説明

信号記録再生装置及び方法

【課題】 記録媒体の残量が少なくなってきた場合に、記録データの楽曲等を完全に消去することなく空き容量を復活させる。
【解決手段】 エンコーダ102は、入力端子101からの入力信号を非可逆符号化した非可逆符号化データと、入力信号から非可逆符号化データを減算した信号を可逆符号化した可逆符号化データとを結合したストリームデータを生成し、記録部103により記録媒体104に記録する。制御部109は、管理情報処理部108からの管理情報により記録媒体104の空き容量が少なくなったことを検出したとき、記録媒体104に記録されているデータの内の可逆符号化データのみを消去するように記録部103を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力信号を符号化して記録媒体に記録し、記録媒体から信号を再生するような信号記録再生装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オーディオ信号やビデオ信号等のアナログ信号をデジタル化したデジタル信号について、信号の統計的性質を利用して圧縮符号化する符号化方式が種々提案されている。これらの符号化方式には、符号化前の信号を完全に復元できるロスレス(可逆)符号化と、誤差が生じるロッシー(非可逆)符号化とがある。
【0003】
ロスレス(可逆)符号化の場合は、復号されて再生される信号の品質を高く保つことができるが、符号化データ量が一般に大きく、ロッシー(非可逆)符号化の場合は、符号化データ量を小さくできるが、再生信号の品質がロスレス(可逆)符号化の場合に比べて劣る。
【0004】
また、従来において、入力音声信号を非可逆(ロッシー)圧縮してコア(基本層)ストリームを生成すると共に、残差信号を可逆(ロスレス)圧縮してエンハンス(拡張層)ストリームを生成し、これらを1つのストリームに結合することで、非可逆圧縮と可逆圧縮とのスケーラビリティを実現する音声符号化装置が、例えば特許文献1に開示されている。この音声復号装置では、コアストリームを復号することで、ロッシーな復号音声信号を生成することができ、コアストリーム及びエンハンスストリームを復号して両者を加算することで、ロスレスな復号音声信号を生成することができる。
【0005】
また、特許文献2には、スケーラブルロスレスストリームを生成・復号することができ、且つ、ロスレスなストリームを生成・復号する際の処理時間を短縮することが可能な音声符号化装置及びその方法、並びに音声復号装置及びその方法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0171919号明細書
【特許文献2】特開2007−034230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のロスレス(可逆)符号化、あるいはロッシー(非可逆)符号化のいずれかのみによってオーディオ再生を行う装置において、蓄積された符号化データが装置内の記録媒体の容量上限に達し、さらに新たなデータを記録するための容量を必要とする場合は、データの一部を完全に消去する以外に容量の復活は不可能であり、その場合消去対象の符号化データに対応する楽曲は消去後再生不可能となっていた。
【0008】
本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、記録媒体の残量が少なくなってきた場合に、記録データの楽曲等を完全に消去することなく空き容量を復活させることが可能な信号記録再生装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するために、本発明は、入力信号を符号化して、第1の符号化データと、第1の符号化データを復号して得られる信号より高品質の信号を復号するための第2の符号化データとを生成するエンコーダと、上記エンコーダからの第1の符号化データ及び第2の符号化データを含む記録データを記録媒体に記録する記録手段と、上記記録媒体から上記記録データを再生する再生手段と、上記再生手段からの記録データ内の少なくとも上記第1の符号化データを復号するデコーダと、各部の動作を制御する制御手段とを有し、上記制御手段は、上記記録媒体の空き容量を増加させる指令に応じて、上記第2の符号化データを消去するように上記記録手段を制御することを特徴とする。
【0010】
ここで、上記第1の符号化データは非可逆符号化データであり、上記第2の符号化データは可逆符号化データであることが挙げられ、第2の符号化データは、上記入力信号から上記第1の符号化データを復号した信号を減算した信号を可逆符号化したデータであることが好ましい。
【0011】
また、上記入力信号はオーディオ信号の場合、上記エンコーダには、上記入力オーディオ信号を複数の周波数帯域に帯域分割し、各周波数帯域の入力オーディオ信号を時間−周波数変換してスペクトル信号とした後、不可逆符号化して上記第1の符号化データを生成する第1の符号化手段と、上記第1の符号化データのうち、所定の周波数帯域のスペクトル信号のみを復号して復号信号を生成する復号手段と、上記入力オーディオ信号から上記復号信号を減算し、残差信号を生成する減算手段と、上記残差信号を可逆符号化して上記第2の符号化データを生成する第2の符号化手段とを有するものが挙げられる。
【0012】
次に、本発明に係る信号記録再生方法は、上記目的を達成するため、入力信号を符号化して、第1の符号化データと、第1の符号化データを復号して得られる信号より高品質の信号を復号するための第2の符号化データとを有する記録データを記録媒体に記録し、上記記録媒体から少なくとも上記第1の符号化データを再生する信号記録再生方法であって、上記記録媒体の空き容量を増加させる指令に応じて、上記第2の符号化データを消去することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、記録媒体の空き容量を増加させる指令に応じて、上記第2の符号化データを消去することにより、記録媒体の空き容量を増加させると共に、上記第1の符号化データが消去されずに残っているため、この第1の符号化データに基づく信号再生が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に用いられる信号記録再生装置を概略的に示すブロック図である。
【0016】
この図1において、入力端子101にはアナログ信号をデジタル変換した信号、例えばデジタルのオーディオ信号が入力され、エンコーダ102で符号化され、記録部103により記録媒体(あるいは記憶媒体)104に記録される。記録媒体104に記録されたデータは、再生部105により再生され、デコーダ106で復号され、出力端子107より元の例えばデジタルのオーディオ信号が取り出される。管理情報処理部18は、記録媒体104に対してデータを記録再生する際の記録再生位置やデータ量、媒体残量などを管理するためのものであり、記録の際に記録部103にてヘッダ情報やメタ情報を符号化オーディオデータに付加したり、再生の際に再生部105にてヘッダ情報やメタ情報を符号化オーディオデータと分離して取り出したりする。制御部109は、CPUを用いたいわゆるシステムコントローラであり、信号記録再生装置の各部の制御を行うと共に、管理情報処理部108に対して記録管理情報を送受し、記録媒体104に対するデータの記録や再生の制御を行う。なお、記録媒体(あるいは記憶媒体)104としては、ディスク、テープ等の他、半導体メモリ(いわゆるフラッシュメモリ等)も使用可能であることは勿論である。
【0017】
ここで、図1のエンコーダ102の符号化の方式については種々の実現形態が考えられるが、入力信号の情報を損失無く(ロスレス)符号化するものとして、例えば図2に、機能性を有するロスレス符号化の例を示している。図2の(A)には、入力信号を非可逆符号化した第1の符号化データとしてのロッシー符号化部分(ロッシーデータX)と、同じ入力信号を可逆符号化した第2の符号化データとしてのロスレス符号化部分(ロスレスデータY)とが単純に並存し、いずれも独立してデコードできるものが示されている。図2の(B)には、第1の符号化データとしてのロッシー符号化部分(ロッシーデータX)と、第2の符号化データとしてのロスレス符号化部分(ロスレス付加データZ)とが階層構造を形成し、ロスレス符号化部分(ロスレス付加データZ)はロッシー符号化による損失信号を補完することでオリジナル信号のロスレス表現を実現するものが示されている。
【0018】
ここで、図1の制御部109は、記録媒体104の空き容量を増加させる指令に応じて、記録媒体104に記録された第2の符号化データとしてのロスレス符号化部分(ロスレスデータY又はロスレス付加データZ)を消去することにより、記録媒体104の空き容量を増加させると同時に、消去されずに記録媒体104に残っているロッシー符号化部分(ロッシーデータX)を再生可能としている。
【0019】
以下、本発明の実施の形態では、主に後者の図2の(B)の方式で、入力信号がオーディオ信号の場合を例にとって説明するが、図2の(A)の場合や、入力信号がオーディオ信号以外のビデオ信号等の場合にも本発明を適用可能である。
【0020】
図3は、図1のエンコーダ102として、上述した図2の(B)に示すロッシー符号化部分とロスレス符号化部分が階層構造を形成するような符号化装置の一具体例を示すブロック図であり、例えばATRAC(Adaptive TRansform Acoustic Coding)(商標)の可逆コーデック技術・規格であるATRAC Advanced Lossless(商標)に用いられているオーディオ信号符号化装置の概略構成を示している。このATRAC Advanced Lossless(商標)では、通常の可逆符号化方式とは異なり、先にATRAC(商標)による高能率な非可逆符号化を行った上で、その量子化誤差信号を可逆符号化することにより、全体として可逆符号化を実現するもので、いわゆるスケーラビリティを持つロスレス符号化である。以下の説明においては、非可逆(ロッシー)符号化部分を基本層(Base Layer)、可逆(ロスレス)符号化部分を拡張層(Enhancement Layer)として表している。
【0021】
この図3に示すオーディオ信号符号化装置(オーディオエンコーダ)は、図1の入力端子101に対応する入力端子11と、基本層(Base Layer)エンコード部12と、基本層確定的(Base Layer Deterministic)デコード部13と、減算器14と、拡張層(Enhancement Layer)エンコード部15と、ビットストリームマルチプレクサ16とを有して構成され、ビットストリームマルチプレクサ16からの符号化ビットストリームが出力端子17を介して取り出され、図1の記録部103に送られる。
【0022】
この図3のオーディオ信号符号化装置において、入力端子11からの入力オーディオ信号が基本層エンコード部12に供給され、基本層エンコード部12は、入力オーディオ信号を複数の周波数帯域に帯域分割し、各周波数帯域の入力オーディオ信号を時間−周波数変換してスペクトル信号とした後、不可逆符号化して、第1の符号化データとしての非可逆(ロッシー)符号化データ(基本層)を生成する。基本層エンコード部12からの非可逆符号化データは、基本層確定的デコード部13及びビットストリームマルチプレクサ16に送られる。基本層確定的デコード部13は、基本層エンコード部12からの非可逆符号化データのうち、所定の周波数帯域のスペクトル信号のみを復号して復号信号を生成する。基本層確定的デコード部13からの復号信号は、減算器14に送られることにより、入力端子11の入力オーディオ信号から減算され、残差信号が生成される。減算器14からの残差信号は拡張層エンコード部15に送られる。拡張層エンコード部15は、減算器14からの残差信号を可逆符号化し、第2の符号化データとしての可逆(ロスレス)符号化データ(拡張層)を生成し、ビットストリームマルチプレクサ16に送る。ビットストリームマルチプレクサ16は、基本層エンコード部12からの非可逆符号化データと、拡張層エンコード部15からの可逆符号化データとを結合して、符号化ビットストリームを生成し、出力端子17に送る。
【0023】
出力端子17からの符号化ビットストリームは、図1の記録部103においてヘッダ等が付加され、例えば図4に示すようなATRAC Advanced Lossless(商標)のファイルフォーマットに従って記録媒体104に記録される。
【0024】
この図4において、ビットストリーム全体のヘッダとなるストリームヘッダSHの後に複数のオーディオフレームAFから成るオーディオデータが配され、各オーディオフレームAFは、フレームヘッダFHと、基本層BL及び拡張層ELの各符号化データを有して構成される。すなわち、このスケーラブル構造により、入力信号はコンパクトなデータサイズの基本層BL、及び入力と完全一致するデコード出力を可能にするための拡張層ELという2つのデータ層で表現されている。これらの2つのデータ層は1つのファイルによって一元管理することができ、使用形態、目的によってどちらの情報を再生するかを選択することが可能である。例えば、家庭用の機器では基本層BL及び拡張層ELの両者を有するファイル形式にて情報源(楽曲)をハードディスクに保持しておき、基本層BL及び拡張層ELの全てをデコードすることで、オリジナル音源と完全に一致した高音質再生が可能である。また記録容量(あるいは記憶容量)の小さいポータブル機器に対しては基本層BLのみを転送することにより、音質劣化を抑えつつ限られた記録容量の中でより多くの楽曲を再生することができる。
【0025】
図5は、図1のデコーダ106の一具体例として、上述した図3の(B)に示すオーディオ信号符号化装置における符号化の逆処理となる復号を行うオーディオ信号復号装置の概略構成を示している。
【0026】
この図5に示すオーディオ信号復号装置(オーディオデコーダ)は、図1の再生部105からの再生信号が入力端子21を介して供給されるビットストリームデマルチプレクサ22と、ビットストリームデマルチプレクサ22で分離された基本層(Base Layer)の符号化データを復号する基本層確定的(Base Layer Deterministic)デコード部23と、ビットストリームデマルチプレクサ22で分離された拡張層(Enhancement Layer)の符号化データを復号する拡張層デコード部24と、これらの基本層確定的デコード部23及び拡張層デコード部24からの各出力信号を加算する加算器25とを有して構成され、加算器25からの復号オーディオ信号が出力端子26(図1の出力端子103)を介して取り出される。この場合、基本層、拡張層の各符号化データの全てをデコードすることにより、オリジナル音源と完全に一致した高音質再生が可能であることは上述した通りである。
【0027】
ここで、エンコーダ/デコーダの両方で使用され重要な役割を果たす基本層確定的(Base Layer Deterministic)デコード部13,23について説明する。無損失(ロスレス)符号化を上述のように多層に分解して実現する場合、あらゆるプラットフォームで完全一致するデコード出力を得るためには、デコーダにおけるそれぞれの層がプラットフォーム、処理系の相違によらず確定的な動作を行う必要がある。そのための一つの解としては、演算精度が完全に指定された整数演算にて動作することが条件となるが、この条件は拡張層では比較的容易に実現できるものの、基本層は直交変換など基本的には浮動小数点演算によって実現されるべき要素が多く、なんらかの条件を付加しない限りは演算量の増大等により実装が困難になる可能性が高い。
【0028】
ATRAC Advanced Lossless(商標)の場合、非可逆(ロッシー)符号化部分の基本層にはATRAC(商標)の符号化を使用しており、この符号化は入力信号のバンド分割後に直交変換を行う構造をとっているため、演算量と圧縮率のバランスからデコードすべきバンド数を決定し、そのバンドを上回る周波数領域ではデコードを行わずに、拡張層での処理に委ねるという制御が可能である。すなわち、図3、図5の基本層確定的デコード部13,23においては、入力される基本層の符号化データ中の所定の周波数帯域のスペクトル信号のみを復号する。このことにより、デコーダの確定性、完全一致性を維持しつつ、ATRAC(商標)との互換性及び演算量削減の両立が実現できる。
【0029】
ところで、ロスレス復号化後の信号はオリジナルの入力信号と完全一致するために高音質を維持することができるが、そのデータサイズ、すなわち基本層と拡張層のデータサイズの和はオリジナルの50〜60%程度であり、そのため限られた容量の記憶媒体(あるいは記憶媒体)に格納できる信号の長さ(あるいは楽曲数)にはかなりの制約が伴う。一方、ロッシー部分の符号化には高能率のオーディオ符号化方式を用いることで、音質の劣化は最小限に抑えつつ、そのデータサイズを拡張層の1/10〜1/3程度に抑えることが可能である。
【0030】
従って、記録再生装置にて記録媒体(あるいは記憶媒体)の空き容量が少なくなってきた場合に、特定の楽曲に対して拡張層を消去し、それに対応する基本層のみを残すような操作を行うことによって、楽曲を全て消去することなく、記録媒体の空き容量を大幅に復活させることが可能である。図1の制御部109は、後述するように、管理情報処理部108からの記録媒体の空き容量等の管理情報を監視することで、空き容量が少なくなってきたことを判別し、自動的にあるいはユーザの確認を待って、空き容量を増加させる指令(コマンド)を発生し、記録部103を記録制御することで、上記第2の符号化データである拡張層を消去するような処理を行わせる。
【0031】
記録媒体の空き容量の復活について説明する。記録媒体に記録されたフレーム数の総数がNフレームからなるオーディオ信号において、iフレームにおける基本層(ロッシー)のデータサイズをSlossy(i)、拡張層(ロスレス)のデータサイズをSlossless(i) とした場合、拡張層を消去する前のデータサイズは、次の(1)式で表される。
【0032】
【数1】

【0033】
そのうちMフレームの拡張層を消去した場合、そのデータサイズは以下の(2)式の通りである。
【0034】
【数2】

【0035】
ただし、ここでは実際のフレーム番号を入れ替え、0≦i≦M−1のMフレームを消去対象としている。
【0036】
ここで、N,Mが十分に大きい場合に、
【0037】
【数3】

【0038】
と近似できることから、上記(1)式に対する(2)式の比は、次の(3)式のように表現できる。
【0039】
【数4】

【0040】
このrを用いて、上記(3)式は、1−(1−r)M/N と書くことができ、また、通常rは小さな値(1/10程度)であるため、この式はほぼ、1−M/N と近似することができる。すなわち、拡張層を消去したフレーム数にほぼ比例して、記録媒体(あるいは記憶媒体)の容量の復活が可能である。
【0041】
具体例として、上記ATRAC(商標)の符号化ビットレートは、その運用ルールにより、32,48,64,96,128,160,192,256,320,352kbpsの10種類から選択可能である。また拡張層のビットレートは入力信号の特徴によって処理フレーム毎に変化するが、およそ600〜1500kbpsの間の値をとる。通常ATRAC(商標)は128kbps程度でMD(商標)並の音質を得ることが可能であるため、この基本層のみを迅速に転送することで(すなわち基本層のデコードのみで)ポータブルオーディオとしては十分な音質が得られ、またPCや車載機器等のハイパフォーマンスCPUによるシステムではオリジナルのファイルでは(基本層と拡張層のフルデコードにより)原音と完全一致する高音質を再生することが可能である。本発明の実施の形態においては、このハイパフォーマンスなCPUによるシステム上でのフルデコードと、基本層のみのデコードを併用した場合に可能となるものである。
【0042】
従来においては、システム内の記録媒体(あるいは記憶媒体)の残量が少なくなってきた場合は、選択した楽曲を完全消去する以外に空き容量を復活させる方法は存在しなかったため、一度消去した楽曲の再生は不可能であった。これに対し、本発明の実施の形態における拡張層のみの消去という方法によれば、完全消去に近い容量復元効果を持ちながらも、その消去後も最低限の音質劣化のみで消去対象の楽曲を依然として再生できることが可能である。
【0043】
上述したように、拡張層を消去することにより記録容量(あるいは記憶容量)を復活できるが、以下、記録媒体(あるいは記憶媒体)の残量が少なくなってきた場合に、ユーザに対して消去の時期や方法を確認する技術、また、記録再生装置側で自動的に消去を行う技術について説明する。
【0044】
例えば、ユーザが記憶媒体の空き容量を監視し、それが少なくなって来た場合はユーザが拡張層を消去する楽曲を選び、その楽曲についてユーザが消去を行うことが挙げられる。また、他の例として、記録再生装置にて記録媒体の容量復活の機能をユーザに提供し、ユーザがその機能を動作させることによって、記録再生装置のソフトウェアが自動的に拡張層の消去を行うことが挙げられる。
【0045】
消去する楽曲の選択については様々な方法があり、ディレクトリ構造に従って順番に消去していく等、機械的な方法も考えられるが、実用的な例として、各楽曲をその記録再生装置での再生頻度に応じて並び替え、頻度が少ない曲から順に候補としたり、各楽曲が記録媒体内にて占めるサイズにて並び替え、サイズの大きなものから順に候補としたり、最近にアクセスした(最後に記録又は再生した)日時に応じて並び替え、アクセス日時の古いものから順に候補とすること等が挙げられ、またこれらを組み合わせてもよい。候補とされた曲の拡張層を消去することで容量の復活を図ることができるが、消去の際には、消去の候補とされた楽曲の拡張層を消去する旨の警告(アラート)を出して、ユーザの確認を待って消去を行うようにしてもよい。
【0046】
また、記録再生装置内のソフトウェアにより定期的に拡張層を消去するタスクを動作させ、自動的に消去を行うようにすることが考えられる。消去する楽曲の選定は、上述の例と同様に、再生頻度の少ないものからの順や、サイズの大きなものからの順、あるいは最近のアクセス日時の古いものからの順に候補として、拡張層を消去することで効率的な容量の復活を図ることができる。なお消去の際には、上述と同様に消去の候補とされた楽曲の拡張層を消去する旨の警告を出してもよい。
【0047】
次に、消去候補楽曲を再生頻度に応じて選択する場合の具体例を、図6を参照しながら説明する。この図6に示す一連の処理は、例えば図1の制御部109のCPUのシステムソフトウェアにより実行される。
【0048】
図6において、ステップS31の媒体残量監視ルーチンは、記録媒体の記録可能な空き容量である残量を監視し、ステップS32において、この残量が所定の閾値より多いか否かを判別する。ステップS32でYes(残量が閾値より多い)と判別されたときには、ステップS31に戻り、媒体残量監視ルーチンを続行する。ステップS32でNo(残量が閾値以下)と判別されたときには、ステップS33に進んで、残量復元を行うか否かを判別する。これは具体的には、例えばユーザにアラート(警告)表示して、ユーザの確認を待つようにすればよい。ステップS32でNo(残量復元しない)と判別されたときには、ステップS31に戻る。
【0049】
ステップS32でYes(残量復元を行う)と判別されたときには、ステップS34に進み、楽曲リストについて、再生回数をキーとした並び替えを行う。これは、記録媒体内の各楽曲について再生回数を読み出し、その数の最も小さいものから大きいものへの昇順リストを作成するような処理である。次のステップS35では、上述のように並び替えた結果の昇順リストにおける最小回数の楽曲から例えば所定の数N(固定値)の楽曲を消去候補として選択する。
【0050】
次のステップS36で消去曲数カウント用の変数nを初期化(n=1)した後、ステップS37に進み、n番目の消去候補(楽曲)について拡張層を消去するかの判別を行う。具体的には、n番目の消去候補の楽曲名(タイトル)等をユーザに提示して、消去するか否かをユーザに選択させるような処理が考えられる。これにより、消去後の再生品質劣化についてユーザの違和感を最小限に抑えながら効率的に拡張層の消去を行うことが可能である。
【0051】
ステップS37でNo(拡張層を消去しない)と判別されたときには、ステップS38に進んで、変数nが上記所定の数Nより小さいか否かを判別し、小さいときはステップS39で変数nをインクリメント(n=n+1)して、ステップS37に戻る。
【0052】
ステップS37でYes(拡張層を消去する)と判別されたときには、ステップS40に進んで、n番目の消去候補(楽曲)の拡張層を消去する処理を行った後、上記ステップS38に進む。
【0053】
ここで、ATRAC Advanced Lossless(商標)の場合の拡張層の消去について説明する。図4に示したようなファイルフォーマットのストリームヘッダに記録されている所定の情報(ATRAC configuration)から、基本層のデータサイズ(各フレームにて固定値)を取得する。その後各フレーム先頭にあるフレームヘッダからフレームデータサイズ(各フレームにて変動)を取得し、そこから先に求めてある基本層のデータサイズを減じることにより、拡張層のデータサイズを算出し、そのサイズ分を削除する。これをフレーム数分繰り返すことにより拡張層を消去し、ATRAC(商標)のみによる基本層の楽曲ストリームが生成可能である。なお、この消去処理は、例えば図1の制御部109により、管理情報処理部108からの管理情報に基づき記録部103を制御して記録媒体104のデータを消去するわけであるが、実際には、記録媒体104のTOC(Table Of Contents)やFAT(Fale Allocation Table)等や、データストリームのヘッダ情報等のような管理情報を書き換えることにより行われる場合が一般的である。
【0054】
上述したような本発明の実施の形態によれば、ロスレス符号化によるオーディオ信号記録再生装置において、楽曲を完全に消去することなく、再生可能な状態を保ちつつ記録媒体の空き容量を大幅に復活させることが可能となる。
【0055】
なお、本発明は上述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態となる信号記録再生装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1の実施の形態におけるエンコーダ102の符号化の方式の例を説明するためのブロック図である。
【図3】図1の実施の形態のエンコーダ102の具体例となるオーディオ信号符号化装置の概略構成を示すブロック図である。
【図4】記録媒体に記録されるストリームデータのフォーマットを示す図である。
【図5】図1の実施の形態のデコーダ106の具体例となるオーディオ信号復号装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態における拡張層消去の動作の具体例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0057】
12 基本層エンコード部、 13、13,23 基本層確定的デコード部、 14 減算器、 15 拡張層エンコード部、 16 ビットストリームマルチプレクサ、 22 ビットストリームデマルチプレクサ、 24 拡張層デコーダ、 25 加算器、 102 エンコーダ、 103 記録部、 104 記録媒体、 105 再生部、 106 デコーダ、 管理情報処理部、 109 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を符号化して、第1の符号化データと、第1の符号化データを復号して得られる信号より高品質の信号を復号するための第2の符号化データとを生成するエンコーダと、
上記エンコーダからの第1の符号化データ及び第2の符号化データを含む記録データを記録媒体に記録する記録手段と、
上記記録媒体から上記記録データを再生する再生手段と、
上記再生手段からの記録データ内の少なくとも上記第1の符号化データを復号するデコーダと、
各部の動作を制御する制御手段とを有し、
上記制御手段は、上記記録媒体の空き容量を増加させる指令に応じて、上記第2の符号化データを消去するように上記記録手段を制御する
ことを特徴とする信号記録再生装置。
【請求項2】
上記第1の符号化データは非可逆符号化データであり、上記第2の符号化データは可逆符号化データであることを特徴とする請求項1記載の信号記録再生装置。
【請求項3】
上記第2の符号化データは、上記入力信号から上記第1の符号化データを復号した信号を減算した信号を可逆符号化したデータであることを特徴とする請求項2記載の信号記録再生装置。
【請求項4】
上記入力信号はオーディオ信号であり、
上記エンコーダは、
上記入力オーディオ信号を複数の周波数帯域に帯域分割し、各周波数帯域の入力オーディオ信号を時間−周波数変換してスペクトル信号とした後、不可逆符号化して上記第1の符号化データを生成する第1の符号化手段と、
上記第1の符号化データのうち、所定の周波数帯域のスペクトル信号のみを復号して復号信号を生成する復号手段と、
上記入力オーディオ信号から上記復号信号を減算し、残差信号を生成する減算手段と、
上記残差信号を可逆符号化して上記第2の符号化データを生成する第2の符号化手段とを有する
ことを特徴とする請求項1記載の信号記録再生装置。
【請求項5】
上記入力オーディオ信号の楽曲毎に、上記第1の符号化データ及び上記第2の符号化データを含む記録データのファイルが構成され、
上記制御手段は、上記記録媒体に複数のファイルが記録されているとき、複数のファイルの内の予め選択された候補ファイルの上記第2の符号化データを消去するように制御することを特徴とする請求項4記載の信号記録再生装置。
【請求項6】
上記候補ファイルは、過去の再生頻度に応じて、再生頻度の少ないものから順に選択されることを特徴とする請求項5記載の信号記録再生装置。
【請求項7】
上記候補ファイルは、記録媒体上で占めるファイルサイズの大きなものから順に選択されることを特徴とする請求項5記載の信号記録再生装置。
【請求項8】
上記候補ファイルは、最近にアクセスした日時の古いものから順に選択されることを特徴とする請求項5記載の信号記録再生装置。
【請求項9】
入力信号を符号化して、第1の符号化データと、第1の符号化データを復号して得られる信号より高品質の信号を復号するための第2の符号化データとを有する記録データを記録媒体に記録し、上記記録媒体から少なくとも上記第1の符号化データを再生する信号記録再生方法であって、
上記記録媒体の空き容量を増加させる指令に応じて、上記第2の符号化データを消去することを特徴とする信号記録再生方法。
【請求項10】
上記第1の符号化データは、非可逆符号化データであり、上記第2の符号化データは、上記入力信号から上記第1の符号化データを復号した信号を減算した信号を可逆符号化したデータであることを特徴とする請求項9記載の信号記録再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−86239(P2009−86239A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−255206(P2007−255206)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】