説明

保存生物学的標本のための保管液体としてのフッ素化流体の使用

標本を固定するか、または脱水する少なくとも1つのステップと、該標本を1種以上のフッ素化炭化水素を含有する保存流体に実質的に完全に浸漬させるステップと、を含む生物学的組織標本を保存する方法。また、1種以上のフッ素化炭化水素の流体を含有する保存流体に浸漬させられた生物学的組織標本。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、生物学的標本、例えば、動物および植物組織標本の保存に関する。特に、固定および/または脱水に続く組織標本の保存に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
多くの機関が、展示および/または研究目的のために生物学的組織標本を日常的に保有している。
【0003】
現在、生物学的組織標本は、保存、ならびにその後の、展示および/またはある種の後にする試験のために標本を保存するために、日常的に固定剤で保存されている。具体的な固定剤によるアプローチは、試料の性質および標本が用意されている試験に基づいて選択される。これらの保護的役割を行うにあたり、組織標本中のタンパク質が安定化され、標本の細胞構造が保護されるように、固定剤は、凝固または付加化合物の形成、あるいはこれら2つの組み合わせによってタンパク質を変性する。
【0004】
通常の固定剤によるアプローチの一つは、ホルマリン(例えば水中約10重量%の、ホルムアルデヒド有効量を含有する水溶液など)などのホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドベースの固定剤組成物を使用することである。標本は、標本に依存して、通常、数日またはさらには数週の期間、この固定剤組成物中に浸漬され、その間にホルムアルデヒドは標本と反応して架橋を形成し、例えば、塩基性アミノ酸と反応して「メチレン架橋」を形成し、組織死(「自己分解」)後の酵素の放出から生じる組織の崩壊を防止する。次いで、標本は、アルコール(例えば、エチルアルコールまたはイソプロピルアルコール)の後続の浴においてすすぎ洗いされ、残留ホルムアルデヒドを除去する。最後に、この試料は通常、例えば70重量%のエチルアルコールおよび30重量%の水、100重量%のメタノール、または80重量%のプロパノールのアルコール溶液中に保持される。場合によっては、標本は、例えば、ホルマリンなどのホルムアルデヒドベースの組成物中に無期限に保持される。
【0005】
場合によっては、組織標本は、例えば、アルコールなどの水抽出流体のすすぎ洗いで脱水することによって保存される。脱水に続いて、このような標本は、通常、これらを保存するためにアルコールベースの溶液中で保管される。米国特許第4,911,915号には、メチルアルコールおよびイソプロピルアルコールの一連の混合物を使用するこのような技術が開示されている。
【0006】
大学、博物館および医療施設などの多くの機関が、数千またはさらには数百万の試料を含む在庫品目を所有している。ホルムアルデヒドまたはホルムアルデヒドベースの固定剤組成物の使用について、これらの物質に関連する特定の健康リスクのために、重要問題となっている。標本の調製および/または保管のためのアルコールの使用は、可燃性物質が安全上の問題をもたらし、安全な保管のための特別な施設を必要とするので問題が多い。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、組織試料もしくは標本、およびこのような方法で保存されてきた組織標本の保存および保管のための新規なアプローチが提供される。
【0008】
概要において、本発明の方法では、(a)組織標本を提供するステップ、(b)該標本を固定するか、または脱水する少なくとも1つの工程によって該標本を調製するステップ、および(c)該標本を、本明細書において記載されるような保存流体に実質的に完全に浸漬させるステップが含まれる。一部の実施形態において、本発明は、新たに採取された標本を調製し、保存するために使用することができる。他の実施形態において、本発明は、従来の技術を使用して以前に調製され、保存され、現在ホルムアルデヒドもしくはホルムアルデヒドベースの流体中に保存されているか、または現在アルコールベースの流体中に保存されている組織標本を保存するために使用することができる。
【0009】
簡単に要約すると、本発明の組織標本には、本明細書に記載されるような保存流体に実質的に完全に浸漬される組織試料が含まれる。
【0010】
本発明では、このような標本の保存だけでなく、組織標本を保存するためのプロセスにおいて多くの意義深い利点が得られる。重要なことであるが、優れた保存性能を得ることができる。本発明の保存流体は、透明を保つ傾向があり、このように保存される標本を、例えば博物館、教室などにおける展示用に良く適したものとする。本発明の保存組成物は、不燃性である。従って、保存された標本は、輸送する、保管する、および扱うのにより安全である。また、ホルマリンなどのホルムアルデヒドもしくはホルムアルデヒドベースの化合物が置き換えられると、癌を引き起こす疑いのある薬剤を使用する毒性およびリスクが解消される。
【0011】
実施態様の詳細な説明
概要において、本発明の方法では、(a)組織標本を提供するステップ、(b)該標本を固定するか、または脱水する少なくとも1つの工程によって該標本を調製するステップ、および(c)該標本を、本明細書において記載されるような保存流体中に実質的に完全に浸漬させるステップが含まれる。
【0012】
本発明は、さまざまな植物または動物組織標本を保存するために使用され得る。本発明を用いて保存され得る動物組織の具体例としては、筋肉、臓器、脂肪、皮膚、骨、コラーゲンおよび結合組織などがある。本発明は、同様に他の動物組織標本、ならびにさまざまな植物組織標本に関して使用され得る。
【0013】
該組織標本は、固定するか、または脱水する少なくとも1つによって保存のために調製される。当業者に理解されるように、調製の仕方の選択は、標本が保存される目的、調製物質および装置の入手可能性に一部依存する。例えば、博物館および教室などにおける展示目的で使用されることが意図される標本は、通常、固定することによって調製され、一方、例えば、顕微鏡下での試験などの分析目的で使用されることが意図される試料は、通常、脱水することによって調製される。
【0014】
本発明の一部の実施形態において、該組織標本は、ホルムアルデヒド、および従来の仕方によるホルムアルデヒドと他の流体との混和物からなる群から選択される固定剤で固定することによって調製される。
【0015】
通常、固定することは、通常最少限48時間が使用される、組織を保存するために十分な期間、標本を固定剤中に実質的に完全に浸漬させることを含む。保存されている標本は、著しい分解が始まる前に固定剤が組織の全ての部分に浸透するような方法で調製される必要がある。
【0016】
使用され得る通常の固定剤としては、ホルマリン(例えば、水中約10重量%のホルムアルデヒドの有効量を含有する水溶液など)などのホルムアルデヒド、またはホルムアルデヒドベースの固定剤組成物である。標本は、該標本に依存して数日間またはさらには数週間固定剤組成物中に浸漬され、その間にホルムアルデヒドは該標本と反応し、架橋を形成し、例えば、塩基性アミノ酸と反応し、組織死(「自己分解」)後に酵素の放出から生じる組織の崩壊を防止する「メチレン架橋」を形成する。次いで、標本は、場合によって、アルコール(例えば、エチルアルコールまたはイソプロピルアルコール)のその後の浴においてすすぎ洗いされ、残留ホルムアルデヒドを除去し得る。
【0017】
このように固定すること、および場合によってアルコールのすすぎ洗いに続けて、標本は、下記に検討されるような保存流体中に、好ましくは実質的に完全に、浸漬させられる。
【0018】
一部の実施形態において、標本は、脱水することによって調製される。当該技術分野において周知の脱水の一方法は、水抽出液体を用いて標本を処理し、標本から水を抽出することを含む。典型的には、標本は、好適な水抽出液体の1つ以上の浴を用いて、例えばすすぎ洗いされるなど、接触させられるか、または該浴に実質的に完全に浸漬させられる。脱水剤として使用される組成物の具体例としては、1種以上のアルコール類を含有する組成物が挙げられる。
【0019】
標本は調製される後、すなわち固定する、および/または脱水することによって処理されるなどの後、好ましくは実質的に完全に、フッ素化炭化水素の流体中に浸漬させることによって保存される。
【0020】
標本は、保持され、好ましくは実質的に完全に、保存流体によって被われる。これは、標本を容器に入れ、保存流体で完全に表面下に沈めることによって、恐らくは達成され得る。好ましくは、標本の大気への暴露をもたらし、その結果所望の保存を達成することが恐らくはできなくなる保存流体の蒸発を防ぐために容器を密閉する。本発明によって使用され得る保存流体の一部の比重は、比較的高く、したがって試料が保存流体中に実質的に完全に浸漬されることを確実にするために、例えば、密閉する前に容器を空にし、標本の周りにガーゼ芯ラップを置き、標本が保持されている容器部分を保存液などで完全に充填する、などのステップを取ることが必要であり得る。
【0021】
本発明の保存流体は、室内の温度および圧力で好ましくは通常液体である1種以上のフッ素化炭化水素の流体を含有する。フッ素化炭化水素の流体は、部分的にフッ素化されていてもよいし、または完全にフッ素化、すなわち過フッ素化されていてもよい。流体は若干の他のハロゲン、例えば、塩素または臭素を含んでもよい。本明細書において有用であり得るフッ素化炭化水素の流体の具体例は、ヒドロフルオロエーテル類(“HFEs”)、例えばスリーエム・カンパニー(3M Company)からのNOVEC(商標)Engineered Fluids;旭硝子からのASAHIKLIN(商標)AK−225およびデュポン(DuPont)からのHCFC−141bなどの(“HCFCs”)ヒドロクロロフルオロカーボン類;デュポンからのVERTREL(商標)XFなどのヒドロフルオロカーボン類(“HFCs”);3M(商標)Fluoroinert(商標)Liquidsなどのペルフルオロカーボン類(“PFCs”);およびクロロフルオロカーボン類(“CFCs”)からなる群から選択される。HFEsは、本発明による優れた性能を与え、取り扱いに安全であり、地球温暖化の可能性が低いので典型的に好ましい。一部の実施形態において、保存流体は、主として1種以上のフッ素化炭化水素の流体からなる。
【0022】
一部の他の実施形態において、保存流体は、1種以上の共媒体をさらに含む。共媒体の種類および量の選択は、保存される標本の性質に一部依存する。当業者は、特定の共媒体が特定の標本の保存に使用され得るかどうか容易に決定することができる。使用され得る共媒体の具体例としては、アルコール類、炭化水素類、または他の一般的な有機溶媒が挙げられる。
【0023】
保存流体は、好ましくは不燃性である。「不燃性」によって、保存流体は引火点を有さず、炎を持続させることができないことが意味される。
【0024】
好ましくは、保存流体は水と実質的に不混和性であり、従って、保存流体は調製後、任意の残留固定剤または組織試料から水を抽出することがなく、その保存特性をより安定させる。
【0025】
保存流体は、ホルムアルデヒドに実質的に不溶性であり、逆もまた同様であり、従って、任意のホルムアルデヒドは架橋固定剤として所定の場所に残り、ホルムアルデヒドベースの物質を用いて固定することによって調製された組織試料の安定性および外観を向上させる。
【0026】
ホルムアルデヒドもしくはホルマリン固定を用いて、またはアルコール固定によってのいずれかで、以前にアルコール中に調製されて、保管された保存標本は、本発明による保存流体の容器中で保存することができる。該保管保存液としてのアルコールを置き換えると、このような標本は、火災の潜在的危険を低減させることによって、輸送する、保管する、および扱うのにより安全となる。さらに、本明細書に記載される保存流体は、従来公知のアルコール含有固定剤および保管保存液に比べて他の安全および性能の利点を提示し得る。
【0027】
簡単に要約すると、本発明の組織標本は、本明細書に記載されるような保存流体に実質的に完全に浸漬させられた組織試料を含む。
【実施例】
【0028】
実施例
本発明は、以下の具体例によってさらに説明されるが、これらの実施例において説明される特定の物質およびこれらの量、ならびに他の条件および詳細は、本発明を不当に制限すると解釈されるべきではない。
【0029】
他に特記されない限り、全ての量は、重量部で表される。
【0030】
【表1】

【0031】
他に特記されない限り、以下の試験方法が使用された。
【0032】
対照試料
6匹のミミズ(Lumbricus terrestris)をエタノール中で安楽死させ、切開し、10%ホルムアルデヒド/水(w/w)溶液で清浄し、次いで10%ホルムアルデヒド溶液を含む100ml広口瓶に入れた。ミミズ組織の一部を、下記するような他の試験流体を用いて試験するために、48時間後に除去した。さらに、ミミズ組織の一部を、顕微鏡用切片を作製する目的のために1週および10週後に除去した。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。10%ホルムアルデヒド中に保存された組織の外観は、良好な筋の羽状性(feathering)を示し、1週および10週後に劣化または分解の徴候を示さなかった。
【0033】
他の6匹のミミズ(Lumbricus terrestris)をエタノール中で安楽死させ、切開し、70%エタノール/水(w/w)溶液で清浄し、次いで70%エタノール/水を含む100ml広口瓶に入れた。ミミズ組織の一部を、下記するような他の試験流体を用いて試験するために、48時間後に除去した。さらに、ミミズ組織の一部を、顕微鏡用切片を作製する目的のために1週および10週後に除去した。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。70%エタノール中に保存された組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、1週および10週後に劣化または分解の徴候を示さなかった。
【0034】
実施例1
ミミズ組織の一部を、48時間後に10%ホルムアルデヒド溶液から除去した。該組織を3M(商標)NOVEC(商標)Engineered Fluid HFE−7100を含む100ml広口瓶に入れ,この容器を蓋で密閉した。組織の一部を1週および10週後に除去し、顕微鏡用切片を作製する目的のために処理した。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、10%ホルムアルデヒド中に保管した組織試料と全然違って見えなかった。
【0035】
実施例2
3M(商標)NOVEC(商標)Engineered Fluid HFE−7200を使用して、実施例1に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、10%ホルムアルデヒド中に保管された組織試料と全然違って見えなかった。
【0036】
実施例3
3M(商標)NOVEC(商標)Engineered Fluid HFE−71IPAを使用して、実施例1に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、10%ホルムアルデヒド中に保管した組織試料と全然違って見えなかった。
【0037】
実施例4
ミミズ組織の一部を、48時間後に10%ホルムアルデヒド溶液から除去した。70%、80%、95%および100%エタノールを含む溶液中で連続的にすすぎ洗いすることによって組織試料から水を除去した。脱水された組織を、HFE−7100を含有する100ml広口瓶に入れ、この容器を蓋で密閉した。組織の一部を、1週および10週後に除去し、顕微鏡用切片を作製する目的のために処理した。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、10%ホルムアルデヒド中に保管した組織試料と全然違って見えなかった。
【0038】
実施例5
HFE−7200を使用して、実施例4に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、10%ホルムアルデヒド中に保管した組織試料と全然違って見えなかった。
【0039】
実施例6
HFE−71IPAを使用して、実施例4に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、10%ホルムアルデヒド中に保管した組織試料と全然違って見えなかった。
【0040】
実施例7
ミミズ組織の一部を、48時間後に70%エタノール溶液から除去した。70%、80%、95%および100%エタノールを含む溶液中で連続的にすすぎ洗いすることによって組織試料から水を除去した。脱水された組織をHFE−7100を含む100ml広口瓶に入れ、この容器を蓋で密閉した。組織の一部を、1週および10週後に除去し、顕微鏡用切片を作製する目的のために処理した。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、70%エタノール中に保管した組織試料と全然違って見えなかった。
【0041】
実施例8
HFE−7200を使用して、実施例7に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、70%エタノール中に保管した組織試料と全然違って見えなかった。
【0042】
実施例9
HFE−71IPAを使用して、実施例7に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週および10週の両方で組織の外観は、良好な筋の羽状性を示し、70%エタノール中に保管された組織試料と全然違って見えなかった。
【0043】
比較例1
ミミズ組織の一部を、48時間後に70%エタノール溶液から除去した。該組織を、HFE−7100を含む100ml広口瓶に入れ,この容器を蓋で密閉した。組織の一部を1週および10週後に除去し、顕微鏡用切片を作製する目的のために処理した。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週後に組織は70%エタノール中に1週間保管された組織試料と全然違って見えなかったが、10週後に該試料は分解に一致する著しい細胞劣化を示した。観察可能な筋の羽状性または凝集性(cohesiveness)は存在しなかった。この比較例は、保存流体中に標本を入れる前に、例えば、固定または脱水することによって標本を調製する必要性を示す。
【0044】
比較例2
HFE−7200を使用して、比較例1に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週後に組織は70%エタノール中に1週間保管された組織試料と全然違って見えなかったが、10週後に試料は分解に一致する著しい細胞劣化を示した。観察可能な筋の羽状性または凝集性は存在しなかった。この比較例は、保存流体中に標本を入れる前に、例えば、固定または脱水することによって標本を調製する必要性を示す。
【0045】
比較例3
HFE−71IPAを使用して、比較例1に記載された手順に従った。スライドを調製し、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、光学顕微鏡下で調べた。1週後に組織は70%エタノール中に1週間保管された組織試料と全然違って見えなかったが、10週後に試料は分解に一致する著しい細胞劣化を示した。観察可能な筋の羽状性または凝集性は存在しなかった。この比較例は、保存流体中に標本を入れる前に、例えば、固定または脱水することによって標本を調製する必要性を示す。
【0046】
実施例10〜13
5匹のミミズ(Lumbrius terrestris)をエタノール中で安楽死させ、切開し、10%ホルムアルデヒド/水(w/w)溶液で清浄した。次いで、清浄されたミミズを、10%ホルムアルデヒドを含む100ml広口瓶に48時間入れ、次いで、さまざまな試験流体を含む100ml広口瓶に移した。この広口瓶を密閉し、ミミズの目視試験を8週の期間にわたって行った。透明な流体を示し、組織外観において変化を示さなかった試料を「良」と等級づけした。結果を下記表1に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
本発明の範囲および精神から逸脱することなく、本発明のさまざまな修正および変更は、当業者にとって明らかになる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)組織標本を提供するステップ、(b)前記標本を固定するか、または脱水する、少なくとも1つステップ、および(c)前記標本を、1種以上のフッ素化炭化水素を含む保存流体中に実質的に完全に浸漬させるステップを含む、生物学的標本を保存する方法。
【請求項2】
前記フッ素化炭化水素が、部分的にフッ素化された炭化水素および過フッ素化された炭化水素から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フッ素化炭化水素がヒドロフルオロエーテル類、ヒドロクロロフルオロカーボン類、ペルフルオロカーボン類、ヒドロフルオロカーボン類、クロロフルオロカーボン類、およびこれらの混和物からなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記保存流体が共媒体をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記保存流体が不燃性である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記固定するステップが、前記標本を、ホルムアルデヒド、およびホルムアルデヒドと他の流体との混和物からなる群から選択される固定剤で処理することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記固定するステップが、前記標本を、前記標本に実質的に完全に浸透するのに十分な期間、前記固定剤中に実質的に完全に浸漬させることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記脱水するステップが、前記標本を水抽出液体で処理し、前記標本から水を抽出することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記水抽出液体が、1種以上のアルコール類を含有する組成物である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記処理が、2回以上のすすぎ洗いにおいて前記標本に前記水抽出液体を適用することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
1種以上のフッ素化炭化水素流体を含む保存流体中に浸漬された生物学的標本。
【請求項12】
前記標本が前記保存流体中に浸漬される前に固定される、請求項11に記載の標本。
【請求項13】
前記標本が前記保存流体中に浸漬される前に脱水される、請求項11に記載の標本。

【公表番号】特表2008−533500(P2008−533500A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503086(P2008−503086)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/010186
【国際公開番号】WO2006/102304
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(599056437)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (1,802)
【Fターム(参考)】