説明

倒立車輪型移動体、及びその制御方法

【課題】転倒時の衝撃を低減することができる倒立車両型移動体、及びその制御方法を提供する。
【解決手段】本発明にかかる倒立車輪型移動体であって、車輪を回転可能に支持する右車台17、左車台19と、右駆動輪18、左駆動輪20を回転駆動するモータ34、36と、右アーム14及び左アーム16を介して右車台17、左車台19に対して回動可能に支持された車体12と、右アーム14及び左アーム16に設けられ、移動体100の車高を変化させる下関節モータ65、95と、倒立車輪型移動体が異常状態となったときに出力されるフェール信号88に基づいて、下関節モータ65、95を制御して、車高を下げる制御部80とを、備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は倒立車輪型移動体、及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
倒立車輪型移動体は、通常、左右の駆動輪を駆動して安定状態を維持するように重心位置を修正しつつ、移動を行なうように制御している。このような移動体では、急停止、又は急加速すると、転倒してしまうおそれがある。そのため、走行中の転倒を防止するために、副車輪を設けたものが開示されている(特許文献1、2)。
【0003】
例えば、特許文献1の乗物では、副車輪は駆動輪の前後方向に配置されている。そして、アクチュエータによって伸縮するストラットの端部に副車輪が設けられている。モーメントを検出する検出器により転倒が検知された場合、アクチュエータによってストラットを展開して、副車輪を地面と接触させている。
【特許文献1】特表2000−514680号公報
【特許文献2】特開2006−247802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の移動体において、急な制動力がかかると車体が副車輪を乗り上げてしまう。そして、車体が回転、転倒してしまうことがある。従って、転倒により衝撃が加わってしまうという問題点があった。
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、転倒による衝撃を低減することができる倒立車輪型移動体、及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様にかかる倒立車輪型移動体は、複数の機器を有し、倒立振子制御によって移動する倒立車輪型移動体であって、車輪を回転可能に支持する車台と、前記車輪を回転駆動する第1の駆動部と、支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体と、前記支持部材に設けられ、前記倒立車輪型移動体の車高を変化させる第2の駆動部と、前記倒立車輪型移動体が異常状態となったときに前記機器から出力されるフェール信号に基づいて、前記第2の駆動部を制御して、前記車高を下げる制御部と、を備えるものである。この構成では、異常状態となったときに車高が低くなる。このため、モーメントが低くなり、転倒による衝撃を低減することができる。
【0006】
本発明の第2の態様にかかる倒立車輪型移動体は、上述の移動体であって、前記フェール信号に応じて、前記車体よりも進行方向側に突出する衝撃吸収部材が設けられているものである。この構成では、衝撃吸収部材によって衝撃を吸収することができため、さらに、衝撃を低減することができる。
【0007】
本発明の第3の態様にかかる倒立車輪型移動体は、上述の移動体であって、前記第2の駆動部が前記支持部材に設けられた回転関節を駆動することによって、前記回転関節に設けられた前記衝撃吸収部材が突出することを特徴とするものである。これにより、簡便な構成で、衝撃を低減することができる。
【0008】
本発明の第4の態様にかかる倒立車輪型移動体は、上述の移動体であって、前記フェール信号に応じて、前記車体よりも進行方向と反対側に突出する衝撃吸収部材が設けられているものである。これにより、進行方向と反対側に転倒したときの衝撃を低減することができる。
【0009】
本発明の第5の態様にかかる倒立車輪型移動体は、上述の移動体であって、前記支持部材が複数設けられ、前記複数の支持部材のうちの第1の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、前記複数の支持部材のうちの第2の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向と反対側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、前記第2の駆動部によって、前記第1及び第2の支持部材の回転関節が駆動するものである。これにより、簡便な構成で、衝撃を低減することができる。
【0010】
本発明の第6の態様にかかる倒立車輪型移動体は、上述の移動体であって、前記車輪の回転軸よりも上方において、前記衝撃吸収部材が突出していることを特徴とするものである。これにより、乗り上げによる転倒を防ぐことができる。
【0011】
本発明の第7の態様にかかる倒立車輪型移動体の制御方法は、車輪を回転可能に支持する車台と、前記車輪を回転駆動する第1の駆動部と、支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体と、前記支持部材に設けられ、前記倒立車輪型移動体の車高を変化させる第2の駆動部と、を備え、複数の機器が動作することによって移動する倒立車輪型移動体の制御方法であって、前記倒立車輪型移動体が異常状態になったときに、前記機器からフェール信号を出力するステップと、前記フェール信号に応じて、前記第2の駆動部を制御して、前記車高を下げるステップと、を備えるものである。この方法では、異常状態となったときに車高が低くなる。このため、モーメントが低くなり、転倒による衝撃を低減することができる。
【0012】
本発明の第8の態様にかかる倒立車輪型移動体の制御方法は、上述の制御方法であって、前記フェール信号に応じて、衝撃吸収部材を前記車体よりも進行方向側に突出するステップをさらに有するものである。この構成では、衝撃吸収部材によって衝撃を吸収することができため、さらに、衝撃を低減することができる。
【0013】
本発明の第9の態様にかかる倒立車輪型移動体の制御方法は、上述の制御方法であって、前記第2の駆動部が前記支持部材に設けられた回転関節を駆動することによって、前記回転関節に設けられた前記衝撃吸収部材が突出することを特徴とするものである。これにより、簡便な構成で、衝撃を低減することができる。
【0014】
本発明の第10の態様にかかる倒立車輪型移動体の制御方法は、上述の制御方法であって、前記衝撃吸収部材を突出するステップでは、衝撃吸収部材が進行方向、及び進行方向の反対側に突出することを特徴とするものである。これにより、進行方向と反対側に転倒したときの衝撃を低減することができる。
【0015】
本発明の第11の態様にかかる倒立車輪型移動体の制御方法は、上述の制御方法であって、前記支持部材が複数設けられ、前記複数の支持部材のうちの第1の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、前記複数の支持部材のうちの第2の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向と反対側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、前記第2の駆動部によって、前記第1及び第2の支持部材の回転関節が駆動するものである。これにより、簡便な構成で、衝撃を低減することができる。
【0016】
本発明の第12の態様にかかる倒立車輪型移動体の制御方法は、上述の制御方法であって、前記車輪の回転軸よりも上方において、前記衝撃吸収部材が突出していることを特徴とするものである。これにより、乗り上げによる転倒を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、転倒による衝撃を低減することができる倒立車輪型移動体、及びその制御方法を提供することを目的とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本実施の形態にかかる移動体は倒立振子制御によって移動する倒立車輪型移動体である。移動体は、地面に接地した車輪を駆動することによって、所定の位置まで移動する。さらに、ジャイロセンサ等からの出力に応じて車輪を駆動することによって、倒立状態を維持することができる。
【0019】
図1及び図2を用いて、本実施の形態にかかる移動体100の構成について説明する。図1は移動体100の構成を模式的に示す側面図であり、図2は移動体100の構成を模式的に示す正面図である。
【0020】
図2に示されるように、移動体100は、倒立車輪型の移動体(走行体)であり、右駆動輪18と、左駆動輪20と、右車台17と、左車台19と、右アーム14と、左アーム16と、車体12、を備えている。車体12は、右駆動輪18、及び左駆動輪20の上方に配置された移動体100の上体部である。ここで、移動体100の進行方向(図1の紙面と垂直方向)を前後方向とし、水平面において前後方向に垂直な方向を左右方向(横方向)とする。よって、図1は、進行方向前側から移動体100を見た図であり、図2は、左側から移動体100を見た図である。
【0021】
右アーム14、及び左アーム16は、関節を有するスイングアームである。通常の走行時には、右アーム14、及び左アーム16は、図2に示すように、伸びた状態になっている。そして、車体12の傾斜角度に応じて、右アーム14、及び左アーム16が駆動される。具体的には、地面の傾斜角に応じて車体12が左右に傾斜したとき、一方のアームを駆動して、車体12を水平にする。例えば、水平な地面を走行中に、右駆動輪18のみが段差に乗り上げたり、地面が右上がりの傾斜面に変わったりしたとする。この場合、右駆動輪18と左駆動輪20との間で、水平方向に対する高さが変化する。すなわち、右駆動輪18が左駆動輪20よりも高くなる。このため、右アーム14を縮めて、車体12の傾斜角を調整する。例えば、右アーム14の関節を駆動して、右アーム14をくの字型に曲げる。これにより、右アーム14が短くなるので、横方向(左右方向)において車体12を水平にすることができる。なお、右アーム14、及び左アーム16の構成については後述する。
【0022】
右車台17の側面側には、地面と接地する右駆動輪18が設けられている。左車台19の側面側には、地面と接地する左駆動輪20が設けられている。右駆動輪18と左駆動輪20は、同軸上で回転する一対の車輪である。地面と接地する右駆動輪18と左駆動輪20とが回転することによって、移動体100が移動する。
【0023】
右駆動輪18及び右アーム14の間には、右車台17が配置されている。右車台17は、右マウント26を備えている。右アーム14と右駆動輪18との間には右マウント26が配置されている。右マウント26は、右アーム14の側端に固定されている。右車台17は、車軸30を介して右駆動輪18を回転可能に支持する。右駆動輪18は、車軸30を介して右輪駆動モータ34の回転軸C1に固定されている。右輪駆動モータ34は、右マウント26内に固定され、車輪用駆動部(アクチュエータ)として機能する。即ち、右輪駆動モータ34が右駆動輪18を回転駆動する。
【0024】
左駆動輪20及び左アーム16の間には、左車台19が配置されている。左車台19は、左マウント28を備えている。左アーム16と左駆動輪20との間には左マウント28が配置されている。左マウント28は、左アーム16の側端に固定されている。左マウント28は、車軸32を介して左駆動輪20を回転可能に支持する。左駆動輪20は、車軸32を介して左輪駆動モータ36の回転軸C2に固定されている。左輪駆動モータ36は、左マウント28内に固定され、車輪用駆動部(アクチュエータ)として機能する。即ち、左輪駆動モータ36が左駆動輪20を回転駆動する。右駆動輪18と左駆動輪20との間には、右車台17、及び左車台19が配置されている。なお、右駆動輪18、及び左駆動輪20を同軸上にするため、右車台17を左車台19に固定してもよい。
【0025】
右輪駆動モータ34及び左輪駆動モータ36は例えば、サーボモータである。尚、車輪用アクチュエータは、電気的なモータに限らず、空圧、油圧を使用したアクチュエータでもよい。
【0026】
また、右マウント26は、右輪エンコーダ52を備えている。右輪エンコーダ52は、右駆動輪18の回転量としての回転角を検出する。左マウント28は、左輪エンコーダ54を備えている。左輪エンコーダ54は、左駆動輪20の回転量としての回転角を検出する。
【0027】
左アーム16は、左マウント28を介して左駆動輪18の側端に取り付けられている。
左アーム16は、上関節91、上リンク92、下関節93、及び下リンク94を有している。上リンク92、及び下リンク94は棒状の部材である。上リンク92、及び下リンク94はほぼ同じ長さの剛体である。上関節91、及び下関節93は、回転関節である。
【0028】
下リンク94が左マウント28に連結されている。すなわち、下リンク94の下端に左マウント28が取り付けられている。左マウント28は下リンク94を回動可能に支持している。さらに、下リンク94には、下関節93が設けられている。下リンク94は、下関節93を介して上リンク92と連結されている。すなわち、下リンク94の上端に設けられた下関節93が上リンク92の下端に配置される。
【0029】
下関節93は、下関節モータ95を有している。下関節モータ95が駆動されると、上リンク92が回転する。すなわち、下関節モータ95を駆動すると、下リンク94に対する上リンク92の角度が変化する。このように、下関節93は、左アーム16の途中に設けられている。すなわち、下関節93は、上リンク92と下リンク94との間に設けられている。上リンク92は、下関節モータ95の回転軸C5に固定されている。
【0030】
上リンク92の上端には、上関節91が設けられている。上関節91は、上リンク92と車体12とを連結する。上関節91を介して、左アーム16が車体12と連結される。このように、左アーム16の上端には、上関節91が設けられている。そして、上関節91は、上関節モータ96を有している。上関節モータ96を介して車体12が左アーム16に取り付けられている。そして、上関節モータ96が駆動されると、車体12が回転する。すなわち、上関節モータ96を駆動すると、上リンク92に対する車体12の角度が変化する。車体12は、上関節モータ96の回転軸C3に固定されている。
【0031】
上関節91、及び下関節93が駆動することによって、車体12の姿勢が変化する。このように、左アーム16は、車体12及び左駆動輪20を連結するリンク機構である。よって、左アーム16の下端側が、左駆動輪20の回転軸C2に接続され、上端側が車体12の回転軸C3に接続される。左アーム16は、2つの回転関節を有する2自由度のアーム機構となっている。すなわち、左アーム16は、複数の関節を有するアーム機構であり、車体12と、右車台17とを連結している。
【0032】
左アーム16の長手方向は、回転軸C2に対して垂直である。すなわち、下リンク94の長手方向と、回転軸C2とは直交する。通常の走行時では、上リンク92と下リンク94とが鉛直方向に沿って配置されている。従って、下関節モータ95の回転角度が、上リンク92と下リンク94とが平行になるように固定されている。この左アーム16を介して、車体12が回転軸C2に対して回転可能に支持される。回転軸C2と回転軸C5は、下リンク94の長さに応じた距離だけ隔てて、平行に配置される。回転軸C3と回転軸C5は、上リンク92の長さに応じた距離だけ隔てて、配置される。また、通常の走行時では、回転軸C3は回転軸C5と平行になっている。
【0033】
さらに、下関節93には、衝撃吸収部材97が設けられている。衝撃吸収部材97は、下関節モータ95を囲むように配置されている。衝撃吸収部材97は、例えば、ゴムなどの弾性体によって形成されている。この衝撃吸収部材97は、転倒した際の衝撃を吸収する。すなわち、転倒時には、衝撃吸収部材97が最初に地面と衝突する。これにより、転倒による搭乗者への衝撃が吸収される。
【0034】
右アーム14は、右マウント26を介して右駆動輪18の側端に取り付けられている。
右アーム14は、上関節61、上リンク62、下関節63、下リンク64を有している。上リンク62は上関節61を介して車体12に連結されている。また、下リンク64は、右車台17に連結されている。そして、下リンク64と上リンク62とは、下関節63を介して連結されている。下関節63は、下関節モータ65を有している。上関節61は上関節モータ66を有している。下関節63には、衝撃吸収部材67が設けられている。このように、右アーム14は、左アーム66と同様に、2関節を有する2自由度のアーム機構である。右アーム14の構成については左アーム16と同様であるため、説明を省略する。なお、右アーム14の下関節モータ65の回転軸を回転軸C4とする。また、上関節モータ66は、回転軸C3周りに回転する。
【0035】
右アーム14の上関節61、及び下関節63が駆動することによって、車体12の姿勢が変化する。このように、右アーム14は、車体12及び右駆動輪18を連結するリンク機構である。よって、右アーム14の下端側が、右駆動輪18の回転軸C1に接続され、上端側が車体12の回転軸C3に接続される。右アーム14は、2つの回転関節を有する2自由度のアーム機構となっている。すなわち、右アーム14は、複数の関節を有するアーム機構であり、車体12と、右車台17とを連結している。
【0036】
右アーム14の長手方向は、回転軸C1に対して垂直である。すなわち、下リンク64の長手方向と、回転軸C1とは直交する。通常の走行時では、上リンク62と下リンク64とが同軸上に配置されている。従って、側面視において、上リンク62と下リンク64とが一直線になるように、下関節モータ65の回転角度が固定されている。この右アーム14を介して、車体12が回転軸C1に対して回転可能に支持される。また、通常の走行時には、回転軸C1、回転軸C3、及び回転軸C4は平行になっている。
【0037】
ここで、右アーム14の上関節モータ66と左アーム16の上関節モータ96とは、鉛直方向に沿って配置されている。すなわち、右アーム14の上関節モータ66と左アーム16の上関節モータ96は、共通の回転軸C3を有している。また、通常の走行時には、右アーム14の下関節モータ65と左アーム16の下関節モータ95とは、同軸上に配置されている。すなわち、上関節モータ66の回転軸C4は上関節モータ96の回転軸C5と同じ高さになっている。
【0038】
このように、右アーム14には、上関節モータ66と下関節モータ65とが取り付けられ、左アーム16には、上関節モータ96と下関節モータ95とが取り付けられている。上関節モータ66、96は、上リンク62、92に対する車体12の角度を可変にする。下関節モータ65は、下リンク64に対する上リンク62の角度を可変にし、下関節モータ95は、下リンク94に対する上リンク92の角度を可変にする。すなわち、上関節モータ66と下関節モータ65とは、右アーム14の関節の角度を制御する駆動部(アクチュエータ)である。上関節モータ96と下関節モータ95とは、左アーム16の関節の角度を制御する駆動部(アクチュエータ)である。従って、右アーム14、及び左アーム16が駆動することによって、右車台17、及び左車台19に対する車体12の位置を変化させることができる。上関節モータ66、96と下関節モータ65、95とは、例えば、サーボモータであり、車体12の姿勢角を制御する。尚、モータの動力をギアやベルトやプーリなどを介して伝達してもよい。そして、それぞれのモータを駆動することによって、車体12の高さが変化する。これにより、移動体100の車高を変えることができる。
【0039】
上関節モータ66及び上関節モータ96が駆動すると、右アーム14及び左アーム16に対する台座70の角度が変化する。これにより、回転軸C3を回転中心として、台座70を前後方向に回転することができる。回転軸C3は回転軸C1及びC2と平行であり、回転軸C1及びC2の上方に位置する。回転軸C3と回転軸C1との間に右アーム14が設けられている。回転軸C3と回転軸C2との間に左アーム16が設けられている。下関節モータ65は、下リンク64に対して上リンク62を回転軸C4周りに回転させる。下関節モータ95は、下リンク94に対して上リンク92を回転軸C5周りに回転させる。また、回転軸C4は、回転軸C3と回転軸C1との間に位置し、回転軸C5は回転軸C3と回転軸C2との間に位置する。この回転軸C3には、上関節モータ66及び上関節モータ96が設けられている。即ち、右アーム14及び左アーム16が姿勢を制御するためのスイングアームとなる。なお、通常の走行時には、回転軸C1〜回転軸C5は水平になっており、移動体100の左右方向と平行になっている。
【0040】
車体12は、台座70、支柱72、ジャイロセンサ48、及び搭乗席22を有している。平板状の台座70は、上関節モータ66及び上関節モータ96を介して、それぞれ右アーム14及び左アーム16と取り付けられている。台座70の対向する側面には、右アーム14及び左アーム16が設けられている。即ち、右アーム14及び左アーム16の間に、台座70が配置される。
【0041】
台座70には、バッテリーモジュール44と、センサ58が収納されている。センサ58は、例えば、光学式の障害物検知センサであり、移動体100の前方に障害物を検知すると、検知信号を出力する。また、センサ58は、障害物センサ以外のセンサであってもよい。例えば、センサ58として、加速度センサを用いることも可能である。もちろん、センサ58として、2以上のセンサが用いられていてもよい。センサ58は移動体の状態に応じて変化する変化量を検出する。バッテリーモジュール44は、センサ58、ジャイロセンサ48、右輪駆動モータ34、左輪駆動モータ36、上関節モータ66、上関節モータ96、下関節モータ65、下関節モータ95、制御部80等に対して電力を供給する。
【0042】
車体12の台座70上には、ジャイロセンサ48が設けられている。ジャイロセンサ48は、車体12の傾斜角に対する角速度を検出する。ここで、車体12の傾斜角は、移動体100の重心位置が車軸30、32の鉛直上方に伸びる軸からの傾斜度合いであり、例えば移動体100の進行方向前方に車体12が傾斜している場合を「正」とし、移動体100の進行方向後方に車体12が傾斜している場合を「負」として表わす。
【0043】
また、進行方向の前後方向に加えて、左右方向の傾斜角速度はロール、ピッチ、ヨーの3軸のジャイロセンサ48を用いて測定される。このように、ジャイロセンサ48は、台座70の傾斜角の変化を、車体12の傾斜角速度として測定する。もちろん、ジャイロセンサ48は他の箇所に取り付けられていてもよい。ジャイロセンサ48で測定された傾斜角速度は、移動体100の姿勢の変化に応じて変化する。即ち、傾斜角速度は、車軸の位置に対する車体12の重心位置に応じて変化する変化量である。従って、外乱などによって、車体12の傾斜角度が急激に変化すると、傾斜角速度の値が大きくなる。
【0044】
台座70の中央近傍には、支柱72が設けられている。この支柱72によって、搭乗席22が支持されている。即ち、搭乗席22は、支柱72を介して台座70に固定されている。搭乗席22は、搭乗者が座ることができる椅子の形状を有する。
【0045】
搭乗席22の側面には、操作モジュール46が設けられている。操作モジュール46には、操作レバー(図示せず)及びブレーキレバー(図示せず)が設けられている。操作レバーは、搭乗者が移動体100の走行速度や走行方向を調整するための操作部材である、搭乗者は、操作レバーの操作量を調整することによって移動体100の移動速度を調整することができる。また、搭乗者は、操作レバーの操作方向を調整することによって移動体100の移動方向を指定することができる。移動体100は、操作レバーに加えられた操作に応じて、前進、停止、後退、左折、右折、左旋回、右旋回することができる。搭乗者がブレーキレバーを倒すことによって、移動体100を制動することができる。移動体100の進行方向は、車軸30、32と垂直な方向になる。
【0046】
さらに、搭乗席22の背もたれ部分には、制御部80が実装されている。制御部80は、搭乗者が操作モジュール46に対して行なった操作に追従して、右輪駆動モータ34及び左輪駆動モータ36を制御し、移動体100の走行(移動)を制御する。搭乗席22の座面は台座70の上面と平行に配置されている。制御部80は、操作モジュールでの操作に応じて、右輪駆動モータ34及び左輪駆動モータ36を制御する。これにより、操作モジュール46での操作に応じたトルク指令値で右輪駆動モータ34及び左輪駆動モータ36が駆動する。
【0047】
制御部80は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、通信用のインターフェースなどを有し、移動体100の各種動作を制御する。そして、この制御部80は、例えばROMに格納された制御プログラムに従って各種の制御を実行する。制御部80は、周知のフィードバック制御により、右輪駆動モータ34及び左輪駆動モータ36を相互に独立して所定の角度に制御する。操作モジュール46での操作に応じて、右輪駆動モータ34及び左輪駆動モータ36が回転すいる。例えば、操作モジュール46には、操作レバーの倒れ角を測定するセンサが設けられている。操作モジュール46は、操作レバーの倒れ角、倒れ角の変化量によって、加速度や目標速度を算出する。すなわち、操作レバーの倒れ角が大きくなるほど、加速度や目標速度が大きくなる。そして、所望の加速度、及び目標速度となるように、右輪駆動モータ34及び左輪駆動モータ36が制御される。
【0048】
さらに、制御部80は、右アーム14、及び左アーム16の各関節の角度を制御する。各関節は、それぞれ独立して駆動する。右アーム14、及び左アーム16が駆動することによって、移動体100の姿勢が変化する。すなわち、制御部80は、移動体100の高さ、及び左右方向の傾斜角を制御する。
【0049】
例えば、右アーム14、又は左アーム16を駆動すると、台座70を左右方向に傾斜することができる。即ち、移動体100の車体12をロール方向(前方推進方向に平行な移動体100の前後軸周り)に自立的に揺動傾斜させることができる。例えば、右アーム14の上関節モータ66、及び下関節モータ65を駆動し、右アーム14をくの字型に屈曲させる。具体的には、上関節モータ66、及び下関節モータ65を反対方向に一定角度回転させる。これにより、回転軸C3と、回転軸C1とが接近する。移動体100の右側の車高が低くなる。このように、右アーム14と左アーム16とを独立して駆動することによって、搭乗者の乗り心地を向上することができる。具体的には、傾斜や段差がある地面であっても、左右方向において車体12を水平にすることができる。すなわち、左右方向に車体12が傾くのを防ぐことができ、乗り心地を向上することができる。
【0050】
例えば、水平な地面を走行している間は、右アーム14、及び左アーム16を伸ばした状態とする。すなわち、回転軸C1から回転軸C3まで距離と、回転軸C2から回転軸C3までの距離を同じにする。これにより、回転軸C3が水平になり、車体12が左右方向において水平となる。そして、水平な地面を走行中に右駆動輪18が段差に乗り上げたり、地面が傾斜面に変わったりすると、右駆動輪18が左駆動輪20よりも高くなる。回転軸C3が右上がりに傾斜し、車体12が左右方向に傾く。ここで、車体12の左右方向の傾斜を防ぐため、上述のように右アーム14を駆動させる。これにより、右アーム14がくの字状に屈曲して、回転軸C1と回転軸C3とが近づく。一方、左アーム16は伸長しているため、回転軸C2と回転軸C3とは離れている。このため、回転軸C3の傾きが変化して、車体12を水平にすることができる。
【0051】
具体的には、ジャイロセンサ48からの出力によって、車体12が左右方向に傾斜していることが検知される。ジャイロセンサ48からの出力に応じて制御部80が、一方のアームを駆動する。すなわち、制御部80は、傾斜して高くなっている方のアームを駆動する。例えば、車体12の右側が高くなっている場合、制御部80は、右アーム14の各関節を制御する。下関節モータ65、及び上関節モータ66が駆動して、右アーム14が屈曲する。さらに、車体12の傾斜角に応じた長さだけ、右アーム14を屈曲させる。すなわち、上関節61、及び下関節63を、左右方向における車体12の傾斜角度に応じた回転角度だけ駆動する。これにより、回転軸C3が水平になり左右方向において車体12が水平になる。もちろん、車体12の左側が高くなっている場合、左アーム16を同様に駆動する。このように、右アーム14、及び左アーム16は、車体12の水平方向の傾きを修正するスイングアームとなる。
【0052】
さらに、右アーム14と左アーム16との両方を駆動することによって、車高を変えることができる。例えば、図3(a)のように、右アーム14、及び左アーム16が伸びている状態から、右アーム14、及び左アーム16をくの字状に屈曲させる。これにより、図3(b)に示すように、車体12が下方に移動して、車高が低くなる。なお、図3は、移動体100のアームの動作を説明する側面図である。ここでは、回転軸C4と回転軸C5との高さが一致するように各関節を回転させる。すなわち、回転軸C4と回転軸C5が同一水平面に含まれるようになる。これにより、左右方向において車体12が水平になったまま、車体12の重心位置が低くなる。換言すると車体12の重心位置が回転軸C1、C2に接近する。よって、移動体100の車高を下げることができる。すなわち、車体12の最も高い箇所が地面に近づき、座面が低くなる。これにより、車体12の回転半径が小さくなるため、モーメントが小さくなる。異常発生時に車高を低くすることによって、転倒時の衝撃を緩和することができる。具体的には、移動体100が異常状態となっていることを示すフェール信号が制御部80に入力されると、制御部80は、車高を下げる。異常発生時において転倒するときの衝撃を低減することができる。このように、両アームを駆動することによって、車体12の重心位置が鉛直方向に移動する。
【0053】
さらに、異常発生時には、図3(b)に示すように、右アーム14の下関節63を進行方向前方に突出させている。従って、下関節63に設けられた衝撃吸収部材67が車体12よりも進行方向前側に突出する。これにより、移動体100が前方向に転倒したときに発生する衝撃を吸収することができる。また、進行方向前方側の壁にぶつかっても、衝撃吸収部材67によって衝撃が吸収される。このように、異常発生時には、下関節63を突出させるいるため、転倒時に地面と最初に接触する箇所が下関節63になる。そして、転倒時に地面と接触する箇所に、衝撃吸収部材67を設ける。よって、転倒時に搭乗者に加わる衝撃が吸収される。さらに、周囲の人と衝突した場合の衝撃を吸収することができる。よって、より安全性を向上することができる。
【0054】
ここで、左アーム16の下関節93を進行方向後方に突出させている。従って、下関節93に設けられた衝撃吸収部材97が車体12よりも進行方向後側に突出する。これにより、移動体100が後方向に転倒したときに発生する衝撃を吸収することができる。例えば、図3(b)に示す状態で、移動体100が前側の壁に衝突しても、衝撃吸収部材67が最も前側に配置されているため、衝撃を吸収していることができる。さらに、前側の壁に衝突したときの力により、移動体100が後側に転倒しても、左アーム16に設けられた衝撃吸収部材97が地面や壁と衝突する。すなわち、移動体100の最も後方に配置された衝撃吸収部材97が地面や壁に衝突する。従って、衝撃を吸収することができる。このように前後方向の壁に衝突した場合でも、衝撃吸収部材67、97によって、衝撃を吸収することができる。すなわち、前後両方に衝撃吸収部材67、97を突出させることによって、より安全性を向上することができる。
【0055】
ここで、右アーム14と左アーム16とを同じ角度だけ、反対方向に回転させる。すなわち、図3(a)から図3(b)に移行するとき、下関節63は、反時計周りに回転し、下関節93は時計回りに回転する。また、下関節63と下関節93の回転角度を同じにする。さらに、上関節61は、時計回りに回転し、上関節91は反時計回りに回転する。そして、上関節61と上関節91の回転角度を同じにする。これにより、右アーム14と左アーム16とが反転した構成となる。すなわち、図3(b)の状態で、移動体100を横から見ると、右アーム14と左アーム16は回転軸C3から地面に伸びた垂線に対して反転している。そして、回転軸C1と回転軸C2を結ぶ車軸上に、回転軸C3が配置されている。さらに、各関節を同期して駆動する。これにより、車体12が左右方向に傾斜するのを防ぐことができ、乗り心地を向上することができる。よって、安定性を向上することができる。
【0056】
また、アームが屈曲した状態でも、図3(b)に示すように、下関節63、93は、車軸C1,C2よりも高くなっている。すなわち、下関節63、93を前後に突出させているため、転倒時に地面と最初に接触する箇所を高くすることができる。このように、車軸C1,C2よりも上方において、衝撃吸収部材67,97が前後方向に突出している。従って、アーム14、16の下関節63、93が乗り上げることによる転倒を防ぐことができる。すなわち、転倒時に地面と最初に接触する箇所である下関節63、93は、地面から一定距離隔てて配置される。これは、アームを屈曲させて、下関節63、93を車体12の前後に突出させていることに起因している。換言すると、両アームの長さ、及び関節角度を最適化することで、衝撃吸収部材67、97の地面に対するクリアランスを確保することができる。これにより、衝撃吸収部材67、97が車体12よりも前後に突出させても、乗り上げによる転倒を防ぐことができる。従って、段差等がある地面において、転倒を防ぐことができる。
【0057】
次に、制御部80による制御について図4を用いて説明する。図4は、制御部80の制御を説明するためのブロック図である。制御部80は、走行制御モジュール81と、姿勢制御モジュール82とを有している。制御部80は、走行制御モジュール81と姿勢制御モジュール82とを統括的に制御する。走行制御モジュール81は、右輪駆動モータ34と左輪駆動モータ36を制御するアンプを有している。走行制御モジュール81は、右輪駆動モータ34と左輪駆動モータ36とに駆動信号を出力して、右駆動輪18、及び左駆動輪20をフィードバック制御する。具体的には、右輪エンコーダ52と、左輪エンコーダ54で測定された測定値が走行制御モジュール81に入力される。また、走行制御モジュール81には、倒立を安定させるため、ジャイロセンサ48からの傾斜角速度が入力されている。さらに、走行制御モジュール81には、操作モジュール46による操作の応じた指令値が入力される。そして、走行制御モジュール81は、測定値、指令値及び傾斜角速度に基づいて、右輪駆動モータ34と左輪駆動モータ36を駆動する。このように、走行制御モジュール81は、右駆動輪18、及び左駆動輪20をフィードバック制御する。これにより、移動体100は、操作モジュール46での操作に応じて移動する。よって、倒立状態で安定して走行することができる。ここでのフィードバック制御としては公知の制御方法を用いることができる。
【0058】
姿勢制御モジュール82は、移動体100の姿勢を制御する。すなわち、姿勢制御モジュール82は、右アーム14、及び左アーム16の各関節のモータを駆動するためのアンプを有している。姿勢制御モジュール82は、制御信号を出力して、右アーム14、及び左アーム16の姿勢を制御する。具体的には、姿勢制御モジュール82には、ジャイロセンサ48から、車体12の傾斜角速度を示す検出信号が入力される。すなわち、ジャイロセンサ48で検出された車体12の傾斜角速度の値が姿勢制御モジュール82に入力される。そして、ジャイロセンサ48で検出された傾斜角速度によって、車体12が左右方向に傾斜していることが検知される。車体12が左右方向に傾斜している場合、右アーム14、又は左アーム16を駆動する。ここでは、車体12が高くなっている方のアームを駆動して、傾斜角度を修正する。すなわち、姿勢制御モジュール82が傾斜角度を打ち消すように一方のアームを制御する。これにより、左右方向における傾斜角度の変化が低減するため、安定して走行することが可能になる。搭乗者の乗り心地を向上することができる。
【0059】
また、姿勢制御モジュール82は、発生時に、右アーム14、及び左アーム16の駆動を制御する。これにより、車高を下げることができる。姿勢制御モジュール82には、移動体100に異常が発生したことを示すフェール信号88が移動体100内の電子機器から入力されている。姿勢制御モジュール82は、フェール信号に基づいて、車高を下げる。すなわち、右アーム14と左アーム16を屈曲して、回転軸C3を回転軸C1、C2に近づける。フェール信号88としては、各機器に異常が発生したときに、その機器から出力されるアラーム信号を用いることができる。例えば、右輪駆動モータ34や左輪駆動モータ36に異常が発生したときに出力されるアラーム信号をフェール信号として用いることができる。具体的には、右輪駆動モータ34や左輪駆動モータ36での電流異常や、制御部80とモータ間の通信異常が生じた場合に、フェール信号が出力される。あるいは、エンコーダ異常が生じたときに、右輪エンコーダ52や左輪エンコーダ54から出力されるアラーム信号をフェール信号として用いてもよい。また、バッテリーモジュール44、ジャイロセンサ48、センサ58などの各機器から出力されるアラーム信号であってもよい。このように、移動体100の走行に関与する機器からのアラーム信号をフェール信号として用いることができる。従って、機器が故障して、移動体100の走行に支障が生じた場合、移動体100が正常に走行することができない異常状態になったと認識され、フェール信号88が出力される。そして、異常状態になったときに出力されるフェール信号88に応じて、アームを駆動する。これにより、異常発生時に、確実に車高を下げることができる。
【0060】
このように、フェール信号88は、例えば、移動体100に設けられている機器(センサ、エンコーダ、モータ、バッテリー、制御部等)から出力される。例えば、機器が故障した場合には、その機器から故障したことを示すアラーム信号が出力される。故障したことを示すアラーム信号をフェール信号として用いることができる。すなわち、機器に故障が発生した場合、移動体100の走行に支障が生じる。機器に故障が発生すると、移動体100が正常に移動することができない異常状態となる。機器に故障などの異常が生じた場合には、その機器からアラーム信号がフェール信号として出力される。さらには、エンコーダや、各種センサなどの機器からの出力が異常な値になっている場合、その機器や制御部80からフェール信号が出力される。例えば、右輪駆動モータ34や左輪駆動モータ36によって出力されるトルクが異常な値となっているときに、フェール信号が出力される。各機器に動作異常が発生したときに、フェール信号が出力される。このように、移動体100には、走行に関与する複数の機器が設けられている。そして、複数の機器を動作させることによって、移動体100が移動する。移動体100に設けられている複数の機器のうち、一つ以上が出力するフェール信号に基づいて、異常状態となったことが認識される。そして、フェール信号88が出力され、上記の動作が実行される。具体的には、右駆動輪18、及び左駆動輪20の回転を制御するために設けられている機器が出力するフェール信号に基づいて車高が下げされる。これにより、移動体100が正常に動作することができない異常状態となったときに、確実に車高を下げることができる。なお、フェール信号を出力する機器は、特に限定されるものではない。
【0061】
次に、図5を用いて、上記の車高制御について説明する。図5は、上記の制御方法を示すフローチャートである。まず、移動体100の走行処理が開始しているとき、フェールが発生したか否かを判定する(ステップS101)。すなわち、異常状態になったときに電子機器から出力されるフェール信号が制御部80に入力されているか否かを判定する。フェール信号が入力されている場合、フェール発生と判定し、フェール信号が入力されていない場合、フェールが発生してないと判定する。フェール信号が入力されていないときは、そのまま次サイクルを繰り返す。すなわち、通常の走行動作を行なうとともに、ステップS101に戻る。一方、フェールが発生したときは、車高を下げる(ステップS102)。すなわち、右アーム14、及び左アーム16の関節モータを駆動して、回転軸C3を地面に近づけていく。ここでは、予め設定された回転角度だけ、各関節モータを駆動させる。すなわち、車高を下げるときのアームの姿勢は予め設定されている。これにより、フェール時に一定高さだけ車高を下げることができる。よって、転倒時のモーメントが小さくなり、衝撃を緩和することができる。
【0062】
そして、車体12の前後方向に衝撃吸収部材67、97を突出させる(ステップS103)。すなわち、車体12の前方に衝撃吸収部材67を突出させ、後方に衝撃吸収部材97を突出させる。これにより、移動体100が転倒したとしても、衝撃吸収部材67、及び衝撃吸収部材97の一方が最初に地面と衝突する。よって、衝撃を吸収することができる。
【0063】
衝撃吸収部材67、97を突出した後、各車輪駆動モータに対する駆動トルクの指令値を0とする(ステップS104)。すなわち、車体12が予め定められた高さまで下げられたら、右輪駆動モータ34、及び左輪駆動モータ36のトルクを0にする。そして、車輪駆動モータの駆動電圧を0にする(ステップS105)。これにより、移動体100の移動が停止する。このように制御することによって、異常が発生した時に生じる衝撃を低減することができる。さらに、アームの各関節によって車高を下げるとともに、衝撃吸収部材67、97を突出させている。すなわち、車高を下げるための駆動と、衝撃吸収部材を突出させる駆動とを、共通のアクチュエータによって実施している。これにより、簡便な構成で衝撃を低減することができ、制御を簡素化できる。また、通常走行時は、車高が高くなっているため、所望の座面を所望の高さにすることができる。例えば、搭乗者の顔を歩いている人間の顔とほぼ同じ高さにすることができる。これにより、歩いている人間と話しながら移動することができるよう二なり、利便性を向上することができる。
【0064】
なお、フェールが発生していない通常の走行時では、各アームが伸長しているとして説明したが、通常の走行時においても、同じ角度だけ両アームを曲げていてもよい。また、上記の説明では各アームに回転関節を設ける構成としたが、これに限るものではない。例えは、アームに直動関節を設けて、車体12をアームに沿ってスライドさせるようにしてもよい。すなわち、フェール発生時にアームを縮めて、車高を下げてもよい。
【0065】
さらに、上記の説明では、車高を下げるためのアームの各関節によって衝撃吸収部材を突出させたが、車高を下げるアクチュエータと、衝撃吸収部材を突出させるアクチュエータを別々のものとしてもよい。例えば、前後方向に伸縮するアクチュエータを別個に設け、このアクチュエータの先端に衝撃吸収部材を設けてもよい。
【0066】
次に、本発明の他の実施形態にかかる移動体101の構成について図6を用いて説明する。図6は、他の実施形態にかかる移動体101の構成を模式的に示す正面図である。図6(a)は、通常の走行時の状態を示す図であり、図6(b)はフェール発生時の状態を示す図である。なお、移動体101の基本的構成、及び制御については、上述の移動体100と同様であるため、説明を省略する。
【0067】
図6(a)に示すように、移動体101は、下関節63、93の回転軸が移動体100と異なっている。すなわち、下関節63、93の回転軸は図6の紙面に垂直な方向になっている。下関節63は、上リンク62に対する下リンク64の角度を変化させる。下関節93は、上リンク92に対する下リンク94の角度を変化させる。従って、下関節63、93が駆動すると、下リンク64、94が回転して、図6(b)に示すようになる。通常走行時は、図6(a)に示すように高い車高になっている。そして、フェール発生時には、図6(b)に示すように、右車台17と左車台19の間隔が広くなる。これにより、車高が低くなるため、衝撃を緩和することができる。ここでは、下関節63、93を90°回転させている。従って、下リンク64、94の長手方向が左右方向になる。このように、フェール発生時には、右アーム14、及び左アーム16が横方向に広がることによって、車高が低くなる。
【0068】
さらに、本実施の形態では、右車台17、及び左車台19に関節を追加している。両車台の関節は、紙面と垂直な方向が回転軸となっている。そして、フェール発生時に、右車台17、及び左車台19の関節を下関節63、93と同期して駆動する。これにより、右駆動輪18、及び左駆動輪20の外周面が接地した状態のままとなる。そして、右駆動輪18、及び左駆動輪20が十分大きい場合、右駆動輪18、及び左駆動輪20の端部が車体12の前後に突出する。右駆動輪18、及び左駆動輪20により衝撃を吸収することができる。もちろん、車体12の前後に突出する衝撃吸収部材と、その衝撃吸収部材を駆動するアクチュエータを別に設けてもよい。
【0069】
さらに、他の実施形態の移動体101に対する好適な車輪形状について、図7を用いて説明する。図7は、車高を下げている途中における左駆動輪20周辺の構成を示している。すなわち、フェール信号によって、下関節93が回転して、左アーム16が広くなっている状態を示している。
【0070】
図7に示すように、左駆動輪20の外周面が面取りされている。すなわち、左駆動輪20の外周面の内側端部がテーパ形状になっており、外周面と内側側面の間に傾斜面20aが設けられている。傾斜面20aでは、摩擦係数が小さくなっている。すなわち、傾斜面20aは、左駆動輪20の外周面と比べて小さい摩擦係数になっている。よって、左アーム16を広くするときの摩擦力が低下する。すなわち、下関節63の駆動力を打ち消す摩擦力が低減する。このように、傾斜面20aの摩擦係数を小さくすることによって、左アーム16を横方向に広げやすくすることができる。さらに、通常の走行時には、傾斜面20aは、接地しないので、車輪駆動には支障がない。もちろん、右アームの右駆動輪18についても同様の車輪を用いている。
【0071】
なお、上記の説明では、2輪型の移動体100について説明したが、車輪の数は、これに限られるものではない。1輪型の移動体でもよく、3以上の車輪を有する移動体であってもよい。さらに、上記の説明では、搭乗席22を有する移動体100について説明したが、物体運搬用の移動台車であってもよい。もちろん、移動ロボットなどのその他の移動体であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態にかかる移動体の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態にかかる移動体の構成を示す正面図である。
【図3】本実施の形態にかかる移動体のフェール発生時における動作を説明するための側面図である。
【図4】本発明の実施の形態にかかる移動体の制御系の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施の形態にかかる移動体の制御方法を示すフローチャートである。
【図6】本発明の他の実施形態にかかる移動体の構成を示す正面図である
【図7】本発明の他の実施形態にかかる移動体の左駆動輪近傍の構成を示す正面図である
【符号の説明】
【0073】
12 車体、14 右アーム、15 右車台、16 左アーム、17 左車台、
18 右駆動輪、20 左駆動輪、22 搭乗席、
26 ロッド、28 マウント
30 車軸、32 車軸、34 右輪駆動モータ、36 左輪駆動モータ
48 ジャイロセンサ、52 右輪エンコーダ、54 左輪エンコーダ
61 上関節、62 上リンク、63 下関節、64 下リンク、65 下関節モータ、
66 上関節モータ、67 衝撃吸収部材
70 台座、72 支柱、
80 制御部、81 走行制御モジュール、82 姿勢制御モジュール
91 上関節、92 上リンク、93 下関節、94 下リンク、95 下関節モータ、
96 上関節モータ、97 衝撃吸収部材
100 移動体、101 移動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の機器を有し、倒立振子制御によって移動する倒立車輪型移動体であって、
車輪を回転可能に支持する車台と、
前記車輪を回転駆動する第1の駆動部と、
支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体と、
前記支持部材に設けられ、前記倒立車輪型移動体の車高を変化させる第2の駆動部と、
前記倒立車輪型移動体が異常状態となったときに前記機器から出力されるフェール信号に基づいて、前記第2の駆動部を制御して、前記車高を下げる制御部と、を備える倒立車輪型移動体。
【請求項2】
前記フェール信号に応じて、前記車体よりも進行方向側に突出する衝撃吸収部材が設けられている請求項1に記載の倒立車輪型移動体。
【請求項3】
前記第2の駆動部が前記支持部材に設けられた回転関節を駆動することによって、前記回転関節に設けられた前記衝撃吸収部材が突出することを特徴とする請求項2に記載の倒立車輪型移動体。
【請求項4】
前記フェール信号に応じて、前記車体よりも進行方向と反対側に突出する衝撃吸収部材が設けられている請求項2、又は3に記載の倒立車輪型移動体。
【請求項5】
前記支持部材が複数設けられ、
前記複数の支持部材のうちの第1の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、
前記複数の支持部材のうちの第2の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向と反対側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、
前記第2の駆動部によって、前記第1及び第2の支持部材の回転関節が駆動する請求項4に記載の倒立車輪型移動体。
【請求項6】
前記車輪の回転軸よりも上方において、前記衝撃吸収部材が突出していることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載の倒立車輪型移動体。
【請求項7】
車輪を回転可能に支持する車台と、
前記車輪を回転駆動する第1の駆動部と、
支持部材を介して前記車台に対して回動可能に支持された車体と、
前記支持部材に設けられ、前記倒立車輪型移動体の車高を変化させる第2の駆動部と、を備え、複数の機器が動作することによって移動する倒立車輪型移動体の制御方法であって、
前記倒立車輪型移動体が異常状態になったときに、前記機器からフェール信号を出力するステップと、
前記フェール信号に応じて、前記第2の駆動部を制御して、前記車高を下げるステップと、を備える倒立車輪型移動体の制御方法。
【請求項8】
前記フェール信号に応じて、衝撃吸収部材を前記車体よりも進行方向側に突出するステップをさらに有する請求項7に記載の倒立車輪型移動体の制御方法。
【請求項9】
前記第2の駆動部が前記支持部材に設けられた回転関節を駆動することによって、前記回転関節に設けられた前記衝撃吸収部材が突出することを特徴とする請求項8に記載の倒立車輪型移動体の制御方法。
【請求項10】
前記衝撃吸収部材を突出するステップでは、衝撃吸収部材が進行方向、及び進行方向の反対側に突出することを特徴とする請求項8、又は9に記載の倒立車輪型移動体の制御方法。
【請求項11】
前記支持部材が複数設けられ、
前記複数の支持部材のうちの第1の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、
前記複数の支持部材のうちの第2の支持部材に設けられ回転関節に、前記進行方向と反対側に突出する衝撃吸収部材が設けられ、
前記第2の駆動部によって、前記第1及び第2の支持部材の回転関節が駆動する請求項10に記載の倒立車輪型移動体の制御方法。
【請求項12】
前記車輪の回転軸よりも上方において、前記衝撃吸収部材が突出していることを特徴とする請求項7乃至11のいずれかに記載の倒立車輪型移動体の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−265697(P2008−265697A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115150(P2007−115150)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】