説明

信号光検出装置及び信号光検出方法

【課題】複雑なアナログ回路を必要とせず、かつ電気信号の立ち上がり部分の傾斜に起因して光の入射開始タイミングに誤差が生じることを抑制できる信号光検出装置を提供する。
【解決手段】光電変換素子104が生成した電気信号はコンパレータ120に入力される。コンパレータ120は、増幅器110から出力された電気信号が基準電圧以上であるか否かを判断し、基準電圧以上である場合にハイ信号を出力する。基準電圧変更部130は、電気信号が基準電圧以上になったとコンパレータ120が判断してから、予め定められた時間が経過した後に基準電圧を上昇させていく。信号処理装置は、電気信号が基準電圧以上になってから基準電圧以下になるまでの時間であるパルス幅に基づいて、電気信号が基準電圧以上になった立ち上がりタイミングを補正することにより、信号光が光電変換部100に入射し始めたタイミングを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光の入射開始タイミングを精度よく検出することができる信号光検出装置及び信号光検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の断面像を撮像して癌を発見する方法の一つに、陽電子放出断層撮影(PET:Positron Emission Tomography)がある。PETは、癌細胞に取り込まれた陽電子放出核種から放出される放射線を検出することにより、癌細胞の位置を特定する装置である。PETにおいて、放射線はシンチレータによって低波長の光に変換される。そして変換後の光を、光電変換素子により電気信号に変換し、この電気信号を解析することにより、放射線を検出している。
【0003】
癌細胞の位置の特定において、放射線の検出タイミングの精度を上げることが重要である。放射線の検出タイミングの誤差の原因の一つに、電気信号の立ち上がり部分の傾斜が波高によって変わり、これによって放射線の入射開始タイミングに誤差が生じることがある。この原因を解消する方法の一つに、コンスタントフラクションタイミングがある。この方法は、例えば非特許文献1に記載されているように、入力信号を減衰した信号と、入力信号を反転した信号とを足し合わせ、足し合わせにより生成した信号が0点と交差する時間に基づいて、放射線の入射開始タイミングを検出するものである。なお、非特許文献1には、コンスタントフラクションタイミングに類似する他の方法も記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】放射線計測ハンドブック、G.F.Knoll著、木村逸郎、阪井英次訳、日刊工業新聞社2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンスタントフラクションタイミング及びこれに類似する方法を実現するためには、入力信号を反転させる必要がある。入力信号を反転させるためには複雑なアナログ回路が必要になる。一方、近年は一つの半導体チップに必要な回路を搭載することが進んでいる。半導体チップに複雑なアナログ回路を搭載することは、半導体チップのコストを増大させる。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複雑なアナログ回路を必要とせず、かつ電気信号の立ち上がり部分の傾斜に起因して放射線の入射開始タイミングに誤差が生じることを抑制できる信号光検出装置及び信号光検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、信号光をアナログの電気信号に変換する光電変換部から出力される前記電気信号をデジタル信号に変換するAD変換回路と、
前記デジタル信号を補正する補正部と、
を備え、
前記AD変換回路は、
前記電気信号が基準電圧以上であるか否かを判断するコンパレータと、
前記電気信号が前記基準電圧以上になったと前記コンパレータが判断してから、予め定められた時間が経過した後に前記基準電圧を上昇させていく基準電圧変更部と、
を備え、
前記補正部は、前記電気信号が前記基準電圧以上になってから、前記電気信号が前記基準電圧以下になるまでの時間であるパルス幅に基づいて、前記電気信号が前記基準電圧以上になった立ち上がりタイミングを補正することにより、前記信号光が前記光電変換部に入射し始めたタイミングである入射タイミングを算出する信号光検出装置が提供される。
【0008】
本発明によれば、光電変換部が、信号光をアナログの電気信号に変換し、
コンパレータが、前記電気信号が基準電圧以上であるか否かを判断し、
前記電気信号が前記基準電圧以上になったと前記コンパレータが判断してから予め定められた時間が経過した後に、基準電圧変更部が前記基準電圧を上昇させていき、
前記電気信号が前記基準電圧以上になってから前記基準電圧以下になるまでの時間であるパルス幅に基づいて、補正部が前記電気信号が前記基準電圧以上になった立ち上がり時刻を補正することにより、前記信号光が前記光電変換部に入射し始めた時刻である入射時刻を算出する信号光検出方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、複雑なアナログ回路を必要とせず、かつ電気信号の立ち上がり部分の傾斜に起因して放射線の入射開始タイミングに誤差が生じることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】陽電子放出断層撮影装置の構成を示す図である。
【図2】信号光検出装置の機能構成を示すブロック図である。
【図3】信号処理装置の機能構成を示すブロック図である。
【図4】補正部が行う補正を具体的に説明するための図であり、シンチレータに放射線が入射したときの増幅器の出力電圧の経時変化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0012】
図1は、実施形態に係る陽電子放出断層撮影装置の構成を示す図である。この陽電子放出断層撮影装置は、複数の信号光検出装置10及び信号処理装置20を備える。複数の信号光検出装置10は、被験者の周囲を取り囲むように設けられている。信号光検出装置10が検出した信号は、信号処理装置20に送信される。信号処理装置20は、信号光検出装置10からの信号を処理し、被験者の何れの部分に癌細胞が位置しているかを算出する。
【0013】
具体的には、被験者の癌細胞に取り込まれた陽電子放出核種が崩壊すると、0.511KeVの放射線が放出される。この放射線は、互いに対向する2つの信号光検出装置10に略同じタイミングで検出される。信号処理装置20は、いずれの信号光検出装置10において放射線が同時に検出されたかを判断し、この判断結果を集計して画像を生成することにより、被験者の何れの部分に癌細胞が位置しているかを算出する。このため、陽電子放出断層撮影装置では放射線の検出タイミングの精度を上げることが重要である。
【0014】
図2は、信号光検出装置10の機能構成を示すブロック図である。信号光検出装置10は、光電変換部100及びAD変換回路を備える。AD変換回路は、コンパレータ120及び基準電圧変更部130を備える。
【0015】
光電変換部100は、シンチレータ102及び光電変換素子104を有する。シンチレータ102は、放射線が入射すると蛍光を発光する。光電変換素子104は、例えばフォトダイオードであり、シンチレータ102が発光した蛍光をアナログの電気信号に変換する。本実施形態において、光電変換素子104が生成した電気信号は増幅器110によって増幅され、AD変換回路のコンパレータ120に入力される。
【0016】
コンパレータ120は、増幅器110から出力された電気信号が基準電圧(LDD)以上であるか否かを判断し、基準電圧以上である場合にハイ信号を出力する。コンパレータ120がハイ信号を出力しているとき、シンチレータ102に放射線が入射しているときと判断される。
【0017】
基準電圧変更部130は、電気信号が基準電圧以上になったとコンパレータ120が判断してから、予め定められた時間が経過した後に基準電圧を上昇させていく。本実施形態において基準電圧変更部130は、モノステーブル回路132及びRC回路140を有する。モノステーブル回路132は、入力部がコンパレータ120の出力部に接続されている。RC回路140は抵抗素子142及び容量素子144を備えており、モノステーブル回路132の出力とコンパレータ120の基準電圧入力部を接続している。コンパレータ120の基準電圧入力部には、抵抗素子150を介して直流電源160が接続している。
【0018】
なお基準電圧変更部130の基準電圧上昇量は、例えば時間を変数とした一次関数であるが、これに限定されるものではなく、二次以上の関数であっても良い。
【0019】
またコンパレータ120の出力は、信号処理装置20に出力される。信号処理装置20は、詳細を後述するように、電気信号が基準電圧以上になってから基準電圧以下になるまでの時間であるパルス幅に基づいて、電気信号が基準電圧以上になった立ち上がりタイミングを補正することにより、信号光が光電変換素子に入射し始めたタイミングを算出する。
【0020】
なお、上記した信号光検出装置10は、シンチレータ102及び直流電源160を除いて、一つの半導体チップとして形成することができる。そしてこの半導体チップは、増幅器110、コンパレータ120、モノステーブル回路132、抵抗素子142,150、及び容量素子144を備えているが、これらは複雑なアナログ回路を必要としない。
【0021】
図3は、信号処理装置20の機能構成を示すブロック図である。信号処理装置20は、補正部210、補正用データ記憶部220、及び測定データ記憶部230を備える。
【0022】
補正部210は、信号光検出装置10のコンパレータ120から出力されるハイ信号を、放射線がシンチレータ102に入射している間を示すパルス信号として認識する。
【0023】
補正用データ記憶部220は、パルス信号の立ち上がりタイミングを補正するためのデータを記憶している。このデータは、放射線がシンチレータ102に入射している間を示すパルス信号の幅と、立ち上がりタイミングの補正量を示すデータとの関係を示しており、例えば補正テーブルや補正関数である。
【0024】
そして補正部210は、パルス信号の幅を認識し、この幅に対応する補正量を、補正用データ記憶部220が記憶しているデータを用いて読み出しまたは算出する。そして補正部210は、読み出し又は算出した補正量を用いて、パルス信号の立ち上がりタイミングを補正する。
【0025】
図4は、補正部210が行う補正を具体的に説明するための図であり、シンチレータ102に放射線が入射したときの増幅器110の出力電圧の経時変化を示している。横軸(時間軸)の原点(0点)は、シンチレータ102に放射線が入射したときである。Aは放射線が弱いときのチャートであり、Cは放射線が強いときのチャートであり、Bは放射線の強度が中程度のときのチャートである。
【0026】
増幅器110の出力が立ち上がる前は、コンパレータ120の基準電圧は一定である。そして、シンチレータ102に放射線が入射したとき、その立ち上がり角度は、入射した放射線の強度によって異なる。このため、コンパレータ120が出力するパルス信号の立ち上がりタイミングはA,B,Cの間で異なる。具体的には、パルス信号の立ち上がりタイミングは、Cが最も早く、次いでB、Aの順に早い。
【0027】
そして基準電圧変更部130は、一定時間が経過した後にコンパレータ120の基準電圧を上昇させていく。すると、コンパレータ120の基準電圧は、あるタイミングで増幅器110の出力電圧より高くなる。このタイミングで、コンパレータ120が出力するパルス信号は立ち下がる。この立下りタイミングは、A,B,Cの間で異なる。具体的には、パルス信号の立ち下がりタイミングは、Aが最も早く、次いでB、Cの順に早い。
【0028】
このため、コンパレータ120が出力するパルス信号の幅は、A,B,Cの間で異なる。具体的には、Aが最も狭く、次いでB,Cの順に広くなっていく。
【0029】
以上のことから、コンパレータ120が出力するパルス信号の幅は、シンチレータ102に放射線が入射してからパルス信号が立ち上がるまでの時間と相関がある。具体的には、パルス信号の幅が狭いほど、シンチレータ102に放射線が入射してからパルス信号が立ち上がるまでの時間が長くなる。このため、この相関を示すデータを補正用データ記憶部220に記憶させておくことにより、コンパレータ120が出力するパルス信号の立ち上がりタイミングを精度よく補正することができる。
【0030】
なお、図4に示す例では、コンパレータ120の基準電圧の上昇速度はある程度早く、増幅器110の出力電圧がピークを迎える前にパルス信号が立ち下がっているが、コンパレータの基準電圧の上昇速度をこれより遅くして、増幅器110の出力電圧がピークを迎えた後にパルス信号が立ち下がるようにしてもよい。
【0031】
以上、本実施形態によれば、増幅器110の出力がコンパレータ120の基準電圧を超えてから一定時間が経過した後に、この基準電圧を上昇させていく。このため、コンパレータ120が出力するパルス信号の幅と、シンチレータ102に放射線が入射してからパルス信号が立ち上がるまでの時間には相関が生じる。このため、この相関を示すデータを補正用データ記憶部220に記憶させておくことにより、コンパレータ120が出力するパルス信号の立ち上がりタイミングを精度よく補正することができる。
【0032】
また、信号光検出装置10の増幅器110、コンパレータ120、モノステーブル回路132、抵抗素子142,150、及び容量素子144は、複雑なアナログ回路を必要としない。このため、これらを一つの半導体チップとして形成するときに、その製造コストを下げることができる。
【0033】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。例えば上記した実施形態では、信号光検出装置10は放射線を検出する装置であり、PETに使用されたが、本発明はこれに限定されるものではない。また信号光検出装置10が検出する光は放射線に限られるものではなく、他の波長の光であっても良い。この場合、シンチレータ102は不要になる。
【符号の説明】
【0034】
10 信号光検出装置
20 信号処理装置
100 光電変換部
102 シンチレータ
104 光電変換素子
110 増幅器
120 コンパレータ
130 基準電圧変更部
132 モノステーブル回路
140 RC回路
142 抵抗素子
144 容量素子
150 抵抗素子
160 直流電源
210 補正部
220 補正用データ記憶部
230 測定データ記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光をアナログの電気信号に変換する光電変換部から出力される前記電気信号をデジタル信号に変換するAD変換回路と、
前記デジタル信号を補正する補正部と、
を備え、
前記AD変換回路は、
前記電気信号が基準電圧以上であるか否かを判断するコンパレータと、
前記電気信号が前記基準電圧以上になったと前記コンパレータが判断してから、予め定められた時間が経過した後に前記基準電圧を上昇させていく基準電圧変更部と、
を備え、
前記補正部は、前記電気信号が前記基準電圧以上になってから、前記電気信号が前記基準電圧以下になるまでの時間であるパルス幅に基づいて、前記電気信号が前記基準電圧以上になった立ち上がりタイミングを補正することにより、前記信号光が前記光電変換部に入射し始めたタイミングである入射タイミングを算出する信号光検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号光検出装置において、
前記パルス幅と、前記立ち上がりタイミングの補正量とを対応付けるテーブルまたは関数を記憶する補正用データ記憶部をさらに備え、
前記補正部は、前記テーブルまたは関数に基づいて前記立ち上がりタイミングを補正する請求項1に記載の信号光検出装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の信号光検出装置において、
前記基準電圧変更部は、
入力部が前記コンパレータの出力部に接続されたモノステーブル回路と、
前記モノステーブル回路の出力部と前記コンパレータの基準電圧入力部を接続するRC回路と、
を有する信号光検出装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の信号光検出装置において、
前記信号光は放射線であり、前記光電変換部はシンチレータを有する信号光検出装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載の信号光検出装置において、
前記光電変換部をさらに備える信号光検出装置。
【請求項6】
光電変換部が、信号光をアナログの電気信号に変換し、
コンパレータが、前記電気信号が基準電圧以上であるか否かを判断し、
前記電気信号が前記基準電圧以上になったと前記コンパレータが判断してから予め定められた時間が経過した後に、基準電圧変更部が前記基準電圧を上昇させていき、
前記電気信号が前記基準電圧以上になってから前記基準電圧以下になるまでの時間であるパルス幅に基づいて、補正部が前記電気信号が前記基準電圧以上になった立ち上がり時刻を補正することにより、前記信号光が前記光電変換部に入射し始めた時刻である入射時刻を算出する信号光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−286454(P2010−286454A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−142463(P2009−142463)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】