説明

信号処理装置および信号処理方法

【課題】記録する上で好ましくない音声信号を軽減して録音することができる信号処理技術を提供する。
【解決手段】音声信号を処理する信号処理装置において、音声信号取得部10は、音声信号を取得する。振動信号検出部14は、本装置が受けた物理的な接触による振動を振動信号として検出する。振動音信号推定部16は、振動信号検出部が検出した振動信号を周波数解析することにより、本装置が受けた物理的な接触に起因して発生し音声信号取得部10に取得された振動音信号を推定する。振動音信号抑制部20は、推定された振動音信号をもとに音声信号取得部10が取得した音声信号に含まれる振動音信号の影響を軽減することにより、記録すべき録音信号を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音声に関する信号の信号処理装置および信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、会議やインタビュー等の記録に用いられる携帯可能な録音機器が普及してきている。これらの録音機器は小型の場合が多く、どこにでも手軽に持ち運ぶことができる。一方で、小型ゆえに望ましくない音声信号を雑音として記録してしまう場合もある。例えば、録音機器の操作部の操作音等である。録音開始に伴う機器操作音に関しては、操作のタイミングと録音開始のタイミングとをずらす等により対策する技術がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−91197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
録音機器が小型であることに起因して生じる雑音としては、この他にも録音中に録音機器を移動することに起因して生じる摩擦音など様々なものがあるため、これらの雑音を軽減する技術には改良の余地があると考えられる。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたもので、その目的は、記録する上で好ましくない音声信号を軽減して録音することができる信号処理技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の信号処理装置は、音声信号を取得する音声信号取得部と、本装置が受けた物理的な接触による振動を振動信号として検出する振動信号検出部と、前記振動信号検出部が検出した振動信号を周波数解析することにより、本装置が受けた物理的な接触に起因して発生し前記音声信号取得部に取得された振動音信号を推定する振動音信号推定部と、推定された振動音信号をもとに前記音声信号取得部が取得した音声信号に含まれる振動音信号の影響を軽減することにより、記録すべき録音信号を生成する振動音信号抑制部とを含む。
【0007】
本発明のさらに別の態様は、音声信号を録音する装置における信号処理方法である。この方法は、音声信号を取得するステップと、当該装置が受けた物理的な接触を振動信号として取得するステップと、当該装置が受けた物理的な接触に起因して発生し音声信号として取得された振動音信号を、振動信号を周波数解析することにより取得するステップと、音声信号に含まれる振動音信号の影響を抑制することにより、記録すべき録音信号を生成するステップとを本装置のプロセッサに実行させる。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録する上で好ましくない音声信号を軽減して録音することができる信号処理技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施の形態に係る信号処理装置の内部構造を模式的に示した図である。
【図2】実施の形態に係る振動音信号推定部の内部構造を模式的に示した図である。
【図3】実施の形態に係る信号処理装置の処理の流れを説明するフローチャートである。
【図4】実施の形態に係る振動音信号抑制部の処理の流れを説明するフローチャートである。
【図5】実施の形態に係る振動音信号推定部の別の内部構造を模式的に示した図である。
【図6】実施の形態に係る振動音信号推定部のさらに別の内部構造を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態の概要を述べる。実施の形態にかかる信号処理装置は、音声信号を録音する録音機器である。この信号処理装置は、当該装置が受けた物理的な接触による振動を振動信号として検出し、その接触に起因して発生した雑音信号を振動信号をもとに推定する。推定した雑音信号を録音する信号から軽減する。
【0012】
図1は、実施の形態に係る信号処理装置100の内部構造を模式的に示した図である。信号処理装置100は、音声信号取得部10、AD変換部12、振動信号検出部14、振動音信号推定部16、操作受付部18、振動音信号抑制部20、および記録部22を含む。
【0013】
音声信号取得部10は音声信号を電気信号に変換する。これは例えばマイクロフォンを用いることで実現できる。AD変換部12は、音声信号取得部10が変換したアナログ形式の電気信号をデジタル形式の電気信号に変換して出力する。
【0014】
振動信号検出部14は、信号処理装置100が受けた物理的な接触による振動を振動信号として検出する。ここで信号処理装置が受ける物理的接触とは、録音中の装置がユーザによって移動される際に起こる、ユーザの服や置かれている机の表面、机上に置かれている書類等との接触である。これらの物理的接触はユーザにより装置が移動されるときに起こる。そこで、例えば公知の3軸加速度センサを用いることで、振動信号を装置の加速度信号として物理的接触に関する情報を取得する。また、信号処理装置が受ける物理的接触には、例えば録音の開始や停止など、ユーザが装置に接触することも含まれる。
【0015】
振動音信号推定部16は、振動信号検出部14が検出した振動信号を周波数解析することにより、本装置が受けた物理的な接触に起因して発生し音声信号取得部10に音声信号として取得された振動音信号を推定する。振動音信号を推定するための原理については後述する。
【0016】
操作受付部18は、例えば録音の開始や停止など、ユーザからの機器操作を受け付ける。また詳細は後述するが、操作受付部18は振動音信号推定部16が振動音信号を推定する際に参照するユーザからの指示も取得する。
【0017】
振動音信号抑制部20は、振動音信号推定部16が推定した振動音信号を用いて、AD変換部12が生成した音声信号に含まれる振動音信号の影響を軽減することにより、記録すべき録音信号を生成する。これは例えばAD変換部12が生成した音声信号から振動音信号推定部16が推定した振動音信号を減算することで実現できる。
【0018】
なお、例えばユーザが録音の開始や停止などの機器操作をした場合に、操作に起因して生じた振動音が音声信号取得部10に取得されるまでに要する遅延時間と、操作に起因して生じた振動信号が振動信号検出部14に検出されるまでに要する遅延時間とは異なる場合もあり得る。この場合、振動音信号抑制部20は、図示しないバッファを持ち、両者の遅延時間の差を吸収する。
【0019】
記録部22は、振動音信号抑制部20が生成した録音信号を記録する。記録部22はフラッシュメモリ等の録音用デバイスである。記録部22は、図示しないUSB(Universal Serial Bus)等を介してPC(Personal Computer)と接続することができる。記録部22は、例えばパルス符号変調(PCM;Pulse Code Modulation)した録音用信号を格納する。あるいは、図示しない符号化部を用いて録音用信号を圧縮して格納するようにしてもよい。
【0020】
実施の形態に係る信号処理装置100の構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた音声符号化機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組み合わせによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0021】
図2は、実施の形態に係る振動音信号推定部16の内部構造を模式的に示した図である。振動音信号推定部16は、係数切替指示部24、乗算部40、係数格納部28、合成部42、フーリエ変換部36、および周波数帯域分割部38を含む。乗算部40はさらに、係数レジスタ26と、乗算器30と総称される第1の乗算器30a、第2の乗算器30bおよび第nの乗算器30cとを含む。また合成部42はさらに、加算部32と逆フーリエ変換部34とを含む。
【0022】
フーリエ変換部36は、振動信号検出部14から3次元の加速度信号として振動信号を取得する。振動信号は3次元の時系列信号として得られるが、フーリエ変換部36は前処理として主成分分析等の手法を用いて主な振動の方向を求め、その方向における振幅の時間変化を後の解析対象とする。以下、単に「振動信号」と記載する場合は、主な振動の方向における振幅の時間変化のことを意味することとし、振動信号検出部14から取得する信号は3次元振動信号と記載して区別する。
【0023】
フーリエ変換部36は、振動信号をフーリエ変換することにより振動信号の周波数空間における表現を生成する。これは例えばFFT(Fast Fourier Transform)のアルゴリズムを用いることで実現できる。
【0024】
周波数帯域分割部38は、フーリエ変換部36が生成した振動信号の周波数空間における表現を、nを1よりも大きな自然数として、n個の帯域に分割する。振動信号の周波数空間における表現をA(f)(fは周波数)とし、n個の帯域をそれぞれa1(f),a2(f),・・・,an(f)とすると、A(f)=a1(f)+a2(f)+,・・・,an(f)である。a1(f),a2(f),・・・,an(f)はA(f)を複数のサブバンドに分解したことになる。
【0025】
実施の形態では、このサブバンドそれぞれに、対応するb1からbnまでのn個の係数を乗じた後に加算したものを、振動音信号の波数空間における表現V(f)の推定であるとする。すなわち、V(f)≒b1・a1(f)+b2・a2(f)+,・・・,bn・an(f)とする。
【0026】
実施の形態に係る信号処理装置100は、様々な形状および材質によって作成される録音機器である。信号処理装置100の形状や材質が異なると、それによって信号処理装置100が固有に持つ振動特性である固有振動数も異なる。例えば信号処理装置100がユーザによって机上を移動された場合を考える。このとき、信号処理装置100と机との摩擦によって振動し、その振動が雑音となって音声信号取得部10に取得される。信号処理装置100の振動は様々な周波数を含む波形となると考えられるが、信号処理装置100の持つ固有振動数付近の周波数帯は増幅されることになる。
【0027】
そこで、係数格納部28には、信号処理装置100の筐体の形状や材質に応じてあらかじめ定められたb1からbnまでのn個の係数が格納されている。例えば、a2(f)がV(f)における信号処理装置100の持つ固有振動数付近の帯域の信号であれば、係数b2の値は他の係数よりも大きな値として格納されている。
【0028】
乗算部40内の係数レジスタ26は、信号処理装置100が起動したときに係数格納部28から係数を読み込む。乗算部40内の第1の乗算器30aは、周波数帯域分割部38から取得した振動信号の周波数空間における第1の帯域a1(f)を取得するとともに係数レジスタ26から第1の係数b1を取得し、第1の帯域a1(f)の振幅をb1倍にする。第2の乗算器30bも同様に、第2の帯域a2(f)の振幅をb2倍する。以後第nの乗算器30cまで同様の演算を行う。
【0029】
合成部42内の加算部32は乗算部40から出力されたn個の信号を足しあわせて合成し、振動音信号の波数空間における表現の推定値V(f)を生成する。合成部42内の逆フーリエ変換部34は振動音信号の波数空間における表現の推定値V(f)の逆フーリエ変換を求めることにより、振動音信号の実空間における推定値v(t)を取得する。
【0030】
帯域の分割数であるnの値は、信号処理装置100の筐体の形状や材質およびその固有振動数や、信号処理装置100の重さ、想定される信号処理装置100の使用環境等を考慮して、信号処理装置100の設計者や製造者等が実験により定めればよい。また、サブバンドに乗ずる係数b1〜bnも帯域の分割数であるnを決める際に求めておけばよい。また、係数格納部28に記録する係数b1〜bnは、例えば図示しないUSBポートを介して更新できるようにしてもよい。
【0031】
ところで、形状や材質が同じものとして設計されている場合であっても、製造工程における誤差や経年変化等によって信号処理装置100が持つ固有振動数は異なるものとなりうる。また、ユーザの好みや録音状況によって音声信号取得部10に取得されるて雑音も異なることも考えられる。そのため、係数格納部28にはあらかじめ複数通りの係数b1〜bnのセットが記録されている。
【0032】
係数切替指示部24は操作受付部18からサブバンドに乗ずる係数b1〜bnのセットを変更する旨の指示をユーザから取得する。係数レジスタ26は係数切替指示部24が取得した指示をもとに、係数格納部28から係数のセットを取得して係数を切り替える。これにより、振動音信号の推定にユーザの意志を反映させることが可能となる。
【0033】
録音の開始や停止などのためにユーザが信号処理装置100の操作をするときも、その操作音が雑音となって音声信号取得部10に取得される。例えば機械的なボタンの押下操作によって録音の開始や停止が実現されるときは、ボタン操作音が音声信号取得部10に取得される。そこで、係数格納部28には、操作音固有の周波数帯域のゲインが係数b1〜bnのセットとして記録されている。
【0034】
係数切替指示部24は操作受付部18からユーザによる機器操作の情報を取得する。係数切替指示部24は機器操作の情報をもとにその操作音固有の係数b1〜bnのセットを選択し、係数レジスタ26に係数b1〜bnのセットを変更するよう指示する。係数レジスタ26は係数切替指示部24が取得した指示をもとに、係数格納部28から係数のセットを取得して係数を切り替える。これにより、ユーザの機器操作に関連して取得されるボタン操作音等の機器操作音を推定することが可能となる。
【0035】
図3は、実施の形態に係る信号処理装置100の処理の流れを説明するフローチャートである。本フローチャートにおける処理は、信号処理装置100が起動したときに開始する。
【0036】
音声信号取得部10は音声信号を電気信号に変換して取得する(S10)。AD変換部12は、音声信号取得部10が変換したアナログ形式の電気信号をデジタル形式の電気信号に変換する(S12)。振動信号検出部14は、信号処理装置100が受けた物理的な接触による振動を振動信号として検出する(S14)。
【0037】
振動音信号推定部16は、振動信号検出部14が検出した振動信号を周波数解析することにより、本装置が受けた物理的な接触に起因して発生し音声信号取得部10に音声信号として取得された振動音信号を推定する(S16)。振動音信号抑制部20は、振動音信号推定部16が推定した振動音信号を用いて、AD変換部12が生成した音声信号に含まれる振動音信号の影響を軽減する(S18)。記録部22は、振動音信号抑制部20が生成した録音信号を記録する(S20)。
【0038】
記録部22が録音信号を記録すると、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0039】
図4は、実施の形態に係る振動音信号抑制部20の処理の流れを説明するフローチャートであり、図3におけるステップS16を詳細に説明するものである。
【0040】
フーリエ変換部36は、振動信号検出部14から取得した振動信号をフーリエ変換する(S22)。周波数帯域分割部38は、フーリエ変換部36が生成した振動信号の周波数空間における表現をn個の帯域に分割する(S24)。
【0041】
係数レジスタ26は、係数切替指示部24の指示をもとに係数格納部28から係数のセットを取得し、乗算器30が用いるべき係数として設定する(S26)。乗算器30は、周波数帯域分割部38から取得した複数の帯域それぞれについて、それと対応する係数を係数レジスタ26から読み出して乗算することにより振幅を変更する(S28)。
【0042】
加算部32は、乗算部40から出力された複数の帯域の信号を足しあわせて合成する(S30)。逆フーリエ変換部34は、加算部32の出力信号の逆フーリエ変換を求めることにより(S32)、振動音信号の実空間における推定値を取得する。
【0043】
逆フーリエ変換部34が加算部32の出力信号の逆フーリエ変換を求めると、本フローチャートにおける処理は終了する。
【0044】
以上の構成による動作は以下のとおりである。ユーザは実施の形態に係る信号処理装置100を操作して録音を開始する。振動音信号推定部16は、振動信号検出部14の検出した加速度信号等の振動信号をもとに、音声信号取得部10に雑音として取得される振動音信号を推定する。振動音信号抑制部20は、音声信号取得部10が取得した音声信号から推定された振動音信号を減算することにより、雑音の軽減された録音信号を生成する。記録部22は、録音信号を記録する。
【0045】
以上説明したように実施の形態によれば、記録する上で好ましくない音声信号を軽減して録音することができる。また、操作受付部18を介して振動音信号推定部16に指示を出すことができるため、雑音の抑制レベルにユーザの好みを反映することができる。音声信号を複数の帯域に分割して処理することにより、信号処理装置100の筐体の持つ固有振動数に応じた雑音抑制や押しボタン等の操作による機器操作音の抑制にも柔軟に対応することができる。
【0046】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0047】
上記の説明では、振動音信号抑制部20が振動音信号推定部16が推定した振動音信号の推定値を音声信号から減じることによりその影響を軽減する場合について説明したが、周波数空間で処理してもよい。具体的には、AD変換部12が変換した信号をフーリエ変換部36がフーリエ変換した後、周波数帯域分割部38が複数の帯域に分割する。複数の帯域のうち振動音信号が多く含まれる帯域のゲインを下げる。これらのゲインは、係数レジスタ26に設定しておけばよい。実時間における減算処理を省略でき、計算速度が向上する点で有利である。
【0048】
上記の説明では、フーリエ変換および逆フーリエ変換を用いて信号を周波数空間で処理する場合について説明したが、実空間で処理してもよい。この場合、フーリエ変換部36および逆フーリエ変換部34は不要であり、周波数帯域分割部38は振動信号検出部14の信号を直接取得した後、主振動の振動信号を計算する。
【0049】
周波数帯域分割部38は、通過帯域がそれぞれ異なる複数の帯域通過フィルタを用いて振動信号を複数の周波数帯域の実信号に分割する。乗算器30は複数の実信号に係数を乗じた後に加算部32が合成する。
【0050】
フーリエ変換部36と逆フーリエ変換部34とが不要なため、計算コストや回路の生産コストを下げられる点で有利である。
【0051】
上記の説明では、周波数帯域分割部38が振動信号の周波数空間における表現をn個の帯域に分割する場合について説明したが、帯域分割を行わなくてもよい。以下、この場合の振動音信号推定部16の動作について説明する。なお、前述した振動音信号推定部16と重複する説明については適宜省略する。
【0052】
図5は、実施の形態に係る振動音信号推定部16の別の内部構造を模式的に示した図である。振動音信号推定部16は、係数切替指示部24、乗算部40、係数格納部28、および主振動信号生成部44を含む。また、乗算部40は、係数レジスタ26と乗算器30とをさらに含む。
【0053】
前述した振動音信号推定部16とは、フーリエ変換部36、逆フーリエ変換部34および周波数帯域分割部38を含まない点、乗算器30がひとつである点、および主振動信号生成部44を含む点で相違する。
【0054】
主振動信号生成部44は、3次元振動信号をもとに振動信号を生成する。乗算器30は主振動信号生成部44が生成した振動信号と係数レジスタ26に設定されている係数bとを乗じた信号を出力する。乗算器30の出力した信号を、振動音信号の推定結果とする。
【0055】
図5に示す振動音信号推定部16によれば、フーリエ変換部36、逆フーリエ変換部34、および周波数帯域分割部38が不要なため、計算コストや回路の生産コストを下げられる点で有利である。
【0056】
上記の説明では振動信号検出部が検出した振動信号を変換することにより振動信号音を推定する場合について説明したが、あらかじめ作成されたデータベースを参照することにより、振動信号音を推定してもよい。以下、データベースを参照することにより振動信号音を推定する場合について説明する。
【0057】
図6は、実施の形態に係る振動音信号推定部16のさらに別の内部構造を模式的に示した図である。振動音信号推定部16は、判定制御部46、振動音パターン格納部48、パターン判定部50、および推定信号生成部52を含む。
【0058】
振動音パターン格納部48には、実施の形態に係る信号処理装置100が振動する際に生じる3次元振動信号と、その時生じた振動音信号とが対応づけられて記録されている。具体的には、信号処理装置100の筐体にはx軸、y軸、およびz軸の3軸があらかじめ設定されており、それぞれの軸方向の加速度信号を入力として、その時生じた振動音信号を出力とするデータベースが構成されている。このデータベースは、信号処理装置100の設計者等によってあらかじめ実験によって作成されている。
【0059】
判定制御部46は、操作受付部18からユーザによる機器操作の情報を取得し、それを契機としてパターン判定部50に動作開始の指示を出す。パターン判定部50は、判定制御部46からの指示があると、振動信号検出部14から3次元振動信号を取得する。
【0060】
パターン判定部50は、取得した3次元振動信号を入力としてその3次元振動パターンにマッチした振動音信号を、振動音パターン格納部48を検索して取得する。パターン判定部50は、入力した3次元振動パターンにちょうどマッチする振動音信号が見つかった場合はそれを出力とする。入力した3次元振動パターンにちょうどマッチする振動音パターンが見つからない場合には、入力した3次元振動パターンと近いパターンの振動音信号を、複数取得する。
【0061】
推定信号生成部52は、パターン判定部50からの出力信号がひとつの場合には、その信号を振動音信号の推定振動として出力する。パターン判定部50からの出力信号が複数の場合には、それらの信号の平均値を振動音信号の推定振動として出力する。この際、入力した3次元振動パターンとの距離が近い信号ほど重みを付けて平均を取るようにしてもよい。
【0062】
図5に示す振動音信号推定部16によれば、フーリエ変換等の演算処理が不要となるため、計算コストや回路の生産コストを下げられる点で有利である。また、振動信号を線型変換することでは得られない非線形な振動音信号も扱うことができるため、推定精度を向上させることができる点で有利である。
【0063】
上記の説明では、音声信号取得部10がひとつの場合、すなわちモノラルの録音を前提としたが、音声信号取得部10を複数用意してステレオ録音をする場合でも本実施の形態に係る信号処理装置100は利用可能である。この場合、信号処理装置100をふたつ用意するか、あるいは時分割で処理するようにする。複数の音声信号取得部10が取得する音声に時間差がある場合には、振動音信号抑制部20に図示しないバッファを設け時間差を吸収するようにすればよい。
【0064】
上記の説明では、振動音信号推定部16は複数の帯域に分割した振動信号をもとに振動音信号を推定する場合について説明したが、振動信号の高調波を加えて推定するようにしてもよい。この場合、図示しない高調波生成部を設け、振動信号の高調波を生成するようにする。振動信号以上の周波数成分を含む振動音信号も推定できるようになり、推定精度が向上しうる点で有利である。
【符号の説明】
【0065】
10 音声信号取得部、 12 AD変換部、 14 振動信号検出部、 16 振動音信号推定部、 18 操作受付部、 20 振動音信号抑制部、 22 記録部、 24 係数切替指示部、 26 係数レジスタ、 28 係数格納部、 30 乗算器、 32 加算部、 34 逆フーリエ変換部、 36 フーリエ変換部、 38 周波数帯域分割部、 40 乗算部、 42 合成部、 44 主振動信号生成部、 46 判定制御部、 48 振動音パターン格納部、 50 パターン判定部、 52 推定信号生成部、 100 信号処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音声信号を処理する信号処理装置であって、
音声信号を取得する音声信号取得部と、
本装置が受けた物理的な接触による振動を振動信号として検出する振動信号検出部と、
前記振動信号検出部が検出した振動信号を周波数解析することにより、本装置が受けた物理的な接触に起因して発生し前記音声信号取得部に取得された振動音信号を推定する振動音信号推定部と、
推定された振動音信号をもとに前記音声信号取得部が取得した音声信号に含まれる振動音信号の影響を軽減することにより、記録すべき録音信号を生成する振動音信号抑制部とを含むことを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
前記振動音信号推定部は、
振動信号を複数の異なる周波数帯域の信号に分解する周波数分割部と、
前記周波数分割部が分割したそれぞれの信号の振幅を、前記信号処理装置が持つ振動特性に応じてそれぞれ定まる所定の係数倍した信号を生成する乗算部と、
前記乗算部が生成した信号を合成して振動音信号を生成する合成部とを含むことを特徴とする請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記振動音信号推定部は、前記乗算部が乗算すべき係数を変更する旨の指示をユーザから取得する係数切替指示部をさらに含み、
前記乗算部は、前記係数切替指示部が取得した指示をもとに係数を切り替えることを特徴とする請求項2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
信号処理装置の操作に関する操作信号を取得する操作受付部をさらに含み、
前記乗算部は、前記受付部が取得した操作信号をもとに係数を調整することを特徴とする請求項2または3に記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記振動信号検出部は加速度センサであり、前記信号処理装置が受けた物理的な接触に起因する振動信号を、前記信号処理装置の加速度の信号として取得することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の信号処理装置。
【請求項6】
音声信号を録音する装置における信号処理方法であって、
音声信号を取得するステップと、
当該装置が受けた物理的な接触を振動信号として取得するステップと、
当該装置が受けた物理的な接触に起因して発生し音声信号として取得された振動音信号を、振動信号を周波数解析することにより取得するステップと、
音声信号に含まれる振動音信号の影響を抑制することにより、記録すべき録音信号を生成するステップとを本装置のプロセッサに実行させることを特徴とする信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−209446(P2011−209446A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75785(P2010−75785)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(311003743)オンセミコンダクター・トレーディング・リミテッド (166)