説明

保肥性多孔体

【課題】本発明によれば、天然土壌に比べて、非常に軽量であり、微生物などにより分解されず、優れた保肥性および保水性を有する植物育成用培地を提供する。
【解決手段】本発明は、高分子発泡体および無機多孔体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体、並びに該合成多孔体に被覆担持された陽イオン交換能を有する材料を含み、陽イオン交換容量40meq/100g以上を有することを特徴とする植物育成用培地、およびその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続気孔構造を有する合成多孔体に陽イオン交換能を付与した保肥性多孔体、および上記多孔体を含む植物育成用培地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビルの屋上やマンションのベランダ、テラス等の建物の一部に庭園等の緑化が施されることが多く、そのような緑化における人工地盤上には培土が搬入され、その培土が植物栽培のベースにされる。通常、そのような培土には、排水性、保水性、透水性、通気性、保肥性などに優れた良質な土壌が要求されるが、環境破壊への配慮などから天然の良質な土壌の入手が困難なものとなっており、また、そのような土壌からなる培土の総重量が大きくなって建物に悪影響を与えるなどの問題があった。
【0003】
そのような問題を解決するため、合成樹脂材料、天然材料およびそれらを組み合わせることによって、多くの天然の土壌の代替品が提案されてきた(特許文献1〜5)。
【0004】
特許文献1には、カルシウムイオン吸収量が乾燥重量1gあたり50mg未満であり、且つ、イオン交換水(室温、25℃)中での吸水倍率が100倍以上であるハイドロゲル形成性高分子を含むことを特徴とする植物保水用担体が開示されている。しかしながら、上記植物保水用担体は保水性を確保するものであり、保肥性や通気性を有さないものであり、植物育成のためには、他の材料を多量に使用する必要があった。
【0005】
特許文献2には、保水性充填材、水、および、ウレタンプレポリマーと、ポリオールを少なくとも反応させて成る植物栽培基体が開示されており、上記保水性充填材として、ピートモス、ココピート、オガクズ、ヤシガラ、モミガラ、モミガラ堆肥、バーク堆肥、パーライト、バーミキュライト、親水性発泡樹脂粉砕物の中から選ばれた少なくともひとつの充填材が挙げられている。しかしながら、上記植物栽培基体はブロック状に成形され、根菜類などの栽培には適していない。
【0006】
特許文献3には、発泡体基材に陽イオン交換材料を担持して成る加湿構造体と送風手段と水供給手段とからなる加湿装置が開示されており、上記加湿構造体を用いて水中のカルシウムやマグネシウム成分を除去するものである。従って、上記加湿構造体を構成する発泡体基材の網目は細かすぎると充分な通気性と発泡体内部への水の浸透性が得られないため、発泡体基材の孔径が非常に大きくて、十分な保水性を有さず、植物育成の用途には使用できないものである。
【0007】
特許文献4には、(i)溶融加工性マトリックスポリマー及び、その中に組み込まれた(ii)少なくとも2種の膨張性層状クレイ材料の混合物を含んでなるポリマー−クレイナノ複合材料が開示されている。しかしながら、上記ポリマー−クレイナノ複合材料は、例えば純粋PETに比して改良された気体遮断性(ガスバリヤー性)を有する製品又は包装材料を形成するのに有用であることが記載されており、植物育成の用途には使用できないものである。
【0008】
特許文献5には、多数の微小物質と、合成樹脂発泡体の不定形な熱収縮物とが、両者の結合面に微細な空隙を形成した状態で、熱可塑性発泡粒表面の熱溶融により相互に結合されていることを特徴とする人造粒塊が開示されており、上記微小物質として、赤土、黒土、鹿沼土等の土類、並びに、桐生砂、軽石、富士砂等の砂類等の天然用土;雲母系の原鉱石を焼成して膨脹させたバーミキュライトやパーライト等の人工用土;上記両者を配合した配合用土;バーク、腐葉土、木クズ、おから、コーヒーガラ、魚粉、油かす等の有機物;炭の粉、灰等が挙げられている。上記微小物質および合成樹脂発泡体を、溶媒を用いることなく、加熱しながら撹拌することによって、両者が微細な空隙を形成した状態で熱溶融により相互に結合した人造粒塊である。従って、上記微小物質は、上記発泡体の気泡内部や発泡体表面全体に被覆できないものであり、十分な保肥性が得られない。
【0009】
合成樹脂発泡体などの粉砕品を含有する合成土壌は、軽量で取扱が容易であると共に、排水性や、植物の根の生育に欠かせない通気性、保温性に優れているが、合成樹脂発泡体は、排水性が優れている反面、疎水性に優れるため、植物の成長に欠かせないもう1つの要素である水や肥料を保持する能力、つまり保水性や保肥性が劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第98/5196号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/112461号パンフレット
【特許文献3】特開2006‐200833号公報
【特許文献4】特表2003‐525964号公報
【特許文献5】特開平5‐25号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来の天然土壌の代替品の有する問題点を解決し、非常に軽量であり、微生物などにより分解されず、保肥性および保水性に優れた植物育成用培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記目的を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、連続気孔構造を有する合成多孔体に、陽イオン交換能を有する材料を被覆担持し、陽イオン交換容量を特定範囲内に規定することによって、天然土壌に比べて、非常に軽量であり、微生物などにより分解されず、優れた保肥性および保水性を有する植物育成用培地を提供し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、高分子発泡体および無機多孔体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体、並びに該合成多孔体に被覆担持された陽イオン交換能を有する材料を含み、陽イオン交換容量40meq/100g以上を有することを特徴とする植物育成用培地に関するものである。
【0014】
本発明を好適に実施するために、
上記陽イオン交換能を有する材料が、イオン交換樹脂、粘土鉱物およびゼオライトから成る群から選択され、かつ陽イオン交換容量50meq/100g以上を有し;
上記合成多孔体が、気孔径5〜500μmを有し;
上記合成多孔体に被覆担持された吸水性材料を更に含み、保水量100〜1000%を有し;
上記吸水性材料が有機溶媒に可溶である;
ことが望ましい。
【0015】
本発明の他の態様として、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
および
(c)該溶媒を乾燥して、該合成多孔体に陽イオン交換能を付与する工程
を含む植物育成用培地の製造方法がある。
【0016】
本発明の更に他の態様として、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(d)吸水性材料を有機溶媒に溶解して吸水性材料溶液を形成する工程、
(e)(i)耐圧容器内で陽イオン交換能を付与した該多孔体を該吸水性材料溶液に浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該多孔体に該吸水性材料溶液を含浸する工程、および
(iii)該工程(e−i)および(e−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、該多孔体に該吸水性材料溶液を含浸させる工程、並びに
(f)該有機溶媒を乾燥して、該多孔体に吸水能を付与する工程、
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法がある。
【0017】
本発明の別の態様として、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(g)該多孔体を洗浄した後、乾燥する工程、および
(h)該多孔体の表面を親水化処理して、水の拡散性を向上する工程
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法がある。
【0018】
本発明の更に別の態様として、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥し、該多孔体に陽イオン交換能を付与して、多孔体Aを形成する工程、
(d)吸水性材料を有機溶媒に溶解して吸水性材料溶液を形成する工程、
(e)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該吸水性材料溶液に浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該吸水性材料溶液を含浸する工程、および
(iii)該工程(e−i)および(e−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該吸水性材料溶液を含浸させる工程、
(f)該有機溶媒を乾燥し、該多孔体に吸水能を付与して、多孔体Bを形成する工程、並びに
(j)該多孔体Aおよび多孔体Bを混合する工程
を含み、
陽イオン交換容量40meq/100g以上を有することを特徴とする植物育成用培地の製造方法がある。
【0019】
また、本発明の更に別の態様として、
(k)有機高分子発泡体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を、連続気孔構造を維持し、表面が粘着性を有するように、融点以上まで加熱して表面を溶融させる工程、
(m)該表面を溶融させた合成多孔体を、陽イオン交換能を有する材料と混合、撹拌して混合物を形成する工程、および
(n)該混合物を常温まで冷却して、該合成多孔体に該陽イオン交換能を有する材料を固着させて陽イオン交換能を付与する工程
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法がある。
【0020】
更に、本発明の別の態様として、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、有機高分子発泡体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該合成多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(p)該陽イオン交換能を付与した合成多孔体を、連続気孔構造を維持し、表面が粘着性を有するように、融点以上まで加熱して表面を溶融させる工程、
(q)該表面を溶融させた合成多孔体を、陽イオン交換能を有する材料と混合、撹拌して混合物を形成する工程、並びに
(r)該混合物を常温まで冷却して、該合成多孔体に該陽イオン交換能を有する材料を固着させて更に陽イオン交換能を付与する工程
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法がある。
【0021】
加えて、本発明の態様として、
前述のような植物育成用培地を用いて植物を栽培する方法があり、
前述のような製造方法によって製造した植物育成用培地を用いて植物を栽培する方法がある。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、連続気孔構造を有する合成多孔体に、陽イオン交換能を有する材料を被覆担持し、陽イオン交換容量を特定範囲内に規定することによって、天然土壌に比べて、非常に軽量であり、微生物などにより分解されず、優れた保肥性および保水性を有する植物育成用培地を提供することができる。また、本発明によれば、上記合成多孔体に吸水性材料を更に被覆担持することによって、更に優れた保水性を有する植物育成用培地を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の植物育成用培地に用いられる多孔体は、陽イオン交換能を有する材料のスラリーや吸水性材料溶液を気孔の内部まで被覆するために、連続気孔構造を有することを要件とする。そのような多孔体の例として、ポリエチレン発泡体、ポリプロピレン発泡体、ポリウレタン発泡体、ポリビニルアルコール発泡体、セルロース発泡体などの有機高分子発泡体や樹脂粉粒体を加熱溶融して連続気泡構造にした有機高分子多孔体および、ガラス発泡体、多孔質セラミックなどの無機発泡体や無機焼結体などから成る群から選択される合成多孔体や;ピートモス、軽石、珪藻土などの天然多孔体が挙げられ、軽量化および植物支持性との最適化のため、2種以上を組み合わせてもよい。
【0024】
更に、上記多孔体の形状は、ブロック状やシート状では根菜類などの植物育成用培地に用いる場合に自由に生長できなかったり、形状が維持できなかったりするため、粒状や粉砕状が好ましい。また、比表面積が大きくなって陽イオン交換能を有する材料の被覆量が大きくなるため、粉砕状がより好ましい。上記のように、上記多孔体を粒状や粉砕状に形成する方法は、後述のような所望の粒径とすることができれば特に限定されず当業者に公知の方法を用いることができるが、例えばロータリーミキサー、カッターミルなどの装置を用いることができる。
【0025】
上記のように多孔体が粒状や粉砕状である場合、上記多孔体の粒径が、小さくなり過ぎると締め固まったり多孔体間の間隙が小さくなって通気性が悪くなったりし、逆に大きくなり過ぎると保水性が低下するため、上記多孔体の粒度分布は0.2〜5mmであることが好ましい。また、上記多孔体の粒度分布は、篩(メッシュスクリーン)などで調整できる。
【0026】
上記多孔体の平均気孔径は、5〜500μm、好ましくは10〜100μmであることが望ましい。上記多孔体の孔径が、500μmより大きいと気孔内に浸入した陽イオン交換能を有する材料のスラリーがすぐに流下してしまい担持されにくく、また植物育成用培地として使用するのに必要な保水性の維持が困難であり、5μm未満では上記スラリー中の陽イオン交換能を有する材料が浸入しにくくなるだけでなく、植物育成用培地として使用する場合、気孔内に浸入した水の毛管力が大きいため植物が吸収しにくくなり、更に孔径5μm未満の連続気孔構造を有する合成樹脂発泡体は製造が困難である。
【0027】
本発明の植物育成用培地に用いられる多孔体は、前述のように、優れた保肥性を達成するために陽イオン交換容量40meq/100g以上を有することを要件とし、好ましくは50〜100meq/100g、より好ましくは60〜100meq/100gである。従って、上記陽イオン交換能を有する材料は、陽イオン交換容量50meq/100g以上、好ましくは60〜600meq/100g、より好ましくは70〜500meq/100gを有することが望ましい。上記陽イオン交換能を有する材料の陽イオン交換容量が50meq/100g未満では、被覆した際に上記多孔体自体に十分な陽イオン交換容量を付与できなくなる恐れがあるためである。
【0028】
上記陽イオン交換能を有する材料の例としては、スルホン酸基やカルボン酸基を交換基とする各種陽イオン交換樹脂;ベントナイト、ハイドロタルサイト、活性白土などの粘土鉱物;および合成または天然のゼオライトから成る群から選択されもの、またはそれらの混合物が挙げられ、また、水などの溶媒に分散した際にコロイドまたはサスペンション(懸濁液)を形成するものが、すぐに沈澱せず濃度を均一化できて被覆量も均一化できるため好ましい。
【0029】
更に、上記陽イオン交換能を有する材料の粒径としては、上記多孔体の気孔内に浸入させることが望ましいことから、上記多孔体の気孔径に対して、十分に小さいことが好ましく、例えば上記多孔体の平均気孔径の1/5以下、具体的には上記のように、5μm以下が好ましい。
【0030】
本発明の植物育成用培地においては、上記のように、連続気孔構造を有する多孔体を用いることによって植物育成に必要な保水性を確保するものであるが、更に、上記多孔体に吸水性材料を被覆担持させて保水性を向上することが望ましい。本発明の植物育成用培地に用いることができる上記吸収性材料としては、水や有機溶媒などの溶媒に可溶性の材料または分散して上記多孔体に含浸できるものであれば特に限定されないが、ポリアクリル酸塩系、ポリスルホン酸塩系、ポリアクリルアミド系、ポリビニルアルコール系、ポリアルキレンオキサイド系などの合成高分子系吸収性材料;およびポリアスパラギン酸塩系、ポリグルタミン酸塩系、ポリアルギン酸塩系、澱粉系、セルロース系などの天然物由来の高分子系吸収性材料から成る群から選択され、好適な保水量などに応じて2種以上の組み合わせを用いてもよい。これらの内、有機溶媒に可溶性の熱可塑性ポリアルキレンオキサイド変性物、具体的には住友精化株式会社から商品名「アクアコーク TWB」で市販されている熱可塑性吸収性樹脂が好ましい。また、上記有機溶媒としては、上記吸収性材料が溶解するものであれば特に限定されないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0031】
本発明の植物育成用培地における上記多孔体は、0.5〜10質量%溶液で含浸処理後の保水量としての吸水率100〜1000%、好ましくは100〜800%、より好ましくは150〜700%を有することが望ましい。上記吸水率が100%未満では十分な保水性が得られず、植物、特に水分を多く必要とする野菜類の生育が悪くなり、1000%を超えると吸水性材料が水分を吸収して膨潤し過ぎるため、通気性が低下してしまう。尚、吸水率は、上記多孔体をナイロン製の網袋(250メッシュ)に入れて過剰の水道水に1時間浸漬した後、浸漬前後の多孔体の質量を測定し、以下の式から算出した。

(式中、Aは吸水率(%)であり、Wは吸水前の多孔体の質量(g)であり、Wは吸水後の多孔体の質量(g)である。)
【0032】
本発明の植物育成用培地の製造方法は、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、並びに
(c)該溶媒を乾燥して、該合成多孔体に陽イオン交換能を付与する工程
を含むことを特徴とする。
【0033】
上記工程(a)で用いられる溶媒としては、前述のように、すぐに沈澱せず濃度を均一化できて被覆量も均一化できるため好ましいことから、陽イオン交換能を有する材料を溶媒に分散した際にコロイドまたはサスペンション(懸濁液)を形成するものであれば特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、イソプロパノールおよびこれらの混合液などが挙げられ、乾燥処理の容易さや安全性などから水が好ましい。
【0034】
上記工程(b)においては、回転式混合機などの当業者に公知の混合装置を用いて混合することによって、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に上記スラリーを浸透させることができるが、前述のように気孔径が小さい本発明の多孔体では、密閉容器内で上記多孔体を上記スラリーに浸漬した状態で、加圧および圧力の開放を繰り返して、上記スラリーを気孔内まで浸透させることが好ましい。連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に上記スラリーを浸透させる工程である上記工程(b)には、具体的には、
(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を上記スラリーに浸漬して、上記耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)上記圧力を開放して上記合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)上記工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む。
【0035】
上記工程(c)の乾燥条件や装置については、溶媒が除去できれば特に限定されないが、例えば水の場合、電気乾燥機にて、60〜100℃、10時間以上程度でよい。
【0036】
前述のように、本発明の植物育成用培地においては、連続気孔構造を有する多孔体を用いることによって植物育成に必要な保水性を確保するものであるが、上記多孔体に陽イオン交換能を有する材料に加えて、更に、吸水性材料を被覆担持させて保水性を向上することが望ましい。また、そのような場合には、多孔体としては、合成多孔体および天然多孔体から成る群から選択されるものを用いることができるが、微生物などにより分解されるという問題がなく、軽量化の観点から、合成多孔体から成る群から選択されるものを用いることが好ましい。
【0037】
従って、本発明の植物育成用培地の製造方法の他の態様では、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(d)吸水性材料を有機溶媒に溶解して吸水性材料溶液を形成する工程、
(e)(i)耐圧容器内で陽イオン交換能を付与した該多孔体を該吸水性材料溶液に浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該多孔体に該吸水性材料溶液を含浸する工程、および
(iii)該工程(e−i)および(e−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、該多孔体に該吸水性材料溶液を含浸させる工程、並びに
(f)該有機溶媒を乾燥して、該多孔体に吸水能を付与する工程、
を含むことを特徴とする。
【0038】
上記工程(a)〜(c)は、前述のように行うことができ、次いで、上記工程(d)において吸水性材料を有機溶媒に溶解して吸水性材料溶液とすることによって、上記工程(e)において上記溶液を上記多孔体に含浸させた際に上記多孔体の気孔内部にまで吸水性材料が被覆され、保水性が大きく向上されるため好ましい。また、気孔径が小さい場合には、加圧および圧力の開放を繰り返して、上記溶液を気孔内まで浸透させることができるため更に好ましい。上記のように陽イオン交換能を付与した多孔体に上記吸水性材料溶液を含浸させる工程である上記工程(e)では、具体的に、
(i)耐圧容器内で陽イオン交換能を付与した該多孔体を該吸水性材料溶液に浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該多孔体に該吸水性材料溶液を含浸する工程、および
(iii)該工程(e−i)および(e−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む。更に、上記工程(f)の乾燥条件や装置については、有機溶媒が除去できれば特に限定されないが、例えば電気乾燥機にて、60〜100℃、10時間以上程度でよい。
【0039】
本発明の植物育成用培地の製造方法の別の態様では、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(g)該多孔体を洗浄した後、乾燥する工程、および
(h)該多孔体の表面を親水化処理して、水の拡散性を向上する工程
を含み、上記多孔体が合成多孔体から成る群から選択されることを特徴とする。
【0040】
上記工程(a)〜(c)は、前述のように行うことができ、次いで、吸水性材料を用いて上記多孔体に吸水能を付与する上記工程(d)〜(f)の代わりに、工程(g)〜(h)を行うものである。上記工程(g)においては、上記工程(a)〜(c)で被覆した陽イオン交換能を有する材料の内、上記多孔体の表面にあるものを上記溶媒、例えば水によって洗浄し、例えば電気乾燥機にて、60〜100℃で10時間以上乾燥する。次いで、上記工程(h)において、上記多孔体の表面を親水化処理して水の分散性を向上させることによって、更に保肥性や保水性を向上することができる。上記親水化処理としては、プラズマ処理、コロナ放電処理、紫外線照射などが挙げられる。
【0041】
本発明の植物育成用培地の製造方法の更に別の態様では、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥し、該多孔体に陽イオン交換能を付与して、多孔体Aを形成する工程、
(d)吸水性材料を有機溶媒に溶解して吸水性材料溶液を形成する工程、
(e)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該吸水性材料溶液に浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該吸水性材料溶液を含浸する工程、および
(iii)該工程(e−i)および(e−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該吸水性材料溶液を含浸させる工程、
(f)該有機溶媒を乾燥し、該多孔体に吸水能を付与して、多孔体Bを形成する工程、並びに
(j)該多孔体Aおよび多孔体Bを混合する工程
を含み、
陽イオン交換容量40meq/100g以上を有することを特徴とする。
【0042】
上記態様においては、上記工程(a)〜(c)において、連続気孔構造を有する合成多孔体に陽イオン交換能を付与して、多孔体Aを形成し、上記工程(d)〜(f)において、連続気孔構造を有する合成多孔体に吸水能を付与して、多孔体Bを形成し、次いで、上記工程(j)において、上記多孔体Aおよび多孔体Bを混合することによって、陽イオン交換容量40meq/100g以上を有する植物育成用培地を製造するものである。従って、上記工程(a)〜(f)については前述した工程と同様にして行うことができる。更に、上記工程(j)における混合方法については、上記多孔体Aおよび多孔体Bを破壊せずに均一に混合できれば特に限定されず当業者に公知の技術を用いることができる。例えば、ドラムミキサー、ポット型ミキサー、タライ型ミキサーなどの混合装置を用いることができる。
【0043】
本発明の植物育成用培地の製造方法の更に別の態様では、
(k)有機高分子発泡体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を、連続気孔構造を維持し、表面が粘着性を有するように、融点以上まで加熱して表面を溶融させる工程、
(m)該表面を溶融させた合成多孔体を、陽イオン交換能を有する材料と混合、撹拌して混合物を形成する工程、および
(n)該混合物を常温まで冷却して、該合成多孔体に該陽イオン交換能を有する材料を固着させて陽イオン交換能を付与する工程
を含むことを特徴とする。尚、ここでいう融点は、DSC(示差走査熱量測定)などの熱分析装置で上記多孔体を熱分析した際に検出される融解温度(Tm)により求めることができる。
【0044】
上記方法は、前述の工程(a)〜(c)のように、陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成して、合成多孔体の粉砕物に上記スラリーを含浸するのではなく、即ち、溶媒を使用せずに、合成多孔体に陽イオン交換能を有する材料を被覆担持するものである。上記工程(k)においては、上記合成多孔体の種類、特に融点によって異なるが、連続気孔構造を維持し、表面が粘着性を有する温度および時間で加熱して表面を溶融させる。この工程においては、上記工程(n)において、合成多孔体に陽イオン交換能を有する材料を固着させることができる程度に粘着性を有すればよい。上記加熱温度は、通常、融点より0〜120℃高い温度、好ましくは20〜100℃高い温度であり、上記加熱時間は、通常、1〜60分間、好ましくは5〜30分間である。上記加熱温度および加熱時間が上記範囲内であれば、連続気孔構造を維持し、表面が上記粘着性を有することができる。上記加熱は、ホットプレート、電気オーブン、電磁波加熱機器などの通常用いられる加熱装置を使用して行うことができ、特に限定されない。
【0045】
上記工程(m)における混合、撹拌は、ドラムミキサー、タライ型ミキサーなどの通常用いられる混合装置を使用して行うことができ、特に限定されない。また、加熱装置付の混合、撹拌装置を使用すれば、同一装置内で合成多孔体を加熱して溶融させ、陽イオン交換能を有する材料と混合、撹拌することが可能となるため、効率よく両者の混合物を形成することができる。
【0046】
本発明の植物育成用培地の製造方法の更に別の態様では、
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、有機高分子発泡体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該合成多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(p)該陽イオン交換能を付与した合成多孔体を、連続気孔構造を維持し、表面が粘着性を有するように、融点以上まで加熱して表面を溶融させる工程、
(q)該表面を溶融させた合成多孔体を、陽イオン交換能を有する材料と混合、撹拌して混合物を形成する工程、並びに
(r)該混合物を常温まで冷却して、該合成多孔体に該陽イオン交換能を有する材料を固着させて更に陽イオン交換能を付与する工程
を含むことを特徴とする。
【0047】
この方法では、上記工程(a)〜(c)は、前述のように行うことができ、次いで、得られる陽イオン交換能を付与した合成多孔体について、上記工程(p)〜(r)を、合成多孔体が陽イオン交換能を付与した合成多孔体である以外は前述の工程(k)〜(n)と同様に行うことができ、更に陽イオン交換能を付与する。ここで、本発明者らは、上記工程(p)において、上記陽イオン交換能を付与した合成多孔体は、上記工程(k)の陽イオン交換能を付与する前の合成多孔体に比べて、同様の加熱温度では表面を溶融させることができず、更に高い加熱温度が必要であることを見出した。即ち、上記工程(p)においては、上記陽イオン交換能を付与した合成多孔体中の上記陽イオン交換能を有する材料の処理量により表面の溶融状態が異なるため、予め溶融状態を調べてから、加熱温度および加熱時間を決定する必要がある。従って、上記工程(p)における加熱温度は、通常、融点より30〜150℃高い温度、好ましくは50〜120℃高い温度であり、上記加熱時間は、通常、1〜60分間、好ましくは5〜30分間である。
【0048】
尚、本発明の植物育成用培地には、堆肥や化学肥料などの肥料成分や、防虫成分、香料成分、消臭成分などの植物に害を及ぼさない添加剤を含有していてもよい。
【実施例】
【0049】
(1)実施例1〜5
(i)以下の表1に示す多孔体を、株式会社三力製作所製の粉砕機「SF−8」を用いて、直径3mmのメッシュスクリーンを通過させ粒状に粉砕した。
(ii)以下の表1に示す陽イオン交換材料および水を混合して、同表に示した濃度のスラリーを作製した。
(iii)上記(i)で得られた粉砕粒状多孔体を入れたトレーに、上記(ii)で得られたスラリーを流し込み、上記トレーに蓋をして密閉し、上部より加圧(0.1MPa)および圧力の開放を10回繰り返して、上記多孔体に上記スラリーを浸透させた。
(iv)上記多孔体をトレーから取り出して、電気乾燥機にて、60℃で24時間乾燥し、植物育成用培地を作製した。
【0050】
【表1】

【0051】
(2)実施例6〜7
上記工程(i)〜(iv)を行って得られた実施例1および3の多孔体に、更に以下の工程を行った。
(v)以下の表2に示した吸水性材料をメタノールに溶解して、同表に示した濃度の溶液を作製した。
(vi)上記工程(i)〜(iv)で得られた多孔体を入れたトレーに、上記工程(v)で得られた溶液を流し込み、上記トレーに蓋をして密閉し、上記より加圧(0.1MPa)および圧力の開放を10回繰り返して、上記多孔体に上記スラリーを含浸させた。
(vii)上記多孔体をトレーから取り出して、電気乾燥機にて、60℃で24時間乾燥し、植物育成用培地を作製した。
【0052】
(3)実施例8〜9
上記工程(i)〜(iv)を行って得られた実施例1および3の多孔体Aとは別に、以下の工程を行うことによって多孔体Bを作製した。
(viii)以下の表2に示した多孔体を株式会社三力製作所製の粉砕機「SF−8」を用いて、直径3mmのメッシュスクリーンを通過させ粒状に粉砕した。
(ix)以下の表2に示した吸水性材料をメタノールに溶解して、同表に示した濃度の溶液を作製した。
(x)上記工程(viii)で得られた多孔体を入れたトレーに、上記工程(ix)で得られた溶液を流し込み、上記トレーに蓋をして密閉し、上記より加圧(1MPa)および圧力の開放を10回繰り返して、上記多孔体に上記スラリーを含浸させた。
(xi)上記多孔体をトレーから取り出して、電気乾燥機にて、60℃で24時間乾燥し、多孔体Bを作製した。
(xii)上記多孔体Aおよび多孔体Bを、トンボ工業株式会社製のポット型ミキサー「NGM−1.25」を用いて30分間混合し、植物育成用培地を作製した。
【0053】
(4)実施例10
上記工程(i)〜(iv)を行って得られた実施例3の多孔体に、更に以下の工程を行った。
(xiii)上記多孔体を水で洗浄し、表面についた陽イオン交換材料を除去し、電気乾燥機にて、60℃で24時間乾燥した。
(xiv)乾燥した上記多孔体の表面を、プラズマトリート社製のプラズマ照射システム(プラズマジェネレーター「FG5001」+ノズル「RD1004」)を用いてプラズマ処理し、植物育成用培地を作製した。
【0054】
(5)実施例11
(xv)上記(i)で得られた粉砕粒状多孔体(融点120℃)をホットプレート上で、融点以上の温度である200℃で5分間加熱して、表面を溶融させた。
(xvi)上記表面を溶融させた多孔体と、以下の表2に示す陽イオン交換材料とを、ホットプレート上で混合、撹拌した後、常温まで冷却して、上記多孔体に陽イオン交換材料を固着させて、陽イオン交換能を付与した植物育成用培地を作製した。
【0055】
(6)実施例12〜13
上記陽イオン交換材料の配合量を50質量部とした以外は、上記工程(i)〜(iv)を行って得られた実施例1および3と同様の多孔体に、更に以下の工程を行った。
(xvii)上記工程(i)〜(iv)で得られた実施例1と同様の多孔体をホットプレート上で、220℃で5分間加熱して、表面を溶融させた。
(xviii)上記表面を溶融させた多孔体と、以下の表2に示す陽イオン交換材料25質量部とを、ホットプレート上で混合、撹拌した後、常温まで冷却して、上記多孔体に陽イオン交換材料を固着させて、陽イオン交換能を更に付与した植物育成用培地を作製した。
【0056】
【表2】

【0057】
(7)比較例1
無処理の実施例1に用いた多孔体を植物育成用培地とした。
【0058】
(8)比較例2
無処理の実施例1に用いた多孔体を、電気乾燥機にて120℃で24時間加熱収縮させて、平均孔径を小さくした多孔体を植物育成用培地として使用した。
【0059】
(9)比較例3
上記工程(iii)において、上記(i)で得られた粉砕粒状多孔体を入れたトレーに、上記(ii)で得られたスラリーを流し込み、浸漬しただけの単純含浸した以外は、実施例1と同様にして、植物育成用培地を得た。
【0060】
(10)比較例4〜5
多孔体の平均孔径を変えた以外は、実施例4および5と同様にして、植物育成用培地を得た。
【0061】
(11)比較例6
以下の表4に示した多孔体に、陽イオン交換材料による処理をせずに、以下の工程を行った。
(xix)以下の表4に示した多孔体を、株式会社三力製作所製の粉砕機「SF−8」を用いて、直径3mmのメッシュスクリーンを通過させ粒状に粉砕した。
(xx)以下の表4に示した吸水性材料をメタノールに溶解して、同表に示した濃度の溶液を作製した。
(xxi)上記(xix)で得られた粉砕粒状多孔体を入れたトレーに、上記工程(xx)で得られた溶液を流し込み、そのまま静置して単純含浸した。
(xxii)上記多孔体をトレーから取り出して、電気乾燥機にて、60℃で24時間乾燥し、植物育成用培地を作製した。
【0062】
(12)比較例7〜8
陽イオン交換材料の替わりに表4に示したその他フィラーを使用して、実施例1と同様の方法で植物育成用培地を得た。
【0063】
(13)比較例9
比較例2に使用した平均孔径が小さい多孔体を用い、陽イオン交換材料の替わりに表4に示したその他フィラーを使用した以外は、実施例1と同様の方法で植物育成用培地を得た。
【0064】
(14)比較例10
陽イオン交換材料の替わりに表4に示したその他フィラーを使用して、比較例4と同様の方法で植物育成用培地を得た。
【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
(注1)三和化工株式会社製ポリエチレン発泡体「オプセル」
(注2)富士ケミカル株式会社製ポリエチレン発泡体「ビオラス」
(注3)アイオン株式会社製ポリビニルアルコール発泡体「ベルイーター」
(注4)株式会社エー・シーケミカル製ポリウレタン発泡体「ACスポンジU」
(注5)カサネン工業株式会社製ベントナイト「関西ベントナイト」
(注6)カサネン工業株式会社製ベントナイト「出雲ベントナイト」
(注7)株式会社エコウエル製人工ゼオライト「琉球ライト」
(注8)住友精化株式会社製吸収性樹脂「アクアコーク TWB」
(注9)日本タルク株式会社製タルク「汎用タルクSW」
(注10)HESS PUMICE PRODUCT社製シリカ「NCS‐3」
【0068】
上記のようにして得られた実施例1〜13および比較例1〜10の植物育成用培地について、比色式pH検定器(竹村電気製作所製)によって上記植物育成用培地のpHを測定しながら、硫酸アンモニウム、苦土石灰などの土壌中和剤を加えて、pHが6〜7.5の範囲になるように調整したものを測定用試料として陽イオン交換容量の測定を行い、ラディッシュ生育性を評価し、その結果を以下の表5にまとめて示す。試験方法は以下の通りとした。
【0069】
(試験方法)
(1)陽イオン交換容量
富士平工業株式会社製の汎用抽出・ろ過装置「CEC−10 Ver.2」を用いて作製した各植物育成用培地の抽出液を、陽イオン交換容量測定用の試料として、富士平工業株式会社製の土壌・作物体総合分析装置「SFP−3」により、各植物育成用培地の陽イオン交換容量を測定した。
【0070】
(2)ラディッシュ生育性
容量300mLのポリエチレン製カップに植物育成用培地300mLを入れ、ラディッシュの種を1個入れ、十分な水分を与え発芽させた後、1週間に1回の頻度で協和株式会社製の「ハイポニカ液肥(2液タイプ)」を500倍に希釈したもの20mLを養分として供給し、それ以外は1日に1回の頻度で水道水20mLを供給して、以下に示す評価基準によりラディッシュの生育性を評価した。
(評価基準)
○:露地栽培と同様に生育し、生育良好
△:本葉が大きくならず、生育遅い
×:枯れてしまい生育不良
【0071】
【表5】

【0072】
上記表5の結果から明らかなように、実施例1〜13の本発明の植物育成用培地は、比較例1〜10の従来の植物育成用培地に比べて、陽イオン交換容量(CEC)が非常に高くて保肥性に優れ、ラディッシュの生育性についても非常に優れるものであった。
【0073】
これに対して、実施例1に用いた多孔体、即ち、無処理のポリエチレン発泡体を植物育成用培地とした比較例1では、陽イオン交換容量が非常に低く、ラディッシュの生育性についても非常に劣るものであった。また、上記実施例1に用いた無処理の多孔体を加熱収縮させたものを植物育成用培地とした比較例2では、陽イオン交換容量が非常に低く、ラディッシュの生育性についても非常に劣るものであった。
【0074】
陽イオン交換能を有する材料のスラリーを多孔体に加圧含浸せずに浸漬しただけの単純含浸した以外は実施例1と同様の比較例3の植物育成用培地では、陽イオン交換容量が低く、ラディッシュの生育性についても劣るものであった。
【0075】
多孔体の平均孔径が非常に大きい以外は、実施例4および5と同様の比較例4および5の植物育成用培地では、陽イオン交換容量は他の比較例に比べると高い値を示すものの、保水性が不十分であるため、ラディッシュの生育性が非常に劣るものであった。
【0076】
実施例5に用いた多孔体に、陽イオン交換材料による処理をせずに、実施例9と同様の吸水性材料溶液を加圧含浸せずに単純含浸した比較例6の植物育成用培地では、陽イオン交換容量が非常に低く、ラディッシュの生育性が非常に劣るものであった。
【0077】
陽イオン交換材料の替わりにタルクまたはシリカを用いた比較例7〜10の植物育成用培地では、陽イオン交換容量が非常に低く、ラディッシュの生育性が劣るものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子発泡体および無機多孔体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体、並びに該合成多孔体に被覆担持された陽イオン交換能を有する材料を含み、陽イオン交換容量40meq/100g以上を有することを特徴とする植物育成用培地。
【請求項2】
前記陽イオン交換能を有する材料が、イオン交換樹脂、粘土鉱物およびゼオライトから成る群から選択され、かつ陽イオン交換容量50meq/100g以上を有する請求項1記載の植物育成用培地。
【請求項3】
前記合成多孔体が、平均気孔径5〜500μmを有する請求項1記載の植物育成用培地。
【請求項4】
前記合成多孔体に被覆担持された吸水性材料を更に含み、保水量100〜1000%を有する請求項1記載の植物育成用培地。
【請求項5】
前記吸水性材料が有機溶媒に可溶である請求項4記載の植物育成用培地。
【請求項6】
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、並びに
(c)該溶媒を乾燥して、該合成多孔体に陽イオン交換能を付与する工程
を含む植物育成用培地の製造方法。
【請求項7】
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(d)吸水性材料を有機溶媒に溶解して吸水性材料溶液を形成する工程、
(e)(i)耐圧容器内で陽イオン交換能を付与した該多孔体を該吸水性材料溶液に浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該多孔体に該吸水性材料溶液を含浸する工程、および
(iii)該工程(e−i)および(e−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、該多孔体に該吸水性材料溶液を含浸させる工程、並びに
(f)該有機溶媒を乾燥して、該多孔体に吸水能を付与する工程、
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法。
【請求項8】
前記工程(d)〜(f)の代わりに、前記工程(c)の後に、
(g)該多孔体を洗浄した後、乾燥する工程、および
(h)該多孔体の表面を親水化処理して、水の拡散性を向上する工程
を含む請求項7記載の植物育成用培地の製造方法。
【請求項9】
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥し、該多孔体に陽イオン交換能を付与して、多孔体Aを形成する工程、
(d)吸水性材料を有機溶媒に溶解して吸水性材料溶液を形成する工程、
(e)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該吸水性材料溶液に浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該吸水性材料溶液を含浸する工程、および
(iii)該工程(e−i)および(e−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該吸水性材料溶液を含浸させる工程、
(f)該有機溶媒を乾燥し、該多孔体に吸水能を付与して、多孔体Bを形成する工程、並びに
(j)該多孔体Aおよび多孔体Bを混合する工程
を含み、
陽イオン交換容量40meq/100g以上を有することを特徴とする植物育成用培地の製造方法。
【請求項10】
(k)有機高分子発泡体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を、連続気孔構造を維持し、表面が粘着性を有するように、融点以上まで加熱して表面を溶融させる工程、
(m)該表面を溶融させた合成多孔体を、陽イオン交換能を有する材料と混合、撹拌して混合物を形成する工程、および
(n)該混合物を常温まで冷却して、該合成多孔体に該陽イオン交換能を有する材料を固着させて陽イオン交換能を付与する工程
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法。
【請求項11】
(a)陽イオン交換能を有する材料を溶媒と混合してスラリーを形成する工程、
(b)(i)耐圧容器内で連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物を該スラリーに浸漬して、該耐圧容器内を圧力0.01〜5MPaまで加圧する工程、
(ii)該圧力を開放して該合成多孔体の粉砕物に該スラリーを含浸する工程、および
(iii)該工程(b−i)および(b−ii)を5〜10回繰り返す工程
を含む、有機高分子発泡体から成る群から選択される連続気孔構造を有する合成多孔体の粉砕物に該スラリーを浸透させる工程、
(c)該溶媒を乾燥して、該合成多孔体に陽イオン交換能を付与する工程、
(p)該陽イオン交換能を付与した合成多孔体を、連続気孔構造を維持し、表面が粘着性を有するように、融点以上まで加熱して表面を溶融させる工程、
(q)該表面を溶融させた合成多孔体を、陽イオン交換能を有する材料と混合、撹拌して混合物を形成する工程、並びに
(r)該混合物を常温まで冷却して、該合成多孔体に該陽イオン交換能を有する材料を固着させて更に陽イオン交換能を付与する工程
を含むことを特徴とする植物育成用培地の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜5のいずれか1項記載の植物育成用培地を用いて植物を栽培する方法。
【請求項13】
請求項6〜11のいずれか1項記載の製造方法によって製造した植物育成用培地を用いて植物を栽培する方法。

【公開番号】特開2013−27386(P2013−27386A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−56005(P2012−56005)
【出願日】平成24年3月13日(2012.3.13)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】