説明

保守点検情報の管理方法および管理システム

【課題】保守点検の対象となる装置の使用状況に関する履歴情報を、装置の稼働時から採取して把握することにより、装置の不具合発生の予測可能性を高め、効率的に保守点検を行うことができる保守点検情報の管理方法および管理システムを提供する。
【解決手段】装置(GT)の保守点検を行うための情報を管理するに際して、当該装置の稼働状況に関する装置稼動履歴情報を採取し、前記装置稼動履歴情報を、保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位累積履歴情報として保存し、前記保守点検単位累積履歴情報を、保守点検の前後について対比することによって解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置の保守点検を行うために使用する情報の管理方法および管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多数の部品からなる装置の保守点検作業は、装置の故障発生時には、装置の異常調査→原因推定→不良部品の特定→代替部品調達→部品交換→運転確認→再発防止措置、が一連の作業として行われる。また、定期的な保守点検においては、装置点検→分解→部品洗浄・交換→運転確認、を行い、不良部品が発見されれば、代替部品を調達し、再発防止措置が実行される(例えば、特許文献1)。このような保守点検作業では、部品寿命を正しく判断することにより、装置の不用意な停止を招くことなく、装置の信頼性と稼働率を高めることが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−072891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、故障停止が発生した場合や定期的な保守点検で部品不良が発見された場合、その原因も含めた調査や再発防止措置がその都度検討はされるが、保守点検対象となる該当装置や部品の使用状況、運用状況、過去の故障発生の有無や頻度、対象部品の識別番号や履歴を即座に把握することが困難であり、現地での調査負担の増大や装置復旧時間の長期化を招いていた。
【0005】
また、定期的な保守点検においては、予め計画された部品交換周期に合わせて交換部品の事前調達が行なわれるが、見積もりや調達部品の確認のための事前調査作業量が膨大であり、これが全保守点検作業の約80%近くを占めるとも言われている。さらには、保守点検の結果、その時点では対象装置や部品に異常がなくとも、次回の点検予定日まで問題なく使用できるかについては、単に使用期間に基づいて判定されており、装置や部品の使用状況を考慮に入れた判定はなされていなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、保守点検の対象となる装置の使用状況に関する履歴情報を、装置の稼働時に採取して把握することにより、装置の不具合発生の予測可能性を高め、効率的に保守点検を行うことができる保守点検情報の管理方法および管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る保守点検情報の管理方法または管理システムは、当該装置の稼働状況に関する装置稼動履歴情報を採取し、前記装置稼動履歴情報を、保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位累積履歴情報として保存し、前記保守点検単位累積履歴情報を、保守点検の前後について対比することによって解析する。
【0008】
この構成によれば、装置の履歴情報をリアルタイムで採取し集計するので、定期点検や装置の不具合発生の前に、当該装置の不具合発生を事前に予測することが可能となる。したがって、装置の不具合発生を未然に防止し、効率的に装置の保守点検を行うことができる。
【0009】
本発明の一実施形態において、さらに、保守点検の対象となる、前記装置を構成する部品に、部品の種類および設置部位によって識別する識別情報を割当て、前記識別された部品ごとに、装置稼働後の使用状況に関する複数の項目からなる部品履歴情報を採取し、前記部品履歴情報を、前記保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位部品履歴累積情報として保存し、前記保守点検単位部品履歴累積情報を、保守点検の前後について対比することによって解析することが好ましい。前記装置は、例えばガスタービン発電機であり、その場合、前記保守点検単位累積履歴情報とは、例えば、保守点検後の経過日数、装置始動回数または装置稼働時間であり、前記保守点検単位部品履歴累積情報とは、例えば、当該部品の保守点検後の経過日数、装置始動回数または装置稼働時間である。この構成によれば、各部品の特性や使用状況等の個別条件に応じた情報収集および解析により、当該装置の不具合発生をより高精度に予測することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る運転管理方法または管理システムによれば、以上のように、保守点検の対象となる装置の使用状況に関する履歴情報を、装置の稼働時から採取して把握することにより、装置の不具合発生の予測可能性を高め、効率的に保守点検を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る方法を実行する管理システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る情報管理手順を示すフロー図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る情報管理方法における情報の保存形態を示す模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る情報管理方法における情報の保存形態を示す模式図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る情報管理方法における情報の解析例を示すグラフである。
【図6】本発明の一実施形態に係る情報管理方法における情報の解析例を示す表である。
【図7】本発明の一実施形態に係る情報管理方法における情報の解析例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下,本発明の好ましい実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1に、装置の保守点検を行うための情報を管理する、本発明の一実施形態に係る管理方法を実行する管理システム1が設けられた設備の概略構成を示す。本実施形態では、保守点検の対象となる装置として、ガスタービンエンジンGTを例として説明する。
【0014】
ガスタービンエンジンGTは、空気を圧縮する圧縮機3と、圧縮機からの圧縮空気に燃料を供給して燃焼させる燃焼器5と、圧縮機3に回転軸7を介して連結され、燃焼器5からの燃焼ガスによって駆動されるタービン9とを備えており、回転軸に連結された発電機のような負荷Lを駆動する。
【0015】
管理システム1は、図2に示すように、ガスタービンエンジンGTが出荷および設置された後、ガスタービンエンジンGTの稼働状況に関する情報である装置稼動履歴情報を採取し、この装置稼働履歴情報を保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位累積履歴情報として保存し、保守点検条件を、前記保守点検単位累積履歴情報を対比して解析することにより、ガスタービンエンジンGTの保守点検を行うための情報を管理する。
【0016】
また、同図に示すように、管理システム1は、さらに、ガスタービンエンジンGTを構成する部品に、部品の種類および設置部位によって識別する識別情報を割当て、この識別された部品ごとに、装置稼働後の使用状況に関する複数の項目からなる部品履歴情報を採取し、この部品履歴情報を、前記保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位部品履歴累積情報として保存し、保守点検単位部品履歴累積情報を、保守点検の前後について対比することによって解析する。
【0017】
なお、ガスタービンエンジンGTは、保守点検の対象となる多くの構成部品を備えているが、本実施形態では、その中でタービンを構成する部品であるタービンブレードを例として説明する。
【0018】
図1に示すように、ガスタービンエンジンGTには、ガスタービンエンジンGTが設置されてからの稼働履歴情報または部品履歴情報を採取する手段である測定器11が取り付けられている。ガスタービンエンジンGTに取り付けられる測定器11の種類、設置部位(部品)および数は、保守点検のために必要な情報の項目に応じて適宜選択される。本実施形態においては、測定器11として、例えば、タービンからの燃焼ガス排出口の温度を測定する温度測定器、駆動する負荷の大きさを測定する負荷測定器などが設置されている。
【0019】
ガスタービンエンジンGTの測定器11によって採取された装置稼働履歴情報や部品履歴情報は、ネットワーク13のような有線または無線の通信回線を介して、本実施形態の管理システム1を構成する管理サーバ15に送られる。管理サーバ15は、送られてきた装置稼働履歴情報や部品履歴情報を更新、保存および解析する手段であり、例えば、情報の各種制御および処理を行う、CPU等からなる制御部17、情報を保存する、ハードディスク等からなる記憶部19、情報を表示する表示部21、外部から管理サーバ15を通して管理システム1に指令を与えるキーボードなどからなる入力部23を備えている。管理サーバ15が備える記憶部19のほかに、外付けの記憶装置が管理サーバ15に接続されていてもよい。
【0020】
管理サーバ15に送られた装置稼働履歴情報は、制御部17において、装置の寿命や不具合発生に影響を与え得る項目ごとに整理されて、記憶部19に保存される。個々の装置に関して取得される装置稼働履歴情報は、例えば、図3に示すように、以下のような項目ごとに整理される。
(1)装置を管理および識別するための情報
・装置を識別するための情報として、例えば、装置名称、装置識別番号、設置年月日、保守点検サービス担当者名等
・当該装置の保守点検の履歴に関する情報として、例えば、オーバーホール(OH)や各種定期点検の実施回数、旧実施年月日、新実施年月日、次回実施予定年月、不具合の処置年月日、不具合処置担当者等
(2)装置の稼働状況に関する情報
・稼働履歴に関する基本的な情報として、例えば、設置からの経過日数、装置の始動回数、稼働時間、装置の不具合や寿命への影響が大きい特定の運転条件下における稼働時間(図3の例では重負荷下での稼働時間)、負荷Lである発電機の総生成電力量、総燃料流量等
・装置の不具合発生や寿命への影響が大きい特定の要因に関する詳細な情報として、例えば、稼働時の装置温度(図3の例では排気ガス温度:EGTとして測定)ごとの稼働時間等
・装置の不具合発生履歴に関する情報として、例えば、重故障発生回数、軽故障発生回数等
【0021】
上記の各項目の情報は、装置設置後の総量として保存されるとともに、オーバーホールや定期点検などの保守点検時ごとに更新され、次回の保守点検時までの保守点検単位累積履歴情報としても保存される。図3の例では、「前OH時累計データ」および「前定期点検時累計データ」として保守点検単位累積履歴情報が保存されている。
【0022】
さらに、管理システム1は、上述のように、ガスタービンエンジンGT全体の稼働状況に関する装置稼働履歴情報のほかに、各構成部品に関する部品履歴情報を採取して管理する。この部品履歴情報は、部品の種類および設置部位によって区別して識別される管理単位部品ごとに管理される。本実施形態の例では、例えば、「第n段タービン段の第m枚目(設置部位)のタービンブレード(部品の種類)」を管理単位部品として部品履歴情報が管理される。つまり、「第n段タービン段の第m枚目のタービンブレード」は、この部品の経年劣化による寿命や不具合によって部品自体は交換される場合があるが、交換の前後を通じて、「第n段タービン段の第m枚目のタービンブレード」を単位として部品履歴情報を管理する。
【0023】
個々の管理単位部品に関して取得される部品履歴情報は、例えば、図4に示すように、以下のような項目ごとに整理される。
・部品を管理および識別するための情報として、例えば、部品名称、部品識別番号、部品業者コード、新旧の部品シリアル番号(製造ロット番号)等
・当該部品の保守点検の履歴に関する情報として、例えば、部品交換、オーバーホール(OH)や各種定期点検の実施回数、旧実施年月日、新実施年月日、次回実施予定年月、不具合の発生回数、不具合処置年月日等
・当該部品の保守点検後の使用履歴に関する情報として、例えば、新旧部品の各種保守点検後(つまり、交換後、オーバーホール後、定期点検後、不具合処置後など)の経過日数、装置稼働時間、装置始動回数等
【0024】
なお、部品の保守点検の履歴に関する情報および保守点検後の使用履歴に関する情報は、各種保守点検の指令が出されることにより、自動的に更新されるように設定されている。
【0025】
なお、上記の装置稼働履歴情報および部品履歴情報を採取、整理するための項目は、ガスタービンエンジンGTを保守点検の対象とする場合の一例であり、装置の不具合発生や寿命に影響を与える要因を考慮して、適宜選択することができる。
【0026】
このように保存された情報は、必要に応じて、管理システム1により以下のように解析される。
【0027】
装置稼働履歴情報については、新旧の保守点検単位累積履歴情報を対比することにより解析を行う。例えば、図5に示すように、新旧の保守点検単位累積履歴情報を、経過日数、始動回数、運転時間などの項目別に対比して表示する。表示された情報から、例えば、経過日数のわりに装置始動回数が多い場合は、次回の点検でスタータを詳しく点検することを提案する。あるいは、図6に示すように、装置の環境温度である稼働温度別の稼働時間を、前回の保守点検後と今回の保守点検後について対比して表示し、今回の保守点検後の稼働温度が前回よりも低い場合、次回の保守点検までの期間を前回よりも延ばすよう提案する。
【0028】
部品履歴情報については、図7に示すように、部品交換、オーバーホール、定期点検または不具合処置などの保守点検種類別に、各部品の使用状況を、部品交換前後の新旧部品について対比して表示する。表示された情報から、例えば、平均的な交換タイミングを経過していると判断される場合、その部品の早急な交換を提案する。このように、各部品の特性や使用状況等の個別条件に応じた情報収集および解析を行うことができるので、ガスタービンエンジンGTの不具合発生をより高精度に予測することが可能となる。
【0029】
このように、本実施形態に係る保守点検情報の管理方法または管理システム1によれば、装置(ガスタービンエンジンGT)の履歴情報をリアルタイムで採取し集計することにより、定期点検や装置の不具合発生の前に、ガスタービンエンジンGTの不具合発生を事前に予測することが可能となる。これにより、ガスタービンエンジンGTの不具合発生を未然に防止し、効率的に装置の保守点検を行うことができる。
【0030】
なお、本発明は、ガスタービン発電機のほか、ディーゼル発電機、各種プラント等、種々の装置の保守点検管理に適用することができる。
【0031】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。したがって、そのようなものも本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1 管理システム
11 測定器
15 管理サーバ
17 制御部
19 記憶部
21 表示部
GT ガスタービンエンジン(装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置の保守点検を行うための情報を管理する方法であって、
当該装置の稼働状況に関する装置稼動履歴情報を採取し、
前記装置稼動履歴情報を、保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位累積履歴情報として保存し、
前記保守点検単位累積履歴情報を、保守点検の前後について対比することによって解析する、
保守点検情報の管理方法。
【請求項2】
請求項1において、さらに、
保守点検の対象となる、前記装置を構成する部品に、部品の種類および設置部位によって識別する識別情報を割当て、
前記識別された部品ごとに、装置稼働後の使用状況に関する複数の項目からなる部品履歴情報を採取し、
前記部品履歴情報を、前記保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位部品履歴累積情報として保存し、
前記保守点検単位部品履歴累積情報を、保守点検の前後について対比することによって解析する、
保守点検情報の管理方法。
【請求項3】
請求項2において、前記装置がガスタービン発電機であり、前記保守点検単位累積履歴情報が、保守点検後の経過日数、装置始動回数およびの装置稼働時間の少なくともいずれか1つを含み、前記保守点検単位部品履歴累積情報が、当該部品の保守点検後の経過日数、装置始動回数および装置稼働時間の少なくともいずれか1つを含む保守点検情報の管理方法。
【請求項4】
装置の保守点検を行うための情報を管理するシステムであって、
当該装置の稼働状況に関する、装置稼動履歴情報を採取する手段と、
前記装置稼動履歴情報を、保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位累積履歴情報として保存する手段と、
前記保守点検単位累積履歴情報を、保守点検の前後について対比することによって解析する手段と、
を備える保守点検情報の管理システム。
【請求項5】
請求項4において、さらに、
保守点検の対象となる、前記装置を構成する部品に、部品の種類および設置部位によって識別する識別情報を割当てる手段と、
前記識別された部品ごとに、装置稼働後の使用状況に関する複数の項目からなる部品履歴情報を採取する手段と、
前記部品履歴情報を、前記保守点検時ごとに更新して、次回の保守点検時までの保守点検単位部品履歴累積情報として保存する手段と、
前記保守点検単位部品履歴累積情報を、保守点検の前後について対比することによって解析する手段と、
を備える保守点検情報の管理システム。
【請求項6】
請求項5において、前記装置がガスタービン発電機であり、前記保守点検単位累積履歴情報が、保守点検後の経過日数、装置始動回数およびの装置稼働時間の少なくともいずれか1つを含み、前記保守点検単位部品履歴累積情報が、当該部品の保守点検後の経過日数、装置始動回数および装置稼働時間の少なくともいずれか1つを含む保守点検情報の管理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−85355(P2013−85355A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222891(P2011−222891)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【出願人】(598084666)株式会社第一テクノ (8)
【Fターム(参考)】