説明

充填剤入りエラストマーコンパウンド

【課題】ハロブチルエラストマー、無機充填剤及びシリル化添加剤を混合する、充填剤入りハロブチルエラストマーの製造法を提供するとともに、無機充填剤及びシリル化添加剤を含む充填剤入りハロブチルエラストマーも提供する。
【解決手段】ハロブチルエラストマー組成物において、低引火点のシラザン化合物を使用することなく、1つ以上のヒドロキシル基及び塩基性アミン化合物から誘導された1種のシリル化添加剤を、無機充填剤とともに添加混合することで、ハロブチルエラストマーの物性を均衡できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ブロモブチルエラストマー(BIIR)のような充填剤入りハロゲン化ブチルエラストマーに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
カーボンブラックやシリカのような強化性充填剤は、エラストマーコンパウンドの強度及び疲労特性を改良することが知られている。このようなエラストマーと充填剤間には化学的な相互作用が起こることも知られている。例えばカーボンブラックと、ポリブタジエン(BR)及びスチレンブタジエン共重合体(SBR)のような高度に飽和したエラストマーとの間では、これら共重合体に存在する多数の炭素−炭素二重結合により、良好な相互作用が起こる。ブチルエラストマー中の炭素−炭素二重結合は、BR又はSBRの1/10又はそれ以下しか含まれていない可能性があり、しかもブチルエラストマーから作ったコンパウンドは、カーボンブラックと余り相互作用しないことが知られている。例えばカーボンブラックを、BR及びブチルエラストマーの組合せと混合して製造したコンパウンドでは、BRの領域にカーボンブラックの殆どが入り、ブチル領域のカーボンブラック量は非常に少ない。またブチルコンパウンドは、耐摩耗性が悪いことも知られている。
【0003】
カナダ特許出願2,293,149には、ハロブチルエラストマーをシリカ及び特定のシランと組合わせると、特性が向上した充填剤入りブチルエラストマー組成物を製造できることが示されている。このようなシランは、ハロブチルエラストマーと充填剤との分散兼結合剤として作用する。しかし、シランを使用する1つの欠点は、製造工程中及びこうして製造した物品の使用中も可能性があるが、アルコールを生じることである。更に、シランは、得られる製品のコストを著しく上昇させる。
【0004】
同時係属カナダ特許出願2,339,080には、1つ以上の塩基性窒素含有基及び1つ以上のヒドロキシル基を有する特定の有機化合物がハロブチルエラストマーとカーボンブラック及び無機充填剤との相互作用を高めて、引張り強度及び耐摩耗性(DIN)のようなコンパウンド特性を向上することが開示されている。
【0005】
USP 6,706,804は、少なくとも1種のハロブチルエラストマーと、少なくとも1種の無機充填剤と、少なくとも1種のシラザン化合物又はシラザン化合物と1つ以上のヒドロキシル基及び1つ以上の塩基性アミン基含有官能基を有する添加剤との1つ以上の混合物とを添加混合し、次いで得られた充填剤入りハロブチルエラストマー混合物を硬化する、充填剤入りハロブチルエラストマーの製造方法を開示している。
【特許文献1】カナダ特許出願2,293,149
【特許文献2】同時係属カナダ特許出願2,339,080
【特許文献3】USP 6,706,804
【特許文献4】同時係属カナダ特許出願2,279,085
【非特許文献1】J.Org.Chem.1983,47,3966
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の概要
本発明は、少なくとも1種のハロブチルエラストマーと、少なくとも1種の無機充填剤と、1つ以上のヒドロキシル基及び塩基性アミン基含有官能基を有する化合物から誘導された少なくとも1種のシリル化添加剤とを含有する組成物の製造方法を提供する。この添加剤は任意に、第一アルコール基及びアミン基を、分岐していてもよいメチレン橋により分離されて含有してよい。
また本発明は、少なくとも1種のハロブチルエラストマーと、少なくとも1種の無機充填剤と、1つ以上のヒドロキシル基及び塩基性アミン基含有官能基を有する化合物から誘導された少なくとも1種のシリル化添加剤とを含有する充填剤入りハロブチルエラストマー組成物も提供する。
【0007】
シリル化添加剤を適切に選択することにより、低引火点のシラザン化合物を使用することなく、ハロブチルエラストマーの物性を均衡できることが意外にも発見された。
【0008】
したがって、本発明は、ハロブチルエラストマーを、少なくとも1種のシリル化添加剤の存在下で少なくとも1種の無機充填剤と混合する工程を含む方法も提供する。
【0009】
図面の簡単な説明
図1は、充填剤入りハロブチルエラストマーの応力歪についてプロットした図である。
図2は、充填剤入りハロブチルエラストマーのムーニースコーチについてプロットした図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明の詳細な説明
ここで使用する語句“ハロブチルエラストマー”とは、塩素化又は臭素化ブチルエラストマーを言う。臭素化ブチルエラストマーが好ましく、本発明では、このようなブロモブチルエラストマーを一例として説明する。しかし、本発明は塩素化ブチルエラストマーまで拡がるものと理解すべきである。
【0011】
本発明で使用するのに好適なハロブチルエラストマーとしては、限定されるものではないが、臭素化ブチルエラストマーがある。このようなエラストマーは、ブチルゴム(イソオレフィン、通常、イソブチレンと、通常、C〜C共役ジオレフィンであるコモノマー、好ましくはイソプレンとの共重合体)の臭素化により得られ、臭素化イソブテン−イソプレン共重合体(BIIR)であってよい。共役ジオレフィン以外のコモノマーも使用でき、例えばC〜C−アルキル置換スチレンのようなアルキル置換ビニル芳香族コモノマーが挙げられる。市販品として入手できるこの種のエラストマーの一例は、コモノマーがp−メチルスチレンである臭素化イソブチレンメチルスチレン共重合体(BIMS)である。
【0012】
臭素化ブチルエラストマーは、通常、ジオレフィン、好ましくはイソプレンから誘導された繰り返し単位を0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%の範囲及びイソオレフィン、好ましくはイソブチレンから誘導された繰り返し単位を90〜99.9重量%、好ましくは95〜99.5重量%の範囲(重合体の炭化水素含有量に対し)及び臭素を0.1〜9重量%、好ましくは0.75〜2.3重量%、更に好ましくは0.75〜2.3重量%の範囲(ブロモブチル重合体に対し)含有する。通常のブロモブチル重合体の分子量は、DIN 53523(ML 1+8(125℃で))によるムーニー粘度として、25〜60の範囲である。
【0013】
臭素化ブチルエラストマーには、安定剤を添加してよい。好適な安定剤としては、ステアリン酸カルシウム及びエポキシ化大豆油があり、好ましくは、臭素化ブチルゴム100重量部当り0.5〜5部(phr)の範囲で使用される。
【0014】
好適な臭素化ブチルエラストマーの例としては、LANXESS Corporationから市販されているLANXESS Bromobutyl 2030、LANXESS Bromobutyl 2040(BB2040)及びLANXESS Bromobutyl X2がある。BB2040は、ムーニー粘度(ML 1+8@125℃)39±4、臭素含有量2.0±0.3重量%、概略分子量500,000g/モルのものである。
【0015】
本発明方法で使用される臭素化ブチルエラストマーは、臭素化ブチルゴムと共役ジオレフィンベースのポリマーとのグラフト共重合体であってもよい。同時係属カナダ特許出願2,279,085は、固体臭素化ブチルゴムを、若干のC−S−(S)−C(但し、nは1〜7の整数である)結合も有する共役ジオレフィンモノマーをベースとする固体ポリマーと混合することによる、このようなグラフト共重合体の製造方法に向けたものである。混合は、50℃を超える温度でグラフト化を生じるのに十分な時間行う。グラフト共重合体のブロモブチルエラストマーは、前述のエラストマーのいずれでもよい。グラフト共重合体に取り込める共役ジオレフィンは、一般に構造式:
【化1】

を有する。
【0016】
式中、Rは、水素原子又は炭素原子数1〜8のアルキル基であり、R及びR11は、同一でも異なっていてもよく、水素原子及び炭素原子数1〜4のアルキル基から選ばれる。好適な共役ジオレフィンの非限定的な幾つかの例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、4−ブチル−1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,3−オクタジエン、2,3−ジブチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ペンタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン等が挙げられる。炭素原子数4〜8の共役ジオレフィンモノマーが好ましく、1,3−ブタジエン及びイソプレンが更に好ましい。
共役ジエンモノマーベースのポリマーは、ホモポリマーでも、2種以上の共役ジエンモノマーの共重合体でも、或いはビニル芳香族モノマーとの共重合体でもよい。
【0017】
任意に使用できるビニル芳香族モノマーは、使用される共役ジオレフィンモノマーと共重合可能でなければならない。一般に、有機アルカリ金属開始剤で重合することが知られている、いずれのビニル芳香族モノマーも使用できる。このようなビニル芳香族モノマーは、通常、炭素原子数8〜20、好ましくは8〜14の範囲のものである。好適なビニル芳香族モノマーの例としては、スチレン、α−メチルスチレン、及びp−メチルスチレンを含む各種アルキルスチレン、p−メトキシスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−ビニルトルエン等が挙げられる。スチレンは、1,3−ブタジエン単独との共重合用又は1,3−ブタジエン及びイソプレンの両方との三元共重合用に好ましい。
【0018】
本発明ではハロゲン化ブチルエラストマーは、単独で又は以下のような他のエラストマーと組合せて使用してよい。
BR:ポリブタジエン、
ABR:ブタジエン/アクリル酸C〜Cアルキル共重合体
CR:ポリクロロプレン
IR:ポリイソプレン
SBR:スチレン含有量が1〜60重量%、好ましくは20〜50重量%のスチレン/ブタジエン共重合体
IIR:イソブチレン/イソプレン共重合体
NBR:アクリロニトリル含有量が5〜60重量%、好ましくは10〜40重量%のブタジエン/アクリロニトリル共重合体
HNBR:一部又は全部水素化したNBR
EPDM:エチレン/プロピレン/ジエン共重合体
【0019】
本発明の充填剤は、無機粒子で構成される。好適な充填剤としては、シリカ、シリケート、粘土(例えばベントナイト)、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク等、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0020】
好適な充填剤の別の例は、以下のとおりである。
・例えばシリケート溶液の沈殿、又はハロゲン化珪素の火炎加水分解により製造した高分散シリカで、比表面積(BET比表面積)は5〜1000m/g、好ましくは20〜400m/gの範囲、主な粒度は10〜400nmの範囲である。このシリカは、任意に、Al、Mg、Ca、Ba、Zn、Zr及びTiのような他の金属の酸化物との混合酸化物として存在してもよい。
・珪酸アルミニウム、及びアルカリ土類金属シリケートのような合成シリケート。
・BET比表面積が20〜400m/gで、主な粒度が10〜400nmである、珪酸マグネシウム又は珪酸カルシウム。
・カオリン及びその他の天然産シリカのような天然シリケート。
・モンモリロナイト及びその他の天然産粘土のような天然粘土。
・親有機的に変性したモンモリロナイト粘土(例えばSouthern Clay Productsから入手できるCloisite(登録商標)Nanoclays)及びその他の親有機的に変性した天然産粘土のような親有機的に変性した粘土。
・ガラスファイバー及びガラスファイバー製品(マット、押出品)又は微小ガラス球。
・酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化アルミニウムのような金属酸化物。
・炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム及び炭酸亜鉛のような金属炭酸塩。
・金属水酸化物、例えば水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウム又はそれらの組合わせ。
【0021】
これらの無機粒子は、表面にヒドロキシル基を有し、粒子を親水性兼疎油性にするので、充填剤粒子とブチルエラストマーとの相互作用を良好にすることは困難である。多くの目的から、好ましい無機物はシリカ、特に珪酸ナトリウムの二酸化炭素沈澱で製造したシリカである。
【0022】
本発明で使用するのに好適な乾燥非晶質シリカ粒子の平均凝集物粒度は、1〜100μの範囲、好ましくは10〜50μの範囲、更に好ましくは10〜25μの範囲である。凝集物粒子の10容量%未満は、5μ未満か、或いは50μを超える粒度が好ましい。好適な非晶質乾燥シリカは、更に通常、DIN(ドイツ工業規格)66131に従って測定したBET表面積が50〜450m/gの範囲であり、DIN 53601に従って測定したDBP吸収量が、150〜400g/100gシリカの範囲であり、またDIN ISO 787/11に従って測定した乾燥減量が、0〜10重量%の範囲である。好適なシリカ充填剤は、PPG Industries Inc.から商品名HiSil 210、HiSil 233及びHiSil 243で得られる。またBayer AGから市販されているVulkasil S及びVulkasil Nも好適である。
【0023】
無機充填剤は、以下のような公知の非無機充填剤と組合わせて使用できる。
・カーボンブラック。好適なカーボンブラックは、好ましくはランプブラック法、ファーネスブラック法又はガスブラック法で製造され、BET比表面積は20〜200m/gで、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF又はGPFカーボンブラックである。
・ゴムゲル、好ましくはポリブタジエン、ブタジエン/スチレン共重合体、ブタジエン/アクリロニトリル共重合体及びポリクロロプレンをベースとするゴムゲル。
【0024】
非無機充填剤は、通常、本発明のハロブチルエラストマー組成物に充填剤として使用されないが、幾つかの実施態様では40phr以下の量で存在してもよい。無機充填剤は、充填剤全量に対し、好ましくは55重量%以上を構成しなければならない。本発明のハロブチルエラストマー組成物を他のエラストマー組成物とブレンドする場合、他の組成物は、無機及び/又は非無機の充填剤を含有してよい。
【0025】
本発明に従って、シリル化するのに好適で、かつハロブチルエラストマー混合物の物性を高める添加剤は、1つ以上のヒドロキシル基及び塩基性アミン含有官能基を有し、好ましくは、分岐してよいメチレン橋で分離された、第一アルコール及びアミン基も含有する。このような化合物は、一般式HO−A−NH(但し、Aは、線状であっても或いは分岐していてもよいC〜C20アルキレン基である)を有する。
【0026】
更に好ましくは、2官能基とのメチレン基の数は、1〜4の範囲でなければならない。好ましい添加剤の例としては、モノエタノールアミン及びN,N−ジメチルアミノエタノールが挙げられる。
本発明のシリル化ジメチルアミノアルコールは、好ましくは下記式:
【化2】

式中、R、R、R、R及びRは、線状、分岐又は環式のC〜C21アルキル又はアリール基、好ましくはCHである。更にR〜Rはプロトンであってよく、またR、R、R、R及びRは各々、B、Si、N、P、O又はSのようなヘテロ原子を持つことができる。
【0027】
シリル化添加剤は、蛋白質、アスパラギン酸、6−アミノカプロン(caprioc)酸、ジエタノールアミン又はトリエタノールアミンからも誘導できる。本発明のシリル化添加剤は、J.Org.Chem.1983,47,3966に記載されるような公知の合成法で製造できる。
【0028】
本発明のハロブチルエラストマーに取り入れる充填剤の量は広範な限界内で変化できる。充填剤の量は、エラストマー100部当り、通常、20〜250重量部、好ましくは30〜100重量部、更に好ましくは40〜80重量部の範囲である。エラストマー中のシリル化添加剤の使用量は、エラストマー100部当り、通常、0.5〜10重量部、好ましくは1〜3重量部の範囲である。シリル化添加剤は、ハロブチルエラストマーと該シリカ性充填剤との相互作用を高めるため、単独でも或いは当業者に公知の他の添加剤と組合わせても使用できる。
【0029】
更に、エラストマー100部当たりプロセス油が40部以下、好ましくは5〜20部存在してよい。更にまた、潤滑剤、例えばステアリン酸のような脂肪酸が3重量部以下、更に好ましくは2重量部以下の量で存在してよい。
【0030】
ハロブチルエラストマーと、充填剤と、1つ以上のヒドロキシル基及び塩基性アミン含有官能基を有する化合物から誘導されたシリル化添加剤との混合物は、好適には25〜200℃の範囲の温度で、共に混合される。混合温度は60℃より高いことが好ましく、90〜150℃の範囲の温度が好ましい。高温は、硬化を望ましくなく遥かに進行させ、こうして次の処理を妨害する恐れがあるので、混合温度は高すぎないことが好ましく、更に好ましくは150℃を超えない。これら4種の成分を150℃以下の温度で混合した生成物は、良好な応力/歪特性を有すると共に、硬化剤を添加して、加温ミルで更に容易に処理できる。
【0031】
混合時間は、普通は1時間を超えず、2〜30分の時間で、通常、十分である。混合は、好適には2本ロールミル混合機で行い、エラストマー中に充填剤の良好な分散が得られる。また混合は、Banburyミキサーで行ってもよいし、或いはHaake又はBrabenderミニチュア密閉式ミキサーで行ってもよい。押出機も良好に混合でき、混合時間も短くて済むという別の利点もある。混合を異なる装置、例えば1つの段階を密閉式ミキサーで行い、また1つの段階を押出機で行ってもよい。
【0032】
充填剤とハロブチルエラストマーとの相互作用が高まることにより、充填剤入りエラストマーの特性が向上する。このような特性の向上としては、高引張強さ、高耐摩耗性、浸透性の低下及び動的特性の改善が挙げられる。これら特性の向上により、充填剤入りエラストマーは、限定されるものではないが、タイヤのトレッド、タイヤの側壁、内張り、タンクのライニング、ホース、ローラー、コンベアベルト、硬化性ブラダー(bladder)、ガスマスク、医療用包袋、ガスケット等、多数の用途に特に好適である。
【0033】
本発明の充填剤入りハロブチルゴムエラストマー、好ましくは充填剤入りブロモブチルゴム組成物は、多くの用途、好ましくはタイヤスレッド組成物に利用される。タイヤスレッド組成物の重要な特徴は、特に雨天での転がり抵抗が低いこと、良好な牽引力を有すること、及び磨耗に対する抵抗が良好な耐摩耗性を有することである。本発明の組成物は、これらの所望特性を発揮する。牽引力の指標は0℃でのtanδであるが、こうして、0℃でのtanδが高く、これは良好な牽引力と相関する。転がり抵抗は、60℃でのtanδであるが、60℃でのtanδが低く、これは低い転がり抵抗と相関する。転がり抵抗は、タイヤの前進に対する抵抗の尺度であり、燃料消費を低減するには、低い転がり抵抗が望ましい。また60℃での損失弾性率の低い値も、低い転がり抵抗の指標となる。以下の実施例に示すように、本発明の組成物は、0℃でのtanδが高く、60℃でのtanδが低い上、60℃での損失弾性率が低い。
本発明を以下の実施例で更に説明する。例中、部及び%は、特に規定しない限り、全て重量基準である。
【実施例】
【0034】
試験の説明:
硬度及び応力歪特性を、ASTM D−2240の要件に従ってA2型ジュロメーターを用いて測定した。この応力歪データは、ASTM D−412法Aの要件に従って、23℃で得られた。2mm厚の引張りシート(160℃でtc90+5分間硬化)から切断したダイCダンベルを用いた。DIN耐磨耗性を、DIN 53516試験法に従って測定した。DIN耐磨耗性分析用のサンプルボタンを160℃でtc90+10分間硬化させた。ムーニースコーチを、ASTM 1646に従ってAlpha Technologies MV2000を用いて125℃で測定した。Tc90時間を、振動周波数1.7Hz、170℃での弧度(arc)1°で合計運転時間30分間用いる可動ダイ流動計(Moving Die Rheometer)(MDR 2000E)でASTM D−5289に従って測定した。硬化は、Alan−Bradleyプログラマブルコントローラーを備えた電気プレスを用いて行った。H NMRを、テトラメチルシランを参照した化学シフト付きCDCl中でBruker DRX500分光計(500.13MHzH)で記録した。
【0035】
【表1】

【0036】
例1:N,N−ジメチル−N−[(トリメチルシリル)オキシルエチルアミン]
J.Org.Chem.1983,47,3966に報告された方法の変形で例1を製造した。環流冷却器及び窒素ガス導入アダプターを備えた丸底フラスコにサッカリン(0.405g、0.002モル)及びDMAE(50ml、0.498モル)を装入した。次いでこの混合物を撹拌下に110℃に加熱し、HMDZ(70.3ml、0.333モル)を添加した。反応混合物をこの温度で窒素ガスの動的流動下に混合した。4時間後、反応温度を50℃に低下させ、メタノール(2.28ml、0.056モル)を添加した。反応をこの温度で更に2時間行った。次いで、環流冷却器の水の供給を停止し、反応温度を110℃に上昇させた。更に2時間後、実施例1を約25ml単離した。H NMR(500MHz、CDCl):δ0.1(s,9H,−Si(CH)、2.24(s,6H,(CHN−)、2.42(t,2H,−NCHCHO−)、3.65(t,2H,−NCHCHO−)ppm。
【0037】
例2〜4
噛み合い式ローターを備えた75g Brabender密閉型ミキサーを用い、第1表に示す配合に従ってこれらの例を製造した。Mokon温度は、まず60℃で安定化させた。70rpmにセットしたローター速度で、成分1A、1Bをミキサーに導入した。2分後、成分1Cをミキサーに加えた。3分後及び4分後、清掃を行った。合計混合時間5分後、コンパウンドを降ろした(dump)。次いで硬化剤2AをRT2本ロールミル上で加えた。
【0038】
【表2】

【0039】
先の研究から、DMAEのようなアミノアルコールを添加すると、BIIRとシリカとを効果的に相溶させ、良好な物性を有するBIIR−シリカコンパウンドが製造できることが判った(カナダ特許出願2,339,080)。しかし、DMAEを単独で使用すると、得られる配合物の全体の加工性を損なう。BIIR含有シリカトレッドコンパウンドのスコーチ安全性に対するHMDZ(USP 6,706,804)の正の効果を証明するため、将来の研究を行った。これらのコンパウンドについて測定したスコーチ安全性は合格したが、HMDZの低揮発性代替物を確認する実際の必要性が残った。特に、極めて低い引火点(約8℃)と平行したHMDZの低揮発性により、この改質剤の工業分野(arena)内での使用が妨げられる恐れがある。この点を認めて、シリカ充填BIIRコンパウンドにおいて、DMAE及びHMDZの代替物としてシリル化DMAE(例1)を研究した。例2〜4(第2表、図1、2参照)から判るように、BIIR−シリカ配合物に例1を使用して、特性処理した生コンパウンド及び加硫物(例4)を作った。例4の特性は、DMAE及びHMDZを使用したBIIR−シリカコンパウンド(例3)の特性と同等又は僅かに良好であった。特に、図1に示す応力歪データは、例3、4が同様なレベルの強化性(reinforcement)(応力歪のプロット傾斜で証明される)を備えていることを示唆している。重要なことは、例3、4とも例2と比較して、著しく向上したレベルの強化性を示していることである。図2から判るように、例3、4は、例2よりもコンパウンドの粘度が低い。この観察は、加工特性向上の指標となる。例4の物性がHMDZを使用しないで得られることは、著しい技術的実用的利点を表す。
【0040】
【表3】

【0041】
以上に本発明を詳細に説明したが、これらの詳細は、単に説明の目的のためであり、当業者ならば、特許請求の範囲で限定される可能性を除いて、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、各種の変化が行なえることは理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例で製造した充填剤入りハロブチルエラストマーの応力歪についてプロットした図である。
【図2】実施例で製造した充填剤入りハロブチルエラストマーのムーニースコーチについてプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のハロブチルエラストマーと、(b)少なくとも1種の無機充填剤と、(c)1つ以上のヒドロキシル基及び塩基性アミン含有官能基を有する化合物から誘導された少なくとも1種のシリル化添加剤とを添加混合し、次いで得られた充填剤入りハロブチルエラストマー混合物を硬化することを特徴とする充填剤入りハロブチルエラストマーの製造方法。
【請求項2】
ハロブチルエラストマーがブロモブチルエラストマー又はクロロブチルエラストマーである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
添加剤が一般式
【化1】


(式中、R、R、R、R及びRは、線状、分岐又は環式のC〜C21アルキル又はアリール基である)
である請求項2に記載の方法。
【請求項4】
〜Rはプロトンであってよく、かつ任意にB、Si、N、P、O及びSよりなる群から選ばれたヘテロ原子を有する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
無機充填剤が、シリカ、シリケート、粘土、石膏、アルミナ、二酸化チタン、タルク又はそれらの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
シリル化添加剤が、エラストマー100部当たり0.5〜10部の範囲で添加混合される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
充填剤の量が、エラストマー100部当たり20〜250重量部の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項8】
充填剤の量が、エラストマー100部当たり30〜100重量部の範囲である請求項7に記載の方法。
【請求項9】
充填剤の量が、エラストマー100部当たり40〜80重量部の範囲である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種のハロブチルエラストマーが、ハロゲン化ブチルエラストマーと別のエラストマーとの混合物である請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種のハロブチルエラストマーと、少なくとも1種の無機充填剤と、1つ以上のヒドロキシル基及び1つ以上の塩基性アミン基含有官能基を有する化合物から誘導された少なくとも1種のシリル化添加剤とを含有する充填剤入りハロブチルエラストマー組成物。
【請求項12】
少なくとも1種のハロブチルエラストマーと、少なくとも1種の無機充填剤と、1つ以上のヒドロキシル基及び1つ以上の塩基性アミン基含有官能基を有する化合物から誘導された少なくとも1種のシリル化添加剤とを含有する充填剤入り硬化ハロブチルエラストマー組成物。
【請求項13】
充填剤入り硬化ハロブチルエラストマーがタイヤトレッドである請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
充填剤入り硬化ハロブチルエラストマーが自動車タイヤ用の内張りである請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
充填剤入り硬化ハロブチルエラストマーが自動車タイヤ用の側壁である請求項12に記載の組成物。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−126658(P2007−126658A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−294632(P2006−294632)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(506183100)ランクセス・インク. (13)
【Fターム(参考)】