説明

光スイッチ

【課題】より高速な応答特性を備えて、多波長処理ができる広帯域動作が可能なより小型な光スイッチ素子が得られるようにする。
【解決手段】この光スイッチは、半導体からなる複数の微結晶102a〜102dが分散している母体101から構成された光素子100と、光素子100に制御光111を照射する制御光照射部103とを少なくとも備える。また、母体101は、微結晶102a〜102dを構成する半導体より大きなバンドギャップエネルギーを有する材料から構成されている。また、複数の微結晶102a〜102dは、制御光111の導入方向(y軸方向)に沿って制御光111の導入側ほど粒子径が小さくされ、制御光111の導入方向に垂直な面内では粒子径が均一な状態とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号をオン・オフする光スイッチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリコンフォトニクスの技術を基本とした光通信用光ネットワーク,光通信,光制御用光回路,および光機能素子においては、GHz以上の高速動作が必要とされている。これは、時間領域で言うとピコ秒領域での高速動作となる。また、将来の波長多重の情報処理に向けた同時多波長処理(広帯域動作)の光素子が必要であり、加えて、省エネルギーの要求もあり、このためには素子の小型化が重要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】H.Shinojima, "Optical Nonlinearity in CdSSe Microcrystallites Embedded in Glasses", IEICE TRANS. ELECTRON, vol.E90-C, no.1,pp.127-134, 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、シリコンフォトニクスにおける光通信用光ネットワーク,光通信,光制御用光回路に用いられる光機能素子である光スイッチにおいても、同様の要求があり、将来の波長多重の情報処理に向けた同時多波長処理(広帯域動作)およびピコ秒オーダーでの時間応答を備え、加えて、μmオーダーの寸法に小型化することが重要となる。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より高速な応答特性を備えて、多波長処理ができる広帯域動作が可能なより小型な光スイッチ素子が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光スイッチは、半導体からなる複数の微結晶が分散している母体から構成された光素子と、光素子に制御光を照射する制御光照射手段とを少なくとも備え、母体は、半導体より大きなバンドギャップエネルギーを有する材料から構成され、複数の微結晶は、制御光の導入方向に沿って制御光の導入側ほど粒子径が小さくされ、制御光の導入方向に垂直な面内では粒子径が均一な状態とされ、制御光の導入側より最も離れた箇所の光素子に分布する複数の微結晶の粒子径は、微結晶の内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値とされている。
【0007】
上記光スイッチにおいて、母体は、制御光の導入方向に延在する円筒形状に形成されててもよい。また、微結晶は、水素もしくは酸素により終端されたダングリングボンドを備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように、本発明によれば、複数の微結晶は、制御光の導入方向に沿って制御光の導入側ほど粒子径が小さくされ、制御光の導入方向に垂直な面内では粒子径が均一な状態とされ、制御光の導入側より最も離れた箇所の光素子に分布する複数の微結晶の粒子径は、微結晶の内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値とされているようにしたので、より高速な応答特性を備えて、多波長処理ができる広帯域動作が可能なより小型な光スイッチ素子が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態1における光スイッチの構成を示す斜視図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態1における光スイッチの構成を示す断面図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態1における光スイッチの構成を示す断面図である。
【図1D】図1Dは、本発明の実施の形態1における光スイッチの構成を示す断面図である。
【図2】図2は、ガラスの母体にCdS0.12Se0.88の微結晶が分散した光学材料を試料として用いた縮退四光波混合の実験結果である。
【図3A】図3Aは、本発明の実施の形態2における光スイッチの構成を示す斜視図である。
【図3B】図3Bは、本発明の実施の形態2における光スイッチの構成を示す断面図である。
【図3C】図3Cは、本発明の実施の形態2における光スイッチの構成を示す断面図である。
【図3D】図3Dは、本発明の実施の形態2における光スイッチの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0011】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1A,図1B,図1C,図1Dは、本発明の実施の形態1における光スイッチの構成を示す斜視図および断面図である。
【0012】
この光スイッチは、半導体からなる複数の微結晶102a〜102dが分散している母体101から構成された光素子100と、光素子100に制御光111を照射する制御光照射部103とを少なくとも備える。また、母体101は、微結晶102a〜102dを構成する半導体より大きなバンドギャップエネルギーを有する材料から構成されている。なお、本実施の形態では、1例として、母体101の形状を直方体としているが、母体101の形状は、立方体としてもよい。また、制御光111の導入方向に平行な面が正方形とされた直方体としてもよい。
【0013】
また、複数の微結晶102a〜102dは、制御光111の導入方向(y軸方向)に沿って制御光111の導入側ほど粒子径が小さくされ、制御光111の導入方向に垂直な面内では粒子径が均一な状態とされている。
【0014】
例えば、制御光111が導入される側より、微結晶102aが制御光111の導入方向に垂直な面内に分布し、微結晶102bが制御光111の導入方向に垂直な面内に分布し、微結晶102cが制御光111の導入方向に垂直な面内に分布し、微結晶102dが制御光111の導入方向に垂直な面内に分布している。また、微結晶102bは微結晶102aより大きく、微結晶102cは微結晶102bより大きく、微結晶102dは微結晶102cより大きい。
【0015】
従って、微結晶102dを通るxz面に平行な断面では、図1Bの断面図に示すように、微結晶102dが分布している。また、zy面に平行な断面では、図1Cの断面図に示すように、z方向には、粒子径が均一であり、y方向には、粒子径が徐々に小さくなっている。また、xy面に平行な断面では、図1Dの断面図に示すように、x方向には、粒子径が均一であり、y方向には、粒子径が徐々に小さくなっている。
【0016】
加えて、最も大きい微結晶102dの分布においては、粒子径(平均値)が、微結晶102dの内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値とされている。
【0017】
例えば、母体101は、ソーダガラスなどのガラスより構成されていればよい。また、微結晶102a〜102dは、CdS0.12Se0.88から構成されていればよい。また、微結晶102dの粒子径が、1nm程度とされていればよい。微結晶102dの粒径が1nm程度であれば、微結晶102dの内部の原子数に対する微結晶102dの表面の原子数の割合が、1より大きくなる。
【0018】
このような光学材料は、母体を構成する材料および微結晶の材料を混合した混合原料を、全ての成分が溶解する温度に加熱して溶解させ、融液において各成分を均一な状態にしてから、所定の停止温度まで徐冷し、停止温度の状態を所定時間(停止時間)維持し、この後、室温にまで徐冷することで形成することができる。
【0019】
例えば、ガラスを構成する成分およびCdS0.12Se0.88を混合した混合材料を用意し、この混合材料を1000℃以上に加熱して溶解する。次いで、溶解した状態を所定の時間維持し、また、融液を撹拌することなどにより、融液における各成分を均一にする。次に、融液を800℃程度にまで徐々に冷却(徐冷)する。この停止温度としての800℃の状態を所定の停止時間維持した後、室温にまで徐冷すればよい。停止温度および停止時間を制御することで、微結晶の平均粒径を制御することができる。停止温度を高くし、また、停止時間を長くするほど、微結晶の平均粒径が大きくなる。従って、部分的に停止温度および停止時間を適宜に変更することで、上述したような微結晶102a〜102dのような制御光111の導入方向(y軸方向)に沿って制御光111の導入側ほど粒子径が小さくなる構成とすることができる。
【0020】
また、上述した混合原料における微結晶の材料の組成比を制御することで、光学材料における微結晶の密度(分布)を制御することができる。当然ながら、混合原料における微結晶の材料の組成を多くすることで、光学材料における微結晶の密度を高くすることができる。また、光学材料における微結晶に密度は、光学材料の所望とする特性が得られるように、適宜に設定すればよい。
【0021】
なお、母体101のバンドギャップエネルギーが微結晶102a〜102dより大きくないと、例えば光励起により生成した電子・正孔の再結合など光による応答を、選択的に微結晶102a〜102dにおいて起こさせることができなくなる。従って、母体101は、微結晶102a〜102dを構成する半導体より大きなバンドギャップエネルギーを有する材料から構成する。
【0022】
次に、本実施の形態における光スイッチの動作について説明する。まず、スイッチの対象となる信号光112は、x軸方向に入射させる。z軸およびy軸方向に空間的な広がりを持つ信号光112は、例えば、光素子100の{(Lx,0,Lz)、(Lx,0,0)、(Lx,Ly,0)、(Lx,Ly,Lz)}の面より入射し、{(0,0,Lz)、(0,0,0)、(0,Ly,0)、(0,Ly,Lz)}の面より出射する。
【0023】
ここで、半導体からなる微結晶102a〜102dは、粒子径によって決定される、半導体のバンドギャップに応じた吸収端を持つ(非特許文献1参照)。例えば、CdS0.12Se0.88からなる粒子径1nmの微結晶102dは、吸収する光の中で最も長い波長が600nmとなる。また、例えば、CdS0.12Se0.88からなる粒子径0.5nmの微結晶102aは、吸収する光の中で最も長い波長が550nmとなる。
【0024】
従って、光スイッチ(光素子100)に入射した白色光である信号光112は、x軸方向を伝播していくに従い、微結晶102a〜102dの粒子径に依存した波長の光が吸収される。例えば、x軸方向に透過した信号光112の中で、xz面に平行な面内で微結晶102dが分布している領域では、微結晶102dの粒子径による吸収端からエネルギーの高い波長の光(波長600nmより短い波長の成分)が吸収される。また、xz面に平行な面内で微結晶102aが分布している領域では、信号光112の中で波長550nmより短い波長に成分が吸収される。
【0025】
一方、波長600nmの制御光111を光素子100に入射させると、この波長の制御光111は、微結晶102a〜102cでは吸収されず、微結晶102dで吸収される。なお、制御光111の光強度は、微結晶102dの分布領域において全て吸収される程度に制御する。この結果、微結晶102dにおいては、キャリアが光励起される。このようにキャリアが光励起されている状態では、微結晶102dでは吸収飽和状態となり、新たな光の吸収が起こらない。
【0026】
このように波長600nmの制御光111の導入により微結晶102dを吸収飽和状態とした状態で、信号光112が光素子100に入射すると、微結晶102dでは、これ以上の光吸収が起こらないため、微結晶102dが分布している領域を通過した信号光112は、吸収がされることなく透過する。この状態は、例えば、パルス状に制御光111を導入した場合、微結晶102dで励起されたキャリアが緩和して下の準位に戻るまで維持される。言い換えると、制御光111の導入が停止され、励起されたキャリアが緩和して下の準位に戻った時点で、微結晶102dが分布している領域を通過した信号光112の波長600nmより短い波長の成分の吸収が始まる。
【0027】
従って、制御光111の有無に依存して光素子100における信号光112の透過率に差が発生するので、これを利用することで、光素子100を光スイッチとして機能させることができる。また、制御光111の波長を変更することで、光素子100における透過率の差を発生させる光の波長を変更することができる。例えば、制御光111の波長を550nmとすること、微結晶102aで上述同様の現象が起こり、信号光112の波長550nmより短い波長の成分の減衰を制御(オン・オフ)することができる。なお、信号光112は、xy面に平行な面に入射させるようにしても同様である。
【0028】
このように、本実施の形態によれば、制御光111の波長を、母体101において、制御光111の導入方向(y軸方向)に分布させた微結晶102a〜102dの粒子径に対応する波長とすることで、多波長同時(広帯域)のスイッチング動作が可能である。なお、光素子100は、例えば、信号光112が導波されている光導波路の途中に配置して用いればよい。
【0029】
また、本実施の形態では、最も径の大きい微結晶102dの粒子径を、微結晶102dの内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値としているので、上述したオン・オフのスイッチ動作速度をサブピコ秒からピコ秒程度と高速にすることができる。
【0030】
この粒子径と高速動作の関係について説明する。半導体の微結晶におけるキャリア寿命で、キャリアの緩和時間(応答速度)が決まる。まず、ガラスより母体を構成し、この母体中にCdSSe微結晶を分散させた光学材料を試料とした縮退四光波混合の実験の結果について示す(非特許文献1参照)。図2は、ガラスの母体にCdS0.12Se0.88の微結晶が分散した光学材料を試料として用いた縮退四光波混合の実験結果である。この図2は、母体(ガラス)中のCdSSe微結晶の縮退四光波混合過程におけるエネルギー緩和の時間変化(エネルギー緩和曲線)の、微結晶粒径依存性を示している。
【0031】
図2において、Ravは、母体中に分散しているCdS0.12Se0.88微結晶の粒径分布の平均値を示している。この実験では、Ravとして、1nm,3nm,5nm,および10.8nmを試料としている。なお、各粒径は、透過型電子顕微鏡による試料の観察で得られた値である。また、例えば、Ravが1nmの試料では、透過型電子顕微鏡の観察の結果、微結晶の分布(微粒子密度)が、1015個/cm3であった。
【0032】
図2に示されているように、Rav=3nm,5nm,および10.8nmでは、エネルギー緩和の時間変化の曲線に2つの傾き成分が見られ、CdSSe結晶のエネルギー緩和の時間変化が、2成分から構成されていることがわかる。また、図2より、CdSSe結晶のエネルギー緩和曲線を構成する2つの緩和成分を特徴付ける緩和時間は、微結晶の粒径(平均粒径)が小さいほど短縮される(高速になる)ことがわかる。加えて、平均粒径が1nmの条件では、CdSSe結晶のエネルギー緩和曲線が、1つの緩和成分から構成されるものとなり、長い緩和時間をもつ緩和成分が全く観測されなくなることがわかる。
【0033】
この実験結果は、平均粒径が1nmの条件では、微結晶粒の表面における励起キャリアの再結合過程が顕著になり、これが、微結晶粒内部での励起キャリアの再結合過程を確率の上で上回っていることを示している。ここで、粒径が1nmの条件は、半導体微結晶表面にある原子数の微結晶内部にある原子数に対する割合が、おおよそ1より大きくなる状態である。
【0034】
従って、半導体からなる複数の微結晶の粒径分布の平均値が、微結晶の内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値とされていれば、バルク半導体の遅い光応答特性より、微粒子化により発現した励起キャリアの表面再結合過程に起因した高速光応答が支配的になり、サブピコ秒からピコ秒の光応答速度が得られるようになる。
【0035】
また、本実施の形態では、1nm以下の粒子径とした微結晶102a〜102dを用いており、光素子100を数nmから数μmの大きさまで小型化できる。また、本実施の形態によれば、制御光の導入方向に沿って制御光の導入側ほど小さくしている微粒子の粒子径の分布を設計することで、設計した粒子径の分布位置に対応して吸収波長が設計できる。したがって、分光器を用いる必要がなく、この点でも、小型化が可能となる。
【0036】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。図3A,図3B,図3C,図3Dは、本発明の実施の形態2における光スイッチの構成を示す斜視図および断面図である。
【0037】
この光スイッチは、半導体からなる複数の微結晶302a〜302dが分散している母体301から構成された光素子300と、光素子300に制御光311を照射する制御光照射部303とを少なくとも備える。また、母体301は、微結晶302a〜302dを構成する半導体より大きなバンドギャップエネルギーを有する材料から構成されている。
【0038】
また、複数の微結晶302a〜302dは、制御光311の導入方向(y軸方向)に沿って制御光311の導入側ほど粒子径が小さくされ、制御光311の導入方向に垂直な面内では粒子径が均一な状態とされている。
【0039】
また、最も大きい微結晶302dの分布においては、粒子径(平均値)が、微結晶302dの内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値とされている。
【0040】
加えて、本実施の形態では、母体301が、制御光311の導入方向に延在する円筒形状(円柱)に形成されている。本実施の形態では、微結晶302dを通るxz面に平行な断面では、図3Bの断面図に示すように、微結晶302dが分布している。また、微結晶302aを通るxz面に平行な断面では、図3Cの断面図に示すように、微結晶302aが分布している。また、zy面に平行な断面では、図3Dの断面図に示すように、z方向には、粒子径が均一であり、y方向には、粒子径が徐々に小さくなっている。これは、xy面に平行な断面でも同様である。本実施の形態では、母体301が、制御光311の導入方向に延在する円筒形であるので、上面および底面の中心を通る中心線を中心に、ほぼ回転対称に微結晶302a〜302dが分布しているものともいえる。
【0041】
例えば、母体301は、ソーダガラスなどのガラスより構成されていればよい。また、微結晶302a〜302dは、CdS0.12Se0.88から構成されていればよい。また、微結晶302dの粒子径が、1nm程度とされていればよい。微結晶302dの粒径が1nm程度であれば、微結晶302dの内部の原子数に対する微結晶302dの表面の原子数の割合が、1より大きくなる。
【0042】
次に、本実施の形態における光スイッチの動作について説明する。まず、本実施の形態では、スイッチの対象となる信号光は、制御光311の導入方向(y軸方向)に対して垂直な方向から入射させればよい。母体301が円柱であるので、y軸に対して垂直となっている方向であれば、信号光は、どの方向から入射しても前述した実施の形態1と同様である。
【0043】
ここで、本実施の形態においても、例えば、CdS0.12Se0.88からなる粒子径1nmの微結晶302dは、吸収する光の中で最も長い波長が600nmであり。また、CdS0.12Se0.88からなる粒子径0.5nmの微結晶302aは、吸収する光の中で最も長い波長が550nmである。
【0044】
従って、光スイッチ(光素子300)に入射した白色光である信号光は、入射方向に伝播していくに従い、微結晶302a〜302dの粒子径に依存した波長の光が吸収される。例えば、x軸方向に透過した信号光の中で、xz面に平行な面内で微結晶302dが分布している領域では、微結晶302dの粒子径による吸収端からエネルギーの高い波長の光(波長600nmより短い波長の成分)が吸収される。また、xz面に平行な面内で微結晶302aが分布している領域では、信号光の中で波長550nmより短い波長に成分が吸収される。
【0045】
一方、波長600nmの制御光311を光素子300に入射させると、前述した実施の形態1と同様に、この波長の制御光311は、微結晶302a〜302cでは吸収されず、微結晶302dで吸収される。この結果、微結晶302dにおいては、キャリアが光励起される。このようにキャリアが光励起されている状態では、微結晶302dでは吸収飽和状態となり、新たな光の吸収が起こらない。
【0046】
このように波長600nmの制御光311の導入により微結晶302dを吸収飽和状態とした状態で、信号光が光素子300に入射すると、微結晶302dでは、これ以上の光吸収が起こらないため、微結晶302dが分布している領域を通過した信号光は、吸収がされることなく透過する。
【0047】
従って、制御光311の有無に依存して光素子300における信号光の透過率に差が発生するので、これを利用することで、光素子300を光スイッチとして機能させることができる。また、制御光311の波長を変更することで、光素子300における透過率の差を発生させる光の波長を変更することができる。例えば、制御光311の波長を550nmとすること、微結晶302aで上述同様の現象が起こり、信号光の波長550nmより短い波長の成分の減衰を制御(オン・オフ)することができる。
【0048】
このように、本実施の形態においても、制御光311の波長を、母体301において、制御光311の導入方向(y軸方向)に分布させた微結晶302a〜302dの粒子径に対応する波長とすることで、多波長同時(広帯域)のスイッチング動作が可能である。
【0049】
また、本実施の形態でも、最も径の大きい微結晶302dの粒子径を、微結晶302dの内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値としているので、上述したオン・オフのスイッチ動作速度をサブピコ秒からピコ秒程度と高速にすることができる。
【0050】
また、本実施の形態でも、1nm以下の粒子径とした微結晶302a〜302dを用いており、光素子300を数nmから数μmの大きさまで小型化できる。また、本実施の形態においても、制御光の導入方向に沿って制御光の導入側ほど小さくしている微粒子の粒子径の分布を設計することで、設計した粒子径の分布位置に対応して吸収波長が設計できる。したがって、分光器を用いる必要がなく、この点でも、小型化が可能となる。
【0051】
また、本実施の形態では、y軸に対して垂直となっている方向であれば、信号光はどの方向から入射してもよいので、信号光の入射方向の自由度をより高くすることができる。このため、光3次元スイッチが実現可能となる。
【0052】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの組み合わせおよび変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述した実施の形態では、制御光の導入方向に沿って粒子径の大きさを4段階に変化させる例を示したが、これに限るものではない。オン・オフ対象の波長の数に対応させて、粒子径を各々異なる大きさに分割すればよい。例えば、制御光の導入方向に沿って粒子径の大きさを3段階に変化させてもよく、制御光の導入方向に沿って粒子径の大きさを5段階に変化させてもよい。
【0053】
また例えば、母体として用いるガラスは、ソーダガラスに限るものではなく、石英ガラスなどの他のガラスでもよい。また、母体は、ZnO,GaN,およびBNから構成することもできる。これら材料を用いる場合においても、母体はアモルファスなど非晶質状態の材料から構成するとよい。
【0054】
また、微結晶は、CdSSeに限らず、亜鉛,カドミウム,硫黄,セレン,テルル,およびマンガンの中より選択された元素の化合物からなる半導体であればよい。また、微結晶は、インジウム,ガリウム,窒素,砒素,およびリンの中より選択された化合物からなる半導体で構成してもよい。
【0055】
また、微結晶の表面におけるキャリアの再結合の状態は、微結晶表面のダングリングボンドの状態(数)によって影響を受ける。従って、微結晶表面のダングリングボンドの状態を制御することで、光素子(母体)における光学特性を制御することができる。例えば、微結晶の表面にあるダングリングボンドを水素あるいは酸素で終端することで、微結晶の表面状態を制御すればよい。終端したダングリングボンドの割合により、光学特性を制御することができる。この終端は、例えば、微結晶が形成されている母体(光素子)を水素雰囲気中で加熱すればよい。
【符号の説明】
【0056】
100…光素子、101…母体、102a〜102d…微結晶、103…制御光照射部、111…制御光、112…信号光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体からなる複数の微結晶が分散している母体から構成された光素子と、
前記光素子に制御光を照射する制御光照射手段と
を少なくとも備え、
前記母体は、前記半導体より大きなバンドギャップエネルギーを有する材料から構成され、
複数の前記微結晶は、前記制御光の導入方向に沿って前記制御光の導入側ほど粒子径が小さくされ、前記制御光の導入方向に垂直な面内では粒子径が均一な状態とされ、
前記制御光の導入側より最も離れた箇所の前記光素子に分布する複数の前記微結晶の粒子径は、前記微結晶の内部の原子数に対する微結晶の表面の原子数の割合が、1より大きくなる値とされている
ことを特徴とする光スイッチ。
【請求項2】
請求項1記載の光スイッチにおいて、
前記母体は、前記制御光の導入方向に延在する円筒形状に形成されていることを特徴とする光スイッチ。
【請求項3】
請求項1または2記載の光スイッチにおいて、
前記微結晶は、水素もしくは酸素により終端されたダングリングボンドを備えることを特徴とする光スイッチ。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【公開番号】特開2011−257582(P2011−257582A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131765(P2010−131765)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】