説明

偏光膜生成用コーティング液及び偏光膜

【課題】薄膜状に流延して溶媒を蒸発させて偏光膜を生成する際に、溶媒の蒸発に従って乾燥していく場合においても、偏光度の低下を抑制して高い偏光度を有する偏光膜を生成可能な偏光膜生成用コーティング液及びその偏光膜生成用コーティング液から生成される偏光膜を提供する。
【解決手段】陰イオン性基を有するアゾ化合物と、前記アゾ化合物を溶解する溶媒と、イオン性液体とを含有することを特徴とする偏光膜生成用コーティング液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜状に流延して溶媒を蒸発させて偏光膜を生成する際に、溶媒の蒸発に従って乾燥していく場合においても、偏光度の低下を抑制して高い偏光度を有する偏光膜を生成可能な偏光膜生成用コーティング液及び偏光膜生成用コーティング液から生成される偏光膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、特開2009−173849号公報に記載されているように、陰イオン性置換基を有するアゾ化合物とアゾ化合物を溶解する溶媒を含む液晶性コーティング液が知られている。このような液晶性コーティング液を乾燥して得られる偏光膜は、ポリビニルアルコールフィルムを延伸染色して得られる汎用の偏光膜に比べて、厚みを格段に薄くできるため、将来期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−173849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載された液晶性コーティング液をガラス板や樹脂フィルム上に流延し、溶媒を蒸発させて偏光膜を生成する場合、溶媒が蒸発して乾燥が進むに従って偏光度が上昇していき、所定の時間が経過した時点で偏光度は最高値を示すものの、その後乾燥が進むに従って偏光度が数パーセント低下してしまうという課題がある。
【0005】
本発明は前記従来における課題を解決するためになされたものであり、薄膜状に流延して溶媒を蒸発させて偏光膜を生成する際に、溶媒の蒸発に従って乾燥していく場合においても、偏光度の低下を抑制して高い偏光度を有する偏光膜を生成可能な偏光膜生成用コーティング液及びその偏光膜生成用コーティング液から生成される偏光膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため請求項1に係る偏光膜生成用コーティング液は、陰イオン性基を有するアゾ化合物と、前記アゾ化合物を溶解する溶媒と、イオン性液体とを含有することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に係る偏光膜は、請求項1に記載の偏光膜生成用コーティング液を薄膜状に流延し溶媒を蒸発させて得られる。
ここに、前記アゾ化合物は、請求項3に記載されているように、0.5重量%〜50重量%の範囲で前記偏光膜生成用コーティング液に含有されていることが好ましい。
また、前記アゾ化合物は、請求項4に記載されているように、下記化1で表わされる化合物であることが好ましい。
【化1】

化1中、Mは水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム化合物、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、フェニル基、又はそれらの誘導体基、Xは水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又は−SO3M基をそれぞれ表す。
更に、前記イオン性液体は、請求項5に記載されているように、全固形分100重量部に対して1重量部〜15重量部の範囲で含有されていることが好ましい。
また、前記イオン性液体は、請求項6に記載されているように、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩又はこれらの混合物から選択されることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る偏光膜生成用コーティング液によれば、薄膜状に流延して溶媒を蒸発させて偏光膜を生成する際に、溶媒の蒸発に従って乾燥していく場合においても、偏光度の低下を抑制して高い偏光度を有する偏光膜を生成することができる。
【0009】
ここで、本発明に係る偏光膜生成用コーティング液により、偏光度の低下を抑制して高い偏光度を有する偏光膜を生成することができることに関して、本発明者等が鋭意検討したところ、かかる効果が発現するメカニズムとして以下のように推察される。
【0010】
先ず、前記したように従来の偏光膜生成用コーティング液から偏光膜を生成する場合について図1(A)に基づき説明する。偏光膜生成用コーティング液をガラス板や樹脂フィルムに薄膜状に流延した当初においては、左側の図に示すように、薄膜状の偏光膜生成用コーティング液中で、アゾ化合物AZ、溶媒分子SVはランダム状態で存在している。
【0011】
薄膜状の偏光膜生成用コーティング液から溶媒が蒸発していくと、溶媒が蒸発するにつれて塗膜の体積が減少し、中央の図に示すように、アゾ化合物AZは規則的に配向された状態となる。この状態でアゾ化合物AZの配向度はもっとも大きくなる。
【0012】
更に溶媒が蒸発していくと、ある時点でアゾ化合物AZ相互間の間隔が小さくなり過ぎ過密状態となる。そして、右側の図に示すように、アゾ化合物AZの分子間のストレスを緩和するために、アゾ化合物AZ相互が傾いて配向する。これに起因して、アゾ化合物の配向度は低下してしまう。
【0013】
次に、本発明に係る偏光膜生成用コーティング液から偏光膜を生成する場合について図1(B)に基づき説明する。偏光膜生成用コーティング液をガラス板や樹脂フィルムに薄膜状に流延した当初においては、左側の図に示すように、薄膜状の偏光膜生成用コーティング液中で、アゾ化合物AZ、溶媒分子SV及びイオン性液体ILはランダム状態で存在している。
【0014】
薄膜状の偏光膜生成用コーティング液から溶媒が蒸発していくと、溶媒が蒸発するにつれて塗膜の体積が減少し、中央の図に示すように、アゾ化合物AZは規則的に配向された状態となる。この状態でアゾ化合物AZの配向度はもっとも大きくなる。
【0015】
更に溶媒が蒸発していくと、ある時点でアゾ化合物AZ相互間の間隔が小さくなっていくが、右側の図に示すように、アゾ化合物AZの分子間には、イオン性液体ILが存在してアゾ化合物分子AZ相互の間隔を広げることから、溶媒が蒸発しても各アゾ化合物AZ同士が近接し過ぎることはなく、これよりアゾ化合物AZの配向は乱れることなく維持され配向度が低下することはない。
【0016】
このように、本発明に係る偏光膜生成用コーティング液では、アゾ化合物と溶媒に加えて、イオン性液体を含むことにより、生成される偏光膜の偏光度が低下することを防ぐことができる。
【0017】
ここに、「イオン性液体」とは、常温でも結晶化しない有機塩を含む液体であり、陽イオンサイズが大きく非対称であるという特徴を有する。このため、本発明の偏光膜生成用コーティング液中に、イオン性液体を混合すると、イオン性液体の陽イオンが、陰イオン性基を有するアゾ化合物の一部とイオン対を形成し、アゾ化合物の分子間隔を適度に広げるため、アゾ化合物分子の配向を一方向に維持できると考えられる。
【0018】
因みに、単に分子サイズの大きい化合物(イオン性液体でないもの/常温で固体)を用いた場合、混合した化合物が凝集してアゾ化合物の配向を阻害したり、偏光膜の表面に析出して光学的欠点となったりして、前記した本発明の効果は得られない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】偏光膜生成用コーティング液から偏光膜を生成する際におけるアゾ化合物の挙動を模式的に示す説明図であり、図1(A)はイオン性液体を含有しない偏光膜生成用コーティング液から偏光膜を生成する際のアゾ化合物の挙動を模式的に示す説明図、図1(B)はイオン性液体を含有する偏光膜生成用コーティング液から偏光膜を生成する際のアゾ化合物の挙動を模式的に示す説明図である。
【図2】実施例1及び実施例2の偏光膜生成用コーティング液から偏光膜を生成する際の乾燥時間と偏光度の関係を示すグラフである。
【図3】比較例の偏光膜生成用コーティング液から偏光膜を生成する際の乾燥時間と偏光度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る偏光膜生成用コーティング液について、実施形態に基づき説明する。
[偏光膜生成用コーティング液]
本実施形態の偏光膜生成用コーティング液は、陰イオン性基を有するアゾ化合物と、アゾ化合物を溶解する溶媒と、イオン性液体とを含む。
かかるコーティング液は、好ましくはアゾ化合物の濃度が0.5重量%〜50重量%の範囲で、液晶性を示す。
尚、偏光膜生成用コーティング液は、上記効果を奏する限りにおいて、他の化合物や添加剤を含有していてもよい。
【0021】
[イオン性液体]
本実施形態の偏光膜生成用コーティング液に用いられるイオン性液体は、常温(例えば、20℃〜40℃)でも結晶化しない有機塩を含む液体である。イオン性液体は、代表的には、イミダゾールやトリアゾール等の窒素を含む環状化合物の陽イオンと、六フッ化リンやスルホン酸イミド等の陰イオンとの塩である。かかるイオン性液体は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩又はこれらの混合物が、親水性溶媒への溶解性に優れるため好ましい。これらのイオン性液体は、例えば、日本合成化学社や、ALDRICH社から入手可能である。
【0022】
イオン性液体の偏光膜生成用コーティング液への混合量は、全固形分100重量部に対して、好ましくは1重量部〜15重量部である。イオン性液体の混合量が1重量部未満である場合は、乾燥過程で偏光度の低下を抑える効果が小さくなる虞があり、15重量部を超える場合は、却ってアゾ化合物の配向が乱れ、偏光度が低下する虞がある。
【0023】
[アゾ化合物]
本実施形態の偏光膜生成用コーティング液に用いられるアゾ化合物は、陰イオン性基を有するものである。陰イオン性基としては、−SO3M、−COOM、−PO3MH、−PO32などが挙げられる。ここに、Mは、水素原子、アルカリ金属、又はアンモニウム化合物である。
【0024】
上記アゾ化合物は、好ましくは下記化1で表される化合物である。
このような化合物は、良好な配向性を示し、可視光領域(波長380nm〜780nm)で吸収二色性を示す。
【化1】

式中、Mは上記と同様、水素原子、アルカリ金属、又はアンモニウム化合物であり、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、フェニル基、又はそれらの誘導体基を表す。Xは水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、又は−SO3M基を表す。
上記アゾ化合物は、例えば、アニリン誘導体とナフタレン誘導体とを常法によりジアゾ化およびカップリング反応させてモノアゾ化合物とした後、更にジアゾ化し、1−アミノ−8−ナフトール誘導体とカップリング反応させて得ることができる。
【0025】
[溶媒]
本実施形態の偏光膜生成用コーティング液に用いられる溶媒は、アゾ化合物を溶解するものであり、好ましくは親水性溶媒が用いられる。親水性溶媒は、好ましくは水、アルコール類、セロソルブ類及びそれらの混合溶媒である。
【0026】
[偏光膜]
本実施形態に係る偏光膜は、上記コーティング液を簿膜状に流廷し溶媒を蒸発させて得られるものである。上記偏光膜の厚みは、好ましくは0.1μm以上10μm未満である。流廷手段はコーティング液を均−に流延できるものであれば特に制限はなく、適切なコータ、例えばスライドコータ、スロットダイコータ、バーコータ等が用いられる。転燥方法は、例えば、自然乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥などが用いられる。乾燥温度は、好ましくは50℃〜120℃である。
【実施例1】
【0027】
下記化2で表されるアゾ化合物と、イオン性液体(日本合成化学社製 1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート)とを水に溶解して、液晶性を示す偏光膜生成用コーティング液を調製した。
【0028】
【化2】

上記偏光膜生成用コーティング液においてアゾ化合物の濃度は9重量%であり、また、イオン性液体の混合量は偏光膜生成用コーティング液の全固形分100重量部に対して、2重量部である。
【0029】
この偏光膜生成用コーティング液を、厚み100μmのシクロオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン社製 商品名「ZEONOR」)上にバーコータ(BUSHMAN社製)を用いて薄膜状に流延し、水分を蒸発させて、シクロオレフィン系樹脂フィルム上に、厚み0.2μmの偏光膜を作製した。コーティング液から水分が蒸発し、偏光膜が生成されるまでの乾燥過程における偏光度変化(グラフ)を図2に示す。
【実施例2】
【0030】
イオン性液体として、1−エチル−3−メチルピリジニウムエチルスルファート(東京化成工業株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様に、偏光膜生成用コーティング液を調製し、偏光膜を作製した。かかる偏光膜生成用コーティング液から水分が蒸発し、偏光膜が生成されるまでの乾燥過程における偏光度変化を測定したところ、実施例1の場合と同様、図2に示すグラフが得られた。
【比較例】
【0031】
イオン性液体を混合しなかった以外は、実施例1と同様の方法で偏光膜生成用コーティング液を調製し、その偏光膜生成用コーティング液を用いて偏光膜を作製した。偏光膜生成用コーティング液から水分が蒸発し、備光膜が生成されるまでの乾燥過程における偏光度変化(グラフ)を、図3に示す。
【0032】
[評価]
図2及び図3において、横軸は乾燥時間(sec)、縦軸は偏光度を表し、実施例1及び実施例2の偏光膜生成用コーティング液の場合、図2に示すように、偏光膜の偏光度は、乾燥時間が80秒付近になった時点で最高となり、それ以後も高い偏光度(98.3%)がそのまま維持された。一方、比較例に係る偏光膜生成用コーティング液の場合、図3に示すように、偏光膜の偏光度は乾燥時間80秒付近で最高値(98%)を示した後、それ以後において偏光度は1%程度低下した。
【0033】
[実施例、比較例で用いた測定方法]
[偏光膜の厚みの測定方法]
偏光膜の一部を剥離し、触針式表面形状測定器(Veeco社製 製品名「Dektak」を用いて求めた。
[偏光度の測定方法]
ポラリメーター(AXOMETRICS社製 製品名「AxoScan」)を用いて、偏光膜を23℃の室温で自然乾燥させながら、偏光度を測定した。
【符号の説明】
【0034】
AZ アゾ化合物
SV 溶媒分子
IL イオン性液体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰イオン性基を有するアゾ化合物と、
前記アゾ化合物を溶解する溶媒と、
イオン性液体とを含有することを特徴とする偏光膜生成用コーティング液。
【請求項2】
請求項1に記載の偏光膜生成用コーティング液を薄膜状に流延し溶媒を蒸発させて得られる偏光膜。
【請求項3】
前記アゾ化合物は、0.5重量%〜50重量%の範囲で前記偏光膜生成用コーティング液に含有されていることを特徴とする請求項1に記載の偏光膜生成用コーティング液。
【請求項4】
前記アゾ化合物は、下記化1で表わされる化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の偏光膜生成用コーティング液。
【化1】

化1中、Mは水素原子、アルカリ金属又はアンモニウム化合物、Rは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基、フェニル基、又はそれらの誘導体基、Xは水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又は−SO3M基をそれぞれ表す。
【請求項5】
前記イオン性液体は、全固形分100重量部に対して1重量部〜15重量部の範囲で含有されていることを特徴とする請求項1、請求項3又は請求項4に記載の偏光膜生成用コーティング液。
【請求項6】
前記イオン性液体は、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム塩、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム塩又はこれらの混合物から選択されることを特徴とする請求項1、請求項3、請求項4又は請求項5に記載の偏光膜生成用コーティング液。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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