説明

偽造防止紙及び紙識別法

【課題】新規な偽造防止紙、および該偽造防止紙の識別方法を提供するものである。
【解決手段】含有される繊維配向角が周期的に変動する紙であって、該繊維配向角周期長が1m以下であることを特徴とする偽造防止紙によって解決される。また、連続的な繊維配向角測定により、繊維配向角周期の有無を識別することにより紙を識別出来る。さらに、得られたデータをフーリエ解析することにより繊維配向角周期長を識別することにより、より有利に解決出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偽造防止紙に関するものである。さらに詳しくは、新規な偽造防止紙、および該偽造防止紙の識別方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、紙幣や有価証券など、素材以上の高価値を持った紙の偽造が問題になっている。特に、近年は精巧なカラーコピーやスキャナ、パソコン、プリンタなどを用いた偽造が簡易に行えるようになっている背景があり、これらを防止する有効な手段が必要とされている。
【0003】
抄造時に面質、地合、プロファイル等を改良させる装置の一つとして、シェーキング装置がある。シェーキング装置は、抄紙機においてワイヤー部を巾方向に振動させる装置であり、面質、地合、プロファイル改良等を主目的として用いられる装置である。
【0004】
シェーキング装置と偽造防止を関連させた技術には、シェーキング装置と同期させたスレッド挿入技術(例えば特許文献1)などがあるが、これら技術におけるシェーキング装置は、面質、地合、プロファイル改良等を目的として用いられるものであって、シェーキング装置を用いることで、偽造防止用の他の材料を用いること無く紙に情報を与える本技術とは、基本的な技術思想が完全に異なるものである。
【特許文献1】特開2004−204359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規な偽造防止紙、および該偽造防止紙の識別方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記に鑑み鋭意研究した結果、本発明の偽造防止技術を発明するに至った。
【0007】
本発明は含有される繊維配向角が抄紙流れ方向に対して周期的に変動する紙、すなわち繊維配向角周期を有する紙であって、該繊維配向角周期長が1m以下であることを特徴とする偽造防止紙によって成る。繊維配向角周期は抄紙機上においてシェーキング装置を用いることで紙に含有させる。後述の識別技術により、紙に含有されている繊維配向角周期の有無、および繊維配向角周期長を識別することが可能である。
【0008】
そもそも、紙の抄造時にシェーキング装置を用いていない紙には、繊維配向角の周期的な変動が存在しない。さらに、たとえシェーキング装置を使用していたとしても、シェーキング装置の条件は製造する紙ごとに異なり、特定の繊維配向角周期長を持った紙を選別して入手することは非常に困難である。
【0009】
加えて、本発明においては、該繊維配向角周期長を1m以下、望ましくは30cm以下にすることによって、より入手困難かつ識別しやすい紙としている。抄紙段階において、シェーキング装置による繊維配向角周期長を短くする為には、抄紙速度を低下させるか、シェーキング条件を強化して振動数を上げるかの必要があるが、生産性およびシェーキング装置の機械的限界により、繊維配向角周期長が1m以下の紙を一般に入手することは非常に困難である。
【0010】
さらに、本発明においては、後述の識別技術により繊維配向角周期の有無、および繊維配向角周期長を識別することが可能であり、偽造された紙かどうかの判定を非破壊のまま行うことが出来る。本物の紙と同一の繊維配向角周期長を持った紙を一般に入手することは非常に困難であり、偽造防止紙としての効果を発揮できるものである。
【0011】
繊維配向角周期の有無および繊維配向角周期長の識別に関して、繊維配向角の測定結果をプロットすることである程度見分けが可能であり、簡易的には真贋の識別をすることが可能である。しかし、偽造防止という目的を考慮すれば、誰でも迅速かつ簡易に判定が出来る自動識別装置が求められるものであり、本発明によるフーリエ解析を利用する方法により一層効果的かつ確実に繊維配向角周期が確認出来ること、および繊維配向角周期長が確認出来ることでさらに顕著に効果を発揮することが出来る。
【0012】
本発明において、以下の方法で繊維配向角周期長を識別することが可能である。すなわち、繊維配向角測定器を用いて、一定間隔で測定部位をずらして連続的に繊維配向角を測定し、得られたデータをフーリエ解析することで繊維配向角周期長を得る。このとき、シェーキング装置を使用していない紙、すなわち繊維配向角に周期が存在していない紙はフーリエ解析されたデータに明確なピークが存在せず、繊維配向角に周期が存在する紙はその周期長にあたる場所に明確なピークを観測することが出来る。
【0013】
本発明におけるフーリエ解析は、得られたデータをフーリエ変換した後にその絶対値をパワースペクトルとして示すものである。この操作により、パワースペクトルのピーク位置から繊維配向角周期長を推定すること、すなわち繊維配向角周期長による紙の識別が可能となり、ピークが確認されなければ繊維配向角周期自体が存在しない、すなわちシェーキング装置未使用の紙であると識別出来る。
【0014】
また、カラーコピーやスキャナ、パソコン、プリンタを用いた印刷による偽造に対して、本発明は特に効果を発揮する。繊維配向角周期は使用する紙自体に含有されるものであり、繊維配向角周期を持たない、または本物と異なった繊維配向角周期長を有する紙を用いて偽造を行ったとしても、本発明では容易に識別可能である為、印刷による偽造の影響を受けない。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、新規な偽造防止紙、および該偽造防止紙の識別方法を提供出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の偽造防止紙、および該偽造防止紙の識別方法について、詳細に説明する。
本発明における偽造防止紙は、シェーキング装置を有する抄紙機上において、抄紙速度とシェーキング装置の振動数をコントロールすることで得られる。繊維配向角周期長は、抄紙速度(m/min)/振動数(回/min)でおおよそ計算することが出来、この値を元にドローなどによる微調整を経て紙上での配向角周期長が決定される。
【0017】
実際に抄造する際には、抄紙速度5〜700m/min、振動数100〜700回/minの範囲で、抄紙機の形式、シェーキング装置の能力に合わせて適宜選択することが望ましい。操業性、生産性を考慮すれば、抄紙速度は20〜600m/minが望ましく、振動数は150〜600回/minが望ましい。条件設定の際にはシェーキング装置の装置的振動数上限の50〜100%の振動数で製造することが、抄紙機の性能を効果的に引き出しつつ、本発明の効果を発揮する為に望ましい。
【0018】
本発明における偽造防止紙は、該偽造防止紙の繊維配向各周期長が1m以下、望ましくは30cm以下にすることによって得られる。これは、繊維配向角周期長が1m以下の紙を一般に入手することが出来ないことと共に、後に繊維配向角周期長を識別する際に、偽造防止紙のサイズが小さくなっても識別可能にする為に効果的な手段である。また、繊維配向角周期長は3cm以上が望ましく、これは繊維配向角周期長が3cmより短くなると、繊維配向角周期長の中に十分な測定点数を確保することが難しくなることからである。
【0019】
本発明実施にあたりシェーキング装置を使用する際、振動数は前項に示す基準で選定するが、振幅は面質、地合、プロファイル等を考慮して適宜選択する事が出来る。
【0020】
本発明において、以下の方法で繊維配向角周期長を識別することが可能である。すなわち、繊維配向角測定器を用いて、一定間隔で測定部位をずらして連続的に繊維配向角を測定し、得られたデータをフーリエ変換することで繊維配向角周期長を得る。このとき、シェーキング装置を使用していない紙、すなわち繊維配向角に周期が存在していない紙はフーリエ変換されたデータにピークが存在せず、繊維配向角に周期が存在する紙はその周期長にあたる場所にピークを観測することが出来る。
【0021】
本発明には、一般に知られる繊維配向角測定器を用いることが出来る。例えば、音波またはマイクロ波または誘電率の伝達速度を利用する測定器、レーザーの偏光を利用する測定器などがあるが、本発明においてはいずれの繊維配向角測定器も使用することが可能である。
【0022】
該偽造防止紙を抄紙流れ方向に一定のデータ採取間隔にて繊維配向角の連続測定を行い、フーリエ変換前データとする。データ採取間隔は小さい程精度が高くなる為に望ましく、また得るデータ数は多いほど望ましい。具体的には、後のフーリエ変換の精度および実用性を考慮して、繊維配向角周期長1つ分の長さの中に16点以上のサンプリングが行えるよう適宜調整することが望ましい。
【0023】
本発明は、他の偽造防止技術と適宜組み合わせて使用することが出来る。例えば、特殊インクを用いた印刷、高精細印刷、凹版印刷、凸版印刷、ホログラムといった印刷による偽造防止技術、すかし、スレッド抄き込みまたは抄き合わせ、細片抄き込みまたは抄き合わせ、バイオセルロース、レーヨン、着色繊維などの繊維抄き込みまたは抄き合わせといった抄造段階での偽造防止技術、磁気層塗布、穿孔、マイクロチップなどとの組み合わせといった各種偽造防止技術との組み合わせにより、より有意に達成される。本発明は、他の偽造防止技術と容易に組み合わせることが可能であり、ほとんどの偽造防止技術を阻害しない点が非常に優れた点である。
【0024】
本発明における識別技術を組み込んだ自動識別装置の作製により、本発明はより有利に使用することが出来る。すなわち、繊維配向角測定ユニットを基本とし、識別される紙を一定間隔でスライドさせる装置を持つもの、あるいは繊維配向角測定ユニット全体または測定ヘッドが一定間隔でスライドされる装置を持つものを測定部とし、これにフーリエ解析機能を有する判定装置を一体化することで自動判別装置と成る。この装置には、他の偽造防止技術を判定する装置を同時に組み込んでも構わない。
【0025】
本発明の実施にあたり、抄造時にオンライン繊維配向角計にてデータ採取を行い、繊維配向角周期長の確認を行うことが望ましい。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0027】
比較例1
シェーキング装置を有する長網抄紙機にて、抄紙速度210m/min、シェーキング装置未使用にて抄造された紙を比較例1とする。
【0028】
実施例1
シェーキング装置を有する長網抄紙機にて、抄紙速度210m/min、シェーキング300回/minにて抄造された紙を実施例1とする。
【0029】
実施例2
シェーキング装置を有する長網抄紙機にて、抄紙速度150m/min、シェーキング300回/minにて抄造された紙を実施例2とする。
【0030】
<繊維配向角周期長評価法>
繊維配向角周期長は以下の方法にて確認した。比較例1、実施例1および実施例2のサンプルを、繊維配向角測定器SST−3000(野村商事(株)製)にて、抄紙流れ方向に対し連続繊維配向角測定を実施した。測定は、5cmピッチ、64点測定とした。比較例1のデータをそのままプロットしたものを図1に、実施例1のデータをそのままプロットしたものを図2に、実施例2のデータをそのままプロットしたものを図3に示す。また、比較例1のデータをフーリエ解析したものを図4に、実施例1のデータをフーリエ解析したものを図5に、実施例2のデータをフーリエ解析したものを図6に示す。
【0031】
評価:
比較例1および実施例1および実施例2の繊維配向角データをそのままプロットしたもの、すなわち図1および図2および図3の比較により、図1からは繊維配向角周期が見て取れないが、図2および図3からは繊維配向角周期の存在が見て取れ、シェーキング装置を使った紙を判別することが出来ることがわかる。
【0032】
比較例1および実施例1および実施例2のデータをフーリエ変換後パワースペクトルを示したもの、すなわち図4および図5および図6の比較では、図4には明確なピークが存在しないが、図5および図6にはシェーキング装置による周期長にあたる位置に明確なピークが観測出来、シェーキング装置を使った紙を明確に判別することが可能であることがわかる。また、図5と図6の比較では、繊維配向角周期長が異なる紙では異なるピーク位置を示すことが確認出来、繊維配向角周期長での紙の識別が可能であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0033】
偽造防止紙として使用することが出来る。また、偽造防止紙であるかどうかの識別が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】比較例1の連続繊維配向角データプロット
【図2】実施例1の連続繊維配向角データプロット
【図3】実施例2の連続繊維配向角データプロット
【図4】比較例1の連続繊維配向角データのフーリエ解析パワースペクトル
【図5】実施例1の連続繊維配向角データのフーリエ解析パワースペクトル
【図6】実施例2の連続繊維配向角データのフーリエ解析パワースペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有される繊維配向角が周期的に変動する紙であって、該繊維配向角周期長が1m以下であることを特徴とする偽造防止紙。
【請求項2】
連続的な繊維配向角測定により、繊維配向角周期の有無を識別することを特徴とする紙識別法。
【請求項3】
得られたデータをフーリエ解析することにより繊維配向角周期長を識別する請求項2記載の紙識別法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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