説明

偽造防止媒体、偽造防止用ラベル、偽造防止用転写シート及び偽造防止物品

【課題】新規な技術的原理に基づいて、媒体及び媒体が貼付された物品が、真正なものであると判定ができ、観察できなければ非真正の偽造品または贋造品であると判定できる、従来にないコバート技術を提供すること。
【解決手段】傾斜を有し、面内で部分的に面方向に対する傾斜面のなす角度が異なる構造反射層を持ち、前記構造反射層の構造を有する側に位相差層を設け、位相差層の、構造反射層が接する面とは反対側の面に、模様隠蔽層が設けられていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商品やその包装物に貼り付けて使用する偽造防止媒体、偽造防止用ラベル、偽造防止用転写シート及びそれらが貼り付けられた偽造防止物品に関する。
【背景技術】
【0002】
偽造防止技術は、銀行券、債券、商品券、小切手などの金券や有価証券等さまざまな物品に利用され、クレジットカード、IDカード、公文書など各種証明書、重要書類にも使用されている。また、最近では、各種商品やその包装材料に適用して、その商品が真正であることを保障している。これらの物品を検査して、適正な偽造防止手段が施されている場合には真正な物品と判定され、不適正なものであった場合には非真正な物品と判定される。
【0003】
このような偽造防止手段は、一般に、オバート技術とコバート技術に分けられる。オバート技術は、だれが見ても偽造防止技術と認知でき真贋判定を可能とする技術であり、例えば、見る角度によって色や模様が変わる回折構造体や多層干渉膜を利用した偽造防止手段が例示できる(特許文献1)。
【0004】
これら回折構造体や多層干渉膜を利用した偽造防止手段は、見る角度によって色や模様が変わるため、特殊な検知機を必要とせず、また、熟練した能力を要することもなく、だれでもその存在を認知できる。このため、例えば、一般消費者が商品を購入する際に、その商品が真正なものであるか否かについて判定することができるが、反面、悪意のある者にとってもその存在が明らかであるから、偽造や贋造の対象として狙われやすい。
【0005】
コバート技術は、特殊な検知機もっているか、熟知していなければ、その存在自体が認知できない技術であり、例えば、光反射膜の一部にパターン状に位相差膜を配置した偽造防止手段が例示できる。この偽造防止手段では、前記位相差膜の存在自体を認知することができない。そこで、偏光フィルムを検知機として位相差膜上に重ね、この偏光フィルムをその面内で回転させると、その回転に伴って位相差膜の形状に明暗が変化する(特許文献2)。
【0006】
したがって、このような現象が観察できればその物品が真正なものであると判定でき、観察できなければ非真正の偽造品又は贋造品と判定することができる。コバート技術を利用した偽造防止手段はこのように特殊な検知機をもっているか、熟知していなければ、その存在自体が認知できないため、例えば、一般消費者が店頭で判定することは困難であるが、一方、悪意のある者にとってもその存否が明らかではないので、偽造や贋造の対象として把握すること自体が困難である。
【0007】
コバート技術には、反射膜の一部にパターン状に位相差膜を配置した偽造防止手段のほかにもさまざまなものが存在する。例えば、紫外線照射によって発色する蛍光インキを使用して印刷したものである。この場合には、紫外線照射装置がないと、その存在自体が認知できない。
【0008】
これらオバート技術とコバート技術とを重畳して利用した偽造防止技術も知られており、回折格子を構成する凹凸表面に光反射膜を設け、この光反射膜の一部にパターン状に位相差膜を配置した偽造防止媒体を開示している。この技術では、光反射膜は入射光を反射回折して回折画像を形成する役割と共に、この上に重ねられた偏光フィルムを通して位相差膜のパターン形状に明暗を変化させる役割を兼ねている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−099090号公報
【特許文献2】特開2006−142599号公報
【特許文献3】特開2006−043978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新規な技術的原理に基づいて、従来にないコバート技術を提供することを目的とするものである。本発明に係る偽造防止媒体は、その上に特定の角度で偏光フィルムを重ねた際に、予め柄の付いた媒体に色が付くか、もしくは無地の媒体であれば、媒体に色が付いた潜像が出現する。このため、この現象が観察できたとき、その媒体及び媒体が貼付された物品が、真正なものであると判定ができ、観察できなければ非真正の偽造品または贋造品であると判定できるものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、傾斜を有し、面内で部分的に面方向に対する傾斜面のなす角度が異なる構造反射層を持ち、前記構造反射層の構造を有する側に位相差層を設け、位相差層の、構造反射層が接する面とは反対側の面に、模様隠蔽層が設けられていることを特徴とした偽造防止媒体である。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、傾斜を有し、面内で部分的に面方向に対する傾斜面のなす角度が異なる構造反射層を持ち、前記構造反射層の構造を有する側に位相差層を設けられていることを特徴とした偽造防止媒体である。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記構造反射層が、片方が傾斜し、角度が異なる直角三角形を、連続的に並べた鋸型の断面を持つことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止媒体である。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、前記構造反射層が、両側に傾斜し、角度が異なる二等辺三角形を、連続的に並べた山型の断面を持つことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止媒体である。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記構造反射層が、両側に曲面を持つ半円が連続的に並んだ蒲鉾型の断面を持つことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止媒体である。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体における構造反射層の構造を有しない側に、接着剤層を設けたことを特徴とする偽造防止用ラベルである。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体における位相差層側に剥離層および転写基材を、構造反射層の構造を有しない側に接着剤層を、設けたことを特徴とした偽造防止用転写シートである。
【0018】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体、もしくは請求項6に記載の偽造防止用ラベル、または請求項7に記載の偽造防止用転写シートのいずれかを備えたことを特徴とする偽造防止物品である。
【0019】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体、もしくは請求項6に記載の偽造防止用ラベル、もしくは請求項7に記載の偽造防止用転写シート、または請求項8に記載の偽造防止物品に、偏光フィルムを重ね、部分的に異なる発色を観察し、発色が確認できる場合は真正なものと判断し、発色が確認できない場合は非真正なものと判断することを特徴とする真偽判定方法である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明の偽造防止媒体によれば、偏光フィルムを特定の角度で重ねることにより、部分的に異なる発色を示す。この発色が観察できたときは真正であり、観察できなかったときには非真正である。こうして偽造・贋造の有無を判定することが可能となる。
【0021】
本発明に係わる偽造防止媒体は、部分的に傾斜角度が異なる構造とその表面反射層を有する構造反射層と、位相差層を必須の構成要素とするものである。部分的に傾斜角度が異なる構造を有する構造反射層のなかで、傾斜角度が等しく並ぶ特定の面は、パターン状に設けられても良い。例えば文字や記号や装飾模様などである。このように特定の意味を有するパターン状又は装飾模様状に設けられることで、見た目にも美しく、意味ある情報を提供する機能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の構造反射層11と位相差層12とを積層してなる偽造防止媒体1の例を示す概念断面図である。
【図2】本発明の偽造防止媒体1に入射する光の位相差層12を貫く距離が構造反射層11の構造によって異なることを説明するための説明用概念断面図である。
【図3】本発明の鋸型断面を持つ構造反射層11の例を示す概念斜視図である。
【図4】本発明の正六角錐と、重心の偏った正五角錐と、星型五角錐がセル状に並んでいる構造反射層11の例を示す斜視概念図である。
【図5】本発明の構造反射層11と位相差層12との間に中間層13を設けた偽造防止媒体1の例を示す概念断面図である。
【図6】本発明の構造反射層11と位相差層12と模様隠蔽層14とを順に積層してなる偽造防止媒体1の例を示す概念断面図である。
【図7】本発明の偽造防止媒体1に偏光フィルム2を重ねて真偽の検証を行っている様を表した斜視概念図である。
【図8】本発明の偽造防止媒体1を使用した偽造防止用ラベル5の断面概念図である。
【図9】本発明の偽造防止媒体11を使用した偽造防止用転写シート6の断面概念図である。
【図10】本発明の偽造防止媒体11を貼付した偽造防止物品7及び、偽造防止媒体1に偏光フィルム2を重ねて真偽の検証を行う真偽判定方法を示した斜視概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の必須構成要素である構造反射層11と位相差層12を積層して設けられた偽造防止媒体1の例を示す断面図である。例えば、位相差層12が予めフィルム状として提供される位相差フィルムであった場合は、両者は接着剤を使用して積層することができる。図1では接着剤の表記は省略している。
【0024】
図2は、図1で示した構造の偽造防止媒体1に入射する光の位相差層12を貫く距離が、構造反射層11の構造の傾斜角度によって異なることを説明するための説明用断面図である。面方向に対する構造傾斜面のなす角度θが大きいほど、位相差層12を通過する光路長[長]21が長くなり、すなわち位相差値が大きくなる。逆にθが小さいほど、光路長[短]22が短くなり、位相差値が小さくなる。このような仕組みで、同一面内で部分的に位相差値の異なる部分を作り出している。
【0025】
構造反射層11は、例えばある程度厚みを持った基材に対して、面内で部分的に、面方向に対する構造傾斜面のなす角度が異なる構造に切削された金型などを、熱と圧力をかけてエンボス加工して基材に構造を形成した後、光を反射するための金属薄膜を成膜するなどして作る方法が考えられる。
【0026】
基材の材料としては、紙に代表される繊維質のシートや樹脂フィルム、若しくはそれらの複合体などが考えられ、最終的に設ける反射層が光遮蔽性を持っている場合は、基材は必ずしも透明でなくても良い。例えば、厚紙に薄い樹脂フィルムを接着剤でラミネートしたものなどが考えられる。樹脂フィルムにはポリエチレンテレフタレートフィルムや、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリプロピレンフィルムなど、金型によって形成された構造を維持できるものであれば、どのような素材でも用いることができる。
【0027】
金型によって形成する構造の形状としては、傾斜を有し、面内で部分的に面方向に対する構造傾斜面のなす角度が異なっていれば良く、その形状は例えば、断面が特定の形状の連続で構成された一軸方向に連なる構造や、特定の立体がセル状に並んだ構造などが考えられる。具体的には、一軸方向に連続した構造では、片方が傾斜している直角三角形を、連続的に並べた鋸型の断面を持つものや、両側に傾斜している二等辺三角形を、連続的に並べた山型の断面を持つもの、また片側だけ局面になっている円を四分の一に切ったような形が、連続的に並んだ半蒲鉾型の断面を持つものや、両側に曲面を持つ半円が連続的に並んだ蒲鉾型の断面を持つものが考えられる。ここでは説明を簡素にするため直角三角形や二等辺三角形などと例を挙げたが、三角形の場合、頂点から底辺に垂線を下ろした位置が底辺の中心や端である必要はなく、また局面を含む図形である場合、片方が傾斜面で片方が局面といったものも考えられる。
【0028】
図3は、片側に傾斜している直角三角形が連続的に並んだ鋸型の断面を持つ形状を、一軸方向に形成した構造であって、部分的に面方向と傾斜面のなす角度が異なっている例を示す構造反射層11の斜視図である。特定の立体がセル状に並んだ構造の具体例としては、円錐が敷き詰められた形状や、多角錐を敷き詰めた形状などが考えられる。
【0029】
これらの円錐や多角錐の頂点から、底面に垂線を下ろした位置が、底面の中心である必要はなく、また底面の形状も正円や正多角形である必要もなく、楕円や多角形、また星型多角形などもありうる。
【0030】
図4は、正六角錐と、重心の偏った正五角錐と、星型五角錐が、セル状に並んでいる例を示す構造反射層11の斜視図である。更に、図3で例を示した一軸連続構造と、図4で例を示したセル状に立体を並べた構造を、組み合わせたような構造も考えられる。また、傾斜のない平坦な部分が設けられていても良い。平坦な部分は最も位相差層を貫く光路が短くなる構成となる。
【0031】
基材に形成された構造反射層11には表面に反射層が設けられており、真空蒸着法、スパッタリング法、ゾルゲル法、印刷法、スピンコート法などが考えられる。形成する反射層の素材としては、光を反射するものであればさまざまに考えられるが、例えばアルミニウム、銅、亜鉛、マグネシウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銀、金、錫、プラチナなどの金属の金属光沢を用いて反射させる素材が考えられる。他にも、硫化亜鉛や酸化亜鉛などの高屈折率素材を用いて光の全反射を利用して反射させる素材、又は光沢のある粒子が分散した樹脂材料などが考えられる。
【0032】
前述の、金属や高屈折率素材を反射層に用いる場合は、エンボス加工などによって構造反射層11の構造を形成した後に、真空蒸着法やスパッタリング法、ゾルゲル法などで薄膜を形成する手順が考えられる。この方法であれば多層膜を形成することも可能であり、多層膜を形成すると多層薄膜干渉効果により、偏光フィルタ2を当てなくても観察する角度によって色が変わる効果が追加される。
【0033】
また光沢のある粒子が分散した樹脂材料を用いる場合は、先に基材に該当材料を成膜してからエンボス加工などによって構造反射層11の構造を形成する手順が考えられる。光沢のある粒子が分散した樹脂を基材に成膜する方法としては、代表的な方法として印刷法などが考えられる。また分散させる光沢のある粒子としては、前述の金属を粒子状にしたものや、パールなどの粒子が考えられる。パールの粒子を用いた場合は、前述の多層膜と同じく、偏光フィルム2を当てなくても観察する角度によって色が変わる効果が追加される利点もある。パール粒子による色彩変化技術は公知である。
【0034】
図5は、本発明の必須構成要素である構造反射層11と位相差層12を積層して設ける際、構造反射層11と位相差層12の間に、中間層13を設けることでなる偽造防止媒体1の例を示す断面図である。これは例えば、位相差層12が液晶などを塗布することで設けられる場合、予め構造反射層11の構造面に、傾斜部が埋まる程度の膜厚を持った中間層13を塗布して硬化させることで、表面が平坦化し、更に配向処理として、例えば一軸方向にラビング処理を行うことで中間層13を配向膜としても利用できる。このような配向処理を行った中間層13へ液晶を塗布し、配向させた後に硬化させることで、位相差層12を設けることができる。
【0035】
位相差層12を液晶で形成する場合において、必ずしも図5の構成を用いる必要はなく、樹脂フィルムにラビングなどの配向処理を行い、液晶を塗布して配向させた後に硬化させたものを位相差層12とし、構造反射層11の構造面に、接着剤を用いて積層させると、図1の構成と同様になる。
【0036】
またこの方法における樹脂フィルムには、ポリエチレンテレフタレートや、ポリエチレンナフタレートなどの材料を用いて、一軸延伸することで製造されたフィルムを用いた場合、光学的に異方性を有しているため、ラビングの方向や塗布する液晶の厚みなどを考慮した上で位相差層12の位相差値を調整する必要があるが、樹脂フィルムの素材にアクリルなどを用いたり、無延伸にて製造されたフィルムを用いる場合、光学的に等方であるため、位相差値の調整は不要となる。
【0037】
また、支持基材に液晶を塗布して配向させて硬化させて位相差層12とした後、支持基材と位相差層12との間の密着力が低くなるような素材を組み合わせる場合、接着剤を用いて構造反射層11と積層させた後、支持基材を剥離することで転写することで、構造反射層11と位相差層12の積層体を形成することもできる。
【0038】
この場合の支持基材は、透明である必要もなく、例えばシリコンを塗布したグラシン紙など、いわゆるシールなどのセパレーターとして使用されているもののシリコン面に、ポリビニルアルコール樹脂やポリイミド樹脂などを塗布し、ラビングなどの配向処理を行ったものを基材として用いても良いし、ポリエチレンテレフタレート樹脂のフィルムと密着力の低い樹脂を剥離層93として塗布し、その上にポリビニルアルコール樹脂やポリイミド樹脂などを塗布し、ラビングなどの配向処理を行ったものを基材として用いても良い。また剥離層93の樹脂に、パラフィンワックスやカルナバワックス、ポリエチレンワックスやシリコンなどを添加しても良い。
【0039】
なお、図5を用いて説明した本構成は、構造反射層11と位相差層12を積層させるた
めの手段の一つとして提案されるものであるため、以降の説明では中間層13を用いた構成は、図1における接着剤と同様、省略して説明する。
【0040】
これまで本発明の必須構成要素である構造反射層11と位相差層12のみを用いた構成について説明してきたが、このほか、他の層が積層されていても良い。他の層としては、光が透過できるものである必要があり、好ましくは光学的に等方性であるのが良いが、異方性であっても、その異方性を位相差層12の一部として利用するのであれば良い。
【0041】
図6は、構造反射層11と位相差層12と模様隠蔽層14とを順に積層してなる偽造防止媒体1の例を示した断面図である。これまで説明してきた構成は、位相差層12の面から観察すると、構造反射層11の、面内で部分的に面方向に対する構造傾斜面のなす角度が異なっている境界線は、目視で視認可能であるため、例えば傾斜角度が等しく並ぶ特定の面がパターン状に設けられていた場合、そのパターンを目視で視認可能である。
【0042】
そこで、例えば散乱効果のある模様隠蔽層14を設けることで、一見無地の媒体に見せることができる。具体的には、例えばシリカフィラーが10%程度含まれた樹脂を、模様隠蔽層14として塗布し、乾燥させることによって硬化させ、形成しても良い。樹脂には例えばポリウレタン樹脂などが考えられる。
【0043】
図7は、偽造防止媒体1に偏光フィルム2を重ねることによって、面内が部分的に異なる色を発色しているか、若しくは発色した潜像が出現している部分3を表した斜視図である。
【0044】
次に図8は、この偽造防止媒体1を使用したラベルの断面図で、すなわち、物品に接着固定する際の便宜のため接着剤層4を設けてラベルを構成したものである。この接着剤層4は、偽造防止媒体1の構造反射層11の上、すなわち構造のない方の面に設けられることが望ましいが、固定する物品が透明な場合には、構造反射層11とは反対側の面、すなわち位相差層12若しくは模様隠蔽層14の上に接着剤層4を設けて、この接着剤層4により物品に接着固定してもよい。
【0045】
この場合には、透明な物品越しにその真偽を判定するが、透明な物品が位相差値を持っている場合、本発明の性能に影響する可能性があるため十分に考慮する必要がある。接着剤層4としては任意の接着剤が使用でき、感圧接着剤と感熱接着剤のいずれでもよい。
【0046】
また、図9は、この偽造防止媒体1を使用して造防止用転写シート6を構成したものである。この造防止用転写シート6は転写基材91と転写層92とを剥離可能に積層して構成したもので、転写層92は偽造防止物品(被転写体)7に移行する部分であり、転写基材91は転写層92から剥離して除去される部分である。
【0047】
転写層92は、被転写体である偽造防止物品7に接着する接着剤層4と偽造防止媒体1とを含んで構成され、この接着剤層4によって偽造防止物品7に接着固定される。なお、図示のように、転写基材91と転写層92との間に剥離層93を配置して、転写基材91と転写層92と剥離性を高めてもよい。この剥離層93は、転写して転写基材91を剥離したときに、被転写体表面に残存するものであってもよいし、転写基材91と共に除去されるものであってもよい。
【0048】
剥離層93が被転写体表面に残存する場合には、この剥離層93は偽造防止媒体1の表面を物理的損傷や化学的損傷から保護する保護層の役割を兼ねることになる。なお、偽造防止媒体1は、その構造反射層11と逆側の面、すなわち位相差層12、若しくは模様隠蔽層14が転写基材91に対面するように配置し、構造反射層11の上に接着剤層4を設
けることが望ましい。
【0049】
偽造防止物品7が透明な場合には、構造反射層11が転写基材91に対面するように配置し、構造反射層11と逆側の面、すなわち位相差層12、若しくは模様隠蔽層14の上に、接着剤層4を設けることも可能である。接着剤層4としては任意の接着剤が使用でき、感圧接着剤と感熱接着剤のいずれでもよい。また、転写基材91、剥離層93は、いずれも公知である。
【0050】
次に図10は、偽造防止物品7に固定した偽造防止媒体1に、偏光フィルム2を特定の角度で重ねることによって、面内が部分的に異なる色を発色しているか、若しくは発色した潜像が出現している部分3を表した斜視図である。特定の角度とは図7の説明で明らかであり、このような操作によって部分的な発色、若しくは発色した潜像の出現を、確認できれば真正品、確認できなければ模造・贋造品であると判断できる。
【0051】
以下本発明を実施するための形態を、図面を用いて詳細に説明する。本発明の位相差層とは、例えば樹脂フィルムをすることで作られるフィルムなどが考えられる。延伸方向は一軸延伸や二軸延伸などさまざまであるが、一軸延伸のものは配向方向や位相差値の制御などが比較的容易であり、本発明の効果を得るための設計も容易になる。
【0052】
また他にも、配向処理を施した配向膜の上に液晶を形成したものなどが考えられる。液晶を用いると面内で配向方向を部分的に異ならせるなど、より複雑な設計が可能となる。このような素材で形成される位相差層は、ものによって固有の位相差値を持ち、また厚みの制御によって位相差値の制御が可能である。
【0053】
一般的に、積層などによって厚みを稼ぐと位相差値が増加する。位相差値を持つ素材に入射する光は、正常光軸と異常光軸それぞれで光の進む速度が異なり、例えば入射光が直線偏光であった場合、その位相差値によって円偏光や楕円偏光、または偏光方向が異なるか、もしくは一周以上回転して同じ方向の直線偏光に変わる。
【0054】
このような位相差層12の両面を、偏光方向をそろえた二枚の偏光フィルムで挟んだとき、位相差層12の位相差値によって、透過する光の波長を制御することができ、実際の見た目には色が付いたように見える。
【0055】
位相差層12の配向方向と偏光フィルム2の偏光方向とのなす角度の関係は、位相差層12の配向方向が例えば一様に一軸であった場合、45度とするのが最も強く色が付いたように見ることができる。この場合、位相差層12の位相差値がλ/2であって、光源と観測者との間に正対するよう観測した場合、ほぼ全可視光波長を遮蔽し黒色に見える。位相差値が3λ/4であれば青色、7λ/8であれば水色などとなる。
【0056】
このような現象は、位相差層12の片面を構造反射層11とし、反対側の面に偏光フィルム2を設けた場合でも観測が可能であるが、発現する位相差値は光路で決まるため、反射層が設けられている本構成の場合は、行きと帰りで位相差層12を二度通過することから、位相差値が二倍となる。
【0057】
また先ほどの構成と異なり、例えばこのような構成で、位相差層12の配向方向が一様に一軸で、配向方向と偏光フィルム2とのなす角度が45度であり、位相差層12の位相差値がλ/4であって、光源と観測者がおおよそ同じ光軸にあり、媒体が観測者と正対するように観測した場合、実質的な位相差値はλ/2なので、ほぼ全可視光波長を遮蔽し、黒く見える。位相差層12の位相差値が3λ/4であれば紫色、位相差層12の位相差値がλ/2の場合はほぼ透明となる。
【0058】
このように、偏光フィルム2を透過して観測者によって観測される光の波長は、位相差層12を通過する光路長によって異なることが分かる。故に位相差層12が同じ厚みであって、一面の位相差値が同じであっても、光路長を面内で異ならせることができれば、面内で部分的に偏光フィルム2を透過する波長を異ならせることができる。
【0059】
本発明はこのような技術的原理に基づいて提供される。説明の複雑化を防ぐため、位相差層の配向方向については、面内で一様に一軸であり、偏光フィルム2によって効果を検証する際の偏光方向とのなす角度は45度であるものとするが、前述の通りそれ以外の方法も考えられる。
【実施例1】
【0060】
切削により、面方向からの傾斜面へのなす角度が45度であって、傾斜長が100マイクロメートルの、鋸型の断面が一軸方向へ連続した形状の構造を持つ部分がT字を描き、それ以外の部分は平坦である金型を用意した。
【0061】
厚さ16マイクロメートルの延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムに、ポリオレフィン系の接着剤を3マイクロメートル程度塗布し、温度100℃のオーブンで1分間乾燥させた後、坪量90キログラムのコート紙に、160℃の温度と適度な圧力をかけながらラミネートした。
【0062】
このポリエチレンテレフタレートフィルム面に金型を押し当て、130℃の温度と2トンの圧力をかけ、エンボス加工を行った面に、真空蒸着法を用いてアルミニウムを500オングストローム成膜することで、構造反射層11を形成した。
【0063】
続いて、ポリビニルアアルコール樹脂(商品名:ポバール117(株式会社クラレ製))10重量部に対して、溶剤として水/イソプロピルアルコールの比を95部/5部で混ぜたものを100重量部混合したものを、中間層13用のインキとして用意した。ワイヤーバーを用いて塗布し、温度100℃のオーブンで2分間乾燥させた後、ラビング布(商品名:FINE PUFF YA−20−R(吉川化工株式会社製))で、構造反射層11に見えるT字の直線方向からのなす角度が45度の方向にラビング処理を行った。乾燥させた中間層13の膜厚は3マイクロメートルである。
【0064】
続いて、下記に示す位相差用インキを中間層13の上にワイヤーバーで塗工し、高圧水銀灯を用いて500ミリジュールの照射エネルギーにて硬化させた位相差層12を得た。硬化後の位相差層12の膜厚は6マイクロメートルである。
【0065】
(位相差用インキ)
液晶(商品名:パリオカラーLC242(BASF社製)):30重量部
重合開始剤(商品名:イルガキュア184 日本チバガイギー株式会社製)
:1.5重量部
溶剤(トルエン/MEK=1/1) :68.5重量部
こうして得られた偽造防止媒体1は、通常時には表面にT字模様を視認可能であるが、T字の直線と偏光方向が合うように偏光フィルム2を重ねると、T字の部分が赤色に、それ以外の部分が緑色に発色することを確認した。
【0066】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、模造品が発生し易い高級商品のパッケージやタグなどに貼付するようなシール形状の利用が想定される。構造反射層11の模様を商品メーカーのブランドロゴマークなどとし、偏光フィルム2を重ねることによって、ロゴマークのイメージカラーの発色するものとする。このようなシールは、一見モノクロのブランドロゴマークが形成されているだけのように見えるため、商品の偽造団は外見だけを似せたラベルを作成する。偏光フィルム2を重ねることによって、イメージカラーの発色有無を確認することによって、ラベルの真偽を判定、すなわち真正品か、模造・贋造品かを判定することができる。
【符号の説明】
【0068】
1・・・偽造防止媒体
2・・・偏光フィルム
3・・・部分的に異なる色を発色しているか、若しくは発色した潜像が出現している部分4・・・接着剤層
5・・・偽造防止用ラベル
6・・・偽造防止用転写シート
7・・・偽造防止物品
11・・・構造反射層
12・・・位相差層
13・・・中間層
14・・・模様隠蔽層
21・・・光路長[長]
22・・・光路長[短]
91・・・転写基材
92・・・転写層
93・・・剥離層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜を有し、面内で部分的に面方向に対する傾斜面のなす角度が異なる構造反射層を持ち、前記構造反射層の構造を有する側に位相差層を設け、位相差層の、構造反射層が接する面とは反対側の面に、模様隠蔽層が設けられていることを特徴とした偽造防止媒体。
【請求項2】
傾斜を有し、面内で部分的に面方向に対する傾斜面のなす角度が異なる構造反射層を持ち、前記構造反射層の構造を有する側に位相差層を設けられていることを特徴とした偽造防止媒体。
【請求項3】
前記構造反射層が、片方が傾斜し、角度が異なる直角三角形を、連続的に並べた鋸型の断面を持つことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項4】
前記構造反射層が、両側に傾斜し、角度が異なる二等辺三角形を、連続的に並べた山型の断面を持つことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項5】
前記構造反射層が、両側に曲面を持つ半円が連続的に並んだ蒲鉾型の断面を持つことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の偽造防止媒体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体における構造反射層の構造を有しない側に、接着剤層を設けたことを特徴とする偽造防止用ラベル。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体における位相差層側に剥離層および転写基材を、構造反射層の構造を有しない側に接着剤層を、設けたことを特徴とした偽造防止用転写シート。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体、もしくは請求項6に記載の偽造防止用ラベル、または請求項7に記載の偽造防止用転写シートのいずれかを備えたことを特徴とする偽造防止物品。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の偽造防止媒体、もしくは請求項6に記載の偽造防止用ラベル、もしくは請求項7に記載の偽造防止用転写シート、または請求項8に記載の偽造防止物品に、偏光フィルムを重ね、部分的に異なる発色を観察し、発色が確認できる場合は真正なものと判断し、発色が確認できない場合は非真正なものと判断することを特徴とする真偽判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−234010(P2012−234010A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101698(P2011−101698)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】