説明

優位眼検査装置

【課題】短時間且つ簡便に、被験者の優位眼を診断できる優位眼検査装置を提供する。
【解決手段】先ず第1刺激視標101を被験者の左眼のみで視認可能とし、第2刺激視標102を被験者の右眼のみで視認可能とし(a)、次に第1刺激視標101及び第2刺激視標102を結ぶように第3刺激視標103を表示させることにより(b)、被験者は、眼の錯視によって、優位眼で見ている一方の刺激視標から他方の刺激視標に伸びるように第3刺激視標103を認識する(c)。第1刺激視標101の表示位置から第2刺激視標102の表示位置に向けて伸びた量が、第2刺激視標102の表示位置から第1刺激視標101の表示位置に向けて伸びた量よりも長い場合、被験者は、第1刺激視標101よりも第2刺激視標102寄りの衝突点120で第3刺激視標103が衝突したように錯視し、この場合には、左眼が優位眼であると検査できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の優位眼を検査する優位眼検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被験者の優位眼を検査する技術として、下記の特許文献1に記載された発明が知られている。特許文献1には、利き眼を調べるための専用の器具を準備することなく、簡単に被検者の利き眼を調べることができる遮眼具が記載されている。具体的には、視線を遮断する遮眼具に蓋で覆われた貫通孔が設けられ、蓋を動かして貫通孔を開けば貫通孔を利用して優位眼を調べることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−187786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された優位眼の検査方法では、眼に対する丸い穴の位置関係による影響や、視覚機能による影響を受けてしまう場合がある。
【0005】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、短時間且つ簡便に、被験者の優位眼を診断できる優位眼検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決する第1の発明に係る優位眼検査装置は、表示範囲内における異なる位置で表示される第1刺激視標及び第2刺激視標と、前記第1刺激視標と第2刺激視標とを結ぶ第3刺激視標と、を表示する表示手段と、前記第1刺激視標を被験者の一方の眼により視認させ、前記第2刺激視標を被験者の他方の眼により視認させ、前記第3刺激視標を被験者の両眼により視認させる両眼分離手段と、被験者に操作され、前記第3刺激視標が前記第1刺激視標から第2の刺激視標へ伸びたことを回答する操作、又は、前記第3刺激視標が前記第2刺激視標から第1の刺激視標へ伸びたことを回答する操作が行われる操作手段と、前記第1刺激視標及び前記第2刺激視標を前記表示手段に表示させた後に、前記第3刺激視標を前記表示手段に表示させる表示制御手段とを備えることを特徴とする。
【0007】
第1の発明に係る優位眼検査装置であって、第2の発明は、前記表示制御手段が、前記第1刺激視標と前記第2刺激視標の表示様式を個別に設定する表示様式設定機能を更に備え、前記表示様式設定機能で設定された前記第1刺激視標と前記第2刺激視標を表示し、更に前記第1刺激視標と前記第2刺激視標の表示様式を補間するように前記第3刺激視標を表示することを特徴とする。
【0008】
第1又は第2の発明に係る優位眼検査装置であって、第3の発明は、前記表示制御手段が、前記第1刺激視標及び前記第2刺激視標と、前記第3刺激視標との表示時間間隔を任意に設定できる機能を更に備え、前記第1刺激視標及び前記第2刺激視標を表示した後に、任意の時間間隔で前記第3刺激視標を表示させることを特徴とする。
【0009】
第1乃至第3の発明の何れかに係る優位眼検査装置であって、第4の発明は、前記表示制御手段が、前記第1刺激視標と前記第2刺激視標とを結ぶ中間位置に被験者が固視をする固視視標を表示する機能を更に備え、前記第1刺激視標と前記第2刺激視標と共に前記固視視標を表示させた後に、前記第3刺激視標を表示させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、第3刺激視標が伸びたように錯視したことを回答させる検査手法により、優位眼で受けた刺激を優先して脳が処理することによる人間の特性を利用でき、短時間且つ簡便に、被験者の優位眼を診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態として示す優位眼検査装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の実施形態として示す優位眼検査装置における刺激視標の表示画面を示す図であり、(a)は第1刺激視標と前記第2刺激視標を表示したときの表示画面、(b)が第3刺激視標を表示したときの表示画面、(c)が被験者の第3刺激視標の見え方、を示す。
【図3】立体視ディスプレイと視点との関係を示す斜視図である。
【図4】立体視ディスプレイと視点との関係を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
本発明を適用した優位眼検査装置は、被験者の優位眼を検査するものである。ここで、人間の眼において、一方の眼が他方の眼に対して優位に立つ現象が存在しており、優位眼(利き目)があることが知られている。両眼で物を見たときに、その物を認識するために主として使われる側の眼が利き眼(優位眼)である。
【0014】
本発明を適用した優位眼検査装置は、例えば図1に示すように構成される。この優位眼検査装置は、表示制御手段としての制御装置2と、両眼分離手段としての立体視ディスプレイ1と立体視メガネ3と、操作手段としての操作部4とを含む。
【0015】
制御装置2は、表示範囲内における異なる位置に表示される第1刺激視標及び第2刺激視標と、前記第1刺激視標と第2刺激視標とを結ぶ第3刺激視標と、を表示制御する。立体視ディスプレイ1は、制御装置2と接続されている。両眼分離手段、つまり立体視ディスプレイ1と立体視メガネ3は、第1刺激視標を被験者の一方の眼により視認させ、第2刺激視標を被験者の他方の眼により視認させ、第3刺激視標を被験者の両眼により視認させることが可能であり、両眼分離手段は、制御装置2から供給された第1刺激視標、第2刺激視標及び第3刺激視標を両眼分離する。つまり、両眼分離手段は、制御装置2により制御される。
【0016】
なお、図1に示す例では、立体視ディスプレイ1と立体視メガネ3を使用しているが、プロジェクタとスクリーンで構成される立体視表示手法で実現しても良い。また、レンチキュラー方式の裸眼立体視ディスプレイを使用してもよい。
【0017】
立体視ディスプレイ1は、第1刺激視標を被験者の一方の眼のみから視認可能に表示させ、第2刺激視標を被験者の他方の眼のみから視認可能に表示させ、第3刺激視標を被験者の両眼から視認可能に表示させる。
【0018】
立体視メガネ3は、被験者に装着され、第1刺激視標を被験者の一方の眼により視認させ、第2刺激視標を被験者の他方の眼により視認させ、第3刺激視標を被験者の両眼により視認させる。
【0019】
両眼分離方式として時分割方式を採用した場合、立体視メガネ3の左眼部分及び右眼部分を液晶シャッタとする。制御装置2は、第1刺激視標、第2刺激視標及び第3刺激視標の表示タイミングと、立体視メガネ3の右眼部分及び左眼部分の液晶シャッタの動作タイミングとを同期させる。制御装置2は、被験者の左眼に第1刺激視標を見せるときには、立体視ディスプレイ1に第1刺激視標を表示すると共に、前記左眼用液晶シャッタを開にすると共に右眼用液晶シャッタを閉にする。また、制御装置2は、被験者の右眼に第2刺激視標を見せるときには、立体視ディスプレイ1に第2刺激視標を表示すると共に、前記右眼用液晶シャッタを開にすると共に左眼用液晶シャッタを閉にする。更に制御装置2は、被験者の両眼に第3刺激視標を見せるときには、立体視ディスプレイ1に第3刺激視標を表示すれば良い。
【0020】
また、両眼分離方式として偏光方式を採用した場合、立体視メガネ3の左眼部分を左眼用偏光フィルムとし、立体視メガネ3の右眼部分を右眼用偏光フィルムとする。そして、制御装置2は、被験者の左眼に第1刺激視標を見せるときには、前記左眼用偏光フィルムと同じ偏光方向で第1刺激視標を表示させる。また、制御装置2は、被験者の右眼に第2刺激視標を見せるときには、前記右眼用偏光フィルムと同じ偏光方向で第2刺激視標を表示させる。更に、制御装置2は、被験者の両眼に第3刺激視標を見せるときには、前記左眼用偏光フィルム及び右眼用偏光フィルムの偏光方向の両方で第3刺激視標を表示させる。
【0021】
操作部4は、被験者に操作されるジョイスティック等の方向レバー、マウス、又は方向キー等からなる。操作部4は、前記第3刺激視標が第1刺激視標から第2の刺激視標へ伸びたことを回答する操作又は前記第3刺激視標が第2刺激視標から第1の刺激視標へ伸びたことを回答する操作が行われる。
【0022】
このような優位眼検査装置において、制御装置2は、図2に示すように、第1刺激視標、第2刺激視標及び第3刺激視標を表示させる。
先ず、図2(a)に示すように、制御装置2は、立体視ディスプレイ1の表示範囲100における、異なる位置に、第1刺激視標101と第2刺激視標102とを表示する。第1刺激視標は、被験者の左眼のみで視認可能とし、第2刺激視標は、被験者の右眼のみで視認可能とする。
【0023】
図2(a)では、立体視ディスプレイ1に、第1刺激視標101と第2刺激視標102とを結ぶ中間位置に固視視標110を表示している。この固視視標110は、被験者の両眼で見ることができるようにする。固視視標110を表示するのは、被験者の視覚刺激(意識)を、第1刺激視標101と第2刺激視標102との中間位置に集中させるためである。したがって、制御装置2は、固視視標110を表示しなくても良い。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、制御装置2は、第1刺激視標101及び第2刺激視標102を結ぶように第3刺激視標103を表示させる。この第3刺激視標103は、被験者の両眼で視認可能なものである。
【0025】
すると、被験者は、眼の錯視によって、優位眼で見ている一方の刺激視標から、他方の刺激視標に伸びるように第3刺激視標103を認識する。図2(c)に示すように、第1刺激視標101を表示していた位置から第2刺激視標102を表示していた位置に向けて伸びた量が、第2刺激視標102を表示していた位置から第1刺激視標101を表示していた位置に向けて伸びた量よりも長い場合、被験者は、第1刺激視標101よりも第2刺激視標102寄りの衝突点120で第3刺激視標103が衝突したように錯視する。
【0026】
第3刺激視標103が、第1刺激視標101又は第2刺激視標102から伸びて見えるのは、優位眼からの視覚刺激と非優位眼からの視覚刺激とが同時に与えられると、優位眼からの視覚刺激の方が脳で早く処理されるためである。このため、第3刺激視標103を表示したときに、優位眼に見せている刺激視標から、非優位眼に見せている視覚刺激に向けて、第3刺激視標103が伸びてくるように錯視される。
【0027】
この場合、被験者は、第1刺激視標101から第2刺激視標102の方向に第3刺激視標103が伸びたことを認識して、操作部4を操作する。これによって、測定者は、被験者の優位眼が左眼であることを検査できる。
【0028】
逆に、被験者の優位眼が右眼である場合、第3刺激視標103が、第2刺激視標102から第1刺激視標101に向けて伸びるように錯視される。このとき、図2(c)における衝突点120は、第2刺激視標102寄りではなく、第1刺激視標101寄りとなる。そして、被験者は、 第2刺激視標102から第1刺激視標101の方向に第3刺激視標103が伸びたことを認識して、操作部4を操作する。これによって、測定者は、被験者の優位眼が右眼であることを検査できる。
【0029】
この優位眼検査装置において、第1刺激視標101及び第2刺激視標102は、図3及び図4に示すように、被験者の視点に対して見かけの大きさが同じ表示様式であり、第3刺激視標103は、第1刺激視標101と第2刺激視標102を結ぶ表示様式(補間する表示様式)であることが望ましい(表示様式設定機能)。このとき、図4のように、立体視ディスプレイ1と被験者との距離D、立体視ディスプレイ1上の被験者の視点正面位置から刺激視標の水平中央までの距離X(x1、x2)、刺激視標の水平方向の大きさW(w1、w2)、視角刺激の水平方向範囲θ、被験者の視点から刺激視標の水平中央への角度φ(φ1、φ2)に基づいて、W=D×(tan(φ+θ/2)−tan(φ−θ/2))なる演算を行う。これにより、第1刺激視標101及び第2刺激視標102、第3刺激視標103を他の表示様式とするよりも、第3刺激視標103が第1刺激視標101又は第2刺激視標102から伸びるように錯視させて、短時間且つ簡便に被験者の優位眼を検査できる。
【0030】
なお、制御装置2は、第1刺激視標101及び第2刺激視標102を表示した後から、第3刺激視標103を表示するまでの時間を変更しても良い。すなわち、制御装置2は、第1刺激視標101及び第2刺激視標102と、第3刺激視標103との表示時間間隔を任意に設定できる機能を更に備える。これにより、第1刺激視標101及び第2刺激視標102を表示した後に、任意の時間間隔で第3刺激視標103を表示させることができる。
【0031】
更に、制御装置2は、第1刺激視標101、第2刺激視標102及び第3刺激視標103の見かけの大きさや色、明るさを変更しても良い。これにより、被験者の視覚刺激量を変更して、視覚感度の個人差に対応できる。例えば、第3刺激視標103を表示したときに、第1刺激視標101又は第2刺激視標102の何れかの方向から伸びたのかが認識できない被験者に対しては、第3刺激視標103を表示するまでの時間や、第1刺激視標101、第2刺激視標102及び第3刺激視標103の大きさや色を変更して、より正確に優位眼を検査できる。
【0032】
以上説明したように、本発明を適用した優位眼検査装置によれば、人間の錯視を利用して優位眼を検査できるので、優位眼を短時間且つ簡便に、被験者の優位眼を診断できる。すなわち、錯視を利用して優位眼を検査することによって、脳の反応を直接診断することができる。
【0033】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0034】
1 立体視ディスプレイ
2 制御装置
3 立体視メガネ
4 操作部
101 第1刺激視標
102 第2刺激視標
103 第3刺激視標
110 固視視標
120 衝突点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示範囲内における異なる位置で表示される第1刺激視標及び第2刺激視標と、前記第1刺激視標と第2刺激視標とを結ぶ第3刺激視標と、を表示する表示手段と、
前記第1刺激視標を被験者の一方の眼により視認させ、前記第2刺激視標を被験者の他方の眼により視認させ、前記第3刺激視標を被験者の両眼により視認させる両眼分離手段と、
被験者に操作され、前記第3刺激視標が前記第1刺激視標から第2の刺激視標へ伸びたことを回答する操作、又は、前記第3刺激視標が前記第2刺激視標から第1の刺激視標へ伸びたことを回答する操作が行われる操作手段と、
前記第1刺激視標及び前記第2刺激視標を前記表示手段に表示させた後に、前記第3刺激視標を前記表示手段に表示させる表示制御手段と
を備えることを特徴とする優位眼検査装置。
【請求項2】
前記表示制御手段は、前記第1刺激視標と前記第2刺激視標の表示様式を個別に設定する表示様式設定機能を更に備え、前記表示様式設定機能で設定された前記第1刺激視標と前記第2刺激視標を表示し、更に前記第1刺激視標と前記第2刺激視標の表示様式を補間するように前記第3刺激視標を表示すること
を特徴とする請求項1に記載の優位眼検査装置。
【請求項3】
前記表示制御手段は、前記第1刺激視標及び前記第2刺激視標と、前記第3刺激視標との表示時間間隔を任意に設定できる機能を更に備え、前記第1刺激視標及び前記第2刺激視標を表示した後に、任意の時間間隔で前記第3刺激視標を表示させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の優位眼検査装置。
【請求項4】
前記表示制御手段は、前記第1刺激視標と前記第2刺激視標とを結ぶ中間位置に被験者が固視をする固視視標を表示する機能を更に備え、
前記第1刺激視標と前記第2刺激視標と共に前記固視視標を表示させた後に、前記第3刺激視標を表示させること
を特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の優位眼検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−100756(P2012−100756A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249933(P2010−249933)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)