偽造防止媒体
【課題】観察方向に制限されることなく潜像を浮かび上がらせ、観察方向を基材に対して鋭角をなす所定方向に変化させていった場合に、潜像をさらに明確に浮かび上がらせる。
【解決手段】背景色領域１１と、背景色領域１１上にて背景色領域１１とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部１２と、背景色領域１１の所定領域にて複数のマーク部１２の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部がマーク部１２を含むように形成された複数のエンボス１３と、背景色領域１１における所定領域以外の領域にて複数のエンボス１３の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、背景色領域１１の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボス１４とを有し、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部が、複数のマーク部１２の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状である。
【解決手段】背景色領域１１と、背景色領域１１上にて背景色領域１１とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部１２と、背景色領域１１の所定領域にて複数のマーク部１２の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部がマーク部１２を含むように形成された複数のエンボス１３と、背景色領域１１における所定領域以外の領域にて複数のエンボス１３の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、背景色領域１１の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボス１４とを有し、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部が、複数のマーク部１２の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
本発明は、偽造防止シート等の偽造防止媒体に関し、特に、潜像を用いた偽造防止構造に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来より、プリペイドカードや各種入場券、商品券や株券等の有価証券においては、広く流通しており比較的容易に換金可能である等の理由から、偽造犯罪が頻発している。特に、近年ではカラーコピー機等の複写機の性能向上と普及に伴い、簡単には真正品と見分けられない偽造品が比較的容易に製造可能になってきており、偽造に対する対策が求められている。また、上述したような有価証券に限らず、紙幣においても偽造に対する対策が求められている。
【０００３】
このような偽造に対する対策の１つとして、潜像を用いて有価証券や紙幣の真偽判別を可能とする技術が考えられており、例えば、特許文献１に開示されている。
【０００４】
特許文献１に開示された技術は、シート基材上に、複数本の印刷万線と、この印刷万線と並列し、一部が印刷万線と直交する方向に延在し、かつ、断面が隆起したレリーフ万線とを設け、観察方向によって潜像を浮かび上がらせるものである。基材を正面から見た場合は全ての印刷万線が視認可能な状態となっている。ところが、観察方向を印刷万線及びレリーフ万線と直交する方向に変化させていくと、印刷万線のうちレリーフ万線が延在した部分がその延在したレリーフ万線の陰となって視認できなくなる一方、印刷万線のその他の部分は視認可能な状態のままとなる。これにより、レリーフ万線の形状に応じた潜像を浮かび上がらせることができる。
【０００５】
このように断面が隆起したレリーフ万線を設けたシート基材においては、複写した場合、表面に印刷された印刷万線を含む印刷情報は複写されるものの、レリーフ万線の隆起形状までは再現できない。そのため、複写物の観察方向を変化させていった場合であっても、潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。
【０００６】
ところが、上述したように、シート基材上に、複数本の印刷万線と、この印刷万線と並列し、一部が印刷万線と直交する方向に延在し、かつ、断面が隆起したレリーフ万線とを設け、この印刷万線とレリーフ万線とで潜像を浮かび上がらせるものにおいては、印刷万線及びレリーフ万線と直交する方向から観察した場合にしか潜像が浮かび上がらず、潜像による真偽判別がしやすいとは言い難い。特に、観察方向が制限されている場合、潜像による真偽判別ができなくなる虞れがある。
【０００７】
そこで、本出願人は、基材表面に設けられた背景色領域とは異なる色を有する複数のマーク部をマトリックス状に配置するとともに、この複数のマーク部の配列方向と並行して行や列を構成する複数のエンボスからなるエンボス群を、背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された第１のエンボス群と、頂部がマーク部を含むように形成された第２のエンボス群とから構成し、それにより、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向に変化させていった場合に、第１のエンボス群が配置された領域と第２のエンボス群が配置された領域とが異なる色に見え、その色の違いによって、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる偽造防止媒体を考え出し、特許文献２に開示している。
【特許文献１】特開２０００−３１３１６１号公報
【特許文献２】特開２００８−３０２２２号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
本出願人は、上述したように潜像を用いて真偽判別を行う偽造防止媒体について鋭意研究を重ねた結果、上述したようにエンボスを用いることにより観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができるだけでなく、上述したような万線を用いた効果を利用することで、所定方向から観察した場合に、潜像をさらに明確に浮かび上がらせる構成を考え出した。
【０００９】
本発明は、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる偽造防止媒体において、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす所定方向に変化させていった場合に、潜像をさらに明確に浮かび上がらせることができる偽造防止媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【００１０】
上記目的を達成するために本発明は、
基材表面に設けられた背景色領域と、前記背景色領域上にて該背景色領域とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部と、前記背景色領域の所定領域にて前記複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部が前記マーク部を含むように形成された複数のエンボスからなる第１のエンボス群と、前記背景色領域における前記所定領域以外の領域にて前記第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成し、前記背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボスからなる第２のエンボス群とを有してなる偽造防止媒体において、
前記マーク部及び前記エンボスの底部は、前記複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状であることを特徴とする。
【００１１】
上記のように構成された本発明においては、基材を正面から観察した場合、基材表面の背景色領域に背景色領域とは異なる色でマトリックス状に設けられた複数のマーク部が認識される。基材には、頂部にマーク部を含む第１のエンボス群を構成する複数のエンボスと、背景色領域の色が頂部にて表出する第２のエンボス群を構成する複数のエンボスとが形成されているが、基材を正面から観察した場合は、エンボスは認識されずに複数のマーク部がマトリックス状となって認識されるだけである。この状態から観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向に変化させていくと、基材表面に形成された複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなっていく。その際、複数のエンボスのうち、第１のエンボス群を構成するエンボスにおいてはマーク部が頂部にて表出しており、また、第２のエンボス群を構成するエンボスにおいてはマーク部とは異なる色の背景色領域の色が頂部にて表出しているため、第１のエンボス群が形成された領域がマーク部の色に見え、第２のエンボス群が形成された領域が背景色領域の色に見えるようになる。そのため、これらの色の違いによって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が浮かび上がって見えるようになる。また、背景色領域に複数のマーク部がマトリックス状に設けられ、この背景色領域の所定領域にて複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成した複数のエンボスからなる第１のエンボス群が形成されるとともに、背景色領域における所定領域以外の領域にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成した複数のエンボスからなる第２のエンボス群が形成されているので、基材表面に対して鋭角をなすどの方向から観察した場合であっても、基材表面に形成された複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなっていき、第１のエンボス群の頂部の色と第２のエンボス群の頂部の色との違いによって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が浮かび上がって見えるようになる。さらに、マーク部及びエンボスの底部が、複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状であるため、観察方向を基材表面に対してその扁平形状の長手方向と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていくと、複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなる効果が顕著となり、それにより、観察方向を基材表面に対して扁平形状の長手方向と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていった場合に、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像がさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００１２】
また、マーク部及びエンボスの底部が角部を有さない扁平形状であれば、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向において変化させた場合に、マーク部及びエンボスによる潜像の見え方が、観察方向が扁平形状の長手方向と直交する方向である場合と観察方向が扁平形状の長手方向である場合とで連続的に変化することとなり、観察方向がマーク部やエンボスの角部に対向することでその角部の影響によって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が見えにくくなってしまう虞れがない。
【発明の効果】
【００１３】
以上説明したように本発明においては、基材表面に設けられた背景色領域と、背景色領域上にて背景色領域とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部と、背景色領域の所定領域にて複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部がマーク部を含むように形成された複数のエンボスからなる第１のエンボス群と、背景色領域における所定領域以外の領域にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成し、背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボスからなる第２のエンボス群とを有し、マーク部及びエンボスの底部が、複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状である構成としたため、基材表面に対して鋭角をなすどの方向から観察した場合であっても、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が浮かび上がって見え、さらに、観察方向を基材表面に対して扁平形状の長手方向と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていくと、複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなる効果が顕著となり、それにより、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像がさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００１４】
また、マーク部及びエンボスの底部が角部を有さない扁平形状である構成としたものにおいては、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向において変化させた場合に、マーク部及びエンボスによる潜像の見え方が、観察方向が扁平形状の長手方向と直交する方向である場合と観察方向が扁平形状の長手方向である場合とで連続的に変化することとなり、観察方向がマーク部やエンボスの角部に対向することでその角部の影響によって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が見えにくくなってしまう虞れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１５】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【００１６】
図１は、本発明の偽造防止媒体の実施の一形態となる偽造防止シートを示す図であり、（ａ）は全体の構成を示す図、（ｂ）は（ａ）に示した偽造防止構造１０の詳細な構成を示す図、（ｃ）は（ｂ）に示した偽造防止構造１０における背景色領域１１とマーク部１２との関係を示す図、（ｄ）は（ｂ）に示した偽造防止構造１０におけるエンボス１３，１４の形成領域を示す図、（ｅ）は（ｂ）に示したエンボス１３の構成を示す図、（ｆ）は（ｂ）に示したエンボス１４の構成を示す図である。
【００１７】
本形態の偽造防止シート１は図１に示すように、紙からなるシート基材２の一部の領域に偽造防止構造１０が設けられて構成されている。シート基材２は、基材表面となる平面部３を有し、この平面部３の一部の領域に情報印刷領域４が設けられるとともに、他の領域に偽造防止構造１０が設けられている。このように構成された偽造防止シート１は、例えば、コンサート等の入場チケットとして用いることが考えられる。その場合、コンサートの内容や会場名、座席番号等が情報印刷領域４に印刷されることになる。また、シート基材２の情報印刷領域４に情報が印刷される前に、シート基材２に対してプレ印刷として地紋を印刷したり所定の色に着色したりすることも考えられるが、その場合、偽造防止構造１０による潜像が見にくくならないようにする必要がある。
【００１８】
図１（ｂ），（ｃ）に示すように、シート基材２に設けられた偽造防止構造１０には、シート基材２の平面部３のベース色と同一の白色からなる背景色領域１１上に、背景色領域１１とは異なる黒色からなる複数のマーク部１２がマトリックス状に配置されている。マトリックス状に配置されたマーク部１２は、マーク部１２の配列方向の図中“行”に並行する方向を長辺とする楕円形状となっている。そして、複数のマーク部１２がマトリックス状に配置された領域には、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３と、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４とが形成されている。これらエンボス１３，１４は、図１（ｅ），（ｆ）に示すように、シート基材２をエンボス版等で平面部３側から０．０２〜０．１ｍｍ程度窪ませることにより形成されるドーム状の形状であって、その頂部１３ａ，１４ａからシート基材２の窪み方向に向かうに従ってその断面積が徐々に広くなり、エンボス１３，１４の底部においては、マーク部１２の配列方向の図中“行”に並行する方向を長辺とする楕円形状となっている。すなわち、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部は角部を有さない扁平形状となっている。
【００１９】
第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３は図１（ｂ）に示すように、第１のエンボス群の形状によって潜像となる「Ｔ」の字を表現するように、背景色領域１１の所定領域において、マトリックス状に配置された複数のマーク部１２に重なるように形成されており、それにより、図１（ｅ）に示すように、頂部１３ａにマーク部１２を含み、マーク部１２の黒色が頂部１３ａにて表出している。
【００２０】
第２のエンボス群を構成する複数エンボス１４は図１（ｂ）に示すように、背景色領域１１にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域を取り囲むように、背景色領域１１の所定領域以外の領域において、マトリックス状に配置された複数のマーク部１２間に形成されており、それにより、図１（ｆ）示すように、４つのマーク部１２に囲まれた部分の背景色領域１１の白色が頂部１４ａにて表出している。
【００２１】
このように、第１のエンボス群及び第２のエンボス群をそれぞれ構成する複数のエンボス１３，１４は、複数のマーク部１２の配列方向と並行して行や列を構成して形成されている。
【００２２】
以下に、上記のように構成された偽造防止シート１の製造方法について説明する。
【００２３】
まず、シート基材２の偽造防止構造１０が設けられる領域、すなわち、白色の背景色領域１１となる領域に、マーク部１２をマトリックス状に黒色で印刷する。なお、このマーク部１２の印刷は、上述したようなプレ印刷と同時に行ってもよいし、上述したプレ印刷を行った後に行ってもよい。
【００２４】
次に、マーク部１２が印刷された領域に、第１のエンボス群を構成するエンボス１３と、第２のエンボス群を構成するエンボス１４とをエンボス版を用いて形成する。第１のエンボス群を構成するエンボス１３は、マーク部１２が印刷された領域のうち、潜像となる「Ｔ」を形成する所定領域にてマトリックス状に配置された複数のマーク部１２に重なるように形成し、また、第２のエンボス群を構成するエンボス１４は、マトリックス状に配置された複数のマーク部１２のうち、所定領域以外の領域に配置された複数のマーク部１２間に形成する。
【００２５】
上述したようにして偽造防止シート１が製造され、その後、用途に応じた情報がシート基材２の情報印刷領域４に印刷されて使用されることになる。
【００２６】
以下に、上述した偽造防止シート１の作用について説明する。
【００２７】
まず、図１に示した偽造防止シート１を正面、すなわち、シート基材２の平面部３の法線方向から観察した場合の作用について説明する。
【００２８】
図２は、図１に示した偽造防止シート１を正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボス１３を側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボス１４を側面方向から見た図、（ｃ）は偽造防止構造１０における背景色領域１１とマーク部１２の見え方を示す図である。
【００２９】
図１に示した偽造防止シート１を、図２（ａ），（ｂ）に示すように、正面、すなわち平面部３の法線方向から観察した場合、エンボス１３，１４の高さ方向から観察することになるため、シート基材２に形成されたエンボス１３，１４は認識されず、図２（ｃ）に示すように、白色の背景色領域１１上にマトリックス状に配置された黒色のマーク部１２が認識されるだけである。そのため、偽造防止シート１を平面部３の法線方向から観察した場合は、第１のエンボス群と第２のエンボス群とによる潜像は浮かび上がってこない。
【００３０】
次に、図１に示した偽造防止シート１に対する観察方向を正面、すなわち、シート基材２の平面部３の法線方向から変化させていった場合の作用について説明する。
【００３１】
図３は、図１に示した偽造防止シート１に対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボス１３を側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボス１４を側面方向から見た図、（ｃ），（ｄ）は偽造防止構造１０全体の見え方を示す図である。
【００３２】
図１に示した偽造防止シート１に対する観察方向を正面から変化させていくと、シート基材２の平面部３に対する観察方向のなす角度が鋭角になっていく。すると、図３（ａ），（ｂ）に示すように、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とが、そのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えにくくなっていき、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａが主に見えるような状態となる。
【００３３】
ここで、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３においては、図１（ｅ）に示したように、マーク部１２の黒色が頂部１３ａにて表出しており、また、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４においては、図１（ｆ）に示したように、マーク部１２の色とは異なる白色の背景色領域１１が頂部１３ａにて表出している。
【００３４】
そのため、偽造防止シート１に対する観察方向を、例えば図１中右側に変化させていき、複数のエンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とがそのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えなくなっていき、エンボスの頂部１３ａ，１４ａが主として見えるような状態となると、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域においてはマーク部１２による黒色に見え、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が形成された領域においては背景色領域１１による白色に見えるようになり、エンボス１３の頂部１３ａと、エンボス１４の頂部１４ａとの色に違いによって、図３（ｃ）に示すように、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって構成される潜像「Ｔ」が黒色で浮かび上がって見えるようになる。これは、偽造防止シート１に対する観察方向を図１中左側に変化させていった場合も同様に生じる作用である。
【００３５】
また、偽造防止シート１に対する観察方向を、例えば、所定方向である図１中下側、すなわち、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部の楕円形状の長辺方向と直交する方向に変化させていった場合においても、複数のエンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とがそのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えにくくなっていき、エンボスの頂部１３ａ，１４ａが主として見えるような状態となり、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域においてはマーク部１２による黒色に見え、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が形成された領域においては背景色領域１１による白色に見えるようになる。それにより、エンボス１３の頂部１３ａと、エンボス１４の頂部１４ａとの色に違いによって、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって構成される潜像「Ｔ」が黒色で浮かび上がって見えるようになる。またこの際、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部が楕円形状であるため、図３（ｃ）に示したように第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４間のマーク部１２が見えることが少なくなり、かつ、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３の頂部１３ａに表出したマーク部１２が見えやすくなり、それにより、図３（ｄ）に示すように、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって構成される潜像「Ｔ」が黒色でさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００３６】
図１に示した偽造防止シート１においては、背景色領域１１に複数のマーク部１２がマトリックス状に配置され、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３及び第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４は、複数のマーク部１２の配列方向と並行して行及び／または列を構成して形成されているので、平面部３に対して鋭角をなすどの方向から観察した場合であっても、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とが、そのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えにくくなっていき、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａが主として見えるような状態となるため、偽造防止シート１に対する観察方向をどの方向に変化させていった場合であっても、上記同様の作用が生じる。
【００３７】
上述した偽造防止シート１は、複写した場合、シート基材２の情報印刷領域４に印刷された情報や、シート基材２に印刷により設けられた背景色領域１１及びマーク部１２は複写されるものの、エンボス１３，１４までは再現できない。そのため、複写物の観察方向を変えていった場合であっても、上述したようなエンボス１３，１４の作用による潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。
【００３８】
なお、本形態におけるエンボス１３，１４の高さについては、上述したものに限らず、適宜設定が可能である。
【００３９】
また、エンボス１３，１４の形状においては、本形態にて示したドーム型のものに限らず、底部が扁平形状のものであれば、底部が楕円形状の錐体から頂点の部分が取り除かれた形状のもの、あるいは、底部が楕円形状の柱形のものや底部が楕円形状の錐体のものとすることも考えられる。また、断面が矩形状となるものとすることも考えられる。ただし、エンボス１３，１４の底部が角部を有さない扁平形状であれば、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向において変化させた場合に、マーク部１２及びエンボス１３，１４による潜像の見え方が、観察方向がエンボス１３，１４の扁平形状の長手方向と直交する方向である場合と観察方向がエンボス１３，１４の扁平形状の長手方向である場合とで連続的に変化することとなり、観察方向がマーク部１２やエンボス１３，１４の角部に対向することでその角部の影響によって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が見えにくくなってしまう虞れがない。この際、マーク部１２は、エンボス１３，１４の底部の形状に倣った形状とすることが好ましい。
【００４０】
また、本形態においては、マーク部１２とエンボス１３，１４の底部が、マーク部１２の配列方向の図１中“行”に並列する方向を長辺とする楕円形状となっているが、マーク部１２とエンボス１３，１４の底部が、マーク部１２の配列方向の図１中“列”に並列する方向を長辺とする楕円形状となっていてもよい。いずれの場合においても、観察方向を平面部３に対してその楕円形状の長辺と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていくと、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像がさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００４１】
また、潜像となる情報は、上述した「Ｔ」のように複数のエンボス１３が行及び列を構成したものに限らず、複数のエンボス１３が行のみを構成だけ、あるいは列のみを構成しただけのものであってもよい。また、一文字からなるものに限らず、複数の文字からなるものや模様等であってもよい。また、潜像を表現する第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３を複数の領域に分割し、その複数の領域毎に文字等が浮かび上がる構成とすることも考えられる。また、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が、背景色領域１１にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域を完全に取り囲むのではなく、一部が開放されるようにして、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域を囲むような形状であってもよい。
【００４２】
また、上述した実施の形態においては、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって潜像「Ｔ」を表現しているが、複数のエンボス１４からなる第２のエンボス群の形状によって潜像「Ｔ」を表現してもよい。その場合は、偽造防止シート１に対する観察方向を正面から変化させていくと、複数のエンボス１４の頂部１４ａに表出している色、すなわち、背景色領域１１の色で潜像「Ｔ」が浮かび上がって見えるようになる。
【００４３】
また、背景色領域１１の色とマーク部１２の色は、本形態においては、背景色領域１１を白色とし、マーク部１２を黒色としたが、背景色領域１１を黒色とし、マーク部１２を白色としてもよく、また、互いに異なる色であれば、白色や黒色に限らない。
【００４４】
また、本形態においては、偽造防止媒体として、紙からなるシート基材２に偽造防止構造１０が設けられた偽造防止シート１を例に挙げて説明したが、本発明はこのような偽造防止シート１に限らず、フィルムからなるシート基材や複数の樹脂層が積層されてなるカード基材に上述したような偽造防止構造１０を設けたものにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００４５】
【図１】本発明の偽造防止媒体の実施の一形態となる偽造防止シートを示す図であり、（ａ）は全体の構成を示す図、（ｂ）は（ａ）に示した偽造防止構造の詳細な構成を示す図、（ｃ）は（ｂ）に示した偽造防止構造における背景色領域とマーク部との関係を示す図、（ｄ）は（ｂ）に示した偽造防止構造におけるエンボスの形成領域を示す図、（ｅ）は（ｂ）に示したエンボスの構成を示す図、（ｆ）は（ｂ）に示したエンボスの構成を示す図である。
【図２】図１に示した偽造防止シートを正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｃ）は偽造防止構造における背景色領域とマーク部の見え方を示す図である。
【図３】図１に示した偽造防止シートに対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｃ），（ｄ）は偽造防止構造全体の見え方を示す図である。
【符号の説明】
【００４６】
１ 偽造防止シート
２ シート基材
３ 平面部
４ 情報印刷領域
１０ 偽造防止構造
１１ 背景色領域
１２ マーク部
１３，１４ エンボス
１３ａ，１４ａ 頂部
【技術分野】
【０００１】
本発明は、偽造防止シート等の偽造防止媒体に関し、特に、潜像を用いた偽造防止構造に関する。
【背景技術】
【０００２】
従来より、プリペイドカードや各種入場券、商品券や株券等の有価証券においては、広く流通しており比較的容易に換金可能である等の理由から、偽造犯罪が頻発している。特に、近年ではカラーコピー機等の複写機の性能向上と普及に伴い、簡単には真正品と見分けられない偽造品が比較的容易に製造可能になってきており、偽造に対する対策が求められている。また、上述したような有価証券に限らず、紙幣においても偽造に対する対策が求められている。
【０００３】
このような偽造に対する対策の１つとして、潜像を用いて有価証券や紙幣の真偽判別を可能とする技術が考えられており、例えば、特許文献１に開示されている。
【０００４】
特許文献１に開示された技術は、シート基材上に、複数本の印刷万線と、この印刷万線と並列し、一部が印刷万線と直交する方向に延在し、かつ、断面が隆起したレリーフ万線とを設け、観察方向によって潜像を浮かび上がらせるものである。基材を正面から見た場合は全ての印刷万線が視認可能な状態となっている。ところが、観察方向を印刷万線及びレリーフ万線と直交する方向に変化させていくと、印刷万線のうちレリーフ万線が延在した部分がその延在したレリーフ万線の陰となって視認できなくなる一方、印刷万線のその他の部分は視認可能な状態のままとなる。これにより、レリーフ万線の形状に応じた潜像を浮かび上がらせることができる。
【０００５】
このように断面が隆起したレリーフ万線を設けたシート基材においては、複写した場合、表面に印刷された印刷万線を含む印刷情報は複写されるものの、レリーフ万線の隆起形状までは再現できない。そのため、複写物の観察方向を変化させていった場合であっても、潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。
【０００６】
ところが、上述したように、シート基材上に、複数本の印刷万線と、この印刷万線と並列し、一部が印刷万線と直交する方向に延在し、かつ、断面が隆起したレリーフ万線とを設け、この印刷万線とレリーフ万線とで潜像を浮かび上がらせるものにおいては、印刷万線及びレリーフ万線と直交する方向から観察した場合にしか潜像が浮かび上がらず、潜像による真偽判別がしやすいとは言い難い。特に、観察方向が制限されている場合、潜像による真偽判別ができなくなる虞れがある。
【０００７】
そこで、本出願人は、基材表面に設けられた背景色領域とは異なる色を有する複数のマーク部をマトリックス状に配置するとともに、この複数のマーク部の配列方向と並行して行や列を構成する複数のエンボスからなるエンボス群を、背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された第１のエンボス群と、頂部がマーク部を含むように形成された第２のエンボス群とから構成し、それにより、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向に変化させていった場合に、第１のエンボス群が配置された領域と第２のエンボス群が配置された領域とが異なる色に見え、その色の違いによって、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる偽造防止媒体を考え出し、特許文献２に開示している。
【特許文献１】特開２０００−３１３１６１号公報
【特許文献２】特開２００８−３０２２２号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００８】
本出願人は、上述したように潜像を用いて真偽判別を行う偽造防止媒体について鋭意研究を重ねた結果、上述したようにエンボスを用いることにより観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができるだけでなく、上述したような万線を用いた効果を利用することで、所定方向から観察した場合に、潜像をさらに明確に浮かび上がらせる構成を考え出した。
【０００９】
本発明は、観察方向に制限されることなく潜像による真偽判別を容易に行うことができる偽造防止媒体において、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす所定方向に変化させていった場合に、潜像をさらに明確に浮かび上がらせることができる偽造防止媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【００１０】
上記目的を達成するために本発明は、
基材表面に設けられた背景色領域と、前記背景色領域上にて該背景色領域とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部と、前記背景色領域の所定領域にて前記複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部が前記マーク部を含むように形成された複数のエンボスからなる第１のエンボス群と、前記背景色領域における前記所定領域以外の領域にて前記第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成し、前記背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボスからなる第２のエンボス群とを有してなる偽造防止媒体において、
前記マーク部及び前記エンボスの底部は、前記複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状であることを特徴とする。
【００１１】
上記のように構成された本発明においては、基材を正面から観察した場合、基材表面の背景色領域に背景色領域とは異なる色でマトリックス状に設けられた複数のマーク部が認識される。基材には、頂部にマーク部を含む第１のエンボス群を構成する複数のエンボスと、背景色領域の色が頂部にて表出する第２のエンボス群を構成する複数のエンボスとが形成されているが、基材を正面から観察した場合は、エンボスは認識されずに複数のマーク部がマトリックス状となって認識されるだけである。この状態から観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向に変化させていくと、基材表面に形成された複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなっていく。その際、複数のエンボスのうち、第１のエンボス群を構成するエンボスにおいてはマーク部が頂部にて表出しており、また、第２のエンボス群を構成するエンボスにおいてはマーク部とは異なる色の背景色領域の色が頂部にて表出しているため、第１のエンボス群が形成された領域がマーク部の色に見え、第２のエンボス群が形成された領域が背景色領域の色に見えるようになる。そのため、これらの色の違いによって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が浮かび上がって見えるようになる。また、背景色領域に複数のマーク部がマトリックス状に設けられ、この背景色領域の所定領域にて複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成した複数のエンボスからなる第１のエンボス群が形成されるとともに、背景色領域における所定領域以外の領域にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成した複数のエンボスからなる第２のエンボス群が形成されているので、基材表面に対して鋭角をなすどの方向から観察した場合であっても、基材表面に形成された複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなっていき、第１のエンボス群の頂部の色と第２のエンボス群の頂部の色との違いによって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が浮かび上がって見えるようになる。さらに、マーク部及びエンボスの底部が、複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状であるため、観察方向を基材表面に対してその扁平形状の長手方向と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていくと、複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなる効果が顕著となり、それにより、観察方向を基材表面に対して扁平形状の長手方向と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていった場合に、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像がさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００１２】
また、マーク部及びエンボスの底部が角部を有さない扁平形状であれば、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向において変化させた場合に、マーク部及びエンボスによる潜像の見え方が、観察方向が扁平形状の長手方向と直交する方向である場合と観察方向が扁平形状の長手方向である場合とで連続的に変化することとなり、観察方向がマーク部やエンボスの角部に対向することでその角部の影響によって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が見えにくくなってしまう虞れがない。
【発明の効果】
【００１３】
以上説明したように本発明においては、基材表面に設けられた背景色領域と、背景色領域上にて背景色領域とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部と、背景色領域の所定領域にて複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部がマーク部を含むように形成された複数のエンボスからなる第１のエンボス群と、背景色領域における所定領域以外の領域にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成し、背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボスからなる第２のエンボス群とを有し、マーク部及びエンボスの底部が、複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状である構成としたため、基材表面に対して鋭角をなすどの方向から観察した場合であっても、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が浮かび上がって見え、さらに、観察方向を基材表面に対して扁平形状の長手方向と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていくと、複数のエンボスの頂部以外の部分と複数のエンボス間の領域とが、そのエンボスの観察方向側に隣接するエンボスによって隠れて見えにくくなる効果が顕著となり、それにより、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像がさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００１４】
また、マーク部及びエンボスの底部が角部を有さない扁平形状である構成としたものにおいては、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向において変化させた場合に、マーク部及びエンボスによる潜像の見え方が、観察方向が扁平形状の長手方向と直交する方向である場合と観察方向が扁平形状の長手方向である場合とで連続的に変化することとなり、観察方向がマーク部やエンボスの角部に対向することでその角部の影響によって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が見えにくくなってしまう虞れがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１５】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【００１６】
図１は、本発明の偽造防止媒体の実施の一形態となる偽造防止シートを示す図であり、（ａ）は全体の構成を示す図、（ｂ）は（ａ）に示した偽造防止構造１０の詳細な構成を示す図、（ｃ）は（ｂ）に示した偽造防止構造１０における背景色領域１１とマーク部１２との関係を示す図、（ｄ）は（ｂ）に示した偽造防止構造１０におけるエンボス１３，１４の形成領域を示す図、（ｅ）は（ｂ）に示したエンボス１３の構成を示す図、（ｆ）は（ｂ）に示したエンボス１４の構成を示す図である。
【００１７】
本形態の偽造防止シート１は図１に示すように、紙からなるシート基材２の一部の領域に偽造防止構造１０が設けられて構成されている。シート基材２は、基材表面となる平面部３を有し、この平面部３の一部の領域に情報印刷領域４が設けられるとともに、他の領域に偽造防止構造１０が設けられている。このように構成された偽造防止シート１は、例えば、コンサート等の入場チケットとして用いることが考えられる。その場合、コンサートの内容や会場名、座席番号等が情報印刷領域４に印刷されることになる。また、シート基材２の情報印刷領域４に情報が印刷される前に、シート基材２に対してプレ印刷として地紋を印刷したり所定の色に着色したりすることも考えられるが、その場合、偽造防止構造１０による潜像が見にくくならないようにする必要がある。
【００１８】
図１（ｂ），（ｃ）に示すように、シート基材２に設けられた偽造防止構造１０には、シート基材２の平面部３のベース色と同一の白色からなる背景色領域１１上に、背景色領域１１とは異なる黒色からなる複数のマーク部１２がマトリックス状に配置されている。マトリックス状に配置されたマーク部１２は、マーク部１２の配列方向の図中“行”に並行する方向を長辺とする楕円形状となっている。そして、複数のマーク部１２がマトリックス状に配置された領域には、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３と、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４とが形成されている。これらエンボス１３，１４は、図１（ｅ），（ｆ）に示すように、シート基材２をエンボス版等で平面部３側から０．０２〜０．１ｍｍ程度窪ませることにより形成されるドーム状の形状であって、その頂部１３ａ，１４ａからシート基材２の窪み方向に向かうに従ってその断面積が徐々に広くなり、エンボス１３，１４の底部においては、マーク部１２の配列方向の図中“行”に並行する方向を長辺とする楕円形状となっている。すなわち、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部は角部を有さない扁平形状となっている。
【００１９】
第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３は図１（ｂ）に示すように、第１のエンボス群の形状によって潜像となる「Ｔ」の字を表現するように、背景色領域１１の所定領域において、マトリックス状に配置された複数のマーク部１２に重なるように形成されており、それにより、図１（ｅ）に示すように、頂部１３ａにマーク部１２を含み、マーク部１２の黒色が頂部１３ａにて表出している。
【００２０】
第２のエンボス群を構成する複数エンボス１４は図１（ｂ）に示すように、背景色領域１１にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域を取り囲むように、背景色領域１１の所定領域以外の領域において、マトリックス状に配置された複数のマーク部１２間に形成されており、それにより、図１（ｆ）示すように、４つのマーク部１２に囲まれた部分の背景色領域１１の白色が頂部１４ａにて表出している。
【００２１】
このように、第１のエンボス群及び第２のエンボス群をそれぞれ構成する複数のエンボス１３，１４は、複数のマーク部１２の配列方向と並行して行や列を構成して形成されている。
【００２２】
以下に、上記のように構成された偽造防止シート１の製造方法について説明する。
【００２３】
まず、シート基材２の偽造防止構造１０が設けられる領域、すなわち、白色の背景色領域１１となる領域に、マーク部１２をマトリックス状に黒色で印刷する。なお、このマーク部１２の印刷は、上述したようなプレ印刷と同時に行ってもよいし、上述したプレ印刷を行った後に行ってもよい。
【００２４】
次に、マーク部１２が印刷された領域に、第１のエンボス群を構成するエンボス１３と、第２のエンボス群を構成するエンボス１４とをエンボス版を用いて形成する。第１のエンボス群を構成するエンボス１３は、マーク部１２が印刷された領域のうち、潜像となる「Ｔ」を形成する所定領域にてマトリックス状に配置された複数のマーク部１２に重なるように形成し、また、第２のエンボス群を構成するエンボス１４は、マトリックス状に配置された複数のマーク部１２のうち、所定領域以外の領域に配置された複数のマーク部１２間に形成する。
【００２５】
上述したようにして偽造防止シート１が製造され、その後、用途に応じた情報がシート基材２の情報印刷領域４に印刷されて使用されることになる。
【００２６】
以下に、上述した偽造防止シート１の作用について説明する。
【００２７】
まず、図１に示した偽造防止シート１を正面、すなわち、シート基材２の平面部３の法線方向から観察した場合の作用について説明する。
【００２８】
図２は、図１に示した偽造防止シート１を正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボス１３を側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボス１４を側面方向から見た図、（ｃ）は偽造防止構造１０における背景色領域１１とマーク部１２の見え方を示す図である。
【００２９】
図１に示した偽造防止シート１を、図２（ａ），（ｂ）に示すように、正面、すなわち平面部３の法線方向から観察した場合、エンボス１３，１４の高さ方向から観察することになるため、シート基材２に形成されたエンボス１３，１４は認識されず、図２（ｃ）に示すように、白色の背景色領域１１上にマトリックス状に配置された黒色のマーク部１２が認識されるだけである。そのため、偽造防止シート１を平面部３の法線方向から観察した場合は、第１のエンボス群と第２のエンボス群とによる潜像は浮かび上がってこない。
【００３０】
次に、図１に示した偽造防止シート１に対する観察方向を正面、すなわち、シート基材２の平面部３の法線方向から変化させていった場合の作用について説明する。
【００３１】
図３は、図１に示した偽造防止シート１に対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボス１３を側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボス１４を側面方向から見た図、（ｃ），（ｄ）は偽造防止構造１０全体の見え方を示す図である。
【００３２】
図１に示した偽造防止シート１に対する観察方向を正面から変化させていくと、シート基材２の平面部３に対する観察方向のなす角度が鋭角になっていく。すると、図３（ａ），（ｂ）に示すように、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とが、そのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えにくくなっていき、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａが主に見えるような状態となる。
【００３３】
ここで、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３においては、図１（ｅ）に示したように、マーク部１２の黒色が頂部１３ａにて表出しており、また、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４においては、図１（ｆ）に示したように、マーク部１２の色とは異なる白色の背景色領域１１が頂部１３ａにて表出している。
【００３４】
そのため、偽造防止シート１に対する観察方向を、例えば図１中右側に変化させていき、複数のエンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とがそのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えなくなっていき、エンボスの頂部１３ａ，１４ａが主として見えるような状態となると、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域においてはマーク部１２による黒色に見え、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が形成された領域においては背景色領域１１による白色に見えるようになり、エンボス１３の頂部１３ａと、エンボス１４の頂部１４ａとの色に違いによって、図３（ｃ）に示すように、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって構成される潜像「Ｔ」が黒色で浮かび上がって見えるようになる。これは、偽造防止シート１に対する観察方向を図１中左側に変化させていった場合も同様に生じる作用である。
【００３５】
また、偽造防止シート１に対する観察方向を、例えば、所定方向である図１中下側、すなわち、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部の楕円形状の長辺方向と直交する方向に変化させていった場合においても、複数のエンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とがそのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えにくくなっていき、エンボスの頂部１３ａ，１４ａが主として見えるような状態となり、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域においてはマーク部１２による黒色に見え、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が形成された領域においては背景色領域１１による白色に見えるようになる。それにより、エンボス１３の頂部１３ａと、エンボス１４の頂部１４ａとの色に違いによって、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって構成される潜像「Ｔ」が黒色で浮かび上がって見えるようになる。またこの際、マーク部１２及びエンボス１３，１４の底部が楕円形状であるため、図３（ｃ）に示したように第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４間のマーク部１２が見えることが少なくなり、かつ、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３の頂部１３ａに表出したマーク部１２が見えやすくなり、それにより、図３（ｄ）に示すように、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって構成される潜像「Ｔ」が黒色でさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００３６】
図１に示した偽造防止シート１においては、背景色領域１１に複数のマーク部１２がマトリックス状に配置され、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３及び第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４は、複数のマーク部１２の配列方向と並行して行及び／または列を構成して形成されているので、平面部３に対して鋭角をなすどの方向から観察した場合であっても、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａ以外の部分とエンボス１３，１４間の領域とが、そのエンボス１３，１４の観察方向側に隣接するエンボス１３，１４によって隠れて見えにくくなっていき、エンボス１３，１４の頂部１３ａ，１４ａが主として見えるような状態となるため、偽造防止シート１に対する観察方向をどの方向に変化させていった場合であっても、上記同様の作用が生じる。
【００３７】
上述した偽造防止シート１は、複写した場合、シート基材２の情報印刷領域４に印刷された情報や、シート基材２に印刷により設けられた背景色領域１１及びマーク部１２は複写されるものの、エンボス１３，１４までは再現できない。そのため、複写物の観察方向を変えていった場合であっても、上述したようなエンボス１３，１４の作用による潜像は浮かび上がらず、それにより、真偽判別を行うことが可能となる。
【００３８】
なお、本形態におけるエンボス１３，１４の高さについては、上述したものに限らず、適宜設定が可能である。
【００３９】
また、エンボス１３，１４の形状においては、本形態にて示したドーム型のものに限らず、底部が扁平形状のものであれば、底部が楕円形状の錐体から頂点の部分が取り除かれた形状のもの、あるいは、底部が楕円形状の柱形のものや底部が楕円形状の錐体のものとすることも考えられる。また、断面が矩形状となるものとすることも考えられる。ただし、エンボス１３，１４の底部が角部を有さない扁平形状であれば、観察方向を基材表面に対して鋭角をなす方向において変化させた場合に、マーク部１２及びエンボス１３，１４による潜像の見え方が、観察方向がエンボス１３，１４の扁平形状の長手方向と直交する方向である場合と観察方向がエンボス１３，１４の扁平形状の長手方向である場合とで連続的に変化することとなり、観察方向がマーク部１２やエンボス１３，１４の角部に対向することでその角部の影響によって第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像が見えにくくなってしまう虞れがない。この際、マーク部１２は、エンボス１３，１４の底部の形状に倣った形状とすることが好ましい。
【００４０】
また、本形態においては、マーク部１２とエンボス１３，１４の底部が、マーク部１２の配列方向の図１中“行”に並列する方向を長辺とする楕円形状となっているが、マーク部１２とエンボス１３，１４の底部が、マーク部１２の配列方向の図１中“列”に並列する方向を長辺とする楕円形状となっていてもよい。いずれの場合においても、観察方向を平面部３に対してその楕円形状の長辺と直交する方向に鋭角をなす方向に変化させていくと、第１のエンボス群または第２のエンボス群による潜像がさらに明確に浮かび上がって見えるようになる。
【００４１】
また、潜像となる情報は、上述した「Ｔ」のように複数のエンボス１３が行及び列を構成したものに限らず、複数のエンボス１３が行のみを構成だけ、あるいは列のみを構成しただけのものであってもよい。また、一文字からなるものに限らず、複数の文字からなるものや模様等であってもよい。また、潜像を表現する第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３を複数の領域に分割し、その複数の領域毎に文字等が浮かび上がる構成とすることも考えられる。また、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が、背景色領域１１にて第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域を完全に取り囲むのではなく、一部が開放されるようにして、第２のエンボス群を構成する複数のエンボス１４が、第１のエンボス群を構成する複数のエンボス１３が形成された領域を囲むような形状であってもよい。
【００４２】
また、上述した実施の形態においては、複数のエンボス１３からなる第１のエンボス群の形状によって潜像「Ｔ」を表現しているが、複数のエンボス１４からなる第２のエンボス群の形状によって潜像「Ｔ」を表現してもよい。その場合は、偽造防止シート１に対する観察方向を正面から変化させていくと、複数のエンボス１４の頂部１４ａに表出している色、すなわち、背景色領域１１の色で潜像「Ｔ」が浮かび上がって見えるようになる。
【００４３】
また、背景色領域１１の色とマーク部１２の色は、本形態においては、背景色領域１１を白色とし、マーク部１２を黒色としたが、背景色領域１１を黒色とし、マーク部１２を白色としてもよく、また、互いに異なる色であれば、白色や黒色に限らない。
【００４４】
また、本形態においては、偽造防止媒体として、紙からなるシート基材２に偽造防止構造１０が設けられた偽造防止シート１を例に挙げて説明したが、本発明はこのような偽造防止シート１に限らず、フィルムからなるシート基材や複数の樹脂層が積層されてなるカード基材に上述したような偽造防止構造１０を設けたものにも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【００４５】
【図１】本発明の偽造防止媒体の実施の一形態となる偽造防止シートを示す図であり、（ａ）は全体の構成を示す図、（ｂ）は（ａ）に示した偽造防止構造の詳細な構成を示す図、（ｃ）は（ｂ）に示した偽造防止構造における背景色領域とマーク部との関係を示す図、（ｄ）は（ｂ）に示した偽造防止構造におけるエンボスの形成領域を示す図、（ｅ）は（ｂ）に示したエンボスの構成を示す図、（ｆ）は（ｂ）に示したエンボスの構成を示す図である。
【図２】図１に示した偽造防止シートを正面から観察した場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｃ）は偽造防止構造における背景色領域とマーク部の見え方を示す図である。
【図３】図１に示した偽造防止シートに対する観察方向を正面から変化させていった場合の作用を説明するための図であり、（ａ）は第１のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｂ）は第２のエンボス群を構成するエンボスを側面方向から見た図、（ｃ），（ｄ）は偽造防止構造全体の見え方を示す図である。
【符号の説明】
【００４６】
１ 偽造防止シート
２ シート基材
３ 平面部
４ 情報印刷領域
１０ 偽造防止構造
１１ 背景色領域
１２ マーク部
１３，１４ エンボス
１３ａ，１４ａ 頂部
【特許請求の範囲】
【請求項１】
基材表面に設けられた背景色領域と、前記背景色領域上にて該背景色領域とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部と、前記背景色領域の所定領域にて前記複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部が前記マーク部を含むように形成された複数のエンボスからなる第１のエンボス群と、前記背景色領域における前記所定領域以外の領域にて前記第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成し、前記背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボスからなる第２のエンボス群とを有してなる偽造防止媒体において、
前記マーク部及び前記エンボスの底部は、前記複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状であることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項２】
請求項１に記載の偽造防止媒体において、
前記マーク部及び前記エンボスの底部は角部を有さない扁平形状である偽造防止媒体。
【請求項１】
基材表面に設けられた背景色領域と、前記背景色領域上にて該背景色領域とは異なる色を有してマトリックス状に設けられた複数のマーク部と、前記背景色領域の所定領域にて前記複数のマーク部の配列方向と並行して行及び／または列を構成し、頂部が前記マーク部を含むように形成された複数のエンボスからなる第１のエンボス群と、前記背景色領域における前記所定領域以外の領域にて前記第１のエンボス群を構成する複数のエンボスの配列方向と並行して行及び／または列を構成し、前記背景色領域の色が頂部にて表出するように形成された複数のエンボスからなる第２のエンボス群とを有してなる偽造防止媒体において、
前記マーク部及び前記エンボスの底部は、前記複数のマーク部の配列方向の行及び列の一方と並行する方向を長手方向とする扁平形状であることを特徴とする偽造防止媒体。
【請求項２】
請求項１に記載の偽造防止媒体において、
前記マーク部及び前記エンボスの底部は角部を有さない扁平形状である偽造防止媒体。
【図１】
【図２】
【図３】
【図２】
【図３】
【公開番号】特開２０１０−１２０２４４（Ｐ２０１０−１２０２４４Ａ）
【公開日】平成２２年６月３日（２０１０．６．３）
【国際特許分類】
【出願番号】特願２００８−２９５４６０（Ｐ２００８−２９５４６０）
【出願日】平成２０年１１月１９日（２００８．１１．１９）
【出願人】（０００１１０２１７）トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Ｆターム（参考）】
【公開日】平成２２年６月３日（２０１０．６．３）
【国際特許分類】
【出願日】平成２０年１１月１９日（２００８．１１．１９）
【出願人】（０００１１０２１７）トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Ｆターム（参考）】
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