説明

充電制御システム

【課題】電池のサイクル特性の向上が図ることができる充電制御システムの提供。
【解決手段】充電制御システム201は、リチウムイオン二次電池204を充電終止電圧まで充電する充放電制御回路203と、充放電制御回路203による充電によりリチウムイオン二次電池204の電池電圧が充電終止電圧V0となったときに、リチウムイオン二次電池204の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件を満足しているか否かを判定する演算処理部205と、演算処理部205によりリチウムイオン二次電池204の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件を満足していると判定されると、充電終止電圧をより高電圧の充電終止電圧に変更する充電終止電圧補正部202と、を備えている。充電終止電圧補正部202により充電終止電圧が変更されると、充放電制御回路203は、電池電圧が変更後の充電終止電圧となるまでリチウムイオン二次電池の充電をさらに行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の充電を行う充電制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有するため、例えば鉄道、自動車等の車両搭載用、若しくは太陽光発電又は風力発電等で発電した電力を蓄え、電力系統に供給する用途等に用いられる電池として注目されている。例えば、リチウムイオン二次電池(以下、適宜「電池」と言う。)を自動車に搭載して用いる場合、このような自動車としては、エンジンを搭載しないゼロエミッション電気自動車、エンジンと二次電池の両方を搭載したハイブリッド電気自動車、さらには系統電源から直接充電させるプラグイン・ハイブリッド電気自動車等がある。また、電力系統が遮断された非常時に電力を供給する定置式電力貯蔵システムとしての用途も期待されている。
【0003】
このような多様な用途に対し、電池に対して優れた耐久性が要求されている。例えば、環境温度が高くなったり充放電サイクルを繰り返したりしても、充電可能な電池容量(即ち電池容量)の減少率が低く、長期にわたって電池容量維持率が高いことが要求されている。また、路面からの輻射熱あるいは車内からの熱伝導により、例えば60℃以上の高温環境における保存特性及びサイクル寿命が、重要な要求性能となっている。
【0004】
しかしながら、リチウムイオン二次電池は、高温環境下にて放置したり、充放電サイクルを行ったりすることで、電池容量の低下が起こる。この容量低下は、高電圧で放置したり広い電圧範囲でサイクルを行ったりした場合により顕著となる。
【0005】
このような電池容量の低下を抑制する方法として、例えば、電池が劣化しても電池容量が一定になるように電圧の駆動範囲を広げる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−214469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したように電圧の駆動範囲を広げる方法では、電池の充放電電圧が過度に広範囲となるため、負極にリチウム金属が析出することや、電池の内部抵抗が過度に増加する可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係る充電制御システムは、リチウムイオン二次電池を充電終止電圧まで充電する充電制御部と、充電制御部による充電により前記リチウムイオン二次電池の電池電圧が充電終止電圧となったときに、リチウムイオン二次電池の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件を満足しているか否かを判定する判定部と、判定部によりリチウムイオン二次電池の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件を満足していると判定されると、充電終止電圧をより高電圧の充電終止電圧に変更する充電終止電圧変更部と、を備え、充電終止電圧変更部により充電終止電圧が変更されると、充電制御部は、電池電圧が変更後の充電終止電圧となるまでリチウムイオン二次電池の充電をさらに行うことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の充電制御システムにおいて、充電終止電圧変更条件は、判定時におけるリチウムイオン二次電池の負極の電位が該電位の下限値よりも高いことを、変更条件として含むことを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の充電制御システムにおいて、充電終止電圧変更条件は、判定時におけるリチウムイオン二次電池の正極の電位が該電位の許容上限値未満であることを、変更条件として含むことを特徴とする。
請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、充電終止電圧変更条件は、判定時におけるリチウムイオン二次電池の充電容量と初期電池容量との比が所定値以下であることを、変更条件として含むことを特徴とする。
請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、充電終止電圧変更条件は、リチウムイオン二次電池の使用経過時間を、変更条件として含むことを特徴とする。
請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、充電終止電圧変更部は、充電終止電圧変更条件の判定の際の正極または負極の電位とそれらの許容電位とに基づいて、充電終止電圧を変更することを特徴とする。
請求項7の発明は、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、充電終止電圧変更部は、充電終止電圧を予め設定された所定電圧だけ高い充電終止電圧に変更し、該終止電圧の変更後に判定部による判定を再び行わせる充電終止電圧変更制御部をさらに備えたことを特徴とする。
請求項8の発明は、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、充電終止電圧が初期値の際の正極電位を、リチウムイオン二次電池の正極の電位が該電位の許容上限値よりも低くなるように設定したことを特徴とする。
請求項9の発明は、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、リチウムイオン二次電池の正極が、次式(1)で表されるリチウム複合酸化物を含むことを特徴とする。
LiNiMnCo ・・・(1)
なお、式(1)において、Mは、Fe,V,Ti,Cu,Al,Sn,Zn,Mg,B,Wからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、a,b,c及びdは、それぞれ、0.2≦a≦0.8,0.1≦b≦0.4,0≦c≦0.4,0≦d≦0.1を満たす値であって、かつ、a+b+c+d=1を満たす関係にある。
請求項10の発明は、請求項9に記載の充電制御システムにおいて、最初に充電終止電圧まで充電した時の該正極電位が、3.8V以上4.1V以下に設定されていることを特徴とする。
請求項11の発明は、請求項9または10に記載の充電制御システムにおいて、変更後の正極電位が3.9V以上4.3V以下に収まるように設定されていることを特徴とする。
請求項12の発明は、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、リチウムイオン二次電池の負極が黒鉛を含み、該黒鉛の黒鉛層間距離が0.335nm以上0.338nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電池の内部抵抗の増加を抑えつつ電池容量の低下が抑制でき、電池のサイクル特性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る充電制御システムの構成を表す回路図である。
【図2】正負極の容量と電位との関係、および電池容量と電池電圧との関係を示す図である。
【図3】図2における負極電位曲線102,105の電位がα近傍となる部分を拡大して示した模式図である。
【図4】充電方法を示すフローチャートである。
【図5】充電終止電圧をωずつ増加した場合を説明する図である。
【図6】リチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示した図である。
【図7】実施例1および比較例1〜3の評価結果を示す図である。
【図8】本実施の形態の充電制御システムが適用可能な電源装置の一例を示す図であり、ハイブリッド自動車の駆動システムを示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態(以下、適宜「本実施形態」と言う。)を詳細に説明するが、本実施形態は以下の内容に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で任意に変更して実施することができる。
【0012】
[充電制御システムの構成]
図1は、本実施形態に係る充電制御システムの構成を表す回路図である。本実施形態に係る充電制御システム201は、正極及び負極を有するリチウムイオン二次電池204(以下では、電池と称する)の充電を制御するものであり、充電終止電圧補正部202を有する演算処理部205、充放電制御回路203、電流測定部208および電圧測定部209を備えている。電池204には、スイッチ210aを介して外部負荷206が接続され、スイッチ210bを介して電池204を充電するための充電用電源207が接続される。なお、電池204は、1つの電池からなる単電池であってもよく、2つ以上の電池が任意に組み合わされた組電池であってもよい。
【0013】
充放電制御回路203は、演算処理部205に指令に基づいて電池204の充放電を制御する。放電された電池204の充電を行う場合、充放電制御回路203は、充電開始後の電池204の電池電圧が所定の充電終止電圧となるまで電池204の充電を行う。充電終止電圧は予めV0に設定されているが、後述するように、充電終止電圧補正部202によって補正充電終止電圧V1に変更される。充電終止電圧がV0から補正充電終止電圧V1に変更されると、充放電制御回路203は、充電終止電圧V0から補正充電終止電圧V1までさらに充電を行う。
【0014】
電流測定部208および電圧測定部209で測定された電池204の電流、電池電圧の情報は、演算処理部205に入力される。演算処理部205は、電池204の電池電圧、電流、充電時間、休止時間(スタンバイ時間)、不使用時間等をそれぞれ計測して積算し、積算時間に応じた演算、処理等を行う。演算処理部205は、これらの演算、処理等の結果に基づいて、電池204の充放電制御パラメータ(例えば、放電若しくは充電時間、放電若しくは充電電圧、放電若しくは充電電流等)を決定し、当該充放電制御パラメータを充放電制御回路203に送信することにより、充放電制御回路203による電池204の充電を制御する。
【0015】
放電時には、演算処理部205は、電池204の充電電圧及び充電電流が所望のものとなるような制御パラメータを充放電制御回路203に送信するとともに、スイッチ210aを閉じる信号およびスイッチ210bを開ける信号を各スイッチ210a,210bに送信する。その結果、電池204と外部負荷206とが電気的に導通され、電池204の放電が可能な状態とされる。
【0016】
逆に、充電時には、演算処理部205は、充電電圧及び充電電流が所望のものとなるような制御パラメータを充放電制御回路203に送信するとともに、スイッチ210aを開ける信号およびスイッチ210bを閉じる信号を各スイッチに送信する。その結果、電池204と充電用電源207とが電気的に導通され、電池204による充電が可能な状態とされる。
【0017】
充電終止電圧補正部202では、電池204の正極及び負極の電位が測定される。電位の測定方法に制限は無いが、例えば、電池204の電池電圧値及び流れている電流値、並びに必要に応じて温度等を用いて測定することができる。例えば、予め充電終止電圧補正部202に記憶されている正極及び負極の充放電曲線並びに電池電圧曲線の電圧変化を用いて算出する。
【0018】
また、リチウム金属等を電池204に予め組み込んでおき、当該リチウム金属等と各電極との電位の差分を用いることにより算出しても良い。ただし、この場合には電池204の構造を変更する必要があるので、一般的な電池を電池204として用いることができるという観点から、上述した電位測定方法の方が好ましい。
【0019】
正極及び負極の充放電曲線並びに電池電圧曲線の電圧変化を用いる電位測定方法の場合、例えば予め測定され記憶されている正極及び負極の固有の単極曲線(各充放電曲線)と、実測値として、電池204の充電もしくは放電時の電池電圧曲線より、電位を算出する事が出来る。その際、充放電曲線から得られる電圧変化率=(電位変化ΔV)/(電池容量変化ΔQ)を用いる事で電位の精度を向上する事が出来る。ここで、電池容量変化ΔQの積算値は、電池204に流れる電流値と時間(=測定周期)との積として計算される。電池容量変化ΔQを測定する装置は、例えば公知の任意の電子素子を用いることができる。なお、より詳細な方法は、例えば特開2009−80093号公報等に記載されている。
【0020】
また、図示していないが、電池204の温度を計測する温度計測手段、例えば熱電対、サーミスタ等、を設けても良い。演算処理部205は、温度計測手段で計測した温度を取得することにより、電池204の充電を温度に応じて制御することができ、より正確な充電制御が可能となる。
【0021】
さらに、測定された各種情報を記録するための記録部(図示しない。)を設けても良い。このような記録部の具体的な構成に特に制限は無く、例えばフロッピー(登録商標)ディスク(FD)、ハードディスクドライブ(HDD)等の磁気記録媒体;ランダムアクセスメモリ(RAM)、フラッシュメモリ(USBメモリ等)等の半導体媒体;コンパクトディスク(CD−R、CD−RW等)、デジタルバーサタイルディスク(DVD−R、DVD+R、DVD+RW、DVD−RW、DVD−RAM等)、HD−DVD、ブルーレイディスク等の光記録媒体;等を用いることができる。
【0022】
電池204等の二次電池を充電する場合には、充電電圧を寿命特性が低下しない程度の電圧に抑える必要があり、その上限電圧が上述した充電終止電圧である。この充電終止電圧は、二次電池の種類によって異なる。なお、電池容量は、充電終止電圧から放電終止電圧まで放電する間に取り出すことのできる電気量(Ah)で表される。本実施の形態では、充電終止電圧補正部202により、電池204の充電終止電圧V0を補正充電終止電圧V1に変更(即ち補正)するものであるが、次に、充電終止電圧V0が補正充電終止電圧V1に変更される意義について説明する。
【0023】
図2は、電池204に関して、正負極の容量と電位との関係、および電池容量と電池電圧との関係を表したグラフである。図2に示すグラフにおいて、横軸は電池容量(Ah)、縦軸は電位((V)または電圧値(V)を表している。なお、縦軸は、電流が0のときの電位である。曲線101,102,103は電池204が劣化していない初期状態のときの曲線であり、曲線101は電池の正極電位曲線を、曲線102は負極電位曲線を、曲線103は電池電圧曲線をそれぞれ示している。
【0024】
なお、本実施形態では、正極の「電位」と負極の「電位」との差を、電池の「電圧」と規定するものとする。図2では、横軸に関して同一位置における正極電位と負極電位との差が電池電圧曲線103の電圧値となるように、電位曲線101,102が記載されている。また、本実施の形態における電極の電位はLi金属基準での値とする。α、β及びγについては後述する。
【0025】
正極電位曲線101は正極の容量と電位との関係を示したものであり、電池204を充電状態から放電すると、容量の減少と共に正極に電位が減少する。減少の傾向は全体的にほぼ直線状であるが、容量ゼロの付近では減少の程度が大きくなっている。一方、負極電位曲線102の場合には、放電による容量の減少と共に負極の電位がほぼ直線状に増加し、容量ゼロ付近で電位が急激に上昇する。
【0026】
図2に示すように、正極電位と負極電位との差を示す電池電圧曲線103は、電池容量が減少すると電圧値が減少する。図2では、電圧値がV2以上V0以下の範囲の電池電圧曲線を示している。なお、電池204は図2に示す範囲外(V2未満およびV0以上の電圧値)で使用することも可能であるが、所定電圧範囲においては電池劣化や寿命低下を招きやすいので、それらを考慮してV0、V2が設定されている。このV0が充電停止電圧であり、V2が放電停止電圧である。
【0027】
図2の電位曲線101,102は初期状態(劣化がない状態)の電位曲線を示したものであるが、実際には、電池の初回の充放電サイクル時に不可逆容量が発生するため、正極電位曲線101及び負極電位曲線102の位置がずれる場合がある。しかし、ここでは、説明の便宜上、不可逆容量が正極及び負極とで一定であるものとし、初期状態の正極電位曲線101及び負極電位曲線102は、それらの位置がずれていないとして扱う。
【0028】
ところで、リチウムイオン二次電池に関して、充放電サイクルを繰り返すことにより、特に高温時に繰り返しにより、電池容量が低下するという現象が生じることが知られている。このような電池容量低下に関して、本発明者らの検討によると、主に次の2点が原因であることがわかった。
(a)リチウムイオンが不活性化し、電池の正極及び負極の電位範囲がずれることによる電池容量低下。
(b)正極及び負極の充放電に寄与する電極材料(例えば正極活物質、負極活物質等)が減少することによる電池容量の低下。
また、高充電状態時の充電容量減少の原因は負極由来であることもわかった。
【0029】
上記(b)の現象では、充放電に寄与する電極材料の量が変化するため、正極もしくは負極の電位曲線の長さが短くなる。
【0030】
一方、上記(a)の現象(リチウムイオンの不活性化)では、充放電に寄与する電極材料の量が変化しないため、正極および負極の電位曲線の位置がずれるだけで、正極および負極の電位曲線の長さが変化することはない。
【0031】
また、このようなリチウムイオンの不活性化は、主に充電深度が大きい高充電状態時の正負極で起きることがわかった。そのため、満充電時の正極および負極の電位は、適切な範囲で管理を行う必要がある。なお、本実施形態において「充電深度」とは、電池の定格容量(即ち、満充電時の電池容量)に対して、充電容量を割合で示した値を表すものとする。
【0032】
更に、特に負極側でリチウムイオンの不活性化が起こりやすいこともわかった。そのため、負極に吸蔵されたリチウムイオンが例えば非水電解液の分解物等と反応して不活性化し、正極及び負極の電位範囲が狭いものとなる。そして、このような反応は主に還元反応であるため、高充電状態時においては、その反応がより大きなものになる傾向がある。本実施の形態では、このような現象を「負極の容量ずれ」と呼び、以下では、負極の容量ずれに起因する電池容量低下への対策について説明する。
【0033】
上述したように、満充電時の正極および負極の電位は適切な範囲で管理を行う必要があるが、本実施の形態の電池204では、正極電位をγ以下となるように管理し、負極電位をα以上となるように管理する。そして、電池電圧が充電終止電圧V0の時の負極の電位がαとなると共に、そのときの正極の電位がγより低くなるように、充電終止電圧V0、正極および負極の活物質塗布量を設定している。
【0034】
しかしながら、初期状態が曲線101〜103で示されるような電池204が、上述した負極の容量ずれにより劣化した場合には、劣化後の負極電位曲線は符号105で表される曲線となり、電池電圧は符号106で表される曲線になる。また、曲線104は電池劣化後の正極電位曲線を示している。
【0035】
負極電位曲線105は、初期状態の負極電位曲線102に対して、リチウムイオンの不活性化に相当する容量分だけ図示右方向にずれている。そのため、放電により負極の容量が小さくなると、初期状態の負極電位曲線102よりも劣化後の負極電位曲線105の方が早期に電位が上昇し、劣化後の電池電圧曲線106は初期状態の電池電圧曲線103よりも早く放電終止電圧V2に達することになる。その結果、充電終止電圧V0から放電停止電圧V2までの電池容量は、初期状態ではA0であるが、負極の容量ずれによる劣化後はA1(<A0)へと減少する。このように、負極の容量ずれによって、電池204の電池容量が減少するという問題が生じる。
【0036】
図3は、図2において、負極電位曲線102,105の電位がα近傍となる部分を拡大して示した模式図である。容量ずれが生じる前は、負極の利用領域がα以上となるように設定されている。しかし、負極の容量ずれが生じると、図3から分かるように、充電終始時の負極電位はα+ΔVとなって電位αまで利用されないことになり、負極の利用領域が減少することになる。そこで、本実施の形態では、電池の劣化(負極の容量ずれ)が生じて電池電圧が曲線106で示すようになった場合に、充電終止電圧V0を補正充電終止電圧V1に変更することにより、本来、負極の利用可能な電位であるαとなるまで、充電を行わせることが可能となる。その結果、電池204が劣化(負極の容量ずれ)した場合であっても、充電容量の減少を抑制することができる。
【0037】
上述した充電終始電圧の変更は、電池204の正極及び負極の電位差(即ち図1に示す電圧測定部209により測定される電池電圧)が電池204の充電終止電圧V0となった時点で、充電終止電圧補正部202によって行われる。この充電終止電圧補正部202による充電終止電圧V0の変更は、後述する所定の充電終止電圧変更条件が満たされている場合に行われる。
【0038】
充電終止電圧変更条件は負極の容量ずれの指標となるものであり、例えば、直接もしくは間接的に推測される正極および負極の電位であったり、電池204の充放電サイクル数や経過時間とその時の雰囲気温度、電池の劣化度等から推定される容量ずれの量であったりするが、これらに制限されるものではない。
【0039】
また、充電終止電圧変更条件に、負極の電位が図2に示したα以上であることを含むのが特に好ましい。負極の電位に基づいて充電終止電圧を補正することにより、簡便に電池容量の減少を抑制することができる。
【0040】
図2に示した値αは、これ以下の電位で負極を用いると電池劣化が急激に起こってしまう閾値である。この値は、ユーザが任意に決定できるパラメータであって特に制限されず、例えば、電池容量、電池の寿命、電解液溶媒もしくはリチウム塩、電池の劣化度、正極及び負極の材料等に応じて決定すればよい。ただし、αは負極電位での容量ずれの起こりやすさより設定することが好ましい。
【0041】
さらにまた、充電終止電圧変更条件として、電池204の正極の電位が図2に示した所定値γ以下であることを含むのが好ましい。図2に示したγは、正極の電位としてこれ以上の値を用いると電池劣化が大きくなってしまうという上限電位である。この値γはユーザが任意に決定できるパラメータであって特に制限されず、例えば、電池容量、電池の寿命、電解液溶媒もしくはリチウム塩、電池の劣化度、正極及び負極の材料等に応じて決定すればよい。ただし、γは正極電位での容量ずれの起こりやすさより設定することが好ましい。
【0042】
充電終止電圧V0での正極電位および負極電位の設定方法も、ユーザが任意の決定できるパラメータであって特に制限されず、例えば電池容量、電池出力、電池の寿命、電池の劣化度、正極及び負極の材料や組み合わせ等に応じて決定すればよい。但し、正負極の容量ずれを補正するためには、正極の電位をγより低い値に設定し、負極の電位をαより高い値に設定する必要がある。どれくらい差をつけるかは、ユーザが任意の決定できるパラメータであって特に制限されず、例えば電池容量、電池出力、電池の寿命、電池の劣化度、正極及び負極の材料や組み合わせ等に応じて決定すればよい。この場合、V0時の正極電位をγより低くすればするほど容量ずれ時に再充電が可能になる一方で、初期電池容量は低下してしまうことを考慮すべきである。なお、図2では初期充電負極電位とαは一致させているが、その限りではない。
【0043】
図2において、補正充電終止電圧V1は、充電終止電圧V0にβを加算したもの、即ちV1=V0+βを満たす値である。管理値βの値もユーザが任意に決定できるパラメータであって特に制限されず、上記管理値αと同様に、例えば電池容量、電池の寿命、電解液溶媒もしくはリチウム塩、電池の劣化度、正極及び負極の材料や組み合わせ等に応じて決定すれば良い。例えば、曲線101,102,104,105、管理値α、および充電終止電圧V0となったときの負極電位が分かれば、それらからβ、V1を推定することができる。例えば、充電終止電圧V0となったときの負極電位から図3のΔVを算出し、そのΔVの大きさから負極電位が管理値αとなるまでの充電容量を推定し、推定されたΔVからさらに電池電圧の上昇βを推定する。
【0044】
[充電制御システムにおける充電制御方法]
次に、図4のフローチャートを参照して、上述した充電制御システムにおける充電方法について説明する。図4に示す処理は演算処理部205により行われる。ステップS101では充電開始を指令する充電トリガを受信したか否かを判定し、受信したと判定するとステップS102へ進む。この充電トリガに特に制限は無いが、外部電源(図1の充電用電源207)より電気が供給された時などに発せられるものである。ステップS102では、演算処理部205は、充放電制御回路203に対して、電池204の充電を行うための充電指令信号を送信する。なお、上記充電トリガは、演算処理部205ではなく、直接充放電制御回路203に送信される構成とし、演算処理部205を介することなく充電が開始されるようにしてもよい。
【0045】
電池204の充電が開始されたならば、ステップS103において、充電終止電圧補正部202による電池204の正極及び負極の電位測定を行わせ、測定された電位を演算処理部205や充電終止電圧補正部202に設けられた記憶部(不図示)に記憶する。この電位測定は、所定のタイミングで繰り返し行われる。電位測定タイミングには特に制限は無いが、測定の時間間隔が長すぎる場合、電池204の電池電圧が充電終止電圧V0に到達し、充電が停止した後の無駄時間が多くなる可能性がある。また、測定の時間間隔が短すぎる場合、過度に測定を行うために充電終止電圧補正部202の負荷が過度なものとなる可能性がある。
【0046】
ステップS104では、電圧測定部209で測定した電池204の電池電圧が充電終止電圧V0となったか否かを判定する。なお、ここでは、電池電圧が充電終止電圧V0となったか否かを判定を電圧測定部209で行うようにしたが、充電終止電圧補正部202で行うようにしても良い。ステップS104でYESと判定されると、ステップS105において、改めて電池204の正極電位Vpおよび負極電位Vnを測定する。ステップS106では、ステップS105で測定された負極電位Vnが予め設定された管理値αより大きいか否かを判定する。
【0047】
ステップS106でVn>αと判定されるとステップS107へ進み、Vn≦αと判定されるとステップS109へ進む。ステップS106でVn≦αと判定された場合、充電を継続すると電池劣化等が顕著になるので、ステップS109において充電停止信号を充放電制御回路203に送信する。その結果、電池204の充電が停止される。
【0048】
ステップS106でVn>αと判定されてステップS107へ進んだ場合、ステップS107において、正極電位Vpが予め定められた管理値γ未満(即ちVp<γ)であるか否かを判定する。ステップS107でVp≧γと判定された場合、充電を継続すると電池劣化等が顕著になるので、ステップS109に進んで充電停止信号を充放電制御回路203に送信する。その結果、電池204の充電が停止される。
【0049】
一方、ステップS107でVp<γと判定された場合、負極電位Vnが管理値αより大きく、かつ、正極電位Vpが管理値γよりも小さいので、電池204はさらに充電が可能な状態にある。よって、この場合には、ステップS107からステップS108へ進み、充電終止電圧補正部202により充電終止電圧の補正を行わせ、その後、ステップS104へ戻る。ステップS108において、現時点の充電終止電圧V0は充電終止電圧補正部202によりV0+ωへと補正されるので、充電はさらに継続されることになる。そして、再びステップS104において電池電圧が設定されている充電終止電圧V0(=初期V0+ω)に達すると、ステップS105以下の処理が再び実行される。
【0050】
すなわち、負極電位が管理値α以下となるか、または、正極電位が管理値γ以上となるまで、ステップS104からステップS108までの処理は繰り返され、その繰り返しの度に、充電終止電圧がωずつ増加される。そして、Vn≦αまたはVp≧γのいずれかが満足されると、電池204の充電動作は終了する。充電終止電圧を補正する際の刻み幅ωは、通常0.1mV以上100mV以下の範囲内で設定するのが好ましい。
【0051】
図5は、図4のフローチャートのように充電終止電圧をωずつ増加した場合を説明する図である。図5では、ステップS108の処理を2回行った時点で、すなわち充電終止電圧の2回目の増加を行って電池電圧A0+2ωまで充電をした時点で、負極の電位が管理値α以下となり、充電が終了する。その結果、初期の充電終止電圧V0で充電を終了する場合に比べて、電池容量はΔA=A2−A1だけ増加することになる。また、このように負極および正極の電位が管理範囲内にあることを確認しながら小刻みに充電終止電圧を変更することにより、充電終了時の正極および負極の電位が管理範囲外に大きくずれるのを防止できる。そのため、リチウムイオン二次電池204の内部抵抗の増加を抑制しつつ、電池容量の減少を抑制する等の特に高温時のサイクル特性の向上を可能にした充電制御システムを提供することができる。
【0052】
なお、図4に示すフローチャートにおいては、正極電位を用いて放電終止電圧V0を変更するか否かを決定したが、正極および負極の電位に変えて電池の劣化度や材料や経過時間およびその時の電圧や温度を判断基準として用いて、補正充電終止電圧V1に変更するか否かを決定してもよい。これらの方法を用いる場合、容量ずれ分を予め検討しておく必要がある。例えば、電池の劣化度を用いる場合、予め電池の容量低下のうち容量ずれの占める割合を検討の上、容量減少分の何割かを充電電圧を補正することで変更するのが好ましい。
【0053】
上記説明では、図1に示すように充電制御システム201が演算処理部205を有するものとして説明した。しかし、演算処理部205の機能を充放電制御回路203若しくは充電終止電圧補正部202が有することにより、演算処理部205を設けない構成としてもよい。
【0054】
なお、図2において説明の便宜上正極および負極の電位曲線の長さを固定して、上記の説明を行ったが、実際には、電池が有する正極及び負極の充放電に寄与する電極材料の減少、正極及び負極における副反応等も起こりうる。従って、正極電位曲線101も変化するため、単に充電容量を一定にするような方法を適用した場合、正極利用領域としてγ以上の領域も充放電時に使用されるため、電池の高温サイクル特性が低下してしまう。
【0055】
[リチウムイオン二次電池の構成]
本実施形態に係る充電制御システムは、公知の任意のリチウムイオン二次電池に適用可能である。ここでは、図6を参照しながら、リチウムイオン二次電池の一実施の形態について説明する。もちろん、以下に説明する構成はあくまでも一例であって、本実施形態に係る充電制御システムが適用されるリチウムイオン二次電池は、図6に記載の構造に限定されるものではない。
【0056】
図6は、リチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示した図である。図6に示す本実施形態に係る電池204は、正極10、セパレータ11、負極12、電池容器(即ち電池缶)13、正極集電タブ14、負極集電タブ15、内蓋16、内圧開放弁17、ガスケット18、正温度係数(Positive temperature coefficient;PTC)抵抗素子19、及び電池蓋20、軸心21から構成される。電池蓋20は、内蓋16、内圧開放弁17、ガスケット18、及びPTC抵抗素子19からなる一体化部品である。また、軸心21には、正極10、セパレータ11及び負極12が捲回されている。
【0057】
正極10は、正極活物質、導電剤、バインダ、及び集電体から構成される。正極活物質を例示すると、LiCoO、LiNiO、及びLiMn4が代表例である。他に、LiMnO、LiMn、LiMnO、LiMn12、LiMn2−X(ただし、M=Co,Ni,Fe,Cr,Zn,Tiからなる群から選ばれる少なくとも1種、x=0.01〜0.2)、LiMnMO(ただし、M=Fe,Co,Ni,Cu,Znからなる群から選ばれる少なくとも1種)、Li1−XMn(ただし、A=Mg,B,Al,Fe,Co,Ni,Cr,Zn,Caからなる群から選ばれる少なくとも1種、x=0.01〜0.1)、LiNi1−X(ただし、M=Co,Fe,Gaからなる群から選ばれる少なくとも1種、x=0.01〜0.2)、LiFeO、Fe(SO、LiCo1−X(ただし、M=Ni,Fe,Mnからなる群から選ばれる少なくとも1種、x=0.01〜0.2)、LiNi1−xMxO2(ただし、M=Mn,Fe,Co,Al,Ga,Ca,Mgからなる群から選ばれる少なくとも1種、x=0.01〜0.2)、Fe(MoO、FeF、LiFePO、及びLiMnPO等を列挙することができる。
【0058】
正極活物質の粒径は、正極活物質、導電剤、及びバインダから形成される合剤層の厚さ以下になるように通常は規定される。正極活物質の粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級や風流分級等により粗粒を除去し、合剤層厚さ以下の粒子を作製することが好ましい。
【0059】
また、正極活物質は、一般に酸化物系であるために電気抵抗が高いので、電気伝導性を補うための炭素粉末からなる導電剤を利用する。正極活物質及び導電剤はともに通常は粉末であるので、粉末にバインダを混合して、粉末同士を結合させると同時に集電体へ接着させることができる。
【0060】
正極10の集電体には、厚さが10〜100μmのアルミニウム箔、厚さが10〜100μmで孔径が0.1〜10mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、又は発泡金属板等が用いられる。アルミニウムの他に、ステンレスやチタン等の材質も適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法等に制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。
【0061】
正極活物質、導電剤、バインダ、及び有機溶媒を混合した正極スラリーを、ドクターブレード法、ディッピング法、又はスプレー法等によって集電体へ付着させた後、有機溶媒を乾燥させ、ロールプレスによって加圧成形することにより、正極10を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層化させることも可能である。
【0062】
負極12は、負極活物質、バインダ、及び集電体からなる。高レート充放電が必要な場合に、導電剤を添加することもある。本発明で使用可能な負極活物質としては、黒鉛と非黒鉛炭素や例えばアルミニウム、シリコン、スズ等の金属及びこれらの合金、リチウム含有の遷移金属窒化物Li(3−X)N、ケイ素の低級酸化物LiSiO(0≦x、0<y<2)、及びスズの低級酸化物LiSnOのリチウムと合金を形成する材料又は金属間化合物を形成する材料等を選択することができる。
【0063】
負極活物質の材料には特に制限がなく、上記の材料以外でも利用可能であるが、膨張収縮が大きい材料等の一部材料を選択した場合には、負極の利用する範囲を大きくし過ぎると抵抗上昇が大きくなることがある。この場合、電池電圧を変更する場合の条件に負極電位が一定以下であるかどうかを確認するのが好ましい。
【0064】
ただし、黒鉛を含むことが好ましく、当該黒鉛は黒鉛層間距離(d002)が0.335nm以上0.338nm以下であることが好ましい。このような黒鉛を負極12が含むことにより、黒鉛の電位曲線にはステージ構造を有するため、リチウムイオン二次電池のサイクル特性の向上をより大きなものにすることができる。負極12に用いる黒鉛は、リチウムイオンを化学的に吸蔵・放出可能な天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェ−ズ炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、及びポリアクリロニトリル系炭素繊維等を原料として製造される。なお、上記の黒鉛層間距離(d002)は、XRD(X線粉末回折法)(X-Ray Diffraction Method)等を用いて測定することができる。
【0065】
また、負極12に用いる非黒鉛炭素は、上記の黒鉛を除く炭素材料であって、リチウムイオンを吸蔵又は放出することができるものである。これには、黒鉛層の間隔が0.34nm以上であって、2000℃以上の高温熱処理により黒鉛に変化する炭素材料や、5員環又は6員環の環式炭化水素や、環式含酸素有機化合物を熱分解によって合成した非晶質炭素材料等が含まれる。
【0066】
このように正極10と異なる電圧変化率を有する負極12に、リチウムと合金を形成する材料又は金属間化合物を形成する材料を、第3の負極活物質として添加してもよい。第3の負極活物質としては、例えばアルミニウム、シリコン、スズ等の金属及びこれらの合金、リチウム含有の遷移金属窒化物Li(3−X)N、ケイ素の低級酸化物LiSiO(0≦x、0<y<2)、及びスズの低級酸化物LiSnOが挙げられる。第3の負極活物質の材料には特に制限がなく、上記の材料以外でも利用可能である。
【0067】
一般に使用される負極活物質は粉末であるため、それにバインダを混合して、粉末同士を結合させると同時に集電体へ接着させている。本実施形態に係る電池が有する負極12では、負極活物質の粒径を、負極活物質及びバインダから形成される合剤層の厚さ以下にすることが望ましい。負極活物質の粉末中に合剤層厚さ以上のサイズを有する粗粒がある場合、予めふるい分級や風流分級等により粗粒を除去し、合剤層厚さ以下の粒子を使用することが好ましい。
【0068】
負極12の集電体には、厚さが10〜100μmの銅箔、厚さが10〜100μmで孔径0.1〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、又は発泡金属板等が用いられる。銅の他に、ステンレス、チタン、又はニッケル等の材質も適用可能である。本発明では、材質、形状、製造方法等に制限されることなく、任意の集電体を使用することができる。
【0069】
負極活物質、バインダ、及び有機溶媒を混合した負極スラリーを、ドクターブレード法、ディッピング法、又はスプレー法等によって集電体へ付着させた後、有機溶媒を乾燥させ、ロールプレスによって加圧成形することにより、負極12を作製することができる。また、塗布から乾燥までを複数回行うことにより、多層合剤層を集電体に形成させることも可能である。
【0070】
また、正極および負極の活物質塗布量を充電終止電圧V0時に負極電位α付近でかつ正極電位γよりやや少なめになるように設計しておくのが好ましい。具体的には、正極電位γに対し、正極利用率が70%以上98%以下であるのが好ましく,特に正極利用率が75%以上95%以下であるのが好ましく、さらに正極利用率が80%以上90%以下であるのが好ましい。
【0071】
正極10の正極活物質は、電位を測定しやすくする観点から次式(1)で表されるリチウム複合酸化物を含んでいることが好ましく、特に、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2を含むことが好ましい。
LiNiMnCo ・・・(1)
(上記式(1)中、Mは、Fe,V,Ti,Cu,Al,Sn,Zn,Mg,B,Wからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、a,b,c及びdは、それぞれ、0.2≦a≦0.8,0.1≦b≦0.4,0≦c≦0.4,0≦d≦0.1を満たす値であって、かつ、a+b+c+d=1を満たす関係にある。)なお、上記の各例示物において、例えば「M」「x」等の各例示物で重複する文字が記載されているが、それらの文字はそれぞれの例示物において独立しているものとする。以下の記載においても、特に指定しない限り同様とする。
【0072】
上述した正極活物質において、充電終止電圧V0時の正極電位は3.8V以上、4.1V以下であるのが好ましく,特に正極利用率が3.9V以上4.05V以下であるのが好ましく、さらに正極利用率が3.95V以上4.0V以下であるのが好ましい。上記設計電位より高くなると容量ずれの際の補正可能量が減少し、逆に、低くなると、初期電池容量が低下する。
【0073】
上述した正極活物質において、正極電位γは3.9V以上、4.3V以下であるのが好ましく,特に正極利用率が3.95V以上4.2V以下であるのが好ましく、さらに正極利用率が4.0V以上4.1V以下であるのが好ましい。上記設計電位より高くなると、高温サイクル特性が低下してしまうし、低くなると、容量ずれの際の補正が可能な量が減少してしまう。
【0074】
負極電位αは材料により異なるが0V以上に設定する必要がある。0V未満であると、Li金属が析出してしまい、高温サイクル特性が大きく低下してしまう。
【0075】
以上の方法で作製した正極10及び負極12の間にセパレータ11を挿入し、正極10及び負極12の短絡を防止する。セパレータ11には、ポリエチレン、ポリプロピレン等からなるポリオレフィン系高分子シート、又はポリオレフィン系高分子と4フッ化ポリエチレンを代表とするフッ素系高分子シートを溶着させた2層構造等を使用することが可能である。電池温度が高くなったときにセパレータ11が収縮しないように、セパレータ11の表面にセラミックス及びバインダの混合物を薄層状に形成してもよい。これらのセパレータ11は、電池の充放電時にリチウムイオンを透過させる必要があるため、一般に細孔径が0.01〜10μm、気孔率が20〜90%であれば、リチウムイオン二次電池に使用可能である。
【0076】
このようなセパレータ11を正極10及び負極12の間に挿入し、軸心21に捲回した電極群を作製する。軸心21は、正極10、セパレータ11及び負極12を担持できるものであれば、公知の任意のものを用いることができる。電極群は、図6に示した円筒形状の他に、短冊状電極を積層したもの、又は正極10と負極12を扁平状等の任意の形状に捲回したもの等、種々の形状にすることができる。電池容器13の形状は、電極群の形状に合わせ、円筒形、偏平長円形状、扁平楕円形状、角形等の形状を選択してもよい。
【0077】
電池容器13の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼製等、非水電解質に対し耐食性のある材料から選択される。また、電池容器13を正極10又は負極12に電気的に接続する場合は、非水電解質と接触している部分において、電池容器13の腐食やリチウムイオンとの合金化による材料の変質が起こらないように、電池容器13の材料の選定を行う。
【0078】
電池容器13に電極群を収納し、電池容器13の内壁に負極集電タブ15を接続し、電池蓋20の底面に正極集電タブ14を接続する。電解液は、電池の密閉の前に電池容器内部13に注入する。電解液の注入方法は、電池蓋20を解放した状態にて電極群に直接添加する方法、又は電池蓋20に設置した注入口から添加する方法がある。
【0079】
その後、電池蓋20を電池容器13に密着させ、電池全体を密閉する。電解液の注入口がある場合は、それも密封する。電池を密閉する方法には、溶接、かしめ等公知の技術がある。
【0080】
本発明で使用可能な電解液の代表例として、エチレンカーボネートにジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、又はエチルメチルカーボネート等を混合した溶媒に、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、又はホウフッ化リチウム(LiBF)を溶解させた溶液がある。本発明は、溶媒や電解質の種類、溶媒の混合比に制限されることなく、他の電解液も利用可能である。
【0081】
なお、電解液に使用可能な非水溶媒の例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1、2−ジメトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1、3−ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、テトラヒドロフラン、1、2−ジエトキシエタン、クロルエチレンカーボネート、又はクロルプロピレンカーボネート等の非水溶媒がある。本発明の電池に内蔵される正極10又は負極12上で分解しなければ、これ以外の溶媒を用いてもよい。
【0082】
また、電解質の例としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiCF3SO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、又はリチウムトリフルオロメタンスルホンイミドで代表されるリチウムのイミド塩等、多種類のリチウム塩がある。これらの塩を、上記の溶媒に溶解してできた非水電解液を電池用電解液として使用することができる。本実施形態に係る電池が有する正極10及び負極12上で分解しなければ、これ以外の電解質を用いてもよい。
【0083】
固体高分子電解質(ポリマー電解質)を用いる場合には、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリメタクリル酸メチル、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド等のイオン伝導性ポリマーを電解質に用いることができる。これらの固体高分子電解質を用いた場合、セパレータ11を省略することができる利点がある。
【0084】
さらに、イオン性液体を用いることができる。例えば、1−ethyl−3−methylimidazolium tetrafluoroborate(EMI−BF)、リチウム塩LiN(SOCF(LiTFSI)とトリグライムとテトラグライムとの混合錯体、環状四級アンモニウム系陽イオン(N−methyl−N−propylpyrrolidiniumが例示される。)、及びイミド系陰イオン(bis(fluorosulfonyl)imideが例示される。)より、正極10及び負極12にて分解しない組み合わせを選択して、本実施形態に係る電池に用いることができる。
【0085】
以上の構成を有するリチウムイオン二次電池を電池204として用い、このような電池に対して、本実施形態に係る充電制御システムを適用することが可能である。
【0086】
以下では、図6に示す構成の電池204を上述した本実施の形態の充電制御システムにより充電を行った場合(実施例1)と、比較例1〜3について説明する。
【0087】
〔実施例1〕
はじめに、図6に示す構造を有するリチウムイオン二次電池(電池)を作製した。この際、正極活物質としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3を、負極活物質として天然黒鉛(X線構造解析による黒鉛層間距離(d002)=0.336nm)を用いた。また、正極としてアルミニウム箔を、負極として銅箔を用いた。
【0088】
上記電池作製にあたっては、充電終止電圧V0を4.00Vとし、その時の初期正極電位を4.10V、負極電位を0.10Vとなるように正極および負極の塗布量比率を調整した。
【0089】
作製した電池を電池204として、図1に示す充電制御システムにより充電を行い、下記に示す方法により電池特性を評価した。
【0090】
作製した電池を常温(25℃)前後で0.3C相当の電流で4.00Vまで充電し、その後4.10Vで電流が0.03Cになるまで定電圧充電を行った。30分休止後に0.3C相当の定電流で3.00Vまで定電流充電を行った。これを4サイクル行って初期化し、4サイクル目の電池容量を測定し、測定された電池容量を初期電池容量とした。初期電池容量は0.932Ahであった。
【0091】
次に、25℃で、電流4CA、8CA、12CA、16CAの順で10秒間放電した。そのときの放電電流と10秒目の電圧との関係をプロットし、得られた直線の傾きより初期直流抵抗を求めた。測定された初期直流抵抗は54.5mΩであった。
【0092】
次に、50℃で、500回の充放電サイクルを行った。各サイクルにおいては、0.3C相当の電流で4.0Vまで充電し、その後4.10Vで電流が0.03Cになるまで定電圧充電を行った。その後に0.3C相当の定電流で定電流放電を行った。充放電の間には休止を3時間行った。充電は図4に示すフローチャートに従って行い、充電終止電圧V0=4.00V、α=0.10V、γ=4.2V及びω=0.01Vとした。
【0093】
その後、25℃で12時間放置した後、500サイクル後の電池の電池容量を測定したところ、0.803Ahであった。また、初期直流抵抗の測定と同様にして500サイクル後の直流抵抗を求めたところ、64.7Ωであった。
【0094】
以上の得られた結果を用いて、下記式に従って、電池容量維持率、並びに直流抵抗上昇率を算出した。その結果を図6に示す。
電池容量維持率(%)=(500サイクル後の電池容量)/(初期電池容量)
直流抵抗上昇率(%)=(500サイクル後の直流抵抗)/(初期直流抵抗)
【0095】
〔比較例1〕
500回の充放電サイクルにおいて、充電終止電圧の変更を行わずにサイクルを行ったこと以外は実施例1と同様にして、電池容量維持率及び直流抵抗上昇率を算出した。その結果を表1に示す。初期電池容量は0.932Ah、初期直流抵抗は54.5mΩ、500サイクル後の電池容量は0.701Ah並びに500サイクル後の直流抵抗は64.5mΩであった。
【0096】
〔比較例2〕
電池作製にあたって、充電終止電圧V0を4.10Vとし、その時の初期正極電位を4.20V、負極電位を0.10Vとなるように正極および負極の塗布量比率を調整したこと以外は比較例1と同様にして、電池容量維持率及び直流抵抗上昇率を算出した。その結果を表1に示す。初期電池容量は1.053Ah、初期直流抵抗は54.3mΩ、500サイクル後の電池容量は0.745Ah並びに500サイクル後の直流抵抗は75.7mΩであった。
【0097】
〔比較例3〕
500回の充放電サイクルにおいて、補正上限正極電位γを4.40Vに変更したこと以外は実施例1と同様にして、電池容量維持率及び直流抵抗上昇率を算出した。その結果を表1に示す。初期電池容量は0.932Ah、初期直流抵抗は54.5mΩ、500サイクル後の電池容量は0.855Ah並びに500サイクル後の直流抵抗は107.91mΩであった。
【0098】
図7に示すように、充電終止電圧の変更を行った実施例1においては、充電終止電圧の変更を行わない比較例1に比して、同程度の直流抵抗上昇率を維持しながらも、電池容量維持率が大きく向上していた。さらに、充電終止電圧を4.10Vに設定した比較例2に対しては、初期電池容量の絶対値では劣るものの、500サイクル後の容量の絶対値、容量維持率および抵抗上昇率いずれにおいても、優れた値を示した。γを4.40V設定した比較例3に対しては、容量では劣るものの比較例3では、正極電位を上げ過ぎたことによる顕著な抵抗上昇が見られた。
【0099】
以上のように、本発明によれば、500サイクルの充放電後であってもリチウムイオン二次電池内部の抵抗増加の抑制及び電池容量減少の抑制を可能にし、サイクル特性の向上を可能にした放電制御システムを提供することができる。
【0100】
上述したように、本実施の形態に係る充電制御システムは、リチウムイオン二次電池204を充電終止電圧まで充電する充放電制御回路203と、充放電制御回路203による充電によりリチウムイオン二次電池204の電池電圧が充電終止電圧V0となったときに、リチウムイオン二次電池204の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件を満足しているか否かを判定する演算処理部205と、演算処理部205によりリチウムイオン二次電池204の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件(例えば、Vn>α、Vp<γ)を満足していると判定されると、充電終止電圧をより高電圧の充電終止電圧(例えば、電圧V1やV0+ω)に変更する充電終止電圧補正部202と、を備えている。
【0101】
そして、充電終止電圧補正部202により充電終止電圧が変更されると、充放電制御回路203は、電池電圧が変更後の充電終止電圧となるまでリチウムイオン二次電池の充電をさらに行う。その結果、負極の容量ずれによる電池劣化が生じた場合であっても、電池容量の低下を抑えることができる。
【0102】
また、充電終止電圧変更条件に、判定時におけるリチウムイオン二次電池204の負極の電位が該電位の下限値αよりも高いことや、判定時におけるリチウムイオン二次電池204の正極の電位が該電位の許容上限値γ未満であることを、変更条件として含むようにしたことにより、充電終止電圧を変更することによるリチウムイオン二次電池204の内部抵抗の増加を、低く抑えることができる。
【0103】
なお、充電終止電圧変更条件として、判定時におけるリチウムイオン二次電池204の充電容量A1と初期電池容量A0との比A1/A0が所定値以下である場合に、充電終止電圧の変更を行うようにしても良く、判定が簡便になる。この場合の所定値は任意に設定して良い。
【0104】
さらに図5に示したように、充電終止電圧を予め設定された所定電圧ωだけ高い充電終止電圧に変更し、その終止電圧の変更後に演算処理部205による判定を再び行わせるようにしても良い。そうすることで、負極および正極の電位が管理範囲内にあることを確認しながら小刻みに充電終止電圧を変更することができ、充電終了時の正極および負極の電位が管理範囲外に大きくずれるのを防止できる。
【0105】
また、充電終止電圧を変更(補正)する際に、上述したωを用いる代わりに、正極または負極の電位とそれらの許容電位とに基づいて図2に示すβを推定して充電終止電圧V1を設定するようにしても良い。
【0106】
また、充電終止電圧の初期値V0を、リチウムイオン二次電池204の正極の電位が許容上限値であるγよりも低くなるように設定するのが好ましい。
【0107】
図8は、本実施の形態の充電制御システムが適用可能な電源装置の一例を示す図であり、ハイブリッド自動車の駆動システムを示すブロック図である。図8に示す駆動システムは、電池モジュール9、電池モジュール9を監視する電池監視装置100、電池モジュール9からの直流電力を3相交流電力に変換するインバータ装置220、車両駆動用のモータ230を備えている。モータ230は、インバータ装置220からの3相交流電力により駆動される。インバータ装置220と電池監視装置100とはCAN通信で結ばれており、インバータ装置220は電池監視装置100に対して上位コントローラとして機能する。また、インバータ装置220は、さらに上位のコントローラ(不図示)からの指令情報に基づいて動作する。
【0108】
インバータ装置220は、パワーモジュール226と、MCU222と、パワーモジュール226を駆動するためのドライバ回路224とを有している。パワーモジュール226は、電池モジュール9から供給される直流電力を、モータ230を駆動するための3相交流電力に変換する。なお、図示していないが、パワーモジュール226に接続される強電ラインHV+,HV−間には、約700μF〜約2000μF程度の大容量の平滑キャパシタが設けられている。この平滑キャパシタは、電池監視装置100に設けられた集積回路に加わる電圧ノイズの低減する働きをする。
【0109】
インバータ装置220の動作開始状態では平滑キャパシタの電荷は略ゼロであり、リレーRLを閉じると大きな初期電流が平滑キャパシタへ流れ込む。そして、この大電流のためにリレーRLが融着して破損するおそれがある。この問題を解決するために、MCU222は、さらに上位のコントローラからの命令に従い、モータ230の駆動開始時に、プリチャージリレーRLPを開状態から閉状態にして平滑キャパシタを充電し、その後にリレーRLを開状態から閉状態として、電池モジュール9からインバータ装置220への電力の供給を開始する。平滑キャパシタを充電する際には、抵抗RPREを介して最大電流を制限しながら充電を行う。このような動作を行うことで、リレー回路を保護すると共に、電池セルやインバータ装置220を流れる最大電流を所定値以下に低減でき、高い安全性を維持できる。
【0110】
なお、インバータ装置220は、モータ230の回転子に対するパワーモジュール226により発生する交流電力の位相を制御して、車両制動時にはモータ230をジェネレータとして動作させる。すなわち回生制動制御を行い、ジェネレータ運転により発電された電力を電池モジュール9に回生して電池モジュール9を充電する。電池モジュール9の充電状態が基準状態より低下した場合には、インバータ装置220はモータ230を発電機として運転する。モータ230で発電された3相交流電力は、パワーモジュール226により直流電力に変換されて電池モジュール9に供給される。その結果、電池モジュール9は充電される。
【0111】
一方、モータ230を力行運転する場合、MCU222は上位コントローラの命令に従い、モータ230の回転子の回転に対して進み方向の回転磁界を発生するようにドライバ回路224を制御し、パワーモジュール226のスイッチング動作を制御する。この場合は、電池モジュール9から直流電力がパワーモジュール226に供給される。また、回生制動制御により電池モジュール9を充電する場合には、MCU222は、モータ230の回転子の回転に対して遅れ方向の回転磁界を発生するようにドライバ回路224を制御し、パワーモジュール226のスイッチング動作を制御する。この場合はモータ230から電力がパワーモジュール226に供給され、パワーモジュール226の直流電力が電池モジュール9へ供給される。結果的にモータ230は発電機として作用することとなる。
【0112】
インバータ装置220のパワーモジュール226は、導通および遮断動作を高速で行い直流電力と交流電力間の電力変換を行う。このとき、大電流を高速で遮断するので、直流回路の有するインダクタンスにより大きな電圧変動が発生する。この電圧変動を抑制するため、上述した大容量の平滑キャパシタが設けられている。
【0113】
電池モジュール9は、直列接続された2つの電池ブロック9A,9Bで構成されている。各電池ブロック9A,9Bは、直列接続された16セルの電池セルを備えている。電池ブロック9Aと電池ブロック9Bとは、スイッチとヒューズとが直列接続された保守・点検用のサービスディスコネクトSDを介して直列接続される。このサービスディスコネクトSDが開くことで電気回路の直接回路が遮断され、仮に電池ブロック9A,9Bのどこかで車両との間に1箇所接続回路ができたとしても電流が流れることはない。このような構成により高い安全性を維持できる。このような構成により高い安全性を維持できる。又、点検時に人間がHV+とHV−の間を触っても、高電圧は人体に印加されないので安全である。
【0114】
電池モジュール9とインバータ装置220との間の強電ラインHV+には、リレーRL,抵抗RPおよびプリチャージリレーRLPを備えた電池ディスコネクトユニットBDUが設けられている。抵抗RPおよびプリチャージリレーRLPの直列回路は、リレーRLと並列に接続されている。
【0115】
電池監視装置100は、主に各セル電圧の測定、総電圧の測定、電流の測定、セル温度およびセルの容量調整等を行う。そのために、セルコントローラとしてのIC(集積回路)1〜IC6が設けられている。各電池ブロック9A,9B内に設けられた16セルの電池セルは、それぞれ3つのセルグループに分けられ、各セルグループ毎に一つの集積回路が設けられている。セルコントローラは各セルの管理を行う機能を有するものであり、例えば、セル電圧のモニタ、過充電/過放電検知、セル間の電圧の均等化等を行う。図1の充放電制御回路203、電圧測定部209はこのセルコントローラに設けられている。
【0116】
IC1〜IC6は、通信系602と1ビット通信系604とを備えている。セル電圧値読み取りや各種コマンド送信のための通信系602においては、絶縁素子(例えば、フォトカプラ)PHを介してデイジーチェーン方式でマイコン30とシリアル通信を行う。1ビット通信系604は、セル過充電が検知されたときの異常信号を送信する。図1に示す例では、通信系602は、電池ブロック9AのIC1〜IC3に対する上位の通信経路と、電池ブロック9BのIC4〜IC6に対する下位の通信経路とに分けられている。
【0117】
マイコン30は、セルコントローラ(IC1〜IC6)の上位のコントローラとしての機能を有するものであり、電池モジュール9のモニタ(総電圧のモニタ、電流モニタ、温度モニタ、セルコントローラからの情報取得など)、外部回路の制御(リレー制御など)、電池状態の検知(SOC演算、SOH演算、許容充放電電流演算など)、各種診断(過充電保護、過放電保護、漏電検知、故障検知など)等を行う。図1の演算処理部205はこのマイコン30に設けられている。
【0118】
電池ディスコネクトユニットBDU内にはホール素子等の電流センサSiが設置されており、電流センサSiの出力はマイコン30に入力される。電池モジュール9の総電圧および温度に関する信号もマイコン30に入力され、それぞれマイコン30のAD変換器(ADC)によって測定される。温度センサは電池ブロック9A,9B内の複数箇所に設けられている。
【0119】
例えば、電池モジュール9を夜間充電する際には、上述した充電方法によって電池モジュール9の充電が行われる。各電池セル毎の電圧はセルコントローラ(IC1〜IC6)によって計測されるので、図4で説明した充電終止電圧変更条件の判定は各電池セル毎に行うことができる。例えば、いずれか一つの電池セルに関してステップS106,S107においてNOと判定された場合には、ステップS109へ進んで充電動作を終了する。
【0120】
なお、上述した実施の形態では、車両搭載用のリチウムイオン二次電池を例に説明したが、本発明は、車両搭載用に限らず、太陽光発電又は風力発電等で発電した電力を蓄え、電力系統に供給する用途等に用いられるリチウムイオン二次電池の充電制御システムにも適用することができる。
【0121】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0122】
10:正極、12:負極、101,102,104,105:電位曲線、103,106:電池電圧曲線、201:充電制御システム、202:充電終止電圧補正部、203:充放電制御回路、204:リチウムイオン二次電池、205:演算処理部、206:外部負荷、207:充電用電源、208:電流測定部、209:電圧測定部、210a,210b:スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池を充電終止電圧まで充電する充電制御部と、
前記充電制御部による充電により前記リチウムイオン二次電池の電池電圧が前記充電終止電圧となったときに、前記リチウムイオン二次電池の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件を満足しているか否かを判定する判定部と、
前記判定部により前記リチウムイオン二次電池の電池状態が所定の充電終止電圧変更条件を満足していると判定されると、前記充電終止電圧をより高電圧の充電終止電圧に変更する充電終止電圧変更部と、を備え、
前記充電終止電圧変更部により前記充電終止電圧が変更されると、前記充電制御部は、電池電圧が変更後の充電終止電圧となるまで前記リチウムイオン二次電池の充電をさらに行うことを特徴とする充電制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の充電制御システムにおいて、
前記充電終止電圧変更条件は、判定時における前記リチウムイオン二次電池の負極の電位が該電位の下限値よりも高いことを、変更条件として含むことを特徴とする充電制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の充電制御システムにおいて、
前記充電終止電圧変更条件は、判定時における前記リチウムイオン二次電池の正極の電位が該電位の許容上限値未満であることを、変更条件として含むことを特徴とする充電制御システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、
前記充電終止電圧変更条件は、判定時における前記リチウムイオン二次電池の充電容量と初期電池容量との比が所定値以下であることを、変更条件として含むことを特徴とする充電制御システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、
前記充電終止電圧変更条件は、前記リチウムイオン二次電池の使用経過時間を、変更条件として含むことを特徴とする充電制御システム。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、
前記充電終止電圧変更部は、前記充電終止電圧変更条件の判定の際の正極または負極の電位とそれらの許容電位とに基づいて、前記充電終止電圧を変更することを特徴とする充電制御システム。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、
前記充電終止電圧変更部は、前記充電終止電圧を予め設定された所定電圧だけ高い充電終止電圧に変更し、
該終止電圧の変更後に前記判定部による判定を再び行わせる充電終止電圧変更制御部をさらに備えたことを特徴とする充電制御システム。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、
前記充電終止電圧が初期値の際の正極電位を、前記リチウムイオン二次電池の正極の電位が該電位の許容上限値よりも低くなるように設定したことを特徴とする充電制御システム。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、
前記リチウムイオン二次電池の正極が、次式(1)で表されるリチウム複合酸化物を含むことを特徴とする充電制御システム。
LiNiMnCo ・・・(1)
なお、式(1)において、Mは、Fe,V,Ti,Cu,Al,Sn,Zn,Mg,B,Wからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、a,b,c及びdは、それぞれ、0.2≦a≦0.8,0.1≦b≦0.4,0≦c≦0.4,0≦d≦0.1を満たす値であって、かつ、a+b+c+d=1を満たす関係にある。
【請求項10】
請求項9に記載の充電制御システムにおいて、
最初に充電終止電圧まで充電した時の該正極電位が、3.8V以上4.1V以下に設定されていることを特徴とする充電制御システム。
【請求項11】
請求項9または10に記載の充電制御システムにおいて、
変更後の正極電位が3.9V以上4.3V以下に収まるように設定されていることを特徴とする充電制御システム。
【請求項12】
請求項9乃至11のいずれか一項に記載の充電制御システムにおいて、
前記リチウムイオン二次電池の負極が黒鉛を含み、
該黒鉛の黒鉛層間距離が0.335nm以上0.338nm以下であることを特徴とする充電制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−221788(P2012−221788A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87247(P2011−87247)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(505083999)日立ビークルエナジー株式会社 (438)
【Fターム(参考)】