説明

信号処理装置、信号処理方法、および受信装置

【課題】返信情報に基づいて負荷変調されているキャリア信号から高い精度で返信情報を検出する。
【解決手段】正の直流生成部61は、負荷変調されているキャリア信号を元にして正の閾値を生成する。正の選択部62は、キャリア信号の電圧と正の閾値とを比較して大きい方の値を加算部65に出力する。 負の直流生成部63は、負荷変調されているキャリア信号を元にして負の閾値を生成する。負の選択部64は、キャリア信号の電圧と負の閾値とを比較して小さい方の値を加算部65に出力する。 加算部65は、正の選択部62の出力と、負の選択部64の出力とを加算し、加算結果をIQ検波部53に出力する。この加算結果として、元のキャリア信号よりもVppが小さく、かつ、電圧の変動部分が保持された信号が得られる。本開示は、非接触通信システムに適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号処理装置、信号処理方法、および受信装置に関し、特に、例えば、送信情報に基づいて負荷変調されたキャリア信号から前記返信情報を検出する場合に用いて好適な信号処理装置、信号処理方法、および受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、FeliCa(ソニー株式会社の登録商標)に代表される非接触通信システムが普及している。この非接触通信システムは、例えば、電車、バスなどの公共交通機関の改札システムや、各種店舗や自動販売機など使用できる電子マネーシステムなどに採用されている。
【0003】
図1は、従来の非接触通信システムの構成の一例を示している。この非接触通信システム10は、リーダライタ11とトランスポンダ12から構成される。例えば、この非接触通信システム10が駅などの改札に採用される場合、リーダライタ11が改札機に内蔵され、トランスポンダ12が乗車券となるSuica(商標)に代表されるICカードなどに内蔵される。
【0004】
リーダライタ11からトランスポンダ12に対して所定の送信情報を送信する場合、図2Aに示すような正弦波のキャリア信号(搬送波)を当該所定の送信情報に従ってASK(amplitude shift keying)変調して送信する。反対に、トランスポンダ12からリーダライタ11に対して、図2Bに示すようなデジタル化された所定の返信情報を送信する場合、当該所定の返信情報に応じてトランスポンダ12におけるダンピング抵抗R1をスイッチによりオン、オフさせることにより、図2Cに示されるように、キャリア信号の電圧に変化を生じさせる負荷変調が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
そして、この負荷変調されているキャリア信号はリーダライタ11のアンテナで受信される。ただし、受信された負荷変調されているキャリア信号は、図2Dに示されるように、リーダライタ11とトランスポンダ12とのアンテナ間の距離に応じて変調度が低下したものとなり、変調度が低下するほど返信情報を検出し難くなる。
【0006】
ところで、非接触通信システム10が駅などの改札に利用される場合、利用者の利便性を考慮して、リーダライタ11とトランスポンダ12とのアンテナ間の距離が10cm以上あっても通信可能であることが要求されている。
【0007】
一方、リーダライタ11とトランスポンダ12との距離が広がると、上述したように、負荷変調されているキャリア信号の変調度が低下して返信情報を検出し難くなるので、これを補うためにキャリア信号のピークトゥーピーク電圧(以下、Vppと称する)が20V程度まで高められている。
【0008】
図3は、キャリア信号のVppを20Vとした場合に対応する従来のリーダライタの構成の一例を示している。このリーダライタ20は、負荷変調されているキャリア信号の電圧の振幅変化に基づいて返信情報を検出するものである。
【0009】
リーダライタ20においては、負荷変調されているキャリア信号が両波整流され、ピークホールド回路により包絡線検波されて検波信号が出力される。例えば、図4Aに示されるように、10%の変調度で負荷変調されているキャリア信号の場合、図4Bに示されるように両波整流され、図4Cに示されるような1V差のある検波信号が出力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−307031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、従来のリーダライタ20では、返信情報をキャリア信号の電圧の振幅変化として検出している。したがって、キャリア信号の変調度が低下している場合、返信情報を正確に検出することができなくなってしまう。
【0012】
ところで、トランスポンダにおいて返信情報に基づいてキャリア信号を負荷変調した場合、この負荷変調はキャリア信号の電圧に振幅変化を生じさせるだけでなく、電圧の位相にも変化を生じさせる特性を有することが知られている。そこで、この特性を利用し、電圧の振幅変化と位相変化の両方を検出できるIQ検波器(直交検波器)をリーダライタに採用することが考えられる。
【0013】
ここで、従来のIQ検波器に注目してみると、それらは高周波信号を処理対象とする50Ω系にて利用されることが多く、入力されるキャリア信号の許容Vppが低い2V程度のものが大多数である。
【0014】
上述したように、キャリア信号のVppは20V程度が想定されているので、リーダライタに従来のIQ検波器を採用するためには、例えば図5に示すように、従来のIQ検波器の前段に、キャリア信号のVppを1/10に減衰させるアッテネータを設けることが考えられる。この場合、アッテネータでVppが減衰されたキャリア信号は、図6に示されるように、電圧の振幅差が0.1Vとなるので、IQ検波器から出力される検波信号にも0.1Vの差しか生じないことになる。この結果、リーダライタ30による返信情報の検出感度が低下してしまうことが起こり得る。
【0015】
本開示はこのような状況に鑑みてなされたものであり、返信情報に基づいて負荷変調されているキャリア信号から高い精度で返信情報を検出できるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の第1の側面である信号処理装置は、負荷変調されているキャリア信号の電圧の正の振幅変動部分を検出する正の検出部と、前記キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分を検出する負の検出部と、前記キャリア信号の電圧の前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分を合成する合成部とを含む。
【0017】
前記正の検出部は、前記キャリア信号の電圧の正の閾値を生成する第1の生成部と、前記キャリア信号の電圧と前記正の閾値とを比較して大きい方の値を選択する第1の選択部とを含むことができ、前記負の検出部は、前記キャリア信号の電圧の負の閾値を生成する第2の生成部と、前記キャリア信号の電圧と前記負の閾値とを比較して小さい方の値を選択する第2の選択部とを含むことができる。
【0018】
本開示の第1の側面である信号処理装置は、前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分の合成結果の波形を正弦波に整形する整形部をさらに含むことができる。
【0019】
本開示の第1の側面である信号処理方法は、負荷変調されているキャリア信号の電圧を減衰させる信号処理装置の信号処理方法において、信号処理装置による、前記キャリア信号の電圧の正の振幅変動部分を検出する正の検出ステップと、前記キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分を検出する負の検出ステップと、前記キャリア信号の電圧の前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分を合成する合成ステップとを含む。
【0020】
本開示の第1の側面においては、キャリア信号の電圧の正の振幅変動部分が検出され、キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分が検出され、キャリア信号の電圧の前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分が合成される。
【0021】
本開示の第2の側面である受信装置は、負荷変調されているキャリア信号を受信する受信部と、前記キャリア信号の電圧の正の振幅変動部分を検出する正の検出部と、前記キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分を検出する負の検出部と、前記キャリア信号の電圧の前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分を合成する合成部と、前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分の合成結果を検波する検波部とを含む。
【0022】
本開示の第2の側面である受信装置は、前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分の合成結果の波形を正弦波に整形する整形部をさらに含むことができ、前記検波手段は、正弦波に整形された前記合成結果を検波することができる。
【0023】
本開示の第2の側面においては、負荷変調されているキャリア信号が受信され、前記キャリア信号の電圧の正の振幅変動部分が検出され、前記キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分が検出され、前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分が合成されて、その合成結果が検波される。
【発明の効果】
【0024】
本開示の第1の側面によれば、返信情報に基づいて負荷変調されているキャリア信号の振幅変化の変調度を向上させることができる。
【0025】
本開示の第2の側面によれば、受信した、返信情報に基づいて負荷変調されているキャリア信号から高い精度で返信情報を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】従来の非接触通信システムの構成の一例を示す回路図である。
【図2】負荷変調されたキャリア信号の変調度の変化を説明するための図である。
【図3】負荷変調されたキャリア信号の電圧の振幅変化を検出する従来のリーダライタの構成の一例を示す回路図である。
【図4】図3のリーダライタから出力される検波信号を示す図である。
【図5】アッテネータと従来のIQ検波器を搭載したリーダライタの構成の一例を示す回路図である。
【図6】図5のリーダライタにおいてIQ検波器に入力される減衰後のキャリア信号の電圧の振幅変化を示す図である。
【図7】キャリア信号のVppを、図5に示された従来のアッテネータと、本開示の変調度調整部とで減衰させた場合を比較する図である。
【図8】キャリア信号の変調度を低下させることなく、Vppを減衰させる手法を示す図である。
【図9】実施の形態であるリーダライタの構成例を示すブロック図である。
【図10】変調度調整部の構成例を示すブロック図である。
【図11】変調度調整部を実現する電子回路の第1の構成例を示すブロック図である。
【図12】変調度調整部の第1の構成例に入力される負荷変調されているキャリア信号を示す図である。
【図13】変調度調整部の第1の構成例の各部の信号波形を示す図である。
【図14】変調度調整部の第1の構成例によるVpp圧縮効果を示す図である。
【図15】変調度の定義を示す図である。
【図16】リーダライタによる信号検出処理を説明するフローチャートである。
【図17】変調度調整部を実現する電子回路の第2の構成例を示すブロック図である。
【図18】変調度調整部の第2の構成例に入力される負荷変調されているキャリア信号を示す図である。
【図19】変調度調整部の第2の構成例の各部の信号波形を示す図である。
【図20】変調度調整部の第2の構成例によるVpp圧縮効果を示す図である。
【図21】変調度調整部の出力波形を示す図である。
【図22】リーダライタの他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、発明を実施するための最良の形態(以下、実施の形態と称する)について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
<本開示の概要>
初めに、本開示の概要について説明する。図7は、返信情報に基づいて負荷変調されているキャリア信号のVppを、図5に示された従来のアッテネータにより減衰させた場合(同図A)と、本開示の変調度調整部52(図9)により減衰させた場合(同図B)との違いを示している。
【0029】
負荷変調されているキャリア信号のVppを、従来のアッテネータにより減衰させた場合、同図Aに示されるように、電圧の振幅が全体的に圧縮されてしまう。したがって、返信情報に対応する振幅変化、すなわち、キャリア信号の変調度が低下したものとなってしまい、返信情報の検出精度が低下してしまう。そこで、本開示においては、同図Bに示されように、キャリア信号の変調度を低下させてしまうことなく、キャリア信号のVppを減衰させるようにする手法を提案する。
【0030】
具体的には、図8に示す通りである。すなわち、同図Aに示される、減衰前の負荷変調されているキャリア信号から、同図Bに示されるように、返信情報に関係しない中間電位部分を除外し、返信情報に関係する電圧の振幅変化成分である正の振幅変動部分と負の振幅変動部分を検出する。さらに、同図Cに示されるように、返信情報に関係する正の振幅変動部分と負の振幅変動部分とを加算するようにする。
【0031】
これにより、Vppは減衰されているものの、返信情報に関係する振幅変化成分が保持された(相対的には変調度が向上した)キャリア信号を得ることができる。したがって、この減衰後のキャリア信号を検波すれば、返信情報をより高い精度で検出することができる。
【0032】
<実施の形態>
[リーダライタの構成例]
図9は、本開示における実施の形態であるリーダライタの構成例を示している。
【0033】
このリーダライタ50は、例えば、図1に示されたような非接触通信システムに用いられるものであり、トランスポンダにて返信情報に応じて負荷変調された高電圧(20V程度)のキャリア信号を受信して直交検波を行い、検波結果として返信情報を検出する。
【0034】
リーダライタ50は、アンテナ51、変調度調整部52、およびIQ検波部53から構成される。
【0035】
アンテナ51は、負荷変調されているキャリア信号を受信して変調度調整部52に出力する。変調度調整部52は、図8に示されたように、負荷変調されているキャリア信号の振幅変化成分を保持しつつ、そのVppを減衰してIQ検波部53に出力する。IQ検波部53は、変調度調整部52から入力されるキャリア信号を直交検波(IQ検波)し、検波結果として返信情報を検出する。
【0036】
[変調度調整部52の構成例]
図10は、変調度調整部52の構成例を示している。変調度調整部52は、正の直流生成部61、正の選択部62、負の直流生成部63、負の選択部64、および加算部65から構成される。
【0037】
正の直流生成部61は、アンテナ51から入力される、負荷変調されているキャリア信号を元にしてその電圧の正の直流成分(固定値)を正の閾値として生成して正の選択部62に出力する。具体的には、例えば、図8Aに示されたような負荷変調されているキャリア信号から、図8Bの上側に示された波形を抽出するための正の閾値が生成される。
【0038】
正の選択部62は、アンテナ51から入力される、負荷変調されているキャリア信号の電圧と、正の直流生成部61から入力される正の直流成分の値(正の閾値)とを比較して大きい方の値を加算部65に出力する。この選択結果としては、例えば、図8Bの上側に示されたような、キャリア信号の電圧の正の振幅変動部分が抽出される。
【0039】
負の直流生成部63は、アンテナ51から入力される、負荷変調されているキャリア信号を元にして、その電圧の負の直流成分(固定値)を負の閾値として生成して負の選択部64に出力する。具体的には、例えば、図8Aに示された負荷変調されているキャリア信号から、図8Bの下側に示された波形を抽出するための負の閾値が生成される。
【0040】
負の選択部64は、アンテナ51から入力される、負荷変調されているキャリア信号の電圧と、負の直流生成部62から入力される負の直流成分の値(負の閾値)とを比較して小さい方の値を加算部65に出力する。この選択結果として、例えば、図8Bの下側に示されるような、キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分が抽出される。
【0041】
加算部65は、正の選択部62の出力と、負の選択部64の出力とを加算し、加算結果(図12c)をIQ検波部53に出力する。この加算結果としては、例えば、図8Cに示されたような、元のキャリア信号よりもVppが小さく、かつ、電圧の変動部分が保持された信号が得られる。
【0042】
[変調度調整部52を実現する電子回路の第1の構成例]
図11は、変調度調整部52を実現する電子回路の第1の構成例を示している。なお、図10と対応する部位については同一の符号を付している。
【0043】
図11において、正の直流生成部61は、ダイオードD11、抵抗R11、およびキャパシタC11からなる。ダイオードD11は、アノード側に接続されたアンテナ51から入力されるキャリア信号の正の電圧のみを後段に通過させる、これにより、キャパシタC11には、正の電圧が印加される。抵抗R11は、キャパシタC11に過大電流が流れることを防ぐ。したがって、抵抗R11の値を変更することにより、キャパシタC11に蓄積される電圧値を調整することができる。
【0044】
正の選択部62は、並列に接続されたダイオードD12とダイオードD13から構成される。ダイオードD12には、アノード側に接続されたキャパシタC11からの正の電圧がかかる。ダイオードD13には、アノード側に接続されたアンテナ51からのキャリア信号の正の電圧がかかる。この結果、キャパシタC11に蓄えられた正の電圧と、キャリア信号の正の電圧の高い方が後段の加算部65に出力される。
【0045】
負の直流生成部63は、ダイオードD21、抵抗R21、およびキャパシタC21からなる。ダイオードD21は、カソード側に接続されたアンテナ51から入力される負荷変調されているキャリア信号の負の電圧のみを後段に通過させる、これにより、キャパシタC21には、負の電圧が印加される。抵抗R21は、キャパシタC21に過大電流が流れることを防ぐ。したがって、抵抗R21の値を変更することにより、キャパシタC21に蓄積される電圧値を調整することができる。
【0046】
負の選択部64は、並列に接続されたダイオードD22とダイオードD23から構成される。ダイオードD22には、カソード側に接続されたキャパシタC21からの負の電圧がかかる。ダイオードD23には、カソード側に接続されたアンテナ51からのキャリア信号の負の電圧がかかる。この結果、キャパシタC21に蓄えられた負の電圧と、キャリア信号の負の電圧の低い方が後段の加算部65に出力される。
【0047】
加算部65は、抵抗R12および抵抗R22から成る。
【0048】
図11に示された変調度調整部52の第1の構成例に対して、図12に示されるようなVpp=40Vの負荷変調されたキャリア信号が入力されると、正の直流生成部61では、図13bに示されるような正の固定値(閾値)を得ることができる。なお、抵抗R11の値を変更することにより、当該正の閾値を調整することができる。正の選択部62からは、キャリア信号のうち、図13bに示された正の閾値よりも高い部分が抽出されて、図13aに示される波形の信号が得られる。
【0049】
一方、負の直流生成部63では、図13dに示されるような負の固定値(閾値)を得ることができる。なお、抵抗R21の値を変更することにより、当該負の閾値を調整することができる。負の選択部64からは、キャリア信号のうち、図13dに示された負の閾値よりも低い部分が抽出されて、図13eに示される波形の信号が得られる。
【0050】
加算部65では、図13aに示された波形と、図13eに示された波形とが加算されて、図13cに示される波形の信号が得られて後段に出力される。
【0051】
図14は、図12に示された、変調度調整部52の第1の構成例に入力されるキャリア信号の電圧の波形と、図13cに示された、加算部65から出力される電圧の波形とを、その縦幅を調整して示したものである。すなわち、図14Aの縦軸は±20Vの範囲を示し、図14Bの縦軸は±2Vの範囲を示している。また、図15は、負荷変調されている信号の変調度の定義を示している。変調度は、最大VppAと最小VppBを用いて(A−B)/(A+B)により算出される。
【0052】
図14から明らかなように、変調度調整部52の第1の構成例に入力された状態のキャリア信号の最大VppAは40Vであり、最小VppBは36Vであるので、その変調度は5.3%となる。これに対して、加算部65から出力される信号の最大VppAは3.42Vであり、最小VppBは1.46Vであるので、その変調度は40.2%となる。
【0053】
したがって、図11に示された変調度調整部52の第1の構成例によれば、キャリア信号のVppを圧縮しつつ、その変調度を約7.5倍に向上させることができる。したがって、IQ検波部53に許容Vppが2V程度の直交検波LSIを用いることができ、さらに、キャリア信号の電圧の振幅変化に基づく検波を高い精度で実行させることができる。
【0054】
[リーダライタ50の動作について]
図16は、リーダライタ50による信号検出処理を説明するフローチャートである。
【0055】
この信号検出処理の前提として、リーダライタ50では、トランスポンダによって負荷変調されているキャリア信号がアンテナ51により受信され、変調度調整部52に入力されているものとする。
【0056】
ステップS1において、変調度調整部52の正の直流生成部61は、アンテナ51から入力されたキャリア信号を元にして正の閾値を生成して正の選択部62に出力する。ステップS2において、正の選択部62は、アンテナ51から入力されたキャリア信号の電圧と、正の直流生成部61からの正の閾値とを比較して大きい方の値を加算部65に出力する。
【0057】
ステップS3において、負の直流生成部63は、アンテナ51から入力されたキャリア信号を元にして負の閾値を生成して負の選択部64に出力する。ステップS4において、負の選択部64は、アンテナ51から入力されたキャリア信号の電圧と、負の直流生成部62から入力される負の閾値とを比較して小さい方の値を加算部65に出力する。
【0058】
なお、ステップS1乃至S4の処理は、実際には同時に進行される。
【0059】
ステップS5において、加算部65は、正の選択部62の出力と、負の選択部64の出力とを加算し、加算結果(図12c)をIQ検波部53に出力する。ステップS6において、IQ検波部53は、加算部65から入力された、元のキャリア信号よりもVppが小さく、かつ、電圧の変動部分が保持された信号に対してIQ検波を行う。このIQ検波の結果として、トランスポンダからの返信情報を得ることができる。以上で、信号検出処理の説明を終了する。
【0060】
[変調度調整部52を実現する電子回路の第2の構成例]
図17は、変調度調整部52を実現する電子回路の第2の構成例を示している。なお、図11に示された第1の構成例を共通する部位については同一の符号を付しているので、その説明は、適宜省略する。
【0061】
当該第2の構成例と第1の構成例との相違点は、加算部65の構成にある。すなわち、第1の構成例では、加算部65を抵抗R12および抵抗R22で構成していたが、第2の構成例では、さらに抵抗R31およびオペアンプ71が追加されている。
【0062】
抵抗R31は、その抵抗値が抵抗R12および抵抗R22よりも小さいものが用いられており、オペアンプ71のフィードバック抵抗として作用する。オペアンプ71は、抵抗R12を介して入力される正の選択部62の出力と、抵抗R22を介して入力される負の選択部64の出力との加算値を全体的に減衰して後段に出力する。
【0063】
図17に示された変調度調整部52の第2の構成例に対して、図18に示されるようなVpp=40Vの負荷変調されたキャリア信号が入力されると、正の直流生成部61では、図19bに示されるような正の固定値(正の閾値)を得ることができる。なお、抵抗R11の値を変更することにより、当該正の閾値を調整することができる。正の選択部62からは、キャリア信号のうち、図19bに示された正の閾値よりも高い部分が抽出されて、図19aに示される波形の信号が得られる。
【0064】
一方、負の直流生成部63では、図19dに示されるような負の固定値(負の閾値)を得ることができる。なお、抵抗R21の値を変更することにより、当該負の閾値を調整することができる。負の選択部64からは、キャリア信号のうち、図19dに示された負の閾値よりも低い部分が抽出されて、図19eに示される波形の信号が得られる。
【0065】
加算部65では、図19aに示された波形と、図19eに示された波形とが加算、減衰されて、図19cに示される波形の信号が得られて後段に出力される。
【0066】
図20は、図18に示された、変調度調整部52の第2の構成例に入力されるキャリア信号の電圧の波形と、図19cに示された、加算部65から出力される電圧の波形とを、その縦幅を調整して示したものである。すなわち、図20Aの縦軸は±20Vの範囲を示し、図20Bの縦軸は±2Vの範囲を示している。
【0067】
図20から明らかなように、変調度調整部52の第2の構成例に入力された状態のキャリア信号の最大VppAは40Vであり、最小VppBは36Vであるので、その変調度は5.3%となる。これに対して、加算部65から出力される信号の最大VppAは3.11Vであり、最小VppBは2.13Vであるので、その変調度は18.7%となる。
【0068】
したがって、図17に示された変調度調整部52の第2の構成例によれば、キャリア信号のVppを圧縮しつつ、その変調度を約3.5倍に向上させることができる。したがって、IQ検波部53に許容Vppが2V程度の直交検波LSIを用いることができ、さらに、キャリア信号の電圧の振幅変化に基づく検波を高い精度で実行させることができる。
【0069】
[リーダライタの他の構成例]
ところで、上述した変調度調整部52により減衰されたキャリア信号の電圧は、図21Aに示されるような波形となる。これをIQ検波部53に入力して検波させてもよいが、図21Bに示されるように正弦波に近い波形に整形できれば、検波精度をより高めることができる。
【0070】
図22は、上述したように、減衰させたキャリア信号を正弦波に近い波形に整えてIQ検波部53に入力することができるリーダライタ80の構成例を示している。
【0071】
このリーダライタ80は、図9に示されたリーダライタ50の変調度調整部52とIQ検波部53の間にLPF81を設けたものである。LPF81以外の部位については、リーダライタ50と共通である。LPF81は、減衰されたキャリア信号の高周波成分を除去することにより、その波形を正弦波に近づけることができる。
【0072】
リーダライタ80によれば、リーダライタ50に比較して、より高い精度で返信情報を検出することができる。
【0073】
なお、上述したリーダライタ50,80は、変調度調整部52を設けることによってキャリア信号の電圧の振幅変化の検波には大きな効果がある。リーダライタとトランスポンダの距離が比較的離れている場合、負荷変調は位相変化としてよりも振幅変化として検波されることが多いので、本開示は、特に、リーダライタとトランスポンダの通信距離を伸ばすことを目的とした場合に効果的である。
【0074】
なお、本開示の変調調整部52は、非接触通信システムのリーダライタに適用されるだけでなく、負荷変動された信号を受信する受信装置に適用することが可能である。
【0075】
本明細書において、システムとは、複数の装置により構成される装置全体を表すものである。
【0076】
なお、本開示の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0077】
50 リーダライタ, 51 アンテナ, 52 変調度調整部, 53 IQ検波部, 61 正の直流生成部, 62 正の選択部, 63 負の直流生成部, 64 負の選択部, 65 加算部, 80 リーダライタ, 81 LPF

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷変調されているキャリア信号の電圧の正の振幅変動部分を検出する正の検出部と、
前記キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分を検出する負の検出部と、
前記キャリア信号の電圧の前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分を合成する合成部と
を含む信号処理装置。
【請求項2】
前記正の検出部は、
前記キャリア信号の電圧の正の閾値を生成する第1の生成部と、
前記キャリア信号の電圧と前記正の閾値とを比較して大きい方の値を選択する第1の選択部とを含み、
前記負の検出部は、
前記キャリア信号の電圧の負の閾値を生成する第2の生成部と、
前記キャリア信号の電圧と前記負の閾値とを比較して小さい方の値を選択する第2の選択部とを含む
請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分の合成結果の波形を正弦波に整形する整形部を
さらに含む請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
負荷変調されているキャリア信号の電圧を減衰させる信号処理装置の信号処理方法において、
信号処理装置による、
前記キャリア信号の電圧の正の振幅変動部分を検出する正の検出ステップと、
前記キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分を検出する負の検出ステップと、
前記キャリア信号の電圧の前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分を合成する合成ステップと
を含む信号処理方法。
【請求項5】
負荷変調されているキャリア信号を受信する受信部と、
前記キャリア信号の電圧の正の振幅変動部分を検出する正の検出部と、
前記キャリア信号の電圧の負の振幅変動部分を検出する負の検出部と、
前記キャリア信号の電圧の前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分を合成する合成部と、
前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分の合成結果を検波する検波部と
を含む受信装置。
【請求項6】
前記正の振幅変動部分と前記負の振幅変動部分の合成結果の波形を正弦波に整形する整形部を
さらに含み、
前記検波手段は、正弦波に整形された前記合成結果を検波する
請求項5に記載の受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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