説明

健康な眼、偽(無)水晶体眼または神経変性眼のための治療/予防用用フィルターを備えた照明システム

本発明は健康な目、偽水晶体眼および/または無水晶体眼および/または黄斑変性眼および網膜変性眼の治療処置および予防処置のための装置に関し、この装置は、可視スペクトル中の短波長(500nm未満)から眼を保護するために、黄色色素沈着を有するフィルターを通常の照明装置に取り付けることによって製作されることを特徴とする。本発明は、いかなる照明装置に対しても保護フィルターを単に取り付けることによって、白内障の手術を受けた眼に保護を与え、健康な眼および神経変性過程ある眼を保護し、改善するために用いられる現行の技術に関連する困難やリスクを取り除く。本発明は、500nm未満の短波長を吸収する黄色色素沈着フィルターと通常の照明装置とを組み合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事実上の治療および予防的な光学応用範囲内における眼科分野に属する。
【背景技術】
【0002】
視知覚は、可視光線(380〜760nm)に対する反応の結果である。環境において、太陽放射線は視力に対する主要なリスクである。太陽は、大気によってほぼ完全に吸収される紫外線および赤外線放射を放出する。大気中を透過した太陽放射線が地球表面に届く時、その太陽放射線は、紫外線B(230〜300nm)、紫外線または紫外線A(300〜380nm)、可視光線(380〜760nm)および赤外線(760〜1400nm)からなる。完全に健康な状態にあるヒト眼は、赤外線および大部分の可視スペクトルを網膜まで自由に透過するが、角膜および水晶体は、可視スペクトルの反応性が高いmss波長(紫外線Bおよび可視スペクトルの青色光部分)が網膜に達するのを防ぐ。
【0003】
一方で、老化とともにヒト水晶体の透過特性は変化し、水晶体の黄色が強くなり、紫外線および青色光線の排除能力が高まる。このため、65歳より高齢の人において、青紫色光線(<400nm)は透過されず、青色光(400〜500nm)の透過は著しく減少する。
【0004】
一方で、黄斑窩において青色光感受性の光受容体が存在しないような光受容体の不均等分布による方法、およびその同じ領域に存在する保護効果も発揮する黄色色素の作用による方法という2つの方法で、網膜は自らそれ自体を短波長から保護する。
【0005】
最短波長に対するヒト眼のこれら天然の保護(水晶体、および網膜の保護)は、以下のような特定の疾患および/または外科手術処置により、深刻な影響を受ける可能性がある。
【0006】
すなわち、白内障は外科的にのみ治療可能であるが、水晶体の摘出を必要とする。
【0007】
また、病理学的老化過程の発生は頻繁に起こり、加齢黄斑変性(AMD)を生じる網膜構造の劣化を生じさせる。
【0008】
歴史的に、これら2つの疾患、つまり白内障およびAMDの患者が同じ人口統計のグループ(65歳より高齢の人)に集中することを考慮しなくてはいけない。この同じ人口区分において、白内障は視力喪失の主要因であり、AMDは失明の主要因である。さらにとりわけ平均寿命が延びたことによる両疾患の推定し得る増加を考慮しなくてはいけない。また、その結果、これらが研究者の大きな関心および光学工業における応用を引き起こす。
【0009】
したがって、非特許文献1(クラインの研究)及び非特許文献2(フリーマンの研究)に説明されているように、いくつかの疫学的研究が白内障手術関連および加齢黄斑変性(AMD)によって評価されてきた。非特許文献3によって、白内障手術を受けた人がAMD病徴を発症するリスクがより高いことは明らかである。しかしながら、非特許文献4(ワンによるそれ以前の研究)及び非特許文献5(マッカーティによる研究)では、恐らく診断測定に使用された技術レベルが未熟であったために、この仮説は却下されている。最近になってようやく、光干渉断層撮影のような技術の実現によって、神経変性網膜過程の進行に対するフォローアップを正確に、迅速かつ非侵襲的に行うことが可能となっている。これは有害な放射を吸収する天然色素の決定的な効果を知るための重要な事実となる。
【0010】
一方で、短波長から白内障手術が行なわれた眼を保護するために、以下(1)(2)のようないくつかの技術が開発されている:
【0011】
(1)黄色色素沈着がなされたいくつかの種類のフィルターが市場に存在するが、ヒト眼に対して、天然の保護に代わる、かつ/または天然の保護を向上させるための治療的手段および/または防止的手段として、これらのフィルターを適用する最適な手順および/または装置はまだない。
【0012】
(2)1990年代中頃以来、白内障手術を行なった眼に黄色のフィルターを備えた眼内レンズを移植してきた。この選択肢は、あらゆる明白なリスクおよび困難のある外科的処置を伴う。黄色色素沈着による必要な保護を有さない透明な眼内レンズが水晶体の代わりに移植された、白内障手術を受けた多くの人も存在する。これらの場合には、黄色色素沈着支援システムにより、黄色色素沈着がなされていない人工水晶体を補完する必要がある。
【0013】
また、本発明と比較すると大きな違いを呈するが、この技術に関連したいくつかの特許が開発されている。
【0014】
特許文献1には、色合いを適用することにより高照度レベルの条件下で視界を向上させるカラー表示装置用吸収フィルターが開示されている。
【0015】
特許文献2には、周囲の極度の照明や低レベルの照明を含むすべての光の環境において視力を向上させるためのフィルターを含み、そのフィルター用のリングアダプターを包含する、ヒト眼の視力を向上するためのカラー強化フィルターおよび使用上の指示が記載されている。
【0016】
特許文献3には、例えばスポーツにおいて物体視覚を改善する特定の活動のための特殊な光学フィルターおよびこれらのフィルターを使用する光学アクセサリーが開示されている。
【0017】
特許文献4には、合成樹脂で構成され、赤外光線から保護することのできる、光学フィルターおよび装置、熱線吸収性フィルター、光ファイバーならびにこの光学フィルターを備えた眼鏡が開示されている。
【0018】
特許文献5には、ヒト眼の色覚を向上または修正するカラーフィルターを設計する方法およびその方法で設計された、色のフィルタリング方法が開示されている。
【0019】
特許文献6には、環境要因を補償するために、ソフトウェアおよび/またはハードウェアを介してプログラムされた色度計に基づき、環境条件に関連する補正係数を用いるためのシステムおよび方法が開示されている。
【0020】
また、具体的には、特許文献7に、特定の周波数の光放射を排除する物質を少なくとも一部に含む弾粘性を有する液体または洗浄液で作られた眼の治療のための保護溶液が開示されている。
【0021】
特許文献8には、電磁放射線に対して保護する、かつ/または近視および色覚の欠如といった視力障害を補正するフィルターを組み合わせたものを含む、ヒト眼の保護および補正装置が開示されている。
【0022】
例えば、特許文献9には、対象物(ヒト眼であり得る)の特定の場所において、光源から放射された光の強さを無くすことなく、光強度を弱めるスペクトルフィルターを備える外科用顕微鏡といった、部分的に照度を弱める装置を含む光学視覚装置が開示されている。
【0023】
一方、特許文献10には、検査対象の眼に対して高レベルの照明での検査を可能とし、他方では眼を損傷することを防止する眼用投射顕微鏡ランプのための照度検知および制御システムが開示されている。
【0024】
特許文献11には、顕微鏡ランプより放射される照明を制御する、顕微鏡ランプとの組み合わせの拡散プレートレットが開示されている。
【0025】
特許文献12には、フィルターを含み得る眼検診用LEDシステム(発光ダイオード)が開示されている。
【0026】
特許文献13には、中間彩度フィルターの使用を含む、眼及び視神経の疾患を検知するための装置である立体測光器が開示されている。
【0027】
これらの特許のどれもが神経変異の過程にある健康なヒト眼または白内障の手術を受けたヒト眼を短波長から保護する目的を有さないので、目的および有用性においてこれらは本発明とは根本的に異なる。また、これらの大多数が一般的な照明装置にフィルターを取り付けることには言及しておらず、代わりに、他の種類の形態(特定の照明装置、レンズ、溶液等)で実現する構成である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0028】
【非特許文献1】Klein R, Klein BE, Wong TY, Tomany SC, Cruickshanks KJ. 、加齢性黄斑変性症の長期的事象との白内障および白内障手術の関連(The association of cataract and cataract surgery with the long-term incident of age-related maculopathy)。Arch Ophthalmol 120:1551-1558.2002)
【非特許文献2】Freeman E, Munoz B, West SK, Tielsch JM, Schein OD. 、白内障手術と加齢黄斑変性の間に関連があるか(Is there an association between cataract surgery and age-related macular degeneration ?)
【非特許文献3】Am J Ophthalmolm 135(6): 849-856.2003 )(Wang JJ, Mitchell P, Cumming RG, Lim R. 白内障および加齢性黄斑変性症: ブルーマウンテンズ眼研究(Cataract and age-related maculopathy: the Blue Mountains Eye Study)
【非特許文献4】Ophthalmic Epidemiol 6: 317-326.1999)
【非特許文献5】McCarty CA, Mukesh BN, Fu CL, Mitchell P, Wang JJ, Taylor HR. 、加齢性黄斑変性症についてのリスクファクター: 視力障害プロジェクト(Risks factors for age-related maculopathy: the Visual Impairment Project.
【非特許文献6】Arch Ophthalmol 119:1455-1462.2001)
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】米国特許第5121030号
【特許文献2】米国特許第6158865号
【特許文献3】米国特許第6893127号
【特許文献4】国際公開第9927397号
【特許文献5】米国特許第2004075810号
【特許文献6】米国特許第2006195278号
【特許文献7】国際公開第2005025575号
【特許文献8】ドイツ特許第10259261号
【特許文献9】米国特許第2002113941号
【特許文献10】米国特許第4715704号に基づく米国特許第6299310号
【特許文献11】ドイツ特許第8808871号
【特許文献12】イタリア特許第1147092号
【特許文献13】日本特許第5130976号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明の目的は、健康な眼、偽水晶体眼および/または無水晶体眼(白内障手術を受けた眼)および/または黄斑変性眼および網膜変性眼を保護し、可視スペクトル短波長(500nm未満)から眼を保護する目的で、黄色色素沈着を有するフィルターを照明装置上に取り付けることによってこれを達成する装置を開発することである。
【0031】
本発明の目的は偽水晶体眼および/または無水晶体眼の患者の場合において保護色素の抽出(手術中に抽出される)を機能的に補うこと、および、健康な眼または変性過程にある眼の場合は、照明装置に取り付けられたフィルターを用いることによって青色および青紫色の光線に対する予防的効果を高めることである。前述したように、これら2つの過程は同じ人口集団、つまり高齢者に頻繁に同時に起こるものである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
このため、本発明は病気を患った眼または健康な眼を、有害な光線を吸収することによる神経変異の過程から保護する照明装置で構成され、この照明装置は、一般的な照明装置に350から500nmの短波長を吸収するための黄色色素沈着を有するフィルターを取り付けることによって得られる。
【0033】
したがって、その装置は下記3つの要素(a)(b)(c) の組み合わせを包括する。
【0034】
(a)白熱電球や、蛍光灯や、ハロゲンランプといった一般的な照明装置
(b)前記フィルターをこの照明装置の照明部に取り付けるための取り付け具または支持物
(c)市販の350から500nmの短波長を吸収する照明装置に適応した黄色色素沈着を有するフィルターのこの照明装置の全発光領域への適用
【発明の効果】
【0035】
本発明により、健康な眼、偽水晶体眼および/または無水晶体眼(白内障手術を受けた眼)および/または黄斑変性眼および網膜変性眼を保護することができ、健康な眼または変性過程にある眼の場合は、可視スペクトル短波長(500nm未満)の光線から眼を保護することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
照明装置の種類によって、本発明を適用するためのいくつかの方法が存在する。また、本発明の適用方法は以下の実施例により示されるが、この装置を製造するための他の手段および組み合わせがあるため範囲は限定されない。
【0037】
<本発明の製造例>
市販のものから黄色または黄色がかった色で、たとえば、スクリーンのような形状を有する、照明装置に適合するフィルターを準備する。
【0038】
さらに、製造者の指示に応じて、または、たとえば、特許番号EO1830250号(照明装置のためのフィルター支持連結具)またはスペイン特許番号第1046793号(照明ランプに適用されるフィルター支持構造)に基づいて、上記フィルターを照明装置に取り付けるために、市販のものから支持材を準備する。
【0039】
上記黄色のフィルターを照明装置の発光領域全体を覆うように支持材上に取り付ける。
【0040】
このように、照明装置と黄色のフィルターの組み合わせによって、眼内透明レンズを用いて白内障の手術を受けた患者が、手術された眼が保護されていないという事実を是正することができる。また、この方法により、神経変性の過程にある眼は改善され、天然の保護を増すこととなるであろう。そして、健康な眼に対しては、神経変性の過程が起こることを防ぐであろう。この方法により、市場に存在し、眼内レンズを用いる外科処置を必要とする他技術に関連した問題を回避する。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、眼内レンズを用いる外科処置を必要とする他の技術分野においても有益である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたはいくつかの照明装置上に350から500nmの短波長を吸収する黄色色素沈着を有するフィルターを取り付けた結果であることを特徴とする、偽水晶体眼および/または無水晶体眼保護のための治療および予防用装置。
【請求項2】
請求項1に記載の偽水晶体眼および/または無水晶体眼のための治療および予防用装置において、前記照明装置上の使用に適した黄色色素沈着を有するフィルターに対応する偽水晶体眼および/または無水晶体眼のための治療および予防用装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の偽水晶体眼および/または無水晶体眼のための治療および予防用装置において、一般的な照明装置を含む偽水晶体眼および/または無水晶体眼のための治療および予防用装置。
【請求項4】
1つまたはいくつかの照明装置上に350から500nmの短波長を吸収する黄色色素沈着を有するフィルターを取り付けた結果であることを特徴とする、健康な眼または神経変性網膜過程にある眼のための治療および予防用装置。
【請求項5】
請求項4に記載の健康な眼または神経変性網膜過程にある眼のための治療および予防用装置において、前記照明装置上の使用に適した黄色色素沈着を有するフィルターに対応する健康な眼または神経変性網膜過程にある眼のための治療および予防用装置。
【請求項6】
請求項4または5記載の健康な眼または神経変性網膜過程にある眼のための治療および予防用装置において、一般的な照明装置を含む健康な眼または神経変性網膜過程にある眼のための治療および予防用装置。


【公表番号】特表2010−506642(P2010−506642A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−532830(P2009−532830)
【出願日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000606
【国際公開番号】WO2008/046933
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(500464713)ウニベルシダッド・コンプルテンセ・デ・マドリッド (5)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD COMPLUTENSE DE MADRID