信号検出装置、及び信号検出方法
【課題】幅狭トラックに対する幅広再生ヘッドの走査を容易にし、さらに、より信号検出の精度を向上させること。
【解決手段】データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する装置が提供される。当該装置は、あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、をTDPRフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出し、前記複数のトラックについて検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する。
【解決手段】データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する装置が提供される。当該装置は、あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、をTDPRフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出し、前記複数のトラックについて検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号検出装置、及び信号検出方法に関する。特に、本発明は、瓦記録により各トラックに書き込まれた信号を、隣接する複数のトラックから同時に読み出された信号に基づいて検出するマルチトラック信号検出方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録ディスクの記録密度を向上させるための研究が盛んに進められている。磁気記録ディスクの記録密度を向上させる方法としては、例えば、各トラックのトラック幅を狭めて1ディスク当たりのトラック数を増加させる方法がある。しかし、トラック幅を狭めた場合、各トラックの情報を精度良く読み出せるようにするためには読み出しヘッドの大きさも小さくする必要がある。可能であれば、読み出しヘッドの幅をトラック幅と同程度にすることが好ましい。しかしながら、読み出しヘッドの小型化は既に限界に達していると言われている。そのため、トラック幅よりも広い幅を持つ読み出しヘッドを用いて精度良く各トラックの信号を読み出す技術に注目が集まっている。
【0003】
読み出しヘッドの幅がトラック幅よりも広いと、あるトラックを読み出しヘッドが走査した際に、隣接トラックの信号が同時に読み出されてしまうことになる。隣接トラックから同時に読み出される信号は、本来読み出したいトラックの信号に対する干渉となる。そのため、この干渉を抑制し、各トラックの信号を分離する技術(以下、マルチトラック信号検出方式)が求められる。マルチトラック信号検出方式に関しては、例えば、下記の非特許文献1に記載がある。同文献の方式は、TDPRフィルタ、1次元max−log−MAP検出器、誤り訂正復号器、ビット誤り検出器、ソフト干渉レプリカ生成器、マルチトラックソフト干渉キャンセラを用いてトラック間干渉を抑圧するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Fujii and N.Shinohara,“Multi−track iterative ITI canceller for shingled write recording”,電子情報通信学会,磁気記録・情報ストレージ研究会,信学技報,MR2010−44,pp.15−22,2010年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献に記載の技術を適用すると、幅広の再生ヘッドを用いて各トラックの信号を精度良く検出することができる。しかし、上記の文献に記載の技術は、再生ヘッドをトラックの中央からずらした状態で各トラックを走査している。特に、片側の隣接トラックに再生ヘッドがはみ出さないように制御しながら、各トラックを走査している。例えば、はみ出しては困る側に多めにマージンをとるように走査範囲を設定すれば制御が比較的容易になる。しかし、マージンを多めにとると、反対側の隣接トラックに対する再生ヘッドのはみ出しが多くなり、トラック間干渉が増大してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、幅狭トラックに対する幅広再生ヘッドの走査が容易になる上、より信号検出の精度を向上させることが可能な、新規かつ改良された信号検出装置、及び信号検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出装置であって、あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出部と、前記複数のトラックについて前記データ検出部により検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧部と、を備えることを特徴とする、信号検出装置が提供される。
【0008】
トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドによりトラックの中央付近を走査すると、再生ヘッドにより読み出される信号には、対象トラックの両側に隣接するトラックからの干渉成分が含まれる。しかし、上記の信号検出装置は、2次元パーシャルレスポンスフィルタによる干渉抑圧及びソフト干渉キャンセルによる干渉抑圧を行うことで各トラックに書き込まれた信号を精度良く検出できるようにしている。その結果、再生ヘッドをトラックの中央付近に走査する方法で各トラックに書き込まれた信号を検出できるようになり、走査範囲を精度良く制御したり、マージンを多めに設定したりする必要がなくなる。
【0009】
また、前記干渉抑圧部による干渉成分の抑圧処理、及び、干渉成分が抑圧された再生信号に基づく前記データ検出部による並列データの検出処理は、前記データ検出部により検出された並列データに含まれる誤りが除去されるまで繰り返し実行される。かかる構成により、隣接トラックからの干渉成分が十分に除去され、信号検出精度が向上する。
【0010】
また、上記の信号検出装置は、前記2次元パーシャルレスポンスフィルタの出力をmax−log−MAP検出器に入力して対数尤度比を算出し、当該対数尤度比に基づいて誤り訂正を実行する誤り訂正部をさらに備える。
【0011】
また、前記干渉抑圧部は、m番目のトラックから読み出された再生信号から、(m−1)番目のトラックからの干渉成分及び(m+1)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、(m−1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m−2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、(m+1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m+2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧するように構成されていてもよい。かかる構成により、隣接トラックから読み出された再生信号に含まれるm番目のトラックに書き込まれた信号の成分を残留させて利用することが可能になり、信号検出精度が向上する。
【0012】
また、同じデータから変換された複数の並列データがセクタ方向に並んで配置されるように、前記複数のデータは、隣接する複数のトラックに記録されている。かかる構成により、隣接トラックからの干渉成分も同じ系統のデータとなることでソフト干渉キャンセルに利用するソフトレプリカを生成することが可能になる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出方法であって、あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出ステップと、前記複数のトラックについて前記データ検出ステップで検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧ステップと、を含むことを特徴とする、信号検出方法が提供される。
【0014】
トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドによりトラックの中央付近を走査すると、再生ヘッドにより読み出される信号には、対象トラックの両側に隣接するトラックからの干渉成分が含まれる。しかし、上記の信号検出装置は、2次元パーシャルレスポンスフィルタによる干渉抑圧及びソフト干渉キャンセルによる干渉抑圧を行うことで各トラックに書き込まれた信号を精度良く検出できるようにしている。その結果、再生ヘッドをトラックの中央付近に走査する方法で各トラックに書き込まれた信号を検出できるようになり、走査範囲を精度良く制御したり、マージンを多めに設定したりする必要がなくなる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、幅狭トラックに対する幅広再生ヘッドの走査が容易になる上、より信号検出の精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】信号処理装置の構成を示した説明図である。
【図2】記録信号生成部の構成を示した説明図である。
【図3】符号語データの書き込み方法を示した説明図である。
【図4】再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図5】再生信号処理部の構成を示した説明図である。
【図6】再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図7】2次元記録信号検出部の構成を示した説明図である。
【図8】TDPRフィルタの構成を示した説明図である。
【図9】マルチトラックソフト干渉キャンセル前のマルチトラック再生信号の構成を示した説明図である。
【図10】マルチトラックソフト干渉キャンセル後のマルチトラック再生信号の構成を示した説明図である。
【図11】従来の再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図12】従来の再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図13】従来の再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[説明の流れについて]
ここで、以下に記載する本発明の実施形態に関する説明の流れについて簡単に述べる。まず、図1を参照しながら、信号処理装置1の構成について説明する。次いで、図2を参照しながら、記録信号生成部10の構成について説明する。次いで、図3を参照しながら、信号処理装置1による符号語データの書き込み方法について説明する。次いで、図11〜図13を参照しながら、従来方式による再生信号の読み出し方法について述べ、従来方式が抱える課題について説明する。次いで、図4〜図10を参照しながら、本実施形態に係る再生信号の読み出し方法及び再生信号処理部20の構成について説明する。
【0019】
<1.信号処理装置の基本構成>
まず、図1を参照し、信号再生装置及び信号記録装置としての機能を有する信号処理装置1の基本構成を説明する。図1は、信号処理装置1の構成を示した説明図である。図1に示したように、信号処理装置1は、記録媒体4と、スピンドルモータ6と、ヘッド8と、記録信号生成部10と、再生信号処理部20と、を備える。
【0020】
記録媒体4は、スピンドルモータ6に装着されており、スピンドルモータ6によって回転駆動される。この記録媒体4は、図1に示したように、複数トラックが形成された磁気ディスクであってもよい。なお、図1においては記録媒体4として1枚の磁気ディスクのみを示しているが、信号処理装置1は複数枚の磁気ディスクを有してもよい。
【0021】
ヘッド8は、記録信号生成部10から供給される記録信号を記録媒体4に記録する記録ヘッド、及び記録媒体4から再生信号を読み出す再生ヘッドとして機能する。また、ヘッド8は、後述するように、記録媒体4のトラック幅よりも大きいので、複数のトラックにまたがった状態で記録媒体4を走査する。
【0022】
記録信号生成部10は、記録媒体4に記録するための記録信号を生成する。また、再生信号処理部20は、記録媒体4からヘッド8により読み出された再生信号を処理する。このような記録信号生成部10の詳細な構成については図2を参照して説明し、再生信号処理部20の詳細な構成については図5及び図7を参照して説明する。
【0023】
なお、上述した信号処理装置1は、例えばPC(Personal Computer)、家庭用映像処理装置(DVDレコーダ、ビデオデッキなど)、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、携帯用音楽再生装置、携帯用映像処理装置、PDA(Personal Digital Assistants)、家庭用ゲーム機器、携帯用ゲーム機器、家電機器などに設けられてもよい。
【0024】
<2.記録信号生成部10の構成>
図2は、記録信号生成部10の構成を示した機能ブロック図である。図2に示したように、記録信号生成部10は、CRC符号器11と、LDPC符号器12と、インターリーバ13と、記録信号変換器14と、S/P変換器15とを備える。上記のCRCは、Cyclic Redundancy Checkの略である。また、上記のLDPCは、Low Density Parity Checkの略である。
【0025】
CRC符号器11は、供給される記録情報データに対し、CRC符号などの誤り検出符号を付加する。LDPC符号器12は、低いSN比でも所定のエラー率を確保するための誤り訂正符号化部である。インターリーバ13は、LDPC符号器12による処理後のデータをトラックごとに異なるパターンでインターリーブする。記録信号変換部14は、インターリーバ13によるインターリーブ後のデータを磁気の極性信号に変換して記録信号を生成する。そして、記録信号変換部14により生成された記録信号は、S/P変換器15により並列化され、ヘッド8により記録媒体4に記録される。
【0026】
例えば、1つの記録信号(符号語データ)は、S/P変換器15によりN個の並列信号に変換される。そして、N個の並列信号は、図3に示すように、隣接するN本のトラック(#1〜#N)に書き込まれる。なお、1つの記録信号を直並列変換して得られたN個の並列信号は、同じセクタに属するN本の隣接トラックに書き込まれることが望ましい。このような書き込み方法を適用すると、トラック幅よりも幅の大きなヘッド8によりトラックを走査した際に、隣接トラックから読み出される干渉成分も、同じ記録信号から得られた並列信号となる。つまり、この書き込み方法を用いると、関連する並列信号が隣接トラックに書き込まれることになる。
【0027】
<3.読み出し方法について>
従来の読み出し方法(従来方式1)は、図11に示すように、磁気記録媒体が1回転する毎に再生ヘッドを所定の距離だけ移動させながら、各トラックに書き込まれた信号を読み出すというものであった。例えば、トラック#m−1とトラック#mとを跨ぐ位置に再生ヘッドがあるものとしよう。この場合、再生ヘッドは、トラック#m−1に書き込まれた信号sm−1と、トラック#mに書き込まれた信号smとが重畳された信号xm−1を読み出すことになる。この信号xm−1は、2つの信号sm−1及びsmを、ある比率で重ね合わせたものとなる。
【0028】
次に、磁気記録媒体が1回転し、1トラック分だけ再生ヘッドが移動した場合について考えてみよう。この場合、再生ヘッドは、トラック#mとトラック#m+1とを跨ぐ位置にある。そのため、再生ヘッドは、トラック#mに書き込まれた信号smと、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1とが重畳された信号xmを読み出すことになる。この信号xmは、2つの信号sm及びsm+1を、ある比率で重ね合わせたものとなる。同様に、さらに磁気記録媒体が1回転し、1トラック分だけ再生ヘッドが移動した場合、再生ヘッドは、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1と、トラック#m+2に書き込まれた信号sm+2とが重畳された信号xm+1を読み出す。
【0029】
上記の通り、図11に示すように再生ヘッドを走査すると、再生ヘッドにより3つの信号xm−1、xm、xm+1が読み出される。読み出された信号は、各トラックから受けた信号磁界の線形結合となる。そのため、トラック#m−1、#m、#m+1、#m+2に書き込まれた信号s1を下記の式(1)で表現すると、再生ヘッドにより読み出される信号xは、下記の式(2)〜式(5)のように表現される。
【0030】
【数1】
…(1)
…(2)
…(3)
…(4)
…(5)
【0031】
但し、係数αij(i=1〜3,j=1〜4)は、信号sjが信号xiに及ぼす影響の大きさを表す係数であり、磁性層の磁気的な伝達特性に依存することから伝達係数と呼ばれる。下記の式(6)で表現される伝達係数行列A1を定義すると、信号s1は、下記の式(7)のように表現することができる。つまり、伝達係数行列A1が既知であれば、再生ヘッドにより読み出された信号xから信号s1を求めることができる。
【0032】
【数2】
…(6)
…(7)
【0033】
図11に示した読み出し方法の他にも、例えば、図12及び図13に示すような読み出し方法(従来方式2)が知られている。この読み出し方法は、3トラックの範囲内で再生ヘッドを移動させることにより、再生ヘッドが読み出す信号に含まれる成分を3トラックの信号磁界だけに限定するというものである。つまり、トラック#m−1、#m、#m+1に書き込まれた信号s2を下記の式(8)で表現すると、再生ヘッドにより読み出される信号xは、下記の式(9)〜式(11)のように表現される。
【0034】
【数3】
…(9)
…(10)
…(11)
…(12)
【0035】
下記の式(13)で表現される伝達係数行列A2を定義すると、信号s2は、下記の式(14)のように表現することができる。つまり、伝達係数行列A2が既知であれば、再生ヘッドにより読み出された信号xから信号s2を求めることができる。
【0036】
【数4】
…(13)
…(14)
【0037】
上記の従来方式1及び2を用いると、トラック幅よりも幅が広い再生ヘッドを用いて各トラックに書き込まれた信号を読み出すことができる。しかしながら、これらの方式は、片側だけ隣接トラックにはみ出した状態を維持しながら再生ヘッドを走査する必要がある。そのため、はみ出す側とは反対側に位置する隣接トラックに再生ヘッドがはみ出さないように走査範囲を高精度に制御するか、隣接トラックへのはみ出しを防止するため、マージン(図11及び図12を参照)を大きめに設定する必要がある。当然のことながら、走査範囲を高精度に制御するのは難しい。一方、マージンを大きめに設定すると、再生ヘッドが隣接トラックへはみ出す割合が大きくなり、トラック間干渉が大きくなる。
【0038】
また、従来方式2の場合、図12及び図13に示すように、トラック#mに書き込まれた信号smを検出するには、トラック#m−1及び#m+1を走査する必要がある。また、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1を検出するには、トラック#m及び#m+2を走査する必要がある。どちらの工程でも、再生ヘッドはトラック#mを走査している。しかし、図12と図13とを対比すると明らかなように、トラック#mに書き込まれた信号smを検出する際、再生ヘッドは、トラック#m−1、#m、#m+1を跨ぐ状態で走査している。一方、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1を検出する際、再生ヘッドは、トラック#m及び#m+1を跨ぐ状態で走査している。
【0039】
つまり、同じトラック#mを走査していても、両工程で再生ヘッドが走査する範囲が異なる。トラック#mに書き込まれた信号を検出する工程において、再生ヘッドがトラック#mを走査した際に読み出される信号にはトラック#m−1及び#m+1からの干渉成分が含まれる。一方、トラック#m+1に書き込まれた信号を検出する工程において、再生ヘッドがトラック#mを走査した際に読み出される信号にはトラック#m+1からの干渉成分が含まれる。そのため、トラック#mに書き込まれた信号を検出する工程において読み出された信号を、トラック#m+1に書き込まれた信号を検出する工程で再利用することができない。その結果、何度も同じトラックを読み出すことが必要になる。
【0040】
そこで、本件発明者は、図4に示すように、全てのトラックについてトラックの中央付近を通るようにヘッド8を移動させ、ヘッド8により読み出された信号から各トラックに書き込まれた信号を精度良く検出する方法を考案した。以下、この方法を実現することが可能な再生信号処理部20の構成について説明する。
【0041】
<4.再生信号処理部20の構成>
図5に示すように、再生信号処理部20は、複数のバッファと、2次元記録信号検出部100とにより構成される。なお、バッファの数は、記録信号生成部10を構成するS/P変換器15により生成される並列信号の数、及び、それら並列信号が書き込まれるトラックの数に対応する。図3の例では1つの記録信号に対応するN個の並列信号がN本のトラックに書き込まれている。この場合、再生信号処理部20には、図5に示すように、N個のバッファが設けられる。
【0042】
バッファ#0には、図6に示すような方法でトラック#0を走査して読み出された信号(トラック#0再生信号)が入力される。そして、トラック#0再生信号は、バッファ#0内に保持される。同様に、バッファ#1〜#N+1には、それぞれトラック#1〜#N+1を走査して読み出された信号(トラック#1再生信号、…、トラック#N+1再生信号)が入力される。そして、トラック#1再生信号、…、トラック#N+1再生信号は、それぞれバッファ#1、…、トラック#N+1内に保持される。また、バッファ#0、…、バッファ#N+1内にそれぞれ保持されたトラック#0再生信号、…、トラック#N+1再生信号は、同時に2次元記録再生検出部100に入力される。
【0043】
トラック#0再生信号、…、トラック#N+1再生信号が入力されると、2次元記録信号検出部100は、入力されたトラック#0再生信号、…、トラック#N+1再生信号から各トラックに書き込まれた並列信号を検出する。ここで、図7を参照しながら、2次元記録信号検出部100の構成及び動作について、より詳細に説明する。
【0044】
図7は、2次元記録信号検出部100の構成を示した機能ブロック図である。図7に示したように、2次元記録信号検出部100は、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101と、TDPRフィルタ102(2次元パーシャルレスポンスフィルタ)と、Max−log−MAP検出器103と、P/S変換器104と、デインターリーバ105と、LDPC復号器106と、硬判定部107と、CRC復号器108と、切替部109と、インターリーバ110及び113と、書き込み信号ソフトレプリカ変換器112と、を備える。但し、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101、TDPRフィルタ102、及びMax−log−MAP検出器103を含むブロック(以下、信号検出ブロック)は、並列信号が書き込まれたトラックの数だけ設けられる。
【0045】
いま、トラック#mに対応する信号検出ブロック#mに注目する。信号検出ブロック#mには、トラック#m−1再生信号、トラック#m再生信号、トラック#m+1再生信号(以下、マルチトラック再生信号)が入力される。これらマルチトラック再生信号は、TDPRフィルタ102に入力される。TDPRフィルタ102は、マルチトラック再生信号を一括して処理し、各トラックに書き込まれた並列信号を抽出するための処理を行う。TDPRフィルタ102は、図8に示すような構成を有し、マルチトラック再生信号に含まれるトラック間干渉を抑圧してトラック#mの再生信号を所望のターゲット応答に等化する。
【0046】
TDPRフィルタ102から出力された信号(以下、TDPRフィルタ出力信号)は、Max−log−MAP検出器103に入力される。Max−log−MAP検出器103は、TDPRフィルタ出力信号、及びインターリーバ110によるインターリーブ後の信号を用い、これらターゲット応答に則して遅延重畳された信号からMax−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。Max−log−MAP検出器103により算出された尤度は、P/S変換器104に入力される。なお、他の信号検出ブロックにおいても、Max−log−MAP検出器103により各ビットに対する尤度が計算され、その出力がP/S変換器104に入力される。
【0047】
P/S変換器104は、各信号検出ブロックのMax−log−MAP検出器103から入力された尤度を並直列変換して出力する。つまり、P/S変換器104は、全ての並列信号について算出された並列信号の各ビットに対する尤度を直列化し、記録信号の各ビットに対する尤度として出力する。P/S変換器104の出力は、デインターリーバ105に入力される。デインターリーバ105は、P/S変換器104の出力に対してデインターリーブを施す。さらに、LDPC復号器106は、誤り訂正符号を用いてビット列の復号を行う。
【0048】
CRC復号器108は、LDPC復号器106により復号されたビット列に対する硬判定部107による硬判定後のビット列から、誤り検出符号の復号によりビット誤りの残存を検出する。切替部109は、CRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合に、LDPC復号器106と、インターリーバ110及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器112を接続する。この接続により、LDPC復号器106による復号結果がインターリーバ110及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器112に供給されるようになる。一方、CRC復号器108によりビット誤りが検出されなかった場合、復号されたビット列は再生データとして上位レイヤへと出力される。
【0049】
インターリーバ110は、各トラックの復号結果に対してインターリーブを行う。つまり、インターリーバ110は、復号で得られた各ビットの尤度に対して記録時と同様のインターリーブを施す。インターリーバ110の出力は、S/P変換器111に入力される。S/P変換器111は、記録時に記録信号に対して行ったのと同様の直並列変換を行う。そして、S/P変換器111の出力は、各信号検出ブロックのMax−log−MAP検出器103に入力される。
【0050】
書き込み信号ソフトレプリカ変換器112は、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101によるソフト干渉キャンセルに用いる記録信号のレプリカ信号を生成する。インターリーバ113は、書き込み信号ソフトレプリカ変換器112により生成されたレプリカ信号にインターリーブを施してS/P変換器114に供給する。S/P変換器114は、インターリーブが施されたレプリカ信号を直並列変換してマルチトラックソフト干渉キャンセラ101に供給する。このとき、S/P変換器114は、記録時に記録信号に対して行ったのと同様の直並列変換を行う。
【0051】
マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、S/P変換器114から供給されたレプリカ信号をマルチトラック再生信号から減算する。図9に示すように、トラック#mの再生信号には、トラック#mに書き込まれた並列信号の他、トラック#m−1からの干渉成分、及びトラック#m+1からの干渉成分が含まれる。同様に、トラック#m−1の再生信号には、トラック#m−1に書き込まれた並列信号の他、トラック#m−2からの干渉成分、及びトラック#mからの干渉成分が含まれる。また、トラック#m+1の再生信号には、トラック#m+1に書き込まれた並列信号の他、トラック#mからの干渉成分、及びトラック#m+2からの干渉成分が含まれる。
【0052】
トラック#mの並列信号を検出する場合、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、トラック#m−1の再生信号においてトラック#m−2からの干渉成分及びトラック#m−1に書き込まれた並列信号の成分をキャンセルする。また、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、トラック#mの再生信号においてトラック#m−1からの干渉成分及びトラック#m+1に書き込まれた並列信号の成分をキャンセルする。さらに、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、トラック#m+1の再生信号においてトラック#m+1に書き込まれた並列信号の成分及びトラック#m+2からの干渉成分をキャンセルする。
【0053】
つまり、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、ソフト干渉キャンセルにより、トラック#m−1の再生信号に含まれるトラック#mからの干渉成分、トラック#mの再生信号に含まれるトラック#mの並列信号成分、及びトラック#m+1の再生信号に含まれるトラック#mからの干渉成分を残留させる。このようなソフト干渉キャンセルを行った後、トラック#m−1、#m、#m+1の再生信号は、図10に示すような成分構成比となる。図10に示すように、いずれのマルチトラック再生信号にもトラック#mの信号成分が残るので、TDPRフィルタ102は、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101によるソフト干渉キャンセル後のマルチトラック再生信号を等化する。
【0054】
Max−log−MAP検出器103は、Max−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。Max−log−MAP検出器103により算出された尤度は、P/S変換器104に入力される。なお、他の信号検出ブロックにおいても、Max−log−MAP検出器103により各ビットに対する尤度が計算され、その出力がP/S変換器104に入力される。P/S変換器104は、全ての並列信号について算出された並列信号の各ビットに対する尤度を直列化し、記録信号の各ビットに対する尤度として出力する。デインターリーバ105は、P/S変換器104の出力に対してデインターリーブを施す。LDPC復号器106は、誤り訂正符号を用いてビット列の復号を行う。
【0055】
CRC復号器108は、LDPC復号器106により復号されたビット列に対する硬判定部107による硬判定後のビット列から、誤り検出符号の復号によりビット誤りの残存を検出する。切替部109は、CRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合に、LDPC復号器106と、インターリーバ110及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器112を接続する。一方、CRC復号器108によりビット誤りが検出されなかった場合、復号されたビット列は再生データとして上位レイヤへと出力される。
【0056】
このように、2次元記録信号検出部100は、上記のレプリカ信号を用いたソフト干渉キャンセルの繰り返し処理を、Max−log−MAP検出器103、デインターリーバ105、及びLDPC復号器106によるビット列の復号処理と共に、CRC復号器108によりビット誤りが検出されなくなるまで繰り返す。
【0057】
なお、繰り返し処理の初回で使用するTDPRフィルタタップ係数C1と、繰り返し処理の2回目以降で使用するTDPRフィルタタップ係数C1とは異なる。繰り返し処理の初回で使用するTDPRフィルタタップ係数C1は、希望のターゲット応答となるようにトラック#mにおいて既知の信号を用いて予めトレーニングすることにより得られたものである。一方、繰り返し処理の2回目以降で使用するTDPRフィルタタップ係数C1は、トラック#m−2、#m−1、#m+1、#m+2において既知の信号を用いて干渉のハードキャンセルを行った信号に対してトラック#mにおいて既知の信号を用いて予めトレーニングすることにより得られたものである。
【0058】
また、Max−log−MAP検出器103において利用される雑音予測タップ係数C2は、繰り返し処理の初回で使用するTDPRフィルタタップ係数C1及び繰り返し処理の2回目以降で使用するTDPRフィルタタップ係数C1に対して予め算出されたものである。この雑音予測タップ係数C2は、Max−log−MAP検出の際にTDPRフィルタ出力信号から雑音成分を低減しつつ、各ビットの尤度を算出するために利用される。
【0059】
上記のように、2次元記録信号検出部100は、ソフト干渉キャンセルを繰り返し行うことによりトラック間干渉を抑圧する。さらに、繰り返し処理の2回目以降では、TDPRフィルタ102において、トラック間干渉がない場合に最適化されたTDPRフィルタタップ係数C1が用いられるため、TDPRフィルタ出力のSINRを格段に向上させることができる。その結果、信号検出性能が大幅に向上する。なお、TDPRフィルタタップ係数C1の生成方法については、上記の非特許文献1を参照されたい。但し、本実施形態に係る方法は、上記の非特許文献1に記載の方法を3トラックに拡張したものである。
【0060】
(繰り返し処理の内容に関する説明の補足)
ここで、繰り返し処理の内容について説明を補足する。上記のように、隣接する3つのトラックから読み出された再生信号は、まず、図8に示した構成のTDPRフィルタ102により等化される。トラック#m−2、#m−1、#m、#m+1、#m+2に書き込まれた並列信号の組s3を下記の式(15)のように表現すると、繰り返し処理の初回においてTDPRフィルタ102に入力される信号xは、下記の式(16)〜式(18)のように表現される。
【0061】
いま、時刻k−1から時刻kにおける状態数NSのトレリス状態の遷移を(S’,S)とする。また、再生信号のプリアンブルとポストアンブルとを用いて生成されたTDPRフィルタタップ係数のうち、ITI抑圧用のTDPRフィルタタップ係数のベクトルをvと表す。TDPRフィルタ102は、TDPRフィルタタップ係数ベクトルvと、下記の式(19)で定義されるタップデータベクトルxm(k)とを用いて、トレリス状態毎に下記の式(20)に示すTDPRフィルタ出力信号ym(k)を生成する。
【0062】
【数5】
…(15)
…(16)
…(17)
…(18)
…(19)
…(20)
【0063】
TDPRフィルタ102のTDPRフィルタ出力信号ym(k)は、Max−log−MAP検出器103に入力される。Max−log−MAP検出器103は、入力されたTDPRフィルタ出力信号ym(k)と、トレリス遷移ブランチに対応するレプリカ信号候補rS’,S(k)との誤差の2乗和を算出し(ブランチメトリック合成を行い)、トレリス遷移のブランチメトリックΓS’,S(k)を算出する。ブランチメトリックΓS’,S(k)は、下記の式(21)により算出される。
【0064】
【数6】
…(21)
【0065】
但し、σvは、TDPRフィルタ出力雑音分散値である。Max−log−MAP検出器103は、ブランチメトリックΓS’,S(k)と、時刻k−1における状態メトリックからトレリス遷移に応じたパスメトリックを算出し、トレリス状態毎の生き残りパスを求める。さらに、同様の処理をポストアンブルから後ろ向きにも実行する。そして、Max−log−MAP検出器103は、対数尤度比(LLR)を算出し、算出したLLRをP/S変換器104に入力する。
【0066】
なお、CRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合、2回目以降の繰り返し処理が行われる。この場合、誤り訂正後のLLRから記録信号のレプリカ信号が生成され、直並列変換により並列信号のレプリカ信号が生成される。さらに、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101によりソフト干渉キャンセルが行われる。例えば、トラック#m−2、#m−1、#m+1、#m+2レプリカ信号をそれぞれsm−2’、sm−1’、sm+1’、sm+2’とすると、ソフト干渉キャンセル後にTDPRフィルタ102に入力される信号xm−1’、xm’、xm+1’は、下記の式(22)〜式(24)のように表現される。
【0067】
【数7】
…(22)
…(23)
…(24)
【0068】
また、再生信号のプリアンブルとポストアンブルとを用いて生成されたTDPRフィルタタップ係数のベクトルをwと表すと、TDPRフィルタ102は、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwと、下記の式(25)で定義されるタップデータベクトルxm’(k)とを用いて、トレリス状態毎に下記の式(26)に示すTDPRフィルタ出力信号zm(k)を生成する。
【0069】
【数8】
…(25)
…(26)
【0070】
TDPRフィルタ102のTDPRフィルタ出力信号zm(k)は、Max−log−MAP検出器103に入力される。Max−log−MAP検出器103は、入力されたTDPRフィルタ出力信号zm(k)と、トレリス遷移ブランチに対応するレプリカ信号候補rS’,S(k)との誤差の2乗和を算出し(ブランチメトリック合成を行い)、トレリス遷移のブランチメトリックΓS’,S(k)を算出する。ブランチメトリックΓS’,S(k)は、下記の式(27)により算出される。
【0071】
【数9】
…(27)
【0072】
但し、σwは、TDPRフィルタ出力雑音分散値である。Max−log−MAP検出器103は、ブランチメトリックΓS’,S(k)と、時刻k−1における状態メトリックからトレリス遷移に応じたパスメトリックを算出し、トレリス状態毎の生き残りパスを求める。さらに、同様の処理をポストアンブルから後ろ向きにも実行する。そして、Max−log−MAP検出器103は、対数尤度比(LLR)を算出し、算出したLLRをP/S変換器104に入力する。なお、P/S変換器104の後段の処理を経てCRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合、同様の繰り返し処理が行われる。
【0073】
以上、本実施形態に係る再生信号処理部20の構成について説明した。当該構成を適用すると、幅狭トラックに対する幅広再生ヘッドの走査が容易になる上、2次元記録に対するトラック間干渉除去が実現され、信号検出の高性能化が図れる。その結果、記録データの復元性能の向上に寄与する。
【0074】
<5.まとめ>
図11〜図13に示した従来方式においては、幅広再生ヘッドが片側の隣接トラックへはみ出している場合を想定していた。そのため、反対側の隣接トラックへはみ出さないように走査範囲を高精度に制御する必要があった。あるいは、反対側の隣接トラックへのマージンを多めに取る必要があった。しかし、マージンを多めに取ると、再生ヘッドの隣接トラックへのはみ出しが多くなりトラック間干渉が多くなるという問題があった。一方、本実施形態の技術は、幅広再生ヘッドをトラックの中央に沿って走査し、両側の隣接トラックへはみ出した場合に対処する信号検出方式であるため、従来方式1及び2のような問題が生じない。
【0075】
また、従来方式において、隣接トラックへ書き込まれている信号は対象トラックとは無関係な信号であった。そのため、隣接トラックからの干渉をキャンセルするためのレプリカ信号を得るのが困難であった。一方、本実施形態においては、1つの符号語の信号を直並列変換して隣接トラックへ配置している。そのため、誤り訂正後の信頼度の高い情報から隣接トラックのレプリカを生成し、トラック間の干渉キャンセルに使用することができる。その結果、対象トラックの両側のトラックから干渉を受けている場合でも干渉キャンセルが可能となる。
【0076】
また、幅広再生ヘッドをトラックの中央に沿って走査して得られたマルチトラック再生信号に対して従来方式の信号検出方式を適用し、トラック#m−1とトラック#m+1の再生信号を利用してトラック#mの信号を検出しようとしても、トラック#m−1とトラック#m+1はさらに外側のトラック#m−2とトラック#m+2のトラックから干渉を受けているため、信号検出精度が大幅に劣化してしまう。一方、本実施形態の技術は2次元記録を利用しており、外側のトラック信号も同一符号語の信号であるため、繰り返し信号検出・復号において外側のトラック信号のレプリカ信号を生成することができるので、干渉キャンセルが可能である。
【0077】
また、従来方式では再生ヘッドをトラックの中央からずらして走査していたため、複数の隣接トラックを連続して再生する際には、すでに走査したトラックであってもあらためて都合のよい走査ルートで走査し直す必要があった。一方、本実施形態の技術は、再生ヘッドをトラックの中央を走査させることができるので、複数の連続トラックを信号検出する際には、それぞれのトラックを再生した信号を再使用することができる。そのため、スループットを必要以上に低下させることがない。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
例えば、上記の説明においては、3つのトラックを跨ぐことが可能な幅を有する再生ヘッドを考えたが、4つ以上のトラックを跨ぐことが可能な幅を有する再生ヘッドを用いてもよい。この場合、4つ以上のトラックの信号磁界が混在したマルチトラック再生信号が得られる。しかし、干渉成分の数が増えるだけであるため、これまで説明してきた本実施形態の技術を拡張することで容易に対応することができる。つまり、このような変形例についても、本実施形態の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0080】
1 信号処理装置
4 記録媒体
6 スピンドルモータ
8 ヘッド
10 記録信号生成部
11 CRC符号器
12 LDPC符号器
13 インターリーバ
14 記録信号変換器
15 S/P変換器
20 再生信号処理部
100 2次元記録信号検出部
101 マルチトラックソフト干渉キャンセラ
102 TDPRフィルタ
103 Max−log−MAP検出器
104 P/S変換器
105 デインターリーバ
106 LDPC復号器
107 硬判定部
108 CRC復号器
109 切替器
110 インターリーバ
111 S/P変換器
112 書き込み信号ソフトレプリカ変換器
113 インターリーバ
114 S/P変換器
C1 TDPRフィルタタップ係数
C2 雑音予測タップ係数
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号検出装置、及び信号検出方法に関する。特に、本発明は、瓦記録により各トラックに書き込まれた信号を、隣接する複数のトラックから同時に読み出された信号に基づいて検出するマルチトラック信号検出方式に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録ディスクの記録密度を向上させるための研究が盛んに進められている。磁気記録ディスクの記録密度を向上させる方法としては、例えば、各トラックのトラック幅を狭めて1ディスク当たりのトラック数を増加させる方法がある。しかし、トラック幅を狭めた場合、各トラックの情報を精度良く読み出せるようにするためには読み出しヘッドの大きさも小さくする必要がある。可能であれば、読み出しヘッドの幅をトラック幅と同程度にすることが好ましい。しかしながら、読み出しヘッドの小型化は既に限界に達していると言われている。そのため、トラック幅よりも広い幅を持つ読み出しヘッドを用いて精度良く各トラックの信号を読み出す技術に注目が集まっている。
【0003】
読み出しヘッドの幅がトラック幅よりも広いと、あるトラックを読み出しヘッドが走査した際に、隣接トラックの信号が同時に読み出されてしまうことになる。隣接トラックから同時に読み出される信号は、本来読み出したいトラックの信号に対する干渉となる。そのため、この干渉を抑制し、各トラックの信号を分離する技術(以下、マルチトラック信号検出方式)が求められる。マルチトラック信号検出方式に関しては、例えば、下記の非特許文献1に記載がある。同文献の方式は、TDPRフィルタ、1次元max−log−MAP検出器、誤り訂正復号器、ビット誤り検出器、ソフト干渉レプリカ生成器、マルチトラックソフト干渉キャンセラを用いてトラック間干渉を抑圧するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Fujii and N.Shinohara,“Multi−track iterative ITI canceller for shingled write recording”,電子情報通信学会,磁気記録・情報ストレージ研究会,信学技報,MR2010−44,pp.15−22,2010年12月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献に記載の技術を適用すると、幅広の再生ヘッドを用いて各トラックの信号を精度良く検出することができる。しかし、上記の文献に記載の技術は、再生ヘッドをトラックの中央からずらした状態で各トラックを走査している。特に、片側の隣接トラックに再生ヘッドがはみ出さないように制御しながら、各トラックを走査している。例えば、はみ出しては困る側に多めにマージンをとるように走査範囲を設定すれば制御が比較的容易になる。しかし、マージンを多めにとると、反対側の隣接トラックに対する再生ヘッドのはみ出しが多くなり、トラック間干渉が増大してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、幅狭トラックに対する幅広再生ヘッドの走査が容易になる上、より信号検出の精度を向上させることが可能な、新規かつ改良された信号検出装置、及び信号検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出装置であって、あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出部と、前記複数のトラックについて前記データ検出部により検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧部と、を備えることを特徴とする、信号検出装置が提供される。
【0008】
トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドによりトラックの中央付近を走査すると、再生ヘッドにより読み出される信号には、対象トラックの両側に隣接するトラックからの干渉成分が含まれる。しかし、上記の信号検出装置は、2次元パーシャルレスポンスフィルタによる干渉抑圧及びソフト干渉キャンセルによる干渉抑圧を行うことで各トラックに書き込まれた信号を精度良く検出できるようにしている。その結果、再生ヘッドをトラックの中央付近に走査する方法で各トラックに書き込まれた信号を検出できるようになり、走査範囲を精度良く制御したり、マージンを多めに設定したりする必要がなくなる。
【0009】
また、前記干渉抑圧部による干渉成分の抑圧処理、及び、干渉成分が抑圧された再生信号に基づく前記データ検出部による並列データの検出処理は、前記データ検出部により検出された並列データに含まれる誤りが除去されるまで繰り返し実行される。かかる構成により、隣接トラックからの干渉成分が十分に除去され、信号検出精度が向上する。
【0010】
また、上記の信号検出装置は、前記2次元パーシャルレスポンスフィルタの出力をmax−log−MAP検出器に入力して対数尤度比を算出し、当該対数尤度比に基づいて誤り訂正を実行する誤り訂正部をさらに備える。
【0011】
また、前記干渉抑圧部は、m番目のトラックから読み出された再生信号から、(m−1)番目のトラックからの干渉成分及び(m+1)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、(m−1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m−2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、(m+1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m+2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧するように構成されていてもよい。かかる構成により、隣接トラックから読み出された再生信号に含まれるm番目のトラックに書き込まれた信号の成分を残留させて利用することが可能になり、信号検出精度が向上する。
【0012】
また、同じデータから変換された複数の並列データがセクタ方向に並んで配置されるように、前記複数のデータは、隣接する複数のトラックに記録されている。かかる構成により、隣接トラックからの干渉成分も同じ系統のデータとなることでソフト干渉キャンセルに利用するソフトレプリカを生成することが可能になる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出方法であって、あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出ステップと、前記複数のトラックについて前記データ検出ステップで検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧ステップと、を含むことを特徴とする、信号検出方法が提供される。
【0014】
トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドによりトラックの中央付近を走査すると、再生ヘッドにより読み出される信号には、対象トラックの両側に隣接するトラックからの干渉成分が含まれる。しかし、上記の信号検出装置は、2次元パーシャルレスポンスフィルタによる干渉抑圧及びソフト干渉キャンセルによる干渉抑圧を行うことで各トラックに書き込まれた信号を精度良く検出できるようにしている。その結果、再生ヘッドをトラックの中央付近に走査する方法で各トラックに書き込まれた信号を検出できるようになり、走査範囲を精度良く制御したり、マージンを多めに設定したりする必要がなくなる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、幅狭トラックに対する幅広再生ヘッドの走査が容易になる上、より信号検出の精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】信号処理装置の構成を示した説明図である。
【図2】記録信号生成部の構成を示した説明図である。
【図3】符号語データの書き込み方法を示した説明図である。
【図4】再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図5】再生信号処理部の構成を示した説明図である。
【図6】再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図7】2次元記録信号検出部の構成を示した説明図である。
【図8】TDPRフィルタの構成を示した説明図である。
【図9】マルチトラックソフト干渉キャンセル前のマルチトラック再生信号の構成を示した説明図である。
【図10】マルチトラックソフト干渉キャンセル後のマルチトラック再生信号の構成を示した説明図である。
【図11】従来の再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図12】従来の再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【図13】従来の再生信号の読み出し方法を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[説明の流れについて]
ここで、以下に記載する本発明の実施形態に関する説明の流れについて簡単に述べる。まず、図1を参照しながら、信号処理装置1の構成について説明する。次いで、図2を参照しながら、記録信号生成部10の構成について説明する。次いで、図3を参照しながら、信号処理装置1による符号語データの書き込み方法について説明する。次いで、図11〜図13を参照しながら、従来方式による再生信号の読み出し方法について述べ、従来方式が抱える課題について説明する。次いで、図4〜図10を参照しながら、本実施形態に係る再生信号の読み出し方法及び再生信号処理部20の構成について説明する。
【0019】
<1.信号処理装置の基本構成>
まず、図1を参照し、信号再生装置及び信号記録装置としての機能を有する信号処理装置1の基本構成を説明する。図1は、信号処理装置1の構成を示した説明図である。図1に示したように、信号処理装置1は、記録媒体4と、スピンドルモータ6と、ヘッド8と、記録信号生成部10と、再生信号処理部20と、を備える。
【0020】
記録媒体4は、スピンドルモータ6に装着されており、スピンドルモータ6によって回転駆動される。この記録媒体4は、図1に示したように、複数トラックが形成された磁気ディスクであってもよい。なお、図1においては記録媒体4として1枚の磁気ディスクのみを示しているが、信号処理装置1は複数枚の磁気ディスクを有してもよい。
【0021】
ヘッド8は、記録信号生成部10から供給される記録信号を記録媒体4に記録する記録ヘッド、及び記録媒体4から再生信号を読み出す再生ヘッドとして機能する。また、ヘッド8は、後述するように、記録媒体4のトラック幅よりも大きいので、複数のトラックにまたがった状態で記録媒体4を走査する。
【0022】
記録信号生成部10は、記録媒体4に記録するための記録信号を生成する。また、再生信号処理部20は、記録媒体4からヘッド8により読み出された再生信号を処理する。このような記録信号生成部10の詳細な構成については図2を参照して説明し、再生信号処理部20の詳細な構成については図5及び図7を参照して説明する。
【0023】
なお、上述した信号処理装置1は、例えばPC(Personal Computer)、家庭用映像処理装置(DVDレコーダ、ビデオデッキなど)、携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、携帯用音楽再生装置、携帯用映像処理装置、PDA(Personal Digital Assistants)、家庭用ゲーム機器、携帯用ゲーム機器、家電機器などに設けられてもよい。
【0024】
<2.記録信号生成部10の構成>
図2は、記録信号生成部10の構成を示した機能ブロック図である。図2に示したように、記録信号生成部10は、CRC符号器11と、LDPC符号器12と、インターリーバ13と、記録信号変換器14と、S/P変換器15とを備える。上記のCRCは、Cyclic Redundancy Checkの略である。また、上記のLDPCは、Low Density Parity Checkの略である。
【0025】
CRC符号器11は、供給される記録情報データに対し、CRC符号などの誤り検出符号を付加する。LDPC符号器12は、低いSN比でも所定のエラー率を確保するための誤り訂正符号化部である。インターリーバ13は、LDPC符号器12による処理後のデータをトラックごとに異なるパターンでインターリーブする。記録信号変換部14は、インターリーバ13によるインターリーブ後のデータを磁気の極性信号に変換して記録信号を生成する。そして、記録信号変換部14により生成された記録信号は、S/P変換器15により並列化され、ヘッド8により記録媒体4に記録される。
【0026】
例えば、1つの記録信号(符号語データ)は、S/P変換器15によりN個の並列信号に変換される。そして、N個の並列信号は、図3に示すように、隣接するN本のトラック(#1〜#N)に書き込まれる。なお、1つの記録信号を直並列変換して得られたN個の並列信号は、同じセクタに属するN本の隣接トラックに書き込まれることが望ましい。このような書き込み方法を適用すると、トラック幅よりも幅の大きなヘッド8によりトラックを走査した際に、隣接トラックから読み出される干渉成分も、同じ記録信号から得られた並列信号となる。つまり、この書き込み方法を用いると、関連する並列信号が隣接トラックに書き込まれることになる。
【0027】
<3.読み出し方法について>
従来の読み出し方法(従来方式1)は、図11に示すように、磁気記録媒体が1回転する毎に再生ヘッドを所定の距離だけ移動させながら、各トラックに書き込まれた信号を読み出すというものであった。例えば、トラック#m−1とトラック#mとを跨ぐ位置に再生ヘッドがあるものとしよう。この場合、再生ヘッドは、トラック#m−1に書き込まれた信号sm−1と、トラック#mに書き込まれた信号smとが重畳された信号xm−1を読み出すことになる。この信号xm−1は、2つの信号sm−1及びsmを、ある比率で重ね合わせたものとなる。
【0028】
次に、磁気記録媒体が1回転し、1トラック分だけ再生ヘッドが移動した場合について考えてみよう。この場合、再生ヘッドは、トラック#mとトラック#m+1とを跨ぐ位置にある。そのため、再生ヘッドは、トラック#mに書き込まれた信号smと、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1とが重畳された信号xmを読み出すことになる。この信号xmは、2つの信号sm及びsm+1を、ある比率で重ね合わせたものとなる。同様に、さらに磁気記録媒体が1回転し、1トラック分だけ再生ヘッドが移動した場合、再生ヘッドは、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1と、トラック#m+2に書き込まれた信号sm+2とが重畳された信号xm+1を読み出す。
【0029】
上記の通り、図11に示すように再生ヘッドを走査すると、再生ヘッドにより3つの信号xm−1、xm、xm+1が読み出される。読み出された信号は、各トラックから受けた信号磁界の線形結合となる。そのため、トラック#m−1、#m、#m+1、#m+2に書き込まれた信号s1を下記の式(1)で表現すると、再生ヘッドにより読み出される信号xは、下記の式(2)〜式(5)のように表現される。
【0030】
【数1】
…(1)
…(2)
…(3)
…(4)
…(5)
【0031】
但し、係数αij(i=1〜3,j=1〜4)は、信号sjが信号xiに及ぼす影響の大きさを表す係数であり、磁性層の磁気的な伝達特性に依存することから伝達係数と呼ばれる。下記の式(6)で表現される伝達係数行列A1を定義すると、信号s1は、下記の式(7)のように表現することができる。つまり、伝達係数行列A1が既知であれば、再生ヘッドにより読み出された信号xから信号s1を求めることができる。
【0032】
【数2】
…(6)
…(7)
【0033】
図11に示した読み出し方法の他にも、例えば、図12及び図13に示すような読み出し方法(従来方式2)が知られている。この読み出し方法は、3トラックの範囲内で再生ヘッドを移動させることにより、再生ヘッドが読み出す信号に含まれる成分を3トラックの信号磁界だけに限定するというものである。つまり、トラック#m−1、#m、#m+1に書き込まれた信号s2を下記の式(8)で表現すると、再生ヘッドにより読み出される信号xは、下記の式(9)〜式(11)のように表現される。
【0034】
【数3】
…(9)
…(10)
…(11)
…(12)
【0035】
下記の式(13)で表現される伝達係数行列A2を定義すると、信号s2は、下記の式(14)のように表現することができる。つまり、伝達係数行列A2が既知であれば、再生ヘッドにより読み出された信号xから信号s2を求めることができる。
【0036】
【数4】
…(13)
…(14)
【0037】
上記の従来方式1及び2を用いると、トラック幅よりも幅が広い再生ヘッドを用いて各トラックに書き込まれた信号を読み出すことができる。しかしながら、これらの方式は、片側だけ隣接トラックにはみ出した状態を維持しながら再生ヘッドを走査する必要がある。そのため、はみ出す側とは反対側に位置する隣接トラックに再生ヘッドがはみ出さないように走査範囲を高精度に制御するか、隣接トラックへのはみ出しを防止するため、マージン(図11及び図12を参照)を大きめに設定する必要がある。当然のことながら、走査範囲を高精度に制御するのは難しい。一方、マージンを大きめに設定すると、再生ヘッドが隣接トラックへはみ出す割合が大きくなり、トラック間干渉が大きくなる。
【0038】
また、従来方式2の場合、図12及び図13に示すように、トラック#mに書き込まれた信号smを検出するには、トラック#m−1及び#m+1を走査する必要がある。また、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1を検出するには、トラック#m及び#m+2を走査する必要がある。どちらの工程でも、再生ヘッドはトラック#mを走査している。しかし、図12と図13とを対比すると明らかなように、トラック#mに書き込まれた信号smを検出する際、再生ヘッドは、トラック#m−1、#m、#m+1を跨ぐ状態で走査している。一方、トラック#m+1に書き込まれた信号sm+1を検出する際、再生ヘッドは、トラック#m及び#m+1を跨ぐ状態で走査している。
【0039】
つまり、同じトラック#mを走査していても、両工程で再生ヘッドが走査する範囲が異なる。トラック#mに書き込まれた信号を検出する工程において、再生ヘッドがトラック#mを走査した際に読み出される信号にはトラック#m−1及び#m+1からの干渉成分が含まれる。一方、トラック#m+1に書き込まれた信号を検出する工程において、再生ヘッドがトラック#mを走査した際に読み出される信号にはトラック#m+1からの干渉成分が含まれる。そのため、トラック#mに書き込まれた信号を検出する工程において読み出された信号を、トラック#m+1に書き込まれた信号を検出する工程で再利用することができない。その結果、何度も同じトラックを読み出すことが必要になる。
【0040】
そこで、本件発明者は、図4に示すように、全てのトラックについてトラックの中央付近を通るようにヘッド8を移動させ、ヘッド8により読み出された信号から各トラックに書き込まれた信号を精度良く検出する方法を考案した。以下、この方法を実現することが可能な再生信号処理部20の構成について説明する。
【0041】
<4.再生信号処理部20の構成>
図5に示すように、再生信号処理部20は、複数のバッファと、2次元記録信号検出部100とにより構成される。なお、バッファの数は、記録信号生成部10を構成するS/P変換器15により生成される並列信号の数、及び、それら並列信号が書き込まれるトラックの数に対応する。図3の例では1つの記録信号に対応するN個の並列信号がN本のトラックに書き込まれている。この場合、再生信号処理部20には、図5に示すように、N個のバッファが設けられる。
【0042】
バッファ#0には、図6に示すような方法でトラック#0を走査して読み出された信号(トラック#0再生信号)が入力される。そして、トラック#0再生信号は、バッファ#0内に保持される。同様に、バッファ#1〜#N+1には、それぞれトラック#1〜#N+1を走査して読み出された信号(トラック#1再生信号、…、トラック#N+1再生信号)が入力される。そして、トラック#1再生信号、…、トラック#N+1再生信号は、それぞれバッファ#1、…、トラック#N+1内に保持される。また、バッファ#0、…、バッファ#N+1内にそれぞれ保持されたトラック#0再生信号、…、トラック#N+1再生信号は、同時に2次元記録再生検出部100に入力される。
【0043】
トラック#0再生信号、…、トラック#N+1再生信号が入力されると、2次元記録信号検出部100は、入力されたトラック#0再生信号、…、トラック#N+1再生信号から各トラックに書き込まれた並列信号を検出する。ここで、図7を参照しながら、2次元記録信号検出部100の構成及び動作について、より詳細に説明する。
【0044】
図7は、2次元記録信号検出部100の構成を示した機能ブロック図である。図7に示したように、2次元記録信号検出部100は、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101と、TDPRフィルタ102(2次元パーシャルレスポンスフィルタ)と、Max−log−MAP検出器103と、P/S変換器104と、デインターリーバ105と、LDPC復号器106と、硬判定部107と、CRC復号器108と、切替部109と、インターリーバ110及び113と、書き込み信号ソフトレプリカ変換器112と、を備える。但し、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101、TDPRフィルタ102、及びMax−log−MAP検出器103を含むブロック(以下、信号検出ブロック)は、並列信号が書き込まれたトラックの数だけ設けられる。
【0045】
いま、トラック#mに対応する信号検出ブロック#mに注目する。信号検出ブロック#mには、トラック#m−1再生信号、トラック#m再生信号、トラック#m+1再生信号(以下、マルチトラック再生信号)が入力される。これらマルチトラック再生信号は、TDPRフィルタ102に入力される。TDPRフィルタ102は、マルチトラック再生信号を一括して処理し、各トラックに書き込まれた並列信号を抽出するための処理を行う。TDPRフィルタ102は、図8に示すような構成を有し、マルチトラック再生信号に含まれるトラック間干渉を抑圧してトラック#mの再生信号を所望のターゲット応答に等化する。
【0046】
TDPRフィルタ102から出力された信号(以下、TDPRフィルタ出力信号)は、Max−log−MAP検出器103に入力される。Max−log−MAP検出器103は、TDPRフィルタ出力信号、及びインターリーバ110によるインターリーブ後の信号を用い、これらターゲット応答に則して遅延重畳された信号からMax−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。Max−log−MAP検出器103により算出された尤度は、P/S変換器104に入力される。なお、他の信号検出ブロックにおいても、Max−log−MAP検出器103により各ビットに対する尤度が計算され、その出力がP/S変換器104に入力される。
【0047】
P/S変換器104は、各信号検出ブロックのMax−log−MAP検出器103から入力された尤度を並直列変換して出力する。つまり、P/S変換器104は、全ての並列信号について算出された並列信号の各ビットに対する尤度を直列化し、記録信号の各ビットに対する尤度として出力する。P/S変換器104の出力は、デインターリーバ105に入力される。デインターリーバ105は、P/S変換器104の出力に対してデインターリーブを施す。さらに、LDPC復号器106は、誤り訂正符号を用いてビット列の復号を行う。
【0048】
CRC復号器108は、LDPC復号器106により復号されたビット列に対する硬判定部107による硬判定後のビット列から、誤り検出符号の復号によりビット誤りの残存を検出する。切替部109は、CRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合に、LDPC復号器106と、インターリーバ110及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器112を接続する。この接続により、LDPC復号器106による復号結果がインターリーバ110及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器112に供給されるようになる。一方、CRC復号器108によりビット誤りが検出されなかった場合、復号されたビット列は再生データとして上位レイヤへと出力される。
【0049】
インターリーバ110は、各トラックの復号結果に対してインターリーブを行う。つまり、インターリーバ110は、復号で得られた各ビットの尤度に対して記録時と同様のインターリーブを施す。インターリーバ110の出力は、S/P変換器111に入力される。S/P変換器111は、記録時に記録信号に対して行ったのと同様の直並列変換を行う。そして、S/P変換器111の出力は、各信号検出ブロックのMax−log−MAP検出器103に入力される。
【0050】
書き込み信号ソフトレプリカ変換器112は、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101によるソフト干渉キャンセルに用いる記録信号のレプリカ信号を生成する。インターリーバ113は、書き込み信号ソフトレプリカ変換器112により生成されたレプリカ信号にインターリーブを施してS/P変換器114に供給する。S/P変換器114は、インターリーブが施されたレプリカ信号を直並列変換してマルチトラックソフト干渉キャンセラ101に供給する。このとき、S/P変換器114は、記録時に記録信号に対して行ったのと同様の直並列変換を行う。
【0051】
マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、S/P変換器114から供給されたレプリカ信号をマルチトラック再生信号から減算する。図9に示すように、トラック#mの再生信号には、トラック#mに書き込まれた並列信号の他、トラック#m−1からの干渉成分、及びトラック#m+1からの干渉成分が含まれる。同様に、トラック#m−1の再生信号には、トラック#m−1に書き込まれた並列信号の他、トラック#m−2からの干渉成分、及びトラック#mからの干渉成分が含まれる。また、トラック#m+1の再生信号には、トラック#m+1に書き込まれた並列信号の他、トラック#mからの干渉成分、及びトラック#m+2からの干渉成分が含まれる。
【0052】
トラック#mの並列信号を検出する場合、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、トラック#m−1の再生信号においてトラック#m−2からの干渉成分及びトラック#m−1に書き込まれた並列信号の成分をキャンセルする。また、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、トラック#mの再生信号においてトラック#m−1からの干渉成分及びトラック#m+1に書き込まれた並列信号の成分をキャンセルする。さらに、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、トラック#m+1の再生信号においてトラック#m+1に書き込まれた並列信号の成分及びトラック#m+2からの干渉成分をキャンセルする。
【0053】
つまり、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101は、ソフト干渉キャンセルにより、トラック#m−1の再生信号に含まれるトラック#mからの干渉成分、トラック#mの再生信号に含まれるトラック#mの並列信号成分、及びトラック#m+1の再生信号に含まれるトラック#mからの干渉成分を残留させる。このようなソフト干渉キャンセルを行った後、トラック#m−1、#m、#m+1の再生信号は、図10に示すような成分構成比となる。図10に示すように、いずれのマルチトラック再生信号にもトラック#mの信号成分が残るので、TDPRフィルタ102は、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101によるソフト干渉キャンセル後のマルチトラック再生信号を等化する。
【0054】
Max−log−MAP検出器103は、Max−log−MAP検出により各ビットに対する尤度を計算する。Max−log−MAP検出器103により算出された尤度は、P/S変換器104に入力される。なお、他の信号検出ブロックにおいても、Max−log−MAP検出器103により各ビットに対する尤度が計算され、その出力がP/S変換器104に入力される。P/S変換器104は、全ての並列信号について算出された並列信号の各ビットに対する尤度を直列化し、記録信号の各ビットに対する尤度として出力する。デインターリーバ105は、P/S変換器104の出力に対してデインターリーブを施す。LDPC復号器106は、誤り訂正符号を用いてビット列の復号を行う。
【0055】
CRC復号器108は、LDPC復号器106により復号されたビット列に対する硬判定部107による硬判定後のビット列から、誤り検出符号の復号によりビット誤りの残存を検出する。切替部109は、CRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合に、LDPC復号器106と、インターリーバ110及び書き込み信号ソフトレプリカ変換器112を接続する。一方、CRC復号器108によりビット誤りが検出されなかった場合、復号されたビット列は再生データとして上位レイヤへと出力される。
【0056】
このように、2次元記録信号検出部100は、上記のレプリカ信号を用いたソフト干渉キャンセルの繰り返し処理を、Max−log−MAP検出器103、デインターリーバ105、及びLDPC復号器106によるビット列の復号処理と共に、CRC復号器108によりビット誤りが検出されなくなるまで繰り返す。
【0057】
なお、繰り返し処理の初回で使用するTDPRフィルタタップ係数C1と、繰り返し処理の2回目以降で使用するTDPRフィルタタップ係数C1とは異なる。繰り返し処理の初回で使用するTDPRフィルタタップ係数C1は、希望のターゲット応答となるようにトラック#mにおいて既知の信号を用いて予めトレーニングすることにより得られたものである。一方、繰り返し処理の2回目以降で使用するTDPRフィルタタップ係数C1は、トラック#m−2、#m−1、#m+1、#m+2において既知の信号を用いて干渉のハードキャンセルを行った信号に対してトラック#mにおいて既知の信号を用いて予めトレーニングすることにより得られたものである。
【0058】
また、Max−log−MAP検出器103において利用される雑音予測タップ係数C2は、繰り返し処理の初回で使用するTDPRフィルタタップ係数C1及び繰り返し処理の2回目以降で使用するTDPRフィルタタップ係数C1に対して予め算出されたものである。この雑音予測タップ係数C2は、Max−log−MAP検出の際にTDPRフィルタ出力信号から雑音成分を低減しつつ、各ビットの尤度を算出するために利用される。
【0059】
上記のように、2次元記録信号検出部100は、ソフト干渉キャンセルを繰り返し行うことによりトラック間干渉を抑圧する。さらに、繰り返し処理の2回目以降では、TDPRフィルタ102において、トラック間干渉がない場合に最適化されたTDPRフィルタタップ係数C1が用いられるため、TDPRフィルタ出力のSINRを格段に向上させることができる。その結果、信号検出性能が大幅に向上する。なお、TDPRフィルタタップ係数C1の生成方法については、上記の非特許文献1を参照されたい。但し、本実施形態に係る方法は、上記の非特許文献1に記載の方法を3トラックに拡張したものである。
【0060】
(繰り返し処理の内容に関する説明の補足)
ここで、繰り返し処理の内容について説明を補足する。上記のように、隣接する3つのトラックから読み出された再生信号は、まず、図8に示した構成のTDPRフィルタ102により等化される。トラック#m−2、#m−1、#m、#m+1、#m+2に書き込まれた並列信号の組s3を下記の式(15)のように表現すると、繰り返し処理の初回においてTDPRフィルタ102に入力される信号xは、下記の式(16)〜式(18)のように表現される。
【0061】
いま、時刻k−1から時刻kにおける状態数NSのトレリス状態の遷移を(S’,S)とする。また、再生信号のプリアンブルとポストアンブルとを用いて生成されたTDPRフィルタタップ係数のうち、ITI抑圧用のTDPRフィルタタップ係数のベクトルをvと表す。TDPRフィルタ102は、TDPRフィルタタップ係数ベクトルvと、下記の式(19)で定義されるタップデータベクトルxm(k)とを用いて、トレリス状態毎に下記の式(20)に示すTDPRフィルタ出力信号ym(k)を生成する。
【0062】
【数5】
…(15)
…(16)
…(17)
…(18)
…(19)
…(20)
【0063】
TDPRフィルタ102のTDPRフィルタ出力信号ym(k)は、Max−log−MAP検出器103に入力される。Max−log−MAP検出器103は、入力されたTDPRフィルタ出力信号ym(k)と、トレリス遷移ブランチに対応するレプリカ信号候補rS’,S(k)との誤差の2乗和を算出し(ブランチメトリック合成を行い)、トレリス遷移のブランチメトリックΓS’,S(k)を算出する。ブランチメトリックΓS’,S(k)は、下記の式(21)により算出される。
【0064】
【数6】
…(21)
【0065】
但し、σvは、TDPRフィルタ出力雑音分散値である。Max−log−MAP検出器103は、ブランチメトリックΓS’,S(k)と、時刻k−1における状態メトリックからトレリス遷移に応じたパスメトリックを算出し、トレリス状態毎の生き残りパスを求める。さらに、同様の処理をポストアンブルから後ろ向きにも実行する。そして、Max−log−MAP検出器103は、対数尤度比(LLR)を算出し、算出したLLRをP/S変換器104に入力する。
【0066】
なお、CRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合、2回目以降の繰り返し処理が行われる。この場合、誤り訂正後のLLRから記録信号のレプリカ信号が生成され、直並列変換により並列信号のレプリカ信号が生成される。さらに、マルチトラックソフト干渉キャンセラ101によりソフト干渉キャンセルが行われる。例えば、トラック#m−2、#m−1、#m+1、#m+2レプリカ信号をそれぞれsm−2’、sm−1’、sm+1’、sm+2’とすると、ソフト干渉キャンセル後にTDPRフィルタ102に入力される信号xm−1’、xm’、xm+1’は、下記の式(22)〜式(24)のように表現される。
【0067】
【数7】
…(22)
…(23)
…(24)
【0068】
また、再生信号のプリアンブルとポストアンブルとを用いて生成されたTDPRフィルタタップ係数のベクトルをwと表すと、TDPRフィルタ102は、TDPRフィルタタップ係数ベクトルwと、下記の式(25)で定義されるタップデータベクトルxm’(k)とを用いて、トレリス状態毎に下記の式(26)に示すTDPRフィルタ出力信号zm(k)を生成する。
【0069】
【数8】
…(25)
…(26)
【0070】
TDPRフィルタ102のTDPRフィルタ出力信号zm(k)は、Max−log−MAP検出器103に入力される。Max−log−MAP検出器103は、入力されたTDPRフィルタ出力信号zm(k)と、トレリス遷移ブランチに対応するレプリカ信号候補rS’,S(k)との誤差の2乗和を算出し(ブランチメトリック合成を行い)、トレリス遷移のブランチメトリックΓS’,S(k)を算出する。ブランチメトリックΓS’,S(k)は、下記の式(27)により算出される。
【0071】
【数9】
…(27)
【0072】
但し、σwは、TDPRフィルタ出力雑音分散値である。Max−log−MAP検出器103は、ブランチメトリックΓS’,S(k)と、時刻k−1における状態メトリックからトレリス遷移に応じたパスメトリックを算出し、トレリス状態毎の生き残りパスを求める。さらに、同様の処理をポストアンブルから後ろ向きにも実行する。そして、Max−log−MAP検出器103は、対数尤度比(LLR)を算出し、算出したLLRをP/S変換器104に入力する。なお、P/S変換器104の後段の処理を経てCRC復号器108によりビット誤りの残存が検出された場合、同様の繰り返し処理が行われる。
【0073】
以上、本実施形態に係る再生信号処理部20の構成について説明した。当該構成を適用すると、幅狭トラックに対する幅広再生ヘッドの走査が容易になる上、2次元記録に対するトラック間干渉除去が実現され、信号検出の高性能化が図れる。その結果、記録データの復元性能の向上に寄与する。
【0074】
<5.まとめ>
図11〜図13に示した従来方式においては、幅広再生ヘッドが片側の隣接トラックへはみ出している場合を想定していた。そのため、反対側の隣接トラックへはみ出さないように走査範囲を高精度に制御する必要があった。あるいは、反対側の隣接トラックへのマージンを多めに取る必要があった。しかし、マージンを多めに取ると、再生ヘッドの隣接トラックへのはみ出しが多くなりトラック間干渉が多くなるという問題があった。一方、本実施形態の技術は、幅広再生ヘッドをトラックの中央に沿って走査し、両側の隣接トラックへはみ出した場合に対処する信号検出方式であるため、従来方式1及び2のような問題が生じない。
【0075】
また、従来方式において、隣接トラックへ書き込まれている信号は対象トラックとは無関係な信号であった。そのため、隣接トラックからの干渉をキャンセルするためのレプリカ信号を得るのが困難であった。一方、本実施形態においては、1つの符号語の信号を直並列変換して隣接トラックへ配置している。そのため、誤り訂正後の信頼度の高い情報から隣接トラックのレプリカを生成し、トラック間の干渉キャンセルに使用することができる。その結果、対象トラックの両側のトラックから干渉を受けている場合でも干渉キャンセルが可能となる。
【0076】
また、幅広再生ヘッドをトラックの中央に沿って走査して得られたマルチトラック再生信号に対して従来方式の信号検出方式を適用し、トラック#m−1とトラック#m+1の再生信号を利用してトラック#mの信号を検出しようとしても、トラック#m−1とトラック#m+1はさらに外側のトラック#m−2とトラック#m+2のトラックから干渉を受けているため、信号検出精度が大幅に劣化してしまう。一方、本実施形態の技術は2次元記録を利用しており、外側のトラック信号も同一符号語の信号であるため、繰り返し信号検出・復号において外側のトラック信号のレプリカ信号を生成することができるので、干渉キャンセルが可能である。
【0077】
また、従来方式では再生ヘッドをトラックの中央からずらして走査していたため、複数の隣接トラックを連続して再生する際には、すでに走査したトラックであってもあらためて都合のよい走査ルートで走査し直す必要があった。一方、本実施形態の技術は、再生ヘッドをトラックの中央を走査させることができるので、複数の連続トラックを信号検出する際には、それぞれのトラックを再生した信号を再使用することができる。そのため、スループットを必要以上に低下させることがない。
【0078】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0079】
例えば、上記の説明においては、3つのトラックを跨ぐことが可能な幅を有する再生ヘッドを考えたが、4つ以上のトラックを跨ぐことが可能な幅を有する再生ヘッドを用いてもよい。この場合、4つ以上のトラックの信号磁界が混在したマルチトラック再生信号が得られる。しかし、干渉成分の数が増えるだけであるため、これまで説明してきた本実施形態の技術を拡張することで容易に対応することができる。つまり、このような変形例についても、本実施形態の技術的範囲に属する。
【符号の説明】
【0080】
1 信号処理装置
4 記録媒体
6 スピンドルモータ
8 ヘッド
10 記録信号生成部
11 CRC符号器
12 LDPC符号器
13 インターリーバ
14 記録信号変換器
15 S/P変換器
20 再生信号処理部
100 2次元記録信号検出部
101 マルチトラックソフト干渉キャンセラ
102 TDPRフィルタ
103 Max−log−MAP検出器
104 P/S変換器
105 デインターリーバ
106 LDPC復号器
107 硬判定部
108 CRC復号器
109 切替器
110 インターリーバ
111 S/P変換器
112 書き込み信号ソフトレプリカ変換器
113 インターリーバ
114 S/P変換器
C1 TDPRフィルタタップ係数
C2 雑音予測タップ係数
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出装置であって、
あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出部と、
前記複数のトラックについて前記データ検出部により検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧部と、
を備える
ことを特徴とする、信号検出装置。
【請求項2】
前記干渉抑圧部による干渉成分の抑圧処理、及び、干渉成分が抑圧された再生信号に基づく前記データ検出部による並列データの検出処理は、前記データ検出部により検出された並列データに含まれる誤りが除去されるまで繰り返し実行される
ことを特徴とする、請求項1に記載の信号検出装置。
【請求項3】
前記2次元パーシャルレスポンスフィルタの出力をmax−log−MAP検出器に入力して対数尤度比を算出し、当該対数尤度比に基づいて誤り訂正を実行する誤り訂正部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項2に記載の信号検出装置。
【請求項4】
前記干渉抑圧部は、
m番目のトラックから読み出された再生信号から、(m−1)番目のトラックからの干渉成分及び(m+1)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、
(m−1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m−2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、
(m+1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m+2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の信号検出装置。
【請求項5】
同じデータから変換された複数の並列データがセクタ方向に並んで配置されるように、前記複数のデータは、隣接する複数のトラックに記録されている
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の信号検出装置。
【請求項6】
データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出方法であって、
あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出ステップと、
前記複数のトラックについて前記データ検出ステップで検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧ステップと、
を含む
ことを特徴とする、信号検出方法。
【請求項1】
データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出装置であって、
あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出部と、
前記複数のトラックについて前記データ検出部により検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧部と、
を備える
ことを特徴とする、信号検出装置。
【請求項2】
前記干渉抑圧部による干渉成分の抑圧処理、及び、干渉成分が抑圧された再生信号に基づく前記データ検出部による並列データの検出処理は、前記データ検出部により検出された並列データに含まれる誤りが除去されるまで繰り返し実行される
ことを特徴とする、請求項1に記載の信号検出装置。
【請求項3】
前記2次元パーシャルレスポンスフィルタの出力をmax−log−MAP検出器に入力して対数尤度比を算出し、当該対数尤度比に基づいて誤り訂正を実行する誤り訂正部をさらに備える
ことを特徴とする、請求項2に記載の信号検出装置。
【請求項4】
前記干渉抑圧部は、
m番目のトラックから読み出された再生信号から、(m−1)番目のトラックからの干渉成分及び(m+1)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、
(m−1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m−2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧し、
(m+1)番目のトラックから読み出された再生信号から、当該再生信号の希望信号成分及び(m+2)番目のトラックからの干渉成分を抑圧する
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の信号検出装置。
【請求項5】
同じデータから変換された複数の並列データがセクタ方向に並んで配置されるように、前記複数のデータは、隣接する複数のトラックに記録されている
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の信号検出装置。
【請求項6】
データを直並列変換して得られる複数の並列データが書き込まれた複数のトラックから、トラック幅よりも大きな幅を有する再生ヘッドを用いて読み出された再生信号に基づいて前記データを再生する信号検出方法であって、
あるトラックの中央付近を前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、当該トラックの両隣に位置するトラックをそれぞれ前記再生ヘッドで走査して得られる再生信号と、を2次元パーシャルレスポンスフィルタに入力し、当該トラックに書き込まれた並列データを検出するデータ検出ステップと、
前記複数のトラックについて前記データ検出ステップで検出された並列データを用いて前記データのレプリカ信号を生成し、当該レプリカ信号に基づくソフト干渉キャンセルを実行して前記再生信号に含まれる干渉成分を抑圧する干渉抑圧ステップと、
を含む
ことを特徴とする、信号検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−238366(P2012−238366A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107769(P2011−107769)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】
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