説明

健康機能性組成物及びその製造法

【課題】高い抗酸化作用などの機能性を持つカバノアナタケは近年注目を集めている。しかしながら、従来のカバノアナタケの利用方法ではその有効成分を十分に利用できているとは言えず、その効果が不十分であった。
【解決手段】従来の利用方法が、カバノアナタケ菌体を砕いて熱水抽出するという方法であることに注目し、この菌体からの抽出の難しさを解決するために、本発明者らはカバノアナタケを液体培養して、その培養上清を用いることにより、従来の問題を解決した。さらに、カバノアナタケ液体培養上清に米麹、米糠を加え、そしてこれを乳酸菌発酵させるといった操作を行うことにより、より高い抗酸化活性などの機能性を持つ組成物を得ることができた。また、米糠、米麹だけを乳酸菌発酵させた組成物にも抗酸化活性などがあることが分かった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、健康機能性組成物に関し、特に米麹、米糠、カバノアナタケ、乳酸菌よりなる健康機能性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カバノアナタケ(チャーガ)の保健機能効果が注目されおり、機能性成分とその効果については以下のようなことが知られている。
【0003】
β−D−グルカン:免疫活性に貢献する主成分と言われ、ナチュラルキラー細胞を主とした全ての免疫細胞を活性化し、抗ガン作用などを示すと言われている。カバノアナタケのβ−D−グルカン含有量は、アガリクスの約3倍であることが知られており、抗ガン効果が非常に高いと考えられる。
【0004】
SOD(スーパーオキシドディスムターゼ):抗酸化酵素とも呼ばれ、生体内では肝臓・副腎などに存在し免疫抵抗力増加・抗ガン作用をしめす非常に重要な酵素である。抗酸化作用により、生活習慣病の原因と言われる活性酸素を減らす効果があることに加え、活性酸素によって引き起こされる肌荒れやしみ・しわも防ぐことができる。カバノアナタケのSOD含有量はアガリクスの20倍以上、青汁の60倍、ホウレンソウの240倍に当たる35,000単位/gであると言われている。
【0005】
リグニン画分:リグニン画分は免疫機構に作用する、ポリフェノールの一種である。また、ポリフェノール類の中でも比較的効果の高い有効成分といわれている。リグニン画分にはエイズウイルス増殖時に必要な酵素を阻害する効果があることが明らかとなっており、MT−4細胞におけるHIV−1の増殖を抑制し、マクロファージ好性HIVであるJR−FL株に対しても有効であることなどが分かっている。
【0006】
通常、カバノアナタケ菌体からこれらの有効成分を摂取する際には菌体を水又は熱水で抽出し、お茶などの形態として飲用している。
【0007】
【非特許文献1】「幻のキノコカバノアナタケ、チャーガとも白樺茸ともいう抗ガンキノコ」甲田光雄著、健全社
【非特許文献2】「怪物カバノアナタケ」佐久間和夫著、上野芳夫監修、美登利出版
【非特許文献3】「カバノアナタケ(チャーガ)」星崎東明著、健全社
【非特許文献4】「ガンを消す幻の茸チャーガ」米山誠著、青萌堂
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら従来のカバノアナタケ飲料では、菌糸体破砕物を水又は熱水で抽出しているためカバノアナタケの有効成分が十分に抽出できず、本来の効果が十分に発揮できないという欠点を持っていた。本発明ではこの欠点を解消し、カバノアナタケが有する有効成分を十分に利用することを目的とした。さらに、カバノアナタケは希少な天然資源であるため、今後安定して供給される保証が無く、有効成分を含有するカバノアナタケを安定して供給することも目的とした。また、カバノアナタケのみの効果にとどまらず、カバノアナタケと組み合わせることにより相乗効果を示す組成物を見出すことも目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、カバノアナタケの菌核粉砕物においては、その細胞壁強度の高さにより、十分な有効成分の抽出が難しいことを見出した。そこで本発明者らは上記課題を解決するために、カバノアナタケ細胞を液体培養し、その培養上清を用いることに考え至った。さらに、このようにカバノアナタケを液体培養すれば、希少で入手ににくいカバノアナタケを大量に、かつ安定して提供することができると考えた。
そこで、カバノアナタケ液体培養上清である「フジワラのカバノアナタケ」(株式会社フジワラテクノアート製)と、カバノアナタケ菌核粉砕物の生理活性を比較したところ、カバノアナタケ液体培養上清の方が種々の生理活性が高いことが明らかとなった。
さらに驚くべきことに、カバノアナタケ液体培養上清に米糠または米糠抽出物(以下、単に糠と言うこともある)、米麹または米麹抽出物(以下、単に麹ということもある)、乳酸菌を加えて醗酵させることによりさらに生理活性が上がることを確認し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、カバノアナタケ液体培養上清は、カバノアナタケの水又は熱水抽出物よ
【0011】
りも高い活性を持つことが示された。そして、カバノアナタケ液体培養上清は、希少な菌類であるカバノアナタケの有効成分を安定して大量に得るために最適であると言える。
さらに、カバノアナタケ液体培養上清に米糠または米糠抽出物、米麹を添加し、乳酸菌で発酵させたものはさらに強い活性を持つことが分かった。この混合液を用いることにより、抗酸化、炎症防止などの高い効果が得られることが分かった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明者らは、カバノアナタケの水又は熱水抽出物では十分な有効成分の抽出ができないこと、さらにカバノアナタケがロシア、中国、モンゴル、北海道の一部の地域などでしか生育せず、さらにその発見、入手もやや困難であることを考え併せ、カバノアナタケを液体培養し、その培養液を用いることを思い至った。そこで、それに相当する物質である「フジワラのカバノアナタケ」(株式会社フジワラテクノアート製。以下カバノアナタケ液体培養上清)を用いて鋭意検討したところ、ホスホリパーゼA阻害活性、SOD活性の点で、カバノアナタケ熱水抽出物よりも優れた活性を示すことが分かった。
そこで、カバノアナタケ液体培養上清単独よりも、より抗酸化などの活性の高い混合組成物を得ることを次の目的とした。本発明者らは、カバノアナタケ液体培養上清に、さらに米糠または米糠抽出物(より好ましくは赤糠または赤糠抽出物)、米麹を加え、これに乳酸菌を加えて発酵させた混合物を用いて様々な実験を行った。ここで言う赤糠とは、玄米を外側から削り、表面から10%程度を精米する時にできる糠のことを指す。その結果、これらを組み合わせたものは、抗酸化などの様々な活性について高い活性が見られた。
HL60(ヒト骨髄性白血病)細胞を用いたOの産生抑制効果を調べた。HL60細胞にDMSO刺激を与えることにより、好中球とし、これにホルボール12-ミリスタート13-アセタート(以下TPAと記す)刺激を加えることによってOを産生させた。このときTPA刺激を与えるに先立ち、各検体サンプルを添加することによって、Oの産生抑制の度合いを調べた。Oは、活性酸素(スーパーオキサイドアニオンラジカル)であり、それが多く産生されることは、酸化活性が高いことを示し、その産生を抑えることは、抗酸化活性があることを示す。その結果、カバノアナタケ液体培養抽出物だけではO産生抑制効果が見られなかったが、カバノアナタケ液体培養抽出物に米糠、米麹を加え、これを乳酸菌発酵させたものを添加したものでは強いO産生抑制効果が見られた。さらに、カバノアナタケを加えていない、米糠、米麹だけを乳酸菌発酵させた混合物でも高いO産生抑制効果のあることが分かった。
次にRAW(マウス由来マクロファージ)細胞を用いたNOラジカル産生抑制試験を行った。NOラジカルも活性酸素の一種であるが、この試験では、RAW細胞にそれぞれのサンプルを添加しておき、ポリサッカライド(大腸菌由来、以下LPSと記す)で刺激をし、そこで産生されたNOラジカルを測定して、その産生量の多少を評価した。LPSは起炎症剤であるため、このNOラジカルの産生の抑制が見られるということは抗炎症効果があると言える。その結果、米糠にはある程度のNOラジカル産生抑制効果が見られたが、カバノアナタケ液体培養抽出物では、これよりかなり強い抑制効果を示した。またカバノアナタケ培養抽出物を米糠、米麹に配合し、乳酸菌を加えて発酵させたものでは、さらに効果が向上した。
【0013】
次に様々な物質で、炎症に関係する酵素ホスホリパーゼAの阻害活性を調べた。反応基質Umbeliferyl arachidonateに、サンプル溶液を加え、これにホスホリパーゼAを添加した。バッファーは0.1Mトリス塩酸バッファー(pH8.0)を用いた。これを反応させ、Umbeliferyl arachidonateから遊離してくる7−hydroxycoumarinの蛍光強度を検出して酵素活性の指標とした。その結果、食品素材として種々の活性を持つと期待されるいくつかの食品由来のペプチドよりも、カバノアナタケ液体培養液と米糠と米麹を乳酸菌で発酵させたものの方がホスホリパーゼAの阻害活性が強かった。
市販の抗炎症食品素材として知られているグルコサミンと、カバノアナタケと赤糠と米麹を乳酸菌で発酵させたものの、ホスホリパーゼA阻害活性、SOD活性、リポキシゲナーゼ阻害活性を比較したところ、ホスホリパーゼA阻害活性はほとんど同じであったが、SOD活性及びリポキシゲナーゼ阻害活性はグルコサミンには見られず、カバノアナタケと赤糠と米麹を乳酸菌で発酵させたものだけに活性が見られた。
米糠のSOD活性を調べたところ、赤糠、中白糠、上白糠の順で糠が米の中心に近い部分のものほどSOD活性が低くなり、最も表層に近い赤糠が最もSOD活性が高いことが分かった。
糠の中で最も活性の強かった赤糠をさらにエタノール抽出した抽出物、及びこれをさらにカラムで分画して疎水成分を分取したカラム分画物でNOラジカルの発生抑制を調べたところ、赤糠そのものよりも、赤糠エタノール抽出物の方が抑制効果が高く、カラム分画物はさらに抑制効果が高かった。
【0014】
以下、実施例を示して本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
カバノアナタケ液体培養上清の製造、及び、赤糠、米麹、カバノアナタケの乳酸菌発酵物の製造
カバノアナタケ液体培養上清は次のようにして得た。培地(5gのグルコース、5gの麦芽エキス(日本バイオコン株式会社製)、10gのポリペプトン(日本製薬株式会社製)、5gのYEAST EXTRACT(Difco社製;pH=6.0)500mlを2l容の坂口フラスコに入れ、これを121℃、15分オートクレーブ滅菌した後、これにカバノアナタケ菌糸を植菌して、30℃で振盪培養を行った。培養は25日行った。培養後の内容物をろ過し、カバノアナタケ液体培養上清を得た。
次に、赤糠40gに、米麹を10g、水を135ml加え、前述のカバノアナタケ液体培養上清を15ml加えた。これを懸濁、ホモジネートした後に乳酸菌Lactobacillus brevisを1.0×1010個/mlとなるように加え、37℃で10日間乳酸菌発酵させた。これを遠心分離してその上清を取り、赤糠・米麹・カバノアナタケの乳酸発酵物とした。
場合によっては、この工程のうち、米麹又はカバノアナタケの一方又はその両方を加えないで行うこともできる。この場合はそれぞれ加えなかったものを含まない乳酸発酵物となる。
【実施例2】
【0016】
カバノアナタケの熱水抽出物とカバノアナタケ液体培養上清のホスホリパーゼA阻害活性及びSOD活性の比較
カバノアナタケの従来の通常の用法である熱水抽出物と、本発明の方法であるカバノアナタケの液体培養上清の効果を、ホスホリパーゼA阻害活性と、SOD活性により比較した。
ホスホリパーゼA阻害活性の測定法を以下に示す。反応基質Umbeliferyl arachidonateを5ppm/バッファーとしたものを180μlに、固形分濃度を0.3%にそろえたサンプル水溶液10μlを加え、これに牛膵臓ホスホリパーゼA(シグマ社製)を0.2%/バッファーとしたものを10μl添加した。バッファーは0.1Mトリス塩酸バッファー(pH8.0)を用いた。これを37℃で60分間反応させ、Umbeliferyl arachidonateから遊離してくる7−hydroxycoumarinの蛍光強度を、励起波長360nm、測定波長460nmで検出して酵素活性の指標とした。阻害活性はコントロール(サンプルなし)の反応速度とサンプルを入れたものの反応速度の相対評価によって算出した。
次にSOD活性の測定法を以下に示す。サンプル水溶液(ブランクには水のみ)10μlに、酵素溶液(バターミルク由来キサンチンオキシダーゼ0.049単位/mlを含む0.1Mリン酸バッファーpH8.0)45μlと、発色試薬(キサンチン0.4mMとニトロブルーテトラゾリウム0.24mMを含む0.1Mリン酸バッファー、pH8.0)45μlを加え、混和した後にマイクロプレートリーダーのインキュベーター中で37℃で30分間反応させた後、560nmでの吸光度の増加をマイクロプレートリーダーにて測定した。1分当たりの吸光度の平均増加量を反応速度Vとして、コントロールのV(Vcont)を基準に被験区のV(Vtest)を比較した。次の式で計算した値をSOD活性(キサンチンオキシダーゼ阻害活性)とした。SOD活性(阻害率%)=100×(Vcont―Vtest)/Vcont。
【0017】
ホスホリパーゼA阻害活性の測定結果を図1に示す。サンプル溶液はいずれも固体分濃度0.3%にそろえたため、反応系における固体分濃度はいずれも150ppmである。カバノアナタケ菌体の熱水抽出物のホスホリパーゼA阻害率は65%であったのに対し、カバノアナタケ液体培養上清のホスホリパーゼA阻害率は89%と、液体培養上清の方がホスホリパーゼA阻害活性において上回った。
【0018】
SOD活性の測定結果を図2に示す。カバノアナタケの熱水抽出物のSOD活性は58%であったのに対し、カバノアナタケ液体培養上清では81%と、カバノアナタケ液体培養上清の方がSOD活性が高かった。
【実施例3】
【0019】
HL60細胞を用いたスーパーオキシドアニオンO抑制試験
ヒト骨髄性白血病細胞であるHL60細胞を用い、O発生抑制試験を行った。まずHL60細胞を、細胞密度3.0×10個/mlに調製してから、これにDMSOを培地に対して1.25%(V/V)になるように添加した。培地交換はせずそのまま5日間培養を続け、好中球に分化させた。このとき培地は10%FBS/RPMI1640(大日本住友製薬株式会社製)を用いて、5%CO気流下、37℃で培養を行った。
【0020】
この分化したHL60細胞培養液を遠心して培地上清を除去し、PBS(0.1Mリン酸緩衝液;pH=7.0)に懸濁して密度5×10個/mlに調製して細胞懸濁液を得た。これをエッペンドルフチューブに0.1mlずつ分注し、検体のPBS溶液(コントロールはPBSのみ)を10μl添加し、15分間37℃でインキュベートした後、遠心してPBS上清を除去した。この細胞沈殿ペレットを1.0%ハンクス液(日水製薬株式会社製)0.1mlに再度懸濁して細胞懸濁液を得た。この細胞懸濁液に、PBSで2.0μMに調整したTPA(和光純薬工業株式会社製)溶液を5μl添加した(ブランクはPBS)。その90秒後に、PBSで2.0%に調製したチトクロームC(株式会社シグマ製)溶液を10μl添加した。37℃で15分間インキュベートし、その後15分間氷冷した後に遠心した。遠心上清0.1mlをとり、マイクロプレートリーダーにてOD550を測定することによって、スーパーオキシドアニオンOの生成量を測定して、Oの産生抑制効果を調べた。このときコントロールでは最も多くのOが生成するため、チトクローム反応によるOD550の呈色が顕著であった。これに対し被験物がOの生成を抑制した場合は、OD550の呈色が抑制された。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

この結果、αトコフェロール、βカロチンなど、抗酸化物質と呼ばれている物質にはOの産生抑制効果は全く見られなかった。また、カバノアナタケ液体培養上清単独ではOの産生抑制効果は見られなかった。しかし、これに赤糠と麹を加えたものではいくらか抑制効果が見られた。また、赤糠と麹を乳酸菌発酵させたものでは大きなO産生抑制効果が見られた。また、これにカバノアナタケ液体培養上清を加えた場合でも同じ程度のO産生抑制効果が見られた。このことからO産生抑制効果については、赤糠と麹を加え、これを乳酸菌発酵させた組成物が非常に効果的であることが分かった。O産生抑制効果があるということは、抗酸化性があるということを示す。
【実施例4】
【0022】
RAW細胞を用いたNOラジカル産生抑制試験
マウス由来マクロファージであるRAW264.7細胞を、1ウェルあたり1.0×10個/0.5mlになるようにプレートに分注して前培養を行った。増殖用培地としては10%FBS/DMEM培地(大日本住友製薬株式会社製)を用いて、37℃、5%CO気流下で培養を行った。24時間後に培地を除去して、同量の試験用培地と交換した。試験用培地としては、FBSおよびフェノールレッドを含まないDMEM培地(大日本住友製薬株式会社製)に、200mMグルタミン水溶液を1%添加して用いた。これに被験物10μlを添加して、30分間放置した後、10μg/mlのLPS(株式会社シグマL4516)溶液10μlと10mg/mlのアルギニン溶液10μlを加えた。さらに24時間培養を続けた後に、培地上清より100μlを取り、OD543を測定してEとした。これにGriss試薬(1.0%sulfanilamide5%リン酸水溶液と、1.0%naphthylethylenediamine dihydrochloride水溶液を調製し、使用直前に1:1で混合したもの)を100μl加え、その反応液のOD543を測定してEとした。E−Eを算出し、これより発生したNOラジカル量の指標とした。NOラジカルの発生は炎症の発症と結びつくため、NOラジカルの産生抑制は抗酸化作用と共に、抗炎症作用があることを表す。その結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

この結果から、コラーゲン、カルノシン、GABAにはNOラジカル産生抑制効果はないことが分かった。赤糠についてはやや抑制効果が見られた。また、カバノアナタケ液体培養上清は、単独でも強いNOラジカル産生抑制効果が見られ、これにさらに赤糠と米麹を加え、これらを乳酸菌で発酵させたものも、カバノアナタケ液体培養上清と同等のNOラジカル産生抑制効果が見られた。
【実施例5】
【0024】
赤糠と米麹に対する、カバノアナタケ液体培養上清添加と乳酸菌発酵によるOとNOの産生抑制効果
実施例3及び実施例4の結果から、赤糠と米麹を加えたものには抗酸化活性があることが分かった。これにカバノアナタケ液体培養上清を添加する、又は乳酸菌発酵を行う、という操作を加えることにより、抗酸化、抗炎症の指標であるOとNOの産生抑制効果を調べた。赤糠40gに麹10gを加え、これに水135mlを添加し、これにカバノアナタケ液体培養上清15mlを添加して懸濁ホモジネートしたもの、又はカバノアナタケ液体培養上清を添加する代わりに乳酸菌を添加して懸濁ホモジネートした後に10日発酵させたもの、又はカバノアナタケ液体培養上清を添加した上に乳酸菌を添加して10日発酵させたものをサンプルとして用意し、OとNOの産生抑制効果を調べた。ブランクは赤糠と米麹と水だけを加え、カバノアナタケ液体培養上清も加えず、乳酸菌発酵もさせなかったものとした。その結果を表3に示す。
【0025】
【表3】

この結果から、赤糠と米麹を乳酸菌発酵をすることによりO産生抑制効果が高まり、赤糠と米麹にカバノアナタケ液体培養上清を加えることによりNOラジカル産生抑制効果が高まり、赤糠と米麹にカバノアナタケ液体培養上清を加えてさらに乳酸菌発酵をさせたものでは、その両方の産生抑制効果が見られることが分かった。このことから、抗酸化、抗炎症の効果をより高めるには、赤糠と米麹を混ぜたものにさらにカバノアナタケ液体培養抽出物を加えて、これに乳酸菌を添加して乳酸発酵させるのが最も良いということが分かった。
【実施例6】
【0026】
主な機能性食品素材とのホスホリパーゼA阻害活性の比較
いくつかの食品由来ペプチド、GABA,カルニチン、緑茶粉末、カバノアナタケ液体培養上清を赤糠と米麹を加えて乳酸菌発酵させたもののホスホリパーゼA阻害活性を測定して比較した。ホスホリパーゼA阻害活性は実施例2に記載したのと同じ方法で行った。
その結果を図3に示す。炎症関連酵素であるホスホリパーゼAの阻害活性は、調べた中では、カバノアナタケの液体培養上清を赤糠と米麹に加え、これを乳酸菌で発酵させたものが一番強かった。また、いくつかの食品由来ペプチドは抗炎症作用が期待されており、ホスホリパーゼAの阻害が見込まれたため、それらの食品由来ペプチドについて調べたが、海苔ペプチド、コラーゲンペプチド、シルクペプチド、はこの順にホスホリパーゼA阻害活性が低くなり、最も阻害活性の強かった海苔ペプチドでも、カバノアナタケの液体培養上清を赤糠と米麹に加え、これを乳酸菌発酵させたものに活性が遠く及ばなかった。また、GABA,カルニチン、緑茶粉末では、これらのペプチドよりもさらに阻害活性が低かった。
また、カバノアナタケを赤糠と米麹に加えて乳酸菌で発酵させたものに対し、試薬として既知のホスホリパーゼA2の阻害物質であるアリストロキア酸(aristolochic acid)を比較した。まず前者のIC50値が2693ppmであるのに対し、後者は259ppmと活性の強さではアリストロキア酸の1/10程度であった。ただしアリストロキア酸では同時に毒性も強く、ラット試験でのLD50値が106mg/kgであるのに対し、カバノアナタケを赤糠と米麹に加えて乳酸菌で発酵させたものでは、12000mg/kgの投与でもラットの死亡例が全く見られなかったことから、毒性ではアリストロキア酸の1/100以下であることが判明した。このことからも、アリストロキア酸は実際に生体に投与するには毒性が高いため不適であるのに対し、本発明のカバノアナタケを赤糠と米麹に加えて乳酸菌で発酵させたものは安全で好適であると言える。
【実施例7】
【0027】
カバノアナタケ液体培養上清に赤糠、米麹を加えたものを乳酸菌発酵させたものと、グルコサミンの抗炎症効果の比較
カバノアナタケ液体培養上清を赤糠、米麹に加えたものを乳酸菌発酵させたものと、グルコサミンの抗炎症効果を比較するために、ホスホリパーゼA阻害活性、SOD活性、リポキシゲナーゼ阻害活性の3つの活性を調べて比較した。グルコサミンは市販の抗炎症食品素材として知られている。本実験では甲陽ケミカル株式会社製のグルコサミンを用いた。
ホスホリパーゼA活性と、SOD活性の測定は実施例2に記載した通りに行った。リポキシゲナーゼ阻害活性測定は以下のようにして行った。0.1Mトリス塩酸緩衝液(pH9.0;0.4M NaCl、5mM CaCl)にリノール酸を100μMとなるように溶解して基質溶液とした。この酵素溶液1mlを石英セルに取り、検体の水溶液(コントロール群は水)を10μl加えた。これに大豆由来12−リポキシゲナーゼ溶液(株式会社シグマ製;100万ユニット/0.35ml;この懸濁液原液を同緩衝液で100倍希釈して調製)を40μl添加して、直後に吸光度234nmを測定して初期値とした。そのまま37℃で10分間反応させて、初期値からの吸光度234nmの増加をもって、生成したリノール酸過酸化物の指標とした。阻害活性は、コントロール群を基準とした吸光度の増加抑制の割合(%)で表した。
その結果を表4に示す。ホスホリパーゼA2阻害活性は、カバノアナタケ液体培養上清に赤糠と米麹を加えて乳酸菌発酵させたものと、グルコサミンでは前者の方がやや高かったが、ほとんど変わらなかった。前者のIC50は2693ppmであった。SOD活性は、グルコサミンは系への添加限度量の4000ppm添加しても全く不活性であったのに対し、カバノアナタケの液体培養上清を赤糠と米麹に加えて乳酸菌発酵させたものはIC50値1650ppmの活性を示した。また、赤糠の水抽出物のSOD活性を調べたところ、IC50値2460ppmの活性を示した。リポキシゲナーゼ阻害活性は、グルコサミンは1000ppmでも全く不活性だったのに対し、カバノアナタケの液体培養上清を赤糠と米麹に加えて乳酸菌発酵させたものはIC50値331ppmの強い活性を示した。
【0028】
【表4】

【実施例8】
【0029】
米糠の種類の違いによるSOD活性の差異
実施例1から7までの実験では米糠は赤糠を使って行ってきたが、赤糠以外の糠の効果も調べた。ここで用いた糠は、赤糠、中白糠、上白糠である。ここで言う赤糠、中白糠、上白糠とは、赤糠は玄米から外側10%までを削った時に発生する糠を指し、中白糠は、外側10%までを削ったところから外側22%までを削った時に発生する糠のことを指す。また、上白糠は外側22%以上を削った時に発生する糠のことを指す。これらの糠と米麹にさらにカバノアナタケの液体培養上清を加え、これを乳酸菌で発酵させたもののSOD活性を調べた。SOD活性の測定は、実施例2と同じ方法で行った。実験区は、赤糠4:米麹1、中白糠4:米麹1、上白糠4:米麹1、全て米麹(糠無し)、の4区で行った。
【0030】
その結果を図4に示す。SOD活性は赤糠で一番高く、76%であった。次に中白糠で35%、上白糠で30%であり、米麹のみでは16%であった。このことから、米麹にもいくらかのSOD活性があるが、これに糠を添加することによりSOD活性が高くなることが分かり、さらに、糠の中でもより米の外側に近い部分の糠を用いた方がSOD活性が高いこと、即ちここでは赤糠を用いたものが一番SOD活性が高いことが分かった。
【実施例9】
【0031】
赤糠のNOラジカル産生抑制効果
実施例4の結果で見られたように、赤糠にはいくらかのNOラジカル産生抑制効果が見られたため、赤糠をエタノール抽出したもの、それをさらにカラム分画したもののNOラジカル産生抑制効果を調べた。
カラム分画は次のようにして行った。赤糠のエタノール抽出液を逆相系固相抽出カラム(Oasis HLB;日本ウォーターズ株式会社製)に吸着させた後、これにメタノールを流して洗浄し、さらにこれにアセトニトリルを流して溶出した。この溶出液を濃縮乾固して秤量し、濃度を調節して画分を得た。この画分は赤糠のうち最も疎水性の高い部分である。RAW細胞を用いたNOラジカルの測定は実施例4と同様の方法で行った。
その結果を表5に示す。赤糠そのものではややNOラジカル産生抑制効果が見られ、これをエタノール抽出した抽出物ではさらに強いNOラジカル産生抑制効果が見られた。また、これをカラム分画したものでは、さらに強いNOラジカル産生抑制効果が見られた。すなわち、赤糠中にはNOラジカルの産生を強く抑制する物質が含まれており、それは赤糠のエタノール抽出物の中でも最も疎水性の高い部分であった。
【0032】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】カバノアナタケ熱水抽出物とカバノアナタケ液体培養上清のホスホリパーゼA阻害活性の比較をした図である。
【図2】カバノアナタケ熱水抽出物とカバノアナタケ液体培養上清のSOD活性の比較をした図である。
【図3】種々の物質のホスホリパーゼA阻害活性を比較した図である。
【図4】糠の種類によるSOD活性の比較をした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠または米糠抽出物および、米麹または米麹抽出物および、カバノアナタケ液体培養液または抽出物を含む混合物を乳酸菌発酵することを特徴とする健康機能組成物。
【請求項2】
米糠が赤糠である請求項1に記載の健康機能組成物。
【請求項3】
乳酸菌がLactobacillus brevisである請求項1から2の健康機能組成物。
【請求項4】
請求項1から3に記載の健康機能組成物を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−153813(P2007−153813A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351956(P2005−351956)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000165251)月桂冠株式会社 (88)
【Fターム(参考)】