説明

偏光素子

【課題】微小構造体の形状や配置条件を制御することにより、設計どおりの変更制御特性が得られる偏光素子を提供する。また、偏光成分の制御された近接場光を出射光として得られる偏光素子を提供する。
【解決手段】ガラス層12内に、X方向に延長されてなる微小構造体11が配列される。複数個の微小構造体11を互いに離間させた状態でX方向に向けて配列させて構成される第1の構造体列13と第2の構造体列14とが、Y方向に交互に配列される。第1の構造体列13における微小構造体の長軸方向の一端部11aからY方向に、第2の構造体列において互いに隣り合う微小構造体のうちの一方の微小構造体の長軸方向の他端側が位置するとともに、当該第1の構造体列における微小構造体の他端部からY方向に、当該互いに隣り合う微小構造体のうちの他方の微小構造体の一端側が位置するように、各微小構造体が配列される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光計測、光通信、光記録等の分野において使用するのに好適な偏光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、広汎な分野で使用されている液晶パネルなどのディスプレイデバイス、各種光計測技術、光デバイス、光システムにおいては、種々のタイプの偏光素子が使用されている。この偏光素子は、入射光の偏光成分のうち特定方向の偏光成分のみを透過させたり、偏光成分の位相を変調させることによって、偏光状態を様々に制御させることを可能とするものであり、光を利用して動作する光デバイスにおいては、非常に重要な光学素子となっている。
【0003】
このような偏光素子としては、例えば、偏光子、1/2波長板や1/4波長板等がある。偏光子は、入射光の偏光成分のうち特定方向の偏光成分のみを透過させ、自然偏光を直線偏光に変換可能とする光学素子のことをいう。また、1/2波長板は、直線偏光の偏光方向を、それと略直交する偏光方向に変換させる光学素子である。また、1/4波長板は、入射光の直交する二方向の偏光成分の位相差を90°変換させる光学素子であり、直線偏光を円偏光や楕円偏光に変換したり、円偏光等を直線偏光に変換可能とする。
【0004】
ところで、近年においては、ノートパソコンや携帯電話を初めとした光デバイスの超小型化が要請されており、偏光子や1/2波長板等の偏光素子についても同様に、ナノメータサイズまで超小型化させる必要が生じている。
【0005】
このような背景のもと、従来より提案されている偏光素子としては、例えば特許文献1に示すような、光の相互作用を利用した偏光素子が提案されている。
【0006】
この特許文献1に開示されている偏光素子は、入射光の波長以下の領域に配置され、かつ周期的に配列されている二つ以上の金属微小構造体で構成された金属複合構造体を基板上に形成することによって構成される。この特許文献1における偏光素子に対して入射光が照射された場合、入射光中の偏光成分によって金属微小構造体内でプラズモンが励起され、複数の金属微小構造体で励起されているプラズモン間で相互作用が生じることによって、入射光中の直交する二方向の偏光成分に対して位相差を生じさせて、光を透過等させることになる。
【特許文献1】特開2006−330105号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このように金属の微小構造体を基板上又は基板内に配置して構成される偏光素子は、偏光素子内の微小構造体の寸法、形状や配置条件等の各要素が相互に複雑に関連することによって、特定の偏光制御特性が得られる。特定の偏光制御特性を得るために、実際にどのような形状、配置条件等のパラメータを設定すべきかは、未だ未解明な部分が数多く残されており、従来における偏光素子においては、これら微小構造体の形状や配置条件等が偏光制御特性に及ぼす影響が十分に考慮されていなかった。このため、設計どおりの偏光制御特性が得られにくくなっていたという問題が生じていた。
【0008】
また、微小構造体の形状等の各要素と偏光素子の偏光制御特性との相関性が未解明であることに伴い、入射光と出射光との間における変換効率の改善が非常に困難であった。このように、変換効率が減少してしまうと、例えば、液晶パネルのような偏光素子を利用した液晶デバイスの場合に、ディスプレイの明るさを得るために、光源の出力を増加させる必要があり、これに伴って光デバイス全体の消費電力が増加してしまっていた。この光デバイスの消費電力の増加は、例えば携帯電話等の情報機器のバッテリー持続時間に直結するものであり、情報サービスに利用される光デバイスの利便性に悪影響を及ぼしていた。
【0009】
また、近年においては、いわゆる近接場光を用いたナノ光デバイスや、これを用いたナノ光システムの進展が期待されており、これらナノ光デバイスにおいて利用される近接場光の偏光成分を制御可能とする偏光素子が望まれている。しかしながら、従来において提案されている偏光素子は、その偏光素子を介して出射される光を偏光成分の制御された伝搬光として利用可能に構成されているのみであり、近接場光として出射される光の偏光成分を制御可能に構成されたものではなかった。
【0010】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、偏光素子内の微小構造体についての形状や配置条件等を制御することにより、設計どおりの偏光制御特性が得られる偏光素子を提供することにある。また、本発明の目的とするところは、偏光成分の制御された近接場光を出射光として得られる、近接場光を利用した光デバイス、光システムに好適な偏光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決するために、本願請求項1に係る発明のように、入射される伝搬光の偏光成分を特定の偏光成分に変換可能とする偏光素子において、透光性を有する平板状のガラス層と、上記ガラス層内に配列され、当該ガラス層内の一方向に延長されてなる微小構造体とを備え、複数個の上記微小構造体を互いに離間させた状態で上記微小構造体の長軸方向に向けて配列させて構成される第1の構造体列と第2の構造体列とが、当該長軸方向に直交する長軸直交方向に向けて交互に配列され、上記微小構造体は、上記第1の構造体列における微小構造体の長軸方向の一端部から上記長軸直交方向に、上記第2の構造体列において互いに隣り合う微小構造体のうちの一方の微小構造体の長軸方向の他端側が位置するとともに、当該第1の構造体列における微小構造体の他端部から上記長軸直交方向に、上記第2の構造体列において互いに隣り合う微小構造体のうちの他方の微小構造体の一端側が位置するように配列されてなることを特徴とする偏光素子を発明した。
【0012】
また、本願請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、上記微小構造体は、1μm以下のサイズから構成されることを特徴とする。
【0013】
また、本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、長軸方向又は長軸直交方向に互いに隣接する上記微小構造体間の間隔は、入射される伝搬光の波長の1/4以下で構成されることを特徴とする。
【0014】
また、本願請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか1項記載の発明において、上記微小構造体は、上記微小構造体の長軸方向と略同一方向の偏光成分の伝搬光が入射された場合に、互いに隣り合う上記構造体列間において長軸直交方向の電場成分が互いに逆向きの一対の電気双極子モーメントを生じさせるとともに、当該一対の電気双極子モーメントに基づき、出射側において上記長軸直交方向の偏光成分を有する近接場光を滲出させるように配列されてなることを特徴とする。
【0015】
また、本願請求項5に係る発明は、請求項1〜4の何れか1項記載の発明において、上記第1の構造体列における微小構造体の長軸方向の一端側の端部の下方と、上記第2の構造体列における微小構造体の長軸方向の他端側の端部の下方とに対して、上記長軸直交方向に延長されてなる棒状微小構造体の両端部が近接配置されてなることを特徴とする。
【0016】
また、本願請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明において、上記微小構造体の端部と上記棒状微小構造体の端部との間の間隔は、上記微小構造体の長軸方向と略同一方向の偏光成分の伝搬光が入射された場合に、上記微小構造体の表面に生じる近接場光の厚み以下で構成されていることを特徴とする。
【0017】
また、本願請求項7に係る発明は、入射される伝搬光の偏光成分を特定の偏光成分に変換可能とする偏光素子において、透光性を有する平板状のガラス層と、上記ガラス層内に配列され、当該ガラス層内の一方向に延長されてなる中間部と、上記中間部の長軸方向の一端側の端部から上記一方向と直交する方向に延長されてなる第1凸部と、上記中間部の長軸方向の他端側の端部から上記第1凸部と反対向きに延長されてなる第2凸部とを有する微小構造体とを備え、複数個の上記微小構造体を互いに離間させた状態で上記一方向に向けて配列させて構成される構造体列が、当該一方向に直交する方向に向けて複数列に亘って配列されていることを特徴とする偏光素子である。
【0018】
また、本願請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明において、互いに隣接する微小構造体間の間隔は、入射される伝搬光の波長λ以下で構成されることを特徴とする。
【0019】
また、本願請求項9に係る発明は、請求項8に係る発明において、互いに隣接する微小構造体間の間隔は、入射される伝搬光の波長の1/4以下で構成されることを特徴とする。
【0020】
また、本願請求項10に係る発明は、請求項7〜9の何れか1項記載の発明において、上記微小構造体は、伝搬光が入射された場合に、上記第1凸部及び上記第2凸部においてその長軸方向に振動する電流を発生させるとともに、その電流によるダイポールに基づき、出射側において当該第1凸部及び第2凸部の長軸方向の偏光成分を有する伝搬光を放射するよう構成されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本願請求項1に係る発明は、例えばX方向の偏光成分のみを有する直線偏光を照射した場合に、各微小構造体11内でその長軸方向に沿った電流が流れて、両端部11a、11bにおいて分極が生じる。この分極によって、構造体郡16中における各微小構造体11間に電位差が生じて、Y方向に互いに隣接する微小構造体11間において、互いに逆向きのY方向の電場成分を有する一対の電気双極子モーメントA1、A2が形成される。この互いに逆向きの一対の電気双極子モーメントA1、A2によって、電気四重極子に類似の状態が形成され、Y方向の伝搬光が生じないことになる。他方で、電気双極子モーメントA1、A2の近傍には、それぞれの電気双極子モーメントからの放射、すなわちY方向の偏光成分を有する近接場光が生じている。
【0022】
本願請求項5に係る発明は、例えばX方向の偏光成分のみを有する直線偏光を照射した場合に、微小構造体22の下端近傍から、Y方向の偏光成分を有する近接場光が滲出される。これによって、棒状微小構造体に対して、その長軸方向に沿った電流が流れ、これにより、棒状微小構造体からY方向の偏光成分を有する伝搬光が放射される。
【0023】
本願請求項7に係る発明は、X方向、Y方向の何れの偏光成分を有する伝搬光を照射した場合においても、第1凸部34及び第2凸部35においてその長軸方向に振動する電流を発生させ、その電流によるダイポールに基づき、出射側において第1凸部34及び第2凸部35の長軸方向の偏光成分を有する伝搬光を放射する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を適用した偏光素子に関し、図面を参照にしながら詳細に説明する。
【0025】
第1の実施の形態
【0026】
まず、本発明を適用した第1の実施の形態である、例えば図1に示すような偏光素子10について説明する。
【0027】
偏光素子10は、平板状のガラス層12と、ガラス層12内に配列される微小構造体11とから構成されている。この偏光素子10に対しては、ガラス層12の板厚方向における一面側を入射側、他面側を出射側として、図1(a)に示す矢印方向に向けて伝搬光が照射される。これによって入射される伝搬光の偏光成分は、偏光素子10を介して出射側において特定の偏光成分に変換されることになる。
【0028】
このガラス層12は、透光性を有するものであり、例えば石英ガラス、パイレックス(登録商標)などの硼珪酸ガラスや、ポリエチレンテレフタラート、カプトン等のプラスチック、或いはCaF、Si、ZnSe、AlOなどの材料等によって具体化される。
【0029】
微小構造体11は、ガラス層12内における略同一平面内に2次元的に配列されており、その形状は、当該ガラス層12内における一方向に延長されて構成されている。以下、この微小構造体11の長軸方向をX方向というものとする。
【0030】
この微小構造体11の材質は、光を照射された場合に微小構造体11内において電子を励起可能な吸収体であればよく、例えばAu、Ag、Pt、Cu、Al等、またはこれら金属の合金によって具体化される。また、微小構造体11の形状は、ガラス層12内においてX方向に延長された形状からなるものであればよく、本実施の形態のような略矩形の形状の他に、略楕円形、略菱形等の形状であってもよい。
【0031】
図2は、この微小構造体11の構成の模式図である。この図2に示すように、微小構造体11のサイズは、長さR1、幅d1、高さH1で表現することができるものとする。本発明を適用した偏光素子10においては、微小構造体11の長さR1、幅d1や高さH1のサイズは、後述するように、微小構造体11に対して近接場光を発生させる必要があるので、それぞれ1μm以下で構成されることが好ましい。
【0032】
ガラス層12内においては、複数個の微小構造体11を互いに離間させた状態でX方向に向けて配列させて第1の構造体列13と第2の構造体列14とが構成されている。また、ガラス層10内においては、この第1の構造体列13と第2の構造体列14とが、微小構造体11の長軸方向に直交する長軸直交方向(以下、Y方向という。)に交互に配列されている。なお、ここでいう第1の構造体列13と第2の構造体列14とは、Y方向に複数列に亘って配列される微小構造体の構造体列を、一列毎に区分する際の一指標として定義したものである。
【0033】
この第1、第2の構造体列13、14の各微小構造体11は、第1の構造体列13における微小構造体11のX方向の一端部11aからY方向に、第2の構造体列14において互いに隣合う微小構造体11のうちの一方の微小構造体11のX方向の他端側11bが位置するとともに、当該第1の構造体列13における微小構造体11のX方向の他端部11bからY方向に、当該第2の構造体列において互いに隣り合う微小構造体11のうちの他方の微小構造体11の一端側11aが位置するように配列されている。なお、ここでいう一端側11a、他端側11bとは、微小構造体の長軸方向の中心部を基準として、微小構造体11の一端部11a寄りの部位を一端側11a、他端部11b寄りの部位を他端側11bとして定義したものである。
【0034】
このことを、図1(b)を例に説明すると、第1の構造体列13における微小構造体11AのX方向の一端部11aからY方向には、第2の構造体列14において互いに隣り合う微小構造体11B、11Cのうちの一方の微小構造体11BのX方向の他端側11bが位置している。また、微小構造体11AのX方向の他端部11bからY方向には、互いに隣り合う微小構造体11B、11Cのうちの他方の微小構造体11CのX方向の一端側11aが位置している。
【0035】
上述のような微小構造体11の配置条件を充たすように、第1の構造体列13及び第2の構造体列14における各微小構造体11は配列されることになる。なお、上述した例では、第1の構造体列13と、この第1の構造体列13に対して隣接するから一列の第2の構造体列14と間における微小構造体11の配置条件について説明したが、この第1の構造体列13に対して二列の第2の構造体列14が隣接する場合は、この第2の構造体列14との間においても、同様の配置条件を充たすように配列されることになる。
【0036】
このような構成からなる偏光素子10の一面側に対して、微小構造体11の長軸方向と略同一方向(X方向)の偏光成分のみを有する光を入射した場合の作用効果について説明する。
【0037】
この場合、この入射光と微小構造体11中の自由電子との間での相互作用に基づいて、微小構造体11内では、その長軸方向に沿って、入射光の振動に応じて振動する電流が流れる。これに伴って、微小構造体11の長軸方向における両端部11a、11bにおいては、図3(a)に示すように、互いに異なる極性の電荷が周期的に現れて、分極が生じる。
【0038】
何れの微小構造体11においても、図3(b)に示すように同様の分極が生じており、これによって、X方向並びにY方向に互いに隣接する微小構造体11間で電位差が生じ、各微小構造体11間で電気双極子モーメントA1、A2及びA3が形成される。なお、Y方向に互いに隣接する微小構造体11間においては、一つの微小構造体11(図3(b)の中心に位置する微小構造体11)の一端部11aと他の微小構造体11の他端部11bとの間に電気双極子モーメントA1が形成され、当該一つの微小構造体11の他端部11bと他の微小構造体11の一端部11aとの間に電気双極子モーメントA2が形成される。また、X方向に互いに隣接する微小構造体11間においては、同一の向きの電気双極子モーメントA3が形成される。
【0039】
ここで、X方向に互いに隣接する各微小構造体11間においては、同様の向きからなる電気双極子モーメントA3が生じているため、これら電気双極子モーメントA3の総和としてガラス層12内で電気双極子モーメントが生じることになる。この電気双極子モーメントは、X方向に振動していることから、偏光素子10に光を入射した面と反対側(出射側)において、X方向の偏光成分を有する伝搬光を放射することになる。
【0040】
また、図3(b)に示すような領域15内においては、そのY方向の電場成分が互いに逆向きの電気双極子モーメントA1と電気双極子モーメントA2とが互いに隣接して存在している。このため、領域15内においては、電気双極子モーメントA1及びA2のY成分によって、電気四重極子に類似の状態が形成されることになる。この場合において、遠隔場領域においては、互いに隣接する電気双極子モーメントA1、A2とが打ち消し合うため、Y方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されない。これに対して、電気双極子モーメントA1、A2の近傍においては、それぞれの電気双極子モーメントからのY方向成分の放射、即ちY方向の偏光成分を有する近接場光が生じる。
【0041】
即ち、X方向の偏光成分のみを有する直線偏光を偏光素子10に対して入射させると、出射側においては、X方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されるとともに、Y方向の偏光成分を有する近接場光が滲出されることになる。
【0042】
このように、本発明を適用した偏光素子10は、偏光素子10内の微小構造体12についての形状や配置条件等を制御することにより、X方向の偏光成分からなる伝搬光を入射時に、Y方向の偏光成分からなる近接場光を放射可能に構成されている。このような偏光制御特性は、X方向の偏光成分を有する直線偏光を入射した場合に、Y方向に互いに隣接する構造体列間に、互いに逆向きの一対の電気双極子モーメントをX方向に向けて連続して発生させるようにして発揮されている。このような状況を実現するためには、第1、第2の構造体列13、14の各微小構造体11が、第1の構造体列13における微小構造体11のX方向の一端部11aからY方向に、第2の構造体列14において互いに隣り合う微小構造体11のうちの一方の微小構造体11の他端側が位置するとともに、当該第1の構造体列13における微小構造体11のX方向の他端部からY方向に、当該第2の構造体列14において互いに隣り合う微小構造体11のうちの他方の微小構造体11の一端側が位置するように配列されていればよい。
【0043】
因みに、近接場光は、物体の表面にまとわりついて局在する非伝搬光であり、物体の表面に対してその物体の寸法と同程度の厚みt1をもった領域内に発生している。このため、偏光素子10の出射側から滲出されている近接場光を利用するためには、この近接場光が発生している領域内に、近接場光に基づいて動作する光デバイスを近接配置する必要がある。これによって、この滲出している近接場光が、光デバイスに対して伝搬することになり、これよって光デバイスを動作可能となる。
【0044】
また、図1(b)に示すような、互いにX方向に隣接する微小構造体11の間の間隔をL1とし、また、互いにY方向に隣接する微小構造体11の間の間隔をL2とした場合、これらL1やL2が波長λの1/4超で構成されていると、出射側に放射される伝搬光成分が増加することになり、望ましくない。このためこれらL1やL2は、入射される伝搬光の波長λの1/4以下で構成されていることが望ましい。
【0045】
また、上述した各実施の形態に係る微小構造体11の製造においては、様々な方法を適用して実現できる。例えば電子ビームリソグラフィ技術を用いた直接描画による方法や、DUV(遠紫外線)、EUV(深紫外線)リソグラフィ技術による一括露光を行う方法、モールドと呼ばれる型を用い、熱をかけて押し付けるナノインプリンティング技術などが適用できる。また、相変化材料や遷移金属酸化物材料にレーザー光を照射することにより、材料特性を変化させ、エッチンググレードの違いを利用してエッチングする手法も適用できる。
【0046】
また、図1等においては、この微小構造体11が空気中に剥き出しになっているが、微小構造体11全体がガラス層10中に完全に埋め込まれていてもよいのは勿論である。
【0047】
因みに、偏光素子10の一面側に対して、微小構造体11の長軸方向と略直交方向(Y方向)の偏光成分のみを有する光を照射する場合の作用効果についても説明する。
【0048】
この場合、この入射光と微小構造体11中の自由電子との間での相互作用に基づいて、微小構造体11内では、その幅方向に沿って、入射光の振動に応じて振動する電流が流れる。これに伴って、微小構造体11の幅方向における両端部11c、11dにおいては、図4(a)に示すように、互いに異なる極性の電荷が周期的に現れて、分極が生じる。
【0049】
何れの微小構造体11においても、図4(b)に示すように同様の分極が生じており、これによって、Y方向に互いに隣接する微小構造体11間で電位差が生じ、各微小構造体11間で電気双極子モーメントA4及びA5が形成される。なお、Y方向に互いに隣接する微小構造体11間においては、一つの微小構造体11(図4(b)の中心に位置する微小構造体11)の一端部11aと他の微小構造体11の田端部11bとの間で電気双極子モーメントA4が形成され、当該一つの微小構造体11の他端部11bと他の微小構造体11の一端部11aとの間で電気双極子モーメントA5が形成される。また、X方向に互いに隣接する微小構造体11との間においては、端部11a、11bとで生じる分極の電荷の極性が互いに同じであることから電位差が生じない。
【0050】
ここで、図4(b)に示すような領域16内においては、そのX方向の電場成分が互いに逆向きの電気双極子モーメントA4とA5とが互いに隣接して存在している。このため、領域16内においては、電気双極子モーメントA4及びA5のX方向成分によって、電気四重極子と同様の状態が形成されることになる。このため、遠隔場領域においては、互いに隣接する電気双極子モーメントA1、A2とが打ち消し合うため、X方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されない。これに対して、電気双極子モーメントA1、A2の近傍においては、それぞれの電気双極子モーメントからのX方向成分の放射、即ちX方向の偏光成分を有する近接場光が生じる。
【0051】
また、電気双極子モーメントA4及びA5のY方向成分は、何れも同一向きに形成されている。このため、Y方向に互いに隣接する各微小構造体11間において、同様の向きからなる電気双極子モーメントA4、A5が生じているため、これら電気双極子モーメントの総和としてガラス層12内で大きなY方向成分の電気双極子モーメントが生じることになる。この電気双極子モーメントは、Y方向に振動していることから、出射側において、Y方向の偏光成分を有する伝播光を放射することになる。
【0052】
即ち、Y方向の偏光成分のみを有する直線偏光を偏光素子10に対して入射させると、出射側においては、Y方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されるとともに、X方向の偏光成分を有する近接場光が滲出されることになる。
【0053】
第2の実施の形態
【0054】
次に、本発明を適用した第2の実施の形態である、図5に示すような、偏光素子20について説明する。
【0055】
第2の実施の形態である偏光素子20は、平板状のガラス層21と、ガラス層21内に配列される微小構造体22及び棒状微小構造体23とから構成される。
【0056】
このガラス層21は、図5(b)に示すように、入射側から出射側にかけて板厚方向に第1層24、第2層25に区分されている。この第1層24と第2層25とは、一のガラス層21を板厚方向に2段に区分する際の一指標として定義したものであり、これら2層が一枚のガラス層21として作成していても、各々の層を別々に製作した上でこれらを貼り合わせて構成するようにしてもよい。なお、これらの層を構成する材質は、第1の実施の形態で説明したガラス層12と同様の材質によって具体化される。
【0057】
この微小構造体22は、第1の実施の形態で説明した微小構造体11と同様の大きさ、材質から構成されている。
【0058】
第1層24内においては、第1の実施の形態で説明した偏光素子10と同様に、複数個の微小構造体22を互いに離間させた状態でX方向に向けて配列させて第1の構造体列26と第2の構造体列27とが構成されている。この第1、第2の構造体列26、27は、Y方向に交互に配列されている。また、第1、第2の構造体列26、27の微小構造体22は、第1の構造体列26における微小構造体22のX方向の一端部22aからY方向に、第2の構造体列27において互いに隣り合う微小構造体22のうちの一方の微小構造体22のX方向の他端側22bが位置するとともに、当該第1の構造体列26における微小構造体22のX方向の他端部22bからY方向に、当該第2の構造体列27において互いに隣り合う微小構造体22のうちの他方の微小構造体22の他端側22bが位置するように配列されている。
【0059】
第2層25内においては、図5(b)に示すように、Y方向に延長されてなる棒状微小構造体23が配列されている。なお、この棒状微小構造体23の材質等は、第1の実施の形態で説明した微小構造体11の構成と同様の構成からなる。また、この棒状微小構造体23は、長軸方向に長さR4で構成されるものとする、
【0060】
この棒状微小構造体23は、図5(a)や図5(c)に示すように、その長軸方向の両端部23aが、第1の構造体列26における微小構造体22の長軸方向の一方の端部22bの下方と、第2の構造体列27における微小構造体22の長軸方向の他方の端部22aの下方とに対して近接配置されている。
【0061】
このような構成からなる偏光素子20の一面側に対して、微小構造体22の長軸方向と略同一方向(X方向)の偏光成分のみを有する光を入射した場合の作用効果について説明する。
【0062】
この場合、第1層24においては、第1層24の構造が第1の実施の形態で説明した偏光素子10と同様の構成からなることから、出射側において、Y方向の偏光成分を有する近接場光が滲出されることになる。このY方向の偏光成分を有する近接場光は、第2層25の棒状微小構造体23に対して伝搬して、図6(b)に示すように各棒状微小構造体23内で、その長軸方向に沿った電流が流れる。これに伴って、棒状微小構造体23の長軸方向における両端部において、互いに異なる極性の電荷が周期的に現れて、分極が生じることになる。何れの棒状微小構造体23においても、図6(b)に示すような分極が同様に生じているため、この棒状微小構造体23に生じる分極によるダイポールに基づき、出射側においてY方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されることになる。
【0063】
このように、偏光素子20に対してX方向の偏光成分のみを有する入射光を照射した場合、第1層24の出射側においてY方向の偏光成分を有する近接場光として滲出され、更にこの近接場光が第2層25を介することによって第2層25の出射側よりY方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されることになる。
【0064】
このようにして構成される偏光素子20は、第1層24内における微小構造体22の二次元的な形状や配置条件のみならず、第2層25内における棒状微小構造体23の形状や配置条件を含めた三次元的な形状、配置条件を考慮したうえで構成されている。微小構造体をガラス層内に配列して構成される偏光素子においては、微小構造体の三次元的な形状、配置条件を考慮した上で、偏光素子を構成することが難しいとされているが、本発明を適用した偏光素子20によって三次元的な形状、配置条件を考慮したうえで、所定の偏光制御特性が得られるようになっている。
【0065】
なお、近接場光は、物体の表面に対して、その物体の寸法と同程度の厚みt1をもった領域内に発生している。このため、第1層内の微小構造体22の下端部と、第2層内の棒状微小構造体23の上端部との間隔G3は、第1層24の微小構造体22で滲出される近接場光が、第2層25の棒状微小構造体25に対して伝搬可能となるように、近接場光の厚みt1以下で構成されていればよい。また、図5においては、第1層24内の微小構造体22の端部22a、22bの直下に、第2層25内の棒状微小構造体23の端部23aが位置するように構成されているが、特にこれに限定するものではない。
【0066】
ここで、近接場光は、階層性と呼ばれる性質を有している。この近接場光の階層性とは、扱う系のスケールの大小によって、近接場光による電場強度等の各種性能が変化することをいう。この階層性は、例えば、物体の表面に発生する近接場光の厚みや、近接場光の電場強度がピークを示す物体表面からの距離等が、その近接場光が生じている物体のサイズに応じて定まることによって示される。この近接場光の階層性は、偏光素子20においては、第1層24の微小構造体22の長さR1が変化した場合に示され、長さR1が長くなるにつれて、電場強度がピークを示す距離や、電場強度の損失の割合も変化することによって示される。このため、この棒状微小構造体23の端部は、微小構造体22の端部の下方であって、近接場光の階層性と微小構造体22のサイズとに基づいて定まる電場強度がピークを示す位置に配置するのが望ましい。これによって、棒状微小構造体23から出射側において放射される伝搬光の電場強度が向上することになり、ひいては偏光素子20の変換効率の向上につながる。
【0067】
第3の実施の形態
【0068】
次に、本発明を適用した第3の実施の形態である、図7に示すような、偏光素子30について説明する。
【0069】
第3の実施の形態である偏光素子30は、平板状のガラス層31と、ガラス層31内に配列される微小構造体32とから構成されている。なお、ガラス層31は、第1の実施の形態におけるガラス層21と同様の材質からなる。
【0070】
図8は、この微小構造体32の構成の模式図である。微小構造体32は、X方向に延長されてなる中間部33と、中間部33の一端側33aからY方向に延長されてなる第1凸部34と、中間部33の他端側33bから第1凸部34と反対方向に延長されてなる第2凸部35とから構成されている。
【0071】
この微小構造体32は、中間部33の長さR2、第1凸部及び第2凸部の長さR3、幅d2、高さH2で表現することができるものとする。本発明を適用して偏光素子30において、微小構造体32の長さR2、R3、幅d2及び高さH2は、特に限定しないが、光を照射した場合にこの光と微小構造体32内の自由電子との間で相互作用を発生させるために1μm以下で構成されることが好ましい。また、この微小構造体32の材質等は、第1の実施の形態において説明した微小構造体11と同様の構成からなる。
【0072】
ガラス層31内においては、複数個の微小構造体32を、略同一の配向状態で互いに離間させ、X方向に向けて配列させて構造体列36が構成されている。また、この構造体列36は、Y方向に向けて複数列に亘って配列されている。
【0073】
このような構成からなる偏光素子30の作用効果について説明する。
【0074】
まず、偏光素子30の一面側に対して、微小構造体32の中間部33の長軸方向と略同一方向(X方向)の偏光成分のみを有する光を入射した場合の作用効果について説明する。
【0075】
この場合、この入射光と微小構造体32中の自由電子との間の相互作用に基づいて、主として微小構造体32の中間部33内において、その長軸方向に沿って、入射光の振動に応じて振動する電流が流れる。これに伴って、中間部33の長軸方向における両端部33a、33bにおいては、図9(a)に示すように、互いに異なる極性の電荷が周期的に現れて、分極が生じる。また、中間部の両端部33a、33bに生じる分極によって、第1凸部34の先端部34aや、第2凸部35の先端部35aにおいても分極が生じる。
【0076】
何れの微小構造体33においても、図9(b)に示すように同様の分極が生じており、これによって、互いに隣接する微小構造体33間で電位差が生じ、微小構造体33間で電位差が生じ、各微小構造体33間で電気双極子モーメントC1、C2及びC3が形成される。なお、Y方向に互いに隣接する微小構造体33間においては、一つの微小構造体32の第1凸部34の先端部34a並びに中間部33の他端33bと、他の微小構造体32の中間部33の一端33a並びに第2凸部35の先端部35aとの間に電気双極子モーメントC1が形成される。また、X方向に互いに隣接する微小構造体33間においては、一つの微小構造体32の中間部33の一端33aと、他の微小構造体32の中間部の他端33bとの間に電気双極子モーメントC2が形成される。また、XY平面における斜め方向において互いに隣接する微小構造体32間においては、一つの微小構造体32の第1凸部34の先端部34aと、他の微小構造体32の第2凸部35の先端部35aとの間に電気双極子モーメントC3が形成される。
【0077】
ここで、何れの微小構造体33間においても、微小構造体33の第1凸部34及び第2凸部35において、その長軸方向(Y方向)に振動する略同一の分極状態が生じており、この分極によって生じるダイポールによって偏光素子30の出射側において、第1凸部34及び第2凸部35の長軸方向(Y方向)の偏光成分を有する伝搬光が放射されることになる。
【0078】
次に、偏光素子30の一面側に対して、微小構造体32の中間部33の長軸方向と略直交方向(Y方向)の偏光成分のみを有する光を照射した場合の作用効果について説明する。
【0079】
この場合、この入射光と微小構造体32中の自由電子との間の相互作用に基づいて、主として微小構造体32の第1凸部34及び第2凸部35内において、その長軸方向に沿って、入射光の振動に応じて振動する電流が流れる。これに伴って、第1凸部34の先端部34aと中間部33の一端33aとの間、並びに中間部33の他端33bと第2凸部35の先端部35aとの間において、図10(a)に示すように、互いに異なる極性の電荷が周期的に現れて、分極が生じる。また、X方向の直線偏光を入射した場合と同様の分極状態が各微小構造体32に生じることから、これに伴って各微小構造体32間に、電気双極子モーメントC1、C2及びC3も生じることになる。
【0080】
ここで、何れの微小構造体33間においても、微小構造体33の第1凸部23及び第2凸部35において、その長軸方向(Y方向)に振動する略同一の分極状態が生じており、この分極によって生じるダイポールによって偏光素子30の出射側において、第1凸部34及び第2凸部35の長軸方向(Y方向)の偏光成分を有する伝搬光が放射されることになる。
【0081】
このように、本発明を適用した偏光素子30は、X方向の偏光成分のみからなる直線偏光、またはY方向の偏光成分のみからなる直線偏光の何れの光を入射した場合においても、第1凸部34及び第2凸部35においてその長軸方向(Y方向)に振動する電流を発生させ、その電流によるダイポールに基づき、出射側において、第1凸部34及び第2凸部35の長軸方向(Y方向)の偏光成分を有する伝搬光が放射されることになる。偏光素子30は、このような偏光制御特性を、簡単な構造からなる微小構造体33を所定の配置条件でガラス層31内に配列することによって実現している。
【0082】
なお、本発明を適用した偏光素子30の上述のような偏光制御特性は、各微小構造体間で生じる電気双極子モーメントではなく、微小構造体33の第1凸部34及び第2凸部35内においてその長軸方向に振動する電流によるダイポールに基づいて発揮されている。このため、ガラス層31内において各微小構造体33は、略同一の配向状態で配列されていればよく、各微小構造体の相互の位置関係は特に限定するものではない。このため、例えば、各微小構造体33は、上述したような正方格子状をなす配列パターンの他に、直方格子状、三角格子状、ストライプ状、同心円状等をなして周期的に配列されていてもよいし、ランダムに配列されていてもよい。なお、微小構造体33がストライプ状に配列される場合における、各微小構造体33がなすストライプ(縞)間の間隔や、微小構造体33が同心円状をなして配列されている場合における、各微小構造体33がなす各同心円間の間隔は、互いに異なっていてもよいのは勿論である。
【0083】
なお、微小構造体33間の間隔は、回折限界以下のサイズであるλ以下となるように互いに離間されて配列されていることが望ましい。また、互いに隣接する微小構造体33間の間隔は、入射される伝搬光の波長の1/4以下で構成されていれば、出射側に放射される伝搬光成分を一層低減できるため、更に望ましい。
【0084】
また、本発明を適用した偏光素子30は、入射される伝搬光の偏光成分に依存することなく、出射側において、微小構造体33の第1凸部34及び第2凸部35の長軸方向の偏光成分からなる伝搬光を放射可能とするものである。このため、偏光素子30を用いる場合は、ガラス層31の板厚方向を通る直線を中心として偏光素子30を回転させることによって、入射光の偏光成分を出射側において任意の偏光成分に変換することが可能となる。
【実施例1】
【0085】
上述した偏光素子10及び偏光素子30に対してX方向またはY方向の偏光成分のみを有する直線偏光を、各偏光素子の一面側から入射した場合において、出射側で得られた電場の電場強度を図11に示す。以下、便宜上、偏光素子10をI型偏光素子10、偏光素子30をZ型偏光素子30という。
【0086】
I型偏光素子10については、長さR1が300nm、厚みd1が60nm、高さH1が200nm、周期長T1が450nm、長さL2が180nmのものを適用した。また、Z型偏光素子30については、長さR2が300nm、長さR3が180nm、厚みd2が60nm、高さH2が200nm、周期長T3が480nm、長さL3が200nmのものを適用した。また、入射光は、波長λが688nmの光を照射するようにした。各偏光素子における微小構造体の材質は、金とした。
【0087】
また、図11における電場強度とは、偏光素子の微小構造体の下端から5nm程度離間した領域を近接場領域とし、偏光素子の微小構造体の下端から2μm程度離間した領域を遠隔場領域としたときに、これら近接場領域並びに遠隔場領域で測定された電場強度のことをいう。
【0088】
この結果、I型偏光素子10に対してX方向の偏光成分を有する直線偏光を入射した場合、出射側において、Y方向の偏光成分を有する近接場光が滲出されて、Y方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されなかったことが確認された。また、このI型偏光素子10に対してY方向の偏光成分を有する直線偏光を入射した場合、X方向の偏光成分を有する近接場光のみが滲出されて、X方向の偏光成分を有する伝搬光が放射されたなったことが確認された。
【0089】
また、Z型偏光素子30に対してX方向の偏光成分を有する直線偏光を入射した場合、出射側において、Y方向の偏光成分を有する伝搬光の放射が確認された。また、Z型偏光素子30に対してY方向の偏光成分を有する直線偏光を入射した場合、出射側において、Y方向の偏光成分を有する伝搬光の放射が確認された。
【0090】
因みに、図12は、I型偏光素子10及びZ型偏光素子30に対してX方向の偏光成分のみを有する直線偏光を入射した場合において、図1(b)に示す距離G1、図7(b)に示す距離G3を変化させることによって得られる変換効率を示している。なお、ここでいう変換効率とは、入射光のX方向の電場強度と、出射側のY方向の電場強度との比のことをいい、具体的には、下記数式(A)で示されるT1のことをいう。
【0091】
【数1】

【0092】
ここで、pは微小構造体11の下端から出射側における特定の箇所までの距離を、pは入射光の位置を、Ey(p)は位置pにおけるY方向の電場強度を、Ex(p)は位置pにおけるX方向の電場強度のことをいう。また、pを500nmとし、pを2μmをとした。
【0093】
この結果、I型偏光素子10は、G1を80nmとした場合における変換効率が10−12であるのに対し、G1を200nmとした場合における変換効率が10−9であり、G1の値によって、10の差が変換効率に生じることが確認された。これに対し、Z型偏光素子30は、距離G3を変化させても変換効率に差異が生じないことが確認された。これは、変換効率に関して、I型偏光素子10が配列パターンに大きな依存性を有しているのに対し、Z型偏光素子30が配列パターンに依存性を有していない点を示している。
【実施例2】
【0094】
上述した偏光素子10に対してX方向の偏光成分のみを有する直線偏光を入射した場合において、長さR1を変化させることによって得られる変換効率について、図13に示す。
【0095】
なお、実施例2においてpは、5nmとした。また、偏光素子10の配列パターンや微小構造体11の大きさ、入射光等の条件は、実施例1と同様の条件を適用した。
【0096】
この結果、微小構造体11の長さR1を300nm、700nmとした場合に、大きな変換効率が得られた。このように大きな変換効率が得られたのは、微小構造体11内においていわゆるプラズモン共鳴が生じているためと考えられる。
【0097】
上述のように、大きな変換効率が得られる、微小構造体の長さR1を300nm、700nmとした場合において、微小構造体11の下端からの距離pを変化させることによって得られる電場強度Ey(p)を図14に示す。この図に示すように、長さR1を700nmとした場合の方が、距離pを長くした場合における電場強度の損失の割合が少ない事が確認された。これは、近接場光の階層性に基づくものであると考えられる。
【実施例3】
【0098】
上述した偏光素子10及び偏光素子20に対してX方向の偏光成分のみを有する直線偏光を入射した場合において、波長λを変化させることによって得られる変換効率について図15に示す。因みに、ここでいう変換効率は、入射光のX方向の電場強度と、出射側の遠隔場領域(p=2μm)におけるY方向の電場強度との比のことをいう。以下、便宜上、偏光素子10を単層構造偏光素子10、偏光素子20を二層構造偏光素子20という。
【0099】
単層構造偏光素子10の配列パターンや微小構造体11の大きさ等の条件は、実施例1と同様の条件を適用した。また、二層構造偏光素子20は、第1層24については実施例1の偏光素子10と同様の条件、第2層については、長さR4が300nm、距離G1が10nmのものを適用した。
【0100】
この結果、波長690nmとした場合に、単層構造偏光素子10と二層構造偏光素子20との間で、約1010の変換効率の差が生じる事が確認された。
【0101】
因みに、図16は、二層構造偏光素子20における第1層の微小構造体22の長さR1を300nm、700nmとした場合に、図5(b)に示す距離G3を変化させることによって得られる変換効率について示している。
【0102】
この結果、長さR1を700nmとした場合の方が、近接場領域における電場強度の損失の割合が少ないことに伴い、第2層を介して増強されて放射される伝搬光の電場強度の損失の割合も少ない事が確認された。これは、近接場光の階層性に基づくものであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】本発明を適用した偏光素子10の構成について説明するための図であり、(a)はその斜視図、(b)はその平面図である。
【図2】偏光素子10における微小構造体11の構成の模式図である。
【図3】偏光素子10の作用について説明するための図である。
【図4】偏光素子10の作用について説明するための図である。
【図5】本発明を適用した偏光素子20の構成について説明するための図であり、(a)はその平面図、(b)はその側面断面図、(c)はその模式図である。
【図6】偏光素子20の作用について説明するための図である。
【図7】本発明を適用した偏光素子30の構成について説明するための図であり、(a)はその斜視図、(b)はその平面図である。
【図8】偏光素子30における微小構造体32の構成の模式図である。
【図9】偏光素子30の作用について説明するための図である。
【図10】偏光素子30の作用について説明するための図である。
【図11】偏光素子10及び偏光素子30に対して直線偏光を照射した場合の、出射側での電場強度について示す図である。
【図12】偏光素子の距離G1及びG3に対する変換効率の大きさを示す図である。
【図13】長さR1に対する変換効率の大きさを示す図である。
【図14】距離Pnに対する電場強度の大きさを示す図である。
【図15】波長λに対する変換効率の大きさを示す図である。
【図16】距離G2に対する変換効率の大きさを示す図である。
【符号の説明】
【0104】
10 偏光素子
11 微小構造体
11a 一端部
11b 他端部
12 ガラス層
13 第1の構造体列
14 第2の構造体列
15 領域
20 偏光素子
21 ガラス層
22 微小構造体
23 棒状微小構造体
24 第1層
25 第2層
26 第1の構造体列
27 第2の構造体列
30 偏光素子
31 ガラス層
32 微小構造体
33 中間部
34 第1凸部
35 第2凸部
36 構造体列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射される伝搬光の偏光成分を特定の偏光成分に変換可能とする偏光素子において、
透光性を有する平板状のガラス層と、
上記ガラス層内に配列され、当該ガラス層内の一方向に延長されてなる微小構造体とを備え、
複数個の上記微小構造体を互いに離間させた状態で上記微小構造体の長軸方向に向けて配列させて構成される第1の構造体列と第2の構造体列とが、当該長軸方向に直交する長軸直交方向に向けて交互に配列され、
上記微小構造体は、上記第1の構造体列における微小構造体の長軸方向の一端部から上記長軸直交方向に、上記第2の構造体列において互いに隣り合う微小構造体のうちの一方の微小構造体の長軸方向の他端側が位置するとともに、当該第1の構造体列における微小構造体の他端部から上記長軸直交方向に、当該第2の構造体列において互いに隣り合う微小構造体のうちの他方の微小構造体の一端側が位置するように配列されてなること
を特徴とする偏光素子。
【請求項2】
上記微小構造体は、1μm以下のサイズから構成されること
を特徴とする請求項1記載の偏光素子。
【請求項3】
長軸方向又は長軸直交方向に互いに隣接する上記微小構造体間の間隔は、入射される伝搬光の波長の1/4以下で構成されること
を特徴とする請求項1又は2記載の偏光素子。
【請求項4】
上記微小構造体は、上記微小構造体の長軸方向と略同一方向の偏光成分の伝搬光が入射された場合に、互いに隣り合う上記構造体列間において長軸直交方向の電場成分が互いに逆向きの一対の電気双極子モーメントを生じさせるとともに、当該一対の電気双極子モーメントに基づき、出射側において上記長軸直交方向の偏光成分を有する近接場光を滲出させるように配列されてなること
を特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の偏光素子。
【請求項5】
上記第1の構造体列における微小構造体の長軸方向の一方の端部の下方と、上記第2の構造体列における微小構造体の長軸方向の他方の端部の下方とに対して、上記長軸直交方向に延長されてなる棒状微小構造体の両端部が近接配置されてなること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の偏光素子。
【請求項6】
上記微小構造体の端部と上記棒状微小構造体の端部との間の間隔は、上記微小構造体の長軸方向と略同一方向の偏光成分の伝搬光が入射された場合に、上記微小構造体の表面に生じる近接場光の厚み以下で構成されていること
を特徴とする請求項5記載の偏光素子。
【請求項7】
入射される伝搬光の偏光成分を任意の偏光成分に変換可能とする偏光素子において、
透光性を有する平板状のガラス層と、
上記ガラス層内に配列され、当該ガラス層内の一方向に延長されてなる中間部と、上記中間部の長軸方向の一端側から上記一方向と直交する方向に延長されてなる第1凸部と、上記中間部の長軸方向の他端側から上記第1凸部と反対向きに延長されてなる第2凸部とを有する微小構造体とを備え、
上記微小構造体は、略同一の配向状態で互いに離間させて、上記ガラス層内に複数個に亘って配列されてなること
を特徴とする偏光素子。
【請求項8】
互いに隣接する微小構造体間の間隔は、入射される伝搬光の波長λ以下で構成されること
を特徴とする請求項7記載の偏光素子。
【請求項9】
互いに隣接する微小構造体間の間隔は、入射される伝搬光の波長の1/4以下で構成されること
を特徴とする請求項7記載の偏光素子。
【請求項10】
上記微小構造体は、伝搬光が入射された場合に、上記第1凸部及び上記第2凸部においてその長軸方向に振動する電流を発生させるとともに、その電流によるダイポールに基づき、出射側において当該第1凸部及び第2凸部の長軸方向の偏光成分を有する伝搬光を放射するように構成されてなること
を特徴とする請求項7〜9の何れか1項記載の偏光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−104074(P2009−104074A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277968(P2007−277968)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構低損失オプティカル新機能部材技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173636)財団法人光産業技術振興協会 (19)
【Fターム(参考)】