説明

修飾シクロデキストリン及び修飾シクロデキストリンから成るナノサイズ微粒子

【課題】 新規化合物アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリン、イミダゾールカルバモイル-シクロデキストリン、ポリエチレングリコール-アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリン及びこれを用いた機能性微粒子を提供する。
【解決手段】
一般式
【化5】


(式中、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数である。)で表わされるシクロデキストリン誘導体及びこれを用いた機能性微粒子。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリン、イミダソールカルバモイル-シクロデキストリン、修飾シクロデキストリン、その製造方法及び修飾シクロデキストリンから成るナノサイズ微粒子に関する。シクロデキストリンは、用途が広く、医薬材料、医薬品、バイオ産業、ナノテクノロジー、化学分析、健康補助食品、塗料、カラム担体、薬物送達担体、細胞分離、化学成分の分離、汚染物質の分離、遺伝子導入担体、酵素阻害剤、トランスポーター活性剤、トランスポーター阻害剤、体内機能調整剤等に幅広く用いられている。
【背景技術】
【0002】
従来、シクロデキストリンをジイソシアネートで架橋して、基質取り込み能力を高めた、架橋シクロデキストリン高分子が知られている(特許文献1)。
また、シクロデキストリンが有する包接能を維持しながら、水不溶性にするため、シクロデキストリン又はその誘導体をアミノ化して水酸基の一部又は全部をアミノ基に変換してアミノ化されたシクロデキストリン又はその誘導体と、アミノ基及びカルボキシル基を同一分子内に有する支持材とを反応させることによってシクロデキストリン又はその誘導体を水不溶性にする方法が記載されている(特許文献2)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−195108号公報
【特許文献2】特開2003−64103号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のシクロデキストリン(CD)含有微粒子では、微粒子中に存在する官能基は水酸基のみであり、その他の機能を付与することは困難であった。
シクロデキストリンは、分子中に多数の水酸基(a:18個、b:21個、g:24個)を有するため、現在その水酸基を修飾する技術は急速に発展している。そこで、それら技術を応用し、CD包接錯体形成能とその他の機能を同時に有する新たな微粒子を設計できる。また、表面にアミノ基を有する微粒子は、その官能基を介し利用者のニーズによって様々な機能を付与することができる。
これまでのシクロデキストリン含有微粒子の粒子系は11~35 mmであり、ナノテクノロジーへの応用は困難であるが、本発明ではナノスケールの微粒子を調製できる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために新規化合物アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリン、イミダゾールカルバモイル-シクロデキストリンを用いて、シクロデキストリン誘導体、その製造方法及びシクロデキストリン誘導体を応用し機能性微粒子を調製する。

すなわち、本発明は、
一般式
【化11】

(式中、Rは、式
【化12】

で表わされるアミノアルキルカルバモイルであり、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。lは、2〜10の整数である。)で表わされるアミノアルキルカルバモイルシクロデキストリンである。
また、本発明は
一般式
【化13】

(式中、Rは、式
【化14】

で表わされるイミダゾールカルバモイル基であり、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数である。)で表わされるイミダゾールカルバモイル−シクロデキストリンである。
さらに本発明は、一般式
【化15】

(式中、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数であり、lは2〜10の整数である。。)で表わされるシクロデキストリン誘導体である。
また、本発明は、一般式
【化16】

(式中、mは、2〜10の整数である。)で表わされるエチレングリコールジグリシジルエーテル化合物と一般式
【化17】

(式中、Rは、式
【化18】

で表わされるアミノアルキルカルバモイルであり、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数であり、lは、2〜10の整数である。)で表わされるアミノアルキルカルバモイルシクロデキストリンを反応させることによる
一般式
【化19】

(式中、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数である。)で表わされるシクロデキストリン誘導体の製造方法である。
さらに、本発明は、一般式
【化20】

(式中、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数である。)で表わされるシクロデキストリン誘導体からなるナノサイズ微粒子である。
【発明の効果】
【0006】
本発明のβ-シクロデキストリン誘導体は、製造するのに際して、アミノ基をエポキシ基との反応なので、従来の調製法(1 MのNaOH)よりも温和な条件で、微粒子の調製が行える。
また、従来の微粒子の径は11〜35 mmであるのに対し、本発明のβ-シクロデキストリン誘導体からなるナノサイズ微粒子(EGDGE/AEC-b-CD微粒子)は660 ± 120 nmであり小さい。
本発明のβ-シクロデキストリン誘導体は、表面にアミノ基があるため包接の効果のみではなく、イオン効果やアミノ基を介した任意のリガンド導入も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いるエチレングリコールジグリシジルエーテル化合物は、一般式
【化21】

(式中、mは、2〜10の整数である。)で表わされるエチレングリコールジグリシジルエーテル化合物であり、メチレン基は2〜10程度が好ましく用いられる。
また、本発明で用いるシクロデキストリン誘導体は一般式
【化22】

表されるアミノアルキルカルバモイル-シクロデキストリンである。式中、Rは、式
【化23】

で示される基である(lは2〜10の整数である)。
グルコース単位総数(x)は6、7または8の整数である。これらは特にアミノアルキルカルバモイル−α−シクロデキストリン、アミノアルキルカルバモイル−β−シクロデキストリンおよびアミノアルキルカルバモイル−γ−シクロデキストリンと呼ばれる。Rのうち、いくつかは水素原子であり、いくつかはアミノアルキルカルバモイル基で置換されている。
【0008】
本発明では、エチレングリコールジグリシジルエーテル化合物とアミノアルキルカルバモイル−シクロデキストリンは、溶剤中で、40℃〜60℃で加熱して、界面付加重合させることによりシクロデキストリン誘導体を得ることが出来る。
溶剤や界面活性剤としては種々のものを用いることが出来、また、重合触媒の存在下で行うことも出来る。
以下、実施例を挙げて説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0009】
( アミノエチルカルバモイル-b-シクロデキストリン(AEC-b-CD)の合成)
合成ルートを図1に示す。
x=7であるb-シクロデキストリン(b-CD)3.0 g (2.6 mmol)を30mLのDMFに溶解し、そこに1,1’-カルボニルジイミダゾール(CDI)を3.0g (1.82 mmol)を加え室温で3時間反応した。反応溶液をアセトンにて再沈殿し、真空乾燥によりCDI活性化b-CD(CDI-b-CD)2.7 gを得た。x=2であるエチレンジアミン 6.0g (100 mmol)をDMF溶液20mLに溶解し、そこに10分かけてCDI-b-CD2.7 gのDMF溶液10 mLを滴下した。12時間の反応の後、反応液をアセトンにて再沈殿し、真空乾燥によりAEC-b-CD2.5 gを得た(scheme 1)。b-CD中のAEC基は1H-NMRにより決定した。なお、得られたAEC-b-CDのAEC基の導入数は4であった。

1H-NMR (D2O, ppm), 4.9 (C(1)H: b-CD),3.9-3.6 (O(6)H: b-CD),3.5-3.3 (C(3)H, C(5)H, C(6)H, C(4)H and C(2)H: b-CD), 3.2-3.1 (CH2: AECgroups), 2.7-2.5 (CH2: AEC groups)。
( EGDGE とAEC-b-CDからなる微粒子の調製)
調製ルートを図2に示す(微粒子の構造はその1例である)。
微粒子の調製は、m=2であるエチレングリコールジグリシジルエーテル (EGDGE)と上記で合成したAEC-b-CD間の界面付加重合により行った。EGDGE0.24 g (1.35 mmol)をトルエン 2mLに溶解した。1.25gの油層界面活性剤MO-3S(阪本薬品工業株式会社,HLB: 8.8)をシクロヘキサン 25mLに溶解した。AEC-b-CD0.25 g (0.17 mmol)を1.25mLの蒸留脱イオン水(DDI)に溶解した。EGDGE溶液を界面活性剤溶液に混合した。そこに、AEC-b-CD溶液を加え超音波を3分間照射した。その後、ウォーターバスにて反応溶液を50 ℃で4時間反応を行った。反応後、微粒子は遠心分離により回収し、メタノールおよび水により洗浄し、次の実験に用いた。得られたEGDGE/AEC-b-CD微粒子のb-CDの含有率は74.7 ± 0.9 %であり、数平均直径は660 ±120 nmであった(図3)。なお微粒子中のb-CDはアントロン硫酸法により求めた。
【数1】

ゼータ電位測定(ZEECOM,MICROTEC, CO., Ltd.)を行ったところ微粒子はプラスの電荷を持っていたため、微粒子中にはAEC-b-CDの未反応のアミノ基が残存していることが示唆された。
【表1】




【0010】
( 微粒子中のb-CDの包接錯体形成能の確認)
微粒子の1-アニリノナフタレン-8-スルホン酸(ANS)溶液の蛍光測定はMicroplate Fluorescence Reader (CytoFluorTMII, BIOSEARCH)で行った。励起波長360nm時の蛍光波長460nmを測定した。
その結果、EGDGE/AEC-b-CD微粒子は、通常の約60倍の蛍光強度を示した(図2の0 M)。この高い蛍光強度は、EGDGE/AEC-b-CD微粒子中のb-CDとANSとの包接錯体が形成されているためだと考えられた。そこで、この溶液中にANS包接の競争的な阻害剤である1-adamantane carboxylic acid (ADM)を加え包接阻害実験を行った。その結果、ADMの濃度が増加すると蛍光強度が減少した。これは、EGDGE/AEC-b-CD微粒子のb-CDの空洞部に位置しているANSとADMとの交換反応が起り、ANSが溶液中に放出されるため、蛍光強度が減少すると考えられる。以上のことより、EGDGE/AEC-b-CD微粒子は包接の機能を有することが示された。
さらに、ANSとb-CDが1:1で包接錯体を形成すると仮定すると次の(式1)、ANSとCDの会合定数KはBenesi-Hildebrand式(式2)から求めることができる。
【数2】

【数3】

ここで[ANS-CD]は平衡時の包接錯体の濃度、[CD]0は遊離CDの初期濃度、[ANS]0は遊離ANSの初期濃度である、また[CD]0は[ANS]0より高いと仮定した。蛍光強度比(DF)は[ANS-CD]に比例するため、次の式3と表すことができる。
【数4】

ここでAはCDの種類に依存する比例定数である。
式2と式3より次の式4が導かれる。
【数5】

Kは図3の直線の式の傾きと切片より求められた。
その結果、AEC-b-CDの会合定数は242 ± 44 M-1であり、b-CDの会合定数(81 ± 13 M-1)よりも約3倍高かった。これは、b-CDにヒドロキシプロピル基やメチル基を修飾すると会合定数が増加する報告と一致した(Wagner, B. D.; MacDonald, P. J. J. Photochem. Photobiol. A: Chem. 1998, 114, 151-157)。従ってAEC基を修飾することにより、CD空洞部の疎水性の増加やANSのSO3-とAEC基のNH3+との静電的な相互作用の効果により会合定数が増加したと考えられる。さらに微粒子中のb-CDの会合定数は460 ± 50 M-1であり、AEC-b-CDの会合定数よりも約1.9倍高かった。これは高分子になることにより、CDの空洞部の疎水性が増加したことによるものと考えられる。
【0011】
( 芳香族化合物の種類による取り込みの違い)
芳香族化合物(イミダゾール、ローダミンB、ANSおよびコンゴーレッド)
2 mMと微粒子0~50 mMをエッペンドルフチューブ中で30秒混合させ、微粒子を遠心分離により沈殿させた後の上澄み液の化合物の濃度をUV測定(V-550, JASCO, Japan)により求めた。
なお、芳香族化合物(イミダゾール(210nm)、ローダミン B(500 nm)、ANS(400 nm)およびコンゴーレッド(490nm))の濃度は検量線より決定した。
その結果、イミダゾールでは殆ど取り込まなかったが、コンゴーレッドは非常によく取り込んだ(図4、図5)。また、ANSの取り込みの安定性はコンゴーレッドよりも低かったが、ローダミン Bよりは高かった(図5)。以上より、EGDGE/AEC-b-CD微粒子の芳香族化合物の取り込み能力は疎水性の他に、分子の形に影響を受けることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明の新規化合物アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリン、イミダゾールカルバモイル−シクロデキストリンは、種々のシクロデキストリン誘導体を作ることが出来る上、ポリエチレングリコール-アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリンは、機能性微粒子を作成することができ、医薬材料、医薬品、バイオ産業、ナノテクノロジー、化学分析、健康補助食品、塗料、カラム担体、薬物送達担体、細胞分離、化学成分の分離、汚染物質の分離、遺伝子導入担体、酵素阻害剤、トランスポーター活性剤、トランスポーター阻害剤、体内機能調整剤等に幅広く用いることができる。

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】イミダゾールカルバモイル−シクロデキストリン、アミノエチルカルバモイルシクロデキストリンの合成プロセス。
【図2】ポリエチレングリコール-アミノエチルカルバモイルシクロデキストリンの合成プロセス。
【図3】EGDGE/AEC-b-CD微粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真。
【図4】EGDGE/AEC-b-CD微粒子の包接錯体形成能の確認。
【図5】b-CDの濃度と蛍光強度比の両逆数プロット。(○) AEC-b-CD; (●) EGDGE/AEC-b-CD particle; (□) b-CD。
【図6】EGDGE/AEC-b-CD微粒子によるコンゴーレッドの取り込み。
【図7】EGDGE/AEC-b-CD微粒子による種々の芳香族化合物の取り込み。(○) Congo Red;(□) ANS; (●) Rhodamine B; (■) imidazole。およびその化学構造。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

(式中、Rは、式
【化2】

で表わされる。a、b、cは整数でありx=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数であり、lは、2〜10の整数である。)で表わされるアミノアルキルモイルシクロデキストリン。

【請求項2】
一般式
【化3】

(式中、Rは、式
【化4】

で表わされる)イミダゾールカルバモイル−シクロデキストリン。

【請求項3】
一般式
【化5】

(式中、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数である。lは2〜10の整数である。)で表わされるシクロデキストリン誘導体。
【請求項4】
一般式
【化6】

(式中、mは、2〜10の整数である。)で表わされるエチレングリコールジグリシジルエーテル化合物と一般式
【化7】

(式中、Rは、式
【化8】

で表わされ、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。lは、2〜10の整数である。)で表わされるアミノアルキルカルバモイルシクロデキストリンを反応させることによる
一般式
【化9】

(式中、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数である。lは2〜10の整数である。)で表わされるポリエチレングリコール-アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリン共重合体。
【請求項5】
一般式
【化10】

(式中、a、b、cは整数であり、x=6、7、8の何れかの整数である。mは、2〜10の整数である。lは2〜10の整数である。)で表わされるポリエチレングリコール-アミノアルキルカルバモイルシクロデキストリン共重合体からなるナノサイズ微粒子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−104423(P2006−104423A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297009(P2004−297009)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度文部科学省「産総研ナノバイオ分野人材養成ユニット」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】