説明

信号処理装置及び方法

【課題】ノイズを有効に且つ選択的に低減させうるシステムを提供する。
【解決手段】信号処理装置100は、1つの入力端子及び2つの出力端子を有する処理ユニット101を具え、この処理ユニットは、前記入力端子で信号104を受けるようになっているとともに、前記信号に基づいて低減信号を発生するようになっており、この低減信号は、前記入力端子における前記信号を低減させるようになっている。前記信号処理装置は更に、前記処理ユニットの前記2つの出力端子のうちの第1の出力端子に結合されて前記入力端子における前記信号を受けるとともに再生するようにした第1の再生ユニット102と、前記処理ユニットの前記2つの出力端子のうちの第2の出力端子に結合されて前記低減信号を受けるとともに再生するようになっている第2の再生ユニット103とを具える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理装置に関するものである。
本発明は、信号処理方法にも関するものである。
本発明は、更に、プログラムエレメントに関するものである。
本発明は、更に、コンピュータ可読媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホン拡声器を介して再生されるアンチサウンドにより、使用者(ユーザ)を周囲の音(例えば、自動車/航空機のエンジンノイズ、送風機ノイズ、列車/地下鉄の騒音)から隔離するようにするアクティブノイズ低減(ANR)ヘッドホンの使用が高まっている。従来のヘッドホンでは、ヘッドホンに装着されたマイクロホンによりアンチサウンドが計算されている。
【0003】
ヘッドセットに対しては種々のアクティブノイズ低減(ANR)システムが存在する。従来のフィードフォワードアクティブノイズ低減システムは、“基準ノイズ”信号を取得し、この基準ノイズ信号を濾波したものを再生し、ヘッドセットの使用者が受けるノイズを低減させるようにしている。この濾波は、アナログ領域又はデジタル領域で行うことができる。基準ノイズはマイクロホンを用いて記録されるという事実の為に、濾波は周囲のあらゆるノイズに対して実効され、従って、ノイズの低減には選択性がない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ノイズを有効に且つ選択的に低減させうるシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、特許請求の範囲の独立請求項に記載した信号処理装置、信号処理方法、プログラムエレメント及びコンピュータ可読媒体を提供する。
【0006】
本発明の代表的な例によれば、(音声データ信号としうる)信号を処理する信号処理装置を提供するものであり、この信号処理装置は、1つの入力端子及び2つの出力端子を有する処理ユニットを具え、この処理ユニットは、前記入力端子で信号を受けるようになっている。この信号処理装置は更に、前記処理ユニットの前記2つの出力端子のうちの第1の出力端子に結合されて前記入力端子における前記信号を受けるとともに(例えば、音波として)再生するようにした第1の再生ユニットと、前記処理ユニットの前記2つの出力端子のうちの第2の出力端子に結合されて前記低減信号を受けるとともに(例えば、音波として)再生するようになっている第2の再生ユニットとを具えている。処理ユニットは更に、入力端子における信号に基づいて低減信号を発生させ、この低減信号が第2の再生ユニットにより発生又は再生された信号を(破壊的干渉により)低減させるようにする。
【0007】
本発明の他の代表的な例によれば、処理ユニットの入力端で信号を受けるステップと、第1の再生ユニットにより前記処理ユニットの第1の出力端から前記信号を受けるとともにこの第1の再生ユニットにより前記信号を再生させるステップと、前記第1の再生ユニットにより発生又は再生される信号を低減させるようにした低減信号を前記処理ユニットにおける信号に基づいて発生させるステップと、第2の再生ユニットにより前記処理ユニットの第2の出力端から前記低減信号を受けるステップと、前記第2の再生ユニットにより前記低減信号を再生させるステップとを具える信号処理方法を提供する。
【0008】
本発明の更に他の代表的な例によれば、プログラムエレメント(例えば、ソースコード又は実行コードでのソフトウェアルーチン)であって、プロセッサにより実行された際に、上述した特徴を有する信号処理方法を制御又は実行するようにしたプログラムエレメントを提供する。
【0009】
本発明の更に他の代表的な例によれば、コンピュータプログラムが記憶されたコンピュータ可読媒体(例えば、CD、DVD、USBスティック、フロッピー(登録商標)又はハードディスク)であって、このコンピュータプログラムは、プロセッサにより実行された際に、上述した特徴を有する信号処理方法を制御又は実行するようになっているコンピュータ可読媒体を提供する。
【0010】
本発明の例に応じて実行しうる、信号再生補正の目的のための信号処理は、コンピュータプログラムにより、すなわち、ソフトウェアにより、又はハードウェア或いはハイブリッド形態の1つ以上の特別な電子最適化回路により、すなわち、ソフトウェア素子及びハードウェア素子により実現しうる。
【0011】
ヘッドセットに対しては種々のアクティブノイズ低減(ANR)システムが存在する。従来のフィードフォワードアクティブノイズ低減システムは、“基準ノイズ”信号を取得し、ヘッドセットの使用者が感知するノイズを低減するようにこの基準ノイズ信号を濾波した信号を再生する。この濾波は、アナログ領域又はデジタル領域で行うことができる。後者の場合には、より良好なANR性能を達成しうる。その理由は、極めて複雑なフィルタを用いることができ、更に、これらのフィルタを(例えば、ヘッドセットの装着が異なる場合に)生じるおそれのある音響効果の変化に適合させることができる為である。しかし、デジタルANRを実現する場合の主たる問題点は、デジタル‐アナログ変換(DAC)及びアナログ‐デジタル変換(ADC)によって遅延が生じることである。実際に、ANRシステムの性能は遅延の存在によりかなり減少する。アナログ解法はより単純なフィルタを用いており、従って、ANR性能は遅延のないデジタル解法により期待しうる性能よりも低くなるが、濾波は(その回路がアナログ電子回路である為に)殆ど瞬間的に行われる。多数の特別な場合、不所望な干渉の基準信号を(デジタル形式で)知ることができ、時間的にシフトさせることもできる(これは例えば、自動車の運転中、同乗者のための音量の大きい(騒がしい)音楽とすることができる)。これらの場合、ANRシステムを用いてこの干渉信号の感知音響レベルを選択的に低減させるとともに、存在する他の音声を維持するようにする(例えば、音楽の感知音響レベルを運転手にとって低減させ、この運転手が交通に集中しうるようにする)ことができる。デジタルシステムによれば、極めて良好なANR性能を期待しうる。その理由は、主としてデジタルシステムのANR性能を悪化させるADC及びDACによる遅延を、例えば、基準信号を第1の再生システムに供給する前にこの基準信号をバッファリング(遅延)させることにより補償しうる為である(このバッファリングは第1の再生システムで制御しうるものとする)。本例によれば、干渉(基準信号)源が既知であり、干渉を生じるシステムの遅延を制御しうる、干渉をアクティブ(能動的に)低減するための上述したシステムを導入するものである。
【0012】
本例の装置によれば、音源信号が既知であり且つアクセスしうる、例えば、音響的な干渉を著しく低減させることにより、使用者に対する快適度を高めることができる。このことは、例えば、以下の多数のシナリオにおいて望ましいものとしうる。
‐ 自動車内の運転手は、同乗者が音量の大きい音楽を聴きたい場合にも、道路及び交通音に自分の注意を集中させうるようにする必要がある。
‐ ステレオ又はテレビジョンで再生されている音量の大きい音楽を他の人々が聴いている部屋内で会話をしたい人々。
‐ ステレオ又はテレビジョンで音量の大きい音楽が再生されている部屋内で(ヘッドセットを用いて)自分自身の音楽を聴きたい人。すなわち、所望の音楽の音量を増大させるよりもむしろ、不所望な音楽の感知音量を低減しうる。
‐ DJが歌を順次にミクシングするパーティで、DJは、現在部屋内で再生されて聴いている音楽を消去して次の歌を聴き且つ適切に調整することを望む。
‐ 公営ラジオが鳴っている個所で、装置を同じ局に同調させ、これによりそれ自体の干渉デジタル源を生成しうるようにする。
【0013】
用語“低減”とは、信号を減少させるばかりではなく、信号を消去することをも意味するものである。理想的な場合には、(周囲のノイズとしうる)信号を完全に消去しうる。この信号と低減(又は消去)信号とを同時に再生することにより、これらの双方の信号が与えられる使用者にとって、前者の信号を低減信号により消去させることができる。
【0014】
信号は干渉信号とすることができる。この信号は既知の信号源からの既知の信号としうる。この信号はいかなる種類の信号にもすることができ、例えば、音声データ信号とすることができる。この信号を再生ユニットにより再生する場合、これらの変換ユニットは、この信号を音波のようないかなる種類の物理的信号にもすることができる。
【0015】
処理ユニットと第1及び第2の再生ユニットとは単一のユニットとして又は別々のユニットとして形成でき、後者の場合、異なるユニットの一部を他のユニットの一部として配置することもできる。
【0016】
本発明の装置の更なる代表的な例を以下に説明する。しかし、これらの例も本発明の方法、コンピュータ可読媒体及びプログラムエレメントに適用しうるものである。
【0017】
第1及び第2の再生ユニットは音声再生ユニットとすることができる。用語“音声再生ユニット”とは特に、電子的な音声データを、この音声再生ユニットを装着している聴取者の耳が感知しうる音波に変換しうるものを意味しうる。従って、音声再生ユニットは、例えば、音声データを選択的に再生するとともに空間的に制限して再生するために、イヤピース内に一体化しうるラウドスピーカとすることができる。音声再生ユニットは、例えば、CDプレーヤのような音声信号源に結合しうるラウドスピーカ又は増幅器とすることもできる。
【0018】
信号はデジタル信号とすることができる。デジタル信号は特に、音声データ信号としうる。用語“音声データ”とは、音声再生装置特に、この装置のラウドスピーカにより再生すべきいかなる音声要素をも意味しうる。このような音声内容には、CD、DVD又はハードディスクのような記憶装置に記憶された音声情報を含めることができ、又はこのような音声内容は、テレビジョン放送局やラジオ放送局により、或いは公衆インターネット又は電気通信網のような通信網を介して送信することができる。このような音声内容は、映画の音声、歌、スピーチ、オーディオブック、コンピュータゲームの音声等とすることができる。
【0019】
処理ユニットには、信号を第1の再生ユニットに供給する前にこの信号を遅延させる遅延ユニットを有することができる。この例によれば、不所望な信号を良好に消去させるために双方の信号を同時に再生させるのを確実に達成しうる。
【0020】
この遅延ユニットには、信号を記憶させるためのバッファを設けることができる。信号は特定の期間記憶させておくことができる。この特定の期間は、双方の信号を同時に再生しうるように低減信号を発生させるのに充分な期間としうる。
【0021】
処理ユニットは、アクティブノイズ低減に適合するようにしうる。その例は、アクティブノイズ低減(ANR)を用いることにより特に簡単で有効な方法を実現しうる。代表的な例により遂行するANRシステムでは、ノイズ除去スピーカにより、原音と同じ振幅を有するも原音に対し反転した位相を有する音波を発生しうるようにする。これらの音波を干渉と称する処理で合成して新たな音波を発生させ、位相相殺(キャンセル)により互いに有効に相殺させる。その結果得られる音波は人の耳に聞き取れない程度にかすかなものとなりうる。キャンセル信号を放出する変換器を、音響減衰が望まれる個所(例えば、使用者の耳)に位置させることができる。本発明の例では、第1の再生ユニットと第2の再生ユニットとをアクティブノイズ低減に適用するようにしうる。アクティブノイズ低減(AND)ヘッドセットによれば、ヘッドセットのラウドスピーカを介していわゆる“アンチノイズ”を再生させることにより、周囲のノイズによる影響を低減させることができる。従来のシステムでは、周囲のノイズがマイクロホンにより拾われ、ANRフィルタにより濾波され、位相反転されて、ラウドスピーカに戻される。フィードホワードANRの場合、マイクロホンをイヤーカップの外部に配置しうる。フィードバックANRの場合、マイクロホンをイヤーカップの内部に配置しうる。本発明によれば、処理ユニットを第1及び第2の再生ユニットと組み合わせることにより、ANRを実行する。しかし、本発明の他の例はアクティブノイズ低減システム以外で実行しうる。
【0022】
処理ユニットは、無線リンクを介して信号を受信するように構成しうる。従って、本発明の装置を、不所望な干渉、すなわち信号が無線リンクを介して得られる状態で用いることができる。例えば、本発明の装置を、信号又は基準信号を伝達する音声再生システムに対し用いることができる。
【0023】
本発明の代表的な適用例は、自動車用のエンターテインメント(娯楽)システム、翻訳又は通訳用のヘッドホンを含む会議システム、機内のエンターテインメントシステム等である。第1の再生ユニットは、スピーカ及び増幅器の一部を構成しうる。第2の再生ユニットは、ヘッドセット又はヘッドホン又はイヤホンの一部を構成しうる。更なる適用例も同様に可能である。本発明の例は特に、ヘッドホンを装着している聴取者が固定の信号源により囲まれているあらゆる環境にも適用しうる。
【0024】
例えば、本発明による装置は、携帯電話と、補聴器と、テレビジョン装置と、ビデオレコーダと、モニタと、ゲーム機と、ラップトップ型コンピュータと、オーディオプレーヤと、DVDプレーヤと、CDプレーヤと、ハードディスクを主体とするメディアプレーヤと、無線装置と、インターネット無線装置と、一般向けのエンターテインメント装置と、MP3プレーヤと、自動車用のエンターテインメント装置と、医療通信システムと、装着式装置と、音声通信装置と、ホームシネマシステムと、ホームシアターシステムと、薄型テレビジョン装置と、雰囲気生成装置と、スタジオ録音装置と、ミュージックホールシステムとより成る群の1つとして実現しうる。しかし、これらの適用例は代表的なものにすぎず、多くの当該技術分野における他の適用例も可能である。
【0025】
本発明の上述した態様及びその他の態様は以下に説明する実施例から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明の代表的な実施例による信号処理装置を示すブロック線図である。
【図2】図2は、本発明の代表的な実施例による信号処理システムを示すブロック線図である。
【図3】図3は、図2に示すシステムの一部を示すブロック線図である。
【図4】図4は、本発明の代表的な実施例によるシステムの利得(dB)を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明の実施例につき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。図面は線図的に示すものである。
【0028】
図1は、本発明の代表的な実施例による信号処理装置100を示す。この信号処理装置100は、処理ユニット101と、第1の再生ユニット102と、第2の再生ユニット103とを有している。処理ユニット101は、1つの入力端子と2つの出力端子とを有する。この処理ユニット101は、入力端子を経て信号104を受ける。この信号は、例えば、音声データ信号とすることができる。第1の再生ユニット102は、処理ユニットの第1の出力端子に結合されている。この第1の再生ユニット102は、信号を受けて再生するようになっている。処理ユニット101は、この信号に基づく低減信号を発生するものであり、この低減信号は、例えば、破壊的干渉を用いて信号を低減させたものである。第2の再生ユニット103は処理ユニットの第2の出力端子に結合されており、低減信号を受けて再生するものである。
【0029】
図2は、本発明の代表的な実施例による信号処理システム200を示す。このシステムは、第2の再生ユニットとしてヘッドセット203を有しており、このヘッドセットは、例えば、ステレオスピーカと(各イヤピースに1つの)内蔵マイクロホンとを有している。このシステムは更に、信号の処理を実行するDSP(デジタル信号処理)ユニット208を有する処理ユニット201を具えている。このシステムは更に、通常の(僅かな)遅延を有する経路(処理ユニットを経て第2の再生ユニットに至る経路)と、制御しうる(より大きな)遅延(追加の遅延Δrep )を有する経路(遅延ユニット206及び増幅器207を介する処理ユニットを経て第2の再生ユニット202に至る経路)との2つの経路が存在するように変更した音声再生装置205(例えば、DVD又はMP3プレーヤ、或いはカーラジオ)を具えている。“通常”遅延される信号は処理ユニットのDSPユニットに供給され、このDSPユニットでこの信号が処理され、その後ヘッドセット203に供給され、遅延を追加した信号は、増幅器(207)と、第2の再生ユニット202を表すスピーカとに供給される(図2では、1つのみのスピーカを示しているが、このスピーカは一組のスピーカとすることができる)。重要なことは、(ヘッドセットの使用者にとって聴覚的に低減させる必要がある)基準信号が、再生システム202により再生される前にDSPユニットにより得られるようにすることである。
【0030】
システムでは、例えば、PCM(パルス符号変調)を介することにより、(増幅器及びスピーカに供給される前に)キャンセルする必要がある(使用者にとって不所望な)基準信号204をデジタル表示する必要がある。この信号はDSP208を介して処理されて使用者のヘッドセットに供給される。その結果、使用者は基準(不所望)信号を少なくとも極めて低い音響レベルで感知するようになる。
【0031】
既知の干渉をアクティブ(能動的に)低減させる基本的な構成を、ヘッドセットの一方の側(左又は右側)に対し図3に示す。基準信号x[k](すなわち、図2におけるブロックPCMの出力)をデジタルフィルタw[k]により濾波し、これによりキャンセル信号y[k]を生ぜしめる。この信号を、ラウドスピーカと内蔵マイクロホンとの間の、一般に二次経路と称される経路により音響的に濾波し、周囲のノイズd[k]と音響的に加算してエラー(誤差)信号e[k]を形成する。本実施例では、周囲のノイズd[k]は、基準信号から生じる不所望な成分(音声再生システム(図2の202)により再生された遅延信号)を有する。従来のアクティブノイズ低減システムでは、基準信号x[k]は、外部の“基準マイクロホン”により記録された信号であり、本例の場合におけるような既知の干渉ではない。このことは、本例のシステムでは、アクティブ低減が選択性であり、このアクティブ低減により既知の干渉のみを低減させて他の音声を維持するという理由でもある。デジタルフィルタw[k]は、内蔵マイクロホンにおける信号電力が最小化するように決定する必要がある。このようにすることにより、キャンセル信号は、二次経路s[k]による音響的な濾波後に、d[k]における不所望な干渉に対しほぼ逆位相になり、その結果、不所望な干渉(例えば、音楽)がエラーマイクロホン内で著しく低減され、一方、他の音(例えば、交通音)は損なわないように保たれる。エラーマイクロホンにより拾われる信号は、使用者の耳の付近に位置する為に、使用者が感知するものに近似しているとみなされる。フィルタ係数w[k]を決定するのに用いる方法は、ここで提案する本発明の一部を成すものではない。その理由は、周知のフィルタ技術のような従来の方法を用いることができる為である。
【0032】
通常の場合には、幾つかの基準信号(例えば、ステレオ又はサラウンド信号)を得ることができ、この場合、濾波処理は、各々が別々の入力(例えば、チャネルの1つ)を受ける複数のデジタルフィルタの総和により達成される。システムの予想性能はシミュレーションにより表される。市販されているヘッドセットは、(48kHzのサンプリングレートで)多数の信号を記録するのに用いられており、ヘッドセットを装着する使用者を模倣するヘッドアンドトルソ・シミュレータ(HATS)に装着される。二次経路s[k]は、ホワイトノイズ信号をラウドスピーカで再生させ、且つこのホワイトノイズ信号とエラーマイクロホンに記録された信号との間の音響経路を予測することにより決定される。次に、基準信号x[k]として用いられる音楽の一部を、部屋の隅部に配置された4つのラウドスピーカを介して再生させ、この信号をエラーマイクロホンとHATS上の人工の耳とに記録させる。基準信号(4つのラウドスピーカに送られたデジタル形態の音楽)がエラーマイクロホンに記録された信号と組み合わせて用いられ、(4096個のタップを有する)デジタルフィルタw[k]を予測する。この場合、既知の干渉をアクティブ低減させた信号とアクティブ低減させない信号との間の、周波数当たりのdB比である利得を用いて性能を評価しうる。エラーマイクロホンで評価される性能をもたらす利得(gain)は、二次経路を用いて計算することができ、以下のようになる。
【数1】


ここで、*は畳み込みを表し、Pw ()は周波数wにおけるパワースペクトル密度を表わしている。負値は(所望としている)信号電力の低減に相当する。しかし、使用者が感知する効果を評価するために、人工の耳を用いて行う記録を、eの代わりに三次経路t[x]と組み合わせて、すなわち、二次経路s[k]の代わりにヘッドセットのラウドスピーカとHATSの人工の耳との間の音響経路と組み合わせて用いることができる。この場合、利得を用いて表した性能は、通常の使用者が感知するものと予期される性能に相当するものであり、代表的にはエラーマイクロホンで評価した場合よりも僅かに悪くなる。
【0033】
図4は、人工の耳で評価された性能を示す。150Hzと4000Hzとの間の周波数領域では、利得は−10dBよりも低くなり(10dBよりも高い干渉が低減し)、200Hzと4000Hzとの間の周波数領域では、利得は−15dBよりも低くなることが分かる。最も大きな低減は約25dBである。このシミュレーション研究では、不必要であった為に、遅延補正は行われていない。しかし、実システムでは、キャンセル信号の再生には(DACによる)遅延があり、この場合、音声再生システムの遅延(図2におけるΔrep )をこのDAC遅延に少なくとも等しくする必要がある。
【0034】
本発明の代表的な実施例による装置は、例えば、(音声再生スピーカに送られる)そのデジタル形態の信号源を有する又は発生しうるいかなる音声再生システムにも用いることができる。音声再生システムのアクティブ低減システム及び増幅器にそれぞれ供給される遅延のない信号源及び遅延された信号源を発生させることができる。本発明の装置により達成される効果、すなわち、既知の干渉の音響的な低減は、多くの人々が音楽を聴くことを望んでいる小さな空間内でしばしば望ましいものとなるが、他の装置ではこのような効果は得られない。前述したように、可能なシナリオには以下のことが含まれる。
‐ 自動車内の運転手は、同乗者が音量の大きい音楽を聴きたい場合にも、道路及び交通音に自分の注意を集中させうるようにする必要がある。
‐ ステレオ又はテレビジョンで再生されている音量の大きい音楽を他の人々が聴いている部屋内で会話をしたい人々。
‐ ステレオ又はテレビジョンで音量の大きい音楽が再生されている部屋内で(ヘッドセットを用いて)自分自身の音楽を聴きたい人。
‐ DJが歌を順次にミクシングするパーティで、DJは、現在部屋内で再生されて聴いている音楽を消去して次の歌を聴き且つ適切に調整することを望む。
‐ 公営ラジオが鳴っている個所で、装置を同じ局に同調させ、これによりそれ自体の干渉デジタル源を生成しうるようにする。この場合、干渉を生成する音声再生システムにおける(処理)遅延は装置のDAC遅延よりも大きくなることを仮定することに注意すべきである。
‐ 不所望な干渉が無線リンクを介して得られる状態(例えば、基準信号を伝達する音声再生システム)。
【0035】
種々の実施例と関連して説明した素子は互いに組み合わせることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号処理装置であって、この信号処理装置が、
1つの入力端子及び2つの出力端子を有し、前記入力端子で信号を受けるようにした処理ユニットと、
この処理ユニットの前記2つの出力端子のうちの第1の出力端子に結合され、前記信号を受けて再生するようにした第1の再生ユニットであつて、前記処理ユニットは前記信号に基づいて低減信号を発生するようになっており、この低減信号が、この第1の再生ユニットにより再生される信号を低減させるようになっている当該第1の再生ユニットと、
前記処理ユニットの前記2つの出力端子のうちの第2の出力端子に結合され、前記低減信号を受けて再生するようになっている第2の再生ユニットと
を具える信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記第1及び第2の再生ユニットが音声再生ユニットである信号処理装置。
【請求項3】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記信号がデジタル信号である信号処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記処理ユニットは、前記信号を前記第1の再生ユニットに供給する前にこの信号を遅延させる遅延ユニットを有している信号処理ユニット。
【請求項5】
請求項4に記載の信号処理装置において、前記遅延ユニットは、前記信号を記憶するバッファを有している信号処理装置。
【請求項6】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記処理ユニットは、アクティブノイズ低減に対し適合されている信号処理装置。
【請求項7】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記処理ユニットは、無線リンクを介して信号を受けるようになっている信号処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の信号処理装置において、この信号処理装置は、ビークル用のエンターテインメントシステムと、翻訳用のヘッドホンを含む会議システムと、航空機エンターテインメントシステムとより成る群のうちの1つとして適合されている信号処理システム。
【請求項9】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記第2の再生ユニットが、ヘッドセットと、ヘッドホンと、イヤホンとより成る群の1つの一部を構成している信号処理装置。
【請求項10】
請求項1に記載の信号処理装置において、前記第1の再生ユニットが、スピーカと、増幅器とより成る群の1つの一部を構成している信号処理装置。
【請求項11】
請求項1に記載の信号処理装置において、この信号処理装置が、携帯電話と、補聴器と、テレビジョン装置と、ビデオレコーダと、モニタと、ゲーム機と、ラップトップ型コンピュータと、オーディオプレーヤと、DVDプレーヤと、CDプレーヤと、ハードディスクを主体とするメディアプレーヤと、無線装置と、インターネット無線装置と、一般向けのエンターテインメント装置と、MP3プレーヤと、自動車用のエンターテインメント装置と、医療通信システムと、装着式装置と、音声通信装置と、ホームシネマシステムと、ホームシアターシステムと、薄型テレビジョン装置と、雰囲気生成装置と、スタジオ録音装置と、ミュージックホールシステムとより成る群の少なくとも1つとして実現されている信号処理装置。
【請求項12】
処理ユニットの入力端で信号を受けるステップと、
第1の再生ユニットにより前記処理ユニットの第1の出力端から前記信号を受けるステップと、
前記第1の再生ユニットにより前記信号を再生させるステップと、
前記第1の再生ユニットにより再生される信号を低減させるようにした低減信号を前記処理ユニットにおける信号に基づいて発生させるステップと、
第2の再生ユニットにより前記処理ユニットの第2の出力端から前記低減信号を受けるステップと、
前記第2の再生ユニットにより前記低減信号を再生させるステップと
を具える信号処理方法。
【請求項13】
信号を処理するコンピュータプログラムであって、このコンピュータプログラムは、プロセッサにより実行された際に、請求項12に記載の信号処理方法を実行又は制御するようにした当該コンピュータプログラムが記憶されているコンピュータ可読媒体。
【請求項14】
信号を処理するプログラムエレメントであって、このプログラムエレメントは、プロセッサにより実行された際に、請求項12に記載の信号処理方法を実行又は制御するようにしたプログラムエレメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−128617(P2011−128617A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−274521(P2010−274521)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(507219491)エヌエックスピー ビー ヴィ (657)
【氏名又は名称原語表記】NXP B.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 60, NL−5656 AG Eindhoven, Netherlands
【Fターム(参考)】