説明

偏光変換板、偏光変換方法

【課題】無偏光から所望の偏光成分を50%以上の効率で得る。
【解決手段】基板11中に入射側から出射側にかけて基板11の平面視における形状が4回対称である第1の散乱体10、上記基板の平面視における形状が4回非対称である第2の散乱体20を順に設け、第1の散乱体10により、入射された伝搬光に基づいて近接場光を滲出させ、第2の散乱体20により、第1の散乱体10により滲出した近接場光及び入射された伝搬光を受けて偏光成分の変換された出射光を放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無偏光の入射光から所望の偏光成分を高い変換効率を以って変換する上で好適な偏光変換板及び偏光変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、通常、方向性を持つ結晶で構成され、一の方向に振動する光の偏光成分のみを透過させる。通常、この偏光板は、いわゆる液晶ディスプレイやプロジェクター等の液晶表示装置に適用される。実際に偏光板は、液晶の直前に設けられ、光源から発光される無偏光の光から所望の偏光成分を透過させて液晶へと導くことを行っている。
【0003】
一般に従来の偏光板では、理想的なものであっても、原理上入射される光の50%程度しか所望の偏光成分に変換することができない。所望の偏光成分として出射されなかった残りの50%程度の光は偏光板に吸収されるか、又は反射される等により損失となる。所望の偏光成分への偏光効率を向上させるためには、偏光光分岐素子と波長板を組み合わせることでこれを実現することができる。しかし、このような偏光光分岐素子と波長板を組み合わせてユニット化する際に構成自体のサイズが大きくなってしまい、小型化、薄型化がより求められる液晶ディスプレイに適用することが困難であった。
【0004】
また、偏光効率を向上させる点から、例えば特許文献1に示すような多重散乱を利用する方法も提案されている。この特許文献1の開示技術によれば、入射光を導光体に導光させ、導光体の下面側に配置して導光光を反射する反射板と、導光体の上面側に配置して導光光中のあるP偏光を透過させてS偏光を反射させる偏光分離板とを備えており、導光体と偏光分離板との間で多重反射を起こさせることにより偏光効率を向上させる技術である。
【0005】
しかしながら、この特許文献1に示す開示技術では、偏光を高効率に変換させるための偏光分離版が必要になり、また導光体中で光が散乱されることから、入射方向と出射方向と一致していることが望ましいプロジェクター等には適さない。
【0006】
更に、特許文献2〜4の開示技術によれば、偏光効率を向上させる観点から、ナノオーダーの金属細線を折り曲げてなる偏光子、金属細線を螺旋状に配置してなる偏光子、更には量子ドットを配列させることで構成された偏光子も提案されている。しかしながら、この特許文献2〜4の開示技術によれば、偏光板から出射する伝搬光の出射方向が一方向に定まる構成となっていないため、結果的に効率が低下してしまうという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−096819号公報
【特許文献2】特開2007−272017号公報
【特許文献3】特開2007−272018号公報
【特許文献4】特開2007−272019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、偏光の非対称な変換により、無偏光から所望の偏光成分を50%以上の効率で得ることが可能な偏光変換板及び偏光変換方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために、基板中に入射側から出射側にかけて基板の平面視における形状が4回対称である第1の散乱体、基板の平面視における形状が4回非対称である第2の散乱体が順に設けることにより、第1の散乱体により滲出した近接場光及び上記入射された伝搬光を第2の散乱体により受けることで偏光成分の変換された出射光を放出する偏光変換板及び偏光変換方法を発明した。
【0010】
本発明を適用した偏光変換板は、基板中に入射側から出射側にかけて上記基板の平面視における形状が4回略対称である第1の散乱体、上記基板の平面視における形状が4回非対称である第2の散乱体が順に設けられ、上記第1の散乱体は、入射された伝搬光に基づいて近接場光を滲出させ、上記第2の散乱体は、上記第1の散乱体により滲出した近接場光及び上記入射された伝搬光を受けて偏光成分の変換された出射光を放出することを特徴とする。
【0011】
本発明を適用した偏光変換方法は、基板中に入射側から出射側にかけて上記基板の平面視における形状が4回対称である第1の散乱体、上記基板の平面視における形状が4回非対称である第2の散乱体が順に設けられ、上記第1の散乱体により、入射された伝搬光に基づいて近接場光を滲出させ、上記第2の散乱体により、上記第1の散乱体により滲出した近接場光及び上記入射された伝搬光を受けて偏光成分の変換された出射光を放出することを特徴とする。
【0012】
このとき、伝搬光を直接的に第2の散乱体に入射可能なように第1の散乱体との間で相対的位置が調整されていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、基板中に入射側から出射側にかけて基板の平面視における形状が4回対称である第1の散乱体、基板の平面視における形状が4回非対称である第2の散乱体が順に設けることにより、第1の散乱体により滲出した近接場光及び上記入射された伝搬光を第2の散乱体により受けることで偏光成分の変換された出射光を放出する。
【0014】
これにより本発明では、無偏光から所望の偏光成分を50%以上の効率で得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した偏光変換板の全体斜視図である。
【図2】第1の散乱体並びに第2の散乱体の斜視図である。
【図3】基板内に配設された第1の散乱体並びに第2の散乱体の平面図である。
【図4】本発明を適用した偏光変換板により実現する偏光変換方法について説明するための図である。
【図5】、本発明を適用した偏光変換板における偏光効率向上のための理論的説明をするためのモデル図である。
【図6】式(3)、(5)に基づいて、時間の経過に対する電場強度の関係をシミュレーションした結果を示す図である。
【図7】本発明を適用した偏光変換板に対して実際に各偏光成分の光を入射させた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態として、所望の偏光成分を高い変換効率を以って変換する偏光変換板について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0017】
本発明を適用した偏光変換板1は、例えば図1に示すように、基板11と、この基板11中に配列させた第1の散乱体10、第2の散乱体20とを備えている。
【0018】
基板11は、例えばガラス等のような透光性材料で構成されている。このとき基板11は、第1層5と、第2層6とに区分されていてもよい。この第1層5は光の入射側に配置されてなり、また第2層6は、この偏光変換板1を透過した光の出射側に配置されている。これら第1層5、第2層6は、それぞれ同一の材料で構成されており、これら各層間が離間されているものではない。即ち、一のガラス板を板厚方向に2段に区分する際の一指標としてこれら第1層5〜第2層6を定義したのである。ちなみに、これら第1層5〜第2層6は、互いに別々に作製した上でこれらを貼り合わせて一枚の基盤11として構成するようにしてもよい。特にこの第1層5に関しては、これをさらに細かく板厚方向に分離した上でこれらを互いに貼り合わせるようにしてもよい。
【0019】
この第1層5には、第1の散乱体10がその内部に設けられ又は入射側表面に露出するようにして設けられている。第2層6は、第2の散乱体20がその内部に設けられている。
【0020】
図2は、第1の散乱体10並びに第2の散乱体20の斜視図を、また図3は、基板11内に配設された第1の散乱体10並びに第2の散乱体20について基板の平面視における形状を示している。この基板11の平面視の方向としては、図1、2に示すように基板11の表面に対する法線方向zに相当するものである。この平面視における形状を重要視する理由としては、通常、この偏光変換板1を介して偏光変換を行う場合に、伝搬光をz方向から入射させるようにするため、当該z方向における形状が偏光変換を行う上で支配的となるためである。
【0021】
第1の散乱体10は、例えばAl、Au等の材料からなり、図3に示すように平面視における形状が正方形となるように構成されている。但し、この第1の散乱体10の平面視における形状は、正方形に限定されるものではなく、円形でもよいし、八角形であってもよい。即ち、この第1の散乱体10の平面視における形状は、4回対称であればいかなる形状であってもよい。また、この第1の散乱体10の平面視における形状は、完全な4回対称である必要は無く、多少の非対称の部分が混在した略対称の形状で構成されていればよい。この散乱体10は、中央において開口10bが設けられている。この第1の散乱体10は、この正方形の一辺から−z方向に向けて突出部10aが設けられているが、当該突出部10aは必須ではない。また、この第1の散乱体10の板厚は、例えば30〜100nmであり、望ましくは40〜60nmで構成されていることが望ましい。また、この第1の散乱体10の幅wは、例えば30〜100nmであり、望ましくは40〜60nmで構成されていることが望ましい。
【0022】
第2の散乱体20は、例えばAl、Au等の材料からなり、図3に示すように平面視における形状がL字状となるように構成されている。但し、この第2の散乱体20の平面視における形状は、L字状に限定されるものではなく、長方形であってもよいし、三角形状であってもよいし、楕円形であってもよい。即ち、この第2の散乱体20の平面視における形状は、4回非対称であればいかなる形状であってもよい。また第1の散乱体10が完全に4回対称になっていない場合には、第2の散乱体20は、第1の散乱体10と比較してより非対称になっていればよい。また第2の散乱体20は、複数で単位ユニットを構成した例を示しているが、これに限定されるものではなく、単数で単位ユニットを構成してもよい。また3個以上の散乱体20で単位ユニットを構成するようにてもよいことは勿論である。
【0023】
第2の散乱体20は、−z方向に向けて段差が設けられているが、これについても必須ではない。また、この第2の散乱体20の段差の板厚は、例えば30〜100nmであり、望ましくは40〜60nmで構成されている。また、この第2の散乱体20の幅wは、例えば30〜100nmであり、望ましくは40〜60nmで構成されている。
【0024】
この第1の散乱体10と第2の散乱体20との間隔Gは、少なくとも第1の散乱体10において滲出した近接場光を受けることが可能な程度まで近接配置されている必要がある。例えば、この間隔Gは、分子サイズ以下、或いは回折限界以下で構成されていてもよい。この間隔Gは、例えば50〜300nmであり、望ましくは100〜200nmで構成されている。この間隔Gは、伝搬光における位相遅れにも影響を及ぼす。即ち、この間隔Gは、伝搬光における位相遅れをどの程度に設定するかという点と、第1の散乱体10において滲出した近接場光が接触可能かという点から最適となるように設計されることになる。
【0025】
また、この第1の散乱体10と第2の散乱体20の平面視における相対的位置関係は、図3に示すように第2の散乱体20は、第1の散乱体10によって一部遮蔽されることになる。しかし、第2の散乱体20は、第1の散乱体10によって遮蔽されていない領域については、基板11に入射した伝搬光が直接的に照射されることになる。即ち、この第1の散乱体10と第2の散乱体20の平面視における相対的位置関係は、少なくとも基板11に入射した伝搬光が直接的に入射可能に調整されていることが望ましい。
【0026】
次に、本発明を適用した偏光変換板1により実現する偏光変換方法について説明をする。図4に示すように、先ず無偏光の伝搬光を基板11における−z方向に向けて照射する。基板11内に入射された伝搬光の一部は、第1の散乱体10に入射される。第1の散乱体10に外部からの伝搬光が入射された場合には、これに基づいて近接場光が発生することになる。
【0027】
第1の散乱体10に近接場光が発生した場合には、第2の散乱体20にそれが接触するように間隔Gが設定されている。このため、第2の散乱体20は、この第1の散乱体10において滲出した近接場光が接触することになる。この近接場光は、伝搬光のように伝搬する性質を持たないものであることから、位相という概念が成り立たないものであり、位相遅れの無い状態で第2の散乱体20に接触することになり、これが誘導分極を起こすことになる。
【0028】
これに加えて第2の散乱体20には伝搬光が直接照射される。その結果、第2の散乱体20は、第1の散乱体10により滲出した近接場光による誘導分極に基づく電場と、直接的に入射された伝搬光による誘導分極に基づく電場とが加算されて、偏光成分の変換された出射光を放出する。即ち、入射された伝搬光が無偏光の光である場合に、この偏光変換板1を通過させることにより、図中x方向又はy方向の直線偏光成分の光を放出することが可能となる。しかもこの偏光効率は以下に説明するように、50%超のものとされている。
【実施例1】
【0029】
以下、本発明を適用した偏光変換板1における偏光効率向上のための理論的説明をする。
【0030】
先ず理論モデルとして、図5に示すような形状からなる第1の散乱体10、第2の散乱体20からなる偏光変換板1を考える。この第1の散乱体10は、球形からなり、平面視において4回対称の形状とされている。また、第2の散乱体20は平面視でL型で構成され、p:qは2:1で構成されている。このような理論モデル上の偏光変換板1において、仮想的に伝搬光を入射させる。
【0031】
この伝搬光が仮にx方向に偏光している直線偏光成分である場合、その電場を材料主軸a,bの方向に分割して表記すると下記(1)式で与えられる。
【0032】
EX-in=cosθ・|Ea|*sinwt +sinθ*|Eb|*sin wt・・・・・・・・(1)
【0033】
ここでθは材料主軸aとX偏光の電場方向がなす角である。ここで例えば材料主軸とX偏光が45度=π/4の角をなすとする。また材料主軸aとbは直交しているとする。そしてかかるx方向の直線偏光の光が入射された場合に上述したモデルで構成される偏光変換板1から出射されるX,Yの各偏光成分は、下記(2)、(3)式で与えられる。ちなみに(2)式は、x方向の直線偏光成分の電場強度であり、(3)式は、y方向の直線偏光成分の電場強度である。なお、この(2)、(3)式では、近接場光と伝搬光との第2の散乱体20への電場の寄与の割合は50%ずつとされている。また、材料主軸bはaに対し位相遅れπ/5を生じるとする。(このように位相遅れが生じる主軸を持つことは一般的であり、複屈折率と呼ばれる。)
【0034】
X偏光強度∝|EX-out2=(cos(π/4)*|Ea|*sin wt + sin(π/4)*|Eb|*sin(wt+π/5)+(2/√5* sin wt))2・・・・・・・・(2)
【0035】
Y偏光強度∝|EY-out2=(cos(π/4+π/2)*|Ea|*sin wt + sin(π/4+π/2)*|Eb|*sin(wt+π/5)+(1/√5* sin wt))2
=(-sin(π/4)*|Ea|*sin wt + cos(π/4)*|Eb|*sin(wt+π/5)+(1/√5* sin wt))2
=(cos(π/4)*|Eb|*sin wt - sin(π/4)*|Ea|*sin(wt+π/5)+(1/√5* sin wt))2・・・・・・・・(3)
【0036】
また、伝搬光が仮にy方向に偏光している直線偏光成分である場合、その電場は、下記(4)式で与えられる。
【0037】
EY-in= cos(π/4+π/2)*|Ea|*sinwt+ sin(π/4+π/2)*|Eb|*sin wt
= cos(π/4)*|Eb|*sinwt - sin(π/4)*|Ea|*sin wt
・・・・・・・・(4)
【0038】
また、かかるy方向の直線偏光の光が入射された場合に上述したモデルで構成される偏光変換板1から出射される各偏光成分は、下記(5)、(6)式で与えられる。ちなみに(5)式は、x方向の直線偏光成分の電場強度であり、(6)式は、y方向の直線偏光成分の電場強度である。
【0039】
|EX-out2=(cos(π/4)*|Ea|*sin wt + sin(π/4)*|Eb|*sin(wt+π/5)+(2/√5* sin wt))2・・・・・・・・(5)
【0040】
|EY-out2=(cos(π/4)*|Eb|*sin wt - sin(π/4)*|Ea|*sin(wt+π/5)+(1/√5* sin wt))2・・・・・・・・(6)
【0041】
上述した式(2)、(3)、(5)、(6)において、前段の(cos(π/4)*|Ea,b|*sin wt±sin(π/4)*|Eb,a|*sin(wt+π/5)が、伝搬光の成分である。この伝搬光の成分においてπ/5は位相遅れを仮定したものであって、上述した間隔Gに依拠したものとなっている。
【0042】
また、上述した式(2)、(3)、(5)、(6)において、後段の1/√5* sin wt、又は2/√5* sin wtは、近接場光の成分である。この近接場光は、伝搬しない性質であることからそもそも位相という概念が無く、位相遅れ自体が存在しない。ここで後段の近接場光の成分において、分子の“1”、“2”は、それぞれpとqの1:2に対応したものである。
【0043】
このような前段の位相遅れが含まれる伝搬光成分の電磁場と、後段の位相遅れの無い近接場光の電磁場とがこの第2の散乱体20において誘導分極され、偏光方向が変化した光が放出されることとなる。このため、第2の散乱体20から放出される光の強度は、伝搬光による電場と近接場光による電場の和を二乗したもので現される。
【0044】
ここで式(2)、(6)は、入射する伝搬光の偏光成分と、出射光の偏光成分が同一の方向である場合の電磁波の強度を示している。また式(3)、(5)は、入射する伝搬光の偏光成分と、出射光の偏光成分が互いに直交する合の電磁波の強度を示している。
【0045】
ここで入射する伝搬光の偏光成分がx方向への直線偏光であり、出射する伝搬光の偏光成分がy方向への直線偏光である式(3)のケースと、入射する伝搬光の偏光成分がy方向への直線偏光であり、出射する伝搬光の偏光成分がx方向への直線偏光である式(5)のケースとを比較する。図6は、この式(3)、(5)に基づいて、時間の経過に対する電場強度の関係をシミュレーションした結果である。この図6において横軸は時間を示すものであり、式(3)、(5)の“t”に該当する。また図6において、縦軸は、式(3)における|EY-out2と、式(5)における|EY-out2をそれぞれ示している。なお、参考のために、y方向における近接場光の光強度(1/√5* sin wt)を示す。(3)、(5)は、同じく図6中の近接場光の成分が加算されたものとなっている。
【0046】
この図6に示すように、式(3)に示すx方向からy方向へ変換された偏光成分の光強度が、式(5)に示すy方向からx方向へ変換された偏光成分の光強度よりも大きくなっているのが分かる。これは、式(3)の近接場光の成分が1/√5* sin wtであるのに対して、式(5)は、2/√5* sin wtであることに起因している。第1の散乱体10は、平面視において4回対称の形状とされていることから、発生する近接場光も特に大きく非対称になることはない。これに対して、第2の散乱体20は、4回非対称の形状とされていることから、これにより近接場光は分極の方向が非対称となるように散乱されることになる。そもそもこの式(3)、(5)の近接場光の成分の分子の差は、この第2の散乱体20の4回非対称な形状に基づくものである。その結果、式(3)に示すx方向からy方向へ変換された偏光成分の光強度と、式(5)に示すy方向からx方向へ変換された偏光成分の光強度との間で特定の偏光の偏りを持たせることができる。
【0047】
この図6に示す傾向では、(3)に示すx方向からy方向へ変換された偏光成分の光強度が、式(5)に示すy方向からx方向へ変換された偏光成分の光強度よりも偏光変換効率が高くなっている。これは無偏光の伝搬光が偏光変換板1に入射された場合においても50%を超える偏光効率を得ることが可能になることが示されている。
【0048】
また、各出力光の強度が、(伝搬光の成分+近接場光の成分)2とされている。仮にx方向の近接場光の成分が0.1、y方向の近接場光の成分が0.2とされているとする。近接場光のみでは、x方向とy方向との間で、0.2−0.1=0.1程度しか光強度の差異を出せないのに対し、本発明では、近接場光の成分と伝搬光の成分とを加算して二乗している。仮に伝搬光の成分がx方向、y方向ともに2である場合には、x方向の強度は、(2+0.1)2、y方向の強度は、(2+0.2)2であり、その差分値は、4.84−4.41=0.43となる。即ち、近接場光の成分のみならず、伝搬光の成分を加算しているため、近接場光のみの場合と比較して、x方向とy方向との間で強度の差異を明確に出すことができる。このx方向とy方向の強度の差異が、上述した偏光変換効率の上昇に寄与することになる。
【実施例2】
【0049】
図7は、本発明を適用した偏光変換板1に対して実際に各偏光成分の光を入射させた例を示している。この実験においては、波長を350nm程度から1300nmまでシフトさせてそれぞれの透過率を測定している。ちなみに、この光透過率の測定は、入射させた伝搬光の偏光方向がy方向で出力光の偏光方向がx方向(y→x)と、入射させた伝搬光の偏光方向がy方向で出力光の偏光方向がy方向(y→y)と、入射させた伝搬光の偏光方向がx方向で出力光の偏光方向がx方向(x→x)と、入射させた伝搬光の偏光方向がx方向で出力光の偏光方向がy方向(x→y)との4種類について行っている。
【0050】
例えば650nmの波長に着目したとき、x→xは95%、x→yは5%、y→xは13%、y→yは62%であった。このためx方向とy方向が仮に1:1の割合で混在した伝搬光を入射させた場合において、出力光の偏光方向がxの場合には、(95+13)/2=54%、出力光の偏光方向がyの場合には、(5+62)/2=33.5%となり、無偏光の光が入射された場合であっても偏光方向がx方向の光を50%以上の効率を以って出射させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0051】
1 偏光変換板
5,6 層
10 第1の散乱体
10a 突出部
10b 開口
11 基板
20 第2の散乱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板中に入射側から出射側にかけて上記基板の平面視における形状が4回略対称である第1の散乱体、上記基板の平面視における形状が4回非対称である第2の散乱体が順に設けられ、
上記第1の散乱体は、入射された伝搬光に基づいて近接場光を滲出させ、
上記第2の散乱体は、上記第1の散乱体により滲出した近接場光及び上記入射された伝搬光を受けて偏光成分の変換された出射光を放出すること
を特徴とする偏光変換板。
【請求項2】
上記第2の散乱体は、上記伝搬光を直接的に入射可能なように上記第1の散乱体との間で相対的位置が調整されていること
を特徴とする請求項1記載の偏光変換板。
【請求項3】
基板中に入射側から出射側にかけて上記基板の平面視における形状が4回略対称である第1の散乱体、上記基板の平面視における形状が4回非対称である第2の散乱体を順に設け、
上記第1の散乱体により、入射された伝搬光に基づいて近接場光を滲出させ、
上記第2の散乱体により、上記第1の散乱体により滲出した近接場光及び上記入射された伝搬光を受けて偏光成分の変換された出射光を放出すること
を特徴とする偏光変換方法。
【請求項4】
上記伝搬光を直接的に第2の散乱体に入射可能なように第1の散乱体との間で相対的位置が調整されていること
を特徴とする請求項3記載の偏光変換方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−189651(P2012−189651A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50882(P2011−50882)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、低損失オプティカル新機能部材技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】