シスプラチン製剤において浸透勾配を高めることによる影響を受けない。
【技術分野】
【0001】
本発明は、保存安定性が改善されたsPLA2加水分解性リポソーム薬物送達システムに関し、より詳細には、摂氏2乃至8度おける保存安定性が改善されたsPLA2加水分解性リポソーム薬物送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物送達用のリポソーム
リポソームは、1980年代に薬物送達ビヒクル/システムとして開発された微小な球体である。最初のリポソームに基づく薬剤は、1990年代に商業的用途について承認された。
【0003】
リポソームは、薬物など様々な化合物を運搬するために使用可能な3つの別個のコンパートメント、すなわち:内部の水性コンパートメント;疎水性の二分子層;ならびに内葉および外葉の極性相間、を有している。封入される化合物の化学的性質に応じて、該化合物はいずれかのコンパートメントに局在化することになる。
【0004】
現在のところ、数個の非経口リポソーム−薬物製剤が市販されている。水溶性薬物は、リポソームの水性コンパートメントに局在化される傾向にあり、リポソームに封入される薬物の例としては、例えば、ドキソルビシン(Doxil(R))、ドキソルビシン(Myocet(R))及びダウノルビシン(DaunoXone(R))がある。リポソーム膜に挿入される薬物の例としては、アンホテリシンB(AmBisome(R))、アンホテリシン(Albelcet B(R))、ベンゾポルフィリン(Visudyne(R))及びムラミルトリペプチド−ホスファチジルエタノールアミン(Junovan(TM))がある。
【0005】
リポソームは、過形成および血管透過性増大、またリンパ排液異常のような、固形腫瘍の病態生理学的特徴を使用することにより、腫瘍組織を受動的に標的化することから、有望な薬物送達システムと考えられている。これらの特徴はナノ粒子の血管外遊出を促進し、またリポソームはEPR効果(enhanced permeability and retention effect)のためより長い間組織内に保持されうる。
【0006】
薬物送達ビヒクルとしてのリポソームの特性は、リポソームの表面電荷、透過性、溶解度、安定性などに強く依存し、これらはリポソーム組成物中に含まれる脂質によって著しく影響を受ける。さらに、リポソーム内に封入される薬物は、安定なリポソーム製剤の調製において考慮すべきさらなる要件を必要とする場合がある。
【0007】
安全性および薬効に関して考察するには、リポソーム製剤がその特性を維持すること、すなわち調製時から投与まで安定を維持することが必要である。
更に、薬物が特異的に放出される標的部位にそのような製剤が到達するまで、該製剤は、治療される対象者内の輸送の間、損傷を受けないことが望ましい。
【0008】
リポソームのための様々な標的化戦略、例えば抗体のような細胞特異的リガンドへの結合については既に記載がある。
sPLA2加水分解性リポソーム
別の手法は、がん組織中、および炎症部位においても、分泌型ホスホリパーゼA2(sPLA2)のレベルが高いことに基づいて示唆されてきた。基本的概念は、sPLA2により加水分解可能なリポソームを調製可能であること、およびsPLA2による加水分解がリポソーム内に封入された薬物の放出をもたらすことである。さらに、sPLA2加水分解の生成物であるリゾ脂質(lysolipid)および脂肪酸は、細胞による薬物の取込み増加をもたらす細胞膜の透過化剤として作用する。がん組織中および炎症部位ではsPLA2レベルが高いので、sPLA2活性化リポソームを使用して、封入された薬物をそのような部位へ優先的に送達することが可能である。
【0009】
sPLA2加水分解性リポソームの保存安定性
sPLA2加水分解性リポソームは、保存安定性に関して特有の課題を提起している。その課題は、有効なsPLA2加水分解に必要な特定の脂質組成に基づくものである。
【0010】
一般に、数多くのパラメータが保存安定性に影響を及ぼし、またバッファー組成の変更が保存安定性に与える結果を予言することは、この変更が浸透圧モル濃度だけでなく膜安定性にも影響を与えるので、困難である。
【0011】
先行技術
多数の文献にsPLA2活性化リポソームが記載されており、様々な文献がリポソームの保存安定性について検討している。しかしながらいずれの文献も、sPLA2加水分解性リポソームによって提起される特別な保存の問題は検討していない。
【0012】
特許文献1は、モノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグを含んでなるsPLA2活性化リポソームについて記載している。同文献はさらに、追加の生物活性化合物の封入についても記載している。
【0013】
特許文献2は、sPLA2によって活性化されるエーテルリゾ脂質のプロドラッグを投与するための、哺乳類の皮膚組織または皮下組織における細胞外sPLA2の局所的増大を伴う疾患または症状の治療用の脂質を用いた薬物送達システムの使用を示唆した。該システムはいわゆるエッジ活性化合物(edge active compound)をさらに含んでいた。
【0014】
特許文献3は、リーシュマニア症、トリパノソーマ症、マラリア、赤痢アメーバ症(Entaboeba,Histolyticasis)および「東洋肝吸虫クロモルキス・シネンシス(Oriental liver fluke chlomorchis sinensis)」から選択された寄生虫感染の治療または予防のための、脂質を用いた薬物送達システムの使用を示唆したが、該システムはsPLA2によって活性化される脂質誘導体の形のプロドラッグを含んでなるものであった。このリポソームはさらなる生物活性化合物を含有することができる。
【0015】
特許文献4および特許文献5も、sPLA2活性化リポソームについて記載している。
特許文献6は、安定性および加熱による放出に関して最適化された温度感受性リポソームを開示した。この文献に記載されたリポソームは、好ましくは温血動物の体液の浸透圧より1.2〜2.5倍高い浸透圧を備えた内部溶液を有し、かつ摂氏40〜45度の相転移温度を有する。この文献に開示されたリポソームは、適切な脂質組成を持たないためsPLA2の基質ではない。
【0016】
ほとんどのリポソーム製剤は、保存時の漏出に関する問題を有していない。むしろ、該製剤は極めて安定であるため意図した部位で封入化合物の放出を生じることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】国際公開公報第0158910号パンフレット
【特許文献2】国際公開公報第0176555号パンフレット
【特許文献3】国際公開公報第0176556号パンフレット
【特許文献4】国際公開公報第06048017号パンフレット
【特許文献5】国際公開公報第07107161号パンフレット
【特許文献6】米国特許第5094854号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上記した懸案を鑑みてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
第1の態様では、本発明は、
・sPLA2加水分解性リポソームと、
・外部溶液と、
・リポソーム内の内部溶液と
を含んでなる組成物であって、オスモライトの濃度が外部溶液よりも内部溶液において高いことを特徴とする組成物を提供する。
【0020】
該組成物は、特に摂氏2〜8度で保存された時、sPLA2加水分解性リポソームの保存安定性を改善する。リポソームは好ましくはシスプラチンを封入する。
本発明はさらに、本発明の組成物を調製する方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】リポソーム調製時に用いられたスクロース濃度およびホモジナイゼーション圧力の粒子径に対する影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字は粒子径を示す。
【図2】リポソーム中の総Pt濃度を粒子径の関数として示す図。
【図3】LPB0057〜LPB0073に関する2〜8℃保存中の粒子径の変化を示す図。
【図4】LPB0057〜LPB0073に関する2〜8℃保存中のPDIの変化を示す図。
【図5】リポソーム調製時に用いられた内部NaCl濃度およびホモジナイゼーション圧力の初期DOE%に対する影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字はDOE%を示す。
【図6】LPB0057〜LPB0073に関する保存中のPt濃度を示す図。
【図7】LPB0057〜LPB0073に関する保存中の外部Pt(%)を示す図。
【図8】2〜8℃保存中のLPB0057〜LPB0073からの漏出を示す図。
【図9】ホモジナイゼーション圧力を12,500KPaに維持して、2〜8℃で56日間保存した後のDOE%に対する内部NaCl濃度およびスクロース濃度の影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字は2〜8℃で56日間保存した後のDOE%を示す。
【図10】ホモジナイゼーション圧力を12,500KPaに維持して、2〜8℃で56日間保存した後の漏出(%)に対する内部NaCl濃度およびスクロース濃度の影響を示す等高線プロット。該等高線プロット内の数字は2〜8℃で56日間保存した後の漏出(%)を示す。
【図11】2〜8℃保存中のリポソーム系シスプラチン製剤からの漏出を示す図。製剤は様々な浸透勾配を用いて調製された。さらなる詳細については表3を参照のこと。
【図12】2〜8℃保存中のリポソーム系シスプラチン製剤の粒子径を示す図。バッファー組成に関する詳細な説明については表3を参照のこと。
【図13】実際の実験の要因設定および応答を示す表1。
【図14】後退消去後のモデルの回帰係数および有意(P)値を示す表2。
【図15】様々な浸透勾配を備えて調製されたリポソーム系シスプラチン製剤の大要を示す表3。
【図16】様々な分子量を備えて調製された異なるリポソーム系製剤の大要を示す表4。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、sPLA2加水分解性リポソームの内部溶液よりも低濃度のオスモライトを有する外部溶液の中での保存により、該リポソームからの漏出を低減可能であるという発見に基づいている。
【0023】
漏出の問題は、sPLA2加水分解性リポソーム内に封入されたシスプラチンの等浸透圧製剤の第1相試験に使用される予定の、sPLA2加水分解性リポソーム内に封入されたシスプラチンの保存に関して観察された。この製剤では、内部溶液は0.9% NaClであり、外部溶液は10mMリン酸バッファー、pH6.5、1mM NaClおよび10%スクロースであった。摂氏2〜8度で保存されると大きく漏出するため、該等浸透圧製剤を摂氏−80度で保存しなければならなかったが、これは商業製品にとって最適な解決策ではない。したがって、すべての病院が−80度保存のための設備を有しているとは限らない。さらに、摂氏−80度での輸送は煩雑である。
【0024】
さらに、使用前にバイアルを解凍する時、バイアルの破損に関する問題が生じ、また解凍はリポソームからの顕著な漏出を引き起こした。
既述のように、漏出の問題はsPLA2加水分解性リポソームの脂質組成に関する特有の要件の結果であると考えられている。特に、漏出は、sPLA2加水分解性リポソーム中にコレステロールのような安定化剤が不在であるかまたは低量であることによって引き起こされると考えられている。さらに、sPLA2加水分解性リポソームのアニオン性の性質が漏出に影響を及ぼす可能性もある。
【0025】
したがって、摂氏2〜8度での保存時の漏出が低減されたsPLA2加水分解性リポソームを含んでなる組成物が必要とされている。
sPLA2リポソームに関する「漏出の低減」および「安定性の改善」という用語は、本明細書中で互換的に使用される。当然ながら、漏出は、好ましくは経時的な、内部溶液中における治療薬の濃度(または量)の変化に関し、かつ該変化によって記載されうる。
【0026】
第1の態様では、本発明は、
・sPLA2加水分解性リポソームと、
・外部溶液と、
・リポソーム内の内部溶液と、
を含んでなる組成物であって、内部溶液のオスモライト濃度が外部溶液のオスモライト濃度よりも高いことを特徴とする組成物を提供する。
【0027】
該組成物は通常は医薬組成物であろう。
好ましい実施形態では、リポソームは、リポソーム内に封入された治療薬を含んでなる。治療薬は、典型的には内部溶液に溶解される。しかしながら、治療薬は、例えば封入時の溶解度と比較して保存時の溶解度が低いことにより、部分的または完全に沈殿する場合もある。封入時の溶解度は、高温であるために高くなっている場合がある。
【0028】
漏出の問題は典型的には小さな作用物質について生じ、かつ小さな作用物質ほどリポソームの脂質二重層を容易に通過できると考えられるので、治療薬は350g/mol未満の分子量を有することが好ましい。
【0029】
治療薬はシスプラチン(シス−ジアンミンジクロロ白金(II))であることがより一層好ましい。上述のように、シスプラチンを封入しているsPLA2加水分解性リポソームは保存中に漏出を生じる傾向がある。
【0030】
好ましい実施形態では、sPLA2加水分解性リポソーム中の唯一の治療薬はシスプラチンである。したがって、内部溶液は単にオスモライトおよびシスプラチンのみ、ならびに任意選択でバッファーを含んでなる。
【0031】
塩化物イオンは、シスプラチンが望ましくない極めて有毒な水和生成物を形成するのを防止する。したがって、内部溶液が少なくとも0.2%または0.4%、より好ましくは0.2〜2.5%(w/w)、または0.4〜1.8%および最も好ましくは0.8〜1%の濃度でNaClまたはKClを含んでなることが好ましい。いくつかの実施形態では、他の塩化物が使用されてもよい。通常はNaClがKClよりも好ましい。
【0032】
いくつかの実施形態では、外部溶液が少なくとも0.2%または0.4%、より好ましくは0.2〜2.5%(w/w)、または0.4〜1.8%および最も好ましくは0.8〜1%の濃度でNaClまたはKClを含んでなることが好ましい。典型的な濃度は0.9%である。したがって、少量のシスプラチンがリポソームから漏出するという状況において、塩化物イオンの存在は毒性の水和生成物の形成を最小限にするであろう。この場合もまた、通常はNaClがKClよりも好ましい。
【0033】
1つの実施形態では、外部溶液中にはカルシウムイオンのような2価カチオンは存在しない。
別の実施形態では、2価カチオンが外部溶液に含まれていてもよい。内部溶液は典型的にはバッファーを含まない。さらに、硫酸塩は通常は内部溶液に含まれない。
【0034】
組成物の1つの実施形態では、内部溶液は少なくとも1.4%のNaClまたはKCl、より好ましくは1.8%のNaClまたはKClを含んでなり、かつ、粘性増強剤であって好ましくはラクトース、スクロース、マルトース、ガラクトース、グルコースのような糖類ならびにデンプン、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キサンタンおよび部分加水分解されたセルロースオリゴマーのような親水性ポリマーならびにタンパク質およびポリペプチドから成る群から選択された粘性増強剤を含まない。
【0035】
組成物の別の実施形態では、内部溶液は少なくとも5%の粘性増強剤を含んでなる。好ましくは、粘性増強剤は、ラクトース、スクロース、マルトース、ガラクトース、グルコースのような糖類ならびにデンプン、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キサンタンおよび部分加水分解されたセルロースオリゴマーのような親水性ポリマーならびにタンパク質およびポリペプチドから成る群から選択される。粘性増強剤がオスモライトとしても機能するであろうことが認識されるべきである。
【0036】
内部溶液が粘性増強剤を含んでなる場合、濃度は5%(w/w)より高いことが好ましい。さらにより好ましいのは、6、7、8、9または10%%を超える濃度である。好ましい実施形態では、粘性増強剤は、ラクトース、スクロース、マルトース、ガラクトース、グルコースのような糖類ならびにデンプン、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、キサンタンおよび部分加水分解されたセルロースオリゴマーのような親水性ポリマーならびにタンパク質およびポリペプチドから成る群から選択される。最も好ましいのは糖類、特にスクロースである。
【0037】
一般に、外部溶液は、生理的なオスモライト濃度であることから約300mMのオスモライト濃度を有することが好ましい。したがって、実施形態では、外部溶液は200〜400mM、より好ましくは250〜350mM、最も好ましくは275〜325mMのオスモライト濃度を有することが好ましい。
【0038】
本発明の組成物は、内部溶液と外部溶液との間にオスモライト濃度の差があるという点を特徴とする。この差は本明細書中では浸透勾配とも呼ばれる。
実施例のセクションで実証されるように、27mMの浸透勾配(内部のオスモライト濃度から外部のオスモライト濃度を減算)は漏出を十分には低減することができない。59mMの勾配は漏出をさらに低減し、91mMの勾配も同様である。留意すべきことは、オスモライト濃度はすべての溶質粒子の合計濃度であり、これは溶液の浸透圧モル濃度(Osm)と呼ばれることが多いことである。
【0039】
1つの実施形態では、溶液の浸透圧モル濃度は溶質粒子の浸透係数を使用して補正される。
浸透勾配は27mMより高いことが好ましい。より好ましいのは、59mMを上回るかまたは91mMを上回る浸透勾配である。さらにより好ましいのは、100mMを上回ること、例えば150mM超、200mM超、250mM超、275mM超、および300mM超である。
【0040】
1つの実施形態では、内部溶液のオスモライト濃度はリポソームを調製する時に使用される水和溶媒中のオスモライト濃度と同じであると仮定される。すなわち、内部溶液のオスモライト濃度に言及する場合、この濃度は水和溶媒中のオスモライト濃度であるため容易に決定することができる。
【0041】
内部溶液のオスモライトの実際の濃度は水和溶媒中のオスモライト濃度とは同じではない可能性がある、というのも、形成後のリポソーム内に水が移動し、そのためオスモライト濃度を低下させる(同時にリポソーム内の浸透圧を増大させる)可能性があるからである。
【0042】
最大の浸透勾配は好ましくは1500mMであり、より好ましくは1200mM、最も好ましくは900mMである。浸透勾配が大きすぎると、リポソームは初期に漏出しやすく、最大限の許容可能な勾配が確立されるまでオスモライトが膜を通過することになり、その後で漏出が最小となる。
【0043】
したがって、浸透勾配は典型的には27〜900mM、より好ましくは200〜600mM、最も好ましくは280〜320mMである。
外部溶液のpHは典型的にはpH5〜7であり、内部溶液は典型的にはpH5〜7を有する。pHを所望の値に維持するために適切なバッファーが使用されてもよい。
【0044】
しかしながら、1つの実施形態では、内部溶液または外部溶液のうち少なくともいずれか一方はバッファー(とくにリン酸バッファー)を含まない。いくつかの実施形態では、リン酸バッファーはシスプラチンの副産物への転換を促進するので望ましくない。
【0045】
シスプラチンがリポソーム中に封入される場合の特定の好ましい組成物は以下すなわち:
1)内部溶液:0.8〜1.9%のNaCl、例えば0.9% NaClおよび9〜11%のスクロース、例えば10%スクロース。
【0046】
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+9〜11%スクロース、例えば10%スクロース。
2)内部溶液:1.6〜2.0%のNaCl、例えば1.8% NaCl
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+9〜11%スクロース、例えば10%スクロース。
【0047】
3)内部溶液:0.8〜1.0%のNaCl、例えば0.9% NaClおよび9〜11%のスクロース、例えば10%スクロース。
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+0.35%〜0.55%、例えば0.45%のNaCl+4〜6%のスクロース、例えば5%スクロース。
【0048】
4)内部溶液:1.6〜2.0%のNaCl、例えば1.8% NaCl
外部溶液:8〜12mMリン酸バッファー(pH6.5)、例えば10mMリン酸バッファー(pH6.5)+0.8〜1.0%のNaCl、例えば0.9% NaCl
【0049】
を含んでなる。
最終組成物中の治療薬の濃度は、典型的には0.1mg/ml〜15mg/mlである。治療薬がシスプラチンである場合、濃度は0.5mg/ml〜1.5mg/mlであることが好ましい。そのような濃度は、リポソーム調製時に水和溶液中8mg/mlのシスプラチン濃度を使用することにより達成することができる。8mg/mlの濃度は水和溶液を摂氏65%度(65% degrees Celsius)の温度に熱することにより達成することができる。
【0050】
組成物のリポソームは、好ましくは平均サイズ(直径)が50〜200nm、より好ましくは75〜160nmである。
組成物のリポソームは、摂氏2〜8度の温度で56日間の保存後に漏出が20%未満、15%未満または10%未満、より好ましくは9%未満、8%未満または7%未満であるべきである。実施例のセクションで実証されるように、これは浸透勾配を調節することにより達成することができる。
【0051】
漏出率(%)について言及する場合、透析または限外濾過のステップ後のリポソーム中のシスプラチンの量を、保存後のリポソーム中のシスプラチンの量と比較して述べている。透析または限外濾過のステップ後、外部溶液は、組成物中の全シスプラチン量の5%を含んでなる場合がある。したがって、内部溶液は、組成物中のシスプラチンの95%を含んでなる。保存後、内部溶液は総シスプラチン量の85.5%を、従って外部溶液は14.5%を含んでなる場合がある。よって漏出は9.5/95=10%であった。
【0052】
好ましい実施形態では、第1の態様の組成物は第2の態様の方法によって調製される。
sPLA2加水分解性リポソーム
本発明の組成物において使用するためのsPLA2加水分解性リポソームは、以降の実施形態においてより詳細に定義される。その最も広い実施形態では、sPLA2加水分解性リポソームという用語は、生理学的条件下、特にがん組織中において加水分解可能なリポソームを指す。
【0053】
好ましくは、sPLA2加水分解性リポソームは20%〜45%(mol/mol)のアニオン性脂質を含んでなる。アニオン性脂質の含量は、sPLA2を介したリポソームの脂質加水分解速度のようなリポソームの重要な特徴に影響し、またリポソームに対する免疫応答にも影響する。
【0054】
アニオン性脂質の含量が増大するにつれて、sPLA2による脂質加水分解(および薬物の放出)の速度も増大する。適度な加水分解速度は、20%〜45%のアニオン性脂質含量によって達成されうることが実証された。したがって1つの実施形態では、アニオン性脂質の含量は少なくとも20%である。別の実施形態では、アニオン性脂質の含量は45%以下である。さらに別の実施形態では、リポソームのアニオン性脂質含量は、20%〜45%、25%〜45%、28%〜42%、30%〜40%、32%〜38%、および34%〜36%からなる群から選択される。
【0055】
上述のように、リポソームに対する免疫応答もアニオン性脂質の含量によって影響を受ける。したがって、体内におけるリポソームのクリアランス率は、リポソーム中のアニオン性脂質の含量をあるレベルより下に維持することにより低減される可能性があり、本発明者らは、リポソーム中のアニオン性脂質の含量を使用してsPLA2の加水分解速度と細網内皮系によるクリアランスとの間のバランスを取ることができることを認めた。
【0056】
好ましくは、アニオン性脂質はリン脂質であり、また好ましくは、リン脂質は、PI(ホスファチジルイノシトール)、PS(ホスファチジルセリン)、DPG(ビスホスファチジルグリセロール)、PA(ホスファチジン酸)、PEOH(ホスファチジルアルコール)、およびPG(ホスファチジルグリセロール)から成る群から選択される。より好ましくは、アニオン性リン脂質はPGである。好ましくは、脂質はステアロイル鎖を含んでなる。したがって、好ましくはPGはDSPGなどである。
【0057】
親水性ポリマー
好ましい実施形態では、本発明で使用されるsPLA2加水分解性リポソームは、PEG[ポリ(エチレングリコール)]、PAcM[ポリ(N−アクリロイルモルホリン)]、PVP[ポリ(ビニルピロリドン)]、PLA[ポリ(ラクチド)]、PG[ポリ(グリコリド)]、POZO[ポリ(2−メチル−2−オキサゾリン)]、PVA[ポリ(ビニルアルコール)]、HPMC(ヒドロキシプロピルメチルセルロース)、PEO[ポリ(エチレンオキシド)]、キトサン[ポリ(D−グルコサミン)]、PAA[ポリ(アミノ酸)]、ポリHEMA[ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリラート)]およびこれらのコポリマー、から成る群から選択された親水性ポリマーをさらに含んでなる。
【0058】
最も好ましくは、ポリマーは100Da〜10kDaの分子量を有するPEGである。特に好ましいのは、2〜5kDaのサイズのPEG(PEG2000〜PEG5000)であり、最も好ましいのはPEG2000である。
【0059】
リポソーム上へのポリマーの組み入れは当業者には良く知られており、恐らくは細網内皮系によるクリアランスを低減することにより、血流中のリポソームの半減期を延長するために使用可能である。
【0060】
好ましくは、ポリマーはホスファチジル(phospatidyl)エタノールアミンの頭基にコンジュゲートされる。別の選択肢は、セラミド(この脂質がsPLA2によって加水分解不能であっても)へのコンジュゲートである。ポリマーがホスファチジル(phospatidyl)エタノールアミンにコンジュゲートされると負電荷が導入され、従ってDSPE−PEGは(DSPEが中性脂質とされているのに反して)アニオン性脂質と見なされる。
【0061】
ポリマーがコンジュゲートされた脂質は、少なくとも2%の量で存在することが好ましい。より好ましくは、その量は少なくとも5%かつ最大15%である。さらにより好ましくは、ポリマーがコンジュゲートされた脂質の量は少なくとも3%かつ最大6%である。アニオン性リン脂質および≦2.5%のDSPE−PEG2000を含有しているリポソームは、カルシウムの存在下で凝集する傾向が高まった。これは、通常は高粘着性ゲルの形成によって観察されうる。アニオン性リン脂質および>7.5%のDSPE−PEG2000を含有しているリポソームは、該リポソームの沈殿または相分離を引き起こす。
【0062】
リポソーム中の中性荷電脂質成分
好ましくは、本発明で使用されるリポソームは、PC(ホスファチジルコリン)およびPE(ホスファチジルエタノールアミン)を含んでなる双性イオン性リン脂質から成る群から選択された非荷電リン脂質も含んでなる。最も好ましくは、双性イオン性リン脂質はPCである。
【0063】
アニオン性リン脂質とは対照的に、双性イオン性リン脂質は、リポソーム中の電荷中性のsPLA2加水分解性脂質成分としての役割を果たす。同じリポソーム中で双性イオン性およびアニオン性のリン脂質を組み合わせることにより、十分に高いsPLA2加水分解と低い血中クリアランス速度の両方に適合する所望の表面電荷密度となるように調節することが可能である。
【0064】
リポソーム中の双性イオン性リン脂質の量は、好ましくは40%〜75%であり、より好ましくは50〜70%である。
好ましくは、脂質(アニオン性脂質、中性脂質およびポリマーにコンジュゲートした脂質)はステアロイル鎖を含んでなる。したがって、好ましくはPGはDSPGであり、PEは好ましくはDSPEなどである。
【0065】
エーテルリン脂質
リン脂質のうちの一部またはすべてがエーテルリン脂質であってもよい。
したがって、リン脂質は該リン脂質のグリセロール骨格のsn−1位にエステル結合の代わりにエーテル結合を有することができる。sPLA2がこの特定の種類のリン脂質を加水分解するとモノエーテルリゾリン脂質が生じ、これらは例えばがん細胞に対して有毒である。すなわち、エーテルリン脂質はモノエーテルリゾリン脂質のプロドラッグと見なしてもよく、本発明のリポソームは、そのようなプロドラッグがsPLA2加水分解によって活性化される場であるがん細胞のsPLA2増強環境に、該プロドラッグを送達するために使用することができる。エーテルリン脂質は欧州特許第1254143号明細書および国際公開公報第2006/048017号パンフレットに記載されており、前記文献の内容は参照により本願に組込まれる。
【0066】
1つの実施形態では、本発明で使用されるようなsPLA2活性化リポソームはエーテルリン脂質を含まない。
その他のプロドラッグ
sPLA2によって脂質から放出されてリゾ脂質を作出する部分が薬物であってもよい。したがって、以降にさらに概説されるように、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグ、sPLA2によって脂質から放出されるプロドラッグ、および他の治療薬を含んでなることができる。
【0067】
1つの実施形態では、本発明で使用されるようなsPLA2活性化リポソームは、sPLA2によって脂質から放出されるプロドラッグを含まない。
安定化剤
リポソームは、該リポソーム中に膜成分としてコレステロールを組み入れることにより安定化されてもよい。しかしながら、リポソーム中の大量のコレステロールはPLA2による加水分解に悪影響を有し、したがってリポソームは最大でも10%までしかコレステロールを含まないことが好ましい。さらにより好ましくは、リポソームは、コレステロールを1%未満、0.1%未満しか含まないか、またはコレステロールを全く含まない。
【0068】
リポソームを構成している脂質のアルキル鎖長は、最適なPLA2加水分解速度、および封入される化合物の該リポソームからの漏出を最小限とするために調節可能である。好ましくは、アルキル鎖はC18またはC16の飽和鎖である。
【0069】
上述のように、リポソームは、モノエーテルリゾ脂質のプロドラッグ、またはsPLA2により脂質から放出されてリゾ脂質を作出する部分のプロドラッグのうち少なくともいずれかを含んでなることができる。
【0070】
リポソームの物理化学的特徴
リポソームは単層であっても多層であってもよい。最も好ましくは、リポソームは単層である。リポソームの直径は、50〜400nm、好ましくは80〜160nm、最も好ましくは90〜120nmであるべきである。
【0071】
好ましくは、本発明の第2の態様のリポソーム製剤の多分散性指数(PDI)は0.2を上回るべきではなく、より好ましくは0.10以下である。この範囲のPDI値は、製剤中の比較的狭い粒度分布を表している。
【0072】
上記から明らかとなるように、リポソームを構成する脂質のうち少なくとも1つが、リポソーム内にある場合にsPLA2の基質であることが好ましい。
1つの実施形態では、リポソームは、sn−2位の代わりにsn−3位においてsPLA2によって加水分解される脂質を含んでなる。そのような非天然の脂質および非天然の脂質を含んでなるリポソームは、国際公開公報第2006/048017号パンフレットに開示されており、前記文献の内容は参照により本願に組込まれる。
【0073】
最も好ましい実施形態では、本発明で使用されるリポソームは、70%のDSPC、25%のDSPGおよび5%のDSPE−PEGを含んでなる。
調製方法
本発明の第2の態様は:
a)選択された脂質を有機溶媒に溶解することにより脂質混合物を調製するステップと
【0074】
b)リポソームを形成するためにステップa)の生成物を水性水和溶媒と水和させるステップと
c)水性水和溶媒の追加前または水性水和溶媒の追加後にステップa)の有機溶媒を除去するステップと
【0075】
d)水和溶媒を、水和溶液より低いオスモライト濃度を有する外部溶液と交換するステップと
e)これにより本発明の第1の態様に記載されるような組成物を形成するステップと
を含んでなる方法である。
水和溶媒は、遠心分離、限外濾過、透析、または類似手法によって交換可能である。水和溶媒を外部溶液に交換した後、治療薬の15%未満、10%未満、より好ましくは8%または6%未満しか外部溶液中に存在しないことが好ましい。
【0076】
好ましくは、リポソーム中の薬物封入度は>70%であるべきであり、より好ましくは>95%、最も好ましくは>99%である。薬物封入度は、製剤中の薬物の総量に対する封入された薬物の比である。
【0077】
好ましくは、有機溶媒は水和溶媒の追加前に除去される。
該方法は、リポソームのサイズを縮小するためにハイシアー(high sheer)混合するステップをさらに含んでなることもできる。
【0078】
該方法は、ある一定の平均サイズのリポソームを生産するために、ステップc)に、生産されたリポソームをフィルタを通して押出し処理するステップをさらに含んでなることもできる。
【0079】
該方法は、ある一定のサイズのリポソームを生産するためにリポソーム製剤を超音波処理するステップを含んでなることもできる。
該方法は、5000〜20000KPaの圧力でのホモジナイゼーションを含んでなることもできる。
【0080】
好ましくは、リポソームは本発明の第1の態様に記載されるようなリポソームである、すなわち脂質はそのように選択される。
リポソームを調製するために使用される有機溶媒または水和溶媒中に薬物を溶解することにより、リポソームに少なくとも1つの治療薬を装荷することが可能である。好ましくは、治療薬は水和溶媒中に溶解され、治療薬は好ましくはシスプラチンである。
【0081】
別例として、最初にリポソームを形成し、最も外側のリポソーム層を横切る電気化学ポテンシャルを例えばpH勾配によって確立し、次にリポソームの外部の水性媒体にイオン化可能な治療薬を加えることで、リポソームにイオン化可能な治療薬を装荷することもできる。
【実施例】
【0082】
実施例1:sPLA2加水分解性リポソームの保存安定性の最適化
概要
2〜8℃での保存時、LiPlaCis(リポソーム系シスプラチン)は最初の2、3か月間で最大30%の漏出がありうることが観察されている。漏出は最初の2か月間では極めて大規模であり、この期間を越えるとごく軽微な漏出が生じる。
【0083】
2〜8℃でのLiPlacisの安定性を試験するために要因配置計画(factorial design)を設定した。製剤を様々な内部バッファー組成で調製し、複合面計画(composite face design)に従って異なる圧力でホモジナイズした。3つの要因を3つの水準で試験した:
【0084】
・内部のNaCl濃度(0.9、1.4および1.9%)
・内部のスクロース濃度(0、5および10%)
・調製時に使用されるホモジナイゼーション圧力(5000、12500、および20000KPa)。
【0085】
製剤からの漏出は試験したすべてのパラメータによって影響を受けることが実証された。リポソーム内部のスクロースおよびNaClの濃度を増大すること、およびリポソーム調製時に低いホモジナイゼーション圧力を有することにより、保存時に、より高度に薬物が保持される。2か月の保存後に封入度が最も高い製剤は、リポソーム内部を1.9% NaClおよび10%スクロースとして調製され、5000KPaでホモジナイズされたものであった。調製されたいずれの製剤についても保存中の粒子径に著しい変化は見られなかった。
【0086】
材料および方法
sPLA2リポソーム(LiPlaCis)の調製
1,2−ジ(オクタデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジ(オクタデカノイル)−sn−グリセロ−3−ホスホグリセロール(DSPG)、および1,2−ジ(オクタデカノイル)ホスファチジルエタノールアミン−メトキシポリ(エチレングリコール)2000(DSPE−PEG2000)はすべてリポイド(Lipoid)(ドイツ連邦共和国ルートヴィヒスハーフェン所在)から購入した。スクロースはシグマ・アルドリッチ(Sigma−Aldrich)(米国ミズーリ州セントルイス所在)から購入した。塩化ナトリウムおよびリン酸二水素ナトリウムは、それぞれメルク(Merck)(ドイツ連邦共和国ダルムシュタット所在)およびJ.T.ベーカー(J.T.Baker)(オランダ国デーヴェンター所在)から購入した。イリジウム原子吸光標準溶液はシグマ・アルドリッチ(米国ミズーリ州セントルイス所在)から購入した。Slide−A−Lyzer(R)10K MWCO透析カセットはサーモサイエンティフィック(Thermo Scientific)(米国イリノイ州ロックフォード所在)から購入した。Amicon(R)ウルトラ−4 ウルトラセル−30k遠心式フィルタデバイスはミリポア(Millipore)(米国マサチューセッツ州ベッドフォード所在)から購入した。
【0087】
LiPlaCisの調製
均質な脂質混合物(DSPC/DSPG/DSPE−PEG2000、70:25:5、mol%)を、クロロホルム/メタノール(9:1、v/v)中に脂質を溶解することにより調製した。緩やかな窒素ガス流を使用して、温度50℃で脂質混合物から溶媒を蒸発させた。残留溶媒は、マーティン・クリスト・フリーズ・ドライヤ・ゲーエムベーハー(Martin Christ Freeze Dryers GmbH)(ドイツ連邦共和国ハルツ所在)のChrist Epsilon2−4凍結乾燥装置にて真空下で終夜保存することにより蒸発させた。8mg/mLのシスプラチンを含有する65℃の熱い水和媒体中に脂質薄膜を分散させ、表1に従ってスクロースおよび塩化ナトリウムの濃度を変えることにより、多層のベシクル(MLV)を調製した。該脂質を65℃で1/2時間水和した。水和中、試料を5分ごとに渦流混合した。水和された脂質懸濁液を、表1に従って様々な圧力(5000〜20,000KPa)でアヴェスティン・インコーポレイテッド(Avestin,Inc.)(カナダ国オンタリオ州所在)のEmulsiFlex(TM)−C3にてホモジナイズした。ホモジナイゼーションのステップはすべて温度65℃で行なった。取り込まれなかったシスプラチンは、沈澱反応および透析によって製剤から除去した。沈澱反応は、2ステップすなわち;最初に25℃で1時間、その後5℃で1時間として行った。10%スクロースを含有する10mMリン酸バッファー、pH6.5の中で100×容量に対して2回、それぞれ18時間および24時間透析した。調製後直ちに、該製剤をガラスバイアル中に分け、各バイアルに試料500μlとした。バイアルをキャップで密閉し、冷蔵庫(2〜8℃)に入れた。冷蔵庫に入れた日を開始日と見なす。試料を保存中に継続的に取り、それぞれPt濃度および粒子径の測定のためICP−MSおよびZetasizer nanoによって分析する。
【0088】
粒子径の測定
2滴のLiPlaCisを10mLのミリQ水中に混合した。1mLの混合物を使い捨てキュベットに移し、粒子径をモールヴァン・インコーポレイテッド(Malvern Inc.)(英国ウースタシア所在)のZetasizer Nano ZS動的光散乱(Dynamic Light Scattering)装置で計測した。粒子径は、内部基準物質として水を使用し温度25℃で3回測定した。平均のZ−平均粒子径(すなわち直径)を、3回の計測値に基づいて算出した。
【0089】
封入度の測定
リポソームを透析溶液中で100倍に希釈した。続いて、希釈されたリポソームを25℃で1時間平衡化した。その後、希釈されたリポソームの一部を、ミリポア(Millipore)(米国マサチューセッツ州ビレリカ所在)のAmicon(R)ウルトラ遠心式フィルタデバイス(30K MWCO)中で15℃にて30分間、2500gで遠心分離処理した。遠心分離前(すなわち、100倍希釈されたリポソーム)および遠心分離後(透過物(permeate))の試料を、ミリQ水で100倍に希釈した。1vol.%のイリジウム原子吸光標準溶液(1.05ppm)を内部標準としてすべての試料に加えた。クロスフロー型ネブライザーとptコーンを装備したパーキン・エルマー(Perkin−Elmer)PESCIEX Elan6000誘導結合プラズマデバイス(カナダ国オンタリオ州)を、LiPlaCisの試料中のプラチナレベルを計測するために使用した。
【0090】
実験計画および統計解析
実験は、各々が3水準で変化し、かつ反復のための3つの中心点をも備えた3つの要因の、一次効果、二次効果および交差積効果(cross product effect)を調査するために中心複合面計画(central composite face design)を使用して、行なった。要因およびその水準を表1に示す。選択された3つの要因は、内部のNaCl濃度(w/v%)、内部のスクロース濃度(w/v%)、およびホモジナイゼーション圧力(KPa)であった。
【0091】
用いた実験計画を表1に示す。ソフトウェア・パッケージ(Modde 8.0、ウメトリ(Umetri)、スウェーデン国ウメオ所在)を使用して二次モデルを独立変数にフィッティングした。
【0092】
応答曲面モデルを次の方程式:
【0093】
【数1】
にフィッティングした。上記式中、Yは応答変数、Xiはi番目の独立変数、β0は切片、βiは一次モデル係数、βiiは変数iの二次係数ならびにβijは要因iおよびjの間の相互作用のモデル係数であり、εは要因の実験誤差の組み合わせである。二次の項が、応答の曲率に関する情報を得ることを可能にする。
【0094】
決定係数(R2)および不適合度(lack−of−fit)検定を使用して、構築されたモデルが測定値を説明するのに適切かどうかを判断した。R2>0.8は、該モデルが許容可能な品質を有することを示している。可能な場合は、分散分析によって有意ではなかった(P>0.05)項を省略することにより該モデルを単純化する。しかしながら、R2が0.8未満になる場合は項を該モデルから除かなかった。
【0095】
RSMを使用して、初期粒子径、調製直後のDOE%、2〜8℃で56日間保存した後のDOE%および漏出、に対する選択された要因の影響を評価した。
結果および議論
モデルのフィッティング
多変量回帰および後退消去による最適フィッティングモデルを決定した。測定値および予測値は十分に相関した。応答変数に関するモデルの係数および確率(P)値の統計量を計算した(表2)。生成されたモデルは、測定結果および予測結果がよく相関したことから、概ね満足できる評価であった。分散分析によれば、生成されたモデルのいずれについても不適合はなかった。
【0096】
粒子径
データは、ホモジナイゼーション圧力が粒子径に最も大きな影響を有することを示している。調製時に使用されるホモジナイゼーション圧力が高いほど、粒子径は縮小する。調製時に使用されるスクロース濃度も粒子径に有意な影響を有することが実証された。スクロース濃度を増大させると大きな粒子径が得られる。リポソーム調製時に使用された内部スクロース濃度およびホモジナイゼーション圧力の粒子に対する影響を示す等高線プロットを、図1に示す。
【0097】
図2から、粒子径が大きくなると通常はより大量の封入シスプラチンが見られることが分かる。粒子径が大きくなると、内部容積が増大してより多くのPtが封入されることが可能となることも推測されるであろう。
【0098】
保存時の粒子径およびPDIの変化を図3〜4に示す。粒子径の著しい変化は、調製されたリポソーム製剤のうちいずれについても冷蔵時において観察されなかった。
初期の封入度(%)
製剤は84〜92%の範囲の初期封入度を有していた。NaClが初期の封入度(DOE)に最も大きな影響を有することが実証された。水和溶液中で高い塩濃度を使用すると、高い初期DOEが得られた。更に、調製時により高いホモジナイゼーション圧力を使用すると、低いDOEが得られた。これは恐らく、より高いホモジナイゼーション圧力ではより小さなリポソームが得られ、したがってより多くのプラチナがリポソーム外部にあると推測可能であるという事実による。リポソーム調製時に使用される内部NaCl濃度およびホモジナイゼーション圧力の初期DOE%に対する影響を例証する等高線を図5に示す。
【0099】
2〜8℃で56日間保存した後のDOE%および漏出に対するパラメータの影響
保存時のPt分析(総Pt含量、リポソーム外部のPt含量および漏出量)を図6〜8に示す。
【0100】
内部のNaClおよびスクロースの濃度が56日間保存後の封入度(DOE)に対して大きな影響を有することが実証された。リポソーム内部のNaClおよびスクロースの濃度がより高いほど、より高いDOEが得られた。ホモジナイゼーション圧力については主作用は観察されなかった;しかしながら、ホモジナイゼーション圧力とスクロースとの間の相互作用が見られた。内部のスクロース濃度が高く、かつホモジナイゼーション圧力が低いと、より高いホモジナイゼーション圧力を有する場合と比較して高いDOEが得られる。
【0101】
56日間の保存中に製剤から漏出するシスプラチンの量は、検討したすべての要因に左右される。しかしながら、漏出に対して最も重大な影響を有する要因はスクロース濃度であった。内部のNaClおよびスクロースの濃度の増大は、保存中の薬物保持を高めることが観察された。低圧で調製されたリポソームからは、高圧で調製されたものと比較してより多くの漏出の観察が可能であった。
【0102】
最も少ない漏出は、10%スクロースおよび1.9%NaClを含有する水和溶液で調製され、20000KPaでホモジナイズされた製剤について観察された。2〜8℃で56日間の保存後に最も高いDOEを有する製剤は、10%スクロースおよび1.9%NaClを含有する水和溶液で調製され、5000KPaでホモジナイズされていた。
【0103】
結論
応答モデルは、選択されたパラメータと応答との関係を十分に表した。結果は、内部のNaClおよびスクロースの濃度が2〜8℃で保存中のLiPlacis製剤からの漏出に重大な影響を有することを実証している。保存中に、薬物の保持に最も重大な影響を有する要因はスクロースであった。NaClの増大も薬物の保持を改善する。56日後で最も高い封入度は、リポソーム内部に高いNaClおよびスクロース濃度を有している製剤について見られた。DOEは水和媒体中のNaCl濃度を増大させることにより改善されることが実証された。
【0104】
高圧で調製されたリポソームと比較して、リポソームが低圧で調製されると漏出は最も顕著であった。初期のDOEも、より低い圧力で調製されたリポソームのほうが高い。ホモジナイゼーション圧力は粒子径に重大な影響を有するので、この結果は、薬物保持が粒子径によってある程度の影響を受けることを示している。i
【0105】
2か月間の保存後に最も高い封入度を有する製剤は、リポソーム内部に1.9% NaClおよび10%スクロースを用いて調製され、低圧でホモジナイズされたものであった。
【0106】
粒子径の著しい変化は、調製された製剤のうちいずれについても保存中に見られなかった。
実施例2
リポソーム系シスプラチン製剤を、薄膜水和およびその後の押出し処理によって調製した。水和溶液を、オスモライト濃度を変えて調製した。押出し処理後、リポソームを様々な媒体中で透析した。調製された製剤は、表3に略述されるような様々な浸透勾配(内部と外部との間の浸透圧モル濃度の差)を有していた。比較のために、他の化学療法剤のリポソーム製剤を表4に略述されるようにして調製した。すべての製剤を2〜8℃の冷蔵庫に入れ、保存中に継続的に試料を得た。
【0107】
リポソーム製剤の調製
リン脂質(DSPC/DSPG/DSPE−PEG2000、70:25:5、mol%)を9:1(v/v)クロロホルム/メタノールに溶解した。その後、溶解された脂質混合物の溶媒を、窒素ガス流下、50℃の温水浴で目視での乾燥状態まで蒸発させた。試料を真空下で終夜さらに乾燥させた。
【0108】
化学療法剤を含有する水和液(表3および4による様々な塩およびスクロース濃度のもの)を、多層のベシクル(MLV)を調製するために65℃の温度で乾燥脂質混合物に加えた。該脂質懸濁物を、確実に完全に水和させるために少なくとも30分間65℃に維持した。この間、脂質懸濁物を5分ごとに渦流混合した。大きな単層ベシクル(LUV)を、65℃にて規定の細孔径(100nm)を備えたメンブレンを通す押出し処理によって調製した。続いてLUVを、取り込まれなかった薬物を除去するために透析カセット(MWCO:10kDa)に移した。リポソーム製剤を、表3および4に略述されるような様々なバッファー中で透析した。
【0109】
調製後直ちに製剤をガラスバイアル中に分けた。ガラスバイアルをキャップで密閉し、冷蔵庫(2〜8℃)に入れた。冷蔵庫に入れた日を開始日と見なす。保存中に継続的に試料を取り、粒子径および薬物濃度(外部および総量)を測定した。
【0110】
結果:
リポソーム製剤を、シスプラチン、オキサリプラチン、MTX、ブレオマイシン、または5FUのいずれかを用いて調製した。シスプラチンおよび5FUのような低分子量の薬物(<350g/mol)を含有する製剤は、内部と外部との間の浸透勾配が小さい時に漏出しやすいことが観察された。より高分子量(>350g/mol)の薬物を含有するリポソーム製剤は、2〜8℃での保存中にほとんど漏出しないことが実証された。
【0111】
シスプラチン製剤における浸透勾配を高める試みは、保存中に漏出を最小限にする有効な方法であることが実証された。内部と外部との間の浸透勾配の差が>282mOsMであった時、保存中に観察される漏出は許容可能な水準に維持された(表3および図11を参照)。
【0112】
粒子径の変化は2〜8℃での保存中に粒子径において観察されなかった(図12)。このように製剤の粒子径は、シスプラチン製剤において浸透勾配を高めることによる影響を受けない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
sPLA2加水分解性リポソームと、
外部溶液と、
リポソーム内の内部溶液と
を含んでなる組成物であって、オスモライトの濃度が外部溶液よりも内部溶液において高いことを特徴とする組成物。
【請求項2】
リポソームはリポソーム内に封入された治療薬を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
治療薬は350未満の分子量を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
治療薬はシスプラチンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
唯一の治療薬がシスプラチンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
内部溶液は濃度0.8〜1%(w/w)のNaClまたはKClを含んでなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
外部溶液は濃度0.8〜1%(w/w)のNaClまたはKClを含んでなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
内部溶液と外部溶液との間のオスモライト濃度の差(内部のオスモライト濃度から外部のオスモライト濃度を減算)は少なくとも91mMであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
内部溶液と外部溶液との間のオスモライト濃度の差(内部のオスモライト濃度から外部のオスモライト濃度を減算)は少なくとも275mMであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
リポソームは、摂氏2〜8度で2か月間の保存後に漏出が30%未満であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項1】
sPLA2加水分解性リポソームと、
外部溶液と、
リポソーム内の内部溶液と
を含んでなる組成物であって、オスモライトの濃度が外部溶液よりも内部溶液において高いことを特徴とする組成物。
【請求項2】
リポソームはリポソーム内に封入された治療薬を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
治療薬は350未満の分子量を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
治療薬はシスプラチンであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
唯一の治療薬がシスプラチンであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
内部溶液は濃度0.8〜1%(w/w)のNaClまたはKClを含んでなることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
外部溶液は濃度0.8〜1%(w/w)のNaClまたはKClを含んでなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
内部溶液と外部溶液との間のオスモライト濃度の差(内部のオスモライト濃度から外部のオスモライト濃度を減算)は少なくとも91mMであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
内部溶液と外部溶液との間のオスモライト濃度の差(内部のオスモライト濃度から外部のオスモライト濃度を減算)は少なくとも275mMであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
リポソームは、摂氏2〜8度で2か月間の保存後に漏出が30%未満であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2013−508315(P2013−508315A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−534543(P2012−534543)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【国際出願番号】PCT/DK2010/050283
【国際公開番号】WO2011/047689
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(512069430)
【氏名又は名称原語表記】BIO−BEDST APS
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【国際出願番号】PCT/DK2010/050283
【国際公開番号】WO2011/047689
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(512069430)
【氏名又は名称原語表記】BIO−BEDST APS
【Fターム(参考)】
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