説明

保護シート

【課題】 塗装ブースの内壁面に貼着され帯電した塗料粒子を反発させて内壁面への付着を防止する保護シートであって、塗料の噴霧パターンを乱さないようにする。
【解決手段】 保護シート12は、薄膜シート12aと複数のエアキャップ部Bを有する薄膜12bとを接着して構成され、内部には外部と隔離された複数の気層Aが形成されている。このように形成された保護シート12は、薄膜シート12aが塗装室8の内方に向くように、薄膜12bからエアキャップ部Bが塗装室8の内壁面8aと複数の接触点Dで接触した状態で貼着される。このため、帯電した塗料粒子が塗装室8内に噴霧されるとき、気層A内の空気と気層A’内の空気は帯電され、塗料粒子を反発させるが、保護シート12自身が帯電せず、反発力を弱めることができ、塗料の噴霧パターンを乱さない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装ブースの内壁面や塗装ブース内に取り付けられた構造物、塗装設備の表面に取り付けられる保護シートに関し、特に、塗装ガンから噴霧された帯電塗料粒子が塗装ブースの内壁面などに付着することを防止可能な保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体などの塗装には、一般に塗着効率の高い静電塗装が利用される。この場合、塗装ブース内で−60〜−90kV程度の高電圧を塗装ガンなどの塗装機本体に印加し、噴霧される塗料粒子を帯電させ、帯電した塗料粒子と接地された車体との間で発生した電気吸引で塗料粒子を車体表面に付着させる。
【0003】
車体に付着しなかった未塗着塗料は塗装ブースの天井側から床面に向かって流下する空気流によって捕捉され塗装ブース外に排出されるが、一部の未塗着塗料は電気的に接地状態にある塗装ブースの内壁面や柱などの構造物、塗装機器などの表面へ電気吸引によって引き寄せられて付着する。
塗装ブースの内壁面や柱などの構造物、塗装機器などの表面に付着した塗料の除去作業は、多くの労力・経費・時間を要するとともに、付着した塗料が剥離して飛散した場合、被塗物の表面に付着し塗装品質低下の原因にもなる。
【0004】
その対策として、特許文献1では、塗装ブースの内壁面にポリエチレンなどの帯電しやすい材料で形成されたエアキャップシートを貼着して、帯電する塗装ブース内の雰囲気でエアキャップシートを負に帯電させて、同じ極性で塗装ブース内に浮遊する塗料粒子を反発させて塗料粒子の付着を防止する技術が開示されている。
また、特許文献2では、塗装ロボットの関節部に、羊毛、ナイロン、テトロンなどのような撥水性を有する糸で編んだ保護カバーを被覆し、塗料粒子が塗装ロボットの関節部に付着することを防止する技術が開示されている。
【特許文献1】実開平6−29654号公報(段落番号0011、0014)
【特許文献2】実開平1−69659号公報(実用新案登録請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は、エアキャップシートがエアキャップの形成されていない平面状の面を取付面として塗装ブースの内壁面に取り付けられるため、特に、エアキャップが形成されていない平面状のシート部においては、負に帯電させることができず、電気吸引の結果、このシート部に浮遊する帯電粒子が付着することがある。ここに付着する塗料が剥離して飛散すると、同様に塗装品質が損なわれる可能性がある。
【0006】
また、この特許文献1に開示の技術では、エアキャップシートの材料に、帯電防止処理のされていないポリエチレンなどの帯電しやすい材料が用いられたため、エアキャップシート自身が負に帯電することで塗料粒子への反発力が強く、反発された塗料粒子が被塗物まで移動するので、塗料の噴霧パターンに乱れが生ずる。これは、特に、溶剤塗料を用いて塗装を行った場合、塗着時の塗料の平滑性が損なわれて塗装不良になる問題がある。
【0007】
特許文献2に開示の技術は、保護カバーの遮蔽で浮遊する塗料粒子がロボットの関節部に付着することを防止するようになっているため、結局、塗料粒子が糸で編んだ保護カバーの表面に付着することになる。したがって付着した塗料粒子が乾燥しアームの回動時に剥離して飛散し、被塗物が汚されることによって塗装品質が低下するという問題がある。
本発明は、前記従来の問題点に鑑み、塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面に帯電した塗料粒子の付着を防止でき、かつ塗料の噴霧パターンを乱さないことによって高品質な塗装を実施可能な保護シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面に帯電した塗料粒子の付着を防止する保護シートであって、内部に気層を有し、前記塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面に複数の点接触で取り付けられるものとした。
このように、保護シートは塗装ブースの内壁面などに複数の点接触で取り付けられるので、塗装ブースの内壁面などとの接触面積を小さく抑えることができる。そして、塗装ブースなどとの接触面積より保護シートの表面で帯電した塗装ブース内の雰囲気と接触する面積が大きいため、保護シート内部にある気層内の空気を塗装ブース内の雰囲気と同じ極性に帯電させることができるとともに、接触点周囲の空気も同じように帯電させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記保護シートの一面に気層を形成するためのエアキャップ部が複数形成され、前記複数のエアキャップ部が前記塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面と点接触で、前記保護シートが取り付けられるものとした。
このように、保護シートの一面にエアキャップ部が複数形成されるので、エアキャップ部を有する面を塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面に向けて保護シートを取り付けるだけで点接触を実現することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記保護シートが、薄膜シートと複数のエアキャップ部を有する薄膜とを接着して構成され、前記エアキャップ部と前記薄膜シートの間に前記気層が形成されているものとした。
このように、薄膜シートと複数のエアキャップ部を有する薄膜とを接着することによって保護シートが形成されるので、簡単な製造工程で保護シートを作ることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記薄膜シートの表面に、少なくとも一枚以上の剥離可能な剥離シートが設けられているものとした。
このように、塗装ブース内の雰囲気に接触する薄膜シートの表面に剥離可能な剥離シートが設けられているので、剥離シートを剥がすだけで、新しい表面を露出させることができる。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記保護シートが、フッ素樹脂で形成されたものとした。
このように、保護シートの材料にフッ素樹脂が用いられるので、フッ素樹脂がもつ帯電しにくい特性で、保護シート自身が帯電することが防止できる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、保護シート内部にある気層および塗装ブースとの接触点周囲の空気を帯電した塗装ブース内部の雰囲気と同じ極性に帯電させることができるので、保護シートの表面全域に亘って帯電塗料粒子を反発させることができ、帯電塗料粒子が塗装ブースの内壁面などに付着することを防止できるとともに、保護シート表面への付着をも防止可能になる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、保護シートの一面にエアキャップ部が複数形成され、エアキャップ部を有する面を塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面に向けて保護シートを取り付けるだけで点接触が実現されるので、複雑な取付を必要とせず、使用が簡単になる効果が得られる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、薄膜シートと複数のエアキャップ部を有する薄膜とを接着するという簡単な製造工程で保護シートを作ることができるので、製造コストが低下する。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、剥離シートを剥がすだけで、保護シートの表面に付着した汚れを取り除くことができ、保護シートの交換頻度を低減させることができ、またコストが低下する効果が得られる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、帯電した塗装ブース内の雰囲気にさらされても保護シート自身が帯電しないので、浮遊する塗料粒子への反発力が弱まり、塗料粒子の噴霧パターンが乱されず高品質な塗装を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、自動車製造工場の塗装工程において自動車の車体に水性塗料を用いて上塗り塗装を施す静電塗装ブースにより本発明の実施形態について説明する。
図1は、静電塗装ブースの内部構成を示す模式図である。
塗装ブース1の内部にパンチングメタル3、フィルタ4および簀子5が一定の間隔を隔てて配設され、塗装ブース1の内部空間は動圧室6、静圧室7、塗装室8および捕集室9に区画される。塗装室8では、簀子5の上に車体Wが載置され搬送する台車10が設けられている。車体Wの両側で複数の静電塗装ガン2が立設され、静電塗装ガン2に取り付けられたガン本体2aから車体Wに向けて帯電した塗料粒子を噴霧可能になっている。塗料粒子の帯電電圧は、例えば−60〜−90kVに設定される。
【0019】
動圧室6の天井面には空気供給ダクト11が設けられ、この空気供給ダクト11が図示しないブロアに接続され、塗装ブース1内に空気を供給可能になっている。塗装ブース1内に供給された空気は、パンチングメタル3、フィルタ4で整流、濾過され、動圧室6、静圧室7、塗装室8および捕集室9を通過して排出ダクト(不図示)から排出される。
【0020】
車体Wが台車10に載置され塗装室8内に搬送されると、車体Wに向けて静電塗装ガン2のガン本体2aから負に帯電された塗料粒子が噴霧される。このとき、塗装ブース1が接地され、車体Wは台車10を介して接地状態となっているため、電気吸引で噴霧された塗料粒子が車体Wに吸引されて付着する。
【0021】
塗料粒子が噴霧されている間、空気供給ダクト11から塗装ブース1内に空気が供給されている。供給された空気は動圧室6を通過しパンチングメタル3で下向きの滑らかな気流に整流されて静圧室7に供給される。静圧室7を通過した空気はさらにフィルタ4で濾過され、滑らかかつ清浄空気流となって塗装室8に供給されるため、塗装室8内で浮遊し車体Wに付着しなかった塗料粒子(未塗着塗料粒子)が捕捉され、空気流とともに下方の捕集室9に流入する。捕集室9には捕集水が噴霧され、塗料粒子は捕集水と接触することによって捕集される。塗料粒子が捕集された清浄な空気は排出ダクト(不図示)から外部へ排出される。
塗装室8の内壁面8aには、浮遊する未塗着塗料粒子が付着することを防止するため、全面に亘って保護シート12が貼着されている。
【0022】
図2は、塗装ブースの内壁面に貼着された保護シートの構成を示す断面図である。
保護シート12は、薄膜シート12aと複数のエアキャップ部Bを有する薄膜12bとを接着して構成され、内部には外部と隔離された複数の気層Aが形成されている。薄膜シート12aおよび薄膜12bがそれぞれ帯電しにくいフッ素材料で形成され、保護シート12は帯電されにくい特性を有するとともに、フッ素材料のもつ非粘着性で塗料粒子が付着しにくくなっている。
この保護シート12は、図2に示すように薄膜シート12aが塗装室8の内方に向くように、薄膜12bからエアキャップ部Bが塗装室8の内壁面8aと複数の接触点Dで接触した状態で貼着される。すなわち、この保護シート12は、塗装室8の内壁面8aと接触面積が最小となるように複数の点接触で貼着され、塗装ブース1とは電気的に絶縁状態となっている。
この保護シート12を貼着するには、両面テープまたは、不乾性の接着材などを用いることができる。
この保護シート12の使用によって、浮遊する塗料粒子が塗装室8の内壁面8aに触れず付着することが防止される。
【0023】
塗装室8内に帯電した塗料粒子が噴霧されるとき、塗装室8内の雰囲気も帯電される。帯電した雰囲気にさらされる保護シート12は、前記したように塗装室8の内壁面8aと複数の接触点Dで点接触の状態で貼着され、接触面積が小さく絶縁状態となっているが、保護シート12の表面で薄膜シート12aは帯電した塗装室8内の雰囲気とは全面で大きな面積で接触するので、気層A内の空気が微弱であるが雰囲気と同じように負に帯電される。また同じ理由で、接触点D周囲でエアキャップに囲まれた気層A’内の空気も負に帯電される。この2つの気層A、A’の帯電で薄膜シート12aの全域に亘って塗料粒子を反発させることになる。このため、塗料粒子の保護シート12への付着が防止される。
【0024】
すなわち、保護シート12を塗装室8の内壁面8aに貼着することによって、塗料粒子が塗装室8の内壁面8aに付着することが防止されるだけでなく、保護シート12への付着も防止される。また、保護シート12の表面でフッ素材料のもつ非粘着性があるため、塗料粒子だけでなく、他の汚れも付着しにくくなっているため、塗装室8内をクリーンな状態に保つことができ、異物が車体Wに付着して塗装品質が低下することが有効に防止できる。
また、保護シート12がフッ素材料で構成されるため、帯電した塗装室8内の雰囲気にさらされても帯電しないことによって、塗料粒子への反発力が弱まり、反発された塗料粒子が車体Wまで到着することがないので、噴霧パターンが乱れず、塗着時の塗料の平滑性が保たれ、高品質の塗装が行える。
以上のように、塗装室8の内壁面8aとの点接触は、保護シート12に形成されたエアキャップ部Bを利用して実現したため、特別な構造を必要とせず取り付けが簡単になる効果が得られる。
また、保護シート12は、薄膜シート12aと薄膜12bを接着して構成されるため、簡単な製造工程で製造することができ、製造コストが下がり安価で得ることができる。
また、保護シート12の材料としては、フッ素材料である必要がなく、帯電しやすい樹脂材料でも帯電防止処理をすれば使用することができる。
【0025】
本実施形態では、保護シート12の貼着場所として塗装室8の内壁面8aに設定したが、これに限らず、塗装室8内に配設された柱などの構造物、または塗装設備や搬送台車などの塗装設備に適用することもできる。
【0026】
図3は、静電塗装ガンのガン本体に保護シートが貼着された場合を示す説明図である。
静電塗装ガン2(図1)から車体Wに帯電した塗料粒子が噴霧された際、車体Wに塗着されなかった未塗着塗料は、車体Wに跳ね返されてガン本体2aに付着することがある。この場合、図3に示すように、保護シート12をガン本体2aに被覆するように貼着することによって塗料が付着することを防止できる。なお、この場合も、図2に示すように保護シート12は、ガン本体2aの表面と複数の点で接触するように貼着される。これによって、塗装室8の内壁面8aと同様に、塗料粒子がガン本体2aだけでなく保護シート12への付着も防止される。また、塗料粒子への反発力が弱いため、塗着時の塗料の平滑性が保たれ、高品質の塗装が行える。
【0027】
図4は、保護シートの変形例を示す図である。
図2に示す保護シート12は薄膜シート12aと複数のエアキャップ部Bを有する薄膜12bとを接着して構成されたが、変形例では、保護シート12’は、薄膜シート12aの表面にさらに複数枚の剥離可能な剥離シート12cを設けて構成される。
これによって、保護シート12’の表面が汚れた場合は、剥離シート12cを剥がすだけで、汚れを取り除き、新しい表面を露出させることができる。したがって、保護シートの交換頻度を大幅に低減でき、コストの低減が図られる。
【0028】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上塗り塗装の実施形態に限定されず、中塗り塗装においても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】静電塗装ブースの内部構成を示す模式図である。
【図2】塗装ブースの内壁面に貼着された保護シートの構成を示す断面図である。
【図3】静電塗装ガンのガン本体に保護シートが貼着された場合を示す説明図である。
【図4】保護シートの変形例を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 塗装ブース
2 静電塗装ガン
2a ガン本体
3 パンチングメタル
4 フィルタ
5 簀子
6 動圧室
7 静圧室
8 塗装室
8a 内壁面
9 捕集室
10 台車
11 空気供給ダクト
12、12’ 保護シート
12a 薄膜シート
12b 薄膜
12c 剥離シート
A 気層
A’ 気層
B エアキャップ部
D 接触点
W 車体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面に帯電した塗料粒子が付着することを防止する保護シートであって、
内部に気層を有し、前記塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面に複数の点接触で取り付けられることを特徴とする保護シート。
【請求項2】
前記保護シートの一面に気層を形成するためのエアキャップ部が複数形成され、前記複数のエアキャップ部が前記塗装ブースの内壁面および/または塗装ブース内に設置された塗装設備の表面と点接触で、前記保護シートが取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の保護シート。
【請求項3】
前記保護シートは、薄膜シートと複数のエアキャップ部を有する薄膜とを接着して構成され、前記エアキャップ部と前記薄膜シートの間に前記気層が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の保護シート。
【請求項4】
前記薄膜シートの表面に、少なくとも一枚以上の剥離可能な剥離シートが設けられていることを特徴とする請求項3に記載の保護シート。
【請求項5】
前記保護シートは、フッ素樹脂で形成されたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の保護シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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