説明

光パルス試験方法及び光パルス試験装置

【課題】 ダイナミックレンジを向上するために必要となる測定時間を短縮する。
【解決手段】 被試験光ファイバ18からの後方散乱光と試験光(局発光)とを結合した光をバランス型光受信器20によって受信して電流を出力し、この電流を周波数分離部21〜23によって周波数毎に分離して数値化処理器24で数値化し、演算処理装置25で試験光の複数の周波数成分による被試験光ファイバ18からの後方散乱光の反射率分布を求める。例えば、試験光の周波数をY個、所定時間間隔毎に所定周波数間隔だけ変化させた場合には、従来法のOTDR測定に比べ、一回の測定当たりの加算平均処理数をY倍多く実行することが可能、すなわち、従来法と同じダイナミックレンジを得るための測定時間を1/Yに短縮することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システム分野において光通信信号の伝送媒体である光ファイバ線路の光損失分布評価や破断点の位置を試験する光パルス試験方法(Optical Time Domain Reflectometry、以後OTDRと称する)とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
OTDRは、被試験光ファイバ(Fiber under test、以後FUTと称する)に試験光パルスを送出し、FUTからの反射光やレイリー後方散乱光(以後、単に後方散乱光と称する)を受信、解析することでFUTの各地点における光の反射率分布(以後、OTDR波形と称する)を測定する方法、装置である。この技術は光ファイバの片端からその損失分布評価を試験できるため、敷設された光ファイバの保守運用の観点から重要な技術である。
【0003】
OTDRの最大測定距離はFUTの光損失値とOTDRのダイナミックレンジにより決まる。ここで、ダイナミックレンジとは測定の際に許容される最大損失値である。ダイナミックレンジを拡大する方法として、主にFUTへ入射させる試験光パルスピークパワーを大きくする方法、受信系の最小受信感度を向上させる方法、試験光パルスを繰り返し入射し測定結果を加算平均処理することによって測定信号の信号対雑音強度比(Signal to Noise Ratio、以後SNRと称する)を向上させる方法がある。最小受信感度を向上させる方法として、コヒーレント検波技術があり、このコヒーレント検波技術を用いるOTDR(Coherent OTDR、以後C−OTDRと称する)が長距離の測定方法として実用化されている(非特許文献1参照)。
【0004】
この従来のC−OTDRは、コヒーレント光を発する光源からの出力光を光方向性結合器によって試験光と局発光に分岐させる。分岐された試験光は光増幅器によって増幅された後、音響光学素子に入射され、周波数シフトを伴いパルス化される。パルス化された試験光は光サーキュレータを通過し、FUTに入射される。FUTで生じた後方散乱光は光サーキュレータにより光受信器側のみに向かい、光方向性結合器により前述の局発光と結合された後、バランス型光受信器によって受信される。これより、局発光と後方散乱光の干渉によって生じる干渉ビート信号が信号電流として検出される。信号電流は後段のミキサーにおいて音響光学素子と同じ周波数を有する正弦波電流とミキシングされた後、低域ろ過フィルタ(Low Pass Filer、以後LPFと称する)によって低域ろ過される。ミキシングによりベースバンド信号となった電流はA/D(Analog/Digital)変換器によって数値化された後、数値演算処理器によって2乗加算平均処理される。処理された数値列を対数表示することでOTDR波形を得ることができる。
【0005】
C−OTDRにおける片道ダイナミックレンジ(Single-Way Dynamic Range、以後SWDRと称する)は以下のように定式化される。
【0006】
【数1】

ここで、P0 は試験光パルスのピークパワー、Rrは後方散乱光反射係数、Pmin は最小受信感度、SNIRは加算平均処理による被測定信号のSNR改善量である。この内、x回の加算平均処理を行った際のSNIRは次式で表される。
【0007】
【数2】

式(1),(2)より加算平均処理数をX倍にした際にはSWDRは5log√x(dB)改善される。
ここで、加算平均処理数を増やすためには、必然的に測定を繰り返し行う必要がある。一般に、測定を繰り返し行う際には、試験光パルスの繰り返し周期をFUTの長さに応じて設定しなければならない。これは一つの試験光パルスによるFUT遠端からの後方散乱光が測定器に戻る前のタイミングで二つ目の試験光パルスがFUTに入射された際には、一つ目の試験光パルスと二つ目の試験光パルスによる後方散乱光が重なり合ってしまい、正しい測定結果が得られなくなるからである。このように加算平均処理数を増やしてダイナミックレンジを向上させようとすると、ある所定の周期で繰り返し測定する必要があるため、測定時間が長延化するという課題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】H. Izumita et al, “The Performance Limit of Coherent OTDR Enhanced with Optical Fiber Amplifiers due to Optical Nonlinear Phenomena” JLT., vol. 12, no. 7, pp. 1230-1238 (1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上述べたように、従来の被試験光線路(FUT)にOTDRにより試験光パルスを送出し、FUTからの後方散乱光を受信、解析することで各地点における光の反射率分布を測定する技術があり、このOTDRのダイナミックレンジの拡大を目的に、コヒーレント検波を用いるOTDR(C−OTDR)が長距離の測定方法として実用化されている。C−OTDRは、FUTからの後方散乱光と試験光(局発光)との干渉によって生じる干渉ビート信号を基に、信号電流をA/D変換器によって数値化された後、数値演算処理器によって2乗加算平均処理し波形を得るものである。
しかしながら、加算平均処理数を増やすために測定を繰り返し行う必要があるが、加算平均処理数を増やしてダイナミックレンジを向上させる場合、それだけ測定に要する時間が増えるという問題点がある。
【0010】
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたもので、ダイナミックレンジを向上するために必要となる測定時間を短縮することが出来る光パルス試験方法及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る光パルス試験方法は以下のような態様の構成とする。
(1)被試験光ファイバからの反射光及び後方散乱光の反射率分布を測定する光パルス試験方法において、光源からの出力光を2分岐して局発光と試験光とし、前記試験光の周波数を所定の時間間隔毎に所定間隔だけ変化させ、光増幅させ、光パルス化し、光サーキュレータを通過し、被試験光ファイバに繰り返し入射し、前記光サーキュレータから出力される被試験光ファイバの各地点で反射または散乱により発生した後方散乱光と前記局発光を結合し光受信して電流信号を取得し、前記電流信号を複数の周波数成分毎に分離し、前記試験光の複数の周波数成分による被試験光ファイバからの反射光及び後方散乱光それぞれの反射率分布を求める態様とする。
【0012】
また、本発明に係る光パルス試験装置は以下のような態様の構成とする。
(2)コヒーレント光を発する光源と、前記光源からの出力光を2分岐して局発光と試験光とを生成する分岐手段と、前記試験光の周波数を所定の時間間隔毎に所定間隔だけ変化させる光周波数制御手段と、前記光周波数制御手段の出力を光増幅し光パルス化して光パルス信号を生成する光パルス化手段と、前記光パルス信号を被試験光ファイバに入射し、前記被試験光ファイバの各地点で反射または散乱により発生した後方散乱光を取り込み出力する光サーキュレータと、前記後方散乱光と前記局発光を光結合する光結合手段と、前記光結合された光信号を光受信して電流信号を取得する光受信手段と、前記電流信号を複数の周波数成分毎に分離する周波数分離手段と、前記試験光の複数の周波数成分による被試験光ファイバからの反射光及び後方散乱光それぞれの反射率分布を求める演算処理手段とを具備する態様とする。
【0013】
(3)(2)の構成において、前記周波数分離手段は、信号電流を発生する局発信号源と、前記光受信手段からの出力電流を前記局発信号源からの電流とミキシングするミキサーと、前記ミキサーの出力電流を低域ろ過するフィルタと、前記フィルタからの出力電流を数値化する数値化手段とを備え、前記演算処理手段は、前記数値化手段から出力される電流値に対して演算処理を行い、周波数分離を行う態様とする。
【0014】
(4)(3)の構成において、前記演算処理手段は、前記数値化手段で数値化された電流値をi(n)とするとき、i(n)をフーリエ変換したI(k,m)を算出することにより、電流値の周波数分離を行う態様とする。
(5)(2)の構成において、前記周波数分離手段は、前記光受信手段からの出力電流を複数の系統に分配する信号分配手段と、分配された各系統の電流を周波数成分毎に分離するアナログ回路とを備える態様とする。
【0015】
(6)(2)の構成において、前記光周波数制御手段は、位相変調器である態様とする。
(7)(2)の構成において、前記光周波数制御手段は、搬送波抑圧光単側波帯変調器である態様とする。
(8)(2)の構成において、前記光周波数制御手段は、振幅変調器である態様とする。
【0016】
(9)(2)の構成において、前記光パルス化手段は、音響光学素子である態様とする。
(10)(2)の構成において、前記局発光の光路上に設置され、前記局発光の光周波数を一定幅シフトする光周波数シフト手段を備える態様とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光源からの出力光を2つに分岐し、この分岐された光の一方を局発光とし、他方を試験光とし、所定時間間隔毎に試験光の周波数を所定間隔だけ変化させ、試験光を光パルス化し、被試験光ファイバに繰り返し入射し、被試験光ファイバの各地点で反射または散乱により発生する後方散乱光と前記局発光を結合し、その結合光を光受信して電流に変換し、この電流を周波数毎に分離し、試験光の複数の周波数成分による被試験光ファイバからの反射光および後方散乱光の反射率分布を求める。したがって、試験光の周波数をY個、所定時間間隔毎に所定周波数間隔だけ変化させた場合、周波数分離して測定することで、従来法では一測定につき唯一のOTDR波形しか取得できないのに対し、本手法ではY個分のOTDR波形を取得できるため、一回の測定当たりの加算平均処理数をY倍多く実行でき、従来の光パルス試験方法と同じ時間をもって測定した際には、式(2)より、5log√Y(dB)分のSWDRの向上が実現可能である。また、このことは、従来法と同じダイナミックレンジを得るのに、測定時間を1/Y短縮できることも意味する。
【0018】
したがって、本発明によれば、ダイナミックレンジを向上するために必要となる測定時間を短縮することが出来る光パルス試験方法及びその装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る光パルス測定方法を採用した測定装置の第1の実施形態を示すブロック構成図。
【図2】図1に示す正弦波発生器から出力される電流の周波数および電圧の時間変化を示す波形図。
【図3】図1に示す正弦波発生器から出力される信号の周波数帯域がbkHzである中心周波数100 kHzと200 kHz、300 kHzの信号のパワースペクトルを示す波形図。
【図4】第1の実施形態において、(a)複数周波数成分によるOTDR波形、(b)最終処理を施したOTDR波形をそれぞれ示す模式図。
【図5】本発明に係る光パルス測定方法を採用した測定装置の第2の実施形態を示すブロック構成図。
【図6】本発明に係る光パルス測定方法を採用した測定装置の第3の実施形態を示すブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の光パルス測定方法を採用する第1の実施形態の光パルス試験装置を示すブロック構成図である。同図に示す光パルス試験装置は、試験光の各周波数成分による被試験光ファイバからの反射光および後方散乱光の反射率分布を求めることができるものである。
【0021】
コヒーレント光を発する光源11からの出力光は分岐素子12で2系統に分岐される。分岐された光の一方は局発光として用いられ、他方は試験光として光周波数制御器13に入射される。この光周波数制御器13は所定の時間間隔毎に試験光の周波数を所定の周波数幅だけシフトさせる。
【0022】
ここで、分岐素子12は具体的には光カプラまたはハーフミラーで構成される。また、光周波数制御器13は、具体的には駆動源となる第1正弦波発生器14からの信号周波数に応じて変調側波帯の周波数が変化する機能をもつ外部変調器であればよく、LiNbO3を用いた位相変調器や振幅変調器、SSB−SC(搬送波抑圧光単側波帯)変調器がその機能を持つことは良く知られている。
【0023】
上記光周波数制御器13で周波数制御を受けた試験光は、光増幅器15で信号光パワーが増幅された後、光パルス化処理器16で光パルス化される。この光パルス化処理器16は、具体的には音響光学素子をパルス駆動した音響光学スイッチまたはLiNbO3 を用いた電気光学素子をパルス駆動した導波路スイッチで構成される。
【0024】
尚、上記光周波数制御器13と光パルス化処理器16は互いに同期させるようにし、光パルス化させる時間幅を、光周波数制御器13により全て周波数シフトさせた時間幅と等しくなるようにする。
光パルス化処理器16で光パルス化された試験光は、光サーキュレータ17を通過し、FUT18に入射される。FUT18では、試験光パルスによる後方散乱光が生じる。この後方散乱光は光サーキュレータ17に入射され、光パルス化処理器16の方向には戻らず、光受信器側のみに向かう。光サーキュレータ17から出力された後方散乱光は、上記局発光と結合素子19で結合される。この結合素子19からの出力光は、バランス型光受信器20で光受信されて電流信号となる。バランス型光受信器20から出力される電流信号は、ミキサー21で第2の正弦波発生器22からの電流信号とミキシングされた後、遮断周波数が後段の数値化処理器24のサンプリングレート程度に設定されているLPF(低域ろ過フィルタ)23によって高周波成分が遮断される。LPF23から出力される電流信号は数値化処理器24で数値化されてから演算処理装置25に入力される。
【0025】
演算処理装置25は入力された電流値に対して下記に説明するような演算処理を行い、試験光の複数の周波数成分によるFUT18からの後方散乱光の反射率分布を求める。
次に、上述したように構成される本実施形態の光パルス試験装置の動作について説明する。
【0026】
光源11からの出力光について、光周波数制御器13、演算処理装置25によって周波数を分離する方法は、次の条件を満足する必要がある。
(条件1)光源11からの出力光の線幅は、光周波数制御器13により所定周波数を持続させる時間の逆数よりも小さいこと。
(条件2)光周波数制御器13による周波数シフト間隔は、周波数を持続させる所定時間間隔の逆数の自然数倍であること。
(条件3)光周波数制御器13による所定周波数シフト総量は、数値化処理器24のサンプリングレートの1/2以下であること。
(条件4)演算処理によるフーリエ変換の周波数分解能の自然数倍は、光周波数制御器13による周波数シフト間隔であること。
【0027】
上記の条件1は、光源11の能力として、光パルス試験装置に要求される距離分解能に対応した光の振幅および周波数の持続した時間幅の逆数よりも小さい線幅を持った光源を用意する必要があることを意味している。これは周波数の持続した時間幅の逆数から決まる変調帯域幅よりも光源の線幅が大きい場合には、信号のSN比が低下するためである。
【0028】
例えば、要求される距離分解能が1[km]の際には、光周波数変更手段により試験光は10 μsの時間だけ周波数を持続させる必要があり、これは100[kHz]の信号帯域になる。よって、位相雑音の影響を小さくするためには光源の線幅を信号帯域の1/10以下と十分小さく取り、10[kHz]以下とする必要がある。
【0029】
また、条件2は複数の周波数成分による後方散乱光の信号を周波数成分毎に分離し、測定するために必要である。これはシフトさせた各周波数成分によるパワースペクトル成分がそれぞれ互いに直交するように設定しなければ、一つの周波数による後方散乱光パワーを測定することができないためである。
【0030】
一般に、測定する後方散乱光信号のパワースペクトルはSINC関数の2乗の形をとり、SINC関数のゼロ点間隔は光周波数制御器13で周波数を持続させる所定時間間隔の逆数となる。このゼロ点位置に光周波数制御器13でシフトさせた周波数を設定することで、各周波数によるパワースペクトル成分が互いに直交するようになる。
【0031】
これは、以下に説明するような機能を持った第1の正弦波発生器14を用意する必要があることを意味する。図2は第1の正弦波発生器14から出力される電流信号の周波数および電圧の時間変化を示す波形図である。電圧を出力する周期は繰り返し測定を行うためのもので、従来の光パルス試験装置と同様にFUT18の長さに応じて設定する。電圧を出力する時間幅Wは、その周期より短い範囲で、周波数持続時間と周波数のシフト数の積で設定する。
【0032】
【数3】

さらに、出力する正弦波の周波数は、以下の式に表すように、所定の時間間隔毎に所定周波数だけステップ状にシフトするように設定する。
【0033】
【数4】

ここで、iはi=1,2,…,lを満たす自然数で、lは周波数のシフト数、ν0は初期周波数、Δνは所定時間間隔Δt毎に変わる周波数シフト量である。これより、所定周波数シフト総量はlΔνとなる。
周波数間隔Δνは周波数持続時間Δtに対して、以下の関係式を満足させる必要がある。
【0034】
【数5】

ここで、aは自然数であり、後述する条件3より、以下の範囲を満たす必要がある。
【0035】
【数6】

ここで、fs は数値化処理器24のサンプリングレートである。
図3に帯域100[kHz] 、中心周波数がそれぞれ100[kHz]と200[kHz]、300[kHz]の信号のパワースペクトルを示す。式を満たしている場合には、光周波数変更手段でシフトさせた周波数は、SINC関数の2乗の形をとるパワースペクトルのゼロ点位置にそれぞれ配置されるため、それぞれのパワースペクトル成分が直交する。
【0036】
なお、周波数持続時間Δtは測定に要求される距離分解能ΔZminから決まる。
【0037】
【数7】

例えば、1[km]の測定分解能を設定する際には10[μs]で設定すればよい。
条件3は演算処理装置25で光周波数の分離を実行するためには、ミキサー21でミキシングする第2の正弦波発生器22の出力信号の周波数を調整した後、数値化処理器24に入力される複数の周波数成分を持った電流信号の最小周波数と最大周波数が以下の関係式を満たすようにする必要がある。
【0038】
【数8】

式(6)を満たした場合、光周波数制御器13で所定の時間間隔毎に所定周波数だけステップ上にシフトさせた分の周波数範囲は全て、数値化処理器24のサンプリングレートの1/2以内になる。このため、エイリアシングを発生させることなく全ての電流信号を数値化することができ、演算処理装置25で個々の周波数成分を分解して処理することができる。
【0039】
電流の最大周波数が数値化処理器24のサンプリングレートの1/2以内という条件は、よく知られたナイキストのサンプリング定理よりの要請である。
条件4は、光周波数制御器13により複数の周波数成分をもった信号電流を周波数成分毎に分離するには、演算処理装置25において以下に説明する処理を施す必要があることを意味している。
【0040】
これは周波数制御器13による周波数シフト間隔と演算処理による周波数分解能の自然数倍が一致しなければ、測定で得られる各周波数成分の信号パワーが互いに等しくならないためである。
数値化処理器24により離散的な値となった信号は、後述する離散フーリエ変換により、周波数毎の振幅値を算出することができる。その離散フーリエ変換を実行する際の窓関数の窓長をLとすると、得られる周波数スペクトルの周波数分解能はfs/Lとなる。周波数シフト間隔と周波数分解能を等しくするためには、以下の条件式が必要となる。
【0041】
【数9】

この関係を満足するようにLは設定する必要がある。ここで、bは自然数であり、前述した条件3より、以下の範囲を満たす必要がある。
【0042】
【数10】

上述した4つの条件が満足される場合には、本発明の光パルス試験装置によって、一回の測定で試験光の複数の周波数成分によるFUT18からの後方散乱光の反射率分布が正しく検出されることを以下に説明する。
まず、局発光の電界分布を次式で表す。
【0043】
【数11】

ここで、EL0は局発光の電界分布、νは光周波数、jは虚数単位である。周波数制御器13を用いず、音響光学素子によりパルス化した試験光パルスをFUT18に入射した場合、その時刻を起点(t=0)として、t秒後に入射端に戻ってくる後方散乱光の電界分布は、次式で表される。
【0044】
【数12】

ここで、EB(t)は後方散乱光の電界振幅、νA は音響光学素子による周波数シフト量である。後方散乱光と局発光が結合素子により合波され、合波した光を受信したバランス型光受信器20から出力される電流信号は次式で表される。
【0045】
【数13】

ここで、ηはバランス型光受信器の量子効率、eは電子の電荷、hはプランク定数を表す。この電流信号を周波数νAの正弦波信号とミキシングし、LPF23で高周波成分を除去することで、ベースバンドの電流信号とする。
この時の電流信号は、次式で表される。
【0046】
【数14】

ベースバンド信号となった電流を、数値化処理器24に入力し、得られた電流値を演算処理装置で2乗する。この結果、次式で表されるパワーが得られる。
【0047】
【数15】

ここで、EB(t)2 は後方散乱光のパワーであるので、式(15)より、FUT18中の後方散乱光の反射率分布、即ち、OTDR波形が得られることになる。
これに対し、条件2を満たした上で、周波数制御器13で周波数を所定の時間間隔毎に所定の周波数幅だけシフトさせた試験光を音響光学素子でパルス化し、FUT18に入射した場合には、その時刻を起点(t=0)として、t秒後に入射端に戻ってくる後方散乱光の電界分布は、次式で表される。
【0048】
【数16】

ここで、EBim(t)は周波数ν+νA ±m(ν0 +Δν)の試験光パルスによる後方散乱光の電界振幅である。mはm=0,1,2,….の値をとる整数である。一般に、本実施形態で挙げた外部変調器は±m次の変調側波帯を生じさせる。
【0049】
この場合の後方散乱光と局発光が結合素子により合波された後に、受信したバランス型光受信器から出力される電流は、次式で表される。
【0050】
【数17】

この電流を周波数|νA −ν0 |の正弦波信号とミキシングし、遮断周波数が(l+1)Δνに設定されているLPF23によって高周波成分を遮断する。LPF23から出力される電流は、次式で表される。
【0051】
【数18】

この電流を、前述した条件3を満たした上で数値化処理器24に入力し、得られた電流値i(n)を演算処理装置25にて以下に説明する演算処理を施す。
ここで、n=fstはサンプリング指標であり、n=0,1,2,...,N-1の範囲の整数値をとる。また、Nはサンプリング総数であり、N=fsTとなる。ここで、Tは測定の繰り返し周期である。
【0052】
数値化処理器で得られた電流値i(n)に対して、演算処理装置25はまず、次式で表される離散フーリエ変換処理を行う。
【0053】
【数19】

ここで、k=0,1,2,…,L-1は周波数スペクトル指標であり、mはm=0,1,2..,n/Lの範囲の整数である。また、Lは方形波の窓関数w[n]の窓長であり、次式で表される。
【0054】
【数20】

条件4を満足した際には、次式が成立する。
【0055】
【数21】

このI[k,m]に対して、絶対値をとった後、2乗する演算処理を施すと、次式が得られる。
【0056】
【数22】

このパワースペクトルの時間変化|I(k,m)|2 は(i-1)Δtの遅延時間があるL個のOTDR波形を意味している。ただし、L個の内、独立な波形はフーリエ変換の以下に表す振幅スペクトルの対称性のため、半分のL/2になる。
【0057】
【数23】

図4(a)に式(22)より得られる複数周波数成分によるOTDR波形の模式図を示す。
遅延時間については数値演算処理を用いて、(i-1)Δtだけそれぞれ時間をずらす操作を行うことで補正することができる。これよりL/2個の反射率および時間について等価なOTDR波形を一回の測定で得ることが出来る。
以上の演算処理で得られたL/2個のOTDR波形をすべて足し合わせ、L/2で割ることにより加算平均処理を行う。
図4(b)に以上の処理を施したOTDR波形の模式図を示す。
【0058】
最後に、一連の測定および演算処理を繰り返し行い、得られた結果について加算平均処理させ、処理された数値列を対数表示し、最終的な高いダイナミックレンジを有したOTDR波形を得ることができる。
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る光パルス測定装置の構成を示すブロック構成図である。図5において、図1と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。図5において、バランス型光受信器20で得られた電流信号は信号分配器26でc系統のミキサー211〜21cに分配され、それぞれ第2の正弦波発生器221〜22cからの正弦波電流信号とミキシングされた後、LPF231〜23cで高周波成分が除去されて数値化処理器24に送られる。数値化処理器24では、全ての系統の電流信号を数値化し、演算処理装置25に送る。
【0059】
本実施形態は第1の実施形態で実行した演算処理による周波数分離処理に代え、以下に説明するアナログ回路を用いて周波数分離することで、第1の実施形態で必要であった条件3および条件4が必要なくなる点に特徴がある。但し、第1の実施形態と比較し、装置についてのコストおよびサイズが大きくなることになる。
【0060】
以下、第2の実施形態の動作について説明する。
バランス型光受信器20に光が受信されるまでの構成は第1の実施形態と同様の処理を施し、バランス型光受信器20から出力される信号は、信号分配器26によってc系統に分配される。ここで、cはc=1,2,3,…の値を持つ自然数である。分配後、各系統の信号電流はそれぞれミキサー211〜21cでνA0 +Δν,νA0 +2Δν,…,νA0 +cΔνの周波数に設定された第2の正弦波発生器221〜22cからの電流とミキシングされる。各ミキサー211〜21cからの出力電流はパルス幅の逆数程度の遮断周波数に設定されたLPF221〜22cによって高周波成分が遮断される。ここで高周波成分を除去された各信号電流は各々数値化処理器24に入力され、数値化される。数値化されたc個のそれぞれの電流値は演算処理装置25によって2乗し、繰り返し測定を行い、加算平均処理を行う。これよりc個のOTDR波形を得ることができる。最後に、得られたc個のOTDR波形について遅延時間を補正し、加算平均処理させ、得られた数値列を対数表示し、最終的に高いダイナミックレンジを有したOTDR波形を得ることができる。
【0061】
(第3の実施形態)
図6は、本発明に係る光パルス試験装置の第3の実施形態の構成を示すブロック構成図である。本実施形態は、第1の実施形態で実行していた、バランス型光受信器20で得られた電流信号を第2の正弦波発生器22からの電流とミキサー21でミキシングする処理に代えて、局発光側に正弦波発生器22と同じ周波数シフト量を備えた光周波数シフター27を用いることを要旨とする。本実施形態の長所は以下説明する処理を光の信号の段階で処理するので、第1の実施形態の電気回路構成が少なくて済む。短所は光信号の装置構成部品が多くなることである。
【0062】
以下、第3の実施形態の動作について説明する。
試験光についての処理は第1の実施形態と同様に行い、局発光の線路上には第1の実施形態の第2の正弦波発生器22と同じ|νA −ν0 |の周波数シフト量を備えた光周波数シフター27を配置する。具体的には、光周波数シフター27は音響光学素子を直流駆動した音響光学シフターである。試験光パルスによるFUT18からの後方散乱光は光サーキュレータ17に入力され、光パルス化処理器16の方向には戻らず、光受信器側のみに向かう。光サーキュレータ17から出力された後方散乱光は、局発光と結合素子で結合される。この結合素子からの出力光は、バランス型光受信器20で受信される。バランス型光受信器20からの出力電流は、遮断周波数が後段の数値化処理器24のサンプリングレート程度に設定されているLPF22によって高周波成分が遮断される。LPF22からの出力電流は数値化処理器24で数値化されてから、演算処理装置25に入力される。
【0063】
演算処理装置25は第1の実施形態と同様の処理を行う。したがって、本実施形態の構成によれば、最終的に高いダイナミックレンジを有したOTDR波形を得ることができる。
なお、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0064】
また、上記実施形態例に開示されている複数の構成要素の適宜な組合せにより種種の発明を形成できる。例えば、実施形態例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。更に、異なる実施形態例に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0065】
11…光源、12…分岐素子、13…光周波数制御器、14…第1正弦波発生器、15…光増幅器、16…光パルス化処理器、17…光サーキュレータ、18…FUT、19…結合素子、20…バランス型光受信器、21…ミキサー、22…第2の正弦波発生器、23…LPF(低域ろ過フィルタ)、24…数値化処理器、25…演算処理装置、信号分配器、27…光周波数シフター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験光ファイバからの反射光及び後方散乱光の反射率分布を測定する光パルス試験方法において、
光源からの出力光を2分岐して局発光と試験光とし、
前記試験光の周波数を所定の時間間隔毎に所定間隔だけ変化させ、光増幅させ、光パルス化し、光サーキュレータを通過し、被試験光ファイバに繰り返し入射し、
前記光サーキュレータから出力される被試験光ファイバの各地点で反射または散乱により発生した後方散乱光と前記局発光を結合し光受信して電流信号を取得し、
前記電流信号を複数の周波数成分毎に分離し、
前記試験光の複数の周波数成分による被試験光ファイバからの反射光及び後方散乱光それぞれの反射率分布を求めることを特徴とした光パルス試験方法。
【請求項2】
コヒーレント光を発する光源と、
前記光源からの出力光を2分岐して局発光と試験光とを生成する分岐手段と、
前記試験光の周波数を所定の時間間隔毎に所定間隔だけ変化させる光周波数制御手段と、
前記光周波数制御手段の出力を光増幅し光パルス化して光パルス信号を生成する光パルス化手段と、
前記光パルス信号を被試験光ファイバに入射し、前記被試験光ファイバの各地点で反射または散乱により発生した後方散乱光を取り込み出力する光サーキュレータと、
前記後方散乱光と前記局発光を光結合する光結合手段と、
前記光結合された光信号を光受信して電流信号を取得する光受信手段と、
前記電流信号を複数の周波数成分毎に分離する周波数分離手段と、
前記試験光の複数の周波数成分による被試験光ファイバからの反射光及び後方散乱光それぞれの反射率分布を求める演算処理手段と
を具備することを特徴とする光パルス試験装置。
【請求項3】
前記周波数分離手段は、
信号電流を発生する局発信号源と、
前記光受信手段からの出力電流を前記局発信号源からの電流とミキシングするミキサーと、
前記ミキサーの出力電流を低域ろ過するフィルタと、
前記フィルタからの出力電流を数値化する数値化手段とを備え、
前記演算処理手段は、前記数値化手段から出力される電流値に対して演算処理を行い、周波数分離を行うことを特徴とする請求項2に記載の光パルス試験装置。
【請求項4】
前記演算処理手段は、前記数値化手段で数値化された電流値をi(n)とするとき、i(n)をフーリエ変換したI(k,m)を算出することにより、電流値の周波数分離を行うことを特徴とする請求項3に記載の光パルス試験装置。
【請求項5】
前記周波数分離手段は、
前記光受信手段からの出力電流を複数の系統に分配する信号分配手段と、
分配された各系統の電流を周波数成分毎に分離するアナログ回路と
を備えることを特徴とする請求項2記載の光パルス試験装置。
【請求項6】
前記光周波数制御手段は、位相変調器であることを特徴とする請求項2に記載の光パルス試験装置。
【請求項7】
前記光周波数制御手段は、搬送波抑圧光単側波帯変調器であることを特徴とする請求項2に記載の光パルス試験装置。
【請求項8】
前記光周波数制御手段は、振幅変調器であることを特徴とする請求項2に記載の光パルス試験装置。
【請求項9】
前記光パルス化手段は、音響光学素子であることを特徴とした請求項2に記載の光パルス試験装置。
【請求項10】
前記局発光の光路上に設置され、前記局発光の光周波数を一定幅シフトする光周波数シフト手段を備えることを特徴とする請求項2に記載の光パルス試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−164075(P2011−164075A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30563(P2010−30563)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】