説明

保守管理システム及び保守管理方法

【課題】同一の形状からなる機器であっても、点検者が点検現場で誤った点検を行うことのない保守管理システム及び保守管理方法を提供すること。
【解決手段】保守管理システム(1)を構成する携帯端末(10)は、同一の形状からなる機器(20A,20E)を含む複数の機器(20)の夫々に対応付けて設けられたICタグ(25)を読み込むと、当該ICタグ(25)に対応する機器に関する情報を記憶する機器情報DBから当該ICタグに対応する機器に関する情報を取得し、表示手段(13)に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所に設けられた機器を保守管理する保守管理システム及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所には、ポンプや電磁弁に加え圧力や温度や流量などを測定する計測器が多数(約1.5万台)設けられ、これらの機器(ポンプ、電磁弁、計測器などの発電所に設けられた機器)を点検管理会社の社員(点検者)が定期的に点検することで保守管理が行われている。従来では、これら計器の仕様は書面で管理され、また、点検者による点検も書面で提出された記録を発電所が確認した後に承認し、その後、当該書面を資料室に保管することが一般的であった。
【0003】
しかしながら、計器仕様が書面で管理されているため、計器仕様の検索性が悪く、また、計器の特殊な計算式などの点検者として把握すべき事項が散逸して、間違った計器校正を行うおそれがあった。また、点検結果を書面で管理した場合、過去の点検結果を調べる際に検索性が悪く、過去の点検データから劣化具合を評価する際に労力がかかっていた。
【0004】
そのため、近年では、点検者からの点検結果を電子化し、点検結果の検索が容易になる技術が提案されている。例えば、特許文献1では、設備の状態情報や検査作業情報を一元管理し大型のスクリーンに表示することで、複数の担当者が交代管理しても作業状況の引継ぎが円滑になる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−27078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術は、多くの関係者により確認可能な大型のスクリーンに情報を表示するだけであり、点検者が現場で情報を確認することができなかった。ここで、発電所のような大型の設備では、多数設けられた機器には同一の形状からなる機器も含まれ、単に情報を一元管理するだけでは、点検者が点検現場で誤った機器を扱ってしまうおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明は、同一の形状からなる機器であっても、点検者が点検現場で誤った点検を行うことのない保守管理システム及び保守管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 同一の形状からなる機器を含む複数の機器から構成される発電所の保守管理システムであって、複数の前記機器の夫々に対応付けて設けられたICタグと、前記ICタグに対応する機器に関する情報を記憶する機器情報記憶手段と、発電所の点検者が携帯し、前記ICタグを読み込み可能な携帯端末と、を備え、前記携帯端末は、読み込んだ前記ICタグに対応する機器に関する情報を前記機器情報記憶手段から受信する通信手段と、受信した前記情報を表示する表示手段と、を備える保守管理システム。
【0009】
(1)の保守管理システムによれば、発電所に設けられた機器には、夫々に対応付けられたICタグが設けられ、点検者が携帯する携帯端末から読み込み可能にした。携帯端末では、ICタグを読み込むと、対応する機器に関する情報を表示手段に表示する。これにより、点検者は、点検現場にいながら現場の機器に設けられたICタグを読み込むだけで、当該機器に関する情報を取得することができる。そのため、同一の形状からなる機器であっても、当該機器に個別の情報を適切に取得することができ、点検者が点検現場で誤った点検を行うことがない。
【0010】
(2) 前記携帯端末は、前記点検者からの入力を受け付ける入力手段を備え、前記入力手段により受付けられた前記入力に基づいて、前記機器情報記憶手段に記憶された情報を更新する更新手段を、備える(1)に記載の保守管理システム。
【0011】
(2)の保守管理システムによれば、機器に関する情報を点検者が携帯端末から更新可能にした。これにより、点検者は、点検現場から直接点検結果を入力することができ、誤った機器に対する点検結果を管理してしまうことを防止できる。
【0012】
(3) 前記携帯端末と通信可能に接続され、前記機器情報記憶手段及び前記更新手段を備える中央制御端末を備える(2)に記載の保守管理システム。
【0013】
(3)の保守管理システムによれば、機器に関する情報を適切に管理することができる。
【0014】
(4) 同一の形状からなる機器を含む複数の機器から構成される発電所の保守管理方法であって、複数の前記機器の夫々に対応付けて設けられたICタグと、前記ICタグに対応する機器に関する情報を記憶する機器情報記憶手段と、発電所の点検者が携帯し、前記ICタグを読み込み可能な携帯端末と、を備え、前記携帯端末は、読み込んだ前記ICタグに対応する機器に関する情報を前記機器情報記憶手段から受信する通信ステップと、受信した前記情報を表示する表示ステップと、を含む保守管理方法。
【0015】
(4)の保守管理方法によれば、(1)の保守管理システムと同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、同一の形状からなる機器であっても、点検者が点検現場で適切な点検を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の保守管理システムの機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の保守管理システムを構成する機器情報DBを示す図である。
【図3】本発明の保守管理システムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】点検者が携帯する携帯端末の表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0019】
[保守管理システムの構成]
図1は、本発明の保守管理システム1の構成を示すブロック図である。
保守管理システム1は、点検者が携帯する携帯端末10と、発電所を構成する複数の機器20A,20B,20C,20D,20E(以下、区別しない場合には「機器20」とする)と、機器20の夫々に対応付けて設けられたICタグ25A,25B,25C,25D,25E(以下、区別しない場合には「ICタグ25」とする)と、発電所の中央制御室に設けられた中央制御端末30と、を備える。
【0020】
携帯端末10は、ICタグ読込手段11と、通信手段12と、表示手段13と、入力手段14と、を備える。
【0021】
ICタグ読込手段11は、機器20に対応付けて設けられたICタグ25と、例えば、非接触通信により交信し、当該ICタグに付与された個体識別情報を読み込む。
通信手段12は、例えば、社内イントラネット回線100を介して中央制御端末30と通信する。通信手段12は、読み込まれた個体識別情報をキーとして、当該個体識別情報に対応付けられた情報を中央制御端末30に設けられた機器情報DB(DB:データベース)から受信する。なお、機器情報DBについては、後述する。
【0022】
表示手段13は、通信手段12が受信した情報を表示する。
入力手段14は、点検者からの入力を受け付ける。入力手段14が受け付けた入力は、通信手段12により中央制御端末30に送信され、当該入力に基づいて機器情報DBが更新される。
【0023】
続いて、機器20は、同一の形状からなる機器を含む。例えば、機器20A及び機器20Eは、同一の形状からなる電磁弁である。なお、図1に示した機器は、一例に過ぎず他の機器、例えば、発電所における警報表示器やハードスイッチなども含む。
ICタグ25は、機器20に埋め込まれた非接触通信により交信可能なICチップであり、夫々にICタグ25を識別するための(すなわち、機器20を識別するための)個体識別情報が付与されている。
【0024】
次に、中央制御端末30は、発電所の中央制御室に設けられ、個体識別情報に対応付けられた情報を記憶する機器情報DBを備える。
ここで、図2を参照して、機器情報DBについて説明する。
機器情報DBは、ICタグ25に付与された個体識別情報に対応付けて、機器名称、点検履歴、備考、動作状況、及び操作マニュアルを含む様々な情報を記憶する。また、機器情報DBは、点検者からの入力に基づいて、点検結果を記憶する。機器情報DBは、携帯端末10の入力手段14が受け付けた入力に基づいて更新される。
【0025】
機器情報DBの機器名称は、ICタグ25が設けられた機器20の名称を示し、点検履歴は、当該機器20の点検の履歴を示す。例えば、個体識別情報「A10001」は、機器名称「○○弁(A)」に設けられ、平成21年11月20日に第15回点検が行われたことが記憶されている。なお、点検履歴として、過去の点検の結果を記憶しておくこととしてもよい。例えば、過去の点検の結果をファイル形式で管理し、当該ファイルを点検者が携帯端末10を介して閲覧可能にすることとしてもよい。
【0026】
また、機器情報DBの備考は、点検時に点検者が気づいた情報を示し、動作状況は、機器20の現在の動作状況を示す。例えば、機器名称「○○弁(A)」については、備考として過去の点検時に周囲において異音があるが、特に問題がなかった旨が記憶され、また、動作状況として、現在、閉鎖状態であることが記憶されている。点検者にすると、点検現場において異音が発生していたとしても、備考を確認することで、逐次中央制御室などに確認を取ることなく、点検現場にいながら問題のないことを把握できる。また、現場で弁を開放していくたびに点検者が携帯する携帯端末10から機器情報DBの動作状況を更新することで、例えば、発電所の運営におけるプラント起動時などに機器20が動作しているかを適切に管理でき、発電所の安全な運営を実現することができる。
【0027】
また、機器情報DBの操作マニュアルは、機器20の操作マニュアルファイルを示す。点検者にすると、点検現場において機器20の操作方法が分からない場合に、当該操作マニュアルファイルを閲覧することで、操作方法を把握することができる。例えば、警報表示器に警報表示がされた場合に、当該警報表示に対する対応を把握する場合に好適である。
【0028】
[携帯端末、中央制御端末のハードウェア構成]
保守管理システム1を構成する、携帯端末10、及び中央制御端末30のハードウェア構成は、一般的なコンピュータによって構成することができる。一般的なコンピュータは、例えば、制御部として、中央処理装置(CPU)を備える他、記憶部として、メモリ(RAMやROM)、ハードディスク(HDD)及び光ディスク(CDやDVDなど)を、ネットワーク通信装置として各種有線や無線LAN装置を適宜備え、バスラインにより接続されている。このような一般的なコンピュータにおいて、CPUは、各種プログラムを適宜読み出して実行することにより、上述したハードウェアと協働し、本発明に係る各種機能を実現している。
【0029】
[保守管理システムの処理]
次に、図3を参照して、保守管理システム1の処理の流れについて説明する。
【0030】
S1:携帯端末10のICタグ読込手段11は、点検現場において機器20に埋め込まれたICタグ25を読み込み、個体識別情報を取得する。
S2:携帯端末10の通信手段12は、取得した個体識別情報を中央制御端末30に送信する。すなわち、取得した個体識別情報をキーとして、中央制御端末30の機器情報DBにアクセスする。
【0031】
S3:中央制御端末30は、機器情報DBを参照して対応する機器に関する情報、すなわち、個体識別情報に対応付けて機器情報DBに記憶された情報を取得する。
S4:中央制御端末30は、取得した情報を携帯端末10に送信する。
【0032】
S5:携帯端末10の通信手段12が中央制御端末30から送信された情報を受信すると、携帯端末10の表示手段13は、当該情報を表示する。このとき、表示手段13には、機器情報DBに記憶された情報のうち任意の情報を表示することができる。例えば、図4において後述するように、機器名、設置場所、備考、及び動作状況を表示することができる。なお、他の情報については、点検者が携帯端末10を操作することで表示することとしてもよい。
S6:携帯端末10の入力手段14が点検者からの入力を受け付けると、携帯端末10の通信手段12は、入力された情報を中央制御端末30に送信する。例えば、携帯端末10の通信手段12は、点検現場で入力された点検結果を中央制御端末30に送信する。
【0033】
中央制御端末30は、携帯端末10から受信した入力情報に基づいて、機器情報DBを更新する。すなわち、当該入力情報を機器情報DBに記憶する。
【0034】
[携帯端末の表示例]
次に、図4を参照して、携帯端末10の表示手段13に表示される機器20に関する情報について説明する。図4(1)は、S4の処理の際に表示される表示例を示し、図4(2)は、図4(1)の表示例において「入力」が操作された際に表示される表示例を示す。
【0035】
図4(1)を参照して、表示手段13には、読み込んだICタグ25に付与された固体識別情報に対応付けられた、機器名、当該機器の設置場所、備考、及び動作状況が表示される。点検者は、点検現場において読み込んだICタグ25が埋め込まれた機器20に関する情報が表示手段13に表示されるため、点検現場において適切な対応をとることができる。
【0036】
また、表示手段13には、点検者からの操作を受け付ける「入力」ボタン、「機器操作」ボタン、及び「他の情報」ボタンが表示される。「入力」ボタンが操作されると、図4(2)に示す表示例が表示され、点検者からの点検結果が入力される。「機器操作」ボタンが操作されると、機器情報DBの動作状況を更新するための信号が携帯端末10から中央制御端末30に送信される。例えば、点検者が点検現場において、機器20を操作(弁を開放など)した場合には、「機器操作」ボタンを操作することで、機器20の動作状況を適切に管理することができる。「他の情報」ボタンが操作されると、機器情報DBから他の情報を受信し、表示する。例えば、機器20の過去の点検結果や、機器20の操作マニュアルなどが表示される。これにより、点検者は、過去の点検結果を確認でき、また、点検現場において機器20の操作方法が分からなくても、当該操作マニュアルファイルを閲覧することで、操作方法を把握することができる。
【0037】
図4(2)を参照して、表示手段13には、点検結果を入力するための入力欄、「送信」ボタン、及び「戻る」ボタンが表示される。入力欄に点検結果やその他点検者が得た情報を入力し、「送信」ボタンを操作すると、入力欄に入力された情報が中央制御端末30に送信され、機器情報DBが更新される。なお、機器情報DBを適切に更新するため、入力欄には、点検結果入力欄、及び備考入力欄など個別の入力欄を設けることが好ましい。また、「戻る」ボタンが操作されると、図4(1)に示す表示例が表示手段13に表示される。
【0038】
以上、本発明の実施形態について説明した。上記実施形態によれば、点検者が携帯する携帯端末10には、点検現場で機器20から読み込んだICタグ25の個体識別情報に対応付けて記憶された情報(機器20に関する情報)が表示される。
【0039】
このとき、携帯端末10には、機器20に対する過去の点検結果や、過去の点検時に点検者が気づいた備考が表示されるため、過去の点検を踏まえた適切な点検を実施することができる。通常、同一の形状からなる機器20の個別の情報を把握するには、経験が必要になるところ、上記実施形態によれば、経験の少ない点検者であっても、機器情報DBにアクセスすることで機器20に個別の情報を適切に把握することができる。
【0040】
また、携帯端末10には、機器20の操作マニュアルが表示されるため、点検現場において機器20の操作方法が分からない場合に、当該操作マニュアルファイルを閲覧することで、操作方法を把握することができる。
【0041】
また、点検者は携帯端末10に点検結果を入力することで、機器情報DBを更新することができる。このとき、ICタグ25を読み込んだ後に点検結果などを入力することとしているため、同一の形状からなる機器20が多数設けられていたとしても、入力対象の機器を間違えることがない。そのため、適確な点検を実現することができ、結果として、安全な発電所運営を実現することができる。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施例に記載されたものに限定されるものではない。
【0043】
例えば、上記実施形態では、ICタグ25の個体識別情報に対応する情報を中央制御室に設けられた中央制御端末30の機器情報DBに記憶することとしているが、ICタグ25の容量が十分であれば、ICタグ25に当該情報を直接記憶させることとしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 保守管理システム
10 携帯端末
11 ICタグ読込手段
12 通信手段
13 表示手段
14 入力手段
20 機器
25 ICタグ
30 中央制御端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の形状からなる機器を含む複数の機器から構成される発電所の保守管理システムであって、
複数の前記機器の夫々に対応付けて設けられたICタグと、
前記ICタグに対応する機器に関する情報を記憶する機器情報記憶手段と、
発電所の点検者が携帯し、前記ICタグを読み込み可能な携帯端末と、
を備え、
前記携帯端末は、
読み込んだ前記ICタグに対応する機器に関する情報を前記機器情報記憶手段から受信する通信手段と、
受信した前記情報を表示する表示手段と、
を備える保守管理システム。
【請求項2】
前記携帯端末は、前記点検者からの入力を受け付ける入力手段を備え、
前記入力手段により受付けられた前記入力に基づいて、前記機器情報記憶手段に記憶された情報を更新する更新手段を、備える請求項1に記載の保守管理システム。
【請求項3】
前記携帯端末と通信可能に接続され、前記機器情報記憶手段及び前記更新手段を備える中央制御端末を備える請求項2に記載の保守管理システム。
【請求項4】
同一の形状からなる機器を含む複数の機器から構成される発電所の保守管理方法であって、
複数の前記機器の夫々に対応付けて設けられたICタグと、
前記ICタグに対応する機器に関する情報を記憶する機器情報記憶手段と、
発電所の点検者が携帯し、前記ICタグを読み込み可能な携帯端末と、
を備え、
前記携帯端末は、
読み込んだ前記ICタグに対応する機器に関する情報を前記機器情報記憶手段から受信する通信ステップと、
受信した前記情報を表示する表示ステップと、
を含む保守管理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−237958(P2011−237958A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107969(P2010−107969)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】