説明

側方視型内視鏡の先端部

【課題】造影チューブ等のような単純なチューブのみで形成されて先端部分に曲がり癖がついた処置具であっても、処置具起上台の処置具誘導溝内に確実に誘導して、ふらつきなく安定した状態で使用することができる側方視型内視鏡の先端部を提供すること。
【解決手段】処置具誘導溝9の最先端位置をA、回動軸線位置を通る直線が土手状部10の外縁と接する位置をB、回動軸線位置をCとして、処置具起上台7が最も倒立側に回動された状態のとき、挿入部の先端2の軸線方向の座標軸においてAB≧BCとなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は側方視型内視鏡の先端部に関する。
【背景技術】
【0002】
側方視型内視鏡において処置具を使用する場合には、挿入部内に挿通配置された処置具挿通チャンネル内に手元側から差し込んだ処置具の先端部分を、視野方向に合わせて挿入部の先端から側方に突出させる必要がある。
【0003】
しかし、内視鏡用処置具のシースを形成するコイルパイプはある程度の腰の強さを備えているので、処置具挿通チャンネル内を通過した処置具の先端部分を挿入部の先端でいきなり側方に向けて突出させることはほぼ不可能である。
【0004】
そこで、側方視型内視鏡の先端部は一般に、挿入部の先端に設けられた先端部本体の側面部に処置具突出口が開口形成されて、先端部本体の処置具突出口の内側に位置する領域に形成された処置具突出方向変換室内に、挿入部の基端側からの遠隔操作によって回動動作する処置具起上台が配置されている。
【0005】
そして、挿入部の先端から処置具の先端部分を突出させる操作を行う際には、まず処置具起上台を倒立の状態にして処置具をできるだけ真っ直ぐ前方に近い斜め前方方向に突出させ、その状態から処置具起上台を起立させることにより、処置具の先端部分を側方に向かって押し曲げて突出方向を変換するようになっている。
【0006】
そのような処置具起上台の回動軸線は処置具起上台の後端部近傍に位置していて、処置具を処置具起上台に沿って誘導するための処置具誘導溝が処置具起上台の回動軸線位置より前方の領域に形成され、処置具誘導溝の左右両壁である土手状部がその後方側立ち上がり部では斜め前方に向かって次第に高くなる形状に形成されている(例えば、特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−267596
【特許文献2】特開2006−20725
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のような従来の側方視型内視鏡の先端部によれば、シースがコイルパイプで形成された処置具をスムーズに突出させて使用することができる。しかし、例えば処置具が造影チューブ等のように単純なフッ素樹脂チューブ等だけで形成されたものの場合には、初回以外の使用時に問題が生じる場合がある。
【0009】
即ち、単純なチューブのみで形成された処置具(以下、代表例として「造影チューブ」という)の場合には、使用時に処置具起上台部分で直角に近い角度で向きが変換された状態で押し引き操作されると、チューブの先端部分付近に小さな曲率半径の曲がり癖が形成される。その曲がり癖はチューブを指先でしごいた程度では真っ直ぐの状態に戻らない。
【0010】
そのため、新品の造影チューブであっても、チューブの先端部分が処置具起上台部分を通過して一度でも起上操作された後は曲がり癖がついてしまい、さらに、初回以外の使用時には、最先端部分に当初から曲がり癖がついた状態で造影チューブが処置具挿通チャンネル内に差し込まれて、処置具突出方向変換室内に達することになる。なお造影チューブの先端部分は、処置具挿通チャンネル内を通過する際には、チャンネルの内径に沿う状態に弾性変形するが、処置具突出方向変換室内に達すると元の曲がり癖がついた状態に戻る。
【0011】
図7はその状態を示しており、処置具挿通チャンネル91内を通過した造影チューブ100の先端部分101が、処置具突出方向変換室92内において処置具起上台93の位置にさしかかっている。
【0012】
このような時、コイルシースを備えた処置具200の場合には、二点鎖線で示されるように、処置具200の先端部分が、処置具起上台93に形成された処置具誘導溝94内にスムーズに案内されて、ふらつきのない安定した状態に処置具誘導溝94の左右両側の土手状部95でサポートされる。
【0013】
しかし、処置具が造影チューブ100等の場合には、図7に示されるように、その先端部分101が処置具誘導溝94の土手状部95でサポートされないうちに処置具突出口が96から突出してしまう。
【0014】
そのようになることを防止するには、処置具起上台93を予め倒立状態から少しだけ起立状態にさせておけばよいのであるが、処置具起上台93の状態を術者が観察することはできないので、そのような微妙な操作を行うのは一般に極めて困難である。
【0015】
このようにして、造影チューブ100の先端部分101が処置具誘導溝94の土手状部95でサポートされないうちに処置具突出口が96から突出すると、造影チューブ100の先端部分101が左右に(図7の紙面に対して垂直の方向に)ふらついて傾いた状態になってしまう。
【0016】
そして、図8に示されるように、処置具起上台93が起立方向に回動軸線Cの回りに回動操作されると、図9にやや誇張して図示されるように、造影チューブ100の先端部分101が処置具起上台93の土手状部95の外縁に乗り上げた状態になり、観察視野内の不適当な位置(場合によっては観察視野外)に誘導されて、適切な使用ができなくなってしまう。また、造影チューブ100の先端部分101が土手状部95の薄い外縁で傷つけられて損傷してしまう場合もある。
【0017】
本発明は、造影チューブ等のような単純なチューブのみで形成されて先端部分に曲がり癖がついた処置具であっても、処置具起上台の処置具誘導溝内に確実に誘導して、ふらつきなく安定した状態で使用することができる側方視型内視鏡の先端部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するため、本発明の側方視型内視鏡の先端部は、挿入部の先端に設けられた先端部本体の側面部に処置具突出口が開口形成され、先端部本体の処置具突出口の内側に位置する領域に形成された処置具突出方向変換室内に、挿入部の基端側からの遠隔操作によって回動動作する処置具起上台が配置されて、挿入部内に挿通配置された処置具挿通チャンネルの先端が処置具突出方向変換室に後方から連通接続され、処置具挿通チャンネル内から処置具突出方向変換室を通過して処置具突出口から外方に突出する処置具の突出方向を、処置具起上台の回動操作により変化させることができるように構成された側方視型内視鏡の先端部であって、処置具起上台の回動軸線が処置具起上台の後端部近傍に位置していて、処置具突出方向変換室内を通過する処置具を誘導するための処置具誘導溝が処置具起上台の回動軸線位置より前方の領域に形成され、処置具誘導溝の土手状部はその後側立ち上がり部が斜め前方へ次第に高くなる形状に形成されたものにおいて、処置具誘導溝の最先端位置をA、回動軸線位置を通る直線が土手状部の外縁と接する位置をB、回動軸線位置をCとして、処置具起上台が最も倒立側に回動された状態のとき、挿入部の先端の軸線方向の座標軸においてAB≧BCとなるように構成されているものである。
【0019】
なお、処置具誘導溝の土手状部の後方側立ち上がり部が、その側方から見て真っ直ぐな斜面状に形成されていてもよく、或いは、その側方から見て全体として円弧状に形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、処置具起上台が最も倒立側に回動された状態のとき、挿入部の先端の軸線方向の座標軸においてAB≧BC(但し、A:処置具誘導溝の最先端位置、B:回動軸線位置を通る直線が土手状部の外縁と接する位置、C:回動軸線位置)となるように構成されていることにより、処置具起上台が起立方向に回動操作されたときに、造影チューブ等のような単純なチューブのみで形成されて先端部分に曲がり癖がついた処置具であっても、処置具起上台の土手状部の内側(即ち、処置具誘導溝内)に容易に落ち込むので、処置具誘導溝に沿って確実に誘導して、ふらつきなく安定した状態で使用することができる
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施例に係る側方視型内視鏡の先端部において処置具起上台が倒立した状態の側面断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例に係る側方視型内視鏡の先端部において処置具起上台が起立した状態の外観図斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施例に係る側方視型内視鏡の先端部の処置具起上台の単体斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施例に係る側方視型内視鏡の先端部において処置具起上台が少し起立した状態の側面断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例に係る側方視型内視鏡の先端部において処置具起上台が中程度以上に起立した状態の側面断面図である。
【図6】本発明の第2の実施例に係る側方視型内視鏡の先端部の側面断面図である。
【図7】従来の側方視型内視鏡の先端部において処置具起上台が倒立した状態の側面断面図である。
【図8】従来の側方視型内視鏡の先端部において処置具起上台が中程度まで起立した状態の側面断面図である。
【図9】従来の側方視型内視鏡の先端部の処置具起上台と処置具の先端部分の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明の第1の実施例を説明する。
図2は、側方視型内視鏡の先端部を示しており、可撓性の挿入部1の最先端部分に先端部本体2が連結されている。先端部本体2は、金属製の先端部本体ブロック2aとその周囲を囲む電気絶縁性の先端部カバー2bとからなるものである。なお、先端部本体ブロック2aのみを先端部本体と称する場合が少なくないが、本件では、先端部カバー2bも先端部本体2に属するものとする。
【0023】
先端部本体2の側面部には、観察窓3と照明窓4とが前後に並んで側方に向けて配置されている。また、その横に並んで、造影チューブ100その他の各種処置具の先端部分101が突出される処置具突出口5が、先端部本体2の側面部に開口形成されている。処置具突出口5は、前後方向に細長い形状に形成されている。
【0024】
先端部本体2には、処置具突出口5の内側に位置する領域に処置具突出方向変換室6が形成されている。そして処置具突出方向変換室6内には、挿入部1の基端側からの遠隔操作によって回動動作する処置具起上台7が配置されていて、処置具突出口5から突出する処置具(ここでは造影チューブ100)の先端部分101の突出方向を変化させることができる。その操作は、周知のように、処置具起上台7に先端が連結された操作ワイヤ(図示せず)を挿入部1の基端側から押し引き操作すること等により行われる。
【0025】
図1は、処置具起上台7が倒立した状態の側方視型内視鏡の先端部の側面断面図である。挿入部1内に挿通配置された処置具挿通チャンネル8の先端が処置具突出方向変換室6に後方から連通接続されており、処置具挿通チャンネル8内から処置具突出方向変換室6を通過して処置具突出口5から外方に突出する処置具(造影チューブ100)の先端部分101の突出方向が、処置具起上台7を回動操作することにより変化する。
【0026】
処置具起上台7の回動軸線Cは処置具起上台7の後端部近傍に位置している。なお、処置具起上台7を先端部本体2に回動自在に軸支するための構成は各種のものが公知であり、本発明においてはそのうちのどの様な構成を採用しても差し支えない(図示省略)。
【0027】
図1及び処置具起上台7の単体斜視図である図3にも示されるように、処置具起上台7には、処置具突出方向変換室6内を通過する造影チューブ100を誘導するための処置具誘導溝9が回動軸線Cの位置より前方の領域に形成されている。
【0028】
処置具誘導溝9は底面が略円弧状の断面形状に形成されていて、それを挟む左右両側部分が土手状部10になっている。土手状部10は、その後側立ち上がり部11が、斜め前方へ次第に処置具誘導溝9からの高さが高くなる形状に形成されている。このように、「立ち上がり部」とは、処置具誘導溝9の側壁部である土手状部10が処置具誘導溝9の溝底部分から次第に高くなっている部分をいう。
【0029】
この実施例の後側立ち上がり部11は、その側方から見て(即ち、図1の紙面に垂直な方向から見て)、真っ直ぐな斜面状に形成されている。ここで、処置具誘導溝9の最先端位置をA、回動軸線Cの位置を通る直線が土手状部10の外縁と接する位置をBとする。
【0030】
そして、図1に示されるように、処置具起上台7が最も倒立側に回動された状態のとき、挿入部1の先端の軸線方向(即ち、図1において左右方向)の座標軸においてAB≧BCとなるように構成されている。これが、本発明の特徴である。
【0031】
次に、上記実施例の動作について説明をする。図1は、曲がり癖がついた造影チューブ100の先端部分101が、処置具挿通チャンネル8内を通過して、処置具突出方向変換室6内において処置具起上台7の位置にさしかかった状態を示している。
【0032】
この状態において、造影チューブ100の先端部分101は、処置具誘導溝9の土手状部10で左右方向(即ち、図1の紙面に対して垂直な方向)にサポートされないうちに処置具突出口5から先端部本体2の外部に突出して、ふらついた状態になる。この点に関しては従来の側方視型内視鏡の先端部と殆ど相違がない。
【0033】
しかし、図4に示されるように、処置具起上台7が遠隔操作により起立側に回動を始めると、前述のように処置具起上台7がAB≧BCとなるように形成されていることにより、処置具突出口5側から見て、B点が従来より処置具突出方向変換室6の奥側寄り(即ち、回動軸線位置C寄り)に位置している。
【0034】
その結果、造影チューブ100の先端部分101が側方にふらついていても、従来よりもふらつき変位量の小さい位置でB点が造影チューブ100に接触するので、造影チューブ100の先端部分101が処置具起上台7の土手状部10の外縁に乗り上げたままの状態になり難い。
【0035】
そして、さらに処置具起上台7を起立させると、図5に示されるように、造影チューブ100の先端部分101が、土手状部10の内側(即ち、処置具誘導溝9内)に容易に落ち込むので処置具誘導溝9に沿ってふらつきなく案内される状態になる。
【0036】
このようにして、本発明の側方視型内視鏡の先端部によれば、造影チューブ100等のような単純なチューブのみで形成されて先端部分101に曲がり癖がついた処置具であっても、処置具起上台7の処置具誘導溝9内に確実に誘導して、ふらつきなく安定した状態で使用することができる。
【0037】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、例えば、図6に示される第2の実施例のように、処置具誘導溝9の土手状部10の外縁を、その側方から見て(即ち、図6の紙面に対し垂直方向から見て)全体として円弧状に形成してもよい。
【0038】
第2の実施例のその他の構成は第1実施例と同様であり、このようにしても第1の実施例と同様の効果が得られる。そして、土手状部10の外縁形状が滑らかなものになるので、第1の実施例よりさらに造影チューブ100の先端部分101が土手状部10の内側に容易に落ち込んで処置具誘導溝9に沿い易くなる場合がある。
【符号の説明】
【0039】
1 挿入部
2 先端部本体
5 処置具突出口
6 処置具突出方向変換室
7 処置具起上台
8 処置具挿通チャンネル
9 処置具誘導溝
10 土手状部
11 後側立ち上がり部
100 造影チューブ
101 先端部分
A 処置具起上台の処置具誘導溝の最先端位置
B 処置具起上台の回動軸線位置を通る直線が土手状部の外縁と接する位置
C 処置具起上台の回動軸線位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
挿入部の先端に設けられた先端部本体の側面部に処置具突出口が開口形成され、上記先端部本体の上記処置具突出口の内側に位置する領域に形成された処置具突出方向変換室内に、上記挿入部の基端側からの遠隔操作によって回動動作する処置具起上台が配置されて、上記挿入部内に挿通配置された処置具挿通チャンネルの先端が上記処置具突出方向変換室に後方から連通接続され、上記処置具挿通チャンネル内から上記処置具突出方向変換室を通過して上記処置具突出口から外方に突出する処置具の突出方向を、上記処置具起上台の回動操作により変化させることができるように構成された側方視型内視鏡の先端部であって、
上記処置具起上台の回動軸線が上記処置具起上台の後端部近傍に位置していて、上記処置具突出方向変換室内を通過する処置具を誘導するための処置具誘導溝が上記処置具起上台の上記回動軸線位置より前方の領域に形成され、上記処置具誘導溝の土手状部はその後側立ち上がり部が斜め前方へ次第に高くなる形状に形成されたものにおいて、
上記処置具誘導溝の最先端位置をA、上記回動軸線位置を通る直線が上記土手状部の外縁と接する位置をB、上記回動軸線位置をCとして、上記処置具起上台が最も倒立側に回動された状態のとき、上記挿入部の先端の軸線方向の座標軸においてAB≧BCとなるように構成されていることを特徴とする側方視型内視鏡の先端部。
【請求項2】
上記処置具誘導溝の土手状部の後方側立ち上がり部が、その側方から見て真っ直ぐな斜面状に形成されている請求項1記載の側方視型内視鏡の先端部。
【請求項3】
上記処置具誘導溝の土手状部の外縁が、その側方から見て全体として円弧状に形成されている請求項1記載の側方視型内視鏡の先端部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−81525(P2013−81525A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221852(P2011−221852)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】