説明

偏光レンズの製造方法

【課題】ディップコート法を利用し優れた偏光効率を示す偏光レンズを製造すること。
【解決手段】レンズ基材上に二色性色素を含む偏光層を有する偏光レンズの製造方法。二色性色素含有溶液に、該二色性色素の配列を規制するための溝を持つ表面を最表面に有するレンズ基材を浸漬する工程と、前記レンズ基材を、前記表面が液面に対して略垂直な状態で二色性色素含有溶液から引き上げる工程と、前記引き上げたレンズ基材を、前記表面が鉛直上方に向くように方向変更した後、該表面が鉛直上方に向いた状態で所定時間水平保持する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光レンズの製造方法に関するものであり、詳しくは、優れた偏光効率を有する偏光レンズの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
偏光レンズは、溶接作業、医療治療等の特殊作業やスキーなどの各種スポーツ中に防眩メガネとして利用されるものであり、一般に二色性色素の偏光性を利用することにより防眩性が発揮される。例えば特許文献1〜4には、二色性色素を含む偏光層を基材上または基材上に設けた配列層上に形成することにより偏光レンズを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−527401号公報
【特許文献2】特開2009−237361号公報
【特許文献3】国際公開第2008/106034号
【特許文献4】国際公開第2009/029198号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1〜4には、二色性色素の配列を規制するための溝を持つ表面に二色性色素を含有する塗布液を塗布することにより偏光層を形成することが開示されており、いずれも実施例ではスピンコート法によって上記塗布を行っている。
しかるにスピンコート法は、回転する被塗布面上に塗布液を滴下し回転による遠心力によって全面に広げるという方法であるが故に、厚く均一な偏光層を有する偏光レンズを製造することは容易ではない。なぜなら、厚膜の偏光層を形成するために塗布液の色素濃度を高めるほど液粘度が高まり遠心力によってレンズ全面に均一に広げることが困難となり、また、回転数を上げるほど遠心力が大きくなりレンズ上から飛ばされる塗布液が増えることでレンズ上に残留保持される塗布液量が低下するからである。
これに対し、特許文献1〜4に二色性色素塗布液の塗布方法として例示されているディップコート法(浸漬法とも呼ばれる)は、塗布液中にレンズ全体を浸漬するため塗布量が多く、したがって厚い偏光層の形成に適する。しかるに本発明者の検討により、ディップコート法により作製された偏光レンズでは偏光効率が必ずしも十分ではないことが判明した。
【0005】
そこで本発明の目的は、ディップコート法を利用し優れた偏光効率を示す偏光レンズを製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ディップコート法により二色性色素含有溶液を塗布したレンズ基材を、塗布面を鉛直上方に向けた状態で所定時間保持することにより、高い偏光効率を有する偏光レンズが得られることを新たに見出した。以下、この点について更に説明する。
二色性色素含有溶液を塗布することにより偏光層を形成する方法では、上記特許文献1〜4に記載されているように、二色性色素の配列方向を規制するために一定方向に研磨処理が施された表面(溝を有する表面)に上記塗布液を塗布することが一般的である。塗布された塗布液に含まれる二色性色素は、その性質に応じて、溝方向に沿って、または溝方向に垂直に配列することで偏光性を発現することができる。したがって、溝により二色性色素の配列状態を良好に規制できることが偏光効率を高めるうえで重要である。
一方、通常のディップコート法では量産性を高めるために複数枚のレンズ基材を縦方向(液面に対して垂直)に配置(以下、「縦置き」ともいう)したバスケットを浸漬槽に浸漬し、引き上げた後にはバスケットに配置したまま乾燥させるため、レンズ基材は常時縦置きされる。本発明者は、この縦置きの状態では二色性色素の配列状態が溝により良好に規制されないことが、ディップコート法により作製された偏光レンズが必ずしも十分な偏光効率を発揮できないことの原因であると考えている。これに対し、ディップコート法による塗布後にレンズ基材を水平配置することにより二色性色素の配列状態を溝によって良好に規定可能となることが、ディップコート法により二色性色素含有溶液を塗布したレンズ基材を、塗布面を鉛直上方に向けた状態で所定時間保持することにより、高い偏光効率を有する偏光レンズが得られる理由であると、本発明者は推察している。
本発明は、以上の本発明者によって新たに見出された知見に基づき完成された。
【0007】
即ち、上記目的は、下記手段により達成された。
[1]レンズ基材上に二色性色素を含む偏光層を有する偏光レンズの製造方法であって、
二色性色素含有溶液に、該二色性色素の配列を規制するための溝を持つ表面を最表面に有するレンズ基材を浸漬する工程と、
前記レンズ基材を、前記表面が液面に対して略垂直な状態で二色性色素含有溶液から引き上げる工程と、
前記引き上げたレンズ基材を、前記表面が鉛直上方に向くように方向変更した後、該表面が鉛直上方に向いた状態で所定時間水平保持する工程と、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
[2]前記水平保持後、前記レンズ基材をスピンコーターにおいて回転させる期間を含む、[1]に記載の偏光レンズの製造方法。
[3]前記偏光レンズの浸漬から方向変更までの一連の動作を、レンズ基材の周端面を保持部材によって保持した状態で、該保持部材の位置および方向を変化させることによって行う、[1]または[2]に記載の偏光レンズの製造方法。
[4]前記表面は、一定方向に研磨処理が施された表面である、[1]〜[3]のいずれかに記載の偏光レンズの製造方法。
[5]前記表面は、レンズ基材上に形成された配列層表面である、[1]〜[4]のいずれかに記載の偏光レンズの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い偏光効率を有する高品質な偏光レンズを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例および比較例において使用したディップコート装置を示す。
【図2】実施例1、2におけるレンズ移送方法の説明図である。
【図3】実施例1、2におけるレンズ移送方法の説明図である。
【図4】実施例2におけるレンズ移送方法の説明図である。
【図5】実施例2におけるレンズ移送方法の説明図である。
【図6】実施例2においてレンズを配置したスピンコーターを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、レンズ基材上に二色性色素を含む偏光層を有する偏光レンズの製造方法に関する。本発明の偏光レンズの製造方法は、二色性色素含有溶液に、該二色性色素の配列を規制するための溝を持つ表面を最表面に有するレンズ基材を浸漬する工程と、前記レンズ基材を、前記表面が液面に対して略垂直な状態で二色性色素含有溶液から引き上げる工程と、前記引き上げたレンズ基材を、前記表面が鉛直上方に向くように方向変更した後、該表面が鉛直上方に向いた状態で所定時間水平保持する工程と、を含む。これにより優れた偏光効率を有する高品質な偏光レンズを提供することが可能となる。
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0011】
レンズ基材
本発明の偏光レンズの製造方法において、二色性色素含有塗布液が塗布される面(被塗布面)は、レンズ基材表面であってもよく、レンズ基材上に形成された配列層表面であってもよい。被塗布面の詳細については後述するが、被塗布面の表面形状は、平面、凸面、凹面等の任意の形状であることができる。
【0012】
レンズ基材としては、特に限定されるものではなく、眼鏡レンズのレンズ基材に通常使用される材料、具体的にはプラスチック、無機ガラス、等からなるものを用いることができる。レンズ基材の厚さおよび直径は、特に限定されるものではないが、通常、厚さは1〜30mm程度、直径は50mm〜100mm程度である。
【0013】
被塗布面
二色性色素含有塗布液が塗布される被塗布面は、二色性色素の配列を規制するための溝を持つ表面である。上記溝を有する表面上に二色性色素含有塗布液を塗布すると、二色性色素が溝に沿って、または溝と直交する方向に配向する。これにより、二色性色素を一軸配向させ、その偏光性を良好に発現させることができる。上記溝の形成は、例えば、液晶分子の配向処理のために行われるラビング工程によって行うことができる。ラビング工程は、被研磨面を布などで一定方向に擦る工程であり、その詳細は、例えば米国特許2400877号明細書や米国特許4865668号明細書等を参照できる。または、特開2009−237361号公報段落[0033]〜[0034]に記載の研磨処理により、溝を形成することも可能である。形成される溝の深さやピッチは、二色性色素を一軸配向させることができるように設定すればよい。上記溝を有する表面は、レンズ基材の片面または両面の最表面に設けられる。
【0014】
本発明において上記溝を有する表面(被塗布面)は、一態様ではレンズ基材表面であることができるが、二色性色素の配向状態をより良好に規制するためには、レンズ基材上に配列層を形成し、該配列層表面に上記溝を形成することが好ましい。配列層の厚さは、通常0.02〜5μm程度であり、好ましくは0.05〜0.5μm程度である。配列層は、蒸着、スパッタ等の公知の成膜法によって成膜材料を堆積させることにより形成してもよく、ディップ法、スピンコート法等の公知の塗布法によって形成してもよい。上記成膜材料として好適なものとしては、シリコン酸化物、金属酸化物、またはこれらの複合体もしくは化合物を挙げることができる。より好ましくは、Si、Al、Zr、Ti、Ge、Sn、In、Zn、Sb、Ta、Nb、V、Yから選ばれる材料の酸化物、またはこれら材料の複合体もしくは化合物を用いることができる。これらの中でも配列層としての機能付与の容易性の観点からはSiO、SiO2等のケイ素酸化物が好ましく、SiO2がより好ましい。
【0015】
一方、上記塗布法によって形成される配列層としては、無機酸化物ゾルを含むゾル−ゲル膜を挙げることができる。上記ゾル−ゲル膜の形成に好適な塗布液としては、アルコキシシラン、ヘキサアルコキシジシロキサンの少なくとも一方を無機酸化物ゾルとともに含む塗布液を挙げることができる。配列層としての機能付与の容易性の観点から、上記アルコキシシランは、好ましくは特開2009−237361号公報に記載の一般式(1)で表されるアルコキシシランであり、上記ヘキサアルコキシジシロキサンは、好ましくは特開2009−237361号公報に記載の一般式(2)で表されるヘキサアルコキシジシロキサンである。上記塗布液は、アルコキシシラン、ヘキサアルコキシジシロキサンのいずれか一方を含んでもよく、両方を含んでもよく、更に必要に応じて特開2009−237361号公報に記載の一般式(3)で表される官能基含有アルコキシシランを含むこともできる。上記塗布液および成膜方法(塗布方法)の詳細については、特開2009−237361号公報段落[0011]〜[0023]、[0029]〜[0031]および同公報記載の実施例を参照できる。
【0016】
偏光層の形成
偏光層形成のために使用される塗布液に含まれる色素は二色性を有する色素(二色性色素)である。「二色性」とは、媒質が光に対して選択吸収の異方性を有するために、透過光の色が伝播方向によって異なる性質を意味し、二色性色素は、偏光光に対して色素分子のある特定の方向で光吸収が強くなり、これと直行する方向では光吸収が小さくなる性質を有する。また、二色性色素の中には、水を溶媒とした時、ある濃度・温度範囲で液晶状態を発現するものが知られている。このような液晶状態のことをリオトロピック液晶という。この二色性色素の液晶状態を利用して特定の一方向に色素分子を配列させることができれば、より強い二色性を発現することが可能となる。レンズ基材または配列層の表面に溝を形成し、この溝を有する表面上に二色性色素を含有する塗布液を塗布することにより二色性色素を一軸配向させることができ、ここで本発明では、塗布方法としてディップコート法を使用するとともに、二色性色素含有塗布液から引き上げたレンズ基材を、上記溝を有する表面、即ち二色性色素含有溶液の塗布層表面が鉛直上方に向くように方向変更した後、所定時間水平保持する。これにより二色性色素の配列状態を良好に規定することができ、高い偏光効率を有する偏光層を形成することが可能となる。
【0017】
本発明において、偏光層形成に使用される二色性色素としては、特に限定されるものではなく、偏光部材に通常使用される各種二色性色素を挙げることができる。具体例としては、アゾ系、アントラキノン系、メロシアニン系、スチリル系、アゾメチン系、キノン系、キノフタロン系、ペリレン系、インジゴ系、テトラジン系、スチルベン系、ベンジジン系色素等が挙げられる。また、米国特許2400877号明細書、特表2002−527786号公報に記載されているもの等でもよい。
【0018】
二色性色素塗布液は、溶液または懸濁液であることができる。二色性色素の多くは水溶性であるため、上記塗布液は通常、水を溶媒とする水溶液である。塗布液中の二色性色素の含有量は、例えば1〜50質量%程度であるが、所望の偏光性が得られればよく上記範囲に限定されるものではない。
【0019】
塗布液は、二色性色素に加えて、他の成分を含むこともできる。他の成分としては、二色性色素以外の色素を挙げることができ、このような色素を配合することで所望の色相を有する偏光レンズを製造することができる。さらに塗布性等を向上させる観点から、必要に応じてレオロジー改質剤、接着性促進剤、可塑剤、レベリング剤等の添加剤を配合してもよい。
【0020】
本発明において、上記二色性色素含有塗布液の塗布は、前記した溝を持つ表面を有するレンズ基材を、二色性色素含有塗布液に浸漬した後、上記表面が液面に対して略垂直な状態で引き上げることで行われる。即ち、ディップコート法により塗布が行われる。通常ディップコート法では、容器内の塗布液の液面に対して被塗布面を略垂直な状態として浸漬および引き上げが行われるが、本発明でも同様に行うことができる。なお、ここで「略」とは、±15°程度異なることを含む意味とする。形成される偏光層の膜厚は、塗布液の濃度および引き上げ速度によって制御することができる。
【0021】
上記二色性色素含有塗布液から引き上げたレンズ基材には、前記した溝を有する表面上に二色性色素含有塗布液の塗布層が形成されている。前述のように通常のディップコート法では、塗布液から引き上げたレンズ基材は縦置きされるのに対して、本発明では、引き上げたレンズ基材を、塗布層が形成された面が鉛直上方に向くように方向変更した後、該面が鉛直上方に向いた状態で所定時間水平保持する。即ち、ディップコート法による塗布後のレンズは、所定時間水平に配置される。なお以下において、水平に配置することを、「横置き」ともいう。横置きすることで塗布層中の二色性色素は、配列を規制されるために設けられた溝方向に沿って、または溝方向に垂直に配列しやすくなると考えられる。これが、引き上げ後に横置きする期間を設けることで、後述の実施例に示すように偏光効率の向上が達成される理由であると、本発明者は推察している。
【0022】
上記方向変更は、レンズ基材をバスケットに縦置きした状態で二色性色素含有塗布液へ浸漬、引き上げた後、バスケットからレンズ基材を取り出し横置きすることで実施することができる。または、レンズ基材の周端面を保持し得る保持部材(例えば環状の保持リング)を備えたバスケットにレンズ基材を配置すれば、バスケットごと方向変更を行うことが可能となる。また、後述の実施例に示すレンズ保持装置により方向変更を実施することも好適である。塗布層において二色性色素の配列が良好に進行したことは、塗布層の透明性が高まったことにより目視で確認することができる。したがって、水平保持後所定期間が経過し塗布層の透明性が高まったことが目視で確認された後に、次工程に移ることが望ましい。上記期間は偏光層の厚さおよび二色性色素の種類によって変わり得るものであり、これらに応じて適切に設定すればよいが、通常30秒間〜1時間程度である。水平保持する環境は特に限定されるものではなく、室温中であっても高温下であっても低温下であってもよく、減湿下であっても加湿下であってもよい。
【0023】
上記水平保持後のレンズ基材は、二色性色素として水溶性色素を用いる場合には、偏光層の膜安定性を高めるために非水溶化処理を施すことが好ましい。非水溶化処理は、例えば色素分子の末端水酸基をイオン交換することや色素と金属イオンとの間でキレート状態を作り出すことにより行うことができる。そのためには、形成した偏光膜を金属塩水溶液に浸漬する方法を用いることが好ましい。使用できる金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えばAlCl3、BaCl2、CdCl2、ZnCl2、FeCl2およびSnCl3等を挙げることができる。非水溶化処理後、偏光層の表面をさらに乾燥させてもよい。
【0024】
また、偏光層に対しては、膜強度および安定性を高めるために、例えば特開2009−237361号公報に記載されているように色素保護層を形成する(二色性色素の固定化処理を施す)こともできる。この固定化処理は、上記の非水溶化処理の後に行うことが望ましい。固定化処理により、偏光膜中で二色性色素の配向状態を固定化することができる。固定化処理の詳細については、例えば特開2009−237361号公報段落[0036]および同公報記載の実施例を参照できる。偏光層の厚さは、特に限定されるものではないが、通常0.05〜5μm程度である。上記色素保護膜は、偏光層に浸透し実質的に偏光層に含まれることになる。
【0025】
更に本発明では、上記水平保持後のレンズ基材を、スピンコーターに移送し回転させることも可能である。ディップコート法によって塗布された塗布層は、重力の影響により引き上げ時に上方に位置していた部分ほど薄く、下方に位置していた部分ほど厚くなる傾向がある。一方で色素層である偏光層では面内での膜厚変動は色ムラとして顕在化する場合があるため、膜厚の均一性は高いことが望ましい。スピンコーター上で回転させることは、遠心力により塗布層の膜厚の均一性を高める作用がある。
【0026】
水平保持後スピンコーター上で回転させる工程は、塗布層がほぼ完全に乾燥し流動性を失う前に実施することが、回転による遠心力によって膜厚の均一化を図る上で好ましい。実施時期は、上記非水溶化の前であっても後であってもよく、上記固定化処理の前であっても後であってもよい。二色性色素の配列状態は、スピンコーター上での回転によって大きく変化するものではないため、固定化処理前にスピンコーター上で回転させてもかまわない。回転数は、100rpm〜1000rpm程度、回転時間は5秒間〜1分間程度とすることが、膜厚の均一性を効果的に向上させる観点からで好ましい。
【0027】
以上の工程により、高い偏光効率を有する偏光層を備えた眼鏡レンズ(偏光レンズ)を得ることができる。また、本発明では、前記した層以外の機能性膜を任意の位置に形成することもできる。機能性膜としては、ハードコート膜、反射防止膜、撥水膜、紫外線吸収膜、赤外線吸収膜、フォトクロミック膜、静電防止膜等、更に各膜間の密着性を高めるためのプライマーを挙げることができる。これらの機能性膜については、いずれも公知技術を何ら制限なく適用することができる。
【0028】
以下に、実施例により本発明を更に説明する。但し、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。以下の操作は、特記しない限り大気中室温下で実施した。
【0029】
[実施例1]
偏光レンズの作製
(1)配列層の形成
レンズ基材として、ポリウレタンウレアンレンズ(HOYA株式会社製商品名フェニックス、屈折率1.53、ハードコート付き、直径70mm、ベースカーブ4、中心肉厚1.5mm)を用いて、レンズ凹面に真空蒸着法により、厚さ0.2μmのSiO2膜を形成した。
形成されたSiO2膜に、研磨剤含有ウレタンフォーム(研磨剤:フジミインコーポレーテッド社製商品名POLIPLA203A、平均粒径0.8μmのAl23粒子、ウレタンフォーム:上記レンズの凹面の曲率とほぼ同形状)を用いて、一軸研磨加工処理を回転数350rpm、研磨圧50g/cm2の条件で30秒間施した。研磨処理を施したレンズは純水により洗浄、乾燥させた。
【0030】
(2)偏光層の形成
上記(1)の処理を施したレンズに対し、図1に示すディップコート装置1において以下の方法で二色性色素塗布液の塗布を行った。
レンズ4を、レンズ保持装置5の保持リング51上に3つの保持爪52によって周端面を把持することで固定した。その後、回転昇降機構53により、被塗布面を浸漬槽2中の二色性色素含有溶液3の液面に対して垂直な状態として、レンズ4を下方に移動することで二色性色素含有溶液3中に完全に浸漬させた後、上記垂直な状態を維持したまま上方に移動することで二色性色素含有溶液3から引き上げた。ここで使用した二色性色素含有溶液は、水溶性の二色性色素(スターリング オプティクス インク(Sterling Optics Inc)社製商品名Varilight solution 2S)の約5質量%水溶液である。
次いで、二色性色素含有溶液3から引き上げたレンズ4を、回転昇降機構53により凹面が鉛直上方に向くように方向変更した後、図2に示すように移送アーム6により保持リング51から外し、図3に示すように水平台上に置かれたレンズホルダ7上に、凹面を鉛直上方に向け3つの保持爪71によって周端面を把持した状態で水平保持した。この状態で30分間放置したところ、塗布層は目視で透明になったためレンズ4をレンズホルダ7から外し、凹面を除く面から塗布液を拭き取り除去した。
次いで、塩化鉄濃度が0.15M、水酸化カルシウム濃度が0.2MであるpH3.5の水溶液を調製し、この水溶液に上記で得られたレンズをおよそ30秒間浸漬し、その後引き上げ、純水にて充分に洗浄を施した。この工程により、水溶性であった色素は難溶性に変換される(非水溶化処理)。
非水溶化処理後のレンズをγ−アミノプロピルトリエトキシシラン10質量%水溶液に15分間浸漬し、その後純水で3回洗浄し、加熱炉内(炉内温度85℃)で30分間加熱処理した後、炉内から取り出し室温まで冷却した。
上記冷却後、レンズをγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量%水溶液に30分浸漬した。上記固定化処理後、レンズを加熱炉内(炉内温度60℃)で30分間加熱処理した後、炉内から取り出し室温まで冷却した。
以上の処理後、形成された偏光層の厚さは、約1μmであった。
【0031】
[実施例2]
30分間水平保持した後、図4に示すようにレンズホルダ7上のレンズ4を移送アーム6によって把持し、図5に示すようにスピンコーター8上に移送した。移送されたレンズ4を、図6に示すようにスピンコーター8において、3つの保持爪81によって周端面を把持した状態で回転数300rpmで8秒間回転させた。その後、スピンコーター8から取り外したレンズ4の凹面を除く面から塗布液を拭き取り除去し、以降実施例1と同様の処理を行った。
【0032】
[比較例1]
二色性色素含有溶液3から引き上げたレンズ4を、方向変更せずレンズ保持装置5の保持リング51に取り付けたまま30分間放置した。その後、保持リング51から取り外したレンズ4の凹面を除く面から塗布液を拭き取り除去し、以降実施例1と同様の処理を行った。
【0033】
評価方法
(1)偏光効率
偏光効率(Peff)は、ISO8980−3にしたがって、平行透過率(T//)および垂直透過率(T⊥)を求め、次式により算出することで評価した。平行透過率および垂直透過率は、可視分光光度計と偏光子を用いて測定した。
eff(%)=〔(T//−T⊥)/(T//+T⊥)〕×100
(評価基準)
◎:偏光効率98%超、○:偏光効率90%以上98%以下、×:偏光効率90% 未満
(2)膜厚の面内均一性評価
光干渉式膜厚測定器により、実施例1、2、比較例1で作製した偏光レンズの偏光層の膜厚を、直径上の幾何中心を含む合計13点で測定した。最大膜厚Tmaxと最小膜厚Tminから次式により膜厚バラつきを算出することで膜厚の面内均一性を評価した。
膜厚バラつき(%)=(|Tmax−Tmin|/Tmin)×100
(評価基準)
◎:膜厚バラつきが2%以内、○:膜厚バラつきが2%超5%以内、×:膜厚バラつきが5%超
【0034】
以上の評価結果を、下記表1に示す。
【表1】

【0035】
表1に示すように、比較例1の偏光レンズは偏光効率、膜厚の面内均一性とも、実施例の偏光レンズよりも劣っていた。なお比較例1において偏光層の膜厚バラつきが大きかった理由は、ディップコート後のレンズを縦置き状態で放置していたためである。縦置き時に上方に位置していた部分ほど薄く、下方に位置していた部分ほど厚くなった結果、面内で膜厚に大きなバラつきが発生した。
これに対し実施例1、2の偏光レンズは、偏光効率、膜厚の面内均一性とも良好であり、特に水平保持後にスピンコーター上でレンズを回転させた実施例2では、偏光効率に影響を及ぼすことなく膜厚の更なる均一化を達成することができた。
【0036】
以上の結果から、本発明によれば高い偏光効率を有する高品質な偏光レンズが得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、眼鏡レンズの製造分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材上に二色性色素を含む偏光層を有する偏光レンズの製造方法であって、
二色性色素含有溶液に、該二色性色素の配列を規制するための溝を持つ表面を最表面に有するレンズ基材を浸漬する工程と、
前記レンズ基材を、前記表面が液面に対して略垂直な状態で二色性色素含有溶液から引き上げる工程と、
前記引き上げたレンズ基材を、前記表面が鉛直上方に向くように方向変更した後、該表面が鉛直上方に向いた状態で所定時間水平保持する工程と、
を含むことを特徴とする、前記製造方法。
【請求項2】
前記水平保持後、前記レンズ基材をスピンコーターにおいて回転させる期間を含む、請求項1に記載の偏光レンズの製造方法。
【請求項3】
前記偏光レンズの浸漬から方向変更までの一連の動作を、レンズ基材の周端面を保持部材によって保持した状態で、該保持部材の位置および方向を変化させることによって行う、請求項1または2に記載の偏光レンズの製造方法。
【請求項4】
前記表面は、一定方向に研磨処理が施された表面である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の偏光レンズの製造方法。
【請求項5】
前記表面は、レンズ基材上に形成された配列層表面である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−181251(P2012−181251A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42556(P2011−42556)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】