説明

保温カバー

【課題】椅子に座った状態で使用する下肢から腹部の保温カバーに関し、暖まった空気が逃げるのを防止でき、椅子に座った状態から立ち上がったり体を持ち上げることなく、簡単な作業で膝上から腹部にかけての部分の保温も行うことが可能な保温カバーを提供する。
【解決手段】全体が保温性を備えた可撓性シートで形成され、縦長矩形状の前面部4と、この前面部の下半部41を前面とする袋体3と、この袋体の側辺を越えて前面部の上半部の両側方に延在する翼部5とを備えている。翼部は、椅子に着座した着用者が袋体に両脚を差込んでその前面部の上半部42で大腿前面ないし腹部前面を覆った状態で、当該着用者の体側を覆って大腿の外側部背後ないし腹部の側部背後と椅子の座板ないし背もたれとの間に側端辺を差込み可能な幅寸法を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、椅子に座った状態で使用する下肢から腹部の保温カバーに関するもので、特に車椅子使用者が外出時に使用するのに好適な保温カバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
椅子に座った状態で使用する下肢の保温カバーとして膝掛けが広く使用されている。膝掛けは、上辺部分を腰に巻いて袋状にして使用することができるが、そうするためには、一旦立ち上がらなければならない。また、そのようにして形成した袋は、底のない袋なので、足先に外気が入って保温が十分でない。脚を包む底のない袋の下辺に設けた折返し片を折り返して面ファスナなどで止着することにより、足先を包むようにした保温カバーは、例えば特許文献2で提案されている。
【0003】
1枚の布地からなる膝掛けを膝の上に掛けただけでは脚の背面側を保温することができず、特に車椅子使用者が外出時に使用する保温カバーとしては、不十分である。この問題を解決するため、脚を覆う部分を底のない又は底のある袋体とした保温カバーは、例えば特許文献1〜3で提案されている。
【0004】
特許文献1に記載のものは、キルティング様保温生地を用い、二つ折りのカバン状の有底の袋とし、膝裏までとした入り口は、底より幅広くして自然に両膝を開いて外圧を感じない程度とし、蓋の部分を腰下まで延長して膝掛けにしたというもので、膝下の部分を差し込んだ袋体の上辺から外気が入るのを防ぐために上辺を弾性紐で縛ることができる構造としている。
【0005】
特許文献2記載のものは、上下を開放された袋からなり、下部端末に折り返し部を備え、爪先までを含む脚全体をくるむようにしてある。正面部に上部から下部に向けて分割部を形成し、これをファスナなどで結合するとともに、折り返し部を面ファスナなどを用いて固定するようにし、さらに背面部の上部に切欠部を形成して、介護者が、利用者を車椅子などに着座させたままで、容易に装着できるようにしてある。すなわち、袋体は左右に分割された2分割構造とし、分割された両者の対向辺をファスナで連結することにより、袋体が形成されるようになっている。
【0006】
特許文献3記載のものは、足の甲及び下肢背面部も保温可能で、座った状態で容易に着用させることのできる膝掛けを提供することを目的として、人の下半身正面を覆う大きさの縦長な長方形状に形成されている本体の裏面下部に、横帯を設け、本体と横帯とで上下を開口した袋を形成し、横帯の下側縁対応位置よりも下方に、本体を延設して足の甲覆い部とした、というものである。この膝掛けは、下肢の背面部を保温する考慮はされているが、袋体の下辺及び上辺から外気が侵入するのを防ぐ考慮はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実用新案登録第3039232号公報
【特許文献2】特開平10−292212公報
【特許文献3】特開2003−116694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上のように、膝下ないし膝上から下の部分を差し込む袋を設けた膝掛けないし保温カバーは、公知である。体温で暖まった袋内の空気は、上方へ流れて外気と入れ替わろうとするから、着用時に袋の上辺と脚の間の隙間を閉鎖することが保温の上で重要である。特許文献1のものは、その閉鎖を紐で縛って行うようにしており、特許文献2のものは、ファスナを閉じて行うようにしている。特許文献3のものは、この点についての考慮はなされていない。
【0009】
また、車椅子使用者が外出時に使用する保温カバーとしては、せいぜい膝上から下の部分全体と大腿の前面とを覆うだけのこれらの膝掛けでは、十分でないことは明らかである。袋体の上下寸法を長くして腰より上の部分まで袋内に入れるようにすれば、大腿から腹部へかけての保温も十分となるが、椅子から立ち上がることができない障害者は、そのような保温カバーを着用することができないし、介護者にとっても、車椅子使用者の体を持ち上げて、そのような保温カバーを着用させることは、大変な作業である。
【0010】
この発明は、椅子、特に車椅子に座った使用者の膝上から下の部分の全周を覆う袋体を備えた保温カバーにおいて、当該袋体の上辺の開口から袋体内の暖まった空気が逃げるのを防止することができ、椅子に座った状態から立ち上がったり体を持ち上げることなく、簡単な作業で膝上から腹部にかけての部分の保温も行うことが可能な保温カバーを得ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明の保温カバーは、全体が保温性を備えた可撓性シートで形成されており、縦長矩形状の前面部4と、この前面部の下半部41を前面とする袋体3と、この袋体の側辺を越えて前面部4の上半部42の両側方に延在する翼部5とを備えている。翼部5は、椅子に着座した着用者が袋体3に両脚を差込んでその前面部の上半部42で大腿前面ないし腹部前面を覆った状態で、当該着用者の体側を覆って大腿の外側部背後ないし腹部の側部背後と椅子の座板ないし背もたれとの間に側端辺51を差込み可能な幅寸法を備えている。
【0012】
袋体3は、前面下半部41の両側辺及び下辺と、前面下半部41と同形同寸法の背面部6の両側辺及び下辺とを、一体にないし縫着して連接することにより形成できる。又、これと同等の袋体は、前面下半部41の一側辺から側方に当該下半部と同幅の背面部6と、更に略同幅の重合部7とを連接して、この背面部6と重合部7とを前面下半部41の背面に折返し更に重合部7を折り戻して前記下半部42に重ね合わせることにより形成できる。
【0013】
上記構造の保温カバーは、使用者が椅子に座ったままの状態で袋体3の上辺から袋体内に脚を入れて、当該袋体の上辺を椅子の座板の前縁に当接するまで引き上げ、更に好ましくは、背面部の上辺61を使用者の大腿の背面と椅子の座板との間に差し込み、その状態で前面上半部42を使用者の膝上前面から腹部前面にかけて広げ、両翼部5の側端辺(外側辺)51を使用者の体と座板及び背もたれとの間の隙間に手で差し込むことにより、使用者の膝上から腹部にかけての体の前面と側部を包み込む。
【0014】
この着用時に前面部4及び両翼部5の上辺を下方に適当な長さだけ折り返すことにより、体をどの程度の高さまで包むかを調整することができる。保温カバーの上下方向の寸法を長くしておけば、使用者の足先から脇下までの部分を包み込んで保温することができ、この発明の保温カバーとマフラー及び手袋を着用すれば、冬期の屋外でも十分に暖かく、更に座ったままの状態で着用できる丈の短い外套を着用すれば、厳冬期に車椅子で外出するのに十分な保温効果が得られる。
【0015】
製造上好ましいこの発明の保温カバーは、前面部の上半部42が下半部41と等しいか僅かに長い上下寸法を備えた矩形(正方形を含む広義の矩形)であり、背面部6が当該下半部と同じ上下寸法を備えた矩形であり、翼部5が当該上半部と等しいか僅かに短い上下寸法を備えた縦長矩形である形状としたものである。
【0016】
保温性を備えた可撓性シートは、中綿ないし羽毛を挟んだ表布と裏布とを矩形格子状の縫い線に沿って縫着してなるキルティングシートとするのがよい。この場合、前面部4の上下寸法の中央ないし中央から僅かに下の位置に横方向の縫い線22が存在し、袋体3の側辺31の延長上の前面上半部42と翼部5との境に縦方向の縫い線21が存在するようにするのが良い。
【0017】
このような構造とすることにより、製作が極めて容易で、材料となる保温性シートに切残しによる無駄が生じない。また、不使用時に翼部5を内側に折り畳み、更に前面上半部42と前面下半部41を折り畳んだ翼部5を挟んで重ね合せるように折り畳むことにより、四角くコンパクトに折り畳むことができる。保温シートとしてキルティングシート、特に羽毛入りのキルティングシートを用いれば、極めて高い保温効果が得られ、かつキルティングシートの縦横の縫い線の位置を上記の位置に合せることにより、上記の態様でコンパクトに折り畳むことができる。
【発明の効果】
【0018】
この発明の保温カバーによれば、椅子に座った使用者の膝上から下の部分の全周を包囲する袋体を備えた保温カバーにおいて、紐やファスナなどの余分なものを用いることなく、袋内の暖まった空気が袋体の上辺から逃げるのを簡単な操作でより確実に防止することができる。従って、膝上から下の部分の保温をより完全に行うことができる。更に、膝上から上の大腿部の全周及び腹部、更には脇下までの胴部全周を包み込んで保温することが可能な保温カバーを提供することができる。
【0019】
なお、椅子に座った状態での膝上から上方の大腿の背後部及び胴の背中の部分は、椅子の座板及び背もたれで保温されており、この発明の保温カバーの翼部5の側端辺をその座板及び背もたれと使用者の体の間に差し込むことにより、椅子の座板及び背もたれとこの発明の保温カバーとによって、使用者の体の全周が包まれた状態で保温されるのである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】袋を少し広げて平に伸ばした状態を背面側から見た斜視図
【図2】縫製前の裁断したシートの斜視図
【図3】着用時の保温カバーの状態を示した側面図
【図4】着用時の保温カバーの状態を示した背面図
【図5】第2実施例を平に伸ばした状態で背面側から見た斜視図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、この発明の実施形態を説明する。図1ないし図4は、第1実施例を示した図で、図1は、袋を少し広げて平に伸ばした状態を背面側から見た斜視図、図2は、縫製前の裁断した保温シートの斜視図、図3及び図4は、着用時の保温カバーの状態を示した側面図及び背面図である。
【0022】
図2に示すように、第1実施例の保温カバー1は、矩形に裁断した2枚の保温シート2a、2bを縫製することによって製作されている。図の保温シート2a、2bは、羽毛入りのキルティングシートであり、裏地と表地との縫い線が図1及び図2に点線で示してある。図1の点線中、21が袋体3の側辺31の延長上にある縦方向の縫い線、22が前面部4の上下寸法の中央の横方向の縫い線であり、この横方向の縫い線22は裁断シート2aと2bとを縫着する縫い線ともなっている。
【0023】
図2に示した2枚の裁断シート2a、2bの第2裁断シート2bを上下二つ折りにして、その両側辺を縫着することにより、底のある袋体3が形成される。この袋体の面の一方を前面下半部41として、その上辺と第1裁断シート2aの下辺中央部とを縫着することにより、前面上半部42と前面下半部41とが連接されて、縦長矩形の前面部4が形成される。下辺が第2裁断シート2bに縫着されていない、第1裁断シート2aの両側の部分が翼部5となる。
【0024】
第1裁断シート2aの上下寸法は、第2裁断シート2bの上下寸法の1/2より僅かに長くしてある。従って、第2裁断シート2bを上下二つ折りにして形成された袋体3の上下寸法は、前面部4の上半部である前面上半部42の上下寸法より僅かに短い。これは、保温シートの厚さを考慮したもので、畳んだときに辺が揃うようにしたものである。翼部5の幅寸法w1は、前面部4の幅寸法w2の1/2より短い。図の例では、翼部5の幅寸法w1は、前面部4の幅寸法w2の1/3となっている。
【0025】
図1に示した第1実施例の保温カバーにおいて、縫い線21の位置で両翼部5を内側に折り畳み、縫い線22の位置で前面上半部42と前面下半部41とを重ね合わせるように折り畳むと、矩形の折り畳み形状が得られる。
【0026】
図3、4の矢印A1及びA2は、着用時に背面部6の上辺61及び翼部5の側端辺51を使用者の体と図示しない車椅子の座板及び背もたれとの間に差し込む方向を示している。車椅子に座った使用者の足をフットレストから持ち上げて、袋体3の上部開口から袋体3内に入れ、袋体3の上辺を引き上げ、膝上の背面側にまで達した背面部の上辺61を使用者の大腿背面と座板の間に矢印A1のように差し込む。このとき、上辺61の両側の部分は、座板の内側(幅方向の中心側)に向けて押し込むようにする。
【0027】
そして、前面上半部42を使用者の大腿前面及び腹部前面に広げ、前面上半部42の両側辺部及びこれから側方に延びる翼部5で使用者の大腿及び胴の側部を包み込むようにして、翼部の側端辺51を使用者の体と車椅子の座板及び背もたれとの間に図の矢印A2のように内側に向けて押し込む。
【0028】
このように翼部5の側端辺51を使用者の体と椅子の座板及び背もたれとの間に差し込むと、この発明の保温カバーと車椅子の座板及び背もたれとによって使用者の胴から下の部分が包み込まれた状態となってこれらの部分が保温され、かつ保温カバー1内の暖められた空気が上方へ逃げ難くなり、非常に優れた保温効果が得られる。
【0029】
袋体3は、巻きスカートのようにして形成することもできる。図5はその一例を示した図で、この発明の第2実施例の保温カバーを平に伸ばした状態で背面側から見た斜視図である。図5において、第1実施例と同一の部材には同一の符号を付してある。以下、第1実施例と異なる点について説明する。
【0030】
第2実施例の保温カバー1は、第1実施例と同形同寸の第1裁断シート2aと、この第1裁断シートと上下寸法が等しくかつ横幅が略2倍の第2裁断シート2bを縫製することによって製作されている。第2裁断シート2bは、その上辺24の一方の端部側が、第1裁断シート2aの下辺25の中央部に縫着されている。
【0031】
第1裁断シート2aの、下辺を第2裁断シートの上辺24に縫着した中央部が、前面上半部42となる点、及びその両側が翼部5となる点は、第1実施例と同じである。第2裁断シート2bの、第1裁断シート2aに上辺を縫着された端部側の面が前面下半部41となり、それに隣接する同幅の部分が背面部6となり、更にその外側の同幅の部分が、重合部7となる。重合部7は、着用したときに前面下半部41に重ね合わされて袋体3の前面を形成する部分である。
【0032】
背面部6の下辺には、袋体の下端を閉鎖する折返し片62が縫着されており、当該折返し片の内側となる面と前面下半部41の前面下辺側とに、折返し片62を止着する面ファスナー63、63が取付けられている。
【0033】
この第2実施例の保温カバーは、前面上半部42と前面下半部41とを縫着した部分を椅子に座った使用者の膝上の位置にして、その前面部4を使用者の胴の前面から脚の前面にかけての部分に広げる。そして、背面部6を使用者の膝上から下の脚部の背面に回し、重合部7を前面下半部41の上に重ね合わせて、巻きスカートのようにして袋体を形成し、折返し片62を折り返して面ファスナー63、63を接合することにより、脚を包む袋体を形成する。その後は、図3、4で説明したと同様に、矢印A1、A2のように、背面部の上辺61及び両翼部5の側端辺51を使用者の体と椅子の座板及び背もたれの間に差込んで、使用者の胴から下の部分を包込んで着用する。
【符号の説明】
【0034】
1 保温カバー
3 袋体
4 前面部
5 翼部
6 背面部
41 前面下半部
42 前面上半部
51 翼部の側端辺
61 背面部の上辺

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体が可撓性の保温性を備えたシートで形成され、縦長矩形状の前面部と、この前面部の下半部を前面とする袋体と、この袋体の側辺を越えて前記前面部の上半部の両側方に延在する翼部とを備え、当該翼部は、椅子に着座した着用者が前記袋体に両脚を差込んでその前面部の上半部で大腿前面ないし腹部前面を覆った状態で、当該着用者の体側を覆って大腿の外側部背後ないし腹部の側部背後と椅子の座板ないし背もたれとの間に側端辺を差込み可能な幅寸法を備えている、保温カバー。
【請求項2】
前記袋体が、前記下半部の両側辺及び下辺と、当該下半部と同形同寸法の背面部の両側辺及び下辺とを、一体にないし縫着して連接することにより形成される、保温カバー。
【請求項3】
前記下半部の一側辺から側方にそれぞれ当該下半部の幅寸法の略同幅で延在する背面部と重合部とを備え、前記袋体が、当該背面部を前記下半部の背面に折返し更に重合部を折り戻して前記下半部に重ね合わせることにより形成される、保温カバー。
【請求項4】
前面部の上半部と下半部が同幅の矩形であり、背面部が当該下半部と同じ上下寸法を備えた矩形であり、翼部が当該上半部の1/2より小さい幅寸法を備えた縦長矩形である、請求項1、2又は3記載の保温カバー。
【請求項5】
保温シートが、中綿ないし羽毛を挟んだ表布と裏布とを矩形格子状の辺に沿う縫い線に沿って縫着してなるキルティングシートであり、前面部の上下寸法の略中央に横方向の縫い線が存在し、袋体の側辺の延長上の前面部と翼部との境に縦方向の縫い線が存在する、請求項4記載の保温カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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