説明

傷防止膜形成用塗料

【課題】蛍光ランプ用の透光性封止管等のガラス基材に蛍光体膜等を形成する焼成工程等においても消滅する虞が無く、このガラス基材の搬送中あるいは製造工程中における外部からの衝撃等に起因する傷の発生を未然に防止することが可能な傷防止膜を形成するための傷防止膜形成用塗料を提供する。
【解決手段】本発明の傷防止膜形成用塗料は、二酸化ケイ素微粒子と、脂肪酸塩を含む分散媒とを含有した塗料であり、さらに、有機無機複合樹脂からなるバインダ成分を含有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傷防止膜形成用塗料に関し、更に詳しくは、蛍光ランプ用の透光性封止管等のガラス基材に蛍光体膜等を形成する焼成工程等においても消滅する虞が無く、このガラス基材の搬送中あるいは製造工程中における外部からの衝撃等に起因する傷の発生を未然に防止することが可能な傷防止膜を形成するための傷防止膜形成用塗料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス管、ガラス板等の各種ガラス基材を用いたガラス製品が多く用いられており、これらのガラス製品の一種に、パーソナルコンピュータ(PC)やワードプロセッサ(WP)等のOA機器に用いられている液晶表示装置(LCD)のバックライトユニットに用いられている冷陰極型の蛍光ランプがある。
この蛍光ランプは、例えば、ガラス管の両端が封止された透光性封止管の内面に保護膜が形成され、この保護膜上に蛍光体からなる発光層が形成され、この透光性封止管内の両端部側にそれぞれ電極が設けられ、この透光性封止管内に水銀及びアルゴン等の希ガスが封入されている。
この蛍光ランプでは、透光性封止管の内面に、有機溶媒を含む保護膜形成用塗料を塗布し、乾燥することにより保護膜が形成され、この保護膜上に蛍光体スラリを塗布し、乾燥することにより、蛍光体膜が形成される。
【0003】
ところで、従来の蛍光ランプに用いられるガラス管は、製造工程に沿って移動する間に、ガラス管を配列あるいは積載した際に隣接するガラス管同士が接触したり、あるいはガラス管が外部からの衝撃を受けたり等、様々な理由によりその外表面や開口端面に傷が生じる。
そこで、ガラス管の表面にリン酸塩やホウ酸塩等の水溶性物質を塗布することにより、製造工程中におけるガラス管の傷の発生を防止し、滑り性を改善した蛍光ランプ用ガラス管(特許文献1)、ガラス管の表面に界面活性剤等の表面処理物質を含む水溶液を泡状に噴射して、この泡状の表面処理物質をガラス管の表面に被着させることにより、表面の傷の発生を防止したガラス管(特許文献2)等が提案されている。
これらのガラス管では、表面に付着した水溶性物質や泡状の表面処理物質は、水洗工程にて完全に除去されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−14545号公報
【特許文献2】特開2007−196209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のガラス管では、表面に付着させた水溶性物質や泡状の表面処理物質は、ガラス管に蛍光体膜を製膜する焼成工程(600〜800℃程度)で完全に分解して消滅してしまうために、この焼成工程以降は、ガラス管の表面の傷防止効果が消滅してしまい、したがって、この焼成工程以降の工程においては、ガラス管同士の接触や外部からの衝撃を受ける等により傷が生じる虞があるという問題点があった。
このように、従来のガラス管では、傷防止効果が製造工程の途中で消滅してしまうために永続性が無く、製造工程後においても傷防止効果を十分持続させるまでには至っていない。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、蛍光ランプ用の透光性封止管等のガラス基材に蛍光体膜等を形成する焼成工程等においても消滅する虞が無く、このガラス基材の搬送中あるいは製造工程中における外部からの衝撃等に起因する傷の発生を未然に防止することが可能な傷防止膜を形成するための傷防止膜形成用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、蛍光ランプ用のガラス基材の外表面に、二酸化ケイ素微粒子と、脂肪酸塩を含む分散媒とを含有してなる傷防止膜形成用塗料を塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を、乾燥、または乾燥及び熱処理すれば、蛍光体膜等の焼成工程中に消滅する虞が無く、搬送中あるいは製造工程中や製造工程後においても外部からの衝撃等に起因する傷の発生を未然に防止することができ、しかも、この傷防止効果を十分持続させることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の傷防止膜形成用塗料は、二酸化ケイ素微粒子と、脂肪酸塩を含む分散媒とを含有してなることを特徴とする。
【0009】
本発明の傷防止膜形成用塗料では、さらに、バインダ成分を含有してなることが好ましい。
前記バインダ成分は、有機無機複合樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の傷防止膜形成用塗料によれば、二酸化ケイ素微粒子と、脂肪酸塩を含む分散媒とを含有したので、この塗料を塗布することで得られた塗布膜に、乾燥、または乾燥及び熱処理を施すことで、ガラス基材に蛍光体膜等を形成する焼成工程等においても消滅する虞が無く、永続性を有する傷防止膜を得ることができる。
また、この傷防止膜は、蛍光ランプの製造工程やその後の工程においても、傷防止効果が消滅することなく、十分持続させることができる。したがって、傷防止効果を長期に亘って保持することができる。
さらに、有機無機複合樹脂等のバインダ成分を含有することとすれば、二酸化ケイ素微粒子をガラス基材等の表面に強固に固着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す横断面図である。
【図3】加重試験の試験方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の傷防止膜形成用塗料を実施するための形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
「傷防止膜形成用塗料」
本実施形態の傷防止膜形成用塗料は、二酸化ケイ素微粒子と、脂肪酸塩を含む分散媒とを含有してなる塗料である。
【0014】
二酸化ケイ素微粒子は、屈折率が1.7以下と低く、膜中に分散させることにより、膜の表面に適度の滑り性を付与するとともに、この膜に対して適度の摩擦を生じさせることにより、搬送等の作業性を容易にするものである。
【0015】
この二酸化ケイ素微粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、塗工性を考慮すると、5nm以上かつ500nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上かつ100nm以下である。
ここで、二酸化ケイ素微粒子の平均粒子径を5nm以上かつ500nm以下と限定した理由は、平均粒子径が5nm未満では、比表面積が大きくなりすぎて表面活性が大きくなってしまい、塗料の安定性、及び塗布膜とした場合の膜の安定性が低下するからであり、一方、平均粒子径が500nmを超えると、塗布膜とした場合の膜の均質性が低下するからである。
【0016】
分散媒は、二酸化ケイ素微粒子とのなじみ(濡れ性)を向上させるために分散剤として脂肪酸塩を含有する必要がある。
この脂肪酸塩としては、脂肪酸の金属塩、または非金属塩を用いることができる。
脂肪酸の金属塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム、吉草酸ナトリウム、カプロン酸ナトリウム、エナント酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、ペラルゴン酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム、クロトン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等の脂肪酸ナトリウムが挙げられる。
【0017】
また、脂肪酸の非金属塩としては、例えば、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウム、酪酸アンモニウム、吉草酸アンモニウム、カプロン酸アンモニウム、エナント酸アンモニウム、カプリル酸アンモニウム、ペラルゴン酸アンモニウム、カプリン酸アンモニウム、ラウリン酸アンモニウム、ミリスチン酸アンモニウム、パルミチン酸アンモニウム、ステアリン酸アンモニウム、アクリル酸アンモニウム、クロトン酸アンモニウム、オレイン酸アンモニウム等の脂肪酸アンモニウムが挙げられる。
これらの金属塩や非金属塩は、1種のみ、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0018】
この傷防止膜形成用塗料に用いられる溶媒は、基本的には、水、低沸点有機溶媒、水及び低沸点有機溶媒のうちいずれかである。
上記の低沸点有機溶媒は、乾燥速度を向上させるために用いられるもので、常圧(1気圧)下で150℃以下の沸点を有する有機溶媒である。この低沸点有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどの低級アルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸−1−ブチル、酢酸−2−ブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;等から選択される1種または2種以上を用いることができる。
【0019】
なかでも、水、低級アルコール類、ケトン類等が好ましく、特に、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)等が好適に用いられる。
【0020】
この傷防止膜形成用塗料の乾燥速度を調節するために、高沸点有機溶媒を添加してもよい。
この高沸点有機溶媒は、常圧(1気圧)下で150℃を超える沸点を有する有機溶媒であり、例えば、N−メチル−2−ピロリジノン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
【0021】
本実施形態の傷防止膜形成用塗料は、バインダ成分を含有してもよく、このバインダ成分としては、二酸化ケイ素微粒子となじみ(濡れ性)がよく、この二酸化ケイ素微粒子を被着物に確実に固着させ得るものとしては、有機無機複合樹脂が好ましい。
この有機無機複合樹脂としては、例えば、アクリル・ポリシロキサン・ハイブリッドエマルション(APHE)、エポキシ・ポリシロキサン・ハイブリッドエマルション、ウレタン・ポリシロキサン・ハイブリッドエマルション等が挙げられる。
これらの有機無機複合樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
二酸化ケイ素微粒子(S)とバインダ成分(B)との質量比(S:B)は、二酸化ケイ素微粒子を被着物に固着させて安定させることができる比率であればよく、20:80〜0.1:99.9が好ましく、より好ましくは10:90〜0.5:99.5、さらに好ましくは5:95〜1:99である。
ここで、質量比(S:B)を上記の範囲内に限定した理由は、二酸化ケイ素微粒子が過多になると、バインダ成分が二酸化ケイ素微粒子を十分に固着することができず、二酸化ケイ素微粒子が剥がれ落ちる等の不具合が生じる虞があるからであり、バインダが過多になると、二酸化ケイ素微粒子の傷防止効果が不十分なものとなり、傷防止効果を長期に亘って保持することができなくなるからである。
【0023】
この塗料には、塗料の濡れ性を改良する目的で界面活性剤を含有してもよく、また、塗布膜の膜質を改善する目的でバインダ成分である有機樹脂を含有してもよく、また、塗布膜の乾燥速度を調整する目的で上記以外の有機溶媒を含有してもよい。
【0024】
本実施形態の傷防止膜形成用塗料は、二酸化ケイ素微粒子と、脂肪酸塩と、水と、必要に応じて、有機溶媒や有機無機複合樹脂と、さらには界面活性剤、有機樹脂、上記以外の有機溶媒等とをビーズミル等の分散機を用いて均一に分散させることで作製することができる。
【0025】
「傷防止膜」
本実施形態の傷防止膜は、上記の傷防止膜形成用塗料を塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を、乾燥、または乾燥及び熱処理することで得ることができる。
【0026】
この傷防止膜を形成する基材としては、乾燥、または熱処理に耐える基材であればよく、特に限定されないが、ガラス管、ガラス板等のガラス基材、透光性のセラミックス基材等が好適に用いられる。
特に、この傷防止膜を蛍光ランプに適用する場合には、蛍光ランプの仕様に適合可能なガラス管が好適に用いられる。
【0027】
上記の傷防止膜形成用塗料の塗布方法としては、ガラス基材の形状や塗布する位置に合わせて適宜選択すればよく、スピンコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、メニスカスコート法、吸上げ塗工法、フローコート法等、通常のウエットコート法から適宜選択すればよい。
特に、蛍光ランプに用いられるガラス管の外周面及び開口端面に塗布膜を形成する場合、スプレーコート法、ロールコート法等が好適に用いられる。
【0028】
次いで、この塗布膜を、大気中にて乾燥、または乾燥及び熱処理する。
乾燥温度は、塗料に含まれる分散媒が充分に散逸する温度であればよく、例えば、常温(25℃)〜100℃である。
この乾燥工程では、塗布膜が充分乾燥すればよく、加熱だけの乾燥でもよく、空気を吹き付けてもよい。具体的には、常温のエアブローでも、熱風を吹き付けてもよい。
熱処理は、80℃〜800℃の範囲の温度にて、ガラス管等のガラス基材に不具合が生じない範囲で所定時間行う。
【0029】
「蛍光ランプ」
本実施形態の傷防止膜を蛍光ランプ用のガラス管の外表面に形成することで、この傷防止膜が、ガラス管の内表面に蛍光体膜等を形成する焼成工程等においても消滅する虞が無く、その後の工程や搬送等においても傷防止効果を消滅させることなく、十分持続させることができる。したがって、傷防止効果を長期に亘って保持することができる。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態の蛍光ランプを示す縦断面図、図2は同横断面図であり、図において、1は両端が封止されたガラス管からなる透光性封止管、2は透光性封止管1の内壁全体(内面)に形成された保護膜(塗膜)、3は赤色系発光蛍光体、緑色系発光蛍光体及び青色系発光蛍光体の混合物からなる蛍光体層、4は透光性封止管1内の両端部側にそれぞれ設けられた電極、5は電極4に電気的に接続されたリード線、6は透光性封止管1の外表面1aに形成された傷防止膜である。
【0031】
また、Gは透光性封止管1内に封入された封入ガスであり、この封入ガスGは、水銀、及びアルゴン等の希ガスや窒素等の不活性ガスにより構成されている。
また、保護膜2は、電極4、4間に高周波高電圧を印加した場合に、透光性封止管1に含まれている物質とガスGに含まれる水銀とが反応してアマルガムを生成するのを防止する機能を備えている膜である。
【0032】
この蛍光ランプでは、透光性封止管1の外表面1aに本実施形態の傷防止膜形成用塗料を塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を、乾燥、または乾燥及び熱処理することで、透光性封止管1との密着性が良くかつ長期間に亘って傷防止効果を持続させることができる傷防止膜6を設けたものであるから、この傷防止膜6が、透光性封止管1の内表面に蛍光体層3を形成する焼成工程等においても消滅する虞が無く、その後の工程や搬送等においてもガラス管同士の接触や外部からの衝撃による傷の発生を防止することができる。しかも、この傷防止膜6は永続性を有するので、製造工程後においても消滅してしまう虞がなく、長期間に亘って傷防止効果を持続させることができる。
【0033】
本実施形態では、傷防止膜を蛍光ランプ用のガラス管の外表面に形成した場合について説明したが、この傷防止膜は、蛍光ランプ用のガラス管に限定されることなく、例えば、ガラス板等の表面、さらには金属板等の表面の傷防止性を改善する際にも用いられ、様々な分野にても適用可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0035】
「実施例1」
二酸化ケイ素微粒子を、分散剤として脂肪酸ナトリウムを含む水溶液中にビーズミルを用いて分散させ、その後、ビーズを分離し、二酸化ケイ素微粒子を5.0質量%、分散剤を0.2質量%含有する塗料を作製した。
【0036】
次いで、この塗料を、平板スライドガラスに膜厚が0.1μmになるように塗布し、その後、90℃にて5分間、エアブローしながら乾燥し、評価用の試料を20個作製した。
これらの試料の全光線透過率を、ヘーズメータ NHD2000(日本電色工業社製)を用いて測定し、20個の平均値を実施例1の試料の全光線透過率とした。
次いで、これらの試料を700℃にて10分間、焼成し、この焼成後の全光線透過率を上記と同様にして測定した。ここでは、全光線透過率が98%以上を「◎」、95%以上かつ98%未満を「○」、90%以上かつ95%未満を「△」、90%未満を「×」と判定した。測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0037】
次いで、蛍光ランプ用のガラス管を用意し、このガラス管の外表面に上記の塗料を膜厚が0.1μmになるようにスプレー塗工法にて塗布した。次いで、この塗布膜付きガラス管を、大気中、90℃にて5分間、エアブローしながら乾燥を行い、実施例1の傷防止膜付きガラス管を作製した。
【0038】
次いで、この傷防止膜付きガラス管の加重試験を行った。
ここでは、焼成前加傷、焼成後加傷の2通りについて加重試験を行い、評価した。試験結果を表1に示す。加重試験の方法は次のとおりである。
(1)焼成前加傷
ガラス管を純水を入れた水槽内に浸漬することによって洗浄し、その後、水槽から取り出して乾燥させた。次いで、このガラス管に加傷20回の加重試験を行った。
まず、ガラス管を2本用意し、1本のガラス管を固定し、もう1本のガラス管をガラス管の中央部同士が直角になるように接触させ、1方向に20回擦りつけ、加傷を行った。
【0039】
次いで、この擦りつけられた側のガラス管について、下記の方法にて加重試験を行った。
図3に示すように、ガラス管11の両端部を支持台12に固定して固定端の距離Lが200mmとなるようにし、このガラス管11の中央部C(固定端の両端から100mmの位置)に瓶13を吊し、この瓶13内に水14を徐々に注入してガラス管11に加わる加重を増加させ、ガラス管11が折れた時の加重を測定した。なお、加傷前のガラス管の加重量は400gであった。
【0040】
ここでは、接触部分、接触しなかった部分(非接触部分)の2箇所で加重試験を行い、それぞれの箇所について20本のガラス管の加重の平均値を求め、この加重の平均値が360g以上を「◎」、320g以上かつ360g未満を「○」、240g以上かつ320g未満を「△」、240g未満を「×」と判定した。測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0041】
(2)焼成後加傷
ガラス管を純水を入れた水槽内に浸漬することによって洗浄し、その後、水槽から取り出して乾燥させた。次いで、このガラス管を、大気中、700℃にて10分間、焼成した。
次いで、このガラス管に対して、上記の「焼成前加傷」に準じて加重試験を行い、評価した。測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0042】
「実施例2」
二酸化ケイ素微粒子を、分散剤として脂肪酸ナトリウム、有機無機複合樹脂としてアクリル・ポリシロキサン・ハイブリッドエマルション(APHE)を含む水溶液中にビーズミルを用いて分散させ、その後、ビーズを分離し、二酸化ケイ素微粒子を2.0質量%、アクリル・ポリシロキサン(APHE)を2.0質量%、分散剤を0.2質量%含有する塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて実施例2の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0043】
「実施例3」
二酸化ケイ素微粒子を1.0質量%とした他は、実施例2に準じて実施例3の塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて実施例3の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0044】
「実施例4」
二酸化ケイ素微粒子を5.0質量%とした他は、実施例2に準じて実施例4の塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて実施例4の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0045】
「実施例5」
二酸化ケイ素微粒子を10.0質量%とした他は、実施例2に準じて実施例5の塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて実施例5の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0046】
「実施例6」
二酸化ケイ素微粒子を5.0質量%、アクリル・ポリシロキサン(APHE)を1.0質量%とした他は、実施例2に準じて実施例6の塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて実施例6の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0047】
「比較例1」
0.01mol/Lのトリポリリン酸ナトリウム水溶液を、平板スライドガラスに膜厚が0.1μmになるようにスプレー塗工法にて塗布し、その後、90℃にて5分間、エアブローしながら乾燥し、比較例1の評価用の試料を作製した。
【0048】
また、蛍光ランプ用のガラス管の外表面に、0.01mol/Lのトリポリリン酸ナトリウム水溶液を膜厚が0.1μmになるようにスプレー塗工法にて塗布した。次いで、この塗布膜付きガラス管を、大気中、90℃にて5分間、エアブローしながら乾燥を行い、比較例1の傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0049】
「比較例2」
二酸化ケイ素微粒子を0.5質量%とした他は、実施例2に準じて比較例2の塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて比較例2の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0050】
「比較例3」
二酸化ケイ素微粒子を5.0質量%、アクリル・ポリシロキサン(APHE)を3.0質量%とした他は、実施例2に準じて比較例3の塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて比較例3の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0051】
「比較例4」
二酸化ケイ素微粒子を15.0質量%とした他は、実施例2に準じて比較例4の塗料を作製した。
次いで、この塗料を用いて、実施例1に準じて比較例4の評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管を作製した。
この評価用の試料及び傷防止膜付きガラス管について、実施例1に準じて評価を行った。これらの測定結果及び評価結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
これらの結果によれば、実施例1〜6では、焼成前加傷20回の加重量、焼成後加傷20回の加重量共に、加傷前のガラス管の加重量の10%以内であり、防傷性が大きく改善されていることが分かった。
一方、比較例1は、焼成によりトリポリリン酸ナトリウムが除去されてしまったために、焼成後の全光線透過率が平板スライドガラス自体の全光線透過率を示しており、また、加重試験の結果では、焼成後加傷20回の加重量が大幅に低下しており、防傷性に劣っていた。
【0054】
比較例2は、二酸化ケイ素微粒子の含有量が少ないために、焼成後加傷20回の加重量が大幅に低下しており、防傷性に劣っていた。
比較例3は、アクリル・ポリシロキサン(APHE)の含有量が多すぎるために、全光線透過率が大幅に低下しており、透明性が悪化していた。
比較例4は、二酸化ケイ素微粒子の含有量が多すぎるために、加重試験の結果が良く、防傷性は優れているものの、全光線透過率が大幅に低下しており、透明性が悪化していた。
【符号の説明】
【0055】
1 透光性封止管
2 保護膜
3 蛍光体層
4 電極
5 リード線
6 傷防止膜
G 封入ガス
11 ガラス管
12 支持台
13 瓶
14 水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化ケイ素微粒子と、脂肪酸塩を含む分散媒とを含有してなることを特徴とする傷防止膜形成用塗料。
【請求項2】
さらに、バインダ成分を含有してなることを特徴とする請求項1記載の傷防止膜形成用塗料。
【請求項3】
前記バインダ成分は、有機無機複合樹脂であることを特徴とする請求項2記載の傷防止膜形成用塗料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−212032(P2010−212032A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55586(P2009−55586)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】