説明

倒立振子型移動体

【課題】搭乗者による操縦不能状態となった場合に倒立振子型移動体の暴走を防ぐことができる倒立振子型移動体を提供する。
【解決手段】搭乗者が搭乗する搭乗部を有する車体と、車体に回転可能に支持された回転体と、回転体を回転駆動させる回転体駆動手段と、走行指令に従ってバランスを保ちながら倒立振子型移動体を走行させるために回転体駆動手段の制御を行う制御装置と、を備えた倒立振子型移動体において、搭乗者による操縦不能状態を検知するための操縦不能検知手段を備えるとともに、制御装置は、操縦不能検知手段によって検出される情報に基づいて操縦不能状態が検知されたときに倒立振子型移動体の走行を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行指令に従ってバランスを保ちながら走行制御が行われる倒立振子型移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、転倒しやすい不安定車両を、バランスを保ちながら安定して走行するように構成した倒立振子型移動体が知られている。このような倒立振子型移動体の一態様としては、例えば、同一軸線上に配置された一対の車輪を備えた同軸二輪車がある。この同軸二輪車は、搭乗者によって操作される操縦桿による走行指令や搭乗者による体重移動に基づいて一対の車輪を回転駆動させる電動モータの出力を制御して、車体のバランスを保ちながら走行するものである。
【0003】
このような同軸二輪車では、操縦桿による走行指令や搭乗者の体重移動に基づいて生成される前進又は後進のための走行目標値に追従する並進運動制御と、不安定車両が転倒しないようにフィードバック制御あるいはロバスト制御が行われる倒立制御との重ね合わせによって走行制御が実行されるようになっている。(例えば、特許文献1及び2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−305082号公報
【特許文献2】特開2004−295430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような倒立振子型移動体には、制御可能な倒立可能角度領域が存在する。この倒立可能角度領域とは、例えば、水平面に対する車体の傾きが±10度の範囲とされている。そのために、搭乗者が何らかの要因によって無謀な操作を行ったり、あるいは、人や障害物との衝突や、起伏の激しい路面から倒立振子型移動体に何らかの外乱が与えられたりして、倒立振子型移動体の傾斜角が倒立可能角度領域を超えた場合には、倒立振子型移動体の倒立制御が困難になって搭乗者が転落したり倒立振子型移動体が転倒したりして、搭乗者による操縦が不可能な状態となるおそれがある。
【0006】
そのような場合、メインスイッチあるいはキルスイッチを操作して倒立振子型移動体の電源を切断することが困難な場合が多く、搭乗者が転落した状態で、あるいは、倒立振子型移動体が転倒した状態で、倒立振子型移動体の走行制御が継続されるおそれが高い。その結果、搭乗者による操縦が不可能であるにもかかわらず倒立振子型移動体が予期しない走行状態となってしまい、搭乗者や周囲の歩行者、あるいは周囲に存在する物等に対して危害や損傷を与えるおそれがある。
【0007】
そこで、本発明の発明者らはこのような問題に鑑みて、搭乗者による操縦不能状態が検知されたときに倒立振子型移動体の走行を強制的に停止させるように構成することでこのような問題を解決することができることを見出し、本発明を完成させたものである。
したがって、本発明は、搭乗者による操縦不能状態となった場合に倒立振子型移動体の暴走を防ぐことができる倒立振子型移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、搭乗者が搭乗する搭乗部を有する車体と、車体に回転可能に支持された回転体と、回転体を回転駆動させる回転体駆動手段と、走行指令に従ってバランスを保ちながら倒立振子型移動体を走行させるために回転体駆動手段の制御を行う制御装置と、を備えた倒立振子型移動体において、搭乗者による操縦不能状態を検知するための操縦不能検知手段を備えるとともに、制御装置は、操縦不能検知手段によって検出される情報に基づいて操縦不能状態が検知されたときに倒立振子型移動体の走行を停止させることを特徴とする倒立振子型移動体が提供され、上述した問題を解決することができる。
【0009】
すなわち、本発明の倒立振子型移動体は、搭乗者による操縦不能状態を検知して倒立振子型移動体の走行を強制的に停止させるように構成されている。したがって、搭乗者による操縦が不可能な状態になった時に倒立振子型移動体が暴走することがなくなり、搭乗者や周囲の歩行者、あるいは周囲に存在する物等に対して危害や損害を与えるおそれを低減することができる。
【0010】
また、本発明の倒立振子型移動体を構成するにあたり、操縦不能検知手段が、搭乗部上に搭乗者が搭乗しているか否かを検知するための手段を用いて搭乗者の転落を検知することが好ましい。
【0011】
本発明において、操縦不能検知手段が、搭乗部上に搭乗者が搭乗しているか否かを検知するための手段により構成されていることにより、搭乗者の転落による操縦不能状態を正確に検知することができる。
【0012】
また、本発明の倒立振子型移動体を構成するにあたり、操縦不能検知手段が、回転体駆動手段に指示される目標回転数と、回転体の回転数と、を比較する演算により搭乗者の転落を検知することが好ましい。
【0013】
本発明において、操縦不能検知手段が、回転体の目標回転数と、実際の回転数とを比較する演算を行う手段であることにより、特別なセンサ等を用いることなく、搭乗者の転落による操縦不能状態を推定することができる。
【0014】
また、本発明の倒立振子型移動体を構成するにあたり、操縦不能検知手段が、車体の傾斜角度を検出する手段を用いて倒立振子型移動体の転倒を検知することが好ましい。
【0015】
本発明において、操縦不能検知手段が、移動体の転倒を検出する手段であることにより、移動体の転倒により搭乗者による操縦不能状態となったことを確実に検出することができる。
【0016】
また、本発明の倒立振子型移動体を構成するにあたり、制御装置は、回転体駆動手段の出力をゼロにすることで倒立振子型移動体の走行を停止させることが好ましい。
【0017】
本発明において、制御装置が回転体駆動手段の出力をゼロにすることで強制停止させるにより、倒立振子型移動体を可及的速やかに停止させることができ、走行方向に存在する人や障害物等への危害や損害を回避させやすくなる。
【0018】
また、本発明の倒立振子型移動体を構成するにあたり、制御装置は、回転体駆動手段の出力を徐々に減少させて当該出力をゼロにすることが好ましい。
【0019】
本発明において、制御装置が回転体駆動手段の出力を徐々に減少させてゼロにすることで強制停止させることにより、倒立振子型移動体のバランスを保ちながら倒立振子型移動体を可及的速やかに停止させることができ、倒立振子型移動体の転倒による危害や損害を低減することができる。
【0020】
また、本発明の倒立振子型移動体を構成するにあたり、制御装置は、主電源を遮断することにより倒立振子型移動体の走行を停止させることが好ましい。
【0021】
本発明において、制御装置が主電源を遮断することで強制停止させることにより、倒立振子型移動体の転倒時の暴走を確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態にかかる倒立振子型移動体の正面図及び側面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる倒立振子型移動体に備えられた操縦不能検知手段の構成例について説明するための図である。
【図3】本発明の実施の形態にかかる倒立振子型移動体の制御回路図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる倒立振子型移動体の制御方法の対策テーブル図である。
【図5】本発明の実施の形態にかかる倒立振子型移動体の制御方法の一例を示すフローチャート図である。
【図6】倒立振子型移動体の走行制御の一例を示すフローチャート図である。
【図7】強制停止制御の一例を示すフローチャート図である。
【図8】別の操縦不能検知手段の構成例について説明するための図である。
【図9】さらに別の操縦不能検知手段の構成例について説明するための図である。
【図10】演算処理によって転落の有無を推定する方法の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、適宜図面を参照して、本発明にかかる倒立振子型移動体に関する実施の形態について具体的に説明する。ただし、以下の実施の形態は、本発明の一態様を示すものであって本発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することが可能である。
なお、それぞれの図中、同じ符号を付してあるものについては同一の部材が示され、適宜説明が省略されている。
【0024】
1.倒立振子型移動体の構成
図1(a)は本実施形態の移動体10の正面図を示し、図1(b)は移動体10の側面図を示している。また、図2は本実施形態の移動体10に備えられた第1の操縦不能検知手段60の構成例を示す図である。さらに、図3は本実施形態の移動体10の制御回路図を示している。
【0025】
この移動体10は、搭乗者が搭乗する搭乗部19を有する車体11と、回転体としての左右一対の車輪13L,13Rと、ハンドル15とを備えた同軸二輪車として構成されたものである。一対の車輪13L,13Rは、移動体10の前後方向に対して直交する左右方向の両側において同一軸線上に配置されるとともに、車体11に対して回転可能に支持されている。また、一対の車輪13L,13Rは、モータボックス17内に収容された回転体駆動手段としての左輪駆動モータ31、右輪駆動モータ32に接続されている。
【0026】
また、移動体10は、搭乗者による移動体10の走行指令を生成するために用いられる走行指令検出手段を備えている。本実施形態の移動体10では、ハンドル15の傾斜角度θを検出する傾斜角度センサ25が走行指令検出手段として用いられており、制御装置50では、この傾斜角度θの変化に基づいて搭乗者の走行意思を判断して移動体10の走行制御を実行するようになっている。後述するように、本実施形態の移動体10では、この傾斜角度センサ25は第2の操縦不能検知手段70としての機能も有している。
【0027】
この傾斜角度センサ25は、搭乗部19の傾斜角度を検出する傾斜角度センサに置き換えてもよいし、傾斜角度センサの代わりにジャイロセンサを用いて構成することもできる。あるいは、搭乗者の重心位置を検出するセンサを用いて構成することもできる。さらに、走行指令を検出する機能に限って言えば、搭乗者によって操作される操縦桿を走行指令検出手段として用いて、操縦桿の操作信号に基づいて移動体10の走行制御を行うようにすることもできる。
【0028】
また、移動体10には搭乗者による操縦不能状態を検知するための操縦不能検知手段として、第1の操縦不能検知手段60と第2の操縦不能検知手段70とが備えられている。このうち第1の操縦不能検知手段60は、搭乗部19上における搭乗者の有無を検知する手段であって、主として移動体10自体は転倒していない場合における搭乗者による操縦不能状態を検知するために用いられる。また、第2の操縦不能検知手段70は、主として、移動体10の転倒を検知することで搭乗者による操縦不能状態を検知するために用いられる。
【0029】
本実施形態の移動体10において、第1の操縦不能検知手段60は、図2に示すように、コネクタピン61a,61bと、ソケット62a,62bと、ピンコード63と、連結手段65とによって構成されている。この第1の操縦不能検知手段60は、搭乗者が搭乗時に自らの体に連結手段65を繋いだ状態で用いられるものであり、二つのコネクタピン61a,61bがそれぞれソケット62a,62bに挿入されている間は通電状態となる一方、二つのコネクタピン61a,61bの少なくとも一方がソケット62a,62bから抜け落ちたときに通電が遮断されるようになっている。したがって、制御装置50では、通電状態又は非通電状態を区別することで、搭乗者の転落を検出することができる。
【0030】
また、第2の操縦不能検知手段70は、走行指令検出手段としての機能も有する傾斜角度センサ25によって構成されている。制御装置50では、この傾斜角度センサ25によって検出されるハンドル15の傾斜角度θが倒立可能角度領域外にあるか否かを判別することで、移動体10の転倒を推定することができる。
【0031】
制御装置50は、例えば、マイクロコンピュータ(CPU)を有する演算回路51と、プログラムメモリやデータメモリその他のRAMやROMを有する記憶手段53等を備えて構成されている。この制御装置50は、第1の操縦不能検知手段60からの検出信号と、走行指令検出手段及び第2の操縦不能検知手段70としての傾斜角度センサ25からの検出信号とを受信可能になっている。また、制御装置50には、左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32をそれぞれ駆動するモータ駆動回路41,42と、搭乗部19の傾斜角度を調節するためのシリンダA35、シリンダB36、シリンダC37・・・をそれぞれ駆動するシリンダ駆動回路45,46,47・・・とが接続されている。
【0032】
モータ駆動回路41,42は、一対の車輪13L,13Rの回転数や回転方向等を個別に制御するものであり、左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32が個別に接続されている。シリンダ駆動回路45,46,47・・・は、シリンダA35、シリンダB36、シリンダC37・・・の伸縮を個別に制御するものであり、シリンダA35、シリンダB36、シリンダC37・・・が個別に接続されている。
【0033】
2.倒立振子型移動体の制御方法
次に、制御装置50によって行われる本実施形態の倒立振子型移動体10の制御方法について、図4の対策テーブル図と、図5〜図7のフローチャート図とに基づいて説明する。
【0034】
まず、図4に基づいて、第1の操縦不能検知手段60及び第2の操縦不能検知手段70の検出結果に応じて、制御装置50が取るべき対策(制御)について説明する。
図4は、本実施形態の移動体10において、第1の操縦不能検知手段60及び第2の操縦不能検知手段70の検出結果と、それぞれの検出結果に応じて取るべき対策(制御)とを示すテーブル図である。
【0035】
制御装置50は、第1の操縦不能検知手段60を構成するコネクタピン61a,61bがソケット62a,62bに挿入されているとき(=PIN:ON)には、搭乗者が搭乗中であると認識する一方、コネクタピン61a,61bがソケット62a,62bからはずれているとき(=PIN:OFF)には、搭乗者が転落したと認識する。
また、制御装置50は、第2の操縦不能検知手段70としての傾斜角度センサ25によって検出される傾斜角度θが倒立可能角度領域内にあれば移動体10が倒立状態にあると認識する一方、傾斜角度θが倒立可能角度領域外であれば移動体10が転倒したと認識する。
【0036】
初期設定が完了し、搭乗者によってコネクタピン61a,61bがソケット62a,62bに挿入された時点では、移動体10は正常状態と認識される(CASE1)。
その後、搭乗者が搭乗し、走行制御が開始された後に、PIN:ON、かつ、傾斜角度θが倒立可能角度領域内にある限り、移動体10は正常状態と認識され(CASE1)、制御装置50は通常の走行制御を実行する。
【0037】
一方、走行制御が開始された後に、傾斜角度θが倒立可能角度領域外となった場合には、移動体10が転倒していると認識され(CASE3)、制御装置50は、搭乗者の有無、すなわち、PIN:ON又はPIN:OFFにかかわらず移動体10の主電源を強制的に遮断する。
【0038】
また、傾斜角度θが倒立可能角度領域内にある場合であっても、PIN:OFFとなった場合には移動体10が倒立したままで搭乗者が転落したものと認識され(CASE2)、制御装置50は、移動体10を減速させて強制的に停止させる。
【0039】
このように制御装置50によって実行される制御をフローチャート図に基づいて説明すると、まず、図5のステップS1において、制御装置50はシステムの初期設定を実施する。このステップS1は、具体的には、第1の操縦不能検知手段60のセット完了を確認したり、車体11が水平状態での傾斜角度センサ25の検出値をデフォルトに設定したりするステップである。例えば、移動体10の電源がオンにされると、制御装置50は、コネクタピン61a,61bがソケット62a,62bに挿入されて通電状態となっているかを判別する。また、搭乗者が搭乗する前に車体11が水平状態になっている状態で、搭乗者によって初期設定ボタンが押された後に、現在検出されている傾斜角度θを基準角度θ0に設定する。
【0040】
次いで、ステップS2において、制御装置50は、移動体10の並進走行制御及び倒立制御を開始する。例えば、制御装置50は、搭乗可能と判断されたことをきっかけとして並進走行制御及び倒立制御を開始する。また、このとき同時に、操作盤等に搭乗可能の表示をさせる信号を出力する。この後、搭乗者が車体11上に搭乗し、搭乗者によって移動体10の運転が開始される。
なお、並進走行制御及び倒立制御の開始のタイミングや、搭乗可能の表示をさせるタイミングについては、この例に限定されるものではない。例えば、上記のステップS1の完了時に搭乗可能の表示がされてもよく、また、搭乗者等によって制御開始ボタンが押されたことをきっかけとして並進走行制御及び倒立制御が開始されてもよい。
【0041】
次いで、ステップS3において、第2の操縦不能検知手段70としての傾斜角度センサ25によって検出される傾斜角度θが倒立可能角度領域内であるか否かを判別する。例えば、検出される傾斜角度θが基準角度θ0±10°の範囲内にあるか否かによって判定される。傾斜角度θが倒立可能角度領域外にあると判定された場合には、制御装置50は、移動体10が転倒しているものと判断し、移動体10の暴走を防ぐために、強制的に電源を遮断する。この場合、次に電源がオンにされたときに、再びステップS1の初期設定から開始する。
【0042】
一方、ステップS3において、傾斜角度θが倒立可能角度領域内にあると判定された場合には、次のステップS4において、制御装置50は、搭乗者が車体11上から転落していないかの判別を行う。本実施形態の移動体10の例において、このステップS4では、第1の操縦不能検知手段60の通電状態又は非通電状態によって搭乗者の有無の判定が行われる。第1の操縦不能検知手段60が通電状態である場合には搭乗者が車体11上にいると判断されるために、制御装置50はYesと判定し、ステップS5に進んで走行制御を実行する。
【0043】
図6は、走行制御の具体的なフローの一例を示している。この走行制御の例では、まず、ステップS11において、制御装置50は、走行指令検出手段としての傾斜角度センサ25の検出信号に基づいて走行指令値を検出する。走行指令検出手段として傾斜角度センサ25が用いられる本実施形態の移動体10においては、検出されるハンドル15の傾斜角度に基づく演算により移動体10の走行指令値を算出する。この走行指令値は、移動体10の旋回方向や加速度を含む値として求められる。
【0044】
走行指令値が求められた後、制御装置50は、ステップS12において、一対の車輪13L,13Rを駆動する左輪駆動モータ31、右輪駆動モータ32の目標出力を演算によって求める。例えば、あらかじめ制御装置50の記憶手段53に記憶されたマップ情報に基づいて目標出力を算出する。このとき、傾斜角度だけでなく、さらに単位時間当たりの傾斜角度の増減量(傾斜角速度)を考慮して、目標出力を算出するようにしてもよい。
【0045】
次いで、ステップS13において、ステップS12で求められた左輪駆動モータ31、右輪駆動モータ32の目標出力を、電流値を表す制御信号に変換して、モータ駆動回路41,42に対して出力する。その結果、一対の車輪13L,13Rがそれぞれ左輪駆動モータ31,右輪駆動モータ32によって回転駆動され、搭乗者の意思に基づく走行指令に応じた走行状態が実現される。モータ駆動回路41,42への出力を終えた後は、再びステップS3に戻る。
【0046】
一方、ステップS4において、第1の操縦不能検知手段60が非通電状態である場合には搭乗者が車体11上にいないと判断されるために、制御装置50はNoと判定し、ステップS6に進んで強制停止制御を実行する。
【0047】
図7は、強制停止制御の具体的なフローの一例を示している。この強制停止制御の例では、まず、ステップS21において、制御装置50は、左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32の目標出力をゼロに設定する。次いで、制御装置50は、ステップS22で求められた左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32の目標出力(=0)を、電流値を表す制御信号に変換して、モータ駆動回路41,42に対して出力する。その結果、一対の車輪13L,13Rの回転速度はゼロに向かい、移動体10は停止させられる。
【0048】
このとき、移動体10の強制停止に伴って車体11が転倒することを防止するために、左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32の目標出力を一度にゼロにするのではなく、徐々にゼロにするようにしてもよい。さらに、移動体10の旋回走行中に強制停止させると移動体10が転倒するおそれが高いために、移動体10を強制停止させる過程で、移動体10を直進走行状態に戻しながら強制停止制御を実行することが好ましい。移動体10を減速させて停止させた後は、再びステップS1に戻り、コネクタピン61a,61bがソケット62a,62bに挿入されるまで待機する。
【0049】
以上説明した本実施形態の移動体10によれば、搭乗者が搭乗した状態での移動体10の走行中において、移動体10が転倒した場合又は搭乗者が転落した場合に、制御装置50が転倒又は転落を検知して移動体10が強制的に停止させられるようになっている。したがって、搭乗者による操縦が不可能な状態で移動体10が暴走することがなくなり、搭乗者や周囲の歩行者、あるいは周囲に存在する物等に対して危害や損害を与えるおそれを低減することができるようになる。
【0050】
また、本実施形態の移動体10では、第2の操縦不能検知手段70としての傾斜角度センサ25によって移動体10の転倒が検知された時において、搭乗者の有無にかかわらず移動体10の電源を遮断することで移動体10を強制的に停止させるようになっている。したがって、移動体10の転倒時の暴走を確実に防ぐことができる。
【0051】
さらに、本実施形態の移動体10では、搭乗者の転落を検知する手段として、機械的な構成を有する第1の操縦不能検知手段60が用いられているために、搭乗者の転落を確実に検出することができ、移動体10が転倒していない場合であっても、搭乗者が転落したときに移動体10が強制的に停止させられ、強制停止制御の実効性を高めることができる。
【0052】
3.他の実施の形態
本実施形態の移動体10は、これまでに説明した例に限られるものではなく、以下のように変形して構成することもできる。
【0053】
上述した移動体10の例では、第1の操縦不能検知手段60が、コネクタピン61a,61b、ソケット62a,62b、ピンコード63を用いて構成されているが、第1の操縦不能検知手段の具体的構成はこの例に限られない。
【0054】
例えば、図8は、第1の操縦不能検知手段として、搭乗部19の上面あるいは内部に設けられる荷重センサを用いて構成された操縦不能検知手段60Aを備えた移動体10Aを示している。この移動体10Aは、負荷される圧力によって荷重センサのセンサ値が異なることを利用して、荷重センサのセンサ値が急激に減少したときに制御装置50が搭乗者の転落を検知するように構成されている。このような操縦不能検知手段60Aによっても搭乗者の転落を確実に検出することができる。
【0055】
また、図9は、第1の操縦不能検知手段として、電磁波や光学波を発信するとともにその反射波を受信する送受信器を有するセンサを用いた操縦不能検知手段60Bを示している。このようなセンサとしては、焦電センサや赤外線センサ、あるいはレーザーやレーダー、ミリ波の送受信が可能なセンサ等、公知のセンサを適宜用いることができる。このような操縦不能検知手段60Bによっても搭乗者の転落を確実に検出することができる。
【0056】
あるいは、図示しないものの、カメラを用いた画像処理装置によって、搭乗者の転落を検出するように構成することもできる。
【0057】
さらに、センサ等の機械的構成の検出手段を用いることなく、制御装置50による演算処理によって搭乗者の転落の有無を推定するようにしてもよい。図10は、演算処理によって転落の有無を判定する方法の具体的なフローの一例を示しており、図5のステップS4に置き換えられて実施されるものとなっている。
【0058】
この図10のフローでは、制御装置50は、ステップS21において、回転体駆動手段としての左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32のうちの少なくとも一方の目標回転数Ntgtを算出する。この目標回転数Ntgtは、例えば、上述した図6のフローチャート中のステップS12において算出される目標出力に基づいて求めることができる。
【0059】
次いで、制御装置50は、ステップS22において、ステップS21で算出される目標回転数Ntgtに対応する車輪13L,13Rの実際の回転数Nactを、車軸等に設けられる回転数センサ等を用いて検出する。そして、ステップS23において、制御装置50は、実際の回転数Nactと目標回転数Ntgtとの差が所定の閾値ΔN0以上であるか否かを判別する。
【0060】
このステップS23は、搭乗者が車体11上に搭乗している場合と搭乗していない場合とで、左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32にかかる負荷が異なり、同じ出力でモータを制御したときの車輪13L,13Rの実際の回転数Nactが異なることを利用して、搭乗者の転落の有無を判定するものである。閾値ΔN0は、あらかじめ実験等によって求められて制御装置50に記憶させることができるが、搭乗者の体重等に応じて補正されるようになっていてもよい。
【0061】
ステップS23でYesと判定された場合、すなわち、実際の回転数Nactと目標回転数Ntgtとの差が閾値ΔN0以上である場合には、ステップS24に進み、制御装置50は搭乗者が転落しているものと判断して判定を終了する。一方、ステップS23でNoと判定された場合、すなわち、実際の回転数Nactと目標回転数Ntgtとの差が閾値ΔN0未満である場合には、ステップS25に進み、制御装置50は搭乗者が車体11上に搭乗しているものと判断して判定を終了する。
【0062】
このように、制御装置50の演算処理によって搭乗者の転落の有無を判定するように構成することによって、特別なセンサ等を用いることなく、搭乗者の転落を推定することができる。
【0063】
また、目標回転数Ntgtと実際の回転数Nactとを比較する代わりに、左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32の目標電流値、あるいは実際に流される電流値を継続的に検知して時々刻々と変化する左輪駆動モータ31及び右輪駆動モータ32の出力トルクを検出し、実際の移動体10の挙動(速度や加速度等)と照らし合わせて搭乗の有無を判定することもできる。具体的には、移動体10にあるトルクを印加した場合の移動体の挙動は運動方程式によって算出することができるものであり、計算によって求められる挙動と、実際の挙動とを比較することによって、搭乗者の有無を判定することができる。運動方程式は、例えば特開昭63−305082に開示されている。
【0064】
なお、搭乗者の転落を検知する手段や移動体10の転倒を検知する手段については、これまでに述べた手段のいずれか一つを用いるだけでなく、複数の手段を同時に用いて移動体10を構成してもよい。この場合において、複数の手段のうちのいずれかの手段で転落又は転倒が検知された場合に、実際に転落又は転倒が生じたと判断してもよく、あるいは、複数の手段のすべてにおいて転落や転倒が検知された場合に、実際に転落又は転倒が生じたと判断してもよい。
【0065】
また、上述した移動体10では、ハンドル15又は搭乗部19の傾斜角度や、搭乗者の重心位置に基づく走行指令によって移動体10の走行制御が行われるようになっているが、外部からの通信や搭乗者等の手入力による走行指令に基づいて移動体10の走行制御が行われる移動体であっても、本発明を適用することができる。
【0066】
さらには、移動体の態様についても、本実施形態で例示した同軸二輪車以外に、円筒状の一輪の回転体を用いた移動体や、球形の回転体を用いた移動体等、倒立振子型移動体全般に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
10:倒立振子型移動体、11:車体、13L,13R:車輪、15:ハンドル、17:モータボックス、19:搭乗部、25:傾斜角度センサ(走行指令検出手段)、31:左輪駆動モータ(車輪駆動手段)、32:右輪駆動モータ(車輪駆動手段)、35:シリンダA(重心位置調節手段)、36:シリンダB(重心位置調節手段)、37:シリンダC(重心位置調節手段)、41,42:モータ駆動回路、45,46,47:シリンダ駆動回路、50:制御装置、51:演算回路、53:記憶手段、60:第1の操縦不能検知手段、60A:操縦不能検知手段(荷重センサ)、60B:操縦不能検知手段(電磁波送受信器)、61a,61b:コネクタピン、62a,62b:ソケット、63a,63b:コード、65:連結手段、70:傾斜角度センサ(第2の操縦不能検知手段)



【特許請求の範囲】
【請求項1】
搭乗者が搭乗する搭乗部を有する車体と、
前記車体に回転可能に支持された回転体と、
前記回転体を回転駆動させる回転体駆動手段と、
走行指令に従ってバランスを保ちながら前記倒立振子型移動体を走行させるために前記回転体駆動手段の制御を行う制御装置と、
を備えた倒立振子型移動体において、
前記搭乗者による操縦不能状態を検知するための操縦不能検知手段を備えるとともに、
前記制御装置は、前記操縦不能検知手段によって検出される情報に基づいて前記操縦不能状態が検知されたときに前記倒立振子型移動体の走行を停止させることを特徴とする倒立振子型移動体。
【請求項2】
前記操縦不能検知手段が、前記搭乗部上に前記搭乗者が搭乗しているか否かを検知するための手段を用いて前記搭乗者の転落を検知することを特徴とする請求項1に記載の倒立振子型移動体。
【請求項3】
前記操縦不能検知手段が、前記回転体駆動手段に指示される目標回転数と、前記回転体の回転数と、を比較する演算により前記搭乗者の転落を検知することを特徴とする請求項1に記載の倒立振子型移動体。
【請求項4】
前記操縦不能検知手段が、前記車体の傾斜角度を検出する手段を用いて前記倒立振子型移動体の転倒を検知することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の倒立振子型移動体。
【請求項5】
前記制御装置は、前記回転体駆動手段の出力をゼロにすることで前記倒立振子型移動体の走行を停止させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の倒立振子型移動体。
【請求項6】
前記制御装置は、前記回転体駆動手段の出力を徐々に減少させて当該出力をゼロにすることを特徴とする請求項5に記載の倒立振子型移動体。
【請求項7】
前記制御装置は、主電源を遮断することにより前記振子型移動体の走行を停止させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の倒立振子型移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−126353(P2012−126353A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282044(P2010−282044)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】